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死神輪舞:第五章

死神輪舞:第五章







「俺さ、生まれつきの病で死んだんだよ」
 彼は笑っていた。
「だから、こうやって誰かと一緒に街で遊んだりするの、初めてなんだ」
 僕の方をしっかりと見て、本当に楽しげな表情で。
「生きてる頃は、親を含めた皆に疎まれてた」
 悲しさなんて感じないほど。
「だから、死んでこうなってからの方が――よっぽど生きてるって感じがするぜ。お前にも会えたし」
 彼は、とても嬉しそうに、とても幸せそうに笑っていた。

「なあ、亮。俺の――友達になってくれないか?」




 ふわふわとしたレースで彩られたワンピースを閃かせて、その少女は僕の前を歩いている。
 きらきら輝くアクセサリーショップで、一つ一つその煌めきを確かめている少女の姿は、道行く人が思わず振り返ってしまうほどの可憐さだった。
 その忙しなく動く視線が、あるアクセサリーを見たところで止まり、微かに目を見開いたあと、僕の方へと向いた。
「亮! こっち来いって! いいのあったぞ!」
 瞬間、周囲からざわめきが湧く。当然だ。いまのいままで完全無欠、可愛らしい仕草で男達のみならず女の子達の視線すらも集めていた可愛らしい少女が、外見に全く似合わない男みたいな言葉使いで声をあげたのだから。
 僕はため息を吐きながら彼女の――いや、正確には彼の――傍に行った。
「星斗、だから言葉使いに注意しなって何度言わせるのさ」
 そういう僕自身も言葉使いに注意してないから、偉そうなことは言えないけど……。
 ちょっと眦を釣り上げて『本気で怒っています』という顔になるように心がけたんだけど……全く星斗は動じない。
「別にいいじゃん、こっちの方が話しやすいしさっ。それよりこれ見ろよ。絶対亮に似合うから」
(…………アクセサリーが似合うって言われても)
 中身の僕は男である以上、あんまり嬉しくない。でもまあ、確かにこの体には――シェルちゃんの体には、似合いそうなアクセサリーだったけど。
(……嬉しくないわよ、似合うなんて言われても)
 頭の中で、不機嫌なシェルちゃんの声が響いた。その頑なな態度に顔には出さず苦笑する。
(そこまで嫌わなくても……)
(嫌よ! アルミールアラミーナの体を奪い取っておいて……こんなに幸せそうにしているなんて許されざることだわ!)
 星斗はシェルちゃんの親友だというアルちゃんの体を乗っ取ってしまっている。だからシェルちゃん的には星斗は敵で、もしも僕がおらず身体を自由に扱えればすぐにでもアルちゃんの体から星斗を引き剥がそうとするだろう。
 そのことを僕は…………良かった、と思う。あんな話を聞いてからではなおさら星斗を敵視なんて出来ないし、むしろ少しでも楽しんでくれるならこうやって一緒に遊びに出ることくらいはしてあげたいと思ってしまう。
 ひょっとしたら、彼の行動・言葉の全ては嘘で、自分と同じような力を持つ僕を、情という無視しがたい戒めによって縛りつけようとしているのかもしれないけど……やっぱり僕にはそう思えない。
 星斗の言動に嘘はない。そう思えてしまう。
 僕は甘いんだろうか?
 そんな僕の心中などわかるはずもない星斗は楽しそうな笑顔を僕に向けてくる。
「こっちはどうよ? なっかなかいいじゃん?」
「…………そうだね」
 僕は彼に合わせるように笑顔を浮かべて頷くことしか出来なかった。
 心のどこかでひっかかりを覚えながらも、僕は星斗と一緒に楽しいショッピングを続ける。
 そうして長い時間を過ごし、日が暮れ始めた時――『それ』は起こった。

 沢山買った荷物を整理するために、通りに面した喫茶店でお茶を飲みながら休憩を取ることにした僕ら。
 星斗は注文したロイヤルミルクティーを飲みながら、名残惜しそうに話を切り出す。
「さて……そろそろ帰るか。日も暮れるしな。これだけ買ったんだし、暫くは大丈夫だろ」
「そう、だね……」
 僕が軽く頷くと、星斗は不審げな顔になって僕の顔を覗き込んできた。
「元気ねえなあ…………疲れたか? あんなことがあった直後だったし……連れ回し過ぎたか」
「あ、ううん。ごめん。大丈夫だよ」
 いけない。考え込むあまり、星斗に心配させてしまったようだ。
 あまり不信感を抱かせるのはよくない――そう思って何とか笑顔を浮かべてみせた、その時。

――喫茶店の外で、大きな衝撃が起きた。

 ガラスがビリビリと震え、悲鳴と叫びがあがる。
 思わず身体を震わせて外を見た僕の目に、大きなトラックが横転して、何かの店に前面が埋まっているのが映る。
「事故……!?」
 立ち上がり、事故の様子をもっとよく見ようと窓際に寄りかけた僕の手を、星斗が掴む。
「待て!」
 手が引かれたことと、鋭い制止の声に硬直する。
「ど、どうしたの?」
「下手に外に近づくな。こんな直線的な通りでトラックが横転するのはおかしい。たぶん、『あれ』が関係してる」
 言いながら星斗は隣の椅子に置いていた荷物を手に取り、立ち上がる。
 今だに手を掴まれたままの僕は、咄嗟に自分の分の荷物を持った。星斗は焦った足取りで僕の手を引きながら店の入口へと向かう。
「ちょ、星斗! 『あれ』って何!?」
 相当焦っているのか、星斗は僕の問いに答えてはくれなかった。
 でも――すぐに星斗が『あれ』と呼んだ物の正体を、僕は知ることになる。
 喫茶店の入口は同じように外に出ようとしている人で混雑していたけど、星斗はそこを上手くすり抜けて外へ出た。そして、事故現場に向かう人達とは違い、事故現場から離れる方向に向かって走り出す。
 ちらりと見た事故現場は酷いものだった。ガラスが散乱し、何人かの人が倒れている。ところどころに見える赤い『何か』は血だろうか。
 ただ、僕がそれらを見たのは一瞬だけだった。なぜなら、自然と視線が別のモノに引き寄せられたからだ。引き寄せられたというよりも、それは圧倒的な存在感を持って、僕の視界を占領したという方が正しい。
「なに、あれ……!!」
 思わず叫んでしまったのも仕方ない。
 僕の目に映っていたもの、それは。

――空中に浮かぶ、体長数メートルはあるだろう、巨大なクラゲ。

 それは現実にはあり得ない、異常な存在だった。
 海には二、三メートルくらい……いや、もっと大きなクラゲもいるかもしれないけど、空中に浮かぶことからして普通のクラゲではあり得ない。その上、大きさは五メートルはあるだろう。丸い球体が空中を漂っている様は、バルーンが浮かんでいる様子に似ていたけど、浮き方は本物のクラゲが水中に浮かんでいる時のように傘みたいなひらひらした部分が動いて浮いているようだ。
 それにやけに触手みたいなものが長い。それらは運動会で使われる綱引きの縄ほどの太さで、最低でも二十メートルくらいの長さはあった。その触手はトラックが突っ込んだ店の中に入り込んでいて、何かを探っているように動いている。
 まるで怪獣映画のような情景だったけど、奇妙な点はもう一つあった。
 事故を見物しようと事故現場に近づいている人たち。その誰もが、明らかに目立つクラゲに視線を向けていないのだ。みんな横転したトラックや店の中を覗き込んでいて、すぐ上に浮かんでいるクラゲには反応していない。
 そのことに気づいた僕は、星斗に手を引かれて走りながら、ある存在のことを思い出していた。
 僕がシェルちゃんと同化してすぐ、河原で襲ってきたイソギンチャク。思えば、あれも異常な存在だった。
 ひょっとしたら、このクラゲはあれと同じような存在なんじゃないだろうか?
 あの時は自分に起きている状況を把握するので精一杯で、あのイソギンチャクについては何もわからないままだった。
「ね、ねえ星斗! あれはいったい」
「いいから走れ! 俺もよくはわからねえけど、なんでか『あれ』は――」
 そう星斗が答えた時、僕はなぜ星斗がこんなにも焦ってこの場を離れようとしているのか理解する。

――空中に浮かぶクラゲが、僕達に向かって移動を始め、その長い触手を伸ばして来ていたのだ。

 触手を伸ばして迫ってくるクラゲから逃げる。
 本当に出来の悪い怪獣映画の一幕のようだった。おまけに周りの人達は巨大なクラゲには気づいていない。一心不乱に街中を走る僕と星斗に不思議そうな顔を向けてくるくらいだ。
 顔のすぐ脇を触手が掠めても、眉ひとつ動かさない。本当に気づいていないのだ。クラゲの存在自体が見えていない。
 あのクラゲは幽霊と同じようなものなのだろうか?
 考えながら走っていたからだろう、小さな段差に足が引っ掛かった。
 体のバランスを崩し、地面に倒れ込む――寸前で手を繋いでいた星斗がその手を引いて助けてくれた。
「走ることに集中しろ! 後でいくらでも説明してやるから!」
 確かに余計なことを考えていられる状況ではなかった。僕は慌てて頷く。
「わ、わかった!」
 星斗は人気のない方向へと向かっていた。通りを暫く走った後、裏路地に飛び込み、さらに走る。
 僕はすっかり息が上がって、星斗についていくのがやっとだった。けど、星斗の方は全く問題ないように、平然と走り続けている。外見的には星斗の方が体力がないように見えるのに。
 気にはなったけど、質問はあとでと言われていたし、なによりその余裕がなかった。
 なおも星斗は走り続けて、いよいよ僕がギブアップする寸前――その足を止めた。
 危うくぶつかりそうになるのをなんとかこらえながら、僕は呼吸を整える。じっとりと汗が服を湿らせて、肌に張りつく感触が気持ち悪い。
 周りの様子を確認すると、そこは取り壊し予定の廃ビルの近くだった。なんらかの理由で作業が中断されているのか、置きっぱなしになっている鉄骨や重機が寂れている印象を際立たせている。もちろん人気はなく――奥まった所にあるので通りがかる人もいない。
 星斗はそれを確認すると、持っていた荷物を僕に渡してきた。
「それを持って離れてろ。たぶんそろそろ来る」
 そう言った瞬間、見計らっていたかのようなタイミングで、建物の隙間から例のクラゲの触手が蠢きながら湧き出してきた。思わず数歩下がった僕とは対照的に、星斗は一歩前に出る。
「星斗……!」
「大丈夫だ。心配すんな」
 星斗はゆっくりと手を真横に伸ばす。
「すぐ終わる」
 その掌に光が集まり、その光は大きさを増して空中にある形を作り出していく。光は大きな鎌の形になって、結晶化する。はっきりしていなかった輪郭が定まり、見た感じでも質感が生まれたように見えた。
 クラゲと戦うつもりだろうか。僕はハラハラしながら星斗とクラゲが徐々に近づくのを見ていた。心の中で、シェルちゃんに話しかける。
(シェルちゃん……あれは、なに?)
 明らかに普通じゃないクラゲについて、死神であるシェルちゃんなら知っているのではないかと思ったのだ。
 頭の中でシェルちゃんが答えてくれる。
(私もよくは知らないわ。でも……この世界には『魔』が存在していて、それに捕らわれたものは存在を取り込まれて消えてしまう――というような話を聞いたことがあるわ)
(消えてしまう!?)
 危険なものであることは薄々わかっていたけど、消えてしまうという具体的な脅威を聞かされると危機感は嫌でも増す。
 思わず僕は星斗にそのことを伝えそうになったが――遅かった。
 すでにクラゲの触手は星斗の目の前まで迫っていて、その瞬間、いままでの緩慢な動きが嘘のような速度で星斗に向かってその触手を閃かせる。
「星斗!」
 咄嗟に叫んだ僕。
 だけど――その叫びはすぐかき消されることになった。
 星斗に絡みつこうとしていた触手が断ち切られ、空中に投げ出される。
『キイイイイイイイイイ!!』
 耳障りな金属音のようなものが響き渡った。咄嗟に耳を押さえた僕は、それがクラゲが発している悲鳴であることに遅ればせながら気づく。
 見ると、星斗はその手にした鎌を振り切ったような態勢で止まっていた。
「はっ! クラゲのくせに悲鳴なんざあげてんじゃねえよ!!」
 吼える星斗の気迫に押されたかのように、空中に浮かぶクラゲの本体が後ずさる。だけど、すでに遅かった。
 まさに一閃。
 星斗が振り上げた鎌の一撃は、遥か空中にいたクラゲを真っ二つに両断していた。
 もちろん鎌の刃が届いたわけじゃない。はっきりとは見えなかったけど、どうやら鎌を振った時の軌跡に沿って何か光の筋のようなものが飛んだようだった。
 それが普通なら手の届かない空中にいたクラゲの本体を切り裂いたのだ。真っ二つに切り裂かれたクラゲはあっという間にその形を失い、水のようなものになって地面へと滴り落ちていく。
「す、すごい……」
 こういうのを、瞬殺というのだろう。
 圧倒的な星斗の強さに呆然としていると、頭の中でシェルちゃんも呆然とした声をあげた。
(うそでしょう……なに、あの力…………上位死神レベル……いえ、もっと……?)
 どうやら星斗の力はとんでもないレベルにあるようだ。元々死神じゃなかった人間がそこまでの力を振るうことができるという事実。
 それは何を示しているのだろう。
「やれやれ……さすがに街中でこれを振り回す度胸はねーからな。色々面倒だし」
 そう言う星斗の手の中で、大鎌が光の粒子となって消える。
「ね、ねえ星斗……その、鎌は他の人にも見えてるの?」
「ん? ああ、よくはわからねえ。玲奈の魂に洗脳かけた時はどうだったかな……見えてた、気がするな。怯えてたし。ただ、あの変なクラゲの方は見えねえからよ。周りには刃物を振り回す奴にしか見えねえはずだからな。キチガイ扱いされるなんてごめんだし」
「そ、そうだね……」
「きっとお前も使えるようになると思うぜ? なんなら教え――っと、その前にここを離れよう。あのクラゲのことについても話さないとな」
 そう言って、僕の手に預けていた荷物を受け取った星斗は、僕の手を引いてホテルへと向かった。
 僕は大人しく従ってついていくしかなかった。




 荷物をそれぞれ部屋に置いて、僕と星斗はリビングで向かい合って座った。
 そして、先ほど星斗が一蹴したクラゲのことについて、星斗が知っていることを教えてもらった。
「あれについては俺もよくわかっちゃいねえんだけど。……これまで見かけた時の情報を総合するとだな、どうもあれは人の霊体を狙っているらしい」
「霊体を?」
 玲奈さんが淹れてくれたお茶を飲んで唇を湿らせつつ、星斗は頷いた。
「ああ。ただ、直接は奪い取れないみたいだ。つまり……事故とかを起こして、人を間接的に殺して霊体を身体から出さないと、手が出せねえみたいなんだ」
「事故……」
 交通事故で死んだ僕。ひょっとしてあれも……いや、違うか。僕の場合は猫を助けようとして自分から道路に飛び出した。あれが誘導された結果だとは思えない。
 僕の死因を思い出したのだろう、星斗はちょっと困った顔つきになった。
「……お前の事故はあいつらとは関係ないと思う。あいつらのやり方は今日みたいに車を転倒させて店に突っ込ませたり、看板を落下させて下を通った奴を押しつぶしたりするやり方だから。人体には直接触れられないみたいだ。なぜかは知らないが」
「そっか……」
 まあ、僕の死んだ理由があのクラゲたちのせいであろうが、何だろうがあまり意味はない。こうして僕は死んでしまって、シェルちゃんに同化することで無様に現世にしがみついているのだから。
「…………」
「……っと、わりい。自分が死んだ時のことなんて、あんまり思い出したくないよな」
 思わず気分が沈んだ僕を気遣ってくれたのだろう、星斗はそう言って話題を元に戻した。
「あいつらが厄介なのは、俺達を見ると直接襲いかかってくるってことだ。これは俺の想像だけど――たぶん、俺達の存在は直接手を出しちゃいけないルールの適用外なんだろう。間接的に襲わなければならないもんより、さっさと直接的に食べられるものの方を狙う。効率的にも自然なことではあるな。反撃を食らうことは予想外のことなんだろ、たぶん」
 僕は星斗の話を聞きながら、シェルちゃんにも問いかけてみた。
(シェルちゃん。どう? 星斗の言ってること……)
(……おおまかには、死神達が話していたのと同じ話ね。ただ……死神に積極的に寄ってくることはないみたい。たまに襲われたっていう話も聞くけど、大抵は死神の姿を感じればああいうのは逃げていくそうだから。私自身は遭遇したことないけど)
 と、なると……やはり死神の体に人間の魂が同化しているこの状態が、あの変な物を引き寄せる要因になっているのだろう。
「……あの、化け物は多いの?」
「ん?」
「あ」
 しまった。シェルちゃんに訊くつもりが、口に出しちゃった!
 冷や汗がにじみ出てくるのがわかった。いや、でも大丈夫。話の脈略はないけど……不自然な質問じゃないし……。
 幸い、星斗は不審がる様子もなく、答えてくれた。
「んー。いや、そう数は多くないみたいだな。俺も今回で三回目だし……最初は危なかったけど、鎌で倒せることがわかってからはそう怖いもんじゃなくなったぜ」
「そ、そっか……」
 思わず安堵の溜息を吐く。それを疲れたため息にとったのか、星斗が提案してくれた。
「亮? 疲れたのか? 今日は引っ張り回しちまったしな。風呂に入って休め。着替えとかは玲奈に用意させるから」
「うん……そうさせてもらうね」
 数日後には、上位死神のコルドガルドさんが来る。それまでにどうするか――決めておかなくちゃいけない。
 体の疲労自体は大したことはなかったけど、とにかく一人で考える時間が欲しかった僕は、星斗の言うことに従ってお風呂に入ることにした。


 考えてみれば、こうしてシェルちゃんと同化してから、普通にお風呂に入るのは初めてのことだった。
 昨日はレイプされた後、気を失っている間に玲奈さんに入れてもらったみたいだし……。いまさらながら、この体で初めての入浴には緊張する。
(いい? ぜーったいに見ないでよ!?)
 頭の中でしつこいほどシェルちゃんの声が響いた。何度も何度も繰り返された懇願に、僕は辟易しながら応える。
(仕方ないだろ……それに、もう裸とか見ちゃってるし、服の試着するときに下着姿も見たし、トイレにも行ったじゃん)
(そっ、それとこれとは別なの! とにかく! 絶対絶対絶対に必要以上に見ないでよ!)
 死神とはいえ、精神構造は人間の女の子と変わりがない。だから自分の身体を男に見られたくないというシェルちゃんの言い分はわかるんだけど……頭の中で騒がれると頭痛がしてくるから止めてほしい。
(わかってるってば。お願いだから静かにして……)
(うるさい馬鹿!)
 取りつく島もない。
 僕はため息を吐きながら、全ての衣服を脱衣所の籠の中に脱いで入れた。そして、お風呂場に入る。
 さすがに高級ホテルだけあって湯船もとても大きく、こんな状況でなければ何時間も堪能したいところだ。だけど、頭の中でシェルちゃんがうるさく騒ぐので落ち着いて入っていられる状況ではない。ちょっと視線を下に動かしただけで騒がれるのだ。
 やれやれ、と思いつつ僕は早々にお風呂を切り上げて上がることにした。
 脱衣所には玲奈さんが用意してくれたものだろう、ふかふかのバスタオルと新品のバスローブ、それに下着があった。
 バスローブで身体を拭くときにもシェルちゃんが騒ぐものだから、休んだつもりが精神的に疲れてしまった。
 僕はリビングで本を読んで和んでいた星斗に声をかけて、まだ時間は早かったけど寝ることにする。
「じゃあおやすみ。星斗」
「ああ。……おやすみ。亮」
 なぜか星斗はその挨拶を微かに嬉しそうな顔で口にしていた。いや、なぜかと考えるまでもない。これまで周囲の人に虐げられ、疎まれてきた彼はこんな普通の挨拶をする相手もいなかったのだろう、というだけのこと。
 布団に入ると、思っていたよりも疲れていたのか、強い眠気に押されてすぐに眠ってしまった。




(――?)
 僕は暗闇の中、目を覚ます。
 なんだか息苦しい。
 思わず身体を起こしかけて、その身体が動かないことに気づいた。
「?」
 眠りから覚醒したばかりで頭がぼんやりとしている。そもそもいま僕は起きているんだろうか?
 重い瞼をこじ開けて目を開くと、眠りにつく前に見えていた天井が見える。電気が消えて暗いはずだったけど、なぜか部屋の中は微妙に明るかった。
(…………光?)
 淡く光る青色の光源があるようだ。でも、どこから?
 僕は自由な眼だけを動かして、自分の身体がどうなっているのか見ようとした。
 視線を下に動かして――目を見開く。
 上に被っていたはずのかけ布団がどこかに行っていた。いや、それどころか、着ていたはずのバスローブと下着がなくなっている。つまり、僕は全裸を晒して布団の上に寝転がっている状態になっていた。
(…………ええ!?)
 思わず飛び起きそうになって、それでも身体は動かない。筋肉が緊張するのはわかるんだけど、そこから先が動かない。まるで見えない力で動きを止められているようだ。
(なに、これ……!?)
 ふと気づくと、僕の裸身を青白い光を放つ刺青のようなものが覆っていた。複雑怪奇な文様を描く刺青は、鎖骨の辺りから足のつま先までを覆っている。これのせいで動けないのだということに気づいたのは、それから暫く経ってからのことだ。
(どう、なってるんだよ、これ……)
 得体の知れないことが僕の身に起きている――そのことだけは嫌でも理解した。
 ふと、僕は真横に人が立っていることに気づいた。いままでは確かに見えていなかったから――しゃがんでいたか、何かで視界に入っていなかったのだと思う。
 僕はその人影に視線を向け、再び驚きで目を見開いた。そこに立っていたのは――。
(せ、星斗……!?)
 僕と同じように、死神の体を乗っ取った彼。その儚げな少女の姿で、星斗がそこに立っていた。
 でも、なにか様子がおかしい。
 その儚げな外見には似つかわしくない星斗の豪快さや、不遜さ、陽気さが、目の前に立つ星斗からは感じられない。
 いうなれば――外見に合った平静さ、冷徹さを持った雰囲気を持って。

――無表情で、かつ無感動な視線を、星斗は僕に向けていた。




第六章へ続く

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