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死神輪舞15

死神輪舞14の続きです。

前回の話はこちら↓
         10
11 12 13 14

 では続きからどうぞ。


死神輪舞15




 荷物をそれぞれ部屋に置いて、僕と星斗はリビングで向かい合って座った。
 そして、先ほど星斗が一蹴したクラゲのことについて、星斗が知っていることを教えてもらった。
「あれについては俺もよくわかっちゃいねえんだけど。……これまで見かけた時の情報を総合するとだな、どうもあれは人の霊体を狙っているらしい」
「霊体を?」
 玲奈さんが淹れてくれたお茶を飲んで唇を湿らせつつ、星斗は頷いた。
「ああ。ただ、直接は奪い取れないみたいだ。つまり……事故とかを起こして、人を間接的に殺して霊体を身体から出さないと、手が出せねえみたいなんだ」
「事故……」
 交通事故で死んだ僕。ひょっとしてあれも……いや、違うか。僕の場合は猫を助けようとして自分から道路に飛び出した。あれが誘導された結果だとは思えない。
 僕の死因を思い出したのだろう、星斗はちょっと困った顔つきになった。
「……お前の事故はあいつらとは関係ないと思う。あいつらのやり方は今日みたいに車を転倒させて店に突っ込ませたり、看板を落下させて下を通った奴を押しつぶしたりするやり方だから。人体には直接触れられないみたいだ。なぜかは知らないが」
「そっか……」
 まあ、僕の死んだ理由があのクラゲたちのせいであろうが、何だろうがあまり意味はない。こうして僕は死んでしまって、シェルちゃんに同化することで無様に現世にしがみついているのだから。
「…………」
「……っと、わりい。自分が死んだ時のことなんて、あんまり思い出したくないよな」
 思わず気分が沈んだ僕を気遣ってくれたのだろう、星斗はそう言って話題を元に戻した。
「あいつらが厄介なのは、俺達を見ると直接襲いかかってくるってことだ。これは俺の想像だけど――たぶん、俺達の存在は直接手を出しちゃいけないルールの適用外なんだろう。間接的に襲わなければならないもんより、さっさと直接的に食べられるものの方を狙う。効率的にも自然なことではあるな。反撃を食らうことは予想外のことなんだろ、たぶん」
 僕は星斗の話を聞きながら、シェルちゃんにも問いかけてみた。
(シェルちゃん。どう? 星斗の言ってること……)
(……おおまかには、死神達が話していたのと同じ話ね。ただ……死神に積極的に寄ってくることはないみたい。たまに襲われたっていう話も聞くけど、大抵は死神の姿を感じればああいうのは逃げていくそうだから。私自身は遭遇したことないけど)
 と、なると……やはり死神の体に人間の魂が同化しているこの状態が、あの変な物を引き寄せる要因になっているのだろう。
「……あの、化け物は多いの?」
「ん?」
「あ」
 しまった。シェルちゃんに訊くつもりが、口に出しちゃった!
 冷や汗がにじみ出てくるのがわかった。いや、でも大丈夫。話の脈略はないけど……不自然な質問じゃないし……。
 幸い、星斗は不審がる様子もなく、答えてくれた。
「んー。いや、そう数は多くないみたいだな。俺も今回で三回目だし……最初は危なかったけど、鎌で倒せることがわかってからはそう怖いもんじゃなくなったぜ」
「そ、そっか……」
 思わず安堵の溜息を吐く。それを疲れたため息にとったのか、星斗が提案してくれた。
「亮? 疲れたのか? 今日は引っ張り回しちまったしな。風呂に入って休め。着替えとかは玲奈に用意させるから」
「うん……そうさせてもらうね」
 数日後には、上位死神のコルドガルドさんが来る。それまでにどうするか――決めておかなくちゃいけない。
 体の疲労自体は大したことはなかったけど、とにかく一人で考える時間が欲しかった僕は、星斗の言うことに従ってお風呂に入ることにした。

 考えてみれば、こうしてシェルちゃんと同化してから、普通にお風呂に入るのは初めてのことだった。
 昨日はレイプされた後、気を失っている間に玲奈さんに入れてもらったみたいだし……。いまさらながら、この体で初めての入浴には緊張する。
(いい? ぜーったいに見ないでよ!?)
 頭の中でしつこいほどシェルちゃんの声が響いた。何度も何度も繰り返された懇願に、僕は辟易しながら応える。
(仕方ないだろ……それに、もう裸とか見ちゃってるし、服の試着するときに下着姿も見たし、トイレにも行ったじゃん)
(そっ、それとこれとは別なの! とにかく! 絶対絶対絶対に必要以上に見ないでよ!)
 死神とはいえ、精神構造は人間の女の子と変わりがない。だから自分の身体を男に見られたくないというシェルちゃんの言い分はわかるんだけど……頭の中で騒がれると頭痛がしてくるから止めてほしい。
(わかってるってば。お願いだから静かにして……)
(うるさい馬鹿!)
 取りつく島もない。
 僕はため息を吐きながら、全ての衣服を脱衣所の籠の中に脱いで入れた。そして、お風呂場に入る。
 さすがに高級ホテルだけあって湯船もとても大きく、こんな状況でなければ何時間も堪能したいところだ。だけど、頭の中でシェルちゃんがうるさく騒ぐので落ち着いて入っていられる状況ではない。ちょっと視線を下に動かしただけで騒がれるのだ。
 やれやれ、と思いつつ僕は早々にお風呂を切り上げて上がることにした。
 脱衣所には玲奈さんが用意してくれたものだろう、ふかふかのバスタオルと新品のバスローブ、それに下着があった。
 バスローブで身体を拭くときにもシェルちゃんが騒ぐものだから、休んだつもりが精神的に疲れてしまった。
 僕はリビングで本を読んで和んでいた星斗に声をかけて、まだ時間は早かったけど寝ることにする。
「じゃあおやすみ。星斗」
「ああ。……おやすみ。亮」
 なぜか星斗はその挨拶を微かに嬉しそうな顔で口にしていた。いや、なぜかと考えるまでもない。これまで周囲の人に虐げられ、疎まれてきた彼はこんな普通の挨拶をする相手もいなかったのだろう、というだけのこと。
 布団に入ると、思っていたよりも疲れていたのか、強い眠気に押されてすぐに眠ってしまった。




(――?)
 僕は暗闇の中、目を覚ます。
 なんだか息苦しい。
 思わず身体を起こしかけて、その身体が動かないことに気づいた。
「?」
 眠りから覚醒したばかりで頭がぼんやりとしている。そもそもいま僕は起きているんだろうか?
 重い瞼をこじ開けて目を開くと、眠りにつく前に見えていた天井が見える。電気が消えて暗いはずだったけど、なぜか部屋の中は微妙に明るかった。
(…………光?)
 淡く光る青色の光源があるようだ。でも、どこから?
 僕は自由な眼だけを動かして、自分の身体がどうなっているのか見ようとした。
 視線を下に動かして――目を見開く。
 上に被っていたはずのかけ布団がどこかに行っていた。いや、それどころか、着ていたはずのバスローブと下着がなくなっている。つまり、僕は全裸を晒して布団の上に寝転がっている状態になっていた。
(…………ええ!?)
 思わず飛び起きそうになって、それでも身体は動かない。筋肉が緊張するのはわかるんだけど、そこから先が動かない。まるで見えない力で動きを止められているようだ。
(なに、これ……!?)
 ふと気づくと、僕の裸身を青白い光を放つ刺青のようなものが覆っていた。複雑怪奇な文様を描く刺青は、鎖骨の辺りから足のつま先までを覆っている。これのせいで動けないのだということに気づいたのは、それから暫く経ってからのことだ。
(どう、なってるんだよ、これ……)
 得体の知れないことが僕の身に起きている――そのことだけは嫌でも理解した。
 ふと、僕は真横に人が立っていることに気づいた。いままでは確かに見えていなかったから――しゃがんでいたか、何かで視界に入っていなかったのだと思う。
 僕はその人影に視線を向け、再び驚きで目を見開いた。そこに立っていたのは――。
(せ、星斗……!?)
 僕と同じように、死神の体を乗っ取った彼。その儚げな少女の姿で、星斗がそこに立っていた。
 でも、なにか様子がおかしい。
 その儚げな外見には似つかわしくない星斗の豪快さや、不遜さ、陽気さが、目の前に立つ星斗からは感じられない。
 いうなれば――外見に合った平静さ、冷徹さを持った雰囲気を持って。

――無表情で、かつ無感動な視線を、星斗は僕に向けていた。




~16へ続く~

Comment

No.162 / toshi9 [#YK3S2YpI]

星斗の行動、そして雰囲気の変化。
さて何が起こったのでしょう。
何か感づいたのか、それとも・・

ところでクラゲについてのシェルちゃんの言葉ですが、14では「よく知らない。-聞いたことがある」とコメントしてましたが、15ではある程度情報を知っている様子でしたね。
単にシェルちゃんが情報を思い出したのか、それとも何か意味があるのか。
ちょっと気になった点です。

2009-03/09 20:32 (Mon) 編集

No.163 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

コメントありがとうございます!
クラゲの情報についてのシェルの発言ですが、「生体などの詳しいことは知らないけど、死神達が噂していた、こういう話を聴いたことがある」というような意味のつもりでした。
ですが、指摘されてみると確かにその通りで、情報を思い出したのか、あるいは深い意味があるか、のどちらかに見えますね。 訂正しておきます。 ありがとうございました。

うーん、表現って難しい……。

2009-03/09 20:50 (Mon)

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