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短編『マイ・コン』

この作品はリハビリとして書いた、読み切り短編です。
久しぶりすぎてなんだか長編っぽい感じになってしまいましたが……(笑)
あ、でもそれはいつものことでしたね……orz
オーソドックスなMCもののつもりです。
 
では、続きからどうぞ。
 
 
『マイ・コン』



 おめでとうございます。
 あなたはマイコン祭にて見事優勝しました!


 ある日届いた葉書をみた俺は、思わずガッツポーズを突き上げていた。
(まさか優勝するなんて! 倍率高くてぜってぇ無理だと思ってたのに!)
 数ヶ月前、俺はとあるサイトで見かけた豪華賞品イベントに応募した。50万相当のオリジナルカスタムコンピュータが賞品であるイベントーー『マイコン祭』。
 マザーボードからキーボードまで、この世にある様々なコンピュータと周辺機器の理想的な組み合わせを投稿し、その中でも最高の組み合わせと判断される組み合わせを投稿した者には、その組み合わせをそっくりそのまま再現したセットを送るというイベントだ。今回は五十回記念だとかで五十万の予算で組み上げていいという条件だった。普段が五万程度の組み合わせであることを考えれば、今回のイベントがどれほど魅力的なものかはわかるだろう。
 だからこそ是非とも選ばれたかったのだ。もし選ばれれば超高スペックのパソコン一式がそのまま手に入ることになるのだから。大学で卒論を出すときより気合いを入れて組み合わせを考え、投稿したものだ。
 そして今。その甲斐あって俺は栄光を手にした。
(やったぜぃ! あー、なにやろっかなー。すげえ綺麗な画面でエロゲをやり放題か……! 漲るぜ!)
 このときの為にいくつかやろうと思ってため込んでいたゲームがある。それはある意味願掛けの意味もあったのだが、その甲斐あったということだろう。
 超ハイスペック超美麗画面で、やることがエロゲーというのは最高の贅沢だ。人に言わせればなんて無駄遣いだと言うかもしれない。だが、だからこそ俺はそれをやりたかった。
(まさか夢が実現するなんてなー。これは届く日が楽しみで仕方ねえぜ!)
 俺は最高の気分でその日を待ち望んでいた。

 その日、俺は人生が変わってしまうことを知らない。
 
 
 
 
 優勝賞品が届いたその日。
 決して広くない俺の部屋は様々な段ボールで埋め尽くされていた。なにせ五十万円分のパソコン一式だ。その画面はメインとサブ併せて三つもあり、スピーカーやキーボードもちゃちい安物ではない。マウスですら、デザインと機能性両方に凝った素晴らしい一品だ。
(さーて、さっそく組み上げちゃろうかね)
 俺は段ボール箱を次々開封し、中から一級品のパソコン機器を取り出して設置しておく。この日のためにちゃんと机の上は開けておいたから設置はスムーズだ。
 でかいモニターが三つも並んでいる様はまさに圧巻の一言だ。これだけ買い揃えようとしても、普通に働いていたら何年かかることだろうか。それが一瞬で叶ってしまったのだから、つくづくイベント万歳、というところだ。
 大体の機材が設置し終わってから、俺はいよいよパソコン本体の箱に手を伸ばした。俺は俺独自の拘りとして、パソコン本体を設置するのは最後だと決めていた。これが心臓部分だから、一番大切にしなければならない部分だから、最後に取り付けるのが一番効率がいいから、など様々な理由があるが、要は無駄な拘りである。こだわってこそ人生だと思っている俺はその法則に従って、今回もパソコン本体を最後に取り出した。
 そして、首を傾げることになる。
「あれ……? これって……俺が選んだパソコン本体じゃなくね?」
 俺はとある企業で最新鋭と言われていたパソコンを指定していたはずだ。そのパソコンだから様々な組み合わせが生きてきて、それが評価されたのだと思っていた。
 なのに、今回送られ来たそれは、俺が指定したパソコンと大きさは似ているが全くの別物だった。
「発送ミスかよ……うわぁ……まじかよ……」
 ここまで積み上げてきて、ようやくあと一つで完成というときにこれはない。テンションが激しく下がった。せっかくの大喜びが小喜びに変わってしまった感じだ。これから返品して本来の機器を送ってもらったとしても、数日はかかるだろう。機器を設置した興奮の熱はとっくにさめているに違いない。
「つうか、なんだよこのパソコン……みたことねえ型番だし……試作品とか?」
 思えば説明書もなにも入っていなければ、本来新品のパソコンに張ってあるような『開封後返品不可』というシールも一切張ってない。企業の持つまだ見ぬ試作品というところに心が揺れ動いた。
「……し、しかたねーよな。俺は正しいパソコンが送られてきたって勘違いしただけだし」
 誰に向かっての言い訳なのか、俺はそう呟きながらパソコン本体を箱から出し、袋を取り外した。そのパソコン本体の壁面には『マイ・コン』とカタカナで字が掘られている。正直だせえ、と思った。せめて英語で書けよと。
 とりあえずモニターやマウス、キーボードなど、様々な周辺機器を接続していった。そうしている内に、楽しみがよみがえってくる。この準備している時間が一番楽しいのだ。
 俺は全ての機器を接続し終え、机に座る。いよいよだ。
 電源ボタンに指をかけ、一気に押し込む。
「起動!」
 パソコンの駆動音が静かに響く。中々いい感じじゃないか。三つあるモニターがぴかりと光って企業のロゴが表示された。三つの画面が起動し、スピーカーから臨場感のある起動音が響く。
 一度画面が全部消えて、中央の画面だけが点いた。喜びに満ちていた俺は、不意に示された文言に目を瞬かせた。
「……ん? なんだこれ」
 そこにはこう書かれていた。
『マイ・コンの起動を確認しました。これより使用者登録を行います』
 ユーザー登録みたいなものかと思っていたら、予想外のことが起きた。
 本体がきゅいんきゅいん言っていたかと思えば、突然俺自身の情報が画面上に出たからだ。
「は……?」
『使用者様はこちらでお間違いありませんか?』
 そんな文言が表示されるまで、俺は動けなかった。けど、少し考えればわかることだった。
「そ、そっか、応募するときにプロフィールとか書いた気がするな! そうだよ、それを入力してくれてたってわけか。親切だな」
 そう言って自分自身を納得させる。いまから思えば、撮った覚えのない自分の写真がその情報に載っている時点でおかしいというのはあきらかだった。そのあからさまなおかしさから目を逸らしていたのかもしれない。
 そのときの俺はとりあえず情報も合ってるから、ということで何も考えずにOKボタンを押した。
 再びパソコンの本体から音がして、そしてメッセージが表示された。
『マイ・コンをご使用いただきありがとうございます。それでは、さっそく使い方についてのチュートリアルを行いましょう』
「使い方のチュートリアル? なんだそりゃ」
 パソコンなんて使っている内に慣れていくものだと想っていた俺はチュートリアルなんて必要なのかと想っていた。だから、あまり気乗りしなかったのだが、そのチュートリアルの内容を見て、三度目を疑うことになる。
 まず一番最初の文言からしておかしい。
『このマイ・コンでは、人の心を操ることが出来ます』
 目が点になるとはこういうことなのだと実感してしまった。はっきり言って訳が分からないにもほどがある。
「なんだこれ?」
 そう呟く間にもチュートリアルは自動で進んでいった。
『操るのに必要なのは個人が特定できるだけの情報が必要です。顔写真であればそれだけでOK。顔写真がない場合は、名前と生年月日、住所などがわかればよいでしょう。それ以外、血液型などの情報でも、個人が特定出来る組み合わせが出来ればそれでOKです』
「おいおい……なんだよこれ……どっきりか?」
 ついきょろきょろと周囲を見渡してしまう。こんなドッキリを仕掛けられるテレビがあるとも思えないが、ついその手のことを疑ってしまうのは仕方のないことだろう。
 最近のカメラは小型だとはいうが、その手の不審なものは見あたらなかった。
『マイ・コンによって操れる行動範囲に制限はありません。何度でも可能です。曖昧な命令に関しては個々人の判断能力などに従って行動します。命令に含まれている内容については、例え本人は知らないことであっても自動的にそれに関する知識を得て行動します。ただし、物理的に不可能な事柄に関する命令は無効となります』
「それは……そうだろうな」
 富士山を飛び越せとか一秒後にフランスにいろとかいう命令まで可能だったらそれはもうマインドコントロールというレベルの問題じゃなくなる。
 そのときには、食い入るようにそのパソコン画面を眺めていた。そのパソコン画面が、それまでのテキストだけが表示される無味乾燥なものではなく、ちょっとスタイリッシュな、いかにもそれっぽい起動画面になる。
『それでは、実際に人を操ってみましょう。検索画面からまずは適当な対象者を探します』
 今度はテキストじゃなくてスピーカーから声が出た。機械の合成音というのが的確な声だったが、普通に聞くそれよりは滑らかだったような気がする。
 俺は声に従ってマウスを動かして画面上にあった『検索』ボタンを押してみる。
 様々な検索方法が示されていた。人名から、住所から、写真から、という感じで様々な調べ方があるようだった。
『最初は住所から検索してみましょう。現在地を表示します』
 一瞬で画面が切り替わり、3Dの町並みが表示される。その美麗すぎる映像に思わず惚れ惚れした。かと想うと、いきなりその3D町並みが図面に書かれているような細い線だけで形成される。もっとも、それでも立体感がわかるのだから相当なものだった。
「……つか、すげえな……これ完璧うちじゃん」
 俺がいまいる場所、家の立体映像がそこに記されていた。白い線で構築された俺の家の中に、青い人形と赤い人形がいる。人形と言って棒人間的なものだったが、その姿勢などを見るにーーまさに俺のいまの状況を示していた。机に向かって座っている。その机の上にはモニターらしき物やキーボードらしきものもあってーーなにより、床に散らばっている段ボール箱の山までもが表現されていた。試しに片手を天井に向けてあげてみると、俺だと思われる人形もまた片手をあげる。
 正直、この時点で俺はかなりビビっていた。ここまでリアルタイムで現在の状況を再現するソフトがあり得るのだろうか。あったとしても相当なテクノロジーで作られた物だろう。それがいま俺の目の前にある。
 さて、青い方の人形が俺だとすると、もう一つ赤い方は当然。
『カーソルを人形に合わせてみましょう』
 マウスでカーソルをあわせて見ると、にゅっとポップアップで母親の情報が示された。
『簡単な命令を出してみましょう。命令を出すには情報ウインドウの命令記入欄に書き込んで命令ボタンをクリックするだけでOKです』
「命令、ねぇ……」
 俺は少し悩んだ後、命令欄に簡単な命令を書き込んでみる。
「『ラジオ体操をすること』……っと」
 命令ボタンを押してみた。すると、赤い人形が動き出す。
 俺は一度席を離れて、リビングにいる母親の様子を見に行った。もはや疑いはしていなかったが、そこれでは母親がラジオ体操を行っているところだった。命令通りに行動していることに心臓が大きく鼓動を奏でる。
「……な、なあ母さん」
「なに?」
 ラジオ体操をしながら応える母さん。
「なんで、ラジオ体操してるんだ?」
「なんで? なんとなく? 健康のためかしら」
 自然な調子で母親はラジオ体操を続ける。勝手にそれっぽい理由を付けるようだ。
「……ダイエットのためじゃなくて?」
「うるさいわね」
 むっとした声で母さんが言う。
「冗談冗談」
 俺は軽口を叩きながらその場を離れた。今回はまだ理由が付けられなくもない内容だったけど、もしも明らかに不自然な内容だったらどうなるのだろう。
 試したいこと、試さなければならないことがたくさん出来た。命令には制限はないということだし、これはやりかたによってはあのマンガの主人公みたいに世の中から犯罪者を消していくみたいな使い方も出来るのだろう。けれどもちろんそんな使い方はしない。

 俺は俺の世界を作るために『マイ・コン』を使ってやる。

 部屋に戻って早速『マイ・コン』の前に座った。それを見越したかのようにーー実際把握しているのだろうーー『マイ・コン』のガイドが声を出した。
『いかがでしたか?』
「ああ、最高だ」
 まだどっきりの可能性は消えていないからもう少し試してみる必要はあるが。
『使用中、わからないことがあればいつでもガイドボタンでお呼び出しください』
 そう音声が呟き、最後に画面上に大きくテキストが表示される。
『それでは、快適なマイ・コンライフをお楽しみください』
 テキストが消え、起動画面に戻る。
 俺はまずはどうしようかと考え込むことになった。
(とりあえず……あまり派手に動くのはなしだな。このマイ・コンを手に入れていることを企業に知られるのはまずい……制作しているくらいだ。何らかの防護策はとっているだろうし、下手に触れない方がいいな……)
 これに関しては向こうが勘違いし続けてくれるのを願うしかない。下手に手を出してやぶ蛇になるのも嫌だし、こちらが誤発送について言わなければ気付かれないはずだ。
 また、同じような理由であまりにも大胆な動きも厳禁だろう。たとえば何でも出来るからといってむちゃくちゃな行動を取らせ続ければ警察はともかく、制作した連中がマイ・コンを使った犯行だと気付く。表に出ない範疇ならともかく、新聞沙汰になるような大騒ぎにしてしまうのは控えなければならない。
「と、なると……」
 このマイ・コンをフルに使える環境というのはある程度絞られてくる。
 外界とかなり隔絶した状況にあり、なおかつ俺が操りたいと思うような者がたくさん集まっていても不自然じゃない状況になりうる場所だ。
 
 
 
 
 新規開店したばかりのはずのそのフィットネスクラブには、たくさんの受講希望者が押し寄せた。実績も皆無なそのクラブになぜ人が集まるのかーー不思議がられていたが、実績が上がるに連れ、その評判は鰻登りに高まっていった。
 絶対痩せられる、魅力的なボディに変身、などといった怪しげな文言ではあったが、実際にその通りの実績を上げ続けていたため、世間の評価もそれにふさわしいものになりつつあった。口コミや、実際にそのフィットネスクラブに通った者の証言から、それは益々真実味を帯び、たくさんの受講生を集める結果となった。
 その裏で何が行われているのかについては、企業秘密として明らかにされていないが、多数の雑誌記者や新聞記者がそのスクープになるであろう情報を狙っていた。
 とある芸能新聞の記者、渡部トオコも、その内の一人だった。
「このフィットネスクラブには何か裏があるはずなんです!」
 そう豪語し、取材を求める彼女に、彼女の上司や同僚などはため息をはいていた。トオコは『残念な美人記者』として社内外で有名なトラブルメーカーだった。独特の感働きで行われるその発言はたまに正鵠をいる時もあるがたいていは空振りで終わる。空振りで終わるだけならともかく、ひっちゃかめっちゃかに大騒ぎするので振り回される側としては疲れる存在なのだ。
 彼女の直属の上司であるデスクも、今度のはあたりかはずれかをまず考えなければならなかった。確かに件のフィットネスクラブは怪しい。話題に出てから有名になるまでの課程がめちゃくちゃだからだ。確かに何か裏があると疑いたくなる。しかし実際に通った者達が問題ないと発言し、一切情報を漏らさないため、白とも黒ともいえない状況だった。そういう意味では、一度調べておいた方がいい事案でもある。
「……わかった、渡部。ここの調査はお前に一任する。潜入取材する場合でも、女性じゃないと出来ないしな」
 もっとも、性格はともかく外見的には完璧な美人であるトオコがフィットネスクラブに入会したいというのは不自然かもしれない。デスクの考えとしてはダメで元々だった。
 トオコは嬉しそうにデスクに向かって敬礼する。
「渡部トオコ! 問題のフィットネスクラブについての調査を始めます!」
 ちなみに、敬礼はこの会社で決まっている挨拶ではない。トオコが勝手にやっていることだ。残念なオーラを微妙に滲ませながら、トオコは早速潜入取材の準備を始めた。
 彼女と組んでいるカメラマンの土居昌治が嫌そうな顔をする。
「トオコさん、またやっかいな仕事するんですかぁ?」
「またとはなによ! やっかいとはなによ! ここのフィットネスクラブはいかにも怪しいって土居くんも言ってたじゃない!」
「オレ、それに加えて厄介そうだともいったじゃないスか! 情報が欠片も出てこないのはどう考えても普通じゃないって! どうするんスか行ったが最後、薬漬けになってそれなしじゃいられない身体になったり、怪しい新興宗教にハマるみたいに洗脳されたりしたら……」
「正義に犠牲は付きものよ」
「トオコさん、まじ死に急ぎすぎでしょ……オレ巻き込まれたくないんすけど……」
「どうせ潜入するのは私よ! ということで行きましょう!」
「マジっすかぁ……」
 半ば引きずられるようにして、土居はトオコにつれられていった。
 このとき、土居は何気なく真実を言い当てていたのだが、もちろんそれに気づけることが出来るわけもなかった。

 トオコは身分を詐称し、専業主婦ということにした書類を作成し、フィットネスクラブに入組希望を出した。ちなみにその際ためらいは一切なかったことを記しておく。
「いきなり潜入取材にするんですか……? ちょっと聞き込みとかしてからにしましょうよ」
「バカね。その手でやろうとして他の記者は失敗してるの。それにそんな聞き込みとかしてた奴が入りたいですなんていったら怪しさ満点じゃないの」
「ちっ……だからいったのに」
「何かいった?」
「いいえ何も」
 フィットネスクラブからの返答を待つ間、主に土居が遠くからカメラの望遠機能などで、フィットネスクラブの中で何が行われているかを捉えようとしたが、そんな簡単にはいかず、中で何が行われているかはわからなかった。
 そして数日後、フィットネスクラブからは面接を行うとの返答が返ってきた。トオコは勢いよくガッツポーズを突き上げる。
「よーし! これであとは潜入するだけね!」
「……マジで気をつけてくださいよトオコさん」
「ばかねー。そんなに危険なことがあるわけないじゃない。行方不明者が出てるってわけじゃないんだから」
「そうなんすけどね……」
「全くもう。土居くんは肝っ玉小さすぎるのよ。当たって砕けるくらいの気持ちでいかなくちゃ!」
「あなたの場合、当たって砕け散るから困るんですよ! 周りの迷惑を少しは考えてください!」
 土居の心配もなんのその。
 トオコは意気揚々とフィットネスクラブへと向かったのだった。


 トオコがフィットネスクラブがある建物に着いた時、その場所にはぞろぞろと様々な年代の女性が出たり入ったりしていた。上の年代は四十代くらいから、若い子であれば学生らしき姿もある。年輩以外の様々な世代が利用していることがわかった。
(さて……冷静に冷静に、っと)
 今回、トオコは盗聴器や録音機などを一切持ち込んでいなかった。土居は持たせたがったが、それを発見されたら一発で潜入取材を試みる記者であることがばれてしまう。だから彼女はほとんど身一つで今回挑むことを決めていた。いくら相手がこちらのことを疑ってかかっても、こちらがそういう証拠を持っていなければ見破ることは出来ない。まずは本当に普通の一般人として潜入し、秘密を得るつもりだった。
 記者としての素材集めはそれからでも出来る。
 トオコは面接時間の十分前に建物へと入ろうとした。すると、そこに立っていたガードマンがトオコを呼び止める。
「失礼。会員の方ではありませんね? ここから先は当クラブ会員様のみのエリアとなっております」
 私は少なからず驚いた。このフィットネスクラブの会員数はもう百人を越えているだろう。会員証などのあからさまな証もないから間違ったフリをして潜入できるところはしてやろうと考えていたのだけど。思いがけないセキュリティの高さだった。
「あ、すいません。私今日入会のための面接を受けにきたものなんですけど……」
「ああ、それでしたら向こうの特別入場者専用入口からお入りください。窓口でお手続きをしていただければ、係りの者がご案内します」
 ガードマンに言われたとおり、、特別入場者専用入口から建物の中に入る。従業員専用ですらなく、面接を受けにきた人のためだけの入口があるなんて。これは一筋縄では行かないレベルのセキュリティの高さを感じた。
(ま、それでこそ情報を得られた時の喜びが大きいってことよね!)
 必ず特ダネ情報を掴んでやろうと、トオコは意気込んだ。


 トオコはクラブの一室に案内されていた。
 そこはいかにも面接用に部屋の中央にパイプ椅子が一つだけおかれていて、その正面に長机といくつか椅子がおかれていた。トオコは不自然にならないように周囲を観察しながら、部屋の中央におかれた椅子に腰掛ける。
(ふぅん……ここは普通の部屋とあまり変わらないわね。全く、全然隙を見せてくれないんだから……これはなかなかやりがいのある仕事みたいね)
 記者魂に火がつくというものだった。
 トオコはそう考えてしばらくそのまま待っていた。
 待つこと数分。一人の男性が面接室にやってきた。
「お待たせしました。少々立て込んでおりまして……申し訳ありません」
 トオコは立ち上がりながらスマイルを心がけて頭を下げる。
「いえいえ……お忙しい時間を割いていただきありがとうございます」
 さりげなくトオコはその現れた人物のことを観察する。
(この人、従業員……って感じじゃないよねぇ……なんなんだろ)
 まだ若く見えるし、何か特別な能力を持っているようには見えない。平凡な人物だった。
 その平凡な人物はトオコに向かって頭を下げる。
「私はこのフィットネスクラブの最高責任者です。オーナーとお呼びください。今日はようこそいらっしゃいました」
「え?」
 思わず私がつぶやいたのを受けて、その人、オーナーが苦笑を浮かべる。
「すいません。驚かせてしまいましたか。私のような若輩者が最高責任者といわれてもぴんとこないとは思いますが、私が音頭を取ってこのフィットネスクラブをはじめたんんですよ」
 オーナーにとって驚くのは予定調和だったらしく、楽しげに説明を加えてくれる。
 私はあわてて表情を改めた。
「そうだったんですか……お若いのに、ご立派なんですね」
 あまりおべっかを使いすぎるのもよくない。私は事実だけを指摘する。オーナーは少し得意げだった。
「いえいえ、すべてはみなさんが集まってくれるおかげですから……さて」
 オーナーはにやりとーーにっこりとではなかったーー笑う。
「それでは、早速ですが面接を初めて行きましょう」
「はい。お願いします!」
 ちょっと予定外のことは起きたけど、ここからが正念場であることは変わりない。私はぼろを出さないようにしっかりと気を引き締めた。
 オーナーが口を開く。
「これからいくつか質問しますので、そのすべてに偽りなく答えてください」
「はい!」
 身元の確認というところか。下手な答えは返せない。慎重に答えないと。
 オーナーが一つ目の質問をする。

「あなたは……○×新聞社の記者ですね?」
「はい」

 私は偽りなく彼の質問に答えていた。




 潜入取材をしてきた記者に対して記者ですかと訊く。
 普通ならごまかされるのが関の山の質問だったが、彼女は実にいい返事で肯定してくれた。
「目的は潜入取材ですね?」
「はい。普通に行ってもだめだと判断しました」
「あなたの他に、取材に来ている人はいますか?」
「はい。土居正治というカメラマンが協力してくれています」
「なるほどなるほど……」
 俺は何度も頷きながら書類を眺める。彼女自身が送ってきた履歴書と、『マイ・コン』を使って出した彼女の本当の情報だ。その職業欄にはハッキリと『○×新聞会社記者』と示されている。
「あとで土居正治のことに関しては対処するとして……とりあえずは、と」
 俺は彼女の魅力的な肢体を眺め、相好を崩した。
「それではトオコさん、これからあなたが当クラブに相応しいかどうかテストします。いまから言うことをしっかりと聴いて、実行してください」
「はい、わかりました」
 相変わらず彼女はいい笑顔で答えてくれる。俺はその笑顔を気が済むまで眺めながら一番最初の命令を口にする。
「ではまず、体のチェックをしますのでーー服を脱いでください」




 服を脱いでください、と言われて私はさっきからずっと感じている違和感をさらに強く感じた。けど、ためらってはいられない。
「はい、わかりました」
 私は立ち上がり、さっそく上着を脱いでいく。脱いだ服は椅子の背もたれにかけておいた。下着を晒すことに抵抗がないわけではなかったけど、それよりも『しっかりと言われた通り』に面接をこなさなければならなかった。
(フィットネスクラブの真実を探るためにも……この面接はなんとしてでもクリアしないと……!)
 必ず真実を暴いてやる、と私は意気込んでいた。
 スカートも脱いで背もたれにかける。そしてストッキングを脱ごうとしたところで、オーナーに止められた。
「一端ストップです。気を付けの姿勢で立っていてください」
 言われたとおりの姿勢をとる。オーナーが机を回り込んで私の側にやってきた。
「ふむ……最初からわかっていたことではありますが……かなり均整のとれた体つきをしていますね」
「ありがとうございます」
「すこし触らせてもらいますよ」
 そう言って、オーナーが手を伸ばしてくる。一瞬嫌悪感のようなものが背筋を走ったような気がした。
 オーナーは真正面から私の乳房を両手で掴む。その時、私はすさまじく感じてしまって戸惑った。
「……っ」
 口から甘い吐息で出そうになるのを必死に堪える。オーナーは執拗に私の胸をもみ続けた。
「柔らかさも十分ですね。こんな胸をぶら下げていたとは……驚きました。すばらしいという意味ですよ?」
「あ、ありがとう、ござ……っ」
 すこし強く揉まれて、私は思わず言葉を途切れさせてしまった。
「おや? 体のチェックをしてるだけなんですが……もしかして感じてしまっているんですか?」
「い、いえ、その……」
 オーナーはただチェックしているだけなのに、感じてしまうなんて恥ずかしい。
 けれど質問には嘘偽りなく答えなければならない。
「は、はい……申し訳ありません」
「ははは、大丈夫ですよ。健康な証拠です。いいことですよ」
 朗らかに笑ってくれるオーナー。その笑顔に少し救われた心地がした。
 オーナーはさらにお腹や二の腕なんかも触っていく。
「ふむふむ……こういうところの肉付きも全く問題ありませんね。あまりにも完璧すぎるのでうちのクラブでやることがあるかどうか……逆にそういう意味で心配になりますね」
「……入会は、無理でしょうか?」
 これまで私は自分の容姿も一つの武器としてきた。どれほど綺麗事を言っても、結局人の印象というのは第一印象でほとんど全てが決まる。その時少しでも好印象をもたれるよう、私は自分の容姿を磨いて生きた。残念な美人と言われているのは知っていたし、容姿でプラス評価を得ないと取材の成功率はあがらないと思っていたからだ。
 性格を矯正すればいいじゃないかと言う人もいたけど、私は自分を曲げてまで記者でいたいとは思わない。自分らしさを必要以上に主張するつもりはなかったし、自分は自分のままでやるために努力もしてきたつもりだ。
 それはさておき、ここでその努力が裏目に出るのだとしたら、それは何という皮肉だろうか。
 オーナーはそんな不安をにじませる私に対して、やはり朗らかな笑みを浮かべてくれていた。
「その点については大丈夫です。当クラブではダイエットコースの他に体型維持コースみたいなのもありますから。実際ダイエットコースでダイエットに成功した方は、そちらの体型維持コースに移行することが多いですしね」
 体型維持コースでは理想的な体型を維持する手助けを行っているらしい。
「ですので、あなたのような人でも入会はできます。それだけの価値があるかどうかはあなたの判断次第ですが。あとで体験もありますので、その時に判断してみてください」
「は、はい! わかりました!」
 入会出来ると知っただけでちょっと喜びすぎかと思ったけど、いまさら軌道修正するのも不自然だ。だからこのまま行くことにした。前からこのクラブに憧れていたということにでもしよう。
 お尻、足とチェックは進んで、全部のチェックが終わったのか一端オーナーが私から離れる。
「問題ありませんね。それでは下着も全部脱いじゃってください」
「は、はい」
 私はオーナーに言われた通り、下着に指をかける。ストッキングを脱いで、ブラのホックを外す。一瞬だけ躊躇ってから、ブラジャーの紐を腕から抜いた。降りたたんんで椅子の上に置く。そして最後のショーツをズリおろし、ブラジャーと重ねておいておく。
 そしてオーナーに向き直った。オーナーはその目をかすかに見開いている。
「ほう……これは……」
 近づいてまた胸に手を伸ばす。柔らかな乳首を、指先が撫でるように触れた。乳輪をこするように指先が動く。
「ん……っ」
 思わず声がこぼれるのを、なんとか堪えた。
「別に声を上げても構いませんよ。……いや、気持ちよくなったら我慢せずに声をあげてください」
「えっ、でも……」
 躊躇う私に対し、オーナーの動きに迷いはなかった。
 いきなり乳首を摘まれて、思わず大きな声が出てしまう。
「はぅっ! ……っ!」
 顔が真っ赤になるのがわかる。オーナーは相変わらずの笑顔だった。
「感度も良好のようですね。色も綺麗なピンク色ですし……とても可愛らしいですよ」
 摘まれたせいでちょっと硬くなりかけている乳首を指先が執拗にすり潰す。
「あっ、やめっ、はぅっ、あぁ、あぅっ、ひゃぁっ」
「いい感じですね……さて、それでは次の箇所に移行しましょうか。肩幅以上に足を開いてください」
 快感の余韻に震えながら、オーナーに言われるまま、足を肩幅以上に開く。
 思わず手で隠しそうになるのをオーナーはやんわりと退けた。
「隠さなくて大丈夫ですよ。ここもさすが綺麗ですね」
「うっ……あ、ありがとうございます……」
 オーナーがまじまじとそこを見ている。単なるチェックのためだといっても、そんなにまじまじと見られると恥ずかしい。なぜか、見られているだけでも十分な快感が襲いかかってきた。
「くぅ、ぅ……」
 容易に噛み殺せるくらいの、ささやかな快感だったけど、『我慢せずに声をあげる』ように指示がでている。私は声をあげてしまった。オーナーが耳ざとくそれを聴き止めたのか、少し驚きを伴った目で私を見上げた。
「おや? 見られているだけで感じちゃったんですか?」
「うぅ……は、はい……」
 なんでこんなことを正直に答えなければならないのだろう。一瞬浮かんだ疑問は、『面接のため』という明確な理由によって解決した。
(そう……そうだ……これは面接……面接のため……だから……おかしくない……)
 ほとんど自己暗示のような気がしたけど、それが事実だから仕方ない。私は問題ないと念じ続けた。
 オーナーは私の秘部に手を伸ばし、親指で少し開いて中を眺めていた。
「うん……こっちも綺麗なものですね。きちんとセットもしてるみたいですし、全然使い込まれてないようですが……処女ですよね?」
「……! っ、まだ、そうです。経験はありません」
「なるほど」
 その事実を聴いたオーナーは何かを考えているようだった。何を考えているのかわからず、不安になる。
「まあいいでしょう。最後に肛門を見ますので、体を前に倒してください」
 背後に回り込みながらオーナーが言う。私はその言葉に驚きを禁じ得なかった。
「そ、そんなところまでチェックするんですか?」
「ある意味一番大事ですよ。排便は健康の元ですからね。ここに問題があるようだと、特別トレーニングを入れなければなりませんので……ちなみに、あなたは便秘気味だったりしますか?」
 面接の一環である以上、従う他ない。私は体を腰の辺りで折り曲げて、後ろに向かってお尻を突き出すような体勢を取った。オーナーの質問に答える。
「……便秘気味、とか、そんなことはない、と思います」
「ふむ。なら大丈夫でしょうかね……ああ、確かに便秘知らずのいい形をしていますね。毎日快便ってところですか」
 ある意味では女性器以上に人に見られたくないところを、まじまじと見られている。私はここが面接の場であることも忘れて、逃げ出したくなっていた。幸いそこのチェックは軽く見るだけで終わった。
「体を起こしてください」
 ほっと一息はいて体を起こす。それと同時に、後ろから抱きつかれた。
「ふえっ!?」
 思わず変な声が出たのは仕方ないと思う。
 オーナーは私の体を後ろからまさぐって来ていた。
「お、オーナーさん! 何をするんですか!」
 思わずそう叫ぶ。オーナーは逆に不思議そうな目で私をみた。
「何をって……チェックですよ?」
「ちぇ、チェック? 何の?」
「もちろん、感度のチェックですが」
 当然という調子で言われたので何を言われたのかよくわからなかった。
「か、感度? 感度のチェックが必要なんですか?」
 私が問うと、オーナーは悠々とした調子で頷く。
「もちろんです。当たり前じゃないですか。どれくらいの刺激でどのくらい濡れるのか、知っておかないといけないでしょう?」
「そ、そうですよね……すいません、ちょっと取り乱してしまって……」
 オーナーの言うとおり、のはずだ。
 感度のチェックなんて、クラブならして当たり前の、知っておかなければならないことだ。
 そのはずだ。
 私は自分自身をそうやって納得させた。
「では感度のチェックを続けますが……よろしいですね?」
 オーナーが再度確認してくれる。私は深く頷いた。
「はい、おねがいしま……っ、んぁっ」
 乳房全体を強く揉まれてさっそく声が出てしまう。指先で乳首を挟み込むように刺激を与えてきていて、そのテクニックに快感を刺激される。
「ふぁっ、あっ……!」
 声が出てしまう。出したくないのに、感じてしまうものだから出すしかなかった。私とオーナーしかいない部屋に私の喘ぎ声だけが響いている。
 そして、オーナーの指が私の秘部に触れた。思わず腰が逃げそうになるけど、オーナーに背後から抱き抱えられている状態では逃げるに逃げられない。
 オーナーは私の秘部に指を這わせる。そこはもうすっかり濡れていて、離れようとしたオーナーの指との間に糸を引くくらいだった。
「おお、これはなかなか……すごいですね。見てください。こんなに濡れてますよ」
「……いわ、ないでください……」
 恥ずかしい。自分が感じている証拠を見せつけられるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。チェックというものがこんなに恥ずかしいものだったなんて。
 オーナーは指先にこびりついたそれの臭いを嗅いでいた。益々私は死にたくなるくらいに恥ずかしくなる。
「そんなに恥ずかしがらなくても、とてもいい匂いですよ。愛液の質も大事ですからね」
 そうなのだろうか。
 オーナーがそういうのなら、そうなのだろう。
「あっ、ああっ、うぁっ」
 はっきりとした水音を響かせながら、私のそこをオーナーの指がかき回す。生じる大きな快感に私は声を上げてしまう。
 嬌声を響かせながら、私はオーナーの手で絶頂に導かれた。思わず足から力が抜けて、後ろのオーナーに寄りかかるような状態になってしまう。
「あぅ、あ、す、いませ……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。軽いですから。感度も十分だってことはよくわかりました。それじゃあ、最後にしましょう」
 まだ何かあるのか、と言葉にはしなかったけど、私はそう思う。
 オーナーは椅子の上に置いてあった下着を払いのけ、その椅子に腰掛ける。
「それでは、フェラチオとセックスがどの程度出来るかを見せてもらいます」
「え……?」
「ですから、フェラチオとセックスですよ。まだ処女とのことでしたが、どうやって男の人とセックスするか程度はわかるでしょう?」
 訳が分からない。どうしてそんなことまでしなければならないのかーーそう思った私は、次のオーナーの言葉に目を覚まさせられる。
「フェラチオの腕前の確認と、セックスの相性を確かめることなんてどんな形であれ、男女のつき合いをするのなら当然でしょう。そんな常識的な話をさせないで頂けますか?」
 そう、そんなことは当たり前のこと。私は慌てて頭を下げた。
「すいません! ちょっと、あの、混乱してて……」
 オーナーは私の謝罪に対し、悠然と応じる。
「まあチェックで疲れているでしょうからね。仕方ありません。とりあえず、まずはフェラチオの方から見せていただきましょうか」
「う……は、はい……」
 私は覚悟を決めて座っているオーナーの元に歩み寄った。開いた足の間に膝立ちでしゃがみ込み、オーナーが取り出した物を見つめる。
(こ、これが……男の人の……)
 これまで全く見たことがないわけじゃないけど、こんなにマジマジと見たことはない。それは同じ人間の体の一部とは思えないほど、グロテスクな印象を受けた。
「……し、失礼します」
 フェラチオ、という行為についても全く知らないわけじゃない。やったことはないけど。男の人のものをくわえて、舌などで刺激を与えて気持ちよくする行為ーーだったはずだ。
 知識としてしか知らない私がどこまで気持ちよくさせることが出来るのかはわからない。けれど、やるしかなかった。
(うー……こんなことなら、あらかじめ土居くんに頼んで練習しておけばよかった)
 初めてと、一回でも経験があるのとでは全く違う結果が出るだろう。
 私は大事な面接に一度も練習なしで望むような気分だった。
 オーナーのそれに恐る恐る手を触れさせ、思いがけない熱さに驚きながらも、何とかそれをそそり立たせることに成功する。あとはこれをくわえればいいだけ……なのだけど。何かが邪魔してなかなか動けなかった。
「どうされました?」
 笑顔でそう促してくるオーナー。私は意を決して、オーナーの物を口に含んだ。最初に感じたのは熱いということ。血流が集まっているのか、それは人体の中でもかなりの高熱を有していた。そして次に感じたのは生臭さ。見ていた時は綺麗なのかと思ったけど、やはりそこを完全に綺麗にするのは難しいのか、かすかに据えたアンモニアの匂いがした。
(ぐっ……)
 吐きそうになるのを懸命に堪えて、私は口を動かす。舌でアイスの棒を嘗めるみたいに、刺激を与えてみた。
「……っ、なかなかいい感じだ。けど、ちょっと浅いな。もっと口の奥まで入れてください」
 先端部分だけではだめだったようだ。オーナーの指示に従って私はその長細いものを口の奥まで受け入れる。喉の奥までそれが届きそうで、吐き気が少し強くなった。
「そんな感じです、そんな感じです……うーん、口の中は中々気持ちいいですよ。いい感じです。ほら、動いてください」
 私は喉の奥まで入り込ん出来ているオーナーのものを、先端から根本まできちんと刺激を与えた。経験のない人間の行動でどこまで気持ちよくなっているかはわからなかったけど、それなりにオーナーは気持ちよさそうな顔をしている。
「テクニックとしてはまだまだですが……その懸命な表情がいいですね。可愛いですよ」
 頭を撫でられる。誉められたこと自体は素直に嬉しかった。
「フェラチオはテクニックに改善点あり……ですが、とりあえずはOKです」
 オーナーの許可が出たので、私はオーナーの物から口をはなす。オーナーのそれは私の唾液で滑って光っていた。
「さて、あとは最後のセックスの相性を見ましょうか。私の体を跨いで挿入してください」
 するのが当たり前の行為。
 セックスの相性は見ておかなければならないこと。
 そう私も思っているのに、なぜか心のどこかで抵抗を感じていた。
(私……おかしいのかな)
 恐らく、おかしいのだろう。そうとしか思えない。オーナーの言うことは絶対正しいのだから、間違っているのは私のはずだ。
「早くしてくださいよ?」
「は、はい! ……失礼します!」
 私の処女はここで散る。これまで大事にしてきたはずのものが、ここで。
 どうしてこれまで大事に出来ていたんだろうか。私はそう不思議に思った。
 オーナーの膝の上に乗るような形で、私は腰を降ろしていく。オーナーの肩に手をおいて、位置取りをしっかりした。あとは腰を下ろすだけでオーナーの男性器が私のあそこを貫くだろう。
「…………!」
 私は意を決して、腰を落とした。
 体の中をそれが穿っていく確かな感触が生じる。それはわずかな抵抗をあっさり引き裂き、さらに奥へと進んでーー突き当たりにぶつかった。

 そして、私は頭の中が急に晴れ渡った。

「…………え?」
 抱いていた違和感や、疑問、おかしな感覚、全てがクリアになる。
「あ、あ? ああ……」
 自分の言動、オーナーの言動、不自然な納得。
「うそ……でしょ……?」
 裸の自分。椅子に座るオーナー。そそりたつ物に貫かれてる、自分。
「いっ……」
 口の中に残る臭い、あそこから感じる……鈍痛。
 全てに気づいて、わかって、正しく認識した瞬間。
「いやああああああああああああああっ!」
 私は金切り声をあげていた。
 大声によってオーナーは顔をしかめながらも、楽しげな笑みを浮かべている。
「おや、どうされました?」
 そのあまりにもいけしゃあしゃあとした態度に、私は憎悪すら覚えた。
「何がっ、あんたっ、私に何してっ、何をしたの!」
 心の底からの叫びに対しても、男は平然とした態度を崩さなかった。
「まあ、簡単に言えば洗脳って奴でしょうか。私としてはマインドコントロールという言い方の方が好みですが、まあ似たようなものです」
「まいんど、こんとろーる……?」
「ええ。人間の知識、常識、認識、人格……それらをイジって支配する。そう、いまあなたが実際そう行動していたように、本来ならあり得ない行為をさも当然の常識のように思わせることも出来る。意識的無意識的問わずね」
「……っ! どう、やって」
「企業秘密です」
 にやりと笑うオーナー。そうだ。この笑みもおかしかった。いかにも性的な目で見ていますと言わんばかりの目なのに……私はそれに違和感を抱けなかった。
 オーナーは続ける。
「あなたが新聞記者だということは最初から知っていました。このフィットネスクラブの秘密を探りに来たんでしょう? 確かに不自然なくらい急成長を遂げましたからね。謎のトレーニング方法を入手! とかやったらさぞかしいい記事になったことでしょう。でもね、公開させるわけにはいかないんですよ。なにせマインドコントロールを活用したダイエット法なわけですし。そりゃね、マインドコントロールして完璧な食事制限とか運動量の調整を行えば、痩せられないわけないですよね? 本人は無意識でやっていても、体には関係ないですし」
「……っ!」
「まあ、おかげさまでたくさんの女性が集まってくれますからね。こちらの真の目的も達成しやすいんですよ。長時間拘束していても不自然じゃないですし、いろんな年代を自然と集められますしね。ちなみにうちのクラブには特別クラスというのがありましてね。要は私のハーレムなわけですが」
「……最っ、低っ! そんなことをしないとーー」
 糾弾しようとした私を、オーナーはやんわりと押さえる。
「その手の糾弾は聞き飽きてますので結構です。あえて言うなら、それをして楽しむのに罪悪感なんて覚えない、という感じでしょうか。これを使わないと出来ないことを楽しむのが私の幸せですので。あいにくその手の糾弾は的外れなんですよ」
「こ、の……外道!」
「それも承知してます」
 その上でオーナーはその道を選んでいる。
 もはや何を言おうと無駄だった。
「さて、それでは次の面接の時間も迫っていますので、ちゃっちゃと動いてもらいましょうか」
「誰がっ! ……くっ、体が……っ!」
 私はすぐにでもオーナーのそれを抜いてしまいたかったけど、意志に反して体はぴくりとも動かなかった。これが洗脳の力なのかと改めて旋律する。
「体を動かす権利だけ奪うってことも出来るんですよ。だから無駄な抵抗はやめておいた方がいいですよ?」
 オーナーは楽しげに指示を出す。
「それでは、私が射精に至れるよう、がんばって動いてください」
「くっ、あぁっ、うぁっ」
 私の体は、腰を浮かせて、また落とすというピストン運動を始めた。悔しさで涙がにじむ。そんな表情がオーナーを楽しませるのだとわかっていてもーーにらみつけることしかできなかった。
 気持ちがどうであれ、刺激を与えられれば乳首が立つように、そのつもりで動いている体からは強い快感がわき上がってきていた。私はそれをただ享受することしかできない。
 私の体は私の意志に反して快感を限界まで受け取ろうとしているようだった。あそこからはどんどん愛液が溢れて、足下まで流れてもおかしくないくらいの勢いだ。それが潤滑油になって、動きが滑らかになり、余計に気持ち良くなってしまう。
 気持ち良くなんてなりたくないのに。
「中々いい動きですよ……っ、もっと腰を回すように動かすといいかもしれません」
 オーナーの勝手な言い分に、私の体は律儀に従う。それまでのピストン運動に加えて、軽く腰を回す動きを加えた。そのせいで突かれる場所が微妙に変わって、新たな快感が精神を襲ってくる。
「もう、いやぁ……」
 体が自由に動かない中で、訳が分からないまま快感を享受させられる苦しさに、情けない声が出る。
 すると、体の中に感じていたオーナーのものがさらに硬さを増すのがわかった。
「いまの……ずるいですよ……っ。そんな声出されたら……っ」
 余計に興奮するとでもいいたいのか、オーナーのものはさらなる硬さを持って私の体を抉ってくる。
 向こうからも動くようになって、与えられる快感はそれまでよりもさらに激しくなった。
「あっ、ああっ、あぁっ、うぁっ」
「もう……そろそろ……イキ、ますよ……っ」
 そのイクという意味がわからないほど、うぶじゃない。私は焦った。
「はぅっ、やめっ、やめてよ! あっ、中で、出さないでぇ!」
「そう言われて、出さないわけが、ないでしょうが……っ!」
 必死になってやめるように叫ぶ私を無視して、オーナーが私の体に命令を出す。
「強く、締め付けろっ」
「いや、いやああああああああ!」
 命令された途端、私のあそこが命令通り締まって、オーナーのものを締め付けるのがわかった。その形もはっきりとわかるようになってしまって、精神的には怖気と快感が同時に走る。
 そして、熱い何かが体の中で爆発した。
 熱いものが私の中に注がれていくのがわかる。そしてーー

 私はなんで叫んでいたのかわからなくなった。

 非常に強い嫌悪感と忌避感があったような気がするけど、それは霧散してしまっていた。そもそもそんな嫌悪感と忌避間を覚える理由がなかったので、私はなんでそれを抱いていたような気がしたのかが不思議だった。
 オーナーが満足そうな息を吐く。
「中々の身体ですね。とてもいいですよ」
「え? あ、ああ。ありがとうございます……」
 オーナーが私に身体の上から退くように指示を出す。私は言われた通りオーナーの上から退いた。立ってしばらくすると、身体の奥に注がれたものがじわりと流れ出てくる。そういえば今日は危険日だったような気がする。大丈夫かな、と少し不安になった。
 オーナーは立ち上がって着衣を整えながら、私に向けて言う。
「これで面接は終了です。あなたなら入会しても大丈夫でしょう」
「ほんとですか!」
 私は思わず笑顔を浮かべた。変わった面接だったけど、なんとかクリア出来たようでなによりだ。オーナーは優しげな笑みを浮かべている。
「ええ。来週から来てください。入会証などは後日ご自宅に送付しますので。今日は処理をしたあと、お帰りください。来週から男の人に喜ばれる女性になるために、がんばって行きましょう」
「はい! ありがとうございます! がんばります!」
 これでついにフィットネスクラブの内情を知ることが出来る。特ダネになりうる最高の裏事情を掴めるよう、気合いを入れ直した。
 どろりと流れる精液が太股まで垂れ落ちる。


 クラブに入った時と同じ格好に戻った私は、意気揚々と携帯電話を取り出した。そして、土居くんに電話をかける。
『もしもし? ずいぶん時間かかってたみたいッスね』
「ええ。遅くなってごめんなさい。それより聴いてちょうだい土居くん! 例のクラブに入会できそうよ!」
『それは……おめでとうございます、と言えばいいですか?』
 土居くんの気のない言葉に、私は不満を募らせる。
「なによその言い方。これで内情を探れるんだから感謝してよね。特ダネになるかもしれないのよ!」
『はいはい……で? 実際怪しそうなんですか?』
「んー、まだなんとも言えないわね。面接は別室で行われたし……ちらっと見学させてもらった限りでは、極普通のフィットネスクラブっぽかったわ」
『面接自体はどうだったんです?』
 その土居君の問いに、私は面接を思い返す。身体のチェックに始まり、最後に行ったフェラチオやセックスのテストを思い出す。
「そうね……別に変わったことはなかったわ。極普通のフィットネスクラブって感じ」
『そうですか……そのクラブ、ほんとに怪しいんですかね?』
「私の勘が怪しいって言ってるのよ?」
『だから信用できないんじゃないですか……はぁ。まあいいです。いや、もういいです』
「なんで言い直したの?」
『それより、まさかとは思いますけど、この電話ちゃんとクラブから離れてからしてるんですよね。そんなアホなことで潜入取材がばれるとか勘弁してくださいよ』
 土居くんは私をなんだと思っているのだろう。
「だいじょーぶだってば! そんな初歩的なミスしません!」
『以前その初歩的なミスをしたのは誰ですか……結果オーライだったから良かったものの、本来だったら減給ものですよ』
 全く、痛いところを的確についていくる人だ。実に生意気だった。
「とにかく! 大丈夫だから! じゃあ一端切るわよ! あ。そうだ、明日の取材の準備忘れないでね!」
 私は通話ボタンを押して土居くんとの通話を切る。

 そして、すぐ側にいるオーナーを見た。

「こんな感じで電話するつもりでしたけど」
 オーナーから「協力者にどう電話するのか見せてほしい」と言われて、私は快諾していた。その通りにいま目の前で通話をして見せたのだけど……なぜかオーナーは笑いを堪えていた。
「いや……うん、ありがとう。よくわかったよ」
「そんなにおもしろかったですか? まあ……確かにちょっと漫才コンビ入ってるとか先輩記者には言われますけど……」
 とうとうオーナーは噴き出してしまった。さすがにここまで笑われると少し恥ずかしい。もう少し控えるべきなのかもしれない。
 オーナーは咳払いをして、話を戻す。
「ところでわかっているとは思うけど……面接の内容は極一般的な内容と大差がなかったという認識でいること。詳しい内容を聞かれたら適当な内容をでっちあげること。本当の面接内容は決して口外しない。……わかってるね?」
 その確認を受けて私は頷く。
「わかってますよ。大丈夫です。誰にも言いません」
「うん、それならいいんだ。それじゃあ気をつけて帰ってください。また来週」
「はーい。ありがとうございましたー」
 オーナーはわざわざ入り口まで見送ってくれた。
 クラブの外に出た私はすがすがしい気持ちで大きく伸びをする。
「さてとー。それじゃあ帰ろうかな、っと」
 これで潜入取材が出来る。

 私は、必ずや裏を暴いてやろうという気概で満ちていた。




~マイ・コン 終~
 
 
 
 

Comment

No.1531 / ななし [#-] No Title

久々に光の影さんのMCモノが読めて面白かったです。
無理のない範囲で執筆頑張ってください。

2014-07/27 17:59 (Sun)

No.1532 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

ななしさん、コメントありがとうございます。

> 久々に光の影さんのMCモノが読めて面白かったです。
久しぶりすぎて申し訳ありません。
面白かったと言ってくださり、ありがとうございます。

> 無理のない範囲で執筆頑張ってください。
頑張ります!
む、無理はしないようにしながらも、とりあえず頑張ります!

それでは、どうもありがとうございました!

2014-07/27 23:50 (Sun)

No.1533 / 名無しさん [#-] No Title

いやあ、いいよね無意識マインドは
世界改変と似たジャンルで好きよ

2014-07/28 08:25 (Mon)

No.1534 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

コメントありがとうございます!

> いやあ、いいよね無意識マインドは
> 世界改変と似たジャンルで好きよ

ありがとうございます!
世界改変もまた書きたいネタなので、それと混同しないようにしたいものです。

それでは、どうもありがとうございました!

2014-07/29 00:04 (Tue)

No.1535 / [#] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2014-08/13 15:22 (Wed)

No.1536 / てばさき [#-]

今までで一番好みの雰囲気でした!
またこういうのを読みたいと思いました

2014-08/25 20:33 (Mon)

No.1537 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

てばさきさん、コメントありがとうございます。
返信が遅れて大変申し訳ありません!

> 今までで一番~
ありがとうございます! 一番好きと言ってくださると嬉しいです。
こんな感じの話……というか、この話の続きとかは一応考えてはいたりするんですが、書けるかどうかは色んな意味で未知数ですので……気長にお待ちくださると嬉しいです。

それでは、どうもありがとうございました!

2014-09/04 23:45 (Thu)

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