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死神輪舞:第四章

死神輪舞第四章





「まず、俺達は幽霊になったわけではないこと――これはわかるよな?」
 セイトはまずそう話を切り出した。
 他の人からも見えていること、触れられること、物を食べられること、それらを考えればシェルちゃんから話を聞かなくてもわかることだったので僕は頷く。
「俺は自分の葬式を見に行ったから、この世界がいわゆる死後の世界って奴じゃなく、生きていたころと同じ世界だっていうこともわかってる。つまり、俺達はどういうわけだか知らないが、生きていた時とは別の体で蘇ったってことだ」
 セイトは相変わらず僕の手を優しく握ったままだ。
 彼を騙していることに関する罪悪感は相変わらずあったけど、一方でセイトの体温は僕の心を癒してくれた。
「よくわからないのが死ぬ前に出てきた少女……それがいまの自分と同じ顔をしてたってことは、その少女がいまの状況に関わりがあることは確かだ。そして、少女が持っていた大鎌――俺の予想としては、その少女っていうのは死神に近いもんなんじゃねえかと思う」
 凄い。当たってる。
 死神らしい大鎌を持っていたからわかりやすいって言えばわかりやすい。
 でも、セイトは『死神』とは限定しなかった。
 慎重で、冷静な判断が出来ている証拠だ。恐ろしい人だ……。
「恐らく死んだ俺達の魂を回収か何かするために俺達の前に姿を現したんだろう。それがなんでこうなっているのかは俺にもわかんねえ」
 僕は胸中で密かに思った。
 きっとセイトも僕と同じように生きたい、と望んだのだろう。
 その結果、アルちゃんの体を乗っ取ってしまった……のだ。きっと。
(でも、頭の中でアルちゃんの声はしてない……みたいだね)
(聞いちゃダメよ。そんなこと訊いたら……)
(わかってるよ)
 僕は何も知らない、ということになっている。
 なのに『頭の中で誰かの声はしてる?』と聞いてしまったら、僕が元の体の主と会話出来ていることがセイトに知られてしまう。かなり頭が切れるセイトのこと、詳しいことはわからないかもしれないけど、不自然だとは思うだろう。
 黙っているしかなかった。
 セイトが再び口を開く。
「こうなった最初、俺は混乱した。裸だったしな。とにかく適当に服を着て……俺は自分の部屋を出た。これだけ姿が変わっちまってたら親に言っても無駄だし。息子の部屋に侵入してきた頭の変な奴だと思われるのがオチだろ?」
 自嘲気味に笑うセイト。
 その話から察するに、どうやらセイトは自分の部屋で死んだらしい。それで服には困らなかったんだろう。
 『お前はなぜ服を持っていたのか』と訊かれたら説明に困っただろうけど、幸いセイトはそこは触れなかった。
 きっと男たちに襲われた傷が疼くだろうと考えて、遠慮してくれたんだろう。
「それで外に出たんだが……正直、途方に暮れた。金もなかったし、頼れるような場所もなかったからな。……初めの二週間くらいが一番きつかった。色々苦しいことも経験したし……正直、その二週間の話はしたくないから勘弁してくれ」
 セイトがこちらを気遣ってくれているのに、僕が無神経に訊くわけにもいかない。僕は頷いた。
 訊かなくても……きっと、僕と同じようなことがあったのだと予想出来る。
「転機が訪れたのは力を求めた時だ。その時、俺は理不尽な扱いを受けていて……その相手を殺したいほどに憎んだ。だが今のこの体の腕力ではそいつに勝てなかったから、何でもいいから『力』を求めた。――まさにその瞬間だった。俺の頭の中に『力の使い方』が浮かんできたのは」
「……浮かんできた?」
 思わず零れた僕の呟きに、セイトは頷く。
「そう。あれはまさに浮かんできたとしか表現できねえな。どうすればその力を振るえるのか、はっきりとわかった。俺は頭で、というか、こう、空間に、だな。『大鎌』を思い浮かべた。出来る限り正確に、出来る限り本物っぽく。するとただのイメージだったのに実際にそこに大鎌が発生したんだ」
 それは確かに、死神の力……具現化のやり方だ。
 もしもセイトの話が本当なら、彼は本当に死神の力の使い方がわかったということになる。
「……そして、俺はその大鎌を使って憎いそいつを切った。すると……どういうわけか、そいつは死んだ。体が真っ二つになったわけじゃない。まるで……そうだな、糸が切れるように崩れ落ちて死んだんだ」
(きっと、魂を体から切り離してしまったんだわ)
 セイトの話を聞いて、頭の中でシェルちゃんがそう呟く声が聞こえた。
「切ったそいつの上には、ふわふわした光の玉みたいなもんが浮かんでて、どうもそれは人の魂って奴らしい。それも頭の中に浮かんできた情報だから、正しいのか間違ってるのかよくわかんねえけど」
 セイトはいままでずっと扉の横に直立不動で立っていたメイド服を着た女の人を指さした。そういえば、彼女は僕たちの話を聞いていたけど……構わないんだろうか?
「力を使えるようになった俺は、色々応用して力を試してみた。その過程で、上手い力の使い方を見出したんだ。その中の一つが――そこにいる玲奈にもしている『操作』だ」
 初めて聞く能力の名前に、僕は首を傾げる。
「『操作』って、なに?」
「ああ、名前は俺が勝手につけたんだが、簡単にいえば洗脳って奴だ」
 あっさり、セイトはその言葉を口にした。
 あまりにあっさりとしていたので、一瞬言葉の意味が掴めなかった。
「洗脳……?」
「そう。大鎌で切り離した魂は体に戻すことが出来る。だが、戻す前に魂に向かって命令を言っておくと、目覚めた後、その命令に従ってくれるようになるのさ。玲奈には『俺に従え』と、命令した。魂そのものに命令してるわけだから、玲奈は絶対その命令に歯向かうことが出来ないって理屈だと思う。そもそも歯向かおうっていう気も起らないハズだ」
 そんな。
「そんなこと…………っ」
 してもいいと思っているのか。
 彼女には彼女の意思があり、それは絶対に尊重されるべきだ。
 それを異常な方法で捻じ曲げるなんて、しちゃいけない。
 そう抗議しようと口を開きかけたが、それを先読みしたのか、セイトが僕より先に口を開く。

「そいつは、死のうとしていた」

 思わず、出しかけていた言葉を飲み込む。
 死のうとしていた?
「俺が当時根城にしていたビルの屋上から飛び降りようとしていた。最初は、俺も止めようとしたさ。何か深刻な理由があるのだろうってな。だけど――理由を聞かされて、俺は玲奈に同情する気をなくした」
 セイトはまるで親の仇を見るかのような、怒りに満ちた目で玲奈さんを睨んでいる。
「借金がかさんでとか、生活が苦しくなってとか、あるいは失恋してとかいう理由でもねえ。……ただ『生きることに飽きたから死ぬ』――玲奈は、そこのクズは、そう鬱陶しそうに言いやがったんだ!! 助けようとした俺に対して!」
 激昂するセイト。かなりの大声だったけど、玲奈さんはこちらに目の焦点を合わせなかった。待機を命じられているからだろう。
 セイトの気持ちは僕には痛いほどよくわかる。
 死神の体を乗っ取るほど強く『生きたい』と思った僕ら。
 セイトの死の状況はよくわからないけど、きっと理不尽な死だったのだろう。
 理を変えてでも、『生きたい』と願うほど。
 だから、許せない。
 生きるのに飽きたから、なんていう理由で死を選んだ彼女が。
 まだまだ二十歳代くらいで若そうなのに、生きるのに飽きたなんて口にする彼女が。
 絶対に、許せない。
「どうせ捨てようとしていた命だ。俺が有効的に使ったって文句はねえだろ」
 吐き捨てるようにしてセイトはそう言った。
 僕は頷きはしなかったけど――首を横に振ることも出来なかった。
「まあ、とにかく……説明は大体これくらいでしいだろ。今日はもう休め。身体の方も辛いんじゃねえか? 俺達の体は結構頑丈に、タフに出来てるみたいだけど、疲労がないってわけじゃないだろ?」
 ひとしきり怒りを吐き出し続けた星斗は、少しばつが悪そうに言った。
 感情のままに怒鳴ったことを恥ずかしく思っているらしい。
「この部屋はお前が使え。俺は隣の部屋で寝てるから、何かあったら来い。次に起きたら他の質問にも答えてやるから」
 じゃあな、と一方的に星斗は言い残し、部屋から出て言った。
 玲奈さんもそれに従って外に出ていく。
 部屋の中には僕一人が残された。
 とりあえず再びベッドに寝転がりながら、頭の中のシェルちゃんに声をかける。
(……ねえ、シェルちゃん)
(なに?)
(どう思う?)
 寝る場所が確保できたのはいい。
 とりあえず真夜中に出歩いて、また暴漢に襲われる危険はなくなった。
 けど。
(星斗は……死神の体を乗っ取って、おまけに死神の力を勝手に使用してるよね。これって、死神の基準でいうと、やっぱり罪でしょう?)
(もちろんよ。許されることではないわ)
(だよねえ……)
 かくいう僕もコルドガルドさんと別れるとき、『逃げたり死神の力をむやみに使ったりしたら地獄に落とす』と言われている。
 そうなると間違いなく星斗は地獄行きだろう。
 死神の力を使って洗脳までしちゃってるし……。
(……でも、シェルちゃん。僕には、星斗がそんなに悪い奴には見えないよ)
 暴漢に襲われ、倒れていた僕を彼は助けてくれた。優しい言葉をかけてくれた。
 玲奈さんに対する洗脳など、やっていることは確かに悪いことだけど、彼が根っからの悪人だとは思えない。
 そんな彼が地獄行きっていうのは……なんて言えばいいんだろう。悲しい、でもなくて、可哀想って感じでもなくて……とにかく胸の中がもやもやする。
 僕が葛藤しているのに対して、シェルちゃんは素っ気なくこう言った。
(私としてはどっちでもいいわ。悪人であろうと、善人であろうと、アルミールアルミーナの体を奪っていることに変わりはないもの。体が動かせるのなら、いますぐにでもあの魂をアルミールアルミーナからはぎ取りたいくらいよ)
(…………そっか)
 まあ、シェルちゃんの立場にしてみればそうなのかもしれないな。
 僕はどっちも知らなかったから、実際に話した星斗の方に情があるけど、シェルちゃんにとってはアルちゃんは友達なんだから。
(このまま、何事もなく数日を過ごせばコルドガルドさんに見つけてもらえるだろうし……そうするしかないかな)
(……危険はあるわよ)
(どういう意味?)
(あなたねぇ……さっき見ず知らずの人間達にあんなことされたくせに、なんであいつを信じてるのよ。あの男が、自分に対しては酷いことをしないってなんで確信できるの? あの人間達と同じようなことをしてくるかもしれないって、なんで考えないの?)
(星斗はそんな酷い奴じゃないよ)
 むしろ僕を助けてくれた。
 シェルちゃんはあきれた口調で言う。
(人に対して洗脳、なんてことをしてるのに?)
 馬鹿にするような声だった。
 ……確かにシェルちゃんの言う通りかもしれない。
 その洗脳されている玲奈さんの事情が事情だから玲奈さんに同情する気はないけど、星斗が玲奈さんにやっていることは間違いなく悪だ。
 確かに助けはしてくれたけど、これから星斗が僕に対して酷いことをしないという保証はない。
(でも……なんでだろ。僕は星斗がそんなことはしないって気がするんだ)
 絶対呆れられるだろうな、と思いつつ言った言葉だったけど、本当に呆れられた。
 頭の中で、シェルちゃんが深く溜め息を吐くのが聞こえてくる。
(ほんと、馬鹿ね……)
 そう思われても仕方ない。
 シェルちゃんはそれ以降、沈黙してしまった。
 完全に静かになると眠くなってくる。やっぱり身体に疲労が溜まっていたようだ。
 あっという間に、僕は眠りに落ちた。


 目が覚めると、美味しそうな匂いが隣室から流れてきていた。
 まだ眠気が残る目を擦りながらベッドから降り、そちらの部屋に移動する。
 そこでは星斗が広いテーブルについて朝食を取っているところだった。
 僕の姿を認めた星斗は、見ているこっちが元気になれるような快活な笑顔を浮かべた。大人しそうな外見にその笑顔はどちらかといえば似合っていなかったけど。
 でもそんなことは気にならなくなるくらい、気持ちのいい笑顔だった。
「おはよう、亮。よく眠れたか?」
「あ、おはよう。うん、眠れたよ。ありがとう」
「おい、玲奈。さっさと亮の分も朝食を用意しろ」
 背後に控えていた玲奈さんに星斗が命令する。
 玲奈さんは恭しく頷いた。
「かしこまりました。亮さん、そちらの席についてお待ちください」
「あ、どうも……」
 今更だけど、凄くなんていうおか、整った身のこなしだよね……。一部の隙もないっていうのかな。
 彼女は元々メイドか何かだったんだろうか? こんなに完璧な動作が出来るんだから、そうであった方が自然のように思える。
 気になって星斗に訊いてみたら、意外にもそうではないという返事が返ってきた。
「洗脳状態で何かを学ばせると、通常よりも覚えがいいみたいだ。ある意味当然だな。集中力が半端ないんだから。誰だって魂の全力を傾ければ、このくらいのことは軽くやってのけるってわけだ」
 そういうものなのか。
 ……そうかもしれない。
 なんだかんだで、普通は色んなものに気が散っちゃって一つのことに集中できることって稀だし……。
 要するに、スポーツ選手が持つスポーツへの情熱をそのことに対してもてるってことだもんね。
 朝食は典型的な洋風だった。パン食。品の良いそれらの料理はどれも絶品で、洗脳の凄さを改めてしった。
 僕がそれらを感激しながら食べ終わると、それを待っていたかのように星斗が口を開いた。
「ところで亮。お前はこれからどうする?」
「どうするって……」
「行くところ、ないだろ? お前さえよければ、そっちの部屋を使ってくれていいぞ。同類同士、仲良くやろうぜ」
 楽しそうな笑顔を浮かべてそんなことを言う星斗。僕はちょっと迷った。
 と言っても選択肢はないに等しいのだけど、昨日シェルちゃんに言われたことが頭の片隅に引っかかっていたのだ。
 星斗はそんなことをしなさそうに見えるけど……本当に彼が悪人で、昨日暴漢達にされたようなことをされたら……って、星斗も女の子の体なんだからそれはないか。
 洗脳、とかは……するならもうとっくにしてるよね。寝ている間とか、無防備な瞬間はいくらでもあった。
 ここは星斗を信じて頼るしかない、かな……。
「じゃあ……悪いけど、お願いできる……?」
 おずおず、と言ってみた僕に対し、星斗は体の外見と似合わない軽い手つきで僕の懇願を受け入れる。
「あたりめーだ。俺から言い出してることなんだから、悪いなんてこたぁねえよ。言ったろ? 同じ境遇の同類同士、仲良くやろうってよ」
 からからと笑う星斗は、不意に真面目な顔になって僕の方に身を乗り出してきた。
「んじゃあ、さっそくだけどよ。服でも買いにいかねえか?」
「服?」
 急に出てきた単語に、僕は首を傾げる。
 星斗は大まじめに頷いた。
「ああ。せっかく可愛い顔してんのに、ダサい格好じゃなんだろ? こんな姿なんだから、着飾るのが楽しーぜ? な、行こうぜ」
 そこで星斗はにやり、という擬音がぴったり合う笑い方をする。
 それはどこか愛嬌のある顔で、僕に対する親愛の情が無条件に感じられる笑顔だった。
 出会ってから一日も経っていないであろう僕に対して、なんでそんな顔を浮かべられるのかわからない。
(これが演技だったら……? あり得ないよ)
 心の底からこちらに対して親しみを感じているようだ。でも、なんで?

 訳がわからないまま、僕は彼と一緒に、街へ買い物に出ることになってしまった。




 
 死神。
 そんなものは幻想小説やら最近の漫画やらでしかありえないと思っていた。
 でも、俺が車に跳ねられて死にかけた――いや本当に死んだその時、僕の前に死神が現れた。

 その手に大きな鎌を携えて。

 よくある骸骨のような外見ではなく、人と変わらない姿だった――むしろ可愛らしいと表現できる――女の子の姿をしていた。
 死にたくなかった僕は必死に抵抗を試みて――何故か彼女と同化してしまうと言う事態に陥った。
 しかも僕の方が体の主導権を握っている。
 でも何の力も持たなかった僕はたちの悪い不良に絡まれ――犯された。
 そんな僕を拾ってくれたのは、僕と同じように死神と同化した一人の少年。

 星斗。

 死神の力を扱いこなし、人を洗脳することもやっているから、ちょっと恐ろしいけど。
 でも同じ境遇の僕に仲間意識を感じているのか、親しげに接してくれている。
 そしていま、僕は星斗と一緒に街のショッピングモールにやって来ていた。





 賑やかな喧騒が流れている中、一際楽しげな声が上がる。
「亮! どうよこれ! このパーカー、お前に似合うと思うぜ!」
 快活な笑顔と共に突き出された服は、動きやすそうなフード付きのパーカーだった。
 確かに形状と言い、色合いといい、僕に――正確にはこの体はシェルちゃんのなんだけど――似合いそうだった。
「あ、うん。ほんとだね。……でも、さ。あの、星斗。もうちょっと静かに……」
 高い声で大きな声を出されると凄く良く響くのだ。
 その上、星斗の言葉遣いがよくない。
 今の星斗は外見的には物静かな美少女なのだ。
 それが酷く男勝りな喋り方をしていると、違和感どころの話ではない。
 もっとも、星斗本人は周りに与える影響など微塵も気にならないらしい。
「んなこと気にすんなって。亮は気にしすぎなんだよ」
「せ、星斗は気にしなさすぎだよ!」
 さっきから周囲の人が怪訝そうな顔で星斗を見てるのに、本人はまるで気にする素振りを見せない。
 度胸があるというか、図太いというべきか……間違いなく後者だ。
 むしろ傍にいるこっちが恥ずかしい。
 僕の気持ちなんて知らないという風に星斗は次の服に手を伸ばす。
「今時ミニスカってのはいまいちだが、これくらいの長さなら適度じゃねえ? 試着して見ろよ!」
 快活に笑う星斗。言葉遣いを改めるつもりはないらしい。
 僕は深くため息を吐いた。




「いやー、大分買ったな」
 ハイテンションな星斗に振り回され疲れきった僕は、休憩を提案した。
 星斗はまだまだ元気そうだったけど、嵩張るようになってきた荷物を纏めるのも兼ねて休息を取ることに賛成してくれた。
 ショッピングモールの適当な位置に置かれたベンチで休息を取ることになった僕らは、大量に買い込んだ服を抱えて座り込む。
 僕は取っ替え引っ替え試着させられた肉体的なものと、気苦労などの精神的なもので疲れ果てていたけど、星斗の方はまだまだ元気そう。
「中々いい買い物が出来たなー。もうちょっとあの店では粘りたかったけど、ま、初めてだし、十分か。またいこーぜ」
 にっ、という擬音が聞こえてきそうなほど快活な笑顔を浮かべている。
 その笑顔は儚げな印象を与える体には合っていなかった。けど――その笑顔はどこまでもたのしそうで。
 思わずこっちまで楽しくなってくるような、そんな感じだった。
 どうして星斗はこんなにも楽しそうなんだろう?
 ホテルで目が覚めた時には、もう少し冷静そうというか、落ち着いた印象を受けたのに。
「次はアクセでも見に行くか? イヤリングとかネックレスとか、見てるだけでも楽しいぜ? それから……俺が見つけた穴場のレストランで何か食うか。お前も腹減っただろ――」
 疑問を言葉にはしなかったけど、思わず不思議そうな顔を向けてしまっていたらしく、星斗が一瞬こちらを見て苦笑いを浮かべた。
「あー、悪い。俺、はしゃぎ過ぎだよな。ついてけねえだろ」
「いや……別にそんな……」
 咄嗟に否定しようとした僕を、星斗は手を掲げることで遮る。
「自覚はあるからフォローしてくれなくていい。わりいな、テンション上げすぎで……」
「……えっと」
 言葉に詰まる僕から星斗は目線をずらし、ほとんど独り言のように呟いた。
「こんな風に誰かと一緒に出掛けたりするのって初めてでさ……楽しくって、つい、な」
「初めて?」
 何故か妙にその言葉が気になった。
 鸚鵡返しに言葉を返すと、星斗は軽く頷く。
 そして星斗はどこか空虚な表情で言う。

「俺さ――生まれつきの病気で死んだんだよ」

 その言葉を聞いて――僕は絶句して何も言えなくなった。
 そんな僕に構わず、星斗は続ける。
「ま、そういうわけで学校にも行ったことないし、病院から外に出ることもなかったな。金ばっかかかって親には疎まれてたし……生きていたころにあったいいことってのが全然思いつかねえ」
 だから、なのだろうか。
「死んでから言うのも何なんだが――今の方がよっぽど楽しいし生きてるって感じがするぜ。同じ境遇にいるお前にも知り合えたしな」
 誰にも必要とされず、死んでしまった星斗。
 だから、死神の体を奪い取るほど、生きたいと願ったのだろうか。
 だから――同じ境遇にいる僕に、優しくしてくれるのだろうか。
「…………星斗」
「わりいな。つまんねえ話をしちまって。気にしないでくれ。さっ、そろそろ次の店に行こうぜ、亮!」
 話はそれで終わり、というように星斗は立ち上がって歩き出した。
 歩き出す星斗の後を慌てて追いかけながら――僕はどうするべきかわからなくなっていた。
「……そうだ」
 数歩先に行った星斗がこちらを振り向き、にかっと笑う。

「いまさらだけどさ、亮。俺と友達になってくれないか?」




第五章に続く

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