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死神輪舞:第三章

死神輪舞:第三章





 男たちに追いつかれた僕は、さっきぶつかったリーダーらしき男に腕を掴まれ、無理やり立たされた。
 掴まれているところが痛い。
「おい、こら。いきなり逃げるたあ、舐めた真似をしてくれんじゃねえか」
 不良です、と自ら言っているようなドスの効いた声。
 僕は思わず体を縮ませた。
「ご、ごめんなさい!」
 嫌な笑みを浮かべた取り巻きの一人が、口を開く。
「へっへっへ。馬鹿な女だぜ。さっきの道をまっすぐ行ってたら、ポリ公に助けてもらえたのになあ?」
「つーか、交番に気づいていながらわざわざ横道に逸れたって感じだったぞ? こんな人気のないところによ」
「誘ってんのか?」
「いや、俺はなんか訳ありで警察に助けを求められないんじゃないかと思う」
「確かにそりゃ言えてるかもな」
「家出か何かか? いずれにせよ、何をやっても警察に通報されることはないってことか?」
 なんで不良のくせにそんな理路整然と物事を考えてるんだよ!!
 さ、最悪だ……隙をみて逃げだそうと考えてたのに、隙がないし……。
 腕を掴んでいた男が、僕の顎に手をかけて無理やり上を向かせる。
 近距離から覗きこまれる。か、顔が近い。強面だから正直怖い。
「……よくみりゃ、可愛い顔してんじゃねえか。こりゃ、楽しめそうだぜ」
「い、嫌っ」
 ぐいっ、と腕を引かれる。抵抗しようとしたけど、力の差は明らかだ。
「叫んだらおまわりが来ちまうぜ?」
 そう言われ、思わず口をつぐんでしまう。
 しかし、考えてみたらとにかく警察に彼らから保護してもらえば、その後警察から逃げるのは簡単だということに気づいた。まさか警察が縛り付けて捕まえるなんてことはしないだろうから、逃げるチャンスはその方が多い。
 そう考え、改めて叫ぼうと口を開いたけど――。
「おっと」
 一歩遅かった。取り巻きの一人に口を押さえられる。
「んーっ!」
「もうちょっと奥いくぞ。そこなら人は先ず来ない」
 路地裏の暗がりに引き込まれていく。
(ちょっと! なんとかしなさいよ!)
 頭の中で、焦ったシェルちゃんの声が響く。
(無茶を言うなよ! そっちこそ、何とかしてよ! 移動魔法は地面に魔法陣を描けばいいんでしょ!?)
 動きが止まればいけるはずだ。
(そ、それはそうだけど……移動魔法は魔法陣の上に乗っている対象を転送するから……)
 一緒に男たちまで転送しちゃうってこと!? 意味ないじゃん!
 だ、大ピンチだ。打つ手がない。
 僕とシェルちゃんが頭の中でそんなやり取りをしている間に、体は完全に裏路地に引き込まれた。
 表通りからは決して見えない位置だ。悲鳴も表通りには届かないかもしれない。
「んじゃまあ、さっそく楽しませてもらうか」
 腕を取られたまま、足払いをかけられて、僕は地面に転がった。
 そして、片手で僕の両手を押さえたリーダーは、空いた手で服を引き裂き始める。
「やめ、やめてよ!!」
 なんとか逃れようと足をばたつかせて暴れる。
 リーダーが取り巻きに指示を出した。
「おい、足を押さえとけうっとおしい」
「へい!」
 一人の取り巻きが暴れる僕の足を器用に受け止め、そのまま地面に押さえつける。
 身体をくねらせ、なんとか逃れようとするが、男と女の腕力の差は歴然で、びくともしない。
(やああああああああ!! 逃げてよ!! 早く!!)
(無茶言うなよ!! とても、じゃないけど、こっの、状態じゃあ……!)
 全力を込めて拘束を解こうとしても、叶わない。
 ビリビリ、という音がして、上の服が破かれた。
 ブラジャー(着るときにはコルドガルドさんに手を貸してもらった)が晒される。
 ひゅう、と取り巻きの一人が口笛を吹いた。
「結構いい胸してるんじゃないすか? めちゃくちゃ白い肌……いい感じじゃないすか」
「ああ、結構な上玉だ。ほれ、鬱陶しいもんは全部取っちまいな」
 ブチブチッ、という音が響き、ブラジャーが剥ぎ取られる。
「ひっ」
「綺麗な乳首だ……それほど使い込んではないようだな」
 言いながらリーダーがその乳首を指先で押しつぶす。
 ものすごく痛かった。体がびくんっ、と跳ねる。
「いっ! や、やめてよ! 放して!!」
 もちろん、男たちが聞き入れるはずがない。
 ここまでの状態になった以上、最後まで行くはずだ。
 頭の中で、シェルちゃんはほとんど恐慌状態になっていた。
(死神だから……こんな経験、全然なかっただろうしな……)
 僕がまだ頭の中では冷静でいられているのは、元男で犯される恐怖というものがいまいちわからないからだろう。
 しかし頭の中にいるシェルちゃんの感情は伝わってきて、その不安と恐怖がじわりじわりと僕にも伝わってきていた。
「おい、誰か手を押さえろ」
 リーダーがまとめて握っていた僕の腕を示す。
 すかさず取り巻きの一人が代わり、手を押さえつけた。万歳のような格好で、僕は身動きが取れなくなる。
 裸の胸が無防備に揺れて、かなり恥ずかしい。
 いや、恥ずかしいと感じているのはシェルちゃんか? いや、僕か?
 いままでは比較的シェルちゃんが冷静だった――イソギンチャクの時は僕もかなり狼狽していた――からわからなかったけど、どうやら彼女の感情は僕の心にも影響を与えるようなのだ。
 特に言葉で言い表せない感情などは伝わりやすくなっている。
 いまも、声にならないシェルちゃんの恐怖心がよくわかってしまう。
 そのせいで余計に気が焦り、上手く考えを纏めることが出来なかった。
 リーダーは下のスカートのホックを外し、そのあとは力で腰からそのスカートを剥ぎ取ってしまう。
 ショーツが丸見えだ。男たちの顔が不気味に歪む。
「これも邪魔だな」
 力づくで引き千切られるショーツ。
 僕は体に服の切れ端を纏わりつかせているだけの、酷く卑猥な格好になってしまった。
 これでは逃げたとしても人目のつくところに出られない。いや、服は具現化すればいいのか……って、そうじゃなくて! それ以前に逃げられないんだ! まずい、頭が混乱してきた。
 なんとか自由になる体を暴れさせるけど、胴体くらいしか押さえられていないところはない。
「おー、腰が跳ねまわる動きが誘ってるみたいだぜ」
「そんなに早くヤってほしいのか?」
 リーダーが自分のズボンを脱ごうとしていた。
「いいんすかアニキ? 前菜もなしで入れちゃって」
「痛いのは俺じゃねえしな」
 最低だお前ら!!
 そう怒鳴ってやりたいけど、そこまで神経を逆なでするようなことをいったら殺されてしまいそうで、なんとも言えなかった。
 これはシェルちゃんが感じている恐怖か、それとも僕自身が感じているのか……とにかく、歯が上手く噛み合わなくなってガチガチと音を立てる。
「い、いやっ…………」
 本能的な恐怖――それが僕にも生じたのか、頭の中が恐ろしさと何か嫌な気持ちで一杯になった。
 ずるり、とリーダーのズボンの中から何か得体のしれないものが出てくる。
「それじゃあ、いただきまーす」
 下品な笑いを浮かべた男が、無理やり開かされた股の間に入ってくる。
 なにか生暖かいものが股間に添えられる気配がした。
「いっ……んんっ……!」
 叫ぼうとした口を、誰かが塞ぐ。
「黙ってろ」
 そして。

 股間から、激痛が走った。

 ずん、とそこから頭の先までを貫くような衝撃。
「んん――ッッッ!!!」
 あまりの痛みに、体を動かせる範囲で動かし、痛みを分散させることを試みる。
「はははっ! なかなかいい動きだ。気持ちいいぞ!」
 どうやら僕の抵抗は相手にとっては心地よい刺激にしかならないようだった。
 意味がないとはわかっていても、体が動くのが止められない。
 身体の中に何か棒状の物が突き刺さっているような感覚は、本来ならあり得ない感覚で、吐き気がした。
 やがて、いやらしい笑みを浮かべていたリーダーが驚いたような顔に変わる。
「なんだあ? こいつ、処女だったのか?」
 接合部から流れ出る鮮血を見たようだ。
「うわー、そりゃおいしいっすねアニキ!」
「ラッキーじゃないですか。最近の奴らは皆さっさと男と寝ているもんだと思ってましたが……」
 何がらおいしいだ! 何がラッキーだ!
 悔しい。
 こんな奴らにシェルちゃんの初めてを奪われたのも悔しいけど、こんな風に自分のことしか考えてないこんな奴らがいるなんて。
 腹立たしい。
 こんな奴らがのうのうと生きているなんて。
 僕は……死んだのに。
「ほれ!」
「んうっ!!」
 リーダーが突き込んでくる度に生じる激痛に悶える。
 突き込まれるたびにそこからぐちゃぐちゃと音がして、そんな場合ではないと思いつつも――その音はとてもいやらしく感じられた。

 リーダーによって処女を奪われた後も、凌辱は続いた。

「んっ……むぅ……」
 取り巻きの一人に、口にあれを無理やり入れられて、舐めるように言われた。
 いわゆるフェチラオ、という行為を強制されて、嫌悪感で泣きそうになる。
 相変わらずあそこからは注ぎ込まれた大量の精液が流れ出ている。その上、まだ入れてきて執拗に突かれ続けた。
 身体にも精液はかけられ、べとべとして気持ちが悪い。
 レイプされる心境というのは、人間としての尊厳を踏みにじられ、物のように扱われているのと同じだった。
 彼らは中身が何であれ関係がない。
 僕であろうと、シェルちゃんであろうと、とりあえず入れられて吐き出せればなんだって。
 それが悲しくて、悔しくて、腹立たしくて。
 シェルちゃんにも弄られている体の感覚は伝わっているらしく、少し前から泣きながら何かに耐えているような呻き声しかしなくなっていた。
 それから一時間――いや、もっとか。途中から時間間隔がわからなくなって、正確な時間はわからなかった――後、ようやく飽きたのか男たちが僕から離れた。
「そろそろ行くか。十分楽しんだしな」
 汚い裏路地の地面に転がされた僕は、体中が痛くて、気持ち悪くて、ようやくそれが終わるのだという想いしかなかった。
「始末しとかなくていいんすかね?」
「さすがに殺しはやばいだろ。ほっとけばいいって」
「じゃあな、楽しかったぜ」
 げらげらと品無く笑いながら、男たちが去っていく。
 静かになって暫くして、僕は身を起こした。
 その拍子に口の中に注ぎ込まれた精液がこぼれおちて、なぜか笑えてしまう。
 びりびりに破かれた衣服は当然修復不可能で、裸のまま、壁にもたれかかる。
 さんざんいたぶられたあそこが痛かったし、言いように揉まれ、摘ままれ、引っ張られた乳房も痛かった。
 頭はぼんやりとしていたし、なんかもう気力がなくなってしまっていた。
(……何にもならない死に方をして、死神と同化したと思ったら今度はレイプされて……ははっ)
 シェルちゃんも、僕なんかが同化しなければ、こんな目には合わずに済んだだろうに。
 頭の中のシェルちゃんの声はもうしなくなっていた。
 前じゃない、後ろの方に入れられた時にあげた悲鳴が途切れるようにして消えて、それっきりだった。
(なんのために僕は……)
 僕の存在は邪魔なのか。
 死にたくないと思った僕の願いは間違っていたのだろうか。
 ……確実に間違っていたんだろう。
 シェルちゃんに大鎌を突き付けられたとき、瀕死ではなくすでに僕は死んでいたのだ。
 それなのに『生きたい』と願うなんて、矛盾にもほどがある。
 これはその矛盾に対する罰なのかもしれない。
(……はは、はははははは。もう、いいや……)
 天国に行けるはずだから成仏してほしい、と言ってくれたシェルちゃんをこんな目に合わせたのは、僕自身だ。
 シェルちゃんに言われた時に、きちんと成仏しておけば……彼女をこんな目に合わせることはなかった。
(……この体から、出たい)
 せめて、これ以上の苦痛が訪れないうちに返してあげたい。たぶん俺が出ればシェルちゃんは霊体に戻れるはず。
 『生きたい』と思ったのと同じくらいの気持ちで、『この体をシェルちゃんに返してあげたい』と思った。

 だけど。

 シェルちゃんの体から、抜け出ることは出来なかった。
 僕と言う呪縛からシェルちゃんを解放してあげることさえできない。
 なんて、無様。
 喉の奥から笑い声があふれてくる。
 自分の情けなさ、馬鹿馬鹿しい生への執着、いまだにこの体にしがみ付き続ける無様さ――。
 全てが可笑しかった。
「……あははっ、ははははははっ、あははは、あははははははっ」
 小さな笑い声が裏路地に響く。
 その時。
 何か小さな黒い影が目の前に降り立った。
 笑うことをやめ、目を細める。
(……なんだ?)
 小さい影は、僕の方に恐る恐る、といった様子で近づいてきた。自分からは異様な匂いが発せられているだろうから、警戒しているのだろう。
 それは、一匹の黒猫。
「……きみ……は……」
 僕が助けようとして、結局助けられなかった猫じゃないか。よく耳を澄ませてみれば足音がしない。霊体なのだろう。
 いつのまにかいなくなっていたから、成仏したのかと思っていたけど……。
 お前にも、結局僕はなにも出来なかったな……。
 手を伸ばして触れようとすると、黒猫は一瞬身体を引いたけど、すぐに擦り寄ってきた。
 ぺろぺろ、と差し出した指先が舐められる。
 その舌使いはとても優しくて、強張っていた体中の力が抜けるような感じがした。
 人間よりも動物の方がよほど優しい。
 自分勝手な男たちにレイプされた後だと、一層そう思えた。
 気が抜けたからだろうか、急に視界が霞んでくる。
 意識が完全に途切れる瞬間――誰かが僕の前に立った気がした。




 気が付いたら、僕はどこかの部屋にいた。
 そこはかなり広い一室で、どことなく豪華なホテルを思わせる。
 僕はかなり広いベッドに寝かされているようだった。
 一瞬自分がどこにいるのかわからず、呆然とする。
(……夢でも見てるのか?)
 でも、体の感触は本物だ。夢ではないように思われる。
「……?」
「目が覚めましたか?」
 突然声をかけられて、驚いた。
 ずっといたんだろうか――気配を感じなかったけど――ベッドの脇に、マンガやアニメでくらいしか見たことがない、メイド服を身に付けた女の人が立っていた。
 綺麗な顔立ちをした人だった。
 その人は僕に向かって軽く頭をさげると、よくわからないことを言い出す。
「主にあなたが目覚めたことを伝えてまいります。少々お待ちください」
 僕が何か口にするより早く、その人は部屋から出て行ってしまう。
 何なんだろう、訳がわからなかった。
 その時、体にかけられていた布団の中で、何かが動く気配がした。
 どうやら自分はバスローブのようなものを身につけさせられているらしい。それはともかく、脇腹辺りで蠢く何かを確かめるために布団をのけてみた。
 例の黒猫が、丸くなった状態でそこにいた。
 恐る恐る触れてみると、柔らかい毛の肌触りが心地よかった。
 なんとなく穏やかな気持ちになって、僕は猫の体を撫でる。
 そうしていて、ふと思った。
 この猫はあの時僕と一緒に死んだはずで、ここにいる猫は霊体のはずだ。
 それなら、生身の体になっている僕が触れられるのはおかしくないだろうか?
 こんなリアルな感触、気のせいではありえない。
 よくわからない事柄がまた増えて、僕は混乱しっぱなしだった。
「…………そうだっ」
(シェルちゃん! シェルちゃん!)
 彼女のことを思い出した僕は慌てて呼びかける。シェルちゃんの精神が不安だった。
 まさか消滅した……なんてことはないだろうけど。全く呼びかけに応答がないと最悪の可能性が頭をよぎり、不安になる。
 しつこく呼びかけ続ける。返答は、ない。
(まさか……本当に……?)
 僕がその可能性に青ざめた時、ガチャリ、とドアノブが回る音がした。
 その音につられてドアの方を見ると、さっきのメイドさんが戻ってきた。
 ぺこり、と僕に向けて一礼した彼女は、ドアを開いた状態で止める。そして脇に退いて、後ろにいた誰かを部屋の中に通した。
 一瞬、僕は状況をつかめなかった。さっきメイドさんは『主を呼んでくる』と、言った。
 だから、きっと厳つい顔をした男の人か、威厳のあるお爺さんを想像していたのだけど……。
 現れたのは、どうみてもいまの僕と……つまりシェルちゃんと同年代の、少女だった。
 しかも……かなり可愛い。浮世離れした美しさ、というのは彼女のような美しさを言うのかもしれないと思った。
 まだ顔つきには幼さが残るけど、間違いなく成人したら絶世の美女になるだろう。
 その美少女は、体を起こしていた僕を見ると、楽しげに笑った。その笑い方はなんだか彼女の印象とはちぐはぐで、違和感を覚える。
 何と言うべきか……そう、儚げな美貌にそぐわない、やけに自信満々で、男らしいとでもいえるような……。
「目覚めたか。災難だったな」
 鈴が鳴っているかのような、綺麗な声だった。
 だったけど、だからこそ言葉の内容との食い違いが激しい。
 そして彼女は僕が撫でていた猫に目線を移動させる。
「そいつが見えて、触れるってことは……やはりお前は普通じゃないようだな。その猫が纏わりついてきたときは何かと思ったが……」
 どうやら、彼女はこの猫に誘導されて僕のところにやってきたらしい。そして、助けてくれた、と……?
 やはりこの猫は霊体であるらしい。彼女にも見えているようだけど……なら、彼女は何者なんだ?
 頭の中が疑問符でいっぱいになった、その時。
(……う)
 頭の中で、うめき声が聞こえた。
 シェルちゃんの声だ。彼女が消えていなかったことに心の底から安堵する。
(シェルちゃん! よかった、消えてなかったんだね!)
(……ん…………どう、なって……?)
(通りがかった親切な人に助けられたみたいなんだ。いま、その人と話を――)
 一瞬の空白。
(……っ!)
 頭の中で、シェルちゃんが息を呑む気配が伝わってきた。
(ど、どうしたの? シェルちゃん)
 まだレイプされたときのショックが残っているのか、と思ったけど、そうではなかった。
 シェルちゃんは、目の前にいる美少女を見て、驚いていたのだ。

(あ……アルミールアラミーナ……っ!!)

 そう呟いた。
 行方知らずになっていたという死神の名前を。
 シェルちゃんの友達だという死神の名前を。
 彼女と同じように――人間の魂に体を乗っ取られてしまったという、死神の名前を。
 驚愕に満ちた声で、呟いた。
 アルミールアルミーナは、その外見に似合わない堂々とした態度で僕の寝るベッドに勢いよく腰掛けた。
「世話役にきっちり体は洗わせたから、もう汚くはないはずだが……気分はどうだ?」
 心配そうにこちらを見つめる彼女の瞳に、嘘はない。本当にこちらのことを案じてくれている目だ。
 僕は混乱しつつも、なんとか頷いた。
「だ、大丈夫です……」
 答えつつ、頭の中でシェルちゃんに尋ねる。
(ね、ねえ、シェルちゃん……アルミールアル……えっと、アルちゃんでいいか。アルちゃんは前からこんな喋り方をしてたの?)
 半ば答えはわかっていたけど、一応尋ねてみる。
 案の定、猛烈なシェルちゃんの声が返ってきた。
(そんなわけないでしょう!? アルミールアルミーナは、ちょっと無愛想で、度が過ぎるくらいに無口だったけど、たたずまいは楚々として、淑女らしく、たまに見せる微笑みがめちゃくちゃ可愛かったんだから! こんな笑い方も、こんな言葉遣いも、仕草も、するわけないわよ!!)
 なるほど……と、いうことはやっぱり……。
 誰かの魂が、アルちゃんの体を乗っ取っている、ということでいいんだろうか。
 しかしそうなると……この人は僕みたいに頭の中でアルちゃんの声がしているってことになるけど……おかしいな。それなら、シェルちゃんみたいにシェルちゃんの姿に反応するはずだけど……特にそんな様子は見えないし……。
「えっと……助けてくださってありがとうございます。あの、あなたのお名前は……?」
 とりあえずそう訊いてみた。
 アルちゃんの身体をしたその人は、一瞬目を泳がす。何か考えているような仕草だった。
「あー、俺は……赤城星斗。そういうお前は?」
 訊き返され、僕は一瞬言いよどむ。本名を名乗ってしまっていいのだろうか……いや、構わないか。幸い僕の名前は女の子の名前としても使われていることがあるし、不自然ではないはずだ。
「えっと……青木亮です」
「……リョウ、か。いい名前じゃないか」
「あ、どうも……」
「ところでリョウ。話を戻すが……そこの猫が見えるうえに触れるらしいが、お前は生まれつきの霊能者か?」
 セイトの目が、鋭く細められた。
 それは何か見極めようとしているような視線で、思わず緊張してしまう。
 ここは、無難に霊能者だと答えておいた方がいいだろうか……。
 いや――それではダメだ。
 セイトは何かを感じて、その問いかけをしてきているように思える。と、いうことはここで霊能者だと嘘を吐くとそれ以上話が進まない。
 少し考えを纏めるだけの時間を空けてから、僕は首を横に振った。
「……いいえ。僕には霊感はありませんでした」
 ぴくり、とセイトの眉が反応する。
(ちょ、ちょっと、あなた、それじゃあ!)
(ごめん、ちょっと黙ってて)
 抗議するような声をあげるシェルちゃんを押さえて、僕はセイトを見つめる。
 セイトがいま、僕の言葉のどの部分に反応したかは明白だった。
 僕はわざと一人称を『僕』と言った。
 セイトが本当に『そう』なら、その意味は『そういう意味』にしか取れない筈。
 こういうとき、相手から欲しい情報を引き出すにはこちらから秘密をさらけ出すことだ。万が一、セイトが『そう』でなかった場合でも、頭がおかしいとしか思われないから問題ない。
 何気ない口調を装い、膝の上で丸まっている猫を撫でながら言う。
「僕はこの猫を助けようとして、自動車に轢かれました。そして、変な女の子の夢を見て、気づいたら――この姿になっていたんです」
 セイトの目が限界以上に見開かれる。
 その驚きは、明らかに『異常な話を聞いたから』という驚きではなかった。
 僕は緊張で高まる鼓動を抑えつつ、ダメ押しの台詞を呟く。
「信じてもらえないでしょうね、こんな話をしても」
 さらに不自然でないように、忘れてください、と付け加えた。
 話を聞いたセイトは、何か考えているようだった。
 やがて、こちらを見たセイトの目には、こちらに対する興味と関心で一杯になっているのがわかった。
「……その、夢で見たとか言う、変な女の子というのは……ひょっとして、死神のような大鎌を持っていなかったか?」
 どくん、と心臓が一つ大きく鳴った。
 それは、その言葉は。
 僕は緊張でたまった唾を飲み込みながら、逆に訊き返す。
「……なんで、わかったんです?」
 こう問い返すことで、夢に出てきた少女がセイトの言う通り大鎌を持っていたと認めることになる。
 セイトはしばらく目を閉じ、何か考えているようだった。
 そして、考えが纏まったらしく、目を見開く。
 彼女は――いや、セイトはその言葉を口にする。

「俺も、死にそうになった時にそういう少女の夢を見た。そして――この姿を手に入れたんだ」

 その言葉は、セイトが僕と同じ、死んだあとに死神の体を乗っ取ったということを肯定していた。
 思った通りの言葉が引き出せたことで、僕は内心ガッツポーズを取る。
「どうやら、お前と俺は同じ立場にあるらしいな……」
 先ほどより、セイトは僕に近づいていた。
 興味というか、同じ境遇にあるという同族意識だろう。こちらに対して、身を乗り出すようにしている。
「一つ訊きたいんだが……お前は、いまの自分の状況をどの程度まで理解している?」
「……どういう、意味ですか?」
 なんとなくはわかったけど、一応そう訊き返しておく。
 セイトは相変わらずどこか嬉しそうな目で、こちらを見ていた。
「死んだはずの俺たちが、なぜ姿を変えてこうして生きているのか。夢に出てきた少女はなんだったのか、いまの自分に何ができるかわかっているのか――という意味だ」
 ここでは頷かない方がいい。
 頷いてしまうと、セイトが自分の状況をどこまで把握しているのか訊き出しにくくなる。僕に説明させることでセイトが自分のわかっていることを自然に聞けるわけだ。
 僕は首を横に振った。
「いいえ……全然わからないんです。訳がわからないまま、街を歩いていて……それで…………男たちに、絡まれて…………っ」
 話しながら、思わず凌辱された時のことを思い出してしまって身震いした。頭の中のシェルちゃんも小さく悲鳴をあげている。
 シーツを握りしめて嫌悪感を耐える僕の拳に、セイトの手が重ねられる。
「大丈夫だ。もう終わったことだ。ここにはお前を脅かす者はいない。俺がお前を守ってやる」
 その言葉は凄く力強く、不思議と聴く者を安心させる。体の震えも、嘘のように止まった。
 体中を這いまわっていた嫌悪感が、いつの間にか消えている。
「……すいません」
 自分の言葉で自滅するなんて、情けない……。
「気にするな。…………訳がわからないのは辛かっただろう。俺もそうだった。安心しろ。俺がどういう訳か教えてやる」
 そんな風に心底僕のことを気遣ってくれるセイトの言葉に、僕は罪悪感を覚えた。
 僕は、なんとなくアルちゃんの体を乗っ取ったという人のことを、悪いイメージで捉えていた。
 コルドガルドさんが『乗っ取り』という表現を使っていたから、というのもあるけど、なんとなく感覚的に。
 だというのに、現実のこの人は――セイトは――物凄く、優しい人じゃないか。
 傷ついているだろうこちらのことを考え、力強い言葉で励ましてくれる。
 そんな彼に対し、『自分の状況が何もわからない』と言って騙して、情報を聞き出そうとしている今の状態は、非常に心苦しかった。
 けど、今更言い直すことは出来ない。不自然すぎる。

 僕は、握った拳を優しく撫でてくれるセイトに対し、申し訳なく思った。




第四章へ続く

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