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死神輪舞:第二章

死神輪舞:第二章





 生暖かい空気が淀んでいたイソギンチャクの中に、一陣の風が吹く。
 驚いて目を開けた僕の目の前に、信じられない光景が広がっていた。
 僕をすっぽり包んでいたはずのイソギンチャクの袋のような口内……その壁に、穴が空いていた。
 体中を這いまわっていた触手が、まるで痛みに震えるかのように悶え、僕の体から外れていく。
 その瞬間、僕は咄嗟にその穴から外に転がり出た。
 一緒に口内に溜まっていたどろりとした粘液が零れ出す。
「うわぁ……気色悪い……!」
 どろどろする粘液に辟易しながら、僕は何とかイソギンチャクから逃れようと地面を這う。
 餌が逃げようとしていることを感じたのか、イソギンチャクがその長い触手を伸ばしてきた。
(つかまってたまるかっ!!)
 全力を振り絞って立ち上がり、何とかその触手を避ける。
 けど、思っていたより数が多い。しかもさっきまでの全身への刺激で足に上手く力が入らなかった。
 また足に触手を掴まれてしまう。
 今度釣りあげられたら、今度こそ全てが丸見えになってしまう。それだけは嫌だ!!
 全力を込めて巻きついた触手を掴まれている足とは別の方の足で蹴飛ばす。べちゃり、と気色の悪い音がしただけだった。
 ぐい、と足が引かれる。
「嫌あああ!!」
 どんな格好にされるのか嫌でも想像できて、思わず悲鳴を上げた。
 その時、鋭い風が吹いた。
 僕の足に巻きついていた触手が切断され、のたうつ。
「!?」
 何が起こったのかわからず、思わずその切断面を見る。決して綺麗な切り口ではなかった。刃で斬ったのではなく……力で引き裂いた、というのが正しいかもしれない。
 イソギンチャクの本体の方を見る、さっき僕が出てきた穴は不思議な形に開いていた。
 こう、鋭く尖ったものを突き刺した、というよりも、円筒形のパンに横からかぶりついた時のような……開き方だ。
「ど、どうなってるんだ?」
 何がどうなっているのかわからず、混乱する僕。
 触手はこちらにその手を伸ばしてこようとしているようだが、なぜか伺うような動きでこちらに向かってこない。
「シェルフェールフール!」
 その時、上の方から誰かの声がした。
 しかもいまの名前は……シェルちゃんの?
 上を見上げかけた僕の目の前に、誰かが降り立つ。黒い服に黒い大鎌。
 これは、ひょっとしなくても。
「死神!?」
 シェルちゃんの、同類か!
 その目の前に現れた死神――女の人だ――は、不思議そうな顔でこちらを見た。
「シェルフェールフール? どうしたの?」
 どうやらシェルちゃんの知り合いらしい。
 うう、どう説明したものか。
「え、えっと……」
 おろおろ狼狽する僕を、その死神は少しの間観察し、肩に羽織っていたマントを僕に渡してくれた。
「体をそれで隠しなさい。詳しい話はあとで聞くわ!!」
 大鎌を振りかぶる女性の死神。
 鎌の刃先が光り出した。
「猫ちゃん! 退いて!!」
 その人はなぜかそんなことを言いながらイソギンチャクに向けて突進をかけた。残像が残るほどの高速移動。
 イソギンチャクが触手を伸ばそうとするけど、遅い。
 すでに死神はイソギンチャクに触れるほどの位置にいた。
「はあああああああ!!」
 気合いと共に、大きく振りかぶった鎌をまずは真横に一閃。そしてその勢いを止めないまま、間髪入れず縦斬りに切り替える!
 その軌道はあえて名付けるなら、

 『十文字斬り』。

 きっちり四等分に分断されたイソギンチャクは、地面に崩れ落ち、そのまま水になるように溶けていった。
 ざあっという効果音が聞こえてくるような消滅の仕方だった。
「す、凄い……」
 イソギンチャクをあっさり倒してしまったその女性死神は、鎌を掌の中に吸い込ませるようにして消してこちらを向いた。
「さて……シェルフェールフール。あなたがこんな雑魚にやられるなんておかしいわね。何かあった? 説明してもらうわよ」
 そう言われても、本人(本死神?)は気絶中だ。どう説明すればいいのやら……。
 途方に暮れていると、頭の隅で『声』がした。
(う、うーん……しょ、触手が……うねッて…………うう……)
(シェルちゃん! シェルちゃん起きて!!)
(うう…………っ!! あ、あれ? しょ、触手は……?)
(死神みたいな人が現れて、倒してくれたよ。知り合いみたいだけど、あの人誰?)
 そう僕が水を向けると、ようやくシェルちゃんがその人に気づいたみたいだった。
 途端、頭の中で黄色い声が弾ける。
(っ!! きゃああああああ!! コルドガルド様じゃない!!)
 頭の中に弾けた甲高い声に思わず顔をしかめる。
(こ、コルドガルド?)
(上位死神の一人よ! 知らないの!?)
 知るわけないでしょうが。
(もうかっこよくて優しくて穏やかで強くて綺麗で……全ての新人死神の憧れなんだから!!)
 そ、そうなのか。
 そのコルドガルドさんは傍目から見たら沈黙している僕を、訝しげな顔で見ていた。
「シェルフェールフール?」
(ああ! 私なんかの名前を覚えていてくださったのですね!! 感激です……!!)
 駄目だ、完全にミーハーな女の子状態になっちゃってる……しかたない。
「ええと……コルドガルドさん、実は……」
(さん!? コルドガルド様を『さん』付けで呼ぶなんてなに考えてるの!? ぶっ飛ばすわよ!?)
 訂正。これはミーハーというよりは、フリークって感じだ。
(ちょっと静かにしててよ、シェルちゃん!)
 どう説明しようか考えてるんだから。
 なおもうるさく騒ぎ続けるシェルちゃんを放置して、僕はコルドガルドさんに現状を説明するべく、話しかけた。
「実はですね、僕はシェルちゃんじゃなくて、青木亮と言います。どうやら、シェルちゃんの体と同化してしまったらしく……」
 コルドガルドさんが驚きに目を丸くする。
「……死神と同化? 人間の魂が?」
「はい。信じてもらえないと思いますけど……」
 シェルちゃんの様子から言っても、初めて聞くことだったみたいだし、普通じゃない状態を理解してもらうことは難しい。
 最悪、悪ふざけか冗談の類と思われるだろう、と僕は覚悟を決めていたのだが、コルドガルドさんは複雑そうな顔をしていた。
「昨日までなら、シェルフェールフールが悪ふざけをしているのかしら、と思うところだけど……」
 驚いた。なんだか信じてくれそうな雰囲気だ。
「信じてくれるんですか?」
 何の証明もないし、きっと信じてくれないだろうと思ったんだけど……。でも、『昨日までなら』の部分が気になる。
 昨日、何があったんだ?
 コルドガルドさんは、困ったような顔になったのち、言った。
「シェルフェールフールの指導教官だったのは数日の間だけだけど、実際に悪ふざけを言う子じゃないっていうのはわかっているから」
 なんか頭の中でシェルちゃんがこの上なく感激しているのが伝わってきたけど、とりあえず放置。
「では、信じていただけるんですね?」
「もちろんよ。とりあえず、詳しい話を聞くためにも、落ち着ける場所に行きましょう。……霊体化は出来ないのかしら?」
「……たぶん」
「じゃあこっちが具現化するわ」
 そういうコルドガルドさんの体が一瞬だけ光に包まれた。
「――これで私も周りから見えるようになっているはず。猫ちゃん、あなたも変化を解きなさい」
 コルドガルドさんが後ろを振り返り、何もない空間に向かってそんなことを言う。
 僕には何が起こっているのかわからなかったけど、何もない筈の場所で突然光が弾けた。
 思わず手で顔を庇う。
 光が治まったのを確認して手を降ろすと、何もなかったはずの空間に一匹の猫が登場していた。
 しかも、その猫は。
「僕があの時助けようとした……?」
 事故の時、僕が助けようとした猫だった。
 結局助けられなかったその猫が、なぜここに?
 あ、でもひょっとしてさっきイソギンチャクから助けてくれたのはこの猫だったのか? 何かが噛みついたような穴の開き方と、刃物ではないなにかでの切断面。それらは猫の牙と爪でなされたことだと考えれば、納得がいく。
「……どうやら、あなたは、この猫ちゃんの傍で死んでた男の子の霊みたいね。まあ、詳しくはあとで聴くわ」
 ぶわさっという音と共にコルドガルドさんの手の中に服が一式生み出されていた。
 具現化は難しい、という話だったのにきちんとシェルちゃんのサイズに合わせた服を一式即座に生み出すコルドガルドさんは、確かに死神として優れているのは間違いないようだ。
 コルドガルドさんはそれを僕に向けて差し出してくる。
「とりあえずこれを着なさい。それから移動しましょう」
「は、はい」
 素直に答えて、僕はその差し出された服を手に取った。




 落ち着いて話し合える場を、ということでファミリーレストランに入った。
 とりあえず経緯と状況を説明すると、コルドガルドさんはさすがに驚いた様子だった。
「……まさか、そんなことがあるなんて……私もかなり長く生きてきたつもりだけど、こんな話は初めて聞くわ」
 注文したチョコレートパフェを品よく食べながら、コルドガルドさんは呟く。
 それなりに真面目な話のはずなのに、いくら品よくてもその行動で全て台無しだった。
 なんだか、真剣に悩んでいることがバカバカしく思えてくる。
 それを見越して緊張を解すためにやっていることなら逆に凄いんだけど……。
「やっぱり下界の甘味はおいしいわね~」
 などと言いながら嬉しそうにパフェを頬張る姿は、どう考えても趣味でしかなかった。

 ちなみにシェルちゃんは憧れのコルドガルドさんのこんな姿は想像の外だったのか、先ほどから一言も喋ってない。大丈夫かな……?
 ショックを受けてなきゃいいけど。
 かくいう僕も、さっき格好よくイソギンチャクを倒して助けてくれた人の、予想外の行動にどう反応したらいいのかわからなかった。
 コルドガルドさんは相変わらずにこにこした笑みで話を続ける。
「とにかく、まずは大王様に報告ね。私は知らないけど、ひょっとしたら大王様なら対処策を知っているかもしれないわ。無理やり魂を剥がすことも出来るとは思うけど、どうなるのかわからないし」
「はあ……」
 そんな僕の先行きを決めるシリアスな話をパフェを食べながら言わないで欲しい。
「大王様って、やっぱり閻魔大王ですか?」
 なんとなく気になってそう尋ねると、コルドガルドさんは首を横に振った。
「違うわよ。閻魔大王は下の王。私たちの大王様は……大王様って言ってるけど、実際は議会みたいなものよ」
「へ?」
「重要な案件は死神の中でも最も優秀な死神八人の議論で決められるの。で、なぜか死神たちの間ではその議会のことを『大王様』って呼んで、その決定を『大王様のお達し』といっているわけ。なんでかはわからないんだけどね。……これはあくまでも死神たちの間の噂だけど」
 コルドガルドさんは続ける。
「遥か昔、人間が生まれるか生まれないかの頃には全ての死神を統べる『死神大王』という存在がいたらしいわ。でも、強大過ぎる死神大王はその力を抑えきることができず、八つに分かれてしまった。だから議会は八人で構成されているって噂」
 へ、へえ。
 もぐもぐパフェを咀嚼しながら、コルドガルドさんは続ける。
「さっき大王様なら対処策を知っているかもって言ったのは、死神として優秀な八人はその分知恵があるからね」
「そ、そうなんですか……あの、ところで」
「ん?」
 コルドガルドさんは「どうしたの?」というような顔になる。ちなみに声に出さないのはスプーンを咥えているから。
 それはあえて無視して、気になっていたことを聞いた。
「さっき、僕が最初にシェルちゃんと同化しちゃった時、『昨日までなら悪ふざけだと思った』って言いましたよね?」
「ええ、言ったわね」
「どういう意味です? 昨日、何かあったんですか?」
「んー、これ、部外者に言ってもいいのかしら……まあ、いいか」
 少し悩んだようだったけど、結局あっさりコルドガルドさんは教えてくれた。
「実は昨日……大王様から全死神に通達があったのよ」
「なんて?」

「『先日から行方不明になっているアルミールアラミーナは、人間の魂にその身体を乗っ取られた可能性がある』って」

 ……はい?
「ちょ、ちょっと待ってください。それって……」
「そう、今のあなたと同じ状況ね。あなたの場合、乗っ取ったっていうよりも同化したっていう方が正しいみたいだけど、見方を変えたら乗っ取りになるわよね。実際、シェルフェールフールは自分で自分の体を動かせないんだから」
「た、確かにそうですけど……でも、なら、前例があるなら、僕のことだって信じられたんじゃあ……」
「違うわよ。可能性があるって言ったでしょう? 実際、この通達を信じている死神はほとんどいないわ。だって前例がないんですもの。誤報かなにかだと思っている死神がほとんどなの」
 コルドガルドさんは溜息を吐いた。
「ちょっとややこしいけど、私はアルミールアラミーナが体を乗っ取られたなんて話は信じてなかった。けど、そう言う話が出ているところに、シェルフェールフールが実際に乗っ取られたっていう。だから完全に嘘だとは思わなかったわけ。で、いま事情を聴いて、あなたとも話して、確信した」
 コルドガルドさんはこれまでで、一番真剣な顔になった。
「乗っ取りは実在するってね。ということはアルミールアルミーナも本当に人間によって体を乗っ取られた可能性が高い。それも――」
 そこでコルドガルドさんは僕の方を見た。
「あなたより、数段性質の悪い人間に」
 僕が性質のいい人間かどうかは微妙だと思うけど、下手な人間が死神の体を乗っ取ったら、確かにまずいんじゃないだろうか。
 コルドガルドさんは食べ終わったパフェを机の廊下側に置く。その店員が回収しやすいようにする気遣いは手慣れていて、きっとこの人はたびたび食べているんだろうな、となんとなく思った。
「とにかく、人間に死神の力を自由に振るわせるのはまずいわ。一刻も早く報告にいかないと。行くわよ」
 そう言って立ち上がるコルドガルドさんを、僕は慌てて引きとめた。
「ちょっと待ってくださいコルドガルドさん!」
「なに? ……って、あー、そっか。あなた霊体化出来ないんだっけ……と、なるとまずいわね……大王様のところへは霊体化しないといけないし……」
 悩むコルドガルドさん。
 とりあえず話し合いは終わっていたので、僕たち二人は店を出た。
「お金なんて持ってたんですね」
「あら、さっき払ったのは具現化したお金よ?」
「……いいんですか? 贋金扱いになっちゃうんじゃあ?」
「いいのよ、どうせ数分もしたら消えちゃうんだから。ちょっと会計が合わなくなるでしょうけど」
 ほんとうにいいの? そう思ったがあまり気にしないほうがいいのかもしれない。死神だしなあ……。
「うーん、仕方ないわ。とりあえず私はこれから報告に行ってくるから、あなたはこの街で待ってなさい。数日で戻ってこれると思うから」
「そんなに時間がかかるんですか?」
「行くの自体は簡単だけど、大王様と謁見するのに時間がかかるのよ。かなりの重要案件だから伝言だけで済ますわけにもいかないし」
 そういうものなのか。重要案件なら、優先して謁見させてもらえるもんじゃないのかなあ?
 コルドガルドさんはなんとなく釈然としない僕の両肩に手を置いた。
 真剣な瞳に真正面から覗きこまれて思わず背筋が伸びる。
「な、なんでしょうか?」
「あなたはどうも『いい人』みたいだからあんまり心配していないけど……死神の力をむやみに使ったり、このまま逃走したりしないでね? そんなことをしたら……私は私の権限においてあなたの魂を地獄に落とさなければならなくなるわ」
 あまりに直接的な脅し文句に、震えが走る。
 死神だからまさに洒落ではない。
「き、肝に銘じておきます……」
 がくがく頷く僕に、コルドガルドさんはにっこりと笑顔を浮かべた。
「よろしい。シェルフェールフールの言うことをよく聞くのよ? じゃあ数日後にね」
 そう言ってコルドガルドさんはいつの間にか体の具現化を解いていたらしく、ふわりと浮かびあがり――消えた。
 雑踏に取り残された僕は、さてどうしようか、と頭の中のシェルちゃんに訊いてみる。
(数日か……どうしよう、シェルちゃん)
 ところが、返答はなかった。そういえば全然声が響いてこない。
(あれ? シェルちゃん? どうしたの?)
(え……あ、なに?)
 やっと返答が来たけど、どうも様子がおかしい。
 なぜかを考えてみた。わかるわけがない。
(これからどうしようかって話なんだけど……どこか安いビジネスホテルにでもとま……って)
「ああ!?」
 思わず声に出してしまった。
「僕、お金持ってないよ!?」

 ……いきなり、前途多難だった。




 お金を持っていないのでは、ホテルに泊まるどころか食べ物を買うこともできないのは人間界の常識だ。

 すっかり日も暮れた頃。
「……ほんと、どうしよう」
 僕は二十四時間営業のコンビニに身を寄せていた。雑誌コーナーの本を読むふりをしてかなりの時間を潰している。
 仮にも女の子の姿で夜中に出歩いているのは危ないからだ。
 かといって夜の間同じコンビニにずっといたら店の人に警察に通報されてしまうかもしれない。家出少女か何かと間違われて……補導なんかされた日には、元々この世界にいないのだから住所も戸籍も何もない。大騒ぎになってしまう。
 それは危険なので長くても一時間、夜も遅くなったらもっと早くに出なければならないだろうけど……。
(……ねえ、シェルちゃん。そろそろ返事してよ。どうすればいいと思う?)
 僕には出せる案がない。まあそれはシェルちゃんも同じだろうけど、でも彼女なら何かしら出来ることがあるんじゃないだろうか?
 なのに、シェルちゃんは何も言ってくれない。
 さっきレストランでコルドガルドさんから話を聞いてから、何も言ってくれない。
(……おーい。シェルちゃん? 聞こえてる? っていうか聞いてる?)
(…………聞こえてるわ)
(さっきからどうしたの?)
(…………)
(コルドガルドさんに話を聞いてから、なんか様子がおかしいけど……)
(…………)
(……そういえばさ、昨日全死神に通達があったんだよね? それをシェルちゃんは聞いてなかったの?)
 名前は覚えてないけど、死神が人に体を乗っ取られたという通達があったなら、シェルちゃんもコルドガルドさんみたいに考えたはずじゃないだろうか?
(……私は昨日からずっと現世にいたから。最近は予定にないところで死ぬ人間が増えて、死神も大変なんだから)
(予定にないところ?)
(自殺よ。事故や自然死ならわかるんだけど、自殺だけはあらかじめ知っておくことが出来ないの)
(へえ……なんでだろう?)
(さあね。私もよくは知らないわ…………)
(シェルちゃん?)
 急に沈黙したシェルちゃんを不思議に思ってそう問いかけると、シェルちゃんは小さく呟いた。
(あのね……さっき話に出てた、アルミールアラミーナっていう死神なんだけど……)
(うん、その死神さんが何?)
(……その子、私の友達なの。……もちろん、女の子よ)
 なるほど……友達、か……友達がそんなことになってるなんて話を聞いたら、そりゃ冷静ではいられないか……。
(アルミールアラミーナ……大丈夫かしら……)
(…………)
 今度は僕が沈黙する番だった。
 なんとも言えない。僕は、まあ、なんというか自由にこの体を使えても……何かしようとは思わない。
 一応は年頃の男子である僕だけど。僕はあまりそっちの方に興味がないからだ。
 でも、もしも……いまの僕たちと同じように、男性の魂が女の子の死神の中に入っているのだとしたら……相当まずい。
 僕みたいな奴ばかりでもないだろうし……。
 シェルちゃんも気が気でないだろう。
 とはいえ、僕に出来ることはないし……そもそも、それ以前にこれから自分がどうなるかも定かじゃないのに……。
(友達が心配なのはわかるけど、それよりこれから自分たちがどうするか考えないと)
(……そうね)
(とりあえず……そろそろ移動しないとね)
 長時間いるからか、そろそろ店員が怪訝そうな顔でこちらを見始めている。
 本をコーナーに戻し、僕はコンビニを出た。次のコンビニに向かう。
 なるべく明るい道を選び、そこらにたむろしている集団に目をつけられないようにする。
 僕から見て、シェルちゃんは結構可愛い顔をしているけど、それはいまの状況下では不利な要素だった。
 すでに何度かあるが、男の人に声をかけられてしまうのだ。
「ねえねえ、君、暇?」
 あ、また来た。
 僕は近づかれないうちにその男の前をさっさと走り抜けた。
 下手に「急いでるんで」とか言うだけでも返答をするとまずいことになるっていうのは一番最初で学習した。
 幸いその人はすぐに諦め、他の子に声をかけに行っていた。
 ふう、とため息を吐く。
(……ああいう人に取り込めば宿は確保できるけど)
 ベタだけど確かだ。
 しかし。
(絶対に嫌!!)
 当然シェルちゃんが嫌がるのでその策は取れなかった。
(そういえば、さ……死神も人間と同じように生まれてくるわけ?)
 つまりセックスは出来るんだろうか?
 シェルちゃんは微妙に恥ずかしそうだったけど、応えてくれた。
(……ええ、そうよ。性教育も受けたし…………でも、人間みたいに四六時中発情しているわけじゃないわ)
 発情って……酷い言い方をするなあ。
(ねえ、そんなことはいいじゃない。これからどうするか、だけど……誰かを襲って財布を奪えば)
 とんでもないことを言い出した。
 僕は即座に首を横に振る。
(だめだよ。犯罪者になっちゃうだろ)
(別にいいじゃない。殺すわけじゃなし……)
(いや、あのさ、そういう問題じゃないよ。純粋に罪を犯すっていうのにも抵抗があるけど、考えてみて? 追い剥ぎなんかしたら、警察が動くでしょ)
(…………まあ、そうかもしれないけど。じゃあどうするのよ?)
(一番いいのは誰かに頼んで、その誰かが、事情も聞かず、何もせず、家に泊めてくれたらいいんだけど)
 そんな都合のいい人、いるわけない。
(あー、もう。シェルちゃん、コルドガルドさん……じゃなくても、死神の誰かにこっちから連絡は出来ないの? そしたらそれでいいのに)
(無理よ。いくら死神が人間の生活を真似してるって言っても、携帯電話みたいな連絡手段はないもの。魔術にもテレパシー系はないし)
 詳しく聞けば死神は予定が決められており、それに従って行動するだけのようだ。
 人間の魂と同化して生身の体になり、死神の世界に帰れなくなるなんてことありえないはずだったのでその時の対応策もないってことか。
(死神は病気や怪我をすることもないから、不測の事態に陥るってこと自体がそもそもありえないし)
(死神って、すごいな……)
 完全なる生物、というのは死神のことをいうのかもしれない。
 そんなことを考えていて、思わず前方不注意になっていることに気付かなかった。
 前から歩いてきた誰かと肩がぶつかる。
「いってぇな!!」
 げ! よりにもよって柄の悪そうな集団だし!
「す、すいません!」
 いいながら頭を下げ、逃げだす。
 その場所にそのままいたらやばいと思ったからだ。しかし勢いがよすぎたらしい。
「あ、てめ、待ちやがれ!!」
 追いかけてくる!! やばっ!!
 少し先の方に交番があるけど、警察に保護してもらう方がまずい。
 仕方なく横道に逸れた。
 くそ、まだ追いかけてくる。
 なんとか逃げ切らないと! つかまったら洒落にならない状況になっちゃうじゃないか!
(シェルちゃん! 魔法で移動か、撃退は出来ないの!?)
(移動魔法には地面に魔法陣を描くための時間が必要なの! 数分はかかるし……攻撃魔法は……人間相手じゃ、使えなくて……)
 大ピンチじゃないか!
 幸い、シェルちゃんの体の運動能力はそれほど低くはないようだ。
(これならなんとかにげ――っ!?)
 足もとに転がっていた瓶に足を取られて転がる。
 しまった、速く走るのに集中していたから、足元への注意が疎かになってた……!
 自分のうかつさを呪っても、もう遅い。

 立ち上がる前に、僕は男たちに追いつかれてしまった。




第三章へ続く


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