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死神輪舞:第一章

一気に読みたい人のために、細かく分かれている死神輪舞を、章に分けて纏めてみました。
すでに載っているものと内容は同じです。

死神輪舞 第一章 





 さて、皆に質問したい。

 見知らぬ女の子にいきなり刃物を突きつけられたら――どうすればいいと思う?
 少なくともこの僕、青木亮はどうしたらいいのかさっぱりわからなかった。


 馬鹿みたいにその女の子を見つめることしか出来ない。
 その女の子は、かなり可愛い容姿をしていた。
 涼やかな目元に柔らかそうな相貌……ほっそりとした体つきに、黒いワンピースみたいな可憐な服を着ていた。
 まさに美少女という表現が的確だった。
 その美少女はその丸くて大きい、小動物のような瞳で俺を睨んでいる。
 白くて細い華奢な手に持っているのは、鎌。

 まるで、死神か何かが持つような、大鎌だった。

 その鈍く光を反射する刃がそれがまぎれもない本物だと告げていて、何でそれを喉元に突き付けられているのか、わけがわからなかった。
 なんでこんなことになってるんだろう……。
 混乱する俺の前で、女の子が口を開く。
「あなたの魂、刈り取らせてもらう」
 ぐっ、と刃が喉元に食い込んできた。
 魂ってなんだよ?! 刈り取るって!?
 僕は気圧されて一歩下がる。それに合わせて女の子も一歩踏み出してきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 訳がわからないんだけど!! 魂を刈り取るってなに!? 殺すってこと?」
 少女はゆっくりと首を横に振った。

「あなたはもう死んでる」

 は?!
 何を言ってるんだこの子は。
「僕が死んでるって、そんなわけ……」
 女の子は僕の背後を指さした。
 思わずそれにつられて後ろを振り返る。

――血まみれの、僕が倒れていた。

 息を呑んだ。いや、実際には体がないんだから息を呑んだような感じがしただけだ。
 ちょっと待てよ……なんだよ、これ。
「なん、で、僕…………」
「あなたは道路に飛び出した猫を助けようとして車に跳ねられた。全身を強く打って、二〇××年四月十六日十六時三十一分、満十八歳で死亡――」
 倒れている僕は、ぴくりとも動かない。血が、徐々に道路に広がっていく。
 そんな――。
 腕の中には、同じように血まみれになった猫がいる。
 助けようとして、結局助けられず、しかも自分まで死んだっていうのか――?
 でも、確かに思い出した。
 僕は通学途中でよくみかけていた猫が道路に飛び出すのを見て、思わず助けに飛び出して――車に跳ねられたんだ。
 なんだよ、これ。
 こんな、何にもならない、死に方をしたっていうのか?
 僕は……。
「私は死神。現世に想いを遺す霊を、天国か地獄かに送る役割を果たすもの」
 かちゃり、と鎌が構えられる音がした。
「あなたは善行の――例え結果が伴わなかったとしても――果てに死んだ。きっと天国に行けるはず。だから出来れば自分で未練を断ち切って成仏してほしい」
 でも、もしも現世にしがみつくようなら。
「悪いけど、私は私の名において、あなたの魂を現世から刈り取る――」
 僕は、ふつふつと怒りが湧いてくるのが感じられた。
 情けない死に方をした自分に対してと、好き勝手に話を進める自称死神の少女に対して。
 なにが成仏してほしいだ。
 なにが善行の果てに死んだ、だ。
 なら俺を生き返らせろよ!
 天国なんて行きたくもない。僕はまだ生きていたかったのに!!
「……納得できるか!!」
 思いっきり怒りを込めて怒鳴ったけど、女の子はほとんど反応しなかった。
「みんなそう言う。だから私のような存在がいる」
 ぶん、と鎌が振りかぶられる音がした。
 振り向くと、その子が掲げた鎌の刃がうっすらと光り出していた。
「荒っぽくなっちゃうけど、あなたの魂、あの世に送る!!」
 鎌が大きく振りかぶられる。
(あの世に送られる――本当に死ぬ? そんなのは、嫌だ!!)
 咄嗟に僕は、彼女に向って体当たりをかけた。
 まさか向かってくるとは思っていなかったのだろう、虚を突かれた女の子の動きが一瞬止まる。
 長い獲物を振るってくる相手なら、間合いに飛び込めばいい!
(僕は…………生きる!!)
 全力を込めたタックルを、彼女の腰に喰らわせた。
 その瞬間、何か物凄い衝撃が発せられて、僕の意識は一瞬で暗転した。




(…………て)
 ん…………?
 誰かに呼ばれたような気がした。
 気のせいか……? なぜか頭がぼんやりして上手く考えることが出来ない。
(…………おき………………よ……)
 何なんだ、一体…………。
 僕は耳に、というより頭に直接響いてくるような声に辟易した。
 もう少し寝かせてくれ……。
(ねぼ…………さと…………う、起きなさいよ!!)
 頭を殴られたかと思った。
 それくらいその『声』には勢いがあった。
 おかげで少しばかり意識がはっきりしてくる。
 何だっていうんだ。くそ。
 目を開くと、そこは広い原っぱだった。
 家の近くに川があって、その河原にこんな感じの原っぱがあったような気がするな……人の通りが少ない、寂れた河原だ。
 なんで僕はこんなところに倒れてるんだ?
(あなたねえ…………!! 絶対に許さないんだから!!)
 な、何?
 今の声……頭の中からしたような……?
 手をあげて頭に触れようとした僕は、体の感覚がいつもと違っていることに気づいた。
「え、なにこの手……――ッ!?」
 呟いた声もおかしい。
 なんでだ? どうなってるんだ?
 恐る恐る視線を下に向けると、そこには、

 女の子の裸の体があった。

「……!?」
(見ないでよ馬鹿!!)
 頭の中で響く声は微妙に涙声だった。
 僕は状況が把握できず、呆然とする。
「ちょ、なに、なにこれ……どうなってるんだ、これ?」
(こっちが知りたいわよ!! あなたが私にぶつかってきて、そしたら私の体の中にあなたが入り込んできたのよ!! おまけに、なぜか私の体は実体化してるし!!)
 この声……怒りのあまり、ところどころ裏返っているからわかりにくいけど……さっきの死神?!
(とにかく! 私の体だから力は使えるはず……早く『外套』を出して!!)
「が、がいとう? なんのこと?」
 街の明かりって意味じゃないよね……?
 イライラとしているらしい声が響く。
(『外套』っていうのは……要するにマントよ! マントが肩から広がっているイメージを思い浮かべて!)
 死神に言われるまま、僕は肩にマントを羽織るイメージを思い浮かべてみた。
 ばさり、という音が響き、どこから飛び出したのか黒いマントが体を覆う。
「うわ、便利だな……」
(うそ……一発で出しちゃうなんて……)
 なぜか驚いているようだったけど、それよりもいまは状況を把握することが必要だろう。
 裸、というのは落ち着かないのでそのマントでしっかり体を覆いながら、僕は頭の中の声に訊く。
「えっと……とりあえずいま僕の頭の中でしている声は、さっきの死神……ってことでいい?」
(……そうよ)
「そして……えーと、僕が君にタックルしたら、なぜか僕は君の体に入ってしまって……しかも君の体が実体を持ってしまった……ということで?」
(……そう。たぶん、『生きたい』というあなたの気持ちが私の体に実体を持たせたのね……死神の力は精神力が強ければ強いほど引き出せるから)
 なるほど……。
(あなたはあの時、霊体だった……だから、死神の体と同化しちゃったわけ)
「大体の状況は掴めたけど……なんでこんな場所に? 確か事故現場にいたよね?」
 俺が疑問をそのまま口にすると、死神は激しく声を荒げた。
(あんな場所にあんな格好で倒れたままでいられてはたまらないもの!! かなり苦労したけど、転移魔法を使って移動させたのよ!! さっさと追い出したかったけど、なぜか出来ないんだから仕方ないじゃない!!)
 うわぁ……本気で怒ってるよ……。当たり前か。
 自分の体が全裸で道路のど真ん中に寝ている状況なんて、女の子には耐えられないだろうな。
 それにしても、死神って人間と同じ生活をしているのかな?
「死神っていうくらいだから、もっと人間とは全然違う考え方とかをしているものだと思ってたけど……人間とあまり変わらないね?」
(昔は違ったらしいわ。最近……といっても数百年くらいは前だけど、人間の生活を模倣し始めてそれに伴い考え方が変わったって話を聞いたことはあるわね)
「生活を? 死神たちにも住む場所があるの?」
(あたりまえじゃない。どんな生物にだって住み家はあるでしょう? 私たちの住み家は雲の中にあるわ)
「雲の中?」
 それは……どちらかというと、天使の住む場所じゃないのかなあ?
(それはあなたたち人間の勝手なイメージでしょ。天使が住むのは、文字通り『天』……ロケットじゃ決していけない上にあるわ。逆に悪魔は下……地面を掘ってもたどり着くことは出来ない『下』だけど)
 はああ……なるほど……?
 正直よくわからなかったけど、まあいいや。
「ところで、これから僕はどうすればいいんだろう?」
(知らないわよ!!)
 怒られた。
 まあ、当然か。


 死神と同化してしまった僕――青木亮は、どうすればいいのか途方に暮れた。
「この体じゃあ、『僕です』って言っても信じてもらえないだろうし……」
 家に帰ることは出来ない。それに今頃は事故の連絡が行っている頃だろうし、死んだというなら騒ぎになっているはずだ。
 頭の中で死神ちゃんの声が響く。
(だからさっさと成仏してよ!)
 それは嫌だ。
 成仏したらどうなるのかわからないけど、まだ成仏したくはない。
「うーん……どうしよう」
 とりあえず生きていたいという意志はあるけど、だからといって何かしたいわけでもない。
 誰かに聞かれたら、優柔不断といわれるだろう。
 でも、それが僕の本心だった。
 それに。
「どうやればこの体から抜け出れるのかわからないし」
(……この体から出たいって念じればいいじゃない)
「そうか……でも思わないよ」
 そんな単純な口車には乗せられないぞ。
 抜け出たら即効で成仏させられるのは火を見るより明らかだ。
 案の定、死神ちゃんは盛大に舌打ち(実際には舌はない筈だから口で言ったんだろうけど)をした。
 僕は苦笑する。
 いま自分の顔となっている頬を片手で撫でながら言った。
「こんな可愛い顔した女の子が、そんな思いっきり舌打ちするものじゃないよ?」
 元凶の僕が言うのもなんだけど。
(うるさい馬鹿)
 吐き捨てるようにして応じられた。
「ところでさ、死神ちゃん」
(ちゃん、なんて言わないで、馴れ馴れしい)
 あー、これは盛大に嫌われてるなあ……当たり前か。
「名前を教えてくれないかな。確かに死神ちゃんって呼ぶのもなんだし。あ、僕は青木亮って言うんだけど」
(……知ってる。死者名簿で見た)
 死者名簿、か……なんというか、人間の勝手なイメージって、結構当たってるんじゃないかな。死後死神が迎えにくるってよくある設定だし。
「で、君の名前は?」
(…………シェルフェールフール)
 ながっ。
「シルフールフル?」
(違う、シェルフェールフール!)
「…………どこまでが苗字で、どこまでが名前?」
(死神に苗字や名前の概念はない)
 そうなのか。ん? ちょっと待てよ?
「ところで、普通に話が通じてるけど……死神の言語って、日本語なの? でも……えーと、シェルフェールフルっていう名前は日本のものじゃないよね」
 いまは見えないけど、顔立ちは日本……というか、アジアっぽかったけど。
 シェルフェールフールちゃんは仕方ないなっていうめんどくさそうな雰囲気を隠そうともせず、答えてくれた。
(……私は日本担当の死神だから、日本の概念を大王様から貰ったのよ。名前は生まれた時に決まるから)
 日本語の概念を貰った? 大王様って閻魔大王のことかな?
 よくわからないけど、まあ通じるならいっか。
「それとさ、シェルちゃん」
(しぇ、シェルちゃん!?)
 ひっくりかえったような裏声を上げるシェルちゃん。
 そこまで動揺しなくても。
「だっていちいちシェルフェールフールちゃん、って言うのも長ったらしいでしょ? だからシェルちゃん。……ダメ?」
 短くて言いやすいと思ったんだけど……。
(……勝手にしなさいよ)
 呆れられてしまったのか、シェルちゃんは投げやり気味にそう言った。
 まあいいや、本題に入ろう。
「服を何とかしたいんだけど……この、『がいとう』みたいに服を出したりは出来ないの?」
 いまはこの『がいとう』とかいう布を体に巻きつけることで何とかしているけど、時々ほどけてしまいそうになり、その度に慌てて巻きなおしていた。
 不便だし、なによりちょっと恥ずかしい。
 女の子が布一枚の裸でうろうろするっていうのも危ないし……。
(出せなくはないけど、無理よ)
「無理? なんで?」
(『外套』みたいに単純な造形のものを具現化するのは簡単だけど、服みたいな複雑な形をしたものを具現化するのは難しくて無理なの。少なくとも、私は成功したことがないわ)
「イメージすれば出てくるの?」
 頷いているような気配が伝わってくる。
(そうよ。死神の力は想像力によって使われるから。――でもそんな単純な話じゃないのよ。質感、重量、形、感覚……全てを正確に想像しないと、無理。それも頭の中で考えるだけじゃダメで、『実際にそこにある』って錯覚するくらいの具体的な想像を働かせないと具現化は――)
 ばさり。
 目の前に、黒色のワンピースが落ちた。
 頭の中のシェルちゃんの声が途切れる。
(……え?)
 呆然としたシェルちゃんの声。
 僕は落ちたワンピースを手に取った。
「なるほど、こうすればいいんだ。……どう? かなり形はシンプルだけど、これなら傍から見てもおかしくないでしょ?」
 広げて見せる。うん、ほとんど飾りっ気はないけど、可愛い感じになったと思う。
(ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!)
 急に叫ばれて思わず身をすくませた。
「な、なに?」
(なんでそんな簡単に具現化が出来ちゃうわけ!? あり得ないわよ!! いくら単純な形のワンピースとは言え……!!)
 僕はどう答えるべきかちょっと迷った。
 迷ったけど、結局正直に話しておくことにした。
「えーと、さ。僕は昔から、『夢見がち』って言われてたんだよね」
(?)
 シェルちゃんが、不思議そうに首をかしげた。実際は精神だけだから、そんな感じがしたっていうことだけど。
「実際その通りでさ。本を読んだら空想の世界にどっぷりハマっちゃって……気づいたら自分がその世界で活動しているような感覚になっちゃうわけ。恐ろしい火の描写が出てきたら本当に熱風に巻かれているような感じがしたり、料理の美味しそうな匂いの描写があったら本当にその匂いがしているように感じたりね」
 病気になる話を読んで、次の日実際に病気になったこともある。
 医者にかかったら精神的なものですってきっぱりと言われてしまった。
「だから、想像するのは得意分野なんだ。それに……」
(……それに?)
「いまはさすがにやってないけど、中学生のころにはさ、架空の人物を想像して遊んでたんだ。実際にそこにいるような想像をして、話しをするんだ。いま思えば凄く病んでるけど、まるでそこに人がいるかのように想像するのが楽しかった」
(……それって)
「さっきシェルちゃんが言った感じのことを、僕は前からやってたわけ。だから具現化も出来たんだと思うよ」
(信じられない……)
 呆然とした声を漏らしているシェルちゃん。自分が出来ないことを僕があっさりやっちゃったからショックなんだろう。
 話を逸らした方がよさそうだ。
「ねえ、シェルちゃん。これからこのワンピースを着ようと思うけど……着替える時、見ちゃうけど我慢してね?」
(…………)
 僕がワンピースを具現化出来たのは、シェルちゃんにとってかなりの衝撃だったらしく、返事がなかった。
 仕方なく、僕は体に巻きつけている布を一度取り去り、裸になってからワンピースを着る。
 ノーパンとノーブラはかなり奇妙な感覚だった。
(うーん……かといて、さすがにブラジャーとショーツのイメージは出来ないし……)
 ワンピースは単純な形だから男物の服の応用でいけたけど、さすがに下着は応用できない。
 どこかで買うしかないかな。
 お金は……持ってるわけないか。
「弱ったなあ……」
 考え込んでいた僕は。

――背後の茂みが、がさり、と音を立てたのに気づかなかった。

 背後の茂みから何かが飛び出してきたと気づいた時には、すでに遅かった。
 足にその『何か』が巻きつく。
「うわあ!?」
 すごい力で引っ張られて、地面に倒れてしまう。
 咄嗟に手を前に出さなかったら顔を打ちつけていただろう。
「な、なんだ?!」
(な、なに!?)
 シェルちゃんも訳がわかっていないのか混乱する声を上げていた。
 僕が自分の足を見ると、そこに何か白っぽい変な縄のようなものが巻きついていた。しかもその縄は動いている。
 吸盤はないけど、白いタコの触手とでも言えるかもしれない。妙にぬめっとしていて、生暖かい。
「な、なんだこれ!?」
 慌てて振り払おうと足を振るけど、全然外れてくれない。ぴったりくっついている。
 その足が強い力で引っ張られた。
「う、うわあ!?」
 ほとんどマグロの一本釣りみたいなものだった。
 片足を引っ張られて空中に持ち上げられてしまう。
「ま、待って待って! この態勢はまずいって!!」
 僕がいま来ているのはワンピースで、しかも下着をつけていない。その状況で片足を引っ張られて逆さ吊りにされたら……!
 慌てて僕はずり落ちてくるワンピースの裾を両手で抑え、あそこをなんとか隠そうとする。咄嗟だったから前の方はともかく、お尻の方は抑えなかったので、お尻が丸見えになっている感触がした。
(ちょ、ちゃんと抑えてよ!!)
 感覚は共有しているのか、お尻の方のワンピースがずり落ちたことにシェルちゃんも気づいたようだ。
「仕方ないだろ!? っていうか、これなに!? なんなの?!」
 こんなでかい触手を持っている生物なんて、みたことない。
 いや、世界のどこかには体長五メートルくらいあるタコもいるのかもしれないけど、こんな街中の河原にいるわけがない。
(私だってわからないわよ! それより、武器を具現……ひゃあん!?)
「ひやあ!?」
 何か別の感覚が生じて、僕とシェルちゃんは同時に悲鳴をあげた。
 別の触手がもう片方の足にも巻きついたのだ。
「え、ちょ、待――!!」
 二つの触手は別々の方向にそれぞれ足を引っ張っている。
 そんな風にひかれたら、足が開いてしまうじゃないか!!
 この状態で大股開きはどう考えてもやばいって!!
 必死に足を閉じようとするけど、触手の力は相当強い。
 死神とはいえ、生身の体では年相応の力しか出ないらしく、徐々に開かされていく。
 前と後ろの服の裾を手で押さえ、なんとか見えることだけは防いでいるけど……これはマジでやばい。
「くぅ……!!」
 限界を超えた筋肉が痙攣を起こし始めた。びっしりと汗を掻いてしまっていて、気持ち悪い。
「だ、ダメだっ!!」
 とうとう負けて、大股開きの格好にさせられる。
 いくら元は男とはいえ、この体でこの格好は恥ずかしすぎる。
 しかもノーパンだから服を抑えている手を下してしまったらあそこが盛大に見えてしまうわけで……大ピンチだ。
 さらに僕の抵抗をあざ笑うかのように、別の触手が伸びてきた。
「うそお!! ちょ、やめて!!」
 必死に体をよじらせ、なんとか逃れようとしたけど、無理。
 新たな触手は胴体に巻きついてきた。手にも一緒に巻きつかれたため、これで完全に抵抗できなくなってしまった。Yの字の形で空中に浮いている状態だ。
 完全にこちらの動きを封じたと感じたのか、茂みの中からその生物の本体が姿を現す。
「い、イソギンチャク?!」
 それはそうとしか表現できない姿をしていた。
 全体的には半透明の歪な円柱形で、上部には丸い穴があり、その穴の中にはびっしりと生理的に気持ちの悪いイボイボが生えている。どう見てもイソギンチャクなどの口内だ。円柱の横から僕に巻きついている触手が無数に生えており、そのうちの三本が僕に巻きついている。
 絶対にこれは普通の生物じゃない。
 しかしその正体が何であれ――いま僕が捕食されかかっている事実になんら変わりはなかった。
 頭の中のシェルちゃんに助けを求める。
「シェルちゃん! 移動魔術は使えたんでしょ!? 攻撃出来ないの!?」
 この状態でも魔術が使えたのなら、攻撃系の魔術だって使えるんじゃないだろうか?
 完全に体の動きを封じられている僕にはどうしようもないから、シェルちゃんが最後の頼みの綱だったんだけど……。
(さっきからやろうとしてるけど、なぜか無理なの!! この触手が、魔力を吸い取っているみたいで……!!)
 と、いうことはこの触手から逃れないといけないということか。
 でも、逃れられないから魔術に期待したのに!!
 それじゃあ意味がない!
 八方ふさがりで途方に暮れていると、触手が動き出した。
 動く方向は――その生物の本体の方!?
「た、食べられる!?」
 気持ちの悪い口が待ち構えていた。
 じょ、冗談じゃない!! あんな中に入れられてたまるか!!
 でも全力を込めて暴れても触手はびくともしない。手の爪を立ててみても、めり込むだけで傷一つつかない。
(あの大鎌を出せれば……!!)
 とはいっても、焦りで混乱する頭では上手く想像することが出来ない。具現化するなんて無理な話だった。
「い、いやだああああああああ!!」
 大きく開いた口に、足先が触れた。
 ぬめりが大きく、どろりとした粘膜のようなものが中を覆っていることがわかった。
 無情にも、全身をその中に入れられてしまう。
 それと同時に触手は外れてようやく体の自由は取り戻したけど、触手が出ると同時に開いていた口がしまってしまい、半透明の袋の中に閉じ込められる形になった。
 その中に無数に生えているイボイボが微妙に震えていて、気持ち悪い。
 体中から、おぞましい感触が伝わってきた。
「ひいいいいい!!」
(いやあああああああああ!! 気持ち悪いいいいいいいいい!!)
 ひと際大きな悲鳴をあげたシェルちゃんの声は、それっきり聞こえなくなってしまう。
「え、ちょ、シェルちゃん!?」
 どうやら気絶してしまったらしい。
「そんなぁ!!」
 本気でどうすればいいのかわからない。
 徐々にイソギンチャクの口内は熱くなってきていた。
(熱く……? 違う、これは……!!)
 あることに気づいてそれを確認すると、案の定だった。
 着ているワンピースの裾や至る所が――溶け出している。
「しょ、消化されちゃうう!!?」
 口内に入れられた時点でわかっていたはずだけど、実際にこうなると死の恐怖がひしひしと迫ってくる。
 まだ体が溶け出してないのが救いだ。
 でも、このままずっといたらいずれ全身を消化されてしまうだろう。
(脱出しないと……!! でも、どうやって?!)
 魔法は元々使えないし、武器を具現化しようにもこんな状況では……。
 そんな中、僕の焦燥をさらに高める現象が起きた。
 周囲に隙間なくびっしり生えたイボイボ――それらが徐々に長く伸び始めたのだ。瞬く間にイボイボというよりは、触手のようになってしまった。
 しかもそれらは体に絡みついてきて、そのどろりとした粘液を全身に塗り込んでくる。
「ひやあああああああ! ちょ、やめ……!」
 イソギンチャクは容赦なく、股間や胸にもその触手を這わせてくる。顔にも迫ってくるので目を閉じるしかなかった。
 どろりとした粘液の感触と、その触手が這う刺激は気持ち悪いを通り越しておぞましくすらあった。
 でも。
「ひっ……ふぁ…………ひぃん!!」
 だんだんその感触は愛撫されているかのような感覚に変わってきて、気持ち悪いのに気持ちいい、というような未知の感触に変わってきた。
(なに、これ……!! きも、ちわる……きもちい…………頭が変になるううう!!)
 もう服はほとんど溶けてしまっていて、全裸で嬲られている状態だ。
 もちろん目を閉じている僕には見えていなかったけど……この時、イソギンチャクが半透明であったこともあり、外から見ると相当官能的な状態になっていた。
 全裸の少女が、無数の触手に体中を嬲られている――。
 傍から見ればそれは相当おいしいシチュエーションかもしれないけど、その嬲られている当事者はたまらない。
(ひゃあああああ! だ、誰か、誰か助けてぇ……!!)
 口を開けたらそこに触手が侵入してきそうで、声も上げられない。さすがに耳や鼻の穴に入れるほど触手は細くなかったが、女の子のあそこには入ってきそうだったので、僕はそこを両手で押さえて守っていた。
 もう一つ穴があることを、僕は忘れていた。
 その穴――肛門に触手の先端が触れる。その感触で僕はそこを守ることを思い出したが、その時には遅かった。
 本来何かが入るような場所ではないその穴に、触手は侵入しようと蠢く。
 狭くすぼまっているそこを、押し分けるようにして入ってこようとしている。
 得体のしれない気持ちの悪い感覚に、触手のことも忘れて口を開けて悲鳴をあげそうになったその瞬間。

――何かが僕の体のすぐ脇を通り抜けた。




第二章に続く

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