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『幼女無双転生?』

50万ヒット記念リクエスト
№30『幼女に人生諦めた男が憑依してそのまま人生を奪う話』です。

それでは、続きからどうぞ。

 
『幼女無双転生?』



 ――もう駄目だ。おしまいだ。

 とある高層ビルの屋上で、私は……いや、ことここに至って言葉使いに気を付ける必要はない。もう誰かにこびへつらい、頭を下げ続ける人生にはうんざりだ。
 俺は、この世から去ることにしたのだから。
 強い風が吹き付ける屋上に、俺は立っていた。本来立ち入り禁止のエリアだったが、その気になればいくらでも入ることは出来る。もちろん今後捕まる心配をしないという条件付きだが……。
 ドアを蹴破るのにあんなに苦労するとは思わなかった。ドラマというのは演出上壊れやすくしているのだろう。いまさらながら虚構の出来事だと知る。
 それはさておき。
 俺はビルの屋上から下を見下ろした。
 視界が歪むほどの高さだ。ここから落ちれば、全く何を感じるまでもなく死ねるだろう。
(思えば……俺の人生、いいことなかったな)
 家族は早々に離散するし、奨学金を申請してまで入った大学を出たと思えば、何とか就職した会社は絵に描いたようなブラック企業で、四六時中働いて、身体を壊して、辞めざるをえなくなって、そして借金まみれになって、それを返すためにさらに働いて、なのに借金が増えて。
 細かいことをいちいち口にしたりはしないが、まあ、とにかく最悪だった。
 いまの世の中、俺みたいな奴は沢山いるのだろうけど、それにしたって酷過ぎる。
 俺は深く溜息を吐いた。
「まあ、それも今日までだ」
 死後の世界なんて信じていない。
 輪廻転生が出来るなんて思っていない。
 けれど、少なくとも死ねば最悪の状況を脱することが出来る。
「身寄りがないのが救いだな……」
 迷惑をかける人間はいないから心おきなく死ねるというもんだ。むしろ生きていた方が周りに迷惑をかけるのだから。
 俺はいっそ晴れやかな気分で、一番いい景色になるのを待った。
 夕暮れ時、陽が沈んでいくのを眺める。
 ネオンサインが煌めき始め、綺麗な光景を生み出す。
「……ふつーに、綺麗じゃねえか」
 百万ドルの夜景……みたいな場所じゃないが、十分綺麗だ。それだけで十分だ。
 俺はこの景色がなくならない内に、さっさと人生に幕を下ろすことにした。
「清掃業者の人、すみません」
 強いて詫びるとしたらその人達に対してだけだ。もっと綺麗な死に方をすればいいのかもしれないが、首つりも手首を切るのも嫌だった。
 俺は一息に柵を乗り越え――そして、地面に向かって落下した。
 凄い風圧が顔面に叩きつけられる。落ちる感覚が全身を包んでいる。
 最後まで目を開けていたかった。
 どんどん地面が近付いてくる。
 いよいよ終わる――と思った瞬間。

 最後に、幼女と視線が交錯した。

 たまたまその場を通りかかったのだろう。
 時間にすればコンマ一秒もない時間。
 逆さまになった視界に、その子はいた。可愛らしい子だった。この世の中に何の不満もないというような、そんな無邪気な目。
 その丸い大きな目が、少し見開かれている。
 俺はそんな彼女の目を見詰めたまま、地面に落ちた。
 衝撃は来なかった。ただ、視界が真っ暗になって、何も考えられなくなる。

 そして、俺は死んだのだ。




 次に俺が気付いた時、とても柔らかいベッドの上に寝かされていた。
 白い天井が目に眩しい。ここのところ外で寝泊まりしていたからこうしてちゃんとした寝床に入っているのが久しぶりだった。
 俺は暫く状況を把握出来なかったが、全てを思い出して心の中で溜息を吐く。
(死に損ねた……ってことか)
 まさかあれほどの高さから――しかも頭から――飛び降りたにも関わらず生きているとは思わなかった。
 どれだけ生き汚いのかと自分で自分に呆れてしまう。
 身体は全く動かなかった。瞼は開いたが、それ以外は全く動かない。呼吸をすることさえしんどかった。
 生きているとはいえ、さすがに身体はボロボロのようだ。感覚が全くない。痛みもないのは救いだったが。
(やべーなぁ……医療費とか払えねえし……どーしよう)
 死なせておいてくれればよかったのに、と自分勝手にぼんやりと思う。
 そうこうしているうちに、少しずつではあったが身体の感覚が戻って来た。とはいえ、まだ首の辺りくらいまでだ。首から下は全く動かない。
 とりあえず病院だろうが、周りの状況をよく把握しようと、首を何とか右に倒す。
 やけに広い病室だった。それこそ一日につき万単位かかりそうな立派な部屋だ。
 なんとなく違和感を覚える。
(なんでこんな病室に……? 大部屋に放りこまれてるわけじゃないのか?)
 事故に遭った人間をどういう風に病室に割り振っているのかは知らないが、いくらなんでもこの病室は立派すぎる。
 それに、すぐ傍のサイドボードの上に置かれているものも奇妙だった。
 色とりどりの花束と、お菓子と果物の類。千羽鶴みたいなものまである。
 まるで沢山の人間に好かれている人が入院した時のような、そんなお土産の数々だった。
 もちろん、俺にはお土産を寄こしてくれるような知り合いに心当たりはない。
(……なんなんだ? 一体)
 とにかく身体が動くようにならないとどうにもならない――そう思った時だ。
 病室の扉が開き、誰かが入って来た。やけに綺麗な女性だった。看護婦かと思ったが、それにしては服装が違う。
 俺がぼんやりと見つめる前で、その美人は俺の方を見て、目を見開いた。
 どうやら起きているのが意外だったようだ。
 泡を食ったような表情で、こちらに向かって走って来る。そんなに焦ったら転ぶ、と思った瞬間には転んでいた。
 痛そうな音はしたけど、その人は自分のことなどまるで気にせず、ほとんど這うも同然にベッドまで到達した。
「め、目が……覚めたのね……!」
 転んだ時の痛みのせいなのか、潤んだ目でこちらに呼びかけてくる見知らぬ美人。
 こんな美人にここまで心配されるような覚えは欠片もない。
 訳がわからず困惑するしかない俺に、その人は応えをくれた。

「良かった……! 夏澄ちゃん……っ!」

 俺を見て。
 俺の手を取って。
 その人は、そう言ったのだ。


 どうやら俺は、夏澄という少女――いや、年齢的にはむしろ幼女か――に憑依してしまったようだった。
 霊魂などという存在を信じていたことはなかったのに、まさかそれが実在するなんて思いもしなかった。
(やっべえなぁ……)
 まだ体は上手く動かせなかったけど、それでもこの状況がまずいということはある。この子の精神がどうなっているかもそうだったし、動けるようになったとき、彼女の知り合いとうまくやっていける気が全くしないのだ。
 早くこの子に体を返してあげたいとは思うものの、そのやり方がわからない。
「全く、あの男が自殺なんかするから……」
 ぶつぶつと夏澄ちゃんの母親は呟いている。麻琴というらしいが、実に辛辣な言葉をもう何度聴いたかわからない。その張本人である俺が聴いているかなどわからないだろうが、それにしたって自分の子供が目の前にいるのに散々恨み言をいうのはどうなのだろうか。教育上よくないと思う。割と物騒な言葉も混じってたし。
「夏澄ちゃんはなにも悪くないのよー」
 親としての愛情はあるんだと思う。ほとんど付きっきりで看病しているくらいだ。それを受けているのがその元凶であるというのはなんとも皮肉な話だが、まあ、俺としても久々に肉親の愛情というものに触れられて悪い気はしなかった。
 一般的に見て、いい母親だ。願わくば俺もこんな母親の元に生まれたかったものだが……全く世界はままならない。
 それはそれとして、俺は今後どうすればいいのか本気で途方に暮れていた。俺はどうやって彼女に乗り移ったのかもわからないのだ。当然抜け出る方法もわからない。わからないのではどうすることも出来ない。
 いっそ正直に話してこの母親や色んな人と一緒に解決策を探せばいいのかもしれないが、もしもそれで元に戻れなかった時が気まずすぎる。俺は夏澄という少女の人生を奪った悪人になるし、この両親もいい気持ちはしないだろう。最悪、これが原因でDVに走るようになり、思い詰めて一家心中……なんてことになったら俺は自分とは関係ない家庭まで破滅に巻き込んだ極悪非道の人間になってしまう。
 なんとかして、音便にことを運ぶ方法を考えなければならない。
 しかしそうなるとどうすればいいのか。大して頭がいいわけでもない俺にはわからなかった。
 考えられる方法としては、このまま全てを騙すことだ。俺が乗り移ったことを悟らせず、夏澄ちゃんの人生を乗っ取る。最初は色々と問題も多いだろうが、それなりに時間が過ぎればいずれ俺が夏澄ちゃんとして認識されるようになるだろう。子供のことだし、また自殺現場を目撃するというショッキングな衝撃を受けたから、性格が少し変わったという程度なら問題ないはずだ。
 これが最良の手段とは思わないが、現状取れそうな手段はそれくらいしかなかった。そうと決めたら、徹底的に騙すしかない。
 そのためにも、体が動かせるようになったらいう第一声は決まっていた。
 意識が戻ってから数日経って、ようやくまともに体が少し動くようになった。そういえば体が動かなかったのは、やはり急に別の体に入った影響だったのだろうか。体というのは脳が指令して動かしている物だと思っていたけど、いざこうなってみるともっと大元に何かがあるのではないかと思えてくる。
 それはさておき。
「……っ……」
「どうしたの? 夏澄ちゃん? 無理しなくていいのよ」
 声が出せることを必死にアピールし、母親の耳を近づけさせるのに成功した。声を出すのも一苦労だから、これで少しは楽になる。
 俺は出来る限り幼女の声に近づくように声音を意識しつつ、声を発した。
「……わから、ない? なにが?」
 夏澄ちゃんの母親はそう怪訝そうに問い返してくる。
 俺は再度繰り返した。
「ぜん、ぶ……?  え……? かすみ、ちゃん……もしか、して?」
 記憶喪失。
 その単語が、夏澄ちゃんの母親の脳裏には過ぎったことだろう。


 藤原夏澄という少女は、俺が思っていた以上に愛されている存在のようだった。
 意識は戻ったものの、記憶が無くなったと言う話を聞いて、駆けつけた父親は非常に悲しそうな顔をしながらも、頭を優しく撫でてくれた。
「またこれから楽しいことをたくさんすればいいさ」
 一時は嘆いていた母親も、そのどっしりとした父親の対応に安心したのか、落ちつきを取り戻していた。
「そうね、記憶がなくても夏澄ちゃんは夏澄ちゃんだもの」
 記憶がない上に夏澄ちゃんですらない、なんてことは言えなかった。
 身体が結構動かせるようになった頃、夏澄ちゃんの友達であるという子達がたくさんお見舞いにやって来た。
 夏澄ちゃんが幼稚園児だとすれば、知り合って一年も経っていないだろうに、その友達達は一様に夏澄という幼女のことを心配し、涙を流している子までいた。
 記憶が無くなっているということを話すと、彼女らは一様に驚いたような表情になったものの、すぐに決意を秘めた表情で手を握って来る。
「だいじょうぶ! かすみちゃんとはなにがあってもともだちだもん!」
「そうだよ! きにすることないよ!」
「また、いっしょにあそぼうよ!」
 子どもゆえなのか、まっすぐすぎる感情に、圧倒される。
「ありがと……」
 なんとかそう応えた。罪悪感が半端ない。
 同時に、俺自身のことを正直に話さなくて良かったと思った。
 これがもし「夏澄ちゃんに知らない人の魂が入っている」なんて話になったら、夏澄ちゃんの両親も、この子達もさすがにこんな態度は取らなかっただろう。
 皆が皆、混乱するまま、破滅への道を歩むのを止められなかったかもしれない。
 誤魔化すというのは自己保身もいいところの判断だったが、判断として間違っていなかったのかもしれない。
 そんなお見舞いが終わり、夜になる。
 母親が洗面器と濡れタオルを用意していた。
「それじゃあ夏澄ちゃん。身体を拭いて寝ましょうか」
「はーい」
 いくら異性とはいえ、さすがにこの年代の子供の身体を見て興奮することはない。第一、俺が興奮なんてしたら外から見たら自分の身体に興奮する幼女の図の完成である。さすがにそんな姿を見せたら異常だと判断されてしまうだろう。
 だから素知らぬ顔で、俺は母親の手に任せて身体を拭いて貰った。
「お風呂はもう少し我慢しましょうね。夏澄ちゃんはお風呂すきだもんね」
 その夏澄ちゃんの嗜好を俺は知らない。
「……う、うん」
 だから曖昧な返事しか出来なかった。そのことに、夏澄ちゃんの母親は哀しそうな顔をする。
 どうやら、夏澄ちゃんの記憶が戻るようにと、細かな記憶も突いているようだった。
 もしもこれで本当の夏澄ちゃんが記憶を失っていたとしたら、確かにそれは有効な行為だったかもしれないが……残念ながら、母親のやっていることは無意味である。
 お見舞いの時にも感じた罪悪感はそのままに、俺はその場をなんとかやりすごした。


 中身が違う人間になってしまっているだけで、身体自体は健康そのものだ。
「脳に異常はありませんし、ひとまず退院して様子を見ましょう。恐らく落ち着けば記憶も戻ると思います」
 医者としてはそういうしかないだろう。実際医者の言う通り、身体には全く異常がないのだから当然の判断だ。
 まさか霊的なものが関係しているとは知る由もあるまい。
 俺は夏澄ちゃんの母親に付き添われ、病室を後にした。
「夏澄ちゃん、何が食べたい? 今日は退院祝いで、美味しいものを食べましょう?」
 ここで普通なら好物の名前が出るのだろうが、正直俺は彼女が何を好きだったのか知らない。
 ゆえに、悩む素振りを見せた。
(ハンバーグ、とか言うのが定番で嫌いな子供はいないだろうけど……もしもこの子が変わった嗜好だったら不自然だよな……)
 そんな危険は犯せない。 
 俺は母親のチョイスに任せることにした。
「あんまり……ないかも」
 しかしこの幼女の声音というのは慣れないな。本来いい大人だった俺は、この身体に合わせた声音を出すのに苦労していた。
 はっきり言って恥ずかしい。
 俺がつい俯くのをどう受け取ったのか、母親が慌てた様子で優しい声をかけてくる。
「ミートボールにしましょ。夏澄ちゃん好きだもんね」
 歳相応ではあるんだが、あまりにもそのまんまの好物に思わず噴いてしまいそうになった。
 それを好物が食べられるというような笑顔に演じ変えつつ、母親の手を強く握る。
「……うんっ」
 そんな俺の行動が上手く嵌ったのか、夏澄ちゃんの母親は溢れんばかりの笑顔を浮かべた。優しいながらも強い力で手を握り締められる。
 こんな風に誰かと手をつなぐのなんて、もう何十年ぶりだろうか。
 その暖かさが心に染みた。こんな人が俺の本当の母親だったなら――俺もあんな風に追い詰められはしなかっただろうか。
 本当に、この世は不平等だ。
(いや……待てよ?)
 異常な状態であるとはいえ、いまの俺の身体は確かにこの人の娘だ。本物の親、という奴だ。
(この状況がいつまで続くかもわからないしな……)
 ひょっとしたら、急に成仏することになるかもしれない。
 いや、本来だったらすでに成仏しているはずなのだ。
 だったら、この状況は楽しまなければ損だろう。
(いつかは消える時が来るだろうしな)
 それが明日か一週間後か、それとももっと長いスパンか――それはわからないが、その日を穏やかに迎えられるように、いまはこの幸せを噛み締めておくことにしよう。
 家に向かうまでの帰り道で、俺はこっそり心にそう決めた。


 夏澄ちゃんの部屋は、綺麗に片付いていた。
 この歳の子供としてはちょっと整いすぎているレベルだ。
 それが悪いというわけではないけれど、ここまで俺と全く違うと自分自身を嘲笑してしまいたくなる。
「……ここがあなたの部屋よ。何か、思い出さない?」
 そんな風に聞いてくる母親。やっぱり母親として、娘が記憶喪失である現状を憂いているようだ。記憶を取り戻しそうなタイミングを逃さないようにしているのだろう。だがその気遣いははっきり言って無駄であると言わざるを得ない。
 俺には思い出せるような記憶が元々ないからだ。
「うーん……ちょっと、なんか……ざわざわする、かも」
 けれど、あまりにも思い出さなさすぎるのも問題なので、それなりに思い出しそうなフリくらいはしておく。
 案の定、記憶が反応していると感じたのか、母親は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そう! よかった……ああ、焦る必要はないわ。ごめんね。つい」
 少しフォローが入ったが遅いだろう。本当に記憶喪失だったらきっと申し訳ない気持ちでいっぱいになってるぞ。
 俺にとってはそれ以前の問題だから、申し訳ないも何も関係ないけど。
 夏澄ちゃんの母親はひとまず自分がこの場にいない方がいいと感じたのか、「夕食の準備をしてくるから、ゆっくりしててね」といって去っていった。
 俺は夏澄ちゃんの部屋でようやく一人になり、少し大きくため息を吐いた。
「やれやれ……さて、まずは情報収集から始めるか」
 これから夏澄ちゃんに成りすますには、色々と必要な情報がある。友達の名前とか、好きだったこととか、趣味嗜好のこととか。名前とかなら記憶喪失で済むが、趣味や嗜好まで変わっているのは不自然だろう。
 夏澄ちゃんが日記でも書いてくれていれば最高なのだが、幼稚園児か小学生低学年の子にそれを求めるのは酷だろう。絵日記程度なら可能性はあるかと思うが。
 俺はともかく何かしらの情報を得るため、部屋の中を漁り始めた。
 そうすれば色々と見えてくることがある。
 たとえば服や持ち物のことだ。意識してはいなかったが、こうして彼女の私物を眺めて見ると、明らかに水色系統の物が多い。そういえば病室でも何かと水色が多かったように思う。女の子としてはピンクとか赤の方が好みそうだが、どうやら夏澄ちゃんは水色が好きだったようだ。下手な失敗をしでかす前に知れてよかった。
 水色つながりかどうかは知らないが、どうやらイルカも好きだったようだ。水族館にでも行ったおみやげかもしれないが、イルカのぬいぐるみが多いし、なによりイルカの抱き枕が置かれている。抱き枕を抱いて寝る、なんて習慣を持たない俺にとっては、こういうのは必要なのかどうか疑問なのだが。夏澄ちゃんがそうしていたというのなら、俺もこれを抱いて寝なければならないだろう。
 ……子供がやれば可愛らしいのに、大人がやると考えるとなんだかしっくりこないのはなぜだろうか。
 まあ、今の俺の身体は普通に似合う夏澄ちゃんの体だから問題ないとは言える。
 さておき、俺はさらに物色を続け――クローゼットの中の引き出しで、大量のパンツを見つけた。いまさらながら、この体が女の子の物なのだと強く自覚する。用を足す時など、すでに十分すぎるほど体を見たといえば見ているのだが、いまのように完全に一人になる機会はそうなかった。あっても母親がすぐ帰ってきたり、看護婦が入ってきたりと落ち着かなかった。
 いまは、ひとまず邪魔になるような者はいない。
 俺はつるぺたな夏澄ちゃんの体を見下ろして、ごくりと唾を飲み込んだ。
 幼女体型――ガチ幼女の年齢なのだからそれで普通だ――の夏澄ちゃんの体は、実に整っていると言わざるを得ない。
 なにが整っているか、といえば『おおよそ全て』と答えることが出来るレベルだ。間違いなく将来美人になるのは間違いあるまい。
 そもそも母親が目が覚めるような美人だったし、男だが父親も整った顔立ちをしていた。あの二人の娘なのだから顔がいいのは当たり前だったが、身体までそうだとは思わなかった。
 これが成長して行けば、誰もが羨む存在になれるだろう。
「……ほんと、俺とは大違いだよな」
 極端に不細工ではなかったと信じたいが、イケメンという人種からは程遠かった。別に顔が良ければいいとは言わないが、やはりあるのとないのとでは全然意味が違ってくる。
 出来れば『ある』側の人間になりたかったというのは、何も間違った感情ではないだろう。
 まあ、いまはその『ある』側の人間になってしまっているわけだが。
 それはさておき、俺は部屋の片隅に置かれていた鏡台――全身が見れる鏡の前に立った。
 こうして自分自身の身体を真正面から見るのも初めてだ。病室には胸から上が映る程度の鏡しかなかったし。
 夏澄ちゃんという子供は、本当に可愛らしい存在だった。くりっと丸い大きな目も、すっと通る綺麗な眉も、ぷるんと柔らかそうな唇も、さらりと風になびく濡れたような黒髪も、とにかく想像しうる限りの『綺麗』を詰め込んだような存在だった。
「……磨かないとな」
 まだ幼さが残る身体が、大人の色香というものを身につけたらどんな風になるのか――凄く興味があった。
 俺はさらに彼女の身体を細かく観察するべく、シャツの裾を捲って胸の上まで引きあげる。もちろんこの年代ではまだブラを着けてなどいない。すぐに裸の胸が露わになった。
(さすがにまだまだ子供、って感じだな~)
 胸が大きくなるかどうかはわからない。母親を見る限りはその可能性は極めて高いが、それはもう遺伝の仕事だ。俺には実際どうなるかはわからなかった。
 ともあれ、いまのところはその胸は男のそれとあまり違いがあるようには感じない。もちろん全体的に柔らかそうではあるが、子供ならこの柔らかさも妥当なものだろう。
 俺は何となく裾をまくりあげていない方の手で自分の胸に触れてみた。
 すると、思った以上に強い感覚がその胸の先端から広がった。
「……っ」
 思わず声が出そうになったのを必死に噛み殺す。
 まさかこの場所がここまで敏感だとは思わなかった。触れただけで、背筋を震わせる何かが湧き上がってくる。
 俺はまくりあげていた裾を口で咥え、両手を自由にして胸を揉み始める。その時俺は正直オナニーをしているという感覚じゃなかった。胸から生じる感覚が気持ちよくて、ついつい手を動かしてしまった――そんな感じだった。
 事情はどうあれ、俺の手は動き続け、自分自身へ快感を与え続けるのだった。
 あとから考えれば、身体は幼稚園児並みの年齢だというのに、妙に性感帯としてその場所が発達していたように感じる。普通、幼稚園児くらいの年齢でそこまで感じるなんてことはないだろう。そう考えると、俺が身体に入ってしまったことによる変化とみるべきなのかもしれない。
 まあ、その時の俺は細かいことなど考えず、ただ気持ち良さを追求していただけなのだが。
 胸を弄ることによる快感も弱くなってきた頃、俺は狙いを変える。
(……あとは……下、だよな……)
 女の子として、最大の秘部。
 用を足す時には当然見ることになっていたその場所を、別の意味を持って見つめる。
 スカートとパンツを同時にずり降ろす。その場所に恥毛は一切生えておらず、未成熟な女性の秘部が露わになった。
 さすがに愛液がどろどろ流れるような、ありがちな変化はなかったが、ぷっくりと膨らんで絶妙な熱を持っていることを感じる。
 男のそことは全く違う場所。そっと指先を這わせてみる。
(……っ!)
 電流が流れたような感覚だった。ただ指で触れただけなのに、腰から背筋にまでざわざわとしたものが走る。
 このまま触れ続けるのが躊躇われるレベルの衝撃だった。ちゃんと弄っていけばどれほどの快感が得られるのか――怖いほどに、興味深い。
 俺がその未開の地を探索しようとした時――
「夏澄ちゃーん。御飯よー」
 遠くから夏澄ちゃんの母親が呼ぶ声がした。
 慌てて服を戻し、返事をする。
「はーい!」
 いいところで止められて一瞬不満がくすぶったが、そのままやり続けていたら制御が利かなくなっていたかもしれない。
(ある意味、助かったと言えなくはないか……)
 単純に没頭するだけならまだしも、呼んでも来ないことを訝しんだ母親が部屋に踏み込んで来ていたかもしれない。
 そうなったら、不審な目で見られることは避けられなかった。
(まあ、この身体を弄る機会はいくらでもあるか……)
 そう考え、名残惜しさを感じつつも、俺は母親の呼びかけに応じて、素直にダイニングへ向かって部屋を出た。


 その後、なんだかんだと身体の観察を行う機会が中々取れなかった。
 母親と一緒にお風呂に入ったり――これはこれで不自然にならないように装うのに苦労した。人妻とはいえ、まだ若い女性の裸を前にして冷静でいられるほど、本来の俺は老成していなかったからだ。夏澄ちゃんの母親だけあって凄く綺麗な身体で、人妻という+αもあって物凄くエロかった――同じ布団に入って寝たり――母親の身体は暖かく、物凄く穏やかな気持ちで眠ることが出来た。エロい意味ではなく人肌の安心感というのはこんなに素晴らしかったのかと感動してしまったくらいだ。まあ、元々の俺はいい大人だったし、異性的な意味で布団を共にする相手なんていなかったということもある。
 久しぶりに誰かに守られているという実感を持って休めたので、心も身体もよく休むことが出来た。
 やはり、人の暖かさと言うものは人が生きて行く上で絶対必要なものだと確信出来たほどだ。元々の俺も、一人になってしまったからこそ、あんな失敗した人生を送ったのだと思う。
 だから俺は、改めて心に決めた。
 何の因果か、こうして夏澄ちゃんに乗り移ってしまったのだ。
 いつ自分が消えるかもわからないが、いつ消えても後悔しないよう、人との繋がりを大事にしつつ、いい人生を送れるように頑張ろう。
 そして。
 男の俺が、女になったらやりたかったことも、やってみよう。
 折角性別が違うのだから、それはやらなければ損だと思う。俺がかつて男だった時、女だったら……と思うことは沢山あった。やってみたかったそれらのことを、的確にやって行けば、きっとこの人生は楽しいものになるはずだ。
 二度目の人生を歩むつもりで、俺は――私は、生きて行こう。




 『天才少女現る!』、そんな見出しの踊る新聞の記事がいくつもアルバムに纏めてあった。
 私は少し溜め息を吐きつつ、母さんに向かって言う。
「こんなに一杯残してたんだね」
 大掃除で出て来たアルバムを見て呟いた私の言葉に、母さんは誇らしい笑みを浮かべる。
「もちろんじゃない! 自慢の娘が取り上げられている記事を捨てるわけにはいかないでしょう?」
「……別に残しておかなくてもいいのに」
 本当にそう思う。私は単にもう一つの人生の記憶があったから天才っぽく振る舞えただけで、実際、二十歳を過ぎる頃には周りとほとんど変わらないようになっていた。
 もちろん、幼い頃からそれなりに努力はしたから結構エリート階級には昇りつめたけど、所詮は人並みのことだ。
 私が子供の時から自重しなかったのは、その時にしか出来ないことを先にやっておくためだ。
 一時期天才少女と持て囃されたおかげで、テレビなどのマスコミに注目されまくった。その時のギャラは基本親の口座に振り込まれていたが、それでも十分な資金を確保するための布石にはなった。親といい関係を築いていたおかげで、その全てを私に残しておいてくれたのだ。世の中には子供を利用して金を稼ごうとするあくどい親もいるというのに……まあ、それも含めて私の努力の賜物と言えるけど。
 おかげで私はバイトをするまでなく、様々な意味で資金を潤沢に手に入れた。時間を消費せずにお金を大量に得られたという事実はデカい。
 それを使って何をしたかは一言では言えないが、普通の高校生や大学生が出来ないようなことをたくさんした。
 子供の頃から気をつけていたおかげで、家族との関係もずっといいものになっている。反抗らしい反抗もしなかったから、それは当然だ。特に父親に対しては普通よりもずっと優しく接しておいた。おかげで父親はいまだに私のことを猫かわいがりしていて、ちょっとの我がままなら即座に聞いてくれる程度にはなっている。
 順風満帆。とても充実した人生を私は過ごしていた。
 荷物を片づけていた母親が、そういえば、とばかりに口を開いた。
「そういえば、冬紀ちゃんはどうしてるの? 去年は一緒にうちに帰って来たじゃない?」
「冬紀なら施設に顔出しにいってる。年末は忙しくなるから、それの手伝いも兼ねてね」
「あの子もいい子よねぇ……苦労してきたとは思えないくらいに」
 母さんの言う通り、冬紀はいい子だと思う。ちょっとさびしがり屋すぎるところはあるけど、懐いてくれればあれ以上に可愛い生き物はいない。
 冬紀は、私が現在一緒に暮らしている大学時代の後輩だ。
 色々と経緯は省略するが、大学で仲良くなってそれからルームシェアとして一緒に暮らしている。
 もっとも、彼女と一緒に暮らしているのは、『私』というよりは『俺』としての思惑も絡んでいるのだが。
「明日には私もあっちに帰るし、たぶん冬紀も帰って来るんじゃないかな」
 一人暮らしが一人暮らしでなく、誰かと一緒に暮らしているということが、こんなに楽しいことだなんて知らなかった。
 まあ、冬紀との生活が楽しいのは単に家族がいるという理由だけではないけれど。


 夏澄という幼女の身体に憑依して二十年。
 私の中からはいまだに『俺』という人格が消えていなかった。当初はそんなに長持ちしないと思っていたこの憑依生活だけど、気付けばもうすっかりこの身体にも慣れ、むしろ本来の持ち主よりも長い時間をこの身体で過ごしている。
 天才少女としてテレビで活躍したり、子供の時からスポーツに打ち込んでハイレベルプレイヤーになってみたり、十年も前から準備して最高学歴を取得してみたり……かつての自分ではあり得なかった無双状態、チート状態の人生を謳歌した。
 そして、その人生の象徴とも言える存在――冬紀の存在は、私にとって最大の収穫と言えるかもしれない。
 元々は捨てられた孤児だった彼女。気を張っていた彼女にいい先輩として近づき、仲を親密にし、いまでは一緒に暮らしているさえいる彼女。
 彼女自身は自分の顔が嫌いだというが、その美しさ、可愛らしさは、子供の頃から磨いて来ているはずの『夏澄』の身体並みだった。
 だからこそ、手に入れたという経緯もあるのだが。
 冬紀と自分の共同の家で、のんびり彼女が帰って来るのを待っていると、冬紀が帰って来た。
「ただいま戻りました、夏澄さん」
 距離を置いているわけではなく、こちらが年上だということで冬紀は普段は敬語を使う。
 正直どうかと思ったけど、『やる』時にはその口調が崩れ、さらに可愛らしくなるので許容している。
「おかえり、冬紀。どうだった?」
「皆元気そうでした。今期の子供達は皆引き取り先が決まっているので、平和なものでしたね」
 洗面所で手洗いうがいをし、冬紀がリビングに入って来る。
 そして、冬紀は私の座っているソファの、私のすぐ傍に腰を降ろした。
 私はそんな冬紀の腕を引いて、自分の方に引きよせると、その唇に自分の唇を合わせる。冬紀も抵抗なくそれを受け入れ、むしろ向こうの方からさらに深い繋がりを求めて舌を伸ばして来た。
 そのまま、しばらく私達は口づけを交わし、離れる。
「……うふっ。軽いキスのつもりだったのに、舌を伸ばして来るなんて、そんなに寂しかったの?」
 冬紀の耳元で囁いてあげると、冬紀は少し顔を赤くした。
「……夏澄さん、いじわるです」
「ごめんごめん。冬紀がいなくて、私が寂しかったから、冬紀もそう思ってくれてたらいいなぁ、って思っちゃってね」
 からかうように笑って見せると、冬紀はふい、と顔を背けた。
「……わたしだって、寂しかったに決まってるじゃないですか」
 そんなことをか細い声で、拗ねたようにいうものだから、私は益々冬紀が可愛く見えた。
(あー、もう! 冬紀は可愛いなぁ!)
 全力でそう叫んでしまいたかったけど、一応『先輩のお姉さん』面をしている私としてはそんなことを急に叫ぶわけにはいかなかった。
「今日の夜はちゃんと、いつもより念入りに可愛がってあげるから……ね?」
 もう一度甘い声で囁くと、冬紀は顔を真っ赤にしながらも、期待を込めた瞳で頷いた。

 乗っ取った夏澄の人生が、この上なく満たされたものになっているのを改めて実感した。
 一度惨めに死んだはずの『俺』は――いま『この人生』を楽しく生きている。
 
 
 
 
『幼女無双転生?』 終 
 
 
 
 

Comment

No.1451 / 七篠権兵衛 [#-] No Title

リア充爆発しろ!

いやはや、思いのほか真面目な雰囲気
精力が増強された影響でイベントが一つ二つあるかと期待してたりして
何はともあれご馳走様でした

2013-12/01 01:58 (Sun)

No.1452 / AA [#-] No Title

百合ENDかあああ…いや、ごめん。
普通に面白いし、百合に罪は無いんだけど、俺が個人的に百合ENDが無生産的で苦手で…

2013-12/01 08:13 (Sun)

No.1453 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

七篠権兵衛さん、コメントありがとうございます!

> リア充爆発しろ!
ほんと爆発しろ!ですよねえ(笑)
充実したいい生活を送っていくことと思います。なんて羨ましい……

> いやはや、思いのほか真面目な雰囲気
私自身、当初予定していたものより、真面目な感じになってしまった感があります。
もっと欲望に忠実に動く人間が憑依するのでも良かったのかなー、と書き上がってから思いましたが……

> 精力が増強された影響で~
そういうイベントを入れた方が良かったでしょうかね……
それ系のイベントを入れることも考えたんですが、どうしても上手く入れられなかったので省略しちゃいました……いまから思い返せば、一シーンくらいは入れても良かったかな―と……。

> 何はともあれご馳走様でした
お粗末さまでした。楽しんでいただけたなら幸いです。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-12/02 00:01 (Mon)

No.1454 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

AAさん、コメントありがとうございます!

> 百合ENDかあああ…いや、ごめん。
百合はAAさんのお気に召さなかった様子……残念です。

> 普通に面白いし~
ありがとうございます。趣味に合わなくても面白いと言ってくださるとありがたいです。
考えてみれば、百合endに持っていく必要はなかったかもしれませんね……リク内容を考えると。
ついつい自分が好きな要素をなんでもかんでも入れてしまうのはまずいかもしれませんね……よく考えます。
……非生産的なのがダメなら、百合でも子供が出来るようになれば……(ボソッ)

それでは、どうもありがとうございました!

2013-12/02 00:07 (Mon)

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