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『スライドール』 最終章

『スライドール』の最終章です。
それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『スライドール』 最終章
 


 病院の廊下を、車椅子に座った少女が進んでいく。
 彼女の車椅子は電動式のもので、誰も押さなくとも前に進んでいくように出来ていた。少女はその操作を一切していないようだったが、車椅子は自動的に角を曲がり、目的の場所へと向かっている。
 そんな彼女のすぐ傍らには、一体のロボット犬が追従していた。
 いかにも機械的なフォルムをしたその犬は、そのことから見ても介護用ではないようだったが、時折車椅子に向けて指示を出し、イレギュラーな通行者と車椅子が接触しないようにしていた。やっていることは通常の介護用ロボットと変わらない。
 そんなロボット犬が、車椅子に座っている少女に向けて、言葉を投げかける。
『久しぶりに病室の外に出た気分はどうだ?』
 ロボット犬の問いに対し、車椅子に座っている少女は、少しだけ間を空けてから答えた。
「……普通ね。良くも悪くもないわ」
 感情の籠もらない言葉を認識しているのか、ロボット犬は暫しそんな彼女の様子を見てから、改めて言葉を紡ぐ。
『それならばいいのだが。それはさておき、サン』
 少女の呼び名らしき名前を放ったロボット犬だったが、少女はそれに対して怒りの表情を向ける。
「ねえ、その名前で呼ばないでくれる? 私は陽子。サンなんて呼び名は知らないわ。あなたと私がどういう間柄で、どう会話していたのかは知らないけど、今の私にとっては、はっきり言って不愉快だわ」
 明確に嫌悪を口にされたロボット犬だが、元より機械のロボット犬は特に声を荒げることはなかった。
『いや、そもそも我々は日常的な会話を交わしたことはなかった。事務的な話ならばあったが、私語をするほど関わりのあった者同士ではなかったな』
「それは、前にも聴いたけど……」
 陽子ことサンは、理解しがたいという顔をする。
「前にも聴いたけどさ。なんでそんなあなたが私の世話をしてくれるの? そりゃ、手足が動かない私を助けてくれて、助かってるけど……正直、あなたにそうする理由はないでしょう? マスター契約を結んでいる相手がいなくなったからって、何も私を選ぶ必要はなかったんじゃ……」
 現在、彼女は両手両足が動かない状態にあった。傍目から見ると全く傷があるようには見えないが、彼女が動かそうとしてもその手足はほとんど動かなかった。
 ロボット犬から聴いた話では、フィードバックが調整されていないスライドールを操っている際に、両手両足を切り飛ばされたのが原因だという。
 彼女の身体自体の神経が千切れた訳ではないため、リハビリ次第でまた動くようになるとのことだったが、それは遠い道のりだった。その間の生活補助を申し出たのが、ロボット犬だ。しかし、彼女の記憶にはロボット犬の記憶がなく、なぜそうしてくれるのか理由がわからなかった。
 ロボット犬は、なぜ助けてくれるのか、という陽子の問いに、特に躊躇なく答えを返す。
『託されたからだ。お前の安全を確保するように、と』
「……誰に? って決まってるか」
 そう言ってサンが見詰める先には、とある病室が存在した。


 スライドールは世界中で支持される娯楽である半面、一種の機械兵士としての需要も当然ながら存在する。戦争などで使われるもっとロボットらしい遠隔機械兵士も存在していたが、スライドールほど人間に似せたものは存在していなかった。
 戦争に活用出来ないように開発者がプログラムを組んではいたが、それを上回るアンダーグラウンドの勢力は一定数存在していた。
 ツキやサンを使っていたオーナーもその勢力の一つだったが、同時にあまりに強すぎる存在を抱え込みすぎたため、別の勢力から恨みも多く買っていた。
 そのため、他の勢力からの襲撃を受け、組織は崩壊してしまったのだ。
 多くの犠牲者を出した抗争であったが、その騒ぎを聞いた市民からの通報を受けて駆けつけた警察に被害はなかった。
 襲撃された組織の防衛システムは襲撃者が内通者を通じて破壊していたし、襲撃した側の違法スライドールは全滅してしまっていたからだ。
 たった一人で戦い抜き、全ての襲撃者を倒したと思われるスライドールも破壊されていたため、結果として警察は後始末としてその場を検めるだけで良かった。
 結果、確保されていた拉致監禁の被害者を保護し、違法行為に身をやつしていた客や従業員など、多数の逮捕者を出した。

 ただ、組織を管理していた主催者――オーナーの身柄だけは、今もまだ不明のままだった。


 その病室は、複数人用の病室であったが、その中は静かなものだった。たまたま他の患者は席を外しているのか、病室に人の気配はない。
 ロボット犬が扉を開け、車椅子に乗った陽子が病室の中に入る。
「……久しぶり……なのよね。全然そんな気がしないんだけど」
 四つある内の一つのベッドに近付いた陽子が、そのベッドの上で眠っている少年に声をかける。
 上門寺葉月という名前の少年は、目を覚まさなかった。
 そんな彼の様子を見た陽子は、痛ましげに目を細める。彼女の記憶は、誘拐された直後で途切れていた。それから何カ月も時間が経過していたが、その間の記憶は彼女の中に一切ない。だから、彼女にしてみれば、彼が自身を助けるために奔走したという事実も、実感のわきにくい事柄ではあった。
「……本当に、葉月は、もう目を覚ますことはないの?」
 陽子が問うと、お座りの体勢になっていたロボット犬が答える。
『現代の医療技術では難しいと思われる。上門寺葉月は死のフィードバックを受けてしまった。お前が四肢を動かせなくなったのと違い、上門寺葉月の場合は脳にその影響が出ている。少なくともその状態から回復した例は、公的に確認されていない。無論、今後技術の向上によって覚醒させられる可能性はあるが』
 その応えを聞いた陽子は、悔しげに顔をしかめた。
「……葉月の馬鹿。誰が、そこまでして助けてくれって言ったのよ……」
『お前たちは恋人同士ではなかったのか?』
 何気ない問いに、陽子は苦笑を浮かべる。
「そんな関係じゃなかったわよ。幼馴染ではあったけどね。……まあ、家族、みたいなもんだったかしら」
『ならば、お前を助けるために命を賭けるのも妥当ではないか?』
「……ロボットのくせに、わかったような口を聞くのね」
 溜息を吐く陽子。ロボット犬は何も言わなかった。
 陽子はギリギリまでベッドに近付き、葉月の顔をじっと見つめる。
 生きていることを示すように、呼吸音はしているが、限りなく脳死に近い状態だ。自然に目を覚ますことはない。
「……ねえ、ロボット犬」
『なんだ?』
「この状態になった人間の治療方法は見つかってないのよね?」
『そうだな。最初にこの状態になった人物は、いまだに意識を失った状態にある。延命治療は続けられているが』
 そう、と陽子は頷き、強い決意の瞳をまっすぐ前に向けた。
「ロボット犬。政府からの要請があったわよね」
 淀みなく答えていたはずのロボット犬の応答が一瞬遅れた。
『……ああ。お前の空中適性は非常に稀有な才能だからな。飛行ユニットの実用に乗り出したい政府としては欲しい人材だろう。空中を行く人材が確保出来れば、それだけで戦略の幅も広がるしな。あらゆる状況を想定しなければならない政府にとっては是が非でも得たい存在だろう』
「要請を受けるって返答しておいてくれる?」
『いいのか? 折角日常に戻れたのに、また争いに身を投じることになるぞ』
 政府からの申請とは単純なものだった。
 飛行ユニットを扱える陽子に対する、政府に所属する機関である『機兵団』への勧誘。
 抗争の鎮圧や要人の護衛など、様々な面でスライドールのような遠隔機械人形やサイボーグは役に立っている。最近ではアウトローな組織もその手の兵隊を使うようになって来ているため、そういった存在に対する対抗勢力として、『機兵団』は大きな役割を担っていた。
 類稀なる素養を持つ陽子が、その組織から勧誘されるのも自然の成り行きだった。通常の兵士と違い、機械との相性や、何よりも素養がなければこの手の兵士は成り立たないため、どこも人材不足は否めない。
 陽子はその組織に所属することで、そこの保護を受けると同時に、葉月を助けるための目的を抱いていた。
「公的に、脳死状態になった葉月を治す術がないなら……」
『非合法組織が蓄えている独自の知識を探そうというわけか』
 そもそも飛行ユニットからして、あのオーナーが開発した、実用に足る世界初の技術である。ならば、当然他の技術に関しても、存在していておかしくはない。
 回復不能とされている脳死状態から回復させることが出来る技術が、存在しているかもしれない。
 それを探すためには、それを取り締まる立場になるのが最も早い道であることは確かだった。
『延命治療もタダではない。被害者ということで多少の補償金は出るとはいえ、何年も維持できる金額ではないからな。お前の判断は妥当と言えるだろう』
 ゆえに、短期間の内に何らかの解決策を見出さなければならない。
 それを踏まえると、政府の組織に所属して解決策を見出すのが一番の道であり、逆に言えばそれ以外の方法では時間がかかりすぎる。
『政府機関の力を借りれば安全も確保出来るだろう。お前の容姿であれば広報的にも歓迎だろうな』
「……そういう意図の解説は要らないんだけど」
 そういう意図もあるのではないかと彼女もわかってはいたが、実際に口に出されていい気はしない。
『わかった。了承の旨を伝えておく』
「あんたはどうするの? 別に私にずっと付いてなきゃいけないってこともないでしょ?」
『いまの段階では他に目的がないからな。いましばらくはお前のサポートに徹しよう。俺のような自立志向型ロボットが武器を装備することは国際法で禁じられているが、斥候やオペレーターとしてならばお前の補助として活動できる』
「ん……わかった。一応ありがとうって言っておくわね」
 陽子は再びベッドに眠る葉月を見て、強い言葉で決意を露わにする。

「次は私が葉月を助ける番ね」
 
 その決意を胸に、陽子は病室を去った。
 相変わらず眠り続ける葉月は、穏やかに時を過ごし続ける。
 
 
 
 
~『スライドール』 終~
 
 
 
 

Comment

No.1372 / 名無しさん [#-]

むしろこれから本編が始まりそう|ω・`)チラ

2013-10/08 00:54 (Tue)

No.1373 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

コメントありがとうございます!

> むしろこれから本編が始まりそう|ω・`)チラ
長いプロローグでした。ここからが本番です……って書けませんよ!?(笑)
確かに続きが書ける構成ですので、いずれ違う形でリベンジしたいなー、とは思ってます。
とりあえずは無理のあった設定などなどを調整したり、時間軸をずらしたり、立場などを考えて、じっくり形にしていきたいと思います。
……いつ出来るかは、正直わかりませんけど!(笑)

それでは、どうもありがとうございました!

2013-10/08 01:15 (Tue)

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