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『スライドール』 第九章

『スライドール』の第九章です。
それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『スライドール』第九章
 


 彼女が行方不明になったという話を聞いたのは、夜のことだった。

 学校からの帰宅中、忽然と姿を消してしまった彼女――天上崎陽子を探し回る中、上門寺葉月はいつかこうなるのではないかと思っていた。
 彼の幼馴染みである陽子は非常に美しい少女で、アイドルやモデルになっていないのが不思議なほどだった。それは彼女の両親が十分な成功者で経済的に問題がなかったということや、彼女が見世物になることを嫌う性格だったということもある。
 余計な視線を無遠慮に浴びる彼女のことを護らなければならないと幼心に感じていた彼は、その誓いが守れなかったことを悔やんだ。
 どうしてその日、一緒に帰らなかったのか。そんな後悔だけが葉月を苛んでいた。
 いざとなれば犯行グループの元に単騎特攻も辞さない構えで、葉月はいたくらいだ。
 しかし、彼女を誘拐したグループからの連絡はなく、苛立ちばかりが募る日々を過ごす。
 彼女がいなくなってから二週間が経過した頃だろうか。

 犯行グループから、彼にだけ連絡があった。

 陽子の親に連絡せず、まず自分に連絡が来たことから、葉月はその誘拐犯の目的を半ば悟った。
 陽子自身を狙ったのではなく、彼女と親しい自分を狙ってのことだということを、悟った。
 葉月の親自体は大した稼ぎもない研究者ではあったが、彼は自分が狙われる理由というものに心当たりがあった。
 末端とはいえ、親も開発に関わっていた、世界の娯楽を変えた『スライドール』という名の模擬戦闘人形。
 そのテストプレイヤーとして、無敗を誇る自分の戦歴。
 本来健全なはずの『スライドール』が、アンダーグラウンドな世界で、違法な賭けごとに扱われていることは彼も知っていた。
 自身が狙われる理由はそれだけで十分だ。表に出ていないはずの戦歴をどこから聴きつけたのか疑問ではあったが、情報社会である現在、どこからでも情報は漏れるものだと理解していた。
 そして実際、指定された場所に行った先で、オーナーを名乗る男は、葉月の戦歴を元に取引を持ちかけてきたのだ。
「あなたが私のグループに所有するスライドールとして、興業に一定以上の貢献をしていただければ……天上崎陽子さんは解放しましょう」
 あまりにも予想通り過ぎて、葉月は呆れてしまったくらいだ。
 しかし、予想出来ていようと、すでに陽子が浚われてしまっている現状、その場は大人しく従うしかなかった。
 葉月が了承すると、オーナーは満足そうに頷いたものだ。
「陽子さんとあなたにはコンビを組んでもらいます。その方があなたもいいでしょう?」
 こうして、天上崎陽子と上門寺葉月はコンビとして、アンダーグラウンドの『スライドール』に身を投じることになった。
 陽子のスライドールには過去の記憶がインストールされておらず、葉月は彼女と始めて会う体で彼女に――サンに接した。
 人前に出るのは嫌いでも、人に懐くのは早い陽子はすぐに葉月と――ツキと打ち解けた。
 ツキとサン。
 二体のスライドールは、共に戦う運命共同体。
 そのはずだった。




 次々放たれるサンの銃弾を、ツキは紙一重でなんとか避けていく。
(っ、くそ……っ! 動きが……鈍い……っ)
 実際には紙一重でかわしているツキだが、彼の感覚で言えばもっと余裕を持って避けているつもりだった。
 最狂のスライドール、カエデとの戦いの影響が如実に表れている。リミッターを外して彼女とやりあった結果、ツキのボディはすでにボロボロだった。外傷だけではなく、無茶な駆動のせいで内部も破壊寸前に陥っている。
 そんな満身創痍な状態でサンの銃撃をかわし続けるツキはそれはそれで常軌を逸しているが、逃げ続けて勝てるわけではない。
 急に争い出した二体のスライドールに、唖然としていた観客達も、徐々にそれに順応し、騒ぎ始める。汚い罵声や野次が飛び、それ以上の歓声がわき上がる。
 それを意識の片隅に押しやりながら、ツキは冷静にサンの攻撃を見極めていた。
(いつか、必ず仕掛けてくるとは思っていたけど……まさか、このタイミングとは、ね……!)
 ツキはいずれサンと自分を戦わせるのではないかと予想していた。いくら契約を交わしたといっても、相手は無法者だ。それが確実に守られる保証はどこにもなかったし、契約が守られると信じるほどツキは純粋ではなかった。
 それでもツキが契約に乗ったのは、そうするしかなかったということでもあり、彼女が酷い目に合う可能性を少しでも減らしたかったゆえだ。
 少なくとも契約を交わしている以上、オーナーも表面上は取り繕わなければならない。全く何の制限もなく好き勝手されるよりはマシ――そんな風にツキは考えていた。
 また、ツキにはツキの考えがあり、それが成就するまでの時間稼ぎの意味もあったのだが――こうなってはそれも意味がない。
 ツキは弾幕を霞めて一気に距離を離す。
(まずい……このフィールド、逃げ場も隠れ場も……!)
 カエデの希望だったのだろうが、今回展開されているフィールドは余計な物が何一つないフィールドだ。カエデとの戦いでは何の影響もなかったフィールドだが、遠距離攻撃を主とするサンと戦うには非常に不利な地形と言わざるを得ない。ただの遠距離砲撃主であれば、銃弾をかわしながら接敵して斬り捨てることも可能だっただろうが、サンは特別なスライドールであり、空戦能力を持つ。
 刀しか持たないツキが、空中にいるサンを仕留めるには跳び上がるしかなく、跳べば当然無防備になってしまう。サンの空戦能力はまさに縦横無尽であり、下手な突撃は餌になりにいくようなものである。
(状況が悪すぎる……!)
 もしもサンと戦うことになった時のシミュレートは散々行って来ていた。そのための仕込みも一応は行っていた。
 だが、超近接戦闘に特化したカエデとの戦闘の直後に、サンとの戦闘が畳みかけてくるのは想定の外だった。もっとも、仮に想定出来ていたとしても、カエデと戦うためには近接に特化するしかなく、結果は同じだっただろうが。
(狙えるとすれば……弾切れ)
 スライドールの扱う銃器の弾数は、限りなく無限に近いが有限だ。サンのように空を飛ぶことにもエネルギーを使用している場合、その弾切れは通常よりも速く訪れるだろう。
 といってもそれは何時間単位のことであり、現状のツキがそれほどの長時間サンの弾幕を避け続けられるかといえばそれは否だった。
(近接戦闘に切り替えさせる……無理だな)
 遠距離に特化したスライドールが、わざわざ近接戦闘に特化したスライドールに近付くことはまずない。
 サンの人格がそのままであれば可能性はなくもないが、いまはオーナーの命令を愚直に守る人形モードだ。挑発に乗りはしないだろう。
(なんとか足場を作りたいところだけど……このボディじゃ難しい)
 例えば、地面か壁を切り裂き、それを放り投げることで空中での足場を作ることは可能だ。
 だがそれはパワータイプのスライドールが出来る芸当であり、スピード特化のボディでは満足に足場を生み出す前に打ち抜かれてしまうだろう。
(仲間がいれば……な)
 仲間が一人いるだけで状況はずいぶん変わって来る。だが、その仲間になるべきサンが敵な以上、仲間の援護は望めない。
 ロボット犬を説き伏せれれば、とも思うが、完全に戦いに関わって来るつもりがないらしく、カエデの亡骸をフィールドの端に寄せて以降、全く動く気配がない。オーナーから待機の命令が出されている可能性もある。助力を期待出来そうになかった。
(と、なれば……あとは)
 地表面から空中ユニットの破壊を狙う。
 それしかない。
 ユニットを破壊するだけの攻撃を加えるのだから、下手をすればサンを破壊してしまう危険がある。そのリスクが大きい。
 だが、そうするしかない。
 ツキは覚悟を決めた。
 刀を下段に構え、サンの攻撃を見極める。
 サンの銃口が自分を向き、その中から大量の銃弾がばらまかれた。
 極限まで研ぎ澄まされた集中力の中で、ツキは飛来する銃弾を一つ一つ、器用に弾いて周囲に散らす。
 それは針の先の穴を通すような精密な動きを要求されるもので、負傷している状態でどこまで出来るのかはわからなかったが、それでもツキはやりきった。
 まんべんなくツキの周囲に着弾したそれらが、炸裂して塵芥を巻き上げる。
 空中から見ているサンにしてみれば、煙幕によって地表面が覆い尽くされたのと同じだ。
 それを感じるとサンは即座に高度を取った。煙幕の中からツキが跳びだしてきても対処できるように、慎重な姿勢だった。
 そんな彼女目掛けて、斬り取られた地面の塊が飛来する。
 高度を取っていた分、避ける必要がない。サンは銃弾をそれに撃ち込み、破壊する。
 それと同時に、その投擲の影になる位置から、サンの背後に回り込もうと地面を疾走するツキの姿をサンは捉えた。
 単なる目くらましでしかないとサンが判断し、ツキに正面を向けるように身体を反転させる――

 その背中に広がる翼に、ツキの刀が突き刺さった。

 刀が空中制御ユニットを破壊し、サンの身体は持っていた浮遊力を失って落下し始める。
 ツキが放り投げた土台の影に隠して刀を投擲し、遮蔽物の影から飛び出すことで自分にサンの注意を引き付けたのだと理解できたものはほとんどいなかった。
 もしサンが身体を反転させなければ刀が正面からサンを貫いていただろう。サンにしてみればそれは九死に一生を得たことだったが、ツキにとってはそれが狙いだった。
 飛行ユニットを破壊されたサンは地面に向かって落下する。その着地点に向かってツキは駆ける。
 サンは落ちながらも銃を乱射し、ツキの接近を牽制する――が、当たらない。
 ツキにとって正面からの弾幕など恐れるに足りないかわしやすい攻撃だ。機動力が下がっているとはいえ、正面から自分を狙ってくる銃撃ほどかわしやすいものはない。
 サンが地面に接地するとほぼ同時に、ツキはその懐に踏みこむ。翼に突き立ったままだった刀を引き抜くため、素早くサンの後方に周り込む。当然サンもそれを防ごうと身体を反転させるが、ツキはまるでワルツを踊るように最短距離でサンの背後に回り込み、回転の勢いそのままに軽く跳躍しながら刀を引き抜く。
 刀を手にした瞬間、ツキはさらにその身体の回転を加速し、斬撃に勢いを付ける。
 サンが振り向くのと逆回転となり、相対的に威力は遥かに向上した。
 ツキの刃が、サンの握る銃を真っ二つに切り裂く。
(よし……!)
 飛行ユニットを削り、刀を取り戻し、遠距離武器を破壊した。
 この状態ではサンがツキに勝てる要素はない。 
「遠距離武器破損――近接戦闘に移行します」
 そう呟いたサンが機械的に近接戦闘に移行するが、それを得意とするツキにとっては願ったりかなったりだった。
 剣を引き抜き、斬りつけてくるサンの攻撃を避け、刀でその剣を弾く。人間相手であれば剣は弾き飛ばされていただろうが、スライドールゆえにその剣を簡単に手放しはしなかった。
「初撃回避されました――二次攻撃に移ります」
 さらに連続で攻撃を繰り出すサンだが、ツキはそれを造作なく受け流した。
 ツキに受け流されるに従い、サンの攻撃は徐々に精彩さを欠いて行く。本来であれば剣を弾き飛ばされているだろう衝撃でも無理に持ち続けているため、その負担が蓄積していっているのだ。
「右腕部ダメージ蓄積――駆動に支障が生じています」
 だが、それはサンだけの問題ではない。
 ツキもまた、無茶な駆動が祟ってその動きは鈍くなりつつある。
(ダメか……! くそっ、案外隙がない……!)
 首だけを飛ばすのが理想の倒し方だったが、それは諦めざるを得なかった。
 ツキはその目を鋭く細める。これで最後、とばかりに最後の力を振り絞る。
(……サン、ごめんっ!)
 剣を弾いて、相手の体勢を大きく崩す。腕を軋ませながら返す刃でサンの右腕を二の腕辺りで斬り飛ばした。
 血を模した循環液が噴き出し、歓声が大きく高まる。
 それでサンが動きを止めればよかったのだが、サンはそれでも左手で殴りかかって来た。
 ツキはそちらも同様に切断し、サンから攻撃方法を奪う。地面を滑ってサンの背後に回り込み、両方の膝の裏を切り裂く。
 倒れ込んだサンにのしかかり、完全に動きを封じる。この時点で勝敗は完全に決していた。
 ツキが最後にサンの首を飛ばそうと刀を振り被った時。

 サンの瞳に、光が灯った。

 瞼を瞬かせて、サンが無表情を崩して呆けた表情を作る。
「あ……れ……? ツキ?」
 その時、ツキは振り降ろすべきだった刃を振り降ろせなかった。
 守るべき相手の意思が――サンの人格に対して、刀を振り下ろすことを一瞬ためらったのだ。
 そしてその躊躇いは、取り返しのつかない結末に二人を追い込むことになる。




 特別観戦室。
 オーナーは勝負の決した試合を、冷めた目で見つめていた。
 その隣で同じように試合を観戦していた解説者のキルは、感嘆の息を吐き出す。
「いやー、裏社会で展開していたのが惜しいくらいの名勝負だったなぁ。しっかしツキの奴、まさかカエデだけじゃなくサンまで倒すか……さすがにもうボロボロみたいだが、とんでもねえな」
「……こんなことなら、最初からサン自身に戦わせていれば良かったですね」
 つまらなさそうにオーナーが呟くのを、キルは興味深そうに尋ねる。
「なんでだ? サンってそんなに強かったっけ?」
「才能はあったと思います。以前ツキ自身がそう言っていましたから……まあ、その才能を伸ばさず、あえて伸ばさなかったのはこうなることも見越してのことだったんでしょうけどね」
 そのオーナーの話に、キルは不思議そうな顔をする。
「なんだそれ? じゃあ、ツキはいつかサン自身と戦わされることも読んでたってのか?」
「予測の内ではあったのでしょう。確かに読まれやすい展開ではありましたからね」
「……そつがなさすぎてムカツクな。ガキらしくねえっていうか……もっとうろたえて無様を晒してくれた方が興業的には美味いのに」
 そんなキルの完全な興業側の理論に、オーナーは苦笑しつつも同意する。
「ほんとですねえ……もっと必死になって足掻いて欲しかったものです。……とはいえ、そんな程度のメンタルしかない相手じゃ、カエデさんは満足しなかったでしょうけど」
「あいつはマジで戦闘狂だったよなー。……つーか、あいつもツキもいなくなったら、うちのとこの戦力ガタ落ちじゃね?」
「それは仕方ないですね……まあ、戦力過多だった感はありますし……あまり勝ちが込み過ぎると恨まれてしまいますからね」
 そんなオーナーの言に、キルは苦笑する。
「いまさらだなぁ……カエデは結構長いこと使ってたし、恨みはとっくの昔に買ってるだろ」
 いまだって襲撃受けてもおかしくねーぜ、とキルは笑う。
 オーナーはそれを受けて苦笑いを浮かべた。
「大丈夫ですよ。セキュリティは万全ですし……まあ、内側から手引きする人がいれば話は変わって来るでしょうか……ツキもそうですが、スライドールのプレイヤーは全員外部との連絡は取れないようにしてありますし」
 それもそうか、とキルが納得する。
「それで?」
 キルは話を変えた。
「あいつら……っていうか、ツキの処分はどうするんだ?」
「まあ、人形化して娼婦として使いますよ。最強のスライドールを自由に出来るとなれば需要も多いでしょうし」
 そんな風に二人が話している中、会場内は「殺せ」コールが巻き上がっていた。どうやらツキはサンを抑えた状態で躊躇っているらしく、動きが止まっていた。
「さすがのツキも、ああなっては動けませんか……さて、どうしましょうかね」
「いっそこっちで制御して斬らせるか?」
「まあ、それでもいいんですが……何もしないってわけにもいきませんしね」
 オーナーがそう言って、何かしら操作しようとした時――突如、警報が鳴り響いた。
 それに俊敏に反応したオーナーが立ちあがる。
「これは……!」
「噂をすればって奴かよ!? いや、でもどうやって!?」
 さすがのキルも焦るが、オーナーは的確に動き始めていた。観客であるホログラムの接続を切り、誰がこの試合を見ているのかをわからなくする。
「皆さんに詫びを入れなければなりませんね……ひとまずは手の空いているスライドール達に迎撃を……」
 そうオーナーが判断に、指示を出し始めた時。
 特別観覧席の入口が爆発した。
 扉の破片が部屋中にまき散らされる。
「なっ!?」
「もうこんなとこまで! セキュリティは万全じゃなかったのかよ!?」
 咄嗟に物陰に隠れながら、オーナーとキルは叫ぶ。
 そんな風に二人が騒ぐ部屋の中に、重い金属の塊が転がる音がした。
 その正体を二人が悟る前に、部屋の中が強烈な爆風と閃光に包まれた。




 フィールドに面する特別観覧席の窓が炸裂した時点で、ツキは事態がこの上なく深刻なことを悟った。
 がろんどうになった観客席の、外に通じる通路から次々完全武装したスライドール達が滑り込んでくる。
(や、ばい……っ!)
 スライドール達の動きは躊躇いがなかった。
 フィールドに取り残されたツキとサンを見つけると、一斉に銃を構え、二人目掛けて銃撃を撃ちこんでくる。ツキは咄嗟にサンを抱えてその馬鹿から緊急退避を行った。
 ツキのいたところが爆発し、その銃の威力にツキは戦慄する。明らかに試合ではありえない連射と破壊力だった。
 試合ではない襲撃なのだから、違法改造をしているのだろう。
(やばい……退路が塞がれてる……!)
 いかにツキが最強でも、サンを抱えながら対応しきることは難しい。ただでさえいまは損傷が激しく、まともに駆動することも難しい。
(……くっ……さっきのタイミングで刀を振るっていれば……!)
 一撃で首を飛ばしていれば、まだ衝撃は和らいでいたかもしれない。しかし、いまの銃の猛攻を受けては一溜りもないだろう。
 サンを抱えながら逃げ続けるしかなくなっていた。
 弾幕はツキを的確に追い込む。
 いよいよツキが逃げ場を失いそうになった時――別の銃弾が数人のスライドールにヒットする
 カエデの傍にいたロボット犬が、油断していたスライドール達を撃ち抜いたのだ。
 だが、襲撃してきたスライドール達は重武装であり、ロボット犬の軽い銃撃では致命傷にはなりそうにない。
『やはり、ダメか。ならば、これだな』
 ロボット犬が煙幕弾を掃射する。
 視界が遮られた襲撃者達は、同士撃ちを恐れて発射を控える。
 その間に、ツキはロボット犬の傍に寄った。
「悪い。助かった」
『気にするな。もはや試合がどうこうという状況でもないからな……しかしどうする? 出入り口は固められているだろう。わたしの武装では奴らにダメージを与えることは難しい』
「なあ……お前にサンを任せてもいいか?」
『……構わないが、どうするつもりだ?』
「適当な一か所の出入り口に絞って敵を倒す。そこからお前はサンを連れて逃げろ」
『……お前はどうするんだ?』
「俺は奴らを足止めする。サンを頼んだ」
『死ぬぞ?』
「覚悟はしてたさ」
 素早くやり取りをするツキとロボット犬。
 ロボット犬は最終的にツキの判断を尊重することにしたようだ。
『わかった。サンを背中に乗せろ』
「……ツキ……?」
 サンは状況がよく呑み込めていないのか、よくわからないという様子だった。
 ツキはそんなサンを安心させるように微笑む。
「大丈夫だよ、サン。これだけの騒ぎになったんだ。きっと警察も踏みこんでくるはず。助かるよ。日常に戻れる。……怪我させちゃって、ごめんね」
 ツキは少し離れていたところに落ちていた刀の鞘を拾い上げる。
 それに刀を収めた。

「――どうか、幸せに生きて」

 ツキはサンの反応を待たずに走りだした。
 その後ろを、サンを背に載せたロボット犬が続く。
 気配で気付いたのか、通路の前に立ちふさがる襲撃者達がツキに向けて銃口を向ける。
 ツキは最後の力を振り絞り、その銃が火を噴く前に刃渡りの範囲に敵を収める。
 超速で振るわれた抜刀の斬撃が、そのスライドールを重装備ごと一閃で斬り捨てる。
「……っ、いけっ!」
 ツキは出入り口に立ち塞がるように立ちながら、ロボット犬とサンを通路に逃がす。
 サンを逃がしきるために、ツキは他の襲撃者達と対峙する。
「……お前達の目的は俺だろ? 逃げも隠れもしないから、全員纏めてかかってこい!」
 大声で挑発を飛ばし、ツキは刀を襲撃者に向けて構えた。
 襲撃者たちはそれに応えるようにして、一斉にツキに向けて殺到する。
 
 それから数十分後、騒ぎを聞きつけた警察が踏み込み――多数の被害者を生んだグループ同士の抗争は鎮圧された。
 
 
 
 
~『スライドール』最終章に続く~
 
 
 
 

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