FC2ブログ
  1. Top
  2. » スポンサー広告
  3. » 50万ヒット記念
  4. » 『洗脳針』

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  • ジャンル :

『洗脳針』

50万ヒット記念50本リクエスト
№25『改造シーンがある脳改造もの』です。
 
それでは続きからどうぞ!

 
『洗脳針』
 


 世の中には人体改造というものがある。私の雇い主である教授はその世界的権威だ。
 ただ、内容が多少違法と見なされかねないものではあるので、裏社会的な意味での権威だけど。
 人体改造にも様々な種類があって、教授が得意とするのは主に脳に対する改造だった。教授の手にかかれば、人格変更から記憶操作、様々なものを自由に特定の物に誤認識させるなど、とにかく色々な意味で改造を施すことが出来る。
 それはただ脳をいじるというだけではなく、その人間自体を自在に変えてしまうということから、『人間改造』とさえ称されるほどだ。
 私はそんなすばらしい技術を振るう教授のことを、心から尊敬している。


 私の朝は、教授を起こすところから始まる。
 教授は基本的にベッドで寝ない人だ。いつも研究室の机に座ったまま、突っ伏して寝ている。はっきりいって体に悪そうだから何度もベッドで寝るように言っているのだけど、聞き入れてもらえたことはない。空調はいつも室温を適正に保っているから風邪を引く心配はとりあえずないけれど、それでも体にはよくなさそうなのでいつも気になっている。
 私は教授の研究室に入り、ドアをノックする。
「教授! おはようございます教授!」
 声を張り上げ、繰り返し何度もドアをノックする。返事はない。
「失礼します!」
 仕方なく扉を開くと、毎朝恒例の光景が広がっていた。とにかく散らかった部屋のど真ん中、机に突っ伏して教授は眠っていた。
 この部屋は昨日も整理整頓したはずで、私が退出した時にはちゃんと片づいていたはずなのに、どうやったら一晩でこんなに散らかるのだろうか。
 私は溜息を吐きながら大急ぎで散らかされた部屋を片づける。なるべく音を立てないよう、静かに、迅速に動いていく。
 この部屋の中にある全ての物の定位置は記憶している。千以上ある物品の全てを把握するのは、普通の人間ならばかなり厳しいだろう。けれど、私はそれをこともなげに出来る。
 これも、教授の一つの成果だ。
 私は散らかった部屋を片づけて、再び教授に声をかける。
「教授、起きてください。教授」
 椅子に座っている教授の斜め後ろに立ち、手を伸ばして肩を揺する。教授は不機嫌そうに唸り、無意識にだろう。肩を動かして私の手を払おうとする。
 そのだだっ子のような教授の所作に、ついつい微笑んでしまう。
「教授。眠いのはわかりますが起きてください」
 再度そう声をかけながら揺すると、教授が顔をあげた。
 しばらく周囲を見渡していたかと思うと、突然覚醒したのか、勢いよく立ち上がる。
「おおっ。いかん、寝てたのか!」
 少し慌て気味にそういった教授は私の方を見て、相好を緩ませる。
「おはよう。今日の予定は把握しているか?」
「おはようございます。はい。記録しています。今日は午前中に新しい素材が到着する予定となっておりますので、『作業』をお願いいたします」
「オーケー。やれやれ。今度はどういう要望だったかな?」
「基本的にはいつもと変わらない要望ですね。彼氏のいる素材の記憶を変更して、依頼人がその立場にいるようにしてほしいとのことです。あと、素材の認識をいじり、依頼人の容姿を最高だと認識するようにしてほしい、と」
 とても簡単な内容だった。教授の技術があれば造作もないことだ。実際、教授もつまらなそうに依頼内容を聞いていた。
「普通だな……もっと色々いじってみたいんだが……まあいいか。それは趣味でやるとしよう。ビジネスはビジネスだからな」
 教授は技術を磨くことに余念がなく、探求心が強い。けれど、同時にビジネスをきちんとそれとしてこなすだけの良識がある。自分勝手なだけじゃない。
 こういうところをいまの若者に見習ってもらいたいものだ。
 教授が着っぱなしになっていた服を着替えるのを手伝う。
「シャワーは浴びられないんですか?」
「んー? まあ、一昨日風呂には入ったしいいだろ。どうせ今日は素材以外に会う予定もないし……ないよな?」
「はい。今日は見学希望の依頼人ではございませんので」
 教授は良識は持っていても、あくまで研究者だ。必要でないことはしない主義。だからこのことについて特に私から文句をいうことはなかった。
 真新しい白衣に着替えた教授は、私が用意していた朝食を手早く食べて、早速実験室……否、改良室へと向かった。
 そこには、すでに作業員の手によって、『素材』が運び込まれてきていた。
 その『素材』は部屋に入ってきた教授の方を見ると、凶暴な顔をして唸る。
「ちょっとあんた! これはどういうことなの!? この変な器具を外しなさいよ!」
 生きのいい『素材』だった。この『素材』の生きの良さというのは、その『素材』によってかなり前後する。今回みたいにひっきりなしにかみついてくると思えば、黙り込んで何も言わない『素材』もいる。その多種多様な『素材』の違いをものともしない教授は本当にすごいと思う。
 その『素材』は一般平均的な容姿をしているように見えた。確か情報によると純粋な日本人だったはずだから、明るすぎる茶髪は染めているのだろう。この年頃の少女にはよく見られる傾向だ。背はおおよそ平均的で、体重は少し軽め。ピアスやタトゥーの類はないようだから、本当にそのあたりでもよくいる学生と変わらない。
 そんな彼女がこんなところに『素材』として運ばれてきたことに少々違和感を覚えるけど……まあ、そういうこともあるのだろう。
 彼女は裸である椅子に拘束されていた。この椅子は教授が贔屓にしている道具屋が開発したもので、体の各部を的確に拘束して固定することが出来る器具だ。また、耐水性などにも優れており、それによって洗浄や手入れが楽になっている。
 四肢をからめ取られているだけではなく、その拘束は胴体や頭部にも及んでいた。胸の上下にベルトが走り、首は椅子の背もたれの部分から飛び出したアームのようなもので固定されている。さらに鉢巻きを捲くような形で、彼女の額もその場所に固定されていた。
 いまの彼女にある自由は、見ることと喋ることに準じる体の動き――瞼の開閉や、顎を動かしたり空気を吸い込んだりといった動き――と、手首と足首から先の動きだけだ。それ以外のところの動きは徹底的に封じられている。
 首を動かせないので、その目線だけが動き、私や教授のことを睨んでいた。そこには殺意が籠もっている。
 教授はそんな『素材』の殺意を無視して、のんびりと準備を進めていた。もちろん、彼女が発した質問に対する応えなど返さない。
「オーケー。それじゃあ改造を始めようか」
 肩を回して気合いを入れながら教授が呟く。教授は彼女の背後に回り、その椅子に仕込まれた装置を動かし始める。
 当然後ろに目などついていない『素材』は、教授が何をしているのかも見えないため、恐怖に声を震わせていた。
「ちょっと……やめてよ……何する気かわからないけど、ふざけな――びぎゃ!」
 言葉を発しかけていた彼女の声が途切れ、その体を震わせる。彼女の体を固定しているものから電撃が流れたのだ。それによって意識を刈り取り、必要以上に暴れられないようにする。
 もっとも、教授の実力があれば、意識を残したままでも改造出来ることは出来るだろう。以前そんな実験もしていた。散々暴れて喚いてやかましかったけど、問題なく改造は出来ていた。ただ、やっぱり依頼人から任された仕事であることを考えると、確実な方法の方を取るのは正しい選択だといえる。
 一度電気ショックを食らった『素材』は、時折体を震わせ、茫洋とした目では何がその目に映っているかもわからない。気絶したのだろう。その股間から黄色い液体がこぼれだしていた。拘束椅子にはそれを排水する機能がついているため、問題ない。
「よし、じゃあ始めるぞ」
 教授は『素材』の座る椅子の背後に立って、様々な器具を並べていた。
 まず教授が手にしたのは、細い細い針が先端についた注射器のようなもの。針の反対側は電気コードが延びていて、一つのパソコンにつながっている。
 その針の先端を無造作に『素材』の頭に突き刺した。
「……ぅぁ?」
 意識を失っていても、その感触を感じたのか、小さく呻く。指先が明らかに意志とは違う何かの作用で痙攣した。太股のあたりの筋肉が同じように痙攣して、固定しているベルトが小さく軋む音を立てる。
 さらに教授は同じような器具を次々『素材』の頭部に取り付けていった。その針の長さは様々で、それはその針が到達する深さが違うことを示している。
 一通り教授が作業を終えると、ハリネズミのような状態になっていた。
「……さて、と。こんなもんか」
 教授はそれらの器具につながっているパソコンに複雑な指示を打ち込んでいく。
 その動きが反映されているのかはわからないが、『素材』の体はしきりに痙攣していた。時にはひどく強い力で蠢いているらしく、椅子全体が軋む音さえする。
 そんな作業をしばらく続けた教授は、舌でぺろりと唇を湿らせた。
「ほい、これで接続完了、っと」
 軽い調子で呟き、教授はエンターキーを押す。すると、『素材』は一度大きな痙攣をして、全く動かなくなった。その停止具合は、機械が電源ボタンを切られた時のように唐突で、そして訪れた機械的なまでの硬直だった。
 瞬きも、眼球の動きさえなく、呼吸も止まっているのか胸も膨らまず、肩も上下しない。人間だったはずのそれがまるでただの人形になってしまったかのようだった。
 実際には必要最低限の生命活動はしているはずなのだけど、この光景を見る度にそんな気持ちになる。教授が行ったのは運動中枢の支配だ。小脳という体の制御を司る部分の働きを乗っ取ったのだ。正確には小脳だけではなく、大脳運動野や脊髄小脳路、そして頭頂葉だとか……様々な部位の働きをまとめて支配しているらしい。詳しいことは教えてもらえていないのでよくわからないが、とにかくそうやって『体を動かす』という脳の動きを丸ごと乗っ取ってしまっているのだ。
 だからいまの『素材』は教授がパソコンによって指示を出す通りにしか体を動かすことは出来ない。必要最低限の生命活動だけをさせることなんて造作もない。
 これで暴れられる心配はほぼなくなった。
「……よし、確認作業に映る。質問することに正直に答えろ」
 教授がパソコンに複雑なコマンドを入力しながら、そう『素材』に向けていう。『素材』は素直に「はい」と答えた。
 ただしそれは、人間的な感情の響きがいっさい籠もっていない、機械的な返事だったけど。
「おまえの恋人は誰だ?」
「真路幸助です」
「いつから知り合った?」
「幼稚園入園時です」
「いわゆる幼なじみって奴か……どこまで関係は進んだ? セックスはしたのか?」
「いいえ。キスまでです」
「ふぅん。最近の若い奴らは仲良くなったらすぐセックスしてるもんかと思ったが……そうでもないのか」
「友達は進展が遅すぎる、と言ってきます」
「なんだ、おまえ等が特殊なだけか……ちゃんと愛し合ってるのか?」
「はい。それは確かです」
「おまえはそいつのことが好き?」
「はい」
「仮に別れ話を切り出されたとしたら?」
「きちんと事情を話してもらいます。その上で理由が納得出来ないものであれば、考え直してくれるように頼みます。私に悪いところがあれば直します」
「じゃあ、別れたり忘れたりすることは考えられない」
「ありえません」
 はっきりとした言葉。
 それを受けて、教授はなぜか笑った。それも、単純な笑みじゃなく、この世の悪意という悪意をまぜこぜにして煮込み、ドロドロに溶かしたような、そんないかにも『邪悪』という言葉が似合うような、そんな笑みだった。
 教授は満足したように質問を切り上げる。
「よし、訊きたいことは訊いた。それじゃあ、メインの改造に入るか」
 両手の指を鳴らして、教授は気合いを入れる。
 その指がパソコンのキーを高速で叩き始めた。かなり複雑な脳を改造するためには、相当複雑なコマンドを打ち込む必要がある。
 かなりの電気信号が『素材』の脳に送り込まれているはずだけど、さっきまでと違い、『素材』の体はぴくりとも動かない。ただ、極まれに眼球だけが痙攣するように動いていた。
 十数分はかかっただろうか。それまでひっきりなしにキーを叩いていた教授がその動きを止める。疲れたように肩を回しながら、深く息を吐いた。
 私はそんな教授に、用意していたコーヒーを持って行く。
「お疲れさまです。教授、コーヒーをどうぞ」
「おお、サンキュ。仕事の後のこのコーヒーがうまくてなぁ」
 教授はコーヒーを啜りながら満足そうに呟く。
「改造終了だ。確認と後片付けは任せた。テストモードにはしてあるから」
「はい、承知しました」
 存分に教授がブレイクタイムを満喫出来るよう、私は早速確認を始める。
 『素材』の前に立ち、手元の資料を見ながら質問を投げかける。
「あなたの名前は?」
「羽泉麗子です」
「あなたの恋人の名前は?」
「土御門大次郎です」
「真路幸助という名前に心当たりは?」
「ありません」
「では……」
 ここで私は二枚の写真を印刷した書類を、彼女に向ける。
 今回の依頼人である土御門様と、彼女の本来の恋人である真路幸助の写真だ。
「この二人の内、あなたの好みの容姿はどちらですか?」
「土御門さんの方です」
 写真に名前はついていない。きちんと容姿と名前が一致して認識出来ているようだ。
「ちなみに、土御門様ではない方の容姿についてはどう思われますか?」
「強い嫌悪感と忌避感を感じます。隣の席に座りたくもないです」
 そちらの認識の変更についても、問題はなさそうだ。
 私は一通りの質問を終え、教授に向けて頷いた。
「問題ありません、教授。改造は問題なく成功しています」
「うん、当たり前だけどな。それなら良かった。あとは依頼人のところに送り届けるだけか。後始末と合わせて、そのあたりの処理もお前に任せる」
「承知しました」
 教授は私の返答を確認すると、立ち上がった。
「じゃあ、俺は一足先に休ませてもらうからな。お前もそれが終わったら俺の部屋に来い」
「はい。了解しました。ごゆっくりおやすみください」
 教授がいなくなった部屋で、私は後処理に取りかかった。




 私が教授の部屋のドアをノックすると、今度はすぐに応答が返ってきた。
「失礼しま――」
「万里江!」
 挨拶をしながら部屋の中に入ると、いきなり大きな声で私の名前を呼ばれた。見ると、簡易型の拘束椅子に縛り付けられた年若い女性がいた。ろくに動けない状況にありながら、必死な形相でこちらの名前を連呼してくる。
 その高い声に若干不快感を覚えながらも、教授の前だったから表情を歪めないように注意し、その呼びかけを無視しながら教授に声をかけた。
「教授。全ての作業を終了いたしました」
 うるさく叫ぶ『誰か』の背後に立っていた教授は、なぜか笑みを浮かべながら私の報告を了承する。
「ああ。ご苦労だったね、万里江。これから俺はこいつを使って遊ぶつもりなんだが……お前も参加するか?」
「恐縮です」
 私はとりあえずそう答えておいた。特に何の興味もわかなかったのだけど、教授が誘ってくださったことを拒否するわけにはいかない。
「万里江!? なにを言ってるの!?」
 さっきからうるさすぎる。なんで私の名前をこの人は連呼するのだろう。

 私の記憶には、この人の名前も姿も記憶されていないのだけど。

 わめき続ける彼女のことをさすがにうるさく思ったのか、教授が彼女の口を特殊な器具で覆う。それによって彼女は喋れなくなった。
「んー! むーっ!」
「黙っていろ。……さて、万里江。こいつのことがわかるか?」
「わかりません」
 わからないことは訊いてみよう。
「その人は誰なのですか?」
「ああ、少し前に手に入れておいたものでな。……そう、ちょうどお前を採用してから数日後くらいだったか。お前を探してこの研究所に忍び込んで来たんだよ」
 私を探して、と教授は言った。私は首を傾げる。
「私を……? どういうことですか?」
 教授は思しそうに唇を歪めた。
「こいつから話を訊いてみたけどな。お前とは恋仲にあったとか言ってるぞ?」
 その言葉を聞き、私はすごくイヤな気持ちになる。
「は?」
 思わず不機嫌な声が出てしまったけど、幸い教授はそれを気にしていないようだ。
「何を言っているんですか? 私は彼女のことを知りませんし、そもそも女性同士で恋仲などありえません」
 恋仲とは男女を指す言葉のはずだ。女性同士でそれは特殊な性癖を持つ人だけが持つ変態的な性質だろう。
 そんな、当たり前のことを言っているだけなのに、なぜか椅子に縛り付けられたその人はまるで世界の終わりのような、絶望に満ちた表情を浮かべる。
 教授は相変わらずの笑顔だ。
「そうか。つまりお前に言わせればこいつは変なことを言っている不審者ってことだな。体を交えるほどの恋仲にあって、そいつのためなら命を捨ててもいいとまで思った、とてもとても愛しい人……ではない、と。そういうわけだ」
「当たり前です」
 なぜこの人がそんな勘違いをしたのかわからないけど、私はそんな異常性癖者ではない。普通に男性が好きだ。そう、目の前の教授のような人が。
 教授は私に待機しているようにいい、再びその人の口枷を外した。
「……と、いうことらしいが?」
 教授に対し、その人はまるで目線で殺そうとしているかのような、凄まじい目を向けた。思わず教授が怯んだのを私は見逃さなかったけど、それも仕方ないと思われるくらいの迫力だった。
「な、にをしたのよ、この……キチガイ!」
 暴言にもほどがある。私に言わせれば彼女の方が気が狂っているのだけど。
 教授もそれをよくわかっているのか、余裕たっぷりの様子でそれに応じた。
「何もしてないさ。ちょっと頭の中をいじりはしたけどな。正常にしてあげただけだぜ?」
「何が正常よ! 確かに、私たちの関係は世間からは受け入れにくいことだったけど……確かに、幸せだったのに!」
 涙を流しながらそう叫ぶその人の表情を見ていると、微かに胸が痛む。これはかわいそうな人に対する同情の痛みだろうか。
 教授は口角を持ち上げて笑った。
「その理論で行くと、幸せならそれでいいんだろ? だから……お前も幸せにしてやるよ」
 教授が例の器具を取り出す。椅子に縛り付けられている彼女は、その教授の動きが見えていないため、口汚い言葉で教授を罵り続ける。
「私たちが異常者ならあんたはキチガイよ! さっさとこれを外して、万里江を元に戻しーーれあとおえうつよsだおjちつrうぇおっ!?」
 教授が彼女の額に洗脳針を突き立てる。
 途端に彼女の口からはまともな言葉が出なくなった。
 目を見開いて驚く彼女に対し、教授が説明をしてあげていた。
「いま前頭葉の言葉の発音を司る部分にこいつを突き刺した。まともに喋れないだろ?」
「えれりおぢあえkpvきえぱえこあこrpwこfそ!!」
「まあ、破壊してるわけじゃないし、まだ何もいじってないから変になるだけで済んでるけどな。たとえばここで……」
 かちかち、と教授が機器を操作する。彼女の眼球がぐるぐると回り、涎や涙を流しながら彼女が呻いた。
「……これで、よし」
「さえいskd……あ、うぁ……? な、何をしたのよ『ご主人様』……!?」
 思わず言ってしまった、というような調子で彼女は言葉を放ち、自分で自分の発言に驚いていた。
「な、なにこれ『ご主人様』ーーっ!? ど、どうなってるの『ご主人様』!」
「なあに、ちょっと脳をいじっただけさ。自動的に言葉の最後に『ご主人様』をつけるようにな。それ以外のところはいじってないから、違和感がすごいだろ? 色々めんどいからしないけど、やろうと思えばお前自身は全く意識しないままに『ご主人様』と言わせることも出来るんだぜ。これを突き詰めていくと、本人が全く意識しないまま、一連の性行為を行わせることも可能だ。さすがにそこまですると調整がめんどいから滅多にしないけどな……以前そういう依頼が来たときは大変だったな……実入りはよかったが」
 教授の仕事を手伝っている私にしてみればそれくらいは常識だったけど、彼女にとっては信じられないことだったみたいだ。
「ど、どうやったらそんなことが『ご主人様』……っ」
「色々と試行錯誤した結果……といっておこうか。さすがに口頭で説明をしきれないし……」
 教授が別の洗脳針を取り出した。それを彼女の側頭部に突き立てる。
「……っ」
「さて、いま俺はどこに針を刺したでしょうか?」
 楽しそうに教授はいって、機器を操作する。
「どこ、って……?」
 どうやらいまの操作で語尾に『ご主人様』とつける命令は解除したみたいだった。さすがに教授の凄さがわかったのか、彼女の勢いも少し減じているように見える。
「いまはいわゆる側頭葉に刺した。そこは知識とか記憶を司るところでな……だから」
 今度の教授の操作は、少し複雑だった。
「こんなことが出来る」
 何かしらの操作をしたようだったけど、見た目に違いは生まれない。わからないからこそ、彼女も不安そうにしていた。
「……今度は何をしたの?」
「目の前の万里江を見てみろ?」
 その言葉に従って、彼女は私の方をみる。そして、口を開いた。

「彼女、万里江さんっていうの?」

 さっきまで私のことを呼び捨てにしていたというのに、いきなり今度は知らない人のように言われた。どうやら教授が操作して彼女の中から私の記憶を消したらしい。いや、私の方に彼女の記憶はなかったし、『知り合いだった』という記憶をあらかじめ埋め込んでおいて、いまそれを消したのかもしれない。
 その方が理屈には合う。
「何を言っているのかわからないと思うが、こういうことも出来るってわけだな。記憶の操作。一番大事な人を単なる他人にすることも出来るってわけだ。いうほど簡単なもんじゃなかったけどな……」
 疲れたように溜息を吐く教授。その吐息には彼がここまで来るのに越えてきた苦労を物語っている。
「まあ、ここまで来たからこそ、俺はいまこうして思う存分楽しめてるってわけだ」
 もう一つ取り出した洗脳針を、今度は彼女の後頭部から頭頂部にかけての斜め方向から突き刺した。途端に、彼女の身体がびくん、と震える。
「……ぇあ!? な、なに、いまの……っ」
「ここは頭頂葉……いわゆる体性感覚を支配するところだ」
 教授が機器を操作すると、彼女が自分の胸を見て目を見開いた。
「っ、なにっ、これ……ぇ……!?」
 私には何が起きているのかわからなかったけど、その答えはすぐに教授が説明してくれた。
「どうだ? いま胸を揉まれている感覚を与えている。実際に揉まれているわけではないのに、はっきりと揉まれているように感じるだろ? これを使えば……」
 素早く教授が機器に指示を打ち込むと、突然彼女が腰を震わせて悲鳴をあげた。
「いぎっ!? 痛いいたいいたいいたいいいいいいいいっっ!!」
 ほとんど金切り声というほどの、凄まじい声だった。
「いま与えているのは、慣れていない人間にフィストファックをした時の痛みだ。それはもうヒドい痛みらしいな。身体が真ん中から裂けてしまうほどの痛みだとか……」
 そう教授が説明している間にも彼女の悲鳴は続き、その股間を覆う布にシミが浮き上がり、アンモニアの臭いがし始める。あまりの痛みの刺激に、失禁までしてしまったようだ。
「実際には身体は全く傷ついていないんだけどな……全く、情けない奴だ。まあ、無理はない。実際の痛みと寸分違わない痛みを体験しているんだから」
 慣らしもせずにいきなりその痛みをたたき込まれたのだから、仕方ないといえるかもしれない。
「まあ、逆にこんなことも出来るんだけどな」
 教授がそう呟きながら新たなコマンドを機器に入力する。
 彼女の悲鳴が止み、一瞬惚けたかと思うと、その顔が急に上気し始めた。
「はぁ……はぁ……こ、こんどは、なんなの……?」
 もどかしそうに、彼女は身体を揺する。その目はとろけていて、いかにも快感を覚えているといった様子だった。
「媚薬中毒になって、全身が性感帯になっちまった奴の体感覚を与えてみた。全身がまるで性器になってしまったかのような感覚だろ? 別に開発されているって感じでもなかったし、そんなもんじゃないかもしれないけどな……全身クリトリスになっちまったような感覚か」
 しばらく放置しているだけで、彼女の身体は火照り、股間は違うもので濡れ始めた。あまりに大量に分泌されるせいで、まるでまた漏らしてしまったかのように見える。
「これには利点も多いが、欠点が一つあってな……」
 教授は彼女の肩を掴む。彼女は一瞬身体を硬直させたが、すぐに不思議そうにその硬直を解いた。息を荒くさせつつも、肩を掴まれたことによる強い感覚は特に影響を及ぼしていないようだ。
「あくまで感覚を脳に直接与えているだけだから、身体からの感覚自体がそうなっているわけじゃないんだよ。それをするためには別の方法が必要だからな……まあ、とはいえ、時間はかかるがこれを応用すれば、媚薬を使いすぎることによる中毒を心配することなく、お前を快楽狂いに出来るってわけだ」
「……ど、う、いう……?」
「つまり、お前の頭の中にそういう神経回路を作っちまえばいいんだよ。『触れられたら強い快感を覚える』ように教育すればいいわけだ。調教に近いかもしれないな」
 それと違うのは、と教授は笑う。
「すでにはっきりとした感覚は過たず与えられているわけだから……確実に、開発して、調教できるってことか。そして……」
 教授は私の方を見て、笑う。
「本来そういう調教は主人となりたい俺が直接しないと意味がないわけだが……ある手を使うことでそれも問題なくなる」
 教授は装置を使って一端彼女の意識を飛ばした。


 装置を操作すると、彼女はすぐに気を取り戻した。
「……っ、ま、万里江! どこ!?」
 記憶は戻しておいたので、私のことも彼女が最初に言っていた通りの関係だと思っている。私はそれに嫌悪感を覚えつつ、彼女の前に回り込んだ。
「起きたか?」
 そう声をかけると、彼女は殺意を込めた目で私を睨んできた。
「あんた……万里江をどこにやったの!? 返して!」
「お前のもんじゃないだろうに」
 私は素で溜息を吐きながらそう答えた。
「残念だけど、そういうわけにもいかなくてな。お前には教授……いや、俺の物になってもらうぞ」
 教授の口調を真似ながらそういうと、彼女は嫌悪感で顔を歪めた。
「絶対に、お断りだわ!」
「そうかい。まあ、せいぜいがんばってくれ」
 そんなことをいっても、直接脳をいじられれば記憶も感覚も感情も人格も意味をなさない。教授からはなるべく元の素材を生かしたまま刃向かう気にならなくなるように調教しろと指示を出されている。
 彼女の素を残すということは、反撃を許してしまうかもしれない。まあ、その場合でも殺されるのは私だからいいのだけど。

 彼女はいま、私のことを教授だと認識している。

 脳をいじって、認識をいじっているのだ。私の声や姿を教授のものとして認識するように。逆に教授の声や姿は現在私のものとして認識されるようになっている。
 もしも私が調教に失敗して、彼女が教授と思っている私を殺しにかかってきても、死ぬのは私であって教授ではない。
 本物の教授の姿は助けようとしている私として認識しているわけだから、安全だ。
 私は教授の役に立てていることに満足しながら、調教の準備を始めた。
「さて、それじゃあ、せいぜい楽しもうか」

 私は洗脳針を手に彼女に迫った。




『洗脳針』 終
 
 
 
 

Comment

No.1291 / 七篠権兵衛 [#-] No Title

ついに半分まで到達しましたね、お疲れ様です
がっつり改造する前半と意識があるまま実験する後半、どちらも楽しませてもらいました
昔の恋人を弄らせるのも中々に鬼畜で好きです
まあ、失敗するんでしょうけども

ただ、記憶操作に行く前に肉体操作をやるのかと思ったら質問しだしたので少々混乱しました
運動機能云々の後だと命令した事しか話せないんじゃ、みたいな
また、『素材』の意識の有無が分かりにくいような
起こす描写も無かったですし、確認する時も肉体操作したままじゃ意味が無いんじゃ?と思った次第です
失礼しました

2013-08/26 01:49 (Mon)

No.1294 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

七篠権兵衛さん、コメントありがとうございます!

> ついに半分まで~
ほんとうについに……という感じです。お待たせしました。
あと半分……一年以内に何とか完遂したいものです。

> がっつり改造する前半と意識があるまま実験する後半~
ターゲットを一人に絞ってやるべきかと思いましたが、上手く書けなかったので対象を二人にしてみました。楽しんでいただけたなら光栄です。

> 昔の恋人を弄らせるのも~
安全を確保しながら鬼畜な所業を楽しむのは最高だと思います(笑)
失敗しても本人には危険が及ばないという点でも有用な方法ですね。

> ただ、記憶操作に~
色々とご指摘ありがとうございます。
確かに……いま読み返してみるとちょっとその辺とっちらかってる印象を受けてしまいますね……反省です。
また時間がある時に推敲し直すか何かしたいと思います。
ありがとうございます。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-08/27 01:15 (Tue)

No.1307 / Torainu [#CNtCm3fU]

こんにちは、お久しぶりです
素晴らしい作品を読ませていただけたので、コメントさせてもらいます

かなり最初の方で、主人公は改造されていると分かりましたが、その展開は上手いですね

一人目の素材、今までの彼氏はどれだけ辛いでしょうね(笑)
この技術を使ってしまえば、すてきな性奴隷も作れそうですし、もうウハウハですね!
ただ、普通の恋愛にも挑戦してみたいので、積極的にアタックして、失敗したら改造で思い通りに、というのが一番いいでしょうか
あぁ、羨ましいです(笑)

執筆お疲れ様でした

2013-09/02 03:33 (Mon) 編集

No.1309 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

Torainuさん、コメントありがとうございます。

> かなり最初の方で~
隠すつもりはなく、改造されてる風を前面に押しだしてみました(笑)
最後の方であっと驚かせるのもありかとは思ったんですが、わかっている方々にはどちらにせよすぐにわかると思いましたので……。

> 一人目の素材、今までの彼氏は~
寝取られってレベルじゃないですからね。
忘れられている上に、嫌悪感と忌避感を感じるようにされてしまっていますので……さぞ、辛いことになることでしょう。

> この技術を使ってしまえば~
裏切られる心配も、愛情が薄れる心配もない、最高のパートナーが出来ると思います(笑)

> ただ、普通の恋愛にも挑戦してみたいので~
それは楽しいですね。何もせずに成功したらそれはそれでいいわけですからね。相手が飽きそうになったり、心変わりをしそうになったら改めて洗脳……っていうのもいいかもしれません。
そういう状況になったら、もう遠慮する必要もなくなりますしね。

> あぁ、羨ましいです(笑)
私も羨ましいです(笑)

それでは、どうもありがとうございました!

2013-09/02 08:48 (Mon)

No.1575 / チャコ [#-]

完全レズビアン版を見たいです

2015-11/10 12:12 (Tue)

No.1576 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

> 完全レズビアン版を見たいです
ご希望ありがとうございます。
いま書くとまた違った終わりに仕上がるのではないかと思います。
そういう違いを書いてみるのも面白いかもしれませんね。

2015-12/10 12:07 (Thu)

Comment Form
コメントの投稿
HTMLタグは使用できません
ID生成と編集に使用します
管理者にだけ表示を許可する

Page Top

Trackback

Trackback URL

http://kuroitukihikari.blog60.fc2.com/tb.php/518-85165a16

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

Page Top

カウンター
投稿先サイト
『小説家になろう』ノクターンノベルズ
(ユーザーページに飛びます)
運営サイト
暁月夜色
 どんなジャンルでもOKな投稿小説サイトです。お知らせには必ず目を通してください。

黎明境界
 自己満足小説の展示サイトです。
 注意事項には必ず目を通してください。
 以下、連載中の作品概要


『私の名前はまだない』
(MC物、ペット化、女性視点)
(最終更新日:2013/12/07)

『思い通りになる世界 ~forガール~』
(カオスジャンル、世界改変系)
(最終更新日:2016/02/28)

最新記事
カテゴリ
最新コメント
リンク
プロフィール

光ノ影

Author:光ノ影

連絡先は kuroitukinokage×yahoo.co.jp (×を@にしてください)

つぶやき
作品紹介
検索フォーム
FC2アクセス解析
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。