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『裸婦像の四季』

50万ヒット記念50本リクエスト
№24『「思い通りになる世界」のオブジェロードの外伝』です。
 
それでは続きからどうぞ!
 
 
 
『裸婦像の四季』
 


 その町には無駄なまでに広すぎる大通りが存在した。
 市外から町の中央街までを一直線に繋ぐその道の両側には大小様々なオフィスが立ち並び、朝昼晩と社会人で賑わう通りである。ただしあくまで社会人の通勤にのみ使用頻度が高いため、決して賑わっているとは言いがたい道だった。さらに大きく取られている道幅の割には街路樹の一つもなく、とにかく殺風景と言われていた。
 そんな状況を誰かが憂いたのか、ある時大胆な変革が行われた。
 誰がどんな出資をしたのかは語られていないが、その変革によってその大通りは周辺の住民がわざわざ通って見ようか、と思うようになるほどの劇的な変化を見せたのである。
 一番の理由は、その大通りに様々な格好の、精巧な『裸婦像』が設置されたことだ 。

 生きた人間をそのまま固めたような、その『裸婦像』は世界広しと言えどもここにしかない。

 それらは普通に生命活動をしているのではないかと見間違えるほど精巧かつ肉感的で、生気に溢れたその『裸婦像』達は、かつてその大通りの一部だった会社の受付嬢や、そこで働いていた女性社員と同じような姿形をしている。噂ではかつて働いていたという彼女達が『裸婦像』のモデルになったのではないかと言われていた。
 ちなみに、そのモデルになった女性社員達はある日を境に忽然と姿を消している。
 どこに行ったのかはわからないが、彼女達はとても幸せに暮らしているらしい。
 それはさておき、それまではただの交通路で味気ない光景だったその道は、いまでは時折テレビや新聞や雑誌の取材が来る程度には、話題のスポットとなっていた。




 春、その道はいつもにも増して賑やかになる。
 普段は白と黒と灰色と肌色くらいしか色がない通りと『裸婦像』だが、春はそれらが華々しい装いになるからだ。
 どこの会社が最初にやり始めたのかはわからないが、周辺にオフィスを構える企業が協力して、オブジェに花を飾るようになったのだ。
 様々なポーズを取っている『裸婦像』達の手に、造花ではあるが桜や梅の花が握らされ、まんぐりがえしの格好を取らされ、上空に向けて腰を突き出しているような『裸婦像』には、その股間の穴に、溢れるほどの花が突き立てられる。
 『裸婦像』の手に持たされたり、穴に突き立てられたりした花が華々しい色となって通りを彩るのだ。それは目に楽しく、道行く人の心をいつも以上に癒してくれる。
 さらにその光景を見たある人物がそれを面白がり、飾られる造花を不思議な造花に変えた。

 その結果、さらに『オブジェロード』は話題になり、遠方から人が訪れるようになった。

 その日も、オブジェロードにテレビの取材が来ていた。
 入社してまだ間もなさそうな、フレッシュさを推した服装と態度の美人リポーターがカメラに向かって元気よく挨拶する。
「皆さんおはようございます! 今日は知る人ぞ知る隠れた穴場スポット、オブジェロードに来ています!」
 大通りを歩きながら、リポーターは説明を始める。
「この大通りの見所はなんといっても立ち並ぶ無数のオブジェです! ごらんくださいこの見事な造形!」
 そうリポーターが言うのに合わせてカメラがアップで一体の裸婦像を捉える。両足は真っ直ぐ伸ばした状態で大きく開いて、仁王立ちになり、腕を体の前で組んで前屈姿勢になっている。
 胸の谷間が強調される姿勢であり、後ろから突き入れやすそうな姿勢でもあった。
 程よい肉付きの体は男性ならば捨ててはおかないだろうし、同姓でも思わず見とれるほどのものだろう。
 実際完璧に近いその裸婦像を見たリポーターは、思わずため息を吐いてしまった。
「いや、これは本当に素晴らしいオブジェですね。何でもこのオブジェは近くのビルに入っていた企業の従業員さんたちがモデルになっているらしいです。……残念ながら、その方たちに話を聴くことは出来ませんでしたが……」
 少し残念そうに呟いてから、リポーターは説明を続ける。
「誰がどのような経緯でこのオブジェを設置したのかはわかりませんが、ごらんくださいこの不思議なオブジェを。こうして触ってみるとよくわかるのですが、とても柔らかい素材で出来ています」
 リポーターが手を伸ばしてそのオブジェの胸を掴んだ。すると、見た目からも実に柔らかそうな様子で、その胸の形が変化する。女性の乳房を触っているのとほとんど変わらない感触がリポーターの手には感じられていた。
「このように、この『裸婦像』はほとんど生身の人間と変わらない材質で出来ているようなのです。ただし、オブジェなのですから当たり前ですが、いま取っている姿勢からは動きません」
 オブジェの肩を掴んだ力を込めて揺するが、オブジェはびくともしない。まるで鉄で出来た像を触っているかのような頑なな固定具合だった。
「さて、このようなオブジェが何体も並んでいるこのオブジェロードですが、いま不思議な催し物が開かれているのです」
 リポーターは少し真面目な顔になって説明を始める。
「その名も、『種付け開花祭り』。どんな催し物かは……私もまだ内容を聞いていません。実際に見た方が早いとのことでしたが……」
 そう言ったリポーターは暫し周囲を見渡し、目的のものを発見したのか、そちらに向けて歩いていく。
 彼女の歩いていく先では、一人の中年男性がいままさに一体のオブジェに『種付け』を行っているところのようだった。ブリッジして固まっているオブジェのまたの間に膝間付き、腰を前後に動かしている。
「おはようございます!」
 リポーターに話し掛けられたその男性は、柔らかな物腰で応じる。
「ああ、おはようございます」
「何をしていらっしゃるんですか?」
「種付けをしているんですよ」
 事も無げに答える間も、男性は腰を止めようとはしなかった。 朝の通勤路には相応しくない淫靡な水音と、オブジェの尻と中年男性の下腹部の肌がうち合わさる音が周囲に響いている。
 当然それはリポーターが向けているマイクにも集音され、全国に放送されているわけであるが、それを気にする者は一人もいない。
 リポーターも笑顔でさらに質問を重ねた。
「種付け、ですか? どういうものなのでしょう?」
 男は腰を動かしながら、律儀に答える。
「簡単です。精子をこの『裸婦像』の中に出すってだけですよ。そしたら何が起きるかは……説明するより見た方が早いでしょう。ちょっと待っててください」
 そう断った男は、激しく腰を動かし、さらに刺激を強めていく。そして、然程待つということもなく、男は最後に勢いよく一突きするとその動きを止めた。男の体が微妙に振動しているところからすると、どうやら『裸婦像』の中に自分の欲望を吐き出しているようだ。
 それと同時に、『裸婦像』の方に変化が現れた。突然その髪の中から植物の蔦が伸び始め、それはあっという間に長くなって、その先端に蕾を生み出す。
 その突然の事態に、リポーターは呆気に取られる。
「こ、これは一体……どういうことでしょうか?」
 質問に対して、男はにっこりと微笑んだ。
「驚きました? これが『種付け開花祭り』のキモです。ここの『裸婦像』達に飾られている造花は成長するんですよ。仕組みはよくわかりませんが、男性の精液や女性の愛液をその造花が飾られている『裸婦像』が浴びることに従って成長するらしんです」
 男性は通りを示しながら説明を続ける。
「『種付け開花祭り』は大体二週間くらい開催されるのですが、最後の日に一番造花が成長しているナンバーワンの『裸婦像』を称える表彰式なんかもあるんですよ。その際には集まった男性達がその『裸婦像』に向かって精液をかけ、大量の花を生み出し、観光客に配ったりするんですよ」
「へー! それは実に楽しそうなお祭りですね!」
 リポーターの目がきらきらと輝き、楽しげな声をあげる。
 彼女はカメラの方を向き、笑顔でコーナーを締めくくる。
「このように、いまのオブジェロードでは賑やかな催し物が開かれています! 近くを通りかかった際には、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか?」
 ディレクターらしき人が終了の合図を出し、リポーターは一息吐く。
 カメラマンや機材を運んでいた人達も一斉に片付けに入った。
 テレビ局が去っていった後も、道に並ぶオブジェ達は特に何も変わりなく、ただそこに立ち続けていた。


 オブジェロードでは『種付け開花祭り』を筆頭に、様々な催し物が行われるようになっていたが、それでも年がら年中祭りを行っているわけではない。
 当然ではあるが、何もない日の方が多い。もっとも、何もないとは言っても、交通路として便利な位置に存在する以上は様々な人がその通りを利用し、その様子は季節と共に徐々に変わっている。
 例えば四月、近くの企業に新しく入社した新入社員が多数行き交うようになる。彼らは一様に緊張した面持ちで、初めての職場に慣れるため、若干余裕のない足取りでオブジェの前を歩いて通り過ぎていく。彼らには周りに目を向ける余裕がなく、オブジェのことも時々ちらりと見るくらいで何かをしようという気は起きないのが普通だった。
 四月後半に入ると、徐々に職場に慣れてきた新人たちを、ベテランの先輩社員が連れてオブジェのところに行く。そして先輩社員達は慣れない職場でストレスをため込む新入社員のために、そのオブジェの使い方を教えるのだ。
「仕事帰りにオブジェを『じっくり見ていく』だけでも全然違うぞ」
 勤続何十年の中年社員はそういってまだ緊張した面持ちでいる新入社員をオブジェの前に立たせる。
「えー……」
 その新入社員は戸惑い気味だった。それはそうだろう。『ストレス解消のためにいいことを教えてやろう』と言われたのに、通勤路に普通にあるオブジェを『じっくり見ればいい』と言われて、納得出来る者は早々いないに違いない。
 それでも、先輩社員のいうことである。胡散臭く感じながらもとりあえずは言われるままにそのオブジェを見ることにする。
 そのオブジェはいわゆる四つん這いの姿勢で、お尻を道行く者達に向け、上半身を捩じって背後に向けている。まるで背後から挿入を待ち望んでいる娼婦のような体勢だ。
 とりあえず言われるままそのオブジェを見ていた新入社員は、おもむろにその台座の上に昇り、チャックを下ろしてそそり立つペニスを取りだした。先輩社員に連れて来られた新入社員の中には、当然女性もいたが特に配慮する様子は見せなかったし、見ている側も特にそれを気にする様子は見せなかった。
 台座に昇った新入社員は、さっそく取りだしたものを入れやすい位置にあるオブジェの中に突き入れる。そのオブジェの中は特に濡れている素振りはなかったが、それでもまるで濡れた女性の秘部のような舐めらかさでその場所は新入社員のそれを受け入れる。無言のまま腰を動かした新入社員は、その中の気持ち良さだけを享受していた。
 まるでそのためだけにあるような穴は、新入社員のものを全方位から程よく圧迫し、至上の快感を彼に与えていた。
 その内、その気持ち良さに耐えられなくなった新入社員が、オブジェの中に目掛けて射精する。その瞬間、彼は自分の身体に溜まっていたストレスや疲れといったものが噴き出して行くような感触を覚えた。慣れない職場で溜まり積もったものが一気に抜け出して行く。
 暫し硬直していた新入社員は満足そうな息を吐くと、オブジェの中から自分のペニスを引き抜き、身支度を整えて台座の上から降りた。
 楽しげな先輩社員が彼に向かって尋ねる。
「どうだ?」
「ええ、凄く気分がいいです。不思議ですね」
 その新入社員の言葉に満足げに頷いた先輩社員は、他の新入社員達に好きなオブジェを見てみるように薦める。新入社員達はそれぞれ、自分の気に入ったオブジェの元に行き、そこで『ストレス解消』を行うのであった。
 女性の新入社員も、タイトスカートをまくり上げ、秘部をオブジェにすりつけるようにしてストレスを解消している。
 毎年春先のオブジェロードでは、新入社員達がこのようにオブジェを使ってストレス解消をするのが慣習になっていた。
 

 梅雨の時期。
 雨の続くオブジェロードでは、雨ざらしのオブジェ達がずぶ濡れになっている。普段はスタイリストがやって来て髪型を整えるのだが、この時期はやっても意味が無いという理由で行われることはなかった。そのため、髪がべったりと顔や肩などの身体に張り付き、普段は美しい姿を晒している彼女達は不気味な姿になっていた。
 さすがに雨の中オブジェを観賞しようという者もおらず、この時期は以前のような閑散とした雰囲気となってしまう。
 梅雨の時期が過ぎ、雨が上がって夏が近づいてくると早速掃除婦やスタイリストがやって来てオブジェ達を整えて行く。雨ざらしになって汚れた胴体を拭き、逆立ちをして別のオブジェがその穴を広げている格好をしているオブジェの中に溜まった雨水をスポンジで掻き出し、全体を綺麗な布で拭いて仕上げる。髪に当たる部分をドライヤーで乾かし、櫛を通して整え、髪型を作っていく。そして最後に顔の部分に薄く化粧を施す。
 そうして、オブジェロードは美しさを取り戻すのだ。
 梅雨の時期が過ぎれば、燦々と日光が照りつける夏がやって来る。
 オブジェロードのある町は、極めて暑い地域ではなかったが、それでも日本国内である以上は暑くなる。道行く者達もクールビズの名の元に、薄着になるがそれでも蒸し暑い夏には汗を大量に掻く。ハンカチを片手に道を忙しなく道を行き交っていた。
 そんな中、当たり前だがオブジェ達は汗一つ掻かず、涼しげな様子でその場所に立ち続けている。直射日光が当たり、かなり温度があがっているだろうオブジェも全く変化は見られない。道を行く者達がそんな涼しげな様子のオブジェ達の様子を見て、羨ましく思うこともしばしばだ。材質は金属ではないため、日光によって非常に熱くなるということもなく、触れば冷え症の人に触れた時程度の心地よさがあった。
 涼を求めてというほどではないが、夏場に溜まるストレスや疲れを解消するため、この時期オブジェを観賞する者は増える。
 このオブジェがあるから、オブジェロード周辺の企業のモチベーションは夏でも下降することなく、維持されていると言っても過言ではない。
 夏の一番暑い時期が過ぎると、台風が頻繁に訪れる時期になる。
 台風で倒れるような軟なオブジェは一体もないが、髪のセットは乱れるし、風で飛んでくる物などで汚れてしまう。その度に清掃婦とスタイリストは大忙しになる。
 そんな激動の季節が過ぎると、気候は秋めいていき、落ち着いた時期になる。
 オブジェが一番よく使われる季節の到来である。
 暑くもなく寒くもないこの時期はオブジェの観賞にもっとも適した時期なのだ。春は新入社員達に譲ってあげていた者達も、この時期には遠慮する必要がない。結果としてオブジェによっては観賞の順番待ちの列が出来るほどになることもある。そういったオブジェの周辺には、順番待ちをしている者をターゲットにした屋台が出店されることもあり、普段の倍は賑やかな通りになる。
 オブジェを使って『ストレス解消』を行っている者の周りで、順番待ちをするついでに屋台で酒を飲んだり食事をしたりする者がいて、行き交う人が店に立ち寄り、オブジェの観賞が深夜まで続くこともしばしばだ。オブジェが無かった頃には考えられない賑やかさがその通りに生まれていた。


 無数にあるオブジェの中で、人気のあるオブジェと人気のないオブジェがある。
 それは単純に四つん這いになって、顔を上げて前を向いて口を開いている格好のオブジェだ。このオブジェは前からと後ろから、両方から使える上、台座の上に上がって膝を突けばいい位置に穴が来るという理由で、もっとも使用頻度が高いのだ。そのため単純に他のオブジェよりも倍使われており、その周りでは屋台の縄張り争いが起きるほどだった。
 一方、逆に全く人気のないオブジェというものもある。
 例えば自分で自分の穴に両腕を突っ込んでいる格好のオブジェがあるが、穴が塞がっている以上、上手く観賞することが出来ない。その像の造形自体が好きな者が表面に向かって射精することはあっても、それは稀なケースだ。だからそのオブジェを観賞しようという者は多くなかった。
 そんなオブジェの台座は座るために使われることが多く、他のオブジェの観賞を終えた者が一休みに来る。オブジェに背を向けて座りこんだその青年は、一つ大きな溜息を吐いた。近くの自販機で買ったコーヒー缶を煽る。
「あーあ。めんどくさいな……」
 彼は不真面目な男だった。仕事も適当に流しているため、疲労やストレスの溜まり具合はさほどでもない。同僚達との付き合いでオブジェの観賞に来ていたが、吐き出すべきものが無い彼は並んでまで観賞する気がなく、適当な理由を付けて一休みに来ていた。
 真面目な人間ほどオブジェを観賞する時間は長く、彼のように不真面目でストレスをためない人間ほど、オブジェを見ようと言う気はなくなるのだ。
「あー、女抱きてー」
 周りに誰もいないことをいいことに、男はそう呟いた。彼にとっての気晴らしは女性とのセックスであり、『裸婦像』とはいえオブジェを観賞することではなかった。
「こんな無機物の何がいいんだか……」
 呆れた様子でオブジェを突きつつ、彼は再度深く溜息を吐いた。
 ちなみに、現在彼に恋人はいない。彼が女性を抱くときはその手の店に行くのが常だった。しかし彼の同僚たちは真面目であるため、その手の店に行こうとは言えない。
 社会人の付き合いというものだと彼もわかってはいたが、つまらないものはつまらない。
「適当な理由付けて帰ろうかな……」
 最後にもう一度大きな溜息を吐き、男は同僚たちと合流するため、その場を離れる。
 あとには台座に置き去られたコーヒー缶と、静かに佇むセルフダブルフィストのオブジェだけが残っていた。


 もっともオブジェロードの賑わいを見せる秋が過ぎると、凍てつく冬がやってくる。
「うー、さむさむ……」
 とある会社の受付嬢をしている女性社員が、凍てつく空気が流れるオブジェロードを歩いていた。
 彼女は会社内で最も早く会社に着かなければならない関係上、特別寒い早朝にこの道を歩く。
 まだ時間が早すぎるため、通行人も少ない。ちらほらと歩いてはいるが、閑散とした様子の通りは余計に寒さを冗長していた。
 そんな寒い中でも、立ち並ぶオブジェ達はいつもと変わらない姿で立ち続けている。そんなオブジェ達を横目で見ながら、女性は足早に通りを歩いていた。
(夏はむしろ涼しげだったけど……この時期はなんか、見てて寒いなぁ)
 オブジェは当然ながら全裸であり、それは見る者に寒さを感じさせる。
 ストレス解消としては彼女も世話になったことのあるオブジェ達だが、さすがにこの時期は近付こうという気になれなかった。
 その時、不意に雪がちらつき始めた。益々寒さが増したオブジェロードを、彼女は急いで歩いていった。
 会社についた彼女は、すぐに受付に入り、出社してくる会社の者達を出迎える。会社の受付からは雪が徐々に積っていく様がよく見えていた。丁度会社の目の前にある、逆さY字の形で置かれているオブジェにも雪は平等に積っていった。
 来客の対応をしつつも、受付嬢はそれを見て益々寒い気持ちになる。なまじ自分と同じ受付嬢だった人達がモデルというのだから、妙な親近感が湧いてしまうのである。
(まぁ……人間だったら普通に死んでるけど)
 阿呆な想像を掻き消し、受付嬢は仕事に集中するのだった。
 その後、昼頃になるとオブジェロードはすっかり白一色になっていた。受付嬢は昼ご飯を食べるために同僚の女性社員と共に外に出た。
「うわー、すごく積ったね……」
「今日はお弁当にすれば良かった……さむー」
 傘を差し、身体を丸めて近くの定食屋を目指して歩きながら、二人は会話を交わす。
 その途中、雪が積もっているオブジェ達を横目で眺めた。
「……うわー、雪が積もって見えなくなってるね」
 特に、背中を台座に付けて寝転んだ姿勢で両足を抱えているオブジェにいたっては、雪の中から足が突き出ているような状態で、ほとんど隠れてしまっていた。
「こんなに積るなんて珍しいよねー。早く行こっ」
 二人は身体を丸めながら行きつけの定食屋に向かって歩き出す。


 ある年のクリスマス。
 町はクリスマスの雰囲気一色になり、オブジェロードもまたクリスマスに合わせてその様相を変えていった。
 具体的にはクリスマスに合わせ、サンタの帽子やケープをオブジェ達に被せ、イルミネーションで飾り立てる。これはとある季節物の商品を販売する会社が、目の前にあったオブジェにサンタの帽子を被せたことが発端だった。それを他の会社が真似するようになって、春の『種付け開花祭り』のようにオブジェロード一帯の年間行事の一つになったのだ。
 最近では自社の前にあるオブジェをどれくらい見事に飾りつけられるか、ということを競うようになり、様々なイルミネーションでオブジェが飾られるようになっていた。
 そうなって来ると商魂逞しい企業がそれをイベントとして活用しようとしていた。それぞれの会社が飾りつけたオブジェに、クリスマスの間にオブジェロードを訪れた者達が投票を行ってもらう。その結果、最優秀を誇ったオブジェの企業に名誉賞を与えるというものだ。実際的な利益は個々の会社にはないが、やはり名誉がかかってくると各企業もオブジェの飾りつけに力を入れるようになる。結果として、それが人を呼び込む呼び水となり、さらにオブジェロードが賑わう。出店や屋台も一斉に集まり出し、クリスマスだけ歩行者天国とする手続きまで行われた。
 結果として、以前まではクリスマスには誰もいなくなっていたその大通りは、新たなクリスマスのデートスポットとして活用されるようになっていた。
 オブジェロードの至るところで、カップルが歩き、店を冷やかし、愛を囁いている。
 様々に飾り付けられ、イルミネーションで光り輝いてはいるが、『裸婦像』達自体は一年通じて何の変化もなくその場所に立ち続けていた。その表情も変わることはなく、少し笑顔を浮かべたまま固まっていた。目の前でカップルが語り合っていても、もちろんそれは変わらない。
 賑やかな通りの一つの飾りとして、『裸婦像』達は立ち続けるのだ。
 クリスマスの翌日にはオブジェ達を飾り付けていたものも回収され、オブジェ達は普段通りの姿を取り戻す。
 この時期、オブジェ達が地味に思えるのは、クリスマスの時の飾り付けがあまりにも派手だったからだろう。
 クリスマスが過ぎれば、年の瀬が差し迫り、企業も年越しのための整理に追われ、オブジェ達はそのストレスをため込んだ社員達によって夜遅くに観賞されていた。
 その後、大みそかや正月は企業も休みになってしまうため、オブジェロードからほとんどの人が消える。
 三が日が過ぎると、会社が年初めを迎え、また通りの活気は元に戻る。


 そして、春。
 再び陽気が戻って来た通りでは、また『種付け開花祭り』のための準備が始まる。
 とある企業の受付嬢が細い花瓶に活けられた一本の生花を持って会社の中から出てきた。本来オブジェに飾られるのは造花だが、この会社では最初の一本は生花を活けるようにしていた。
 花を手にした受付嬢は会社の目の前にある、Y字型に逆立ちをしているオブジェの台座に昇る。
 軽くそのオブジェの股間周りを綺麗な布で拭き、その股間にある穴に花瓶の水を注ぐ。
「今年もよろしくね」
 何気なくそう呼びかけた受付嬢は、オブジェの穴に花を突き刺す。
 一年通して、ずっと同じ体勢を取り続けているその裸婦像は、花を活けられても変化はなく、その体勢を取り続けた。

 オブジェロードのいつもの一年が、また始まる。




『裸婦像の四季』 終
 
 
 
 

Comment

No.1272 / 名無しさん [#-] No Title

喋れないし動けないがオブジェに意思があったら…と考えてみたら興奮してきた

2013-08/19 00:51 (Mon)

No.1274 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

コメントありがとうございます!

> 喋れないし動けないがオブジェに~
正直、途中からいっそオブジェ視点で書けばよかったかな……と思いました。
このオブジェには特に意思とかが残っていないつもりだったので、最初は思いつきもしませんでしたが、意思がある設定なら、色々書きやすかったような気も……。
これもまた、反省点ですね……ちゃんと作中で決めていない設定に関しては、柔軟に変えるなりなんなりして対応すれば良かったかなー、とか思います。
まだまだ精進が必要ですね。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-08/19 23:46 (Mon)

No.1275 / 疾風 [#ew5YwdUc] No Title

 こんばんわ,疾風です。
 今回リクエストに応えて頂いてありがとうございました。内容も思っていたとおりのもので,とても楽しめました。
 梅雨の後の逆立ちしたオブジェの穴の掃除や,最後のY字型に逆立ちしたオブジェの穴に水や生花を入れるシーンは興奮しました。
 また,台風や大雪等の悪天候でも(当たり前ですが)身動き一つしないシーンは感動しました。
 クリスマスでは,飾り付けられながら多くのカップルの待ち合わせ場所となっているシーンは,ニヤニヤしてしまいました。もしかしたら,かつてオブジェ達が人間だったころの恋人や夫達も,新たな恋人と愛を囁きあっているのかもしれませんね。
 この話に出てきた新入社員,次の年新たに入って来る新入社員に,今度は先輩としてオブジェ達の使い方を教えていくのでしょうね。この新入社員が成長・出世して所帯を持ち,いずれ定年退職する時も,オブジェ達は変わらずこの道を見守っているのでしょうね。
 後,最初の『種付け開花祭り』のシーンで髪の中から造花が生えてきたオブジェがありましたが,あれは髪に造花が飾られていたということでしょうか?
 しかし,かつて久人が考えたとおり,オブジェ達のおかげでこの道も賑わうようになり,オブジェ達も満足しているでしょう。きっとオブジェ達はこれから数十年,数百年,この道を見守り続けるのでしょうね。いえ,もしかするとアスファルトの道が無くなっても,二列のオブジェ達に挟まれた空間を道として,地球が太陽に飲み込まれるその日までこの場所に立っているのかもしれませんね。

2013-08/19 23:49 (Mon) 編集

No.1276 / 疾風 [#ew5YwdUc] No Title

 すいません,コメントで一つ追加です。
 今のところイベントは『種付け開花祭り』とクリスマスのみでしょうか?
これらのイベントで出てきましたが,オブジェとなり自らの自由意思の介在しないところで飾り付けられるというシュチュエーションは興奮します。
イベントの度に飾られるというのは年中裸婦でいるよりもエロティックな感じなので,これからもイベントが増えて,その度に飾られることとなれば良いなと思いました(例として,正月は門松,真夏は水着,6月はウェディングドレス等)。

2013-08/20 01:31 (Tue) 編集

No.1278 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

疾風さん、コメントありがとうございます!

> 今回リクエストに応えて頂いて~
何とかリクエストに応えていられたようで安心しました。
こちらこそリクエストが遅くなってしまって申し訳ありませんでした。

> 梅雨の後の~
色々と書きたい内容は他にも色々あったのですが、描写を厳選させてもらいました。
楽しんでいただけたのなら光栄です。

> クリスマスでは~
その可能性はありますね。特に社内恋愛だった場合はそうである可能性は非常に高いでしょう。
もちろん、お互い全く気付いていないのでしょうけど(笑)

> この話に出てきた新入社員,次の年新たに入って来る新入社員に~
歴史は繰り返されて行くのでしょうね(笑)
何十年後もそのまま存在していると思います。最初はそこまで想定していなかったと思いますが、あくまで「何があってもそのまま立ち続けている」という条件で作ってしまった以上、決して倒れることはないと思います。

> 後,最初の『種付け開花祭り』のシーンで~
そうですね。説明というか、描写不足申し訳ありません。
髪に挿されていたかんざし的な造花が成長したという感じです。

> しかし,かつて久人が考えたとおり~
きっと久人が考えた以上に繁盛していると思います。久人はきっと人間の商売意欲を甘くみていたに違いありません。
太陽に呑み込まれてもなお在り続けそうで怖いですけどね(笑)

> 今のところイベントは~
そうですね。夏の納涼祭、七夕祭り、秋にあるお祭り、冬の雪まつり……みたいなイベントが企画されています。
飾られるって話も面白いと思います。次回書くことがあればその系統も考えてみますね!

それでは、どうもありがとうございました!

2013-08/20 23:40 (Tue)

No.1282 / 竹一円 [#mQop/nM.] No Title

変わった雰囲気のお話で面白く読ませていただきました。

作中、実は周りのオフィスのOLたちが何らかの方法でオブジェに変化させられたことを匂わされているのに、それに触れることなく四季の描写だけで終わっているのは逆に新鮮でした^^

最初のリポーターが餌食になるのか、後に出てくる受付嬢がいよいよ犠牲になるのかと、身構えて読んでいたのですが、あれれという感じ(笑)

でもこれはこれで、あるがままの現実がそこに存在しているという妙なリアリティも出ていて、不思議な感覚でした。

これからも頑張ってください。

2013-08/23 17:42 (Fri) 編集

No.1283 / 竹一円 [#mQop/nM.] No Title

これは続編だったのですね^^;
さっき気づいてそっちも読んでみました
こうやってオブジェにされていたのか…

でもこの情景を想像すると、異様に興奮しますね!
このシリーズ気に入ったなあ

たしかに誰かが書かれていたように、オブジェに意思だけ残っているというのも面白いと思いますよ

次のヒット記念で登場するか?!

期待して待ちたいと思います

2013-08/23 18:02 (Fri) 編集

No.1284 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

竹一円さん、コメントありがとうございます!

> 変わった雰囲気のお話で~
ありがとうございます~!
そういって頂けるのが非常に嬉しいです

> 作中、実は周りのオフィスのOLたちが~
この話では新しく作られるという方向にはフォーカスを当てていませんでした。
たぶん、何らかの形でオブジェロードは徐々に伸びていっているとは思うのですが……それがコンテスト的な催し物を経て新たにオブジェになる者を選抜しているのか、あるいはオブジェに憧れた者の希望制かは正直決めかねています。
どっちもどっちで美味しそうなので、たぶん両方のパターンがあるのだとは思いますが……。

> でもこれはこれで~
これは続編でしが、基本的にうちの作品は原理とかはぶっ飛ばしていますね(笑)
やりたいようにやる、というのが一つのコンセプトかもしれません。

> このシリーズ気に入ったなあ
この作品を気に入ってくださってありがとうございます。
正直、私も気に入ったので続編を描きたい作品の一つには数えています。
……まあ、リクエストで書いた作品のほとんどがそういう作品なんですが(笑)

> たしかに誰かが書かれていたように~
このパターンも面白そうですよね~。結構可哀想なことになりそうなので、それなりの幸せも感じられるようにはしてあげたいところです。

> 次のヒット記念で登場するか?!
百万ヒットの時に……と思いましたが、正直その際には今回のようなことはやらないと思います(笑)
さすがに100リクエスト受け付けると……終わらないですからね。
いまでさえちょっと時間かかり過ぎて手やばい感じですし。

> 期待して待ちたいと思います
この作品の続編は(いつになるかはわかりませんが)書くつもりがあるので、その際にはまたぜひよろしく読んでやってください。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-08/23 23:51 (Fri)

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