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短編『悪魔の微笑』

 これは読み切り短編で、ジャンルはTSです。
 元は2008年冬コミの原稿だったのですが、結局別の作品を出すことにして、これは没になった作品です。そういえば、冬コミに参加すること、告知してませんでしたね……(遅すぎる)。
 オーソドックスなTS話となっております。
 それでは、2009年最初を飾るに相応しい(自分勝手な判断)物語をどうぞ。




 目が覚めたとき、俺は自分の体にあるべきものがなく、あってはならないものがあることに気づいた。





 目が覚めたとき、俺は自分の体にあるべきものがなく、あってはならないものがあることに気づいた。

 ないものはいつも朝になると服を押し上げて存在を主張するもの。
 あるものは実際に触ったことなどほとんどない凄く柔らかいもの。
 つまり。いまの俺の体は。
「女になっとる――!?」
 思わず絶叫した。
 いやいやちょっと待とうぜ。そう、きっとこれは夢だ。昨日夜中にWEBサイトでやたらと上手くて興奮するTS小説を読んだせいでこんな夢を見ているんだ。まったく俺の煩悩も素晴らしいもんだ。なにも夢にまで見なくてもいいだろうに。
 よくよく見てみれば、ルームシェアで一緒に暮らしていて、いつもなら隣のベッドで寝ているはずの友明もいないし、夢で決定だ。……いや、まてよ。友明は昨日、外泊するって連絡があったっけか。友明がいないのは当然といえば当然だ。それは判断材料にはならない。
 いつも一緒にいるあいつがいないからこそ、昨日は十八禁小説を読みふけることが出来たわけだし。
(しかし夢にしてはリアルすぎるな……?)
 手をじっと見る。いつもの手はそこになく、やけに細長くて色白の手があった。
 視線を下に向けると、ぶかぶかのシャツに身を包んだ女の体――つまりは俺の身体があった。
 指で襟元を引っ張ったら、乳房が見えてしまいそうだ。
(……夢なら……楽しまないと、損だよな?)
 誰に向かってかは自分でもわからないが心の中で弁明して、俺はいそいそと服を脱ぎ始めた。
 シャツを脱ぐと、白い肌が露になり、柔らかそうに揺れる乳房が空気にさらされる。
 それだけでも十分すぎるほど興奮していたが、もちろんそこで止めるほど俺は子供ではない。
 感触はどんなものなのか気になるが、上よりも気になるのは下の方。
 もどかしい思いを抱きながらズボンを脱ぐと、だぼだぼだったトランクスは勝手に脱げた。
 見るのは初めて……ではないが、滅多に見たことのない秘部が眼前に晒されている。
「おお!」
 意味のない歓声を上げて、俺はそこをしげしげと観察した。
 生えている淫毛は男のそれと一見変わりないように見える。しかしその中央にそそり立つ物があるかないかでずいぶん印象が違うな。
 それに女の方が微妙に毛の密度も薄い気が……これは個人差だろうか。
 指先で淫毛をかき分けてみた。なにやら切れ込みのような筋……これが膣の入口で……これがヒダとかいう奴だろうか?
 軽く摘まんでみたら、思わぬ大きな刺激となって頭に響いた。
「ひゃうっ!!」
 女の声で可愛い悲鳴が上がる。あ、これ俺の声か。
「びっくりしたぁ……」
 続いて呟いた言葉ももちろん女の子の声だ。うーん、いまさら気づいたが凄い可愛い声だな。
 思えば、まだ全身像も見てないし、顔も見てない。
 男二人所帯に姿見なんていう都合のいいものはないため、俺は裸のまま風呂場に向かった。そしてこの家にあるうちでは一番大きな鏡の前に立つ。
 そこに映ったのは、信じられない美人だった。
 普通にファッション雑誌の表紙を飾っていてもおかしくないくらいの美女だ。
「さすがは夢だな……こんな身体を持ってたら、幸せだろうなあ」
 美人には美人の苦労があることくらい予想できたが、この身体と顔を見ているとそんな予想は脇においておきたくなる。
 とにかく目を覚ます前に精一杯女の身体を楽しんでおかないとなっ。
「さあて……まずはどうするか……」
 俺がこれからどんな行動を取るべきか考えていると、部屋の方で携帯が鳴りだした。この音は電話か。
 夢なのだから無視すればよかったのかもしれないが、ついつい習慣として慌てて電話に出るために走り出す。
 裸で走ると胸がゆさゆさ揺れて変な気分だった。男には絶対ない感触だろう。
 相手を確認すると、友明からだった。
「はい、もしもし?」
 電話に出ると、ききなれたいつもの陽気な声が受話器の向こうから聞こえてきた。
『おはよー、みのる。ねぼすけがよく起きてたねー』
 いつもの軽口に俺は唇の端を持ち上げながら答える。
「うるさいよ」
『あははー。とにかく早く学校来なよー? そんなに出席数に余裕なかったでしょー?』
 時計を見ると、もう行かなければならない時間が迫っていた。
「うわ、ほんとだ。わかった、すぐいく」
『ひょっとしてまだ家? だめじゃん余裕を持って行動しろっていつもさー』
「あー、わかってるわかってる。じゃああとで」
 説教が始まりそうだったので、さっさと通話を切った。
 そこでようやく俺はおかしいことに気づく。
(あれ? 友明の奴、全然不思議に思ってる様子なかったな?)
 いまの俺は女の声なのに……まさか、女であることが普通だと思われているのか?
「それにしても……リアルすぎないか? この夢……」
 さっきから全然覚める気配がない。意識もしっかりしすぎてる気がするし……。
「???」
 俺は頭の上に疑問符をいくつも浮かべた。
 まさかほんとにまじで女になっちまってるとか……? でも、それならなんで友明の奴は不思議に思わなかったんだ?
 さらに疑問符は増えるばかりだった。




「やあ、やっと来たねみのるー。もう始まっちゃってるよ。まだ出席取ってないから大丈夫だけど」
 大学に行って講義室に行くと、友明はいつもと変わらない笑顔で迎えてくれた。
「…………友明」
「なに?」
「お前、不思議には思わない……の?」
「何が?」
「いや、だから……お……私を見て」
 友明は不思議そうな顔をした。何を言っているのかわからないという感じの顔だ。
「別に変なことはないけどー? 寝癖は立ってないし……あ、でもー。その服装はいただけないかな?」
「は?」
「だーかーらー。ダサいって言ってる」
 俺は自分の服を見下ろした。
 ズボンとシャツは男物で、なるべく色はそれらしいものを選んだとはいえ、確かにダサい。顔がよくても服装が悪ければ駄目だという見本みたいなものだった。ちなみに女物の下着は朝早くからやっていたランジェリーショップに寄ってワゴンセール品みたいな安いものを購入した。
「……うるさいよ」
 とりあえず友明にそう応じておき、俺は奴の隣の席に腰掛ける。
 友明はいつもの笑い顔で俺の方を見ながら、いいことを思いついた、とでもいうように手を打つ。
「あ、じゃあさー。今日はお互いこの一時間だけだろ? この後、買い物に行こうよ!!」
「はあ? ちょっと待て。そんな……」
 いきなりなんだこいつ。そんな気持ちを込めて抗議しようとしたが、会話を講師に注意されたので黙るしかなかった。


「ほらほらー。早く行くよみのる」
「ちょ、こら、引っ張るなって!」
 授業が終わるや否や、友明は俺の腕をとって歩き出す。俺はカバンを忘れないように持つのが精一杯だった。
 友明はなぜかすごく楽しそうだった。
「いい服がある店とかいっぱい知ってるんだー。店員さんが面白い店でねー。可愛い服もいっぱいあるしー」
「ってか、なんでそんなこと知ってる……のよ?」
 不審に思って尋ねると、友明はにっこりと笑いを深くした。
「女の子たちにつき合わされてたら色々とねー」
 そういや、こいつは人当たりの良さと社交的な性格で女子との交流も盛んだったな……歳=彼女いない歴の俺とはえらい違いだぜ。
「友明は女にもてるから……ね」
 つい言葉遣いが乱暴になりそうで、女言葉に戻す。いや、なんというか自分で聞いても可愛い声の持ち主が男ことばで喋るのって、なんかしっくり来ないんだよ……。
 友明は嫌な感じの笑みを浮かべた。この笑顔は知っている。からかってくる時の顔だ。
「な……なに?」
「ねえーみのるー……ひょっとして、やきもち?」
「な、ば、そんなんじゃねえよ!!」
 あ、やべ。
 俺は思わず口を押さえた。
 思いっきり男の口調で叫んじまった。周りをうかがうと、可愛い声が荒っぽい口調で怒鳴ったことに驚いているのだろう、こっちを窺っている。
 だけど、友明だけは快活に笑った。
「うん。やっとみのるらしくなったねー」
「……へ?」
「なんていうか、おしとやかなんてみのるらしくないよ。それくらい元気なのがみのるだろ?」
 いや、元気というか、こういうのは粗暴というのでは……。
 しかし、いったい友明にとってはいまの俺はどんな存在なんだ?
 俺の性別が女であることに違和感はないみたいだけど……振る舞いは男の俺?
 わけがわからなくなってきた。
「ほらほらー。はやく行こう?」
 抵抗する気もなくなった俺は、ずるずると友明に引きずられていく。


 店に着くと、俺は友明とそこの店員によって色んな服を着せられた。
「うーん、やっぱりみのるには清楚可憐系よりも、活発系の方が似合うかな?」
「そ、そうか?」
「お客様はとても顔立ちが整っていらっしゃるので、どんな服でも似合ってしまいますね。逆にこれは悩みどころです」
「は、はあ」
「みのるー、これとこれとこれとこれとこれ! 着てみて!」
「ちょ、おい、こんなにか!?」
「まだまだ序の口ですよ、お客様」
「……まじすか」
 俺はすっかり二人のペースに乗せられていた。
 次から次へと差し出される服にとにかく着替える着せ替え人形と化している。
 もう何度めの着替えだろう。
「それにしても……友明の奴……馴染みすぎだろ」
 俺は、俺が試着室の中で着替えている間も店員と楽しげに会話を交わしている友明に呆れていた。
 次はどういう服を着せるか相談しているみたいだな……。
「はあ……全くもう……」
 疲れる……。俺は試着室の中にある鏡で自分の姿を見た。
 それにしても、ほんとにこの体はいいな……服をちゃんと整えると、ほんとにモデルみたいだ。
「夢……じゃないのか? でも、現実なわけがないし……」
「みのるー。もう着替えたー? 開けちゃっていい?」
「……ああ。いいよ」
 カーテンが開かれると、友明の奴は感心したような笑顔を浮かべる。いや、こいつはそのほとんどが笑顔だが。
「わぁ、似合うねその服!」
「そ、そうか?」
 友明の奴が快哉を上げるのもわかる気がする。活発な印象を前に押し出しつつも、可愛いポイントも忘れていないこの服はこの体にぴったりの気がした。
 いままで友明と楽しげに相談していた店員さん――府湖さんというらしいけど――も感激に瞳を潤ませているほどだった。
「やったわね戒田くん……。これ以上はないくらいのベストセレクションよ!」
「ええ、府湖さん、やりましたね!」
 数年来の友人のように意気投合している。っていうか府湖さん、あなた友明に対しての言葉遣いが砕けまくってますよ。あ、ちなみに戒田っていうのは友明の名字ね。
「じゃあこれください」
「オッケー。このまま着ていく? それならここでタグを外してあげるけど」
「そうですね。そうしましょう」
「お、おい友明、勝手に……」
 話を進めるな、と言いたかったのだが。
「僕が払うからみのるは気にしないでー」
 そういつもの笑顔で押し切られてしまった。うう、俺こいつのこの顔に弱いんだよなあ……無駄に圧倒されるというか、なんというか。
「わかったよ……」
 買ったばかりの服を着て店を出る。
 なぜか注目を浴びまくっていた。
(どこかのモデルかなんかとでも思われてんのかな……確かにそれくらい可愛いと自分でも思うけど……)
 正直居心地が悪いな。すれ違う男は必ずこっちを見てくるし……これで友明が隣にいなかったらナンパくらいされてたかも……。
「じゃあ次はランジェリーショップに行こっかー」
「ああ、そうだな……ってランジェリー!?」
 おいおいおいおいおいおい。
 こいつは何を言っているんだ?
 思わずじと目で見ていたらしい。友明は心外そうな顔をした。
「だって折角可愛い服を着てるのにさー。下着が可愛くないなんてもったいないじゃない?」
「可愛くなくて結構だ!! つーか、いつ見たんだよお前! そもそもランジェリーショップについてくる気か!?」
「可愛く揃えないと不自然じゃない。さっき試着した時、みのる、時々試着室のカーテン閉めないまま着替えてたよ。その時ちらっとね。最後の質問だけど……大丈夫。いつものことだから」
 いつものことなのか!?
 女子も何考えてるんだ……こいつがいくら人当たりがよくて、付き合わせやすいって言っても、限度ってものが……。
 友明は一切疑問には思っていないようだった。楽しげに笑う。
「いやー、時々『これから彼氏とデートするから、男の視点から見て勝負下着を選んでよ』ってね?」
「いやいやいや、おかしいよ。どう考えてもおかしいよ。ランジェリーショップに男を誘うってなんだよ。彼氏にその光景見られたらどうする気なんだよ。わけわかんねえよ」
「まあ、そういうとき、女の子たちはみんな可愛いくらいに必死だからねー。僕も断りきれなくて」
「恋は盲目つーけど……やっぱりなんか色々間違ってる気がする……大体、選んでもらうって……お前、下着姿も見たわけ?」
「そんなわけないじゃないー。下着を選ぶだけだよ。……みのるは下着姿まで見てほしいっていうなら、僕は大歓迎だけど?」
 意地悪な笑顔を浮かべてそんなことをいう友明。
 俺は顔が赤くなるのが感じられた。
「ば、ばかやろうっ! そんなわけないだろっ」
 赤くなった顔を見られるのは嫌だったので数歩先を歩く。
 背後で友明が「可愛いなあ」と言っていたのが聞こえてきた。


 友明についてたどり着いたのは、朝、学校に行く時に寄ったランジェリーショップとは違う店だった。
 かなりの大型店だ。つか、ほんとにここはランジェリーショップなのか……?
「……大きすぎないか?」
「これくらい大きなところだからこそ、僕も入れるんだよ。ほら、見てみて?」
 友明が示す通りに周囲を見渡すと、なるほど確かに男性の姿もちらほら見える。
 そのほとんど……というか全員、女の人連れだったけどな。
「あたりまえだよ。さすがに何か特別な事情でもない限り男一人では入れないよ」
「……友明も?」
 お前なら平気で入りそうだ、という気持ちが籠ってしまった。さすがの友明も心外そうな顔になる。
「何言ってるのさ。僕だってさすがに一人では入らないよ。入る用事もないし」
「それもそうか……ごめん」
「いいけどね。それよりも、さっそく物色を始めますかー。みのるはどんな下着がいい? 可愛い系? キワドイ系?」
 そんなことを平気で聞いてくる友明なら、普通に一人でも平気そうだな、と思った。
「ほらー、キワドイ系が好みなら、こんなのもあるよ?」
 そう言って友明が指さしたのは、Tバックとか呼ばれるものだった。ほとんど紐じゃないか!!
「ば、ばかっ、好みじゃねえよそんなのっ。そんなの好んで履いてたら痴女じゃねえかっ!」
「えー、それはこういうのが好きな人に対して失礼だと思うけど……。じゃあ、こっちは?」
「……キャラ物の下着はいくらなんでも子供っぽいだろ……つか、なんでTバックとキャラものの下着がすぐ近くに並んでるんだ」
「大人の事情?」
「知らねえよ」
「まあ冗談はさておいてー」
 冗談だったのかよ……。こいつ、ほんとにいい性格をしてるよな……女に好かれて、女が思わず頼るのもわかる気はするけど。
「みのるはどんなのが好み?」
「えー……普通でいいよ。派手なのとかはパスで」
「派手でも絶対似合うと思うんだけどなー」
 喜ぶべきか……しかし、本当は男として、喜ぶべきではないのか? でも、いまは女だしな……。
 それにしても、相当長い夢を見てるのか。
 俺はふと、自分が女性であることに違和感を覚えなくなっていることに気づいた。乱暴な口調も最初はかなり気になってたけど、だんだん元々そういう性格の女子だったような気さえしてくる。
 現実なのかこれは? それともただのリアルな夢なのか?
 本当に、訳がわからない。
「……みーのーるー?」
 思考に没頭していたらしい。
 頬を抓られる感触で我に返った。友明が両手で俺の両頬を引っ張っていた。
「……ふぁにすんだよ!!」
 払いのけると、引き伸ばされていた頬が元に戻る。
 友明はぷーっとふくれっ面をして見せた。
「さっきからずーっと話しかけてるのに無視するからじゃん。ランジェリーショップで独り言をいってる気分になった僕の気持ちを考えてよ。変人みたいじゃないか」
 いや、言いたくはないが、お前は元から変人だ。
 しかし放置したのは悪かったな……。
「悪い。ちょっと考え事をしてて……」
「自分にどんな下着が似合うか?」
「そうそう、やっぱちょっとは大胆な……って違う!!」
 思わずノリツッコミ。
 さっき膨れて見せたくせに、もう友明の機嫌は直っているようだ。
 なるほど、こういう引きずらなさも女に好かれる理由だろうか。
 確かにこういう性格のこいつは付き合うのに楽な相手だろう。
「大胆なのがいいんだ? オッケー探してあげるよ」
「さっきみたいなTバックは却下だぞ」
「わかってるよー」
 本当にわかってるのかね?
 俺はため息をついて、下着を探している友明についていった。
「これなんかどう?」
 そう言って友明が差し出したのはどちらかといえば可愛い系で、でもちょっと大胆な感じも兼ねそろえた、言いたくはないが俺の理想にぴったりだった。
「……いいな。これ」
「でしょー? みのるなら絶対これだって思ったよ」
 良き理解者、という奴だろう。実際、こいつとの付き合いは一年や二年じゃないしな……。
 大学に入る前……高校時代からだからもう五、六年にはなるのかな?
「うん、これにするよ。これならまあ、恥ずかしくないし……」
 さっきのTバックとか、紐パンは着ているだけで恥ずかしすぎる。逆の意味で、キャラものも。
「着て帰る?」
「いや、さすがに下着はどうかと思う……」
 朝買っていま来ている下着は、店で買ったあと、大学のトイレで身に付けたのだ。
 というわけで他にも同じような下着を数枚購入して、俺たちは店を出た。
「さて、次はバッグとかアクセサリーだねー」
「まだ行くのか?」
「あたりまえじゃない。みのる、服を揃えても、そんな色気も可愛げもないスポーツバックを肩にかけてたら台無しだよ。いや、みのるの活発さには合ってるけど、やっぱり可愛いバッグとかもほしくない?」
「……そりゃ、まあ」
 ここまでコーディネートしたらバッグとかも揃えたいところだが。
「でもアクセサリーはなぁ……高いだろ?」
「アクセサリーも、そんなに高価なものだけじゃないよ。まあ、僕に任せておきなさい」
 確かにこいつに任せていれば問題ないだろうけど……なんか、釈然としないな。


 アクセサリーショップでは物珍しさに目が眩んだ。
 光物、というべきだろうか、キラキラと綺麗なものが所狭しと並び、そういった物が並んでいるのは宝石店くらいのものだろうと思っていた俺には驚きのことだった。
 それに、意外と値段もピンキリで、もちろん高い奴は目が飛び出るほど高いのだが、安いものは100円単位であった。
「ピアスはいや?」
「ピアスは嫌だな……怖いし、体に穴を開けるっていうのが想像できない」
「じゃあこっちの耳たぶをクリップで挟んだり、磁石で挟んだりするタイプのものにしようか。実際、穴を開けるピアスは色々と面倒だしねー。ピアッサーも調達しなきゃいけないし。普通の針でもいけるけど、消毒とか大変だしねー。穴あけたからってすぐつけられるわけじゃないし」
「……詳しすぎだよ、友明」
 曲がりなりにも女の姿をしている俺より詳しいってどうなんだ? いや、外見は内面に関係ないからいいんだけどさ。
 それにしても、こういうところで綺麗な奴や可愛い奴を見ていると、なんだか妙な気分になってくるな。変な意味じゃなくて、なんというのか、すごく興味が湧いていくるというのか……。
 俺はいつのまにか真剣にアクセサリーを見て、選んでいた。
 特別可愛い奴を見つけた時には、本当の女子みたいに歓声をあげたりもしてしまった。
「あ、なあなあ友明! これすごく可愛くない?」
「うん、そうだねー」
「お、でもこっちも綺麗だなぁ……。こっちはちょっと大きすぎるけど、形は好み……」
「みのる、こっちにそれの小さい奴あるよ?」
「え、ほんと!?」
 もう本当に女子になったみたいだった。
 そんな俺を、友明がいつもとは少し違う笑顔で見つめていたことに、俺はアクセサリーに夢中で気付かなかった。





「……ごめん。なんか、すごい出費になっちゃって」
「大丈夫大丈夫。みのるが喜んでくれてよかったよ」
 俺と友明はすっかり大量になった袋の山を抱えていた。もう昼はとうに過ぎている。
 くるくる、と俺のお腹が可愛らしい音をたてた。女の体は腹の音まで可愛らしいのか……と、変なところを感心していると、友明がこちらを苦笑しながら見ていることに気づく。
 さすがに赤面した。
「そ、そういえば朝抜いたんだった……」
 というか、朝はそれどころじゃなかったのだ。いきなり女になってしまっていて、その衝撃で食事のことなんてすっかり忘れていた。
「それじゃあお腹も空くよね。どこかで食べようか」
「この大荷物を抱えて?」
「まとめればもう少し小さくなると思うよ。そのまとめる作業もしたいしさ」
「わかった。じゃあファーストフードにでも行く?」
「穴場の喫茶店を知ってるからそこに行こうよ。安くて美味しいランチを出してくれるんだ」
 こういうことに関して、友明の情報は頼りになる。
「友明に任せるよ」
 だから俺はそう言った。友明は任せておきなさい、とでも言うように笑って頷く。
 得意げな友明に促されて案内された店は、確かに穴場だった。
 ほどよい広さに、落ち着いた内装。
 客は結構いたけど、仕切りやテーブルの配置がうまいのか、息苦しさは感じない。
「へえ、こんなところに喫茶店があったんだなあ。通学の時とかよく通る道筋なんだけど」
「うん。穴場っていったでしょ?」
 席に座った友明は、さっそく荷物の整理を始めていた。
 メニューは俺の前にある。
「メニュー見ていいよ。僕はもう決めてるから」
「何度か来たことあるって言ってたもんな」
「そう。だから気にしないでいいよ」
「じゃあ遠慮なく」
 本来ならテーブルに広げて二人で見るものだが、俺はメニューを取り上げて一人で見た。
 うーん、なるほど、ランチはうまそうな奴が並んでるな……喫茶店にしては安いし。
「じゃあ俺はこのAランチにしようかな」
 店員に友明の分も合わせて注文すると、割合素早くランチが出てきた。
 便利ないい店だ。ランチの味もかなり良かった。客層のほとんどがカップルだったのには驚いたけどな……。まるで俺と友明もカップルみたいだった。
 腹を満たした俺と友明は、これ以上寄るところもなかったため、家に帰ることにした。




「ただいまー。あー、疲れたー」
 同居人は背後にいるから声が返ってくるわけがないんだけど、家に帰ると思わずこの挨拶が出てしまう。
 友明は荷物を部屋の隅に置きながら言った。
「シャワーでも浴びてきたら?」
「そうだなー」
 あまりシャワーを浴びたりする習慣はないんだけど、まあ気持ちいいかもしれない。
 いままでは放置してきたけど、この体をじっくり見ていないしな。
「じゃあ入ってくるよ」
 買ったばかりの下着を持って、脱衣所に向かう。
 服と下着を脱ぎ捨てると、均整の取れた姿態があらわになった。
(さ、まずは汗を流そうかね)
 シャワーを浴びて、体の汗を流す。
 手で地肌をこすると、男のそれよりもはるかに柔らかい感触が返ってきた。
 柔らかいのは胸だけじゃない。全体的にそうなのだ。
 二の腕、胸、お腹、お尻、ふくらはぎ。手を滑られるその全てが柔らかい。
 俺はボディシャンプーを泡立てて自分の体を擦った。胸をもむようにして洗っていると、変な気分になってくる。ぐにぐにと形を変える乳房が刺激を生み出していた。だんだん乳首がその存在を主張するように硬くなってきた。
(おー、ほんとに立つんだなあ……)
 指先でつまむと、ぴりり、としか感覚が脳に刺激を与える。
「ふわぁ……」
 乳首を触るだけで酷く快感を感じ、思わず吐息を零した。
 こうなると、下の方にも刺激を与えてみたくなる。胸を触っていた手を滑らせて、その場所をまず手のひらで撫でる。
 あるべきものがない感覚は新鮮だった。股の間に何もないっていうのはなんというか、不思議な感じだ。
 手前から奥に向かって股間に押し付けた手のひらを動かす。奇妙な刺激が湧き上がってきた。
「んん……なんか気持ちいい……」
 これが女性独特の感覚なのだろう。俺はさらに指先を蠢かせて秘部の切れ込みを探った。
 穴に指をいれて大丈夫かな、と思ったが、入口付近に触れた指先から、じっとりと何やら粘着質の感触が返ってきた。
「ん? これってもしかして……」
 もしかしなくても、『濡れて』いるんだろうか。
 その粘着質な液体は、軽く入口を突いただけの指先を奥へとめり込ませる潤滑液の役割を果たした。
 ずぶずぶと指先が体の中にめり込んでいく感触は、男子では後ろの穴でしか感じられないものだろう。もちろん俺はそんな穴に指を入れたことなどない。初めての感覚だった。
 めり込んだ中指の指先は、もう第二関節あたりまで入ってしまっている。
 中でゆっくりと動かすと、言いようもない快感が湧き上がってくるのが感じられた。
「ふぁ……んっ……」
 中指を引き抜くと、ねちゃっとした液が中指に纏わりついていた。一本なら簡単に入った。では、二本ではどうだろう?
 人差し指を中指と擦り合わせて、液を人差し指にも塗りたくる。これでスムーズに入るはずだ。
 指を二本そろえて、入口に添えた。さすがに楽に入ってはくれない。
 押し込むようにして入れると、穴はぐぐっと広がり、大きな快感を齎した。
「んあっ……ふぅ……はっ……」
 ずぶずぶと、穴の中に指が入っていく。
 第一関節までは入った。あとは一気に第二関節まで……。
「んん……あ、ふあ……はぁっ……ひぅ……!!」
 なかなか入らないもどかしさに焦れて、思わず力を込めると、あっという間に指は根元まで入り込んだ。
 急激に広がった穴から、痛みが走る。だけど、その痛みはすぐに快感に取って代わられた。
「ふあああっ!!」
 ずぼり、と擬音がつきそうなほど一気に指を引き抜くと、それが想像以上の快感になって脳を震わせた。
 暫くの間、荒い呼吸を繰り返しながら、身動きが取れなかった。
(すげえ……女の快感ってこういうのなのか……なんか一瞬頭の中が真っ白になりかけた気が……イキかけてたのか?)
 心臓の鼓動がドキドキうるさかった。イキかけただけであんなに気持ちよく、こんなに興奮しているのだ。実際に行った時の快感はどれほどのものだろう。
 俺はさらに快感を得るため、指を三本揃えてその穴に――。

「みのるー? ちょっといいかなー?」

 思わず体が盛大に震えた。
 振り返ると、風呂場のドアの曇りガラスに、友明の姿がぼんやりと映っている。
 驚きと狼狽で声を震わせながら、俺は応えた。
「な、な、なに? 友明っ?」
「いやー、何か変な声がしてたから、大丈夫かなーってね? 気分とか悪い?」
 うそっ、そっちまで聞こえてたのか!?
「な、なななんでもない!! 気にしないで!!」
「そうー? ならいいんだけどー。あ、そうだ」
 がちゃり、と無造作にお風呂のドアが開けられた。
 硬直する俺に構わず、友明は手に持っていた何かを差し出す。
「シャンプー切れてたでしょ? はい、これ買い置きの奴ね」
「あ、あ、ありがとう」
 え、ちょっと待ってくれ。
 なにこの平然さ? え? あれ? なんで友明は平然としてるんだ?? 仮にも女がシャワー中にドアを開けるか?
 再び疑問符で頭の上を埋め尽くしていると、友明は首を傾げた。
「どうしたのー? ……いまさら、裸くらいで気にすることもないでしょ?」
「は……?」
 呆然とする俺の前で、友明はとんでもないことを平然と言ってのけた。

「僕たち、付き合ってるんだからさ」

 ええええええええええええええええええっ!!
 声に出して絶叫しなかったのは、自重したのではなく、ただ単に叫びにすらならなかったからだ。
 人間、驚愕しすぎると逆に声が出なくなるものだと発見。
 で、でも確かにそうでもなければ男女でルームシェアなんてしないか。っていうか、むしろこれってルームシェアっていうか、同棲?!
 空気を求める鯉のように口をパクパクさせる俺の前で、友明はいつもの微笑みを訝しげに歪めた。
「どうしたの? みのる、やっぱりどこか調子でも悪い?」
「え、あ、いや、そういうわけじゃあ……」
「あ、じゃあこうしよっか」
 完全に思考停止している俺を置いて、友明はさらにとんでもないことを言い出した。
「僕も入るよ。体と髪を洗ってあげる」
 ……イマ、ナント?
 もはや現実は思考の限界を超えた。
 言葉もない俺の前で、友明はさっさと服を脱ぎ、その身体を晒しながら風呂場に入ってきた。もちろん、前にぶら下がっているものを隠す素振りはない。
 本来は同姓だが、とはいえ人のそれを堂々と見ることなどなく、俺は視線を逸らして前を向いた。そんなに広くもないバスルームは、二人が入るともう手狭で、友明はほとんど密着するような位置に座る。
「可愛いなあ、みのるは。恥じらいを忘れていないというかなんというか」
「あ、あの、友明、もう体も洗ったし、俺はあが――」
 いきなり後ろから腕が伸びてきて、胸を掴まれた。
「――――っっっ!!???」
 絶叫は声にならない。
「まあまあ。遠慮しない遠慮しない」
 あっさりと胸から手を離した友明は、スポンジにボディソープを垂らし、泡立たせて背中を擦ってきた。
 うなじからお尻のすぐ上まで、何度もスポンジが往復する。
「と、友明、もうほんと、いいから……」
 なんとか抵抗を試みて、立ち上がろうとするが、
「まあまあ」
 などと言って肩を押さえられてしまうと身動きが取れない。
 そうこうしているうちに、友明の手は前にも伸びてきた。さすがにそこまでは……!
「ちょ、前はいいって…………ひゃあっ!!?」
「気にしない気にしない。僕たち、恋人でしょ?」
 耳元に寄せてきた友明の唇から、息が耳に吹き込まれたのだ。なんとも形容しがたい、奇妙な感覚に俺は体を一度痙攣させ、動きを止めるしかなかった。
 友明の手は首筋から胸、胸からお腹まで丁寧に洗っていく。鎖骨に沿うように手が動くと、それはまた新たな快感となって俺に襲いかかってきた。
 スポンジを握っていない空いている手は、胸を柔らかく揉んでいる。これは明らかに洗う動きじゃない。
「ちょ、あう、こっちの、手は、ふっ、なんか、ちが、う……っ」
「ふふふ、ちょっとした悪戯だよ」
 楽しそうに笑う友明。俺はもはや完全に友明のおもちゃになっていた。なんとか抵抗しようと手を動かすが、友明は掴まれる前にすばやくかわしてえしまうし、快感に痺れている手足ではつかんでもすぐ振り払われるのがオチだ。
 しまいに秘部にまで友明の手は伸びた。
「そ、そこは……!!」
「いいからいいから」
 あっさり応えた友明はそこに指を這わせる。他人が触っているという事実が違った快感を与えるのだろうか、自分で触った時よりも気持ちいい。
「んあっ、と、ともあきぃ……」
「あー、やっぱり可愛いね。いい声……」
 つぷっ、と友明の指先が俺の中に入ってきた。
「ふああああああ!」
「しっ。ちょっと声大きいよ。外に声は聞こえないと思うけど、静かに」
「そ、そんなこと言ったって……あうっ!」 
 くちゅくちゅ、という明らかに粘着質なものがかき回されている音が風呂場に響く。気がおかしくなってしまいそうだった。
 自分の喘ぎ声が、どこか遠くで聞こえているような気さえした。勝手に出てきているのだ。だんだんその声は大きくなる。
「静かにって言ったのに……しかたないなあ。噛まないでね?」
 いままで胸をいじっていた指先が、俺の顎をとらえる。
「ふぁあ……? ッ! ん――っ! んーっ!」
 いきなり顔を横に向けさせられたと思ったら、唇を重ねられた。
 目の前に友明の目を閉じた顔が映っている。
 何か暖かい物体が、唇を押し開けて口内に進入して来た。これは……ひょっとして、舌?!
 舌と舌が絡まり、吸われ、押し込まれて、自然と流れて出す唾液が交換され、歯の一本一本から、もっと深いところまで舐められて……。
 ディープ・キスだ。
 友明はかなり手慣れているようで、俺は呼吸さえ困難だというのにかなり長い間唇を重ねていた。
 しかも、その最中でさえ友明の指先は止まらず、ヒダをつままれたり、二本揃えて差し込まれたり、クリトリスを外皮の上から刺激されたり……実に多彩な動きで攻めてきた。最終的には二本の指を入れたまま、上下左右に激しく震わせながら抜き差しを繰り返し始める。
 俺はどんどん快感が高まっていき、頭の中が白く染め上げられていくような感覚に陥った。
(これが――――イクって、こと――――なの――か――?)
 ひと際深く、指先が俺の中をかき回す。
 もう、何も考えられない。
 とんでもなく大きい快感が頭の中で破裂したのを最後に、俺の思考は分断された。




 気づいたら、ベッドの上に寝かされているようだった。背中に柔らかなシーツの感触を感じる。
 目を開けると、ベッドに腰掛けてこちらを見ていた友明と目が合った。
 友明はいつものにこにこ笑顔で呆れたように言う。
「気絶しちゃうなんてびっくりしたよ。風呂場から運ぶの苦労したんだからね」
 体は濡れてるから拭かなきゃいけなかったし、と友明は続ける。
 もとはといえばお前が悪いんだろうが、そう言いたかったが、まだ快感でしびれる体は動いてくれなかった。
 友明が態勢を変え、俺の頭の上に覆いかぶさってくる。
「じゃあ、第二ラウンドに行こうか」
 その言葉にいやな予感を感じ、よくよく体に意識をめぐらせてみると、俺は全裸で寝ていた。
 掛け布団はどこかに行っていて、白いシーツの上にそのまま寝かされている。
 ちょ、まさか……セックスする気か!?
 恋人同士っていう認識なら正しいのかもしれないけど……いや、ちょっと待て。心の準備が……大体俺は男……。
 だんだんその自信が揺らいできた。
 男であったことの方が夢であったような気さえしてきている。
 ああ、もうどうすればいいんだっ?!
 ゆっくりと、友明が顔を近づけてくる。
 避ける術はなかった。とっさにギュッと目をつぶる。
 また唇に唇が重ねられた。舌を入れられるかと思ったが、友明は数秒重ねただけでそれ以上のことはしてこなかった。
 あれ? 絶対ディープ・キスが来ると思ったのに……。
 思わず目を開けて友明の顔を見ると、友明は悪戯小僧のような笑みを浮かべていた。
「あれ? ディープ・キス、してほしかった?」
 ぼっ、と顔が赤くなるのが自分でもよくわかった。視線を逸らす。
「べ、別に…………ひゃうっ!?」
「素直じゃないなー、みのるはー」
「ちょ、友明っ! どこ触って……」
 ふくらはぎの辺りに変な感触が走った。妙に冷たいというか、いや、温かいのか……。
 さっきまで友明の顔があったあたりに視線を戻したけど、友明の顔はない。あれ? どこに……?
 今度は反対側のふくらはぎに同じ感覚が走った。
「ひゃっ! また……!」
「ん……触ってないよ?」
 今度はお腹。
「ひっ! ちょ、まさか友明、舐めてるの!?」
「愛撫してると言ってほしいな」
 乳房にその感覚が走って、思わず体を硬直させた。よくよく感じてみれば、確かに舌が嘗めている感触だ。
「あふ、あうっ、ひゃ、ゃめてぇ……」
「気持ちよすぎる? じゃあ、これは?」
 その友明の言葉のすぐあと、乳首に電撃が走ったかのような衝撃が走った。
「ぎゃあ!!」
「ぎゃあ、ってみのるー。ちょっと色気がないよ?」
「う、うる、うるさいな! 何やったんだよいま!?」
「んー? ちょっと乳首を甘噛みしただけだけど?」
 すさまじい衝撃の正体はそれか!
「ちょ、それは、痛いって!」
「ほんと?」
 また同じ衝撃が走った。
「ひっ!」
「本当に痛いだけかな? 気持ちよくはない?」
 ぺろり、と乳首がなめられ、先ほど噛まれた方とは別の乳首が噛まれる。
 脳に激しい痛みとしびれるような快感が走った。
 確かによくよく感じてみると、痛さの中に快感がある……。
 俺は完全に友明の手の中でもがく虫のようだった。
「ひぅ、あ……はぁ……ふわぁ…………」
 指と指の間でなめられている方とは違う側の乳首が転がされると、思わず体がびくびくと痙攣してしまう。
「さて……だいぶ濡れてきたね」
 なにが? と問うほど、俺もうぶではない。
 友明の手が秘部を弄って来た。
 くちゃくちゃ、と聞くだけでいやらしい水音が響く。
 たたみかけてくるような快感に、俺の頭はまともな思考が出来なくなってきて来ていた。
「と、ともあきぃ……」
「……駄目だよ、みのる。そんなにいい声だしちゃあ。もう、仕方ないなあ」
 切れ込みの中に、指ではない、別の何かが入ってきた。
 なんだ? 妙に温かくて、柔らかくて……し、舌か!?
「せーいかーい」
 楽しげに笑う友明の声が途切れて、また秘部に不思議な感触が走る。水音がぴちゃぴちゃというような音を出すようになってきた。
「もうこれで十分だね」
 友明が大勢を変えるのがわかった。腰を引き寄せられて、股間に何か熱いものが触れる。
 それが友明のイチモツだとわかった時には、先端が少し中に入ってきていた。
「たぶんこれだけ濡れていれば痛くないと思うけど……痛かったらいってね?」
 指を二本重ねた分よりも太いそれが俺の中に入り込んでくる。
 不可思議な感触に俺は声も上げられなかった。
「さすがにキツイな……っ」
 ずぶずぶと、俺の中に友明の物が埋まっていく。
 根本まで入ると、奥の方が押し上げられるような感覚がした。
 ひょっとして膣口まで到達しているのだろうか。
「動くよ?」
「ちょ……まっ……」
 思わずあげた制止の声も聞かず、友明はピストン運動を始める。
 接合部からぐちゃぐちゃとすごい音が響いた。
「うわっ、いい感じ……みのるはどう? 気持ちいい?」
「そんな、こと、いわれても……わかん、ない、よっ……」
 口ではそう答えつつも、頭はもう気持ちよすぎて爆発しそうだった。男でいうなら、射精寸前の快感が延々と続いているようなものだ。しかもまだその先が見えない。
「あっ、ひぃ、いい、いい……っ!!」
「ふふ、気持ちいいんだね。いいよ、思いっきりイっちゃえ!!」
 さらに友明の動きが早くなった。
 それに応じて、快感が増す。
「あ、ああ、いく、イっちゃうっっ!!」
 頭の中が真っ白になるのと同時に、体の中に何か熱い物が噴き出してくるのを感じた。


 お互い荒い呼吸を繰り返しながら、しばらくベッドの上から動けなかった。
 やがて呼吸も落ち着いてきたとき、友明がこちらを見てにっこりと笑う。
「どう? 気持ちよかった?」
「…………うん」
 意図せずして、素直に言葉が零れた。
 本当に気持ちが良かった。他のことが全部どうでもよくなるくらいに。
 よほど友明との相性はいいらしい。
「今度はもっともっと気持ちよくさせてあげるよ。色々と耳年増でね。知ってることは多いから」
「ほんと?」
「もちろん」
「…………楽しみにしてるね」
 元が男であったとか、どうでもよくなった。
 あの快感をまた味わえるのなら、別に戻らなくても構わない。
 そう、『私』は、この瞬間に、女であることを受け入れた。






 ある休日。
「友明ーっ! 遅いよっ!」
 西条みのるが、後ろを歩く戒田友明を急かした。
 可愛らしいブラウスに、レースが効果的に使われているスカートを翻して急ぐみのるを、友明は苦笑して追いかけている。
「みのるが早いんだよ。そんなに急がなくても映画は逃げないからさ」
「はやくいかないといい席が埋まっちゃうかもしれないじゃない。もうっ、先に行ってるからねっ」
 拗ねたようにみのるは友明を置いて先に行ってしまうが、本気で怒っているわけではないことは声音や表情を見ればたやすくわかる。
「やれやれ……すっかり可愛らしくなちゃって」
 楽しそうにため息を吐いた友明は、みのるに追いつくために足を速めようとした。
 しかし。
「戒田友明殿」
 そんな呼びかけの声がしたため、足を止めた。
 友明はいつもの笑顔のまま、背後を振り返る。
「なんだい? いまから僕はみのると映画館でデートなんだけど……って、なんだいその格好は」
 そこに立っていたのは、見た目、十四、五歳の少年だった。
 詰襟の学生服に黒縁眼鏡、前髪は七、三分け、と『がり勉少年』そのものの姿だった。
 指の腹でメガネの縁をくいっと持ち上げてみせたその少年は、友明の質問に真面目に答えた。
「はい。人間界では、勉強するときはこういった恰好をするものだ、と学びまして」
「変なとこから学んだろ。そんないかにもながり勉、現実にはいないよ」
 少年に近寄った友明は、少年の頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃと髪の毛を乱した。
 短く悲鳴を上げる少年。
「ああ! セットに苦労したのに!」
「眼鏡もいらないでしょうが。まったく、情けない声をあげるんじゃないよ」
 友明は盛大にため息を吐いた。

「悪魔ともあろうものが」

 悪魔、と言われた少年は、真面目な顔をして訂正する。 
「正確には悪魔見習いです」
「どっちでも似たようなもんだろ? 実際、叶えられない望みはないって言ったじゃないか」
「いいえ。大きく違います。なにせ、僕たち見習いは人を堕とすことが出来ないのですから。ですから、戒田友明殿と『願い事をかなえる代わりに人の堕とし方を教えてもらう』契約を交わしたのですよ?」
「気になっていたんだけどさ。なんで人間に教えを請うわけ? 悪魔の先輩とかいないの?」
「先輩悪魔はみんな忙しいですし……先輩悪魔に聞いてみたところ、『人間以上に悪魔の振る舞いを学ぶのにふさわしい教材はない』との答えが返ってきました」
 ある意味、それは正しいのかもしれない。
 悪魔よりも悪魔らしい人間は山のように存在する。
「まあ、いいけどさ……で? 何を聞きたいの? 願いを叶えてもらったんだからできる限り答えるよ」
「はい。『西条みのる』を堕とす手際、実にお見事でしたが……どうしてあのように上手くいったのですか?」
 ずずい、と悪魔は興味深々な様子で友明に迫った。
 その楽しそうな表情を見て、友明はひょっとしてこれは唯の悪魔の趣味なんじゃないか、と思ったが、とりあえず真面目に答える。
「まず最初のポイントは相手のことをよく知っていたこと、さ。みのるについては知らないことはないってくらいに知ってたから、こうして上手く堕とせたと言えるね」
「ほうほう」
「相手の思考パターン、行動の選択、反応、望み……すべて網羅していれば、堕とすのはそう難しいことではないよ。特にみのるはTSに対して興味があったことも知ってたしね。僕も同じ趣味を持っているけど……僕とみのるで違う点は、変わるのを見て楽しむか、その変わる登場人物に感情移入して楽しむかの違いだ」
「ふむふむ。それで僕に『西条みのるを女性に変えろ』という望みを?」
「うん。みのるが性転換している登場人物に自分を重ね合わせていることは気づいてた。かといって本気で性転換したいって思っているわけではなかったけど、興味を持っているなら、そこを利用してやれば堕とすのも簡単だろうな、と思ったわけさ」
「鬼畜ですね」
「見習いとは言え、悪魔に言われたくはないね。あと、次のポイントは相手に考える暇を与えないことかな。誰だって一定以上の思考能力は持ってるから、それをフルに活用されたら堕とせるものも堕とせない。だからその思考能力を奪うことで、堕ちるように出来るってわけさ」
「本来、女に変えたら持ち物もそれに準じて変わるのに、それをあえてしないようにしたのは、それが理由ですか?」
「そう。わけがわからない、という思考状態はこちらの思惑に誘導するのに好都合だからね。みのるは実にうまく混乱してくれたよ」
「なるほど……」
「そして最大のポイントは快感を与えることさ」
「快感……ですか?」
「うん。痛みや苦しみは反感を買うから、相当うまくやらないと駄目だけど、快感は我慢できるものでもないからね。人を堕落させるには求めるものをすべて与えてやればいい――とはよく言ったものだと思うよ」
「なるほどぉ、わかりました。参考になります」
 無邪気に笑って喜ぶ悪魔の少年を、友明はいつものほほえみで見つめた。
 そして、思いついたように手を打つ。
「ああ、あと……これは余分かもしれないけど教えておくね」
「はい、なんですか?」
 友明は悪魔から二、三歩離れて、肩越しに振り返る。
 振り返った友明の顔を見た悪魔は、思わず息を呑んだ。
 その時、友明が浮かべていた表情は――。

「悪魔なら、こういう笑い方をした方が似合うよ?」

 唇の端を吊り上げ、細められた眼の奥に覗く瞳は鋭利な光を放っている。
 見習いとはいえ、仮にも悪魔が気圧されるほどの邪悪な表情。
 友明はまさに『悪魔の笑み』と称されるような笑顔を浮かべていた。
 息を止めて見つめる悪魔の少年の前で、友明は再びいつもの柔らかい微笑に戻る。
「じゃあ、また何か聞きたいことがあったらいつでも来てね。君のおかげで性格も顔も可愛い彼女も出来たし、感謝してるよ」
 明らかに善人の部類に入るほほえみを浮かべながら、友明は人ごみの中に消えていった。
 あとに残された悪魔の少年は、頭上に広がる空を仰いで、呆然と呟く。
「先輩……あんな人間がいるのに、悪魔って必要あるんですか?」
 僕たち悪魔なんか、悪魔らしさでは人間の足もとにも及ばない気がします――。

 見習い悪魔は肩を落とし、人ごみに紛れて消えた。




(終わり)

Comment

No.121 / [#] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2009-01/01 07:11 (Thu)

No.122 / 名無しさん [#-]

いやあ、感情移入する分と見て楽しむ分、どっちも美味しく頂きました

2009-01/01 20:43 (Thu)

No.123 / 名無しさん [#-]

今回の短編とても面白かったです!
僕は作者さんの作品はダークなものより「DIRS」のような明るい方が好きなので、また今回のような作品をかいてもらえるとうれしいです!

2009-01/03 01:41 (Sat)

No.125 / 光ノ影 [#jzSIA8X2]

>07:11:04 の方
 ご指摘ありがとうございます。直しておきました。

>20:43:16 の名無しさん
 楽しんでいただけたようでなによりです。
 一応両方とも幸せになれた……のかな?

>01:41:49の名無しさん
 感想ありがとうございます!
 ダークなものよりライトなものが好み、と……なるほど。参考になります。もちろん、今後もこういう話は書きます。明と暗を書き分けられる物書きが私の目標です。

2009-01/04 21:04 (Sun) 編集

No.126 / toshi9 [#YK3S2YpI] 拝読

利明の周到さ、まさに悪魔も形無しですね。
私はみのるに感情移入して読んでました(笑
いやあ、楽しく読ませていただきました。
光ノ影さん、改めて今年もよろしくお願いしますね
(同人誌作品も堪能させてもらいましたよ)

2009-01/05 23:57 (Mon) 編集

No.127 / 光ノ影 [#-] Re: 拝読

 コメントありがとうございます!
 みのるに感情移入していただけましたか。それは良かったw

> 光ノ影さん、改めて今年もよろしくお願いしますね
 こちらこそ、よろしくお願いしますです。愛想を尽かされないように精進します!

> (同人誌作品も堪能させてもらいましたよ)
 ありがとうございます! あの作品は中々評判がよいようでなによりです。

2009-01/08 19:00 (Thu)

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