FC2ブログ
  1. Top
  2. » スポンサー広告
  3. » 『スライドール』
  4. » 『スライドール』 第五章

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  • ジャンル :

『スライドール』 第五章

『スライドール』の第五章です。
それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『スライドール』第五章
 


 ある日のオーナーの執務室にて。
「ふむ……どうしたものかな」
 オーナーは悩んでいた。手元にはスライドールの資料がずらりと並んでおり、彼が所有しているスライドール達のデータもすべて並んでいる。なにを悩んでいるのかはその書類からは類推出来ないが、いずれにせよかなり根深い悩みらしく、なかなか答えの出る様子がなかった。
 そんな折、執務室の部屋がノックもなしに開かれて一人のーー否、一体のスライドールが顔を除かせた。
「オーナー。ちょっといいっスか?」
 蓮っ葉な口調で伺いながらも、すでに執務室の中にずかずかと入り込んできているそのスライドールの態度に、オーナーは苦笑を浮かべざるを得ない。
「いや、別にかまわないんですけどね。もうちょっと私をオーナーとして敬う気持ちはありませんか?」
「めちゃくちゃ敬ってるっスよ。こんな楽しい世界をみせてくれた恩人ですもん。まあ、そんなことはどうでもいいじゃないっスか」
 オーナーへの敬意をどうでもいいと断ち切ったそのスライドールは、オーナーの机の上にあがって、オーナーに迫る。
「ねえ、オーナー。いつになったらツキとやらせてくれるんスか? そろそろ……もう我慢できないんスけど……」
 妖艶な笑みを浮かべて、そのスライドールはいう。オーナーはますます苦笑を深めた。
「もう少し待ってください、カエデ。あなたとツキが戦うのは最後の最後……くらいのタイミングじゃないと。どっちも珍しい超近接攻撃タイプのスライドールですからね。どっちかを失うのが確実な興業は、盛り上げに盛り上げてからじゃないと……もったいなくて」
 そうオーナーが答えると、カエデはつまらなさそうに頭を掻いた。
「そんなの気にしなくてもいーのに。っていうか前の試合がそうだったけどさ。そろそろツキ死にそうじゃん。早めに戦わせてくれねーと戦わないままあいつが死んじまうよ」
 彼女の口調はすでに完全に崩れていて、無礼と言うレベルではなかったが、オーナーはあえてそれを正そうとはしなかった。
「その心配は無用だと想いますけどね……この前のはちょっと厳しすぎるハンデを与えちゃいましたので……それを克服するために、ちょっと無茶をしちゃったみたいで」
「腕はもう治ったのか?」
「もう直しましたよ。裏の世界だとスライドールは『死なない』限りは修復することが認められていますから。それも禁止にしちゃうと、色々不都合がありますしね」
「処女厨が常に処女を味わえなくなるもんな」
 下品な物の言いように、オーナーは少し苦笑いを浮かべる。
「貴女はもう少し品性というものをインストールし直すべきでは? ツキやサンを少しは見習ってほしいものです」
「知るかよ。ところでオーナー。ツキに問題がないってんなら、何を悩んでたんだ?」
 どうやらカエデはオーナーの悩みが、ツキがそろそろ限界であることを受けてどうしようか悩んでいるのではないかと予想していたらしい。それは半分正解で、半分間違いだった。
「ツキのことで悩んではいるんですけどね……この先、ツキを使ってどうやって興業を盛り上げようかと。正直、どんな手を使っても最終的にツキは一気に敵を倒してしまうか、あるいはハンデが無理すぎて、ほぼ自滅のような形であっさり負けてしまうような気がするんですよね」
「なるほど。興業とするなら、どっちにしたっておいしかねえ結末だな」
 オーナーの机の上に置いてあった資料を勝手に手に取り、カエデはつぶやく。
「……つーかよ、ツキが一瞬で敵を倒さなければならないようなシチュエーションにするからいけねえんじゃね?」
 その彼女の言葉に、オーナーの目が瞬いた。
「どういう意味です?」
「いや、そのまんまの意味なんだけどさ」
 詳しい説明を受けていくうちに、オーナーの顔が輝き始めた。それを見たカエデはいやそうな顔をする。
「うわぁ……オーナー、いますげえ顔してるぜ? ぶっちゃけきもい」
「ひどいですね……まあ、自覚はありましたが」
 にやりとわざとらしく笑ったオーナーは、彼女に向けて親指を突き出す。
「いいですよ。ナイスアイデアです。ちょうどそろそろ単純な戦いにも飽きがくることでしょうし……上手く観客の嗜虐心を煽ることが出来れば、興業の成功間違いなしです」
 くっくっく、とオーナーは笑う。その表情を見たカエデは虚空を見つめ、ツキに向かって口を開いた。
「すまねえな、ツキ。なんか変なツボついちゃったみてぇだわ」
 他人事のような――実際他人事なのだが――その呟きは誰に届くわけでもなく、ただ虚空に消えた。
 
 
 
 
 放たれた声こそ届かなかったが、嫌な予感というものをツキは受信していた。
 顔をしかめて、虚空をにらみつける。
「なんか……すごく腹の立つことを言われたような気がする」
 低い声で呟くツキ。目の前にいたサンが、その呟きを聞き咎めて首を傾げる。
「何言ってるの、ツキ? 次はツキの番だよ!」
 いいながらサンが手札をツキの前に突き出す。
「ああ、ごめんごめん」
 ツキはそう謝ってから、改めて突き出されたサンの手札を見た。綺麗に扇形に揃えられた手札の中で、一枚だけわざとらしく突き出している。ツキは少し考えてから、その突き出した一枚を挟み取った。裏返して内容を見てみるとそれはジョーカーで、予想通りだった。サンがケラケラ笑う。
「引っかかった! 引っかかった! もー、ツキってばすぐ引っかかるんだからー。ほら、次はコッチの番!」
「はいはい」
 楽しげにサンは笑っているが、もちろんツキは一つだけ突き出していたカードがジョーカーだとわかって引いた。サンはこの手のカードゲームではとにかくわかりやすいので、勝敗を操作するのは簡単だった。ただし神経衰弱だけはやれない。サンにカードを覚える気がないので、普通に他のゲームで勝たせるより相手をしていて倍は疲れるからだ。
(その点、ババ抜きは簡単だな)
 サンはババ抜きを完全な運任せのゲームだと思っている。だからとくに何も考えずに罠を張るし、張られた罠に躊躇せずつっこんでくる。
 ツキがババをよく所持するようにして、数回はババを渡す。それだけ注意しておけばサンは機嫌がよくなって最終的に買っても負けてもどちらでもいいと考える。かといって勝ちすぎてはいけない。あくまでも大体引き分けか、ツキ側の負け越しで終わるようにしなければならない。最後の勝負では勝たせた方が無難、などなど。ツキがサンとカードゲームをするときに考えなければならないことは多い。
 サンとゲームをするときはそう言った操作を必要とするため、勝率を操作しにくいゲームは鬼門だった。
 今回のゲームでは最終的にサンがカードを引いて、ツキの手元にジョーカーが残って終わった。
「やったー! これで確か五勝三敗くらい? また私の勝ち越しだね!」
「そうだね。中々勝てないや」
 本当は五勝四敗なのだがわざわざ指摘する愚は犯さない。「サンは強いなぁ」などというお世辞も言わない。サンは調子に乗りやすいのだが、手を抜いたとわかると途端に機嫌が悪くなる。下手に褒めるとツキが悔しがってないということになり、ゲームを真剣にやらなかったと機嫌が悪くなるのだ。
 サンという女の子は、中々厄介な性格なのだった。
 それに付き合うことが別に苦ではないツキは、のんびりとゲームの切り上げを口にする。
「そろそろ休もうか。カードとか片づけてくるから、先に休んでて?」
「んー、まだ寝たくないなー。ねえねえ、恋バナしようよ恋バナ」
「相手がいないでしょ……」
 さすがのサンもそれはわかっている。単にそれっぽいことを言いたいだけなのだということはツキにはよくわかっていた。とりあえずツキの言葉に反論してみたものの、他にやりたいことも特になかったのか、サンはさっさと休眠モードに入ってしまった。
 一人になったツキはため息をはく。
(……素直に寝てくれてよかった。この感じだとたぶん――)
 そう考えたツキの耳に、アナウンスの音が響いた。やっぱり、とツキは半ば諦めた心地でそれを受け入れた。
『ツキ選手。オーナーがお呼びです。至急執務室まで来てください』
「……勘が鋭すぎるってのも嫌なもんだね」
 ツキは再度深いため息を吐き、オーナーの元へと向かった。
 
 
「今日は何の用ですかこのクソ野郎」
「どうしたんですかツキ。もしかしなくても機嫌悪いんですか?」
 執務室に現れるや否や暴言を吐くツキに対し、オーナーは余裕綽々の体で応じる。ツキは盛大に舌打ちをした。
「別に……毎度お前に呼び出される度にろくなことになってないからな。いい加減イラついてるんだよ」
「気持ちはわかりますが、諦めてくださると助かります。……さて、呼び出した用なのですが」
 オーナーは平然とした調子で話し始めた。
「実はですね、今度の興業ではちょっとしたエキシビジョンマッチ的な催しものをしようと想いまして。人気ナンバーワンのツキに是非とも出てほしいんですよ」
「どうせ拒否権はないんだろ?」
「そうですけど。まあ、そうツンツンなさらないでください。今回はそう悪い話ではありませんから」
 にこにことオーナーは話を続ける。ツキはもちろんオーナーの言葉を信じてなどいなかった。悪い話じゃないというのは彼にとっての『悪い話』じゃないだろうということは予想済みなのだ。
「まずですね、今回そのエキシビジョンにメインで参加していただくのはツキだけです」
 その言葉を聞いて、ツキは少し耳を疑った。もしオーナーの言うとおりだとすれば確かにそれは悪い話ではないからだ。ツキにとってはどんな形であれサンを巻き込むというのは可能な限り避けたいことで、サンに危険が及ばないのであれば、自分自身に対するある程度の危険は受け入れる覚悟があった。
「サンには別の形でエキシビジョンに参加してもらおうと想っています。ああ、彼女に危険はありませんから安心してください。今回本気で危険なのはツキだけですから」
 一瞬身構えたツキだが、サンに危険がないと言われて眉をひそめる。
「……? わからないな。どういう内容のエキシビジョンなんだ?」
「それはいまから説明します。まずですね……こちらの道具をご覧ください」
 そういってオーナーが机の上にどっさり並べたのは、様々な責め具の数々だった。それを見たツキの顔が嫌そうにしかめられる。
「……それを全部身につけて戦ってか?」
「そうだともいえますし、そうでないともいえます」
 ツキは睨むようにしてオーナーを見た。
「ふざけるな。俺はあんまりこの手の責め具に関して詳しくないけど……これとか、明らかに腕か脚を拘束するものじゃないか。いくら俺でもこんなものをつけた状態じゃ戦えない。脚じゃなくて腕を拘束するにしても、刀がふれなきゃ俺は戦えない。的になれっていうのか?」
「それはある意味近い表現ですが……何も死ねってわけじゃないですよ?」
「……どういうことだ?」
 つまりですね、とオーナーは楽しげに説明を始める。
「この責め具をつけてエキシビジョンに参加してもらうわけですが、今回の勝利条件は勝つことではありません」
 そこまで言えばツキにもその意図は伝わった。
「……時間がくるまで、逃げ切ればいいってわけか」
「そういうことです。理解が早くて助かりますよ」
 オーナーのおざなりな拍手に、ツキの機嫌はさらに降下した。
「……俺の方の話はわかった。サンはどういう立場で参加させるつもりなんだ? もしかして……」
 嫌な顔をして呟くツキに、オーナーは頷いてみせる。
「まあ、そういうことです。サンにはあなたを攻撃する側として参加してもらいます」
 いつもはパートナーを組んでいる二人がそれぞれ的と攻撃側に分かれて戦う。その倒錯的な楽しみにオーナーは盛り上がっているようだった。
「私のアイデアではないのですがこれは盛り上がりますよ……! きっとエキシビジョンにあるまじき観戦数になるんじゃないですかね。ふふふ……ああ、そうそう、的役や攻撃役のスライドールはあなた達以外にもいますから、一対多数の状態ではないですからご安心ください」
 その言葉に、ツキは密かに舌打ちをした。もしサンとの一騎打ちであれば、確実ではなくともほぼ凌ぎきる自信があった。サンの行動パターンはツキがよくしるものであり、だからこそサン相手であれば数時間でも逃げきれる。そこに異物でしかない他のスライドールが入ってくるのであれば、逃げ切れる公算はかなり下がる。
(まあ……それは言っても仕方ないか。なんとかこの条件で逃げ切らないと……)
 責め具がどれくらい厳しいものなのかにもよる。もしも以前のようなバイブのようなものがあれば、逃げきる公算はかなり厳しい。
 そうでなくても快楽責めはツキにとって鬼門だった。前回の戦いでは自分で自分を切りつけることで快楽から逃れたものだが、腕を封じられた場合その最終手段を封じられるのと同じだ。
 黙り込んだツキの内心を読んだのか、オーナーが説明をする。
「今回に関してはそこまで激しい責め具ってわけでもないですから、そこまで警戒なさらずともよろしいですよ。基本は見た目の装飾のようなものですし」
「それを信用できるほど、これまで楽なことはなかっただろ」
 じろりとオーナーをにらみつける。オーナーは強い視線にも動じず、ただ笑うのみだ。
 ツキは深くため息をはいた。
「とりあえず……用件はわかった。試着はしてもいいのか? どの程度の刺激になるのか、確かめておきたいんだが」
「それは今回しないでください。そこまで無茶な責め具ではないというのは事実ですので、慣れられてしまうと全く効果が見られなくて面白くなくなってしまうかもしれませんし」
「……そうかよ」
 あらかじめ責め具がどの程度の障害になるのかを確かめておけないというのはツキにとって大きな不安要素だった。だが、基本的にオーナーの命令に逆らうことはツキには出来ない。そうしろと言われたことを的確にこなしていくしかないのだ。
 ツキはこうなっては仕方ないと踵を返す。
「話は終わりだな? それなら俺も休ませてもらうが」
「かまいませんよ。――よい夢を」
 意味深なオーナーの言葉に、ツキは少しだけ眉をしかめた。


 そして、夜中。
 オーナーの元にはなぜか退出したはずのツキの姿があった。しかし、いつもの強い意志の光はその目に宿っておらず、ただ茫洋とした、機械人形らしい目で虚空を眺めている。
 そんなツキの体を、オーナーは無遠慮に触れ、その各部をチェックしていた。
「ふむふむ……やはりツキのスライドールの動かし方は異様ですね……あれだけ高速で動かしているにも関わらず、余計な負荷がかかっている様子がない」
「なんたってツキだからなー」
 オーナーがせわしなくツキの状態をチェックしている傍ら、部屋のソファに悠然と腰掛けたカエデが楽しげに呟いた。
「私とは動かし方がぜんぜんちげーもん。こっちなんて、こ前の試合、あともうちょっとで腕がもげそうになったのに」
「毎度言いますが、あなたの戦い方が荒っぽすぎるんですよ。そもそも格闘術である以上、多少は仕方ないと割り切っていますが、あなたの場合リミッターを解除して殴っているのと変わりません。そりゃ壊れますって」
「だからもっと丈夫なボディくれよー。本体ほどムキムキにする必要はねーからさ」
「だめです。強度をあげようとするとどうしたって見た目に影響します。ごついスライドールなんて誰も見たくありません」
 カエデの求めをすっぱり切り捨てるオーナー。カエデは不満そうだった。
「まー、確かに。この見た目つーか、華奢な体にはあこがれてたからいいんだけどさ……闘いに支障を来すよーじゃ、つまんねーんだよな」
「あなたは本当に戦闘狂ですねぇ……別にツキみたく元は男というわけでもないのに」
「いまは肉食系が流行ってるからな」
「それ意味違いますし、そもそもあなたはその肉食系には入らないと思いますよ」
 暴走系か凶暴系か、いずれにせよ肉食、などという括りに入れるには少々彼女は豪快すぎた。
 カエデは唐突に立ち上がったかと思うと、背後からオーナーに近づき、その背に飛びついて抱きつく。
「わっ、なんですかカエデさん」
「んー? いや、まあ、あててんのよ?」
 カエデの胸部は中々に大きなもので、弾力もそれにふさわしいレベルで存在する。服の上からであろうと、その感触はオーナーもはっきり感じることが出来た。もちろんオーナーはそんな程度のことで赤面するほど純情ではない。
「なんでそれをしているのかの質問だったんですが……」
「いや、まあ、改めての礼かな。あんたのおかげで私は生き甲斐を持てた。怪我で表の格闘界から退かざるを得なくなった私に、こうして再び存分に戦える体をくれた。私の性質が最大限活かせる舞台をくれた。そのことに対する恩義はいつだって感じてる」
 背後から捉えられているため、オーナーからはカエデがどんな顔をしているのかがわからなかった。だが、なんとなくオーナーは彼女が外見相応の少女のように赤面しているのがわかった。
 だから、あえて明るい声で茶化す。
「カエデさんにしては、殊勝な心がけですね……って痛い、痛いです。カエデさん。極まってる極まってる」
 恥ずかしさを誤魔化すためか、オーナーの体に回されているカエデの腕がオーナーを締め上げ、オーナーは情けない悲鳴をあげた。スライドールには人を傷つけてはならないという誓約が刻まれており、それは裏の世界のスライドールでも変わらないことであったが、その判断基準はかなり曖昧だ。ちょっと強めに抱きしめる程度なら全く問題ない。
 ひとしきりオーナーに悲鳴をあげさせてから、カエデはようやくオーナーを解放する。
「……ツキのメンテナンスは終わった?」
「まあ、大体は」
 それなら、とばかりにカエデが再びオーナーに抱きつく。先ほどまでのどこか殊勝な顔つきとは一変している。
「じゃあ、、ちょっと一発やろうぜ☆」
 マンガなら『きゃるん』というような効果音が背後に出そうなノリで、カエデはオーナーを誘う。
「やろうぜ、じゃないですよ……なんですかそのノリは……」
 苦笑を浮かべてオーナーは言う。カエデはそれでも楽しそうだった。
「いいじゃん。なんなら、ツキと私がやってるのを眺めててもいいけど」
「なんでそうなるんですか。私もやりますよ」
 さすがのオーナーもそんな観客に甘んじるつもりは全くないようだった。カエデがそうこなくっちゃと笑ってみせる。ふと、その目線がオーナーの机の隅に置かれた責め具を見据える。
「……いまツキの自意識を戻すつもりはないんだろ? じゃあさ、この責め具ツキにつけね? どうせ機械的にしか動けないんだし、見た目で楽しもうぜ」
 オーナーは少し考え、それはいい案だと同意する。
「そうですね。一応ツキのサイズに合わせたものを揃えてるはずですが、不具合があっては困りますしね……」
「じゃあさっそく……ってなんだこの責め具。なんか細かいのから大きいのまであるな……何がなんだかよくわかんねえ」
 まずカエデは小さな輪っかのようなものを手に取った。摘んだという言い方の方が正しいかもしれない。
「なにこれ? ピアス……にしてはなんか小さいな」
「それはクリトリスのホールドです。クリトリスが大きく膨らんだ状態から戻らないようにするための道具です。結構強力なんですよ?」
「へー。こいつを被せりゃいいのか? おいツキ。ちょっと脚広げろ」
 早速カエデはツキに命じて、責め具を取り付けやすい体勢を取らせる。従順に動くツキの脚の間にしゃがみ込み、カエデはその責め具をツキのクリトリスに被せた。
「……おい、オーナー。これ手を離すと落ちちゃうんだけど」
「被せた状態で勃起させないと」
「あー、なるほど。こうか?」
 輪っかを被せたまま、ツキのクリトリスを指先で刺激するカエデ。刺激を与えられたツキのクリトリスは充血し、輪っかがきっちりとはまってしまった。もうカエデが手放しても落ちない。
「おー。こうなるのか。でも、興奮が落ち着いたら落ちちゃうんじゃないのか?」
「その可能性がないとはいいませんが、おそらく大丈夫だと思いますよ。気づいたかどうかわかりませんが、あの輪っかの内側には絶妙な突起がありましてね。ちょっと動くだけでもそれによる刺激がクリトリスを襲って、常に勃起状態を保ちますから」
「へぇ。よく出来てんなー。ま、それはいっか。さーて、次は……と」
 カエデは楽しげに責め具を物色する。
「お、これは普通にピアスだよな?」
「ええ。穴をあける必要がありますが、スライドールのボディはすぐ修復できますので問題ないでしょう」
「ピアッサーねーの?」
「この太い針で十分かと」
 無造作に用意された針を、カエデは指先で摘む。
「ん。オッケー。じゃあさっそく……」
 ツキの乳房をつかんで乳首を貫く。針で穴が開いたが、血は申し訳程度にしかでなかった。スライドールのボディだからこその特権だ。
 その穴にピアスを通しつつ、カエデは呟く。
「しっかし、さっきのクリトリスの勃起でも思ったけどさ。スライドールのボディってすげえ精密に出来てるよな。ほとんど人間と変わらなくね? 血がすぐに止まるのはスライドールならではって感じするけど」
 オーナーはカエデがツキの体に責め具を取り付けている間、お楽しみの最中に人が入ってこないように様々な準備をしていた。その手を一端止めてカエデの疑問に答える。
「元々、スライドールは疑似戦闘のために作られたドールであり、ここまでの再現性はありませんでした。しかし、裏の社会にこの技術が流れてくると、より本物の人間に近づけたいという風に裏社会の者達は考えました。限りなく人間に似せようと努力を続けた結果、いまのスライドールがあります。知ってます? いまでは表社会でも当たり前のように人間とほとんど変わらないスライドールが使われてますけど、あの技術はほとんど裏社会が提供したものなんですよ」
 カエデはツキの両方の乳首にピアスを通し、一段落ついて息を吐く。
「それは、なんつーか、人間の欲望万歳って話か?」
「そうですね。全く人間というものはいくら綺麗事をいってもこれですからなんというか……複雑ですよ。かつては戦争が技術レベルを押し上げたように、最近は個々の欲望のために技術が推進されるというのですから」
「あんただってその一人じゃね?」
 嫌みというわけではなく、単に事実を口にする感覚で放たれたカエデの言葉に、オーナーは苦笑してしまう。
「そういわれてしまうと……返す言葉もありませんね」
「えーと、次のは……これ、バルーンプラグか」
 黒い配管のようなものの先に丸い空気入れのようなものがついた責め具をカエデは手に取る。
「ローションねえときついよな流石に」
「分泌させたらいいと思いますよ。ある程度は広げさせることも出来ますし」
「それもそっか。おい、尻の穴イジるから入れやすくしろ」
 カエデの命令に頷きすら返さず、ツキはただ言われた通りに行動する。尻の穴からどろりとした潤滑剤のようなものがにじみ出した。それは腸液というわけではない。カエデはそれを見てバルーンプラグを擦り付けるようにしてツキの穴に挿入していった。
「便利だよなぁ。まあ、スライドールは排泄の必要もねーし、掃除する必要がなくていいよな」
「私はそんな趣味がないのでつけてませんが、オーナーによってはわざわざ疑似排泄機能を搭載していることもあるみたいですね」
「たくっ、倒錯してるよなー。これだから人間って奴は……」
 バルーンプラグに空気を送り込みながらカエデは自分を棚に上げて呟く。外見からは変化がなかったが、ツキの体内ではバルーンが大きく膨らみ、抜け落ちなくなった。カエデが外に飛び出している部分を軽く引っ張ってみるが、全く出てくる様子はない。
「生身の人間だったら浣腸してからこれ入れるんだよな」
「ハードSMの場合はそうかもしれません。もっとも、出したくても出せないという状態は心身に多大な負荷をかけますし、事故の可能性も増えます。素人がやってはいけないことの一つではありますね」
「ふーん」
 バルーンプラグが抜け落ちないことを確認すると、ポンプ部分を取り外す。次にカエデが手にしたのはディオルドだった。普通よりは大きく、単純な形はしていないものだったが、動く機能もついていない様子のそれは、刺激的と少々言い難かった。
「これを入れるのか? あんますごいもんには見えないけど……動かないだろ?」
「ええ。それ自体は動きませんね。でも、その形状はツキのあそこの形を忠実にトレースして作った特注品ですし、Gスポットを的確に刺激するように出来ています」
「一応特注ではあるんだな」
 先ほどと同じように挿入準備を整えるように指示を出すと、即座にその穴は十分感じた後のように濡れそぼった。カエデがその穴にディオルドを差し込んでいく。オーナーの言うとおり、ツキの穴にぴったり合うように作られていたようで、一度はまりこむとぴくりとも動かなくなる。ツキ自身の収縮に従って若干動いているのがわかった。
「これいいな。がっちりくわえ込んでて、これだけでも気持ちよさそうだ。オーナー、今度私の分も作ってよ」
「考えておきましょう」
 苦笑いで応じたオーナーは用意された責め具の中でも大きなものを示す。
「次はそれですね」
 オーナーが示した『それ』とは、胴体を亀甲縛りのように締め上げる革のボンテージだった。よくSMの女王が着ているようなものとは違い、明らかに性奴隷が身につけるような性的な形をしたものだった。
「こいつもツキの体格に合わせて作ってるのか?」
「ええ。別にあとから調節してもいいんですが、体格に合わせて作るのが責め具も一番効果を発揮しますからね」
 スライドールのボディは成長しないし、数値は完璧に把握出来ているし、太ったり痩せたりという変動もないので、体格に合わせて造るのは容易だった。
 実際、そのボンテージをツキに着せてみると、わずかなずれもなくぴったりと肌にからみついている。股間の部分にもそのボンテージは通っていた。
「このあたり、ちょっと普通の革じゃないな。何か仕込んでるのか?」
 ちょうどツキの股間に当たるべきところのボンテージは、少々革の厚みが変わっていて、明らかになにか仕込まれている様子だった。オーナーは楽しげに笑うだけでそれについては何も言わない。
「さ、あとは腕と顔の拘束ですね」
 アームバインダーと呼ばれる拘束具をオーナーは指し示す。両腕を伸ばした状態で後ろ手に拘束するその器具は、かなりの重みを有していた。
「これをつけたままってのは中々つらいな。重心がずれてまともに動けるかどうか……」
「ツキならこの程度は全く問題ないでしょう」
「それもそうか」
 卓越した戦闘技術を持つツキのことを認めているカエデは納得した。
 最後の責め具を持ち上げる。
「これは……ボールギャグ、か。オーソドックスな責め具……っていうのかこれ?」
「涎を垂らしながら戦って欲しかっただけですので……」
「変態だな、あんたも」
 オーナーと会話しつつ、カエデは最後の責め具をツキに装着した。
 ほとんど全身に責め具による装飾を施されたツキは、相変わらず光の灯らない目でじっと前を見据えている。
「こんなもんか。なんか案外責め具が少ないように感じちまうな」
「さすがにこれ以上つけるとツキもあっさりやられてしまうでしょうからねぇ。攻撃役がサンとそれにプラスですし」
「どーだかね。ツキだったらこの状態からでもサン以外の奴らを蹴散らすだろーな」
「いえ、今回はツキに攻撃禁止令を出すつもりですよ」
「あ、そーなんだ? ……じゃあ見所はツキがこの格好で敵を攻撃を避け続ける……ってだけか?」
 カエデの不満そうな顔に、オーナーは眉尻を下げる。
「……いけませんか?」
「だめってことはねーけどよ。ちょっと冗長すぎないか? ツキの奴の機動力は俺たちもよく知るところだし、まず間違いなく避けまくることだろう。ツキの殺気を察知する能力は半端ねぇからな……そうなるとさ、あんまし盛り上がらないんじゃねえか? いくら責め具でハンデをつけるとはいえよ。正直、私はツキが絶対に逃げ切ると確信してるからさ、ドキドキも半減なんだよな」
「むぅ……確かに、それはそうかもしれませんね。私もツキが攻撃を受ける姿が想像出来ないくらいです」
「だろ? そうなると見せ物としてどーなのかって話に……」
 そこでカエデは考え込んだ。
「……待てよ? なあ、オーナー。今度のはあくまでエキシビジョンなんだよな?」
「一応そのつもりで周知していますが……それがどうしたのです?」
「じゃあさ、別にガチ戦闘にしなくてもいいってことだよな? つーかツキがこの状態じゃ出来ねえし?」
「そうなりますね?」
 カエデの質問の意図がわからなかったのか、オーナーが首を傾げる。
 そんなオーナーに対し、カエデは楽しげな笑みを浮かべてみせた。
「いーこと考えついちゃったぜ♪」
 その『いいこと』ということが、誰にとっていいことなのかは、分かり切ったことだった。

 そして、その『いいこと』というのが、ツキにとっては『悪いこと』になるというのも――わかりきったことだった。
   
 
 
 
~『スライドール』第六章に続く~
 
 
 
 
 

Comment

No.1223 / けーさん [#Epav1kKw]

気の強い少女が虚ろな表情で弄ばれるというのは、やっぱり萌えますね!

リクエストの消化をこなしながら、イラストに挑戦し、さらに商業作品にも・・・というその創作意欲には本当に脱帽です。
陰ながら応援しています!

2013-07/07 22:32 (Sun) 編集

No.1224 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

けーさん様、コメントありがとうございます!

> 気の強い少女が虚ろな表情で~
洗脳による無力化の醍醐味ですよね!(笑)

> リクエストの消化をこなしながら~
中々思うように筆が進まなかったり描けなかったりの繰り返しです。まだまだ精進しなければならないと思います。
頑張りますのでよろしくお願いします!

それでは、どうもありがとうございました!

2013-07/07 23:33 (Sun)

Comment Form
コメントの投稿
HTMLタグは使用できません
ID生成と編集に使用します
管理者にだけ表示を許可する

Page Top

Trackback

Trackback URL

http://kuroitukihikari.blog60.fc2.com/tb.php/463-863266ad

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

Page Top

カウンター
投稿先サイト
『小説家になろう』ノクターンノベルズ
(ユーザーページに飛びます)
運営サイト
暁月夜色
 どんなジャンルでもOKな投稿小説サイトです。お知らせには必ず目を通してください。

黎明境界
 自己満足小説の展示サイトです。
 注意事項には必ず目を通してください。
 以下、連載中の作品概要


『私の名前はまだない』
(MC物、ペット化、女性視点)
(最終更新日:2013/12/07)

『思い通りになる世界 ~forガール~』
(カオスジャンル、世界改変系)
(最終更新日:2016/02/28)

最新記事
カテゴリ
最新コメント
リンク
プロフィール

光ノ影

Author:光ノ影

連絡先は kuroitukinokage×yahoo.co.jp (×を@にしてください)

つぶやき
作品紹介
検索フォーム
FC2アクセス解析
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。