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『人頭犬』

50万ヒット記念50本リクエスト
№19『犬と人の首が逆転』です。
 
それでは続きからどうぞ!
 
 
 
『人頭犬』
 


 そのお屋敷は明るくて、とても綺麗な洋館だった。
「ふえー。まさにお金持ちー、って感じだねぇ」
 タクシーから降りた本庄伊里音は、その屋敷を見上げてそう呟く。その傍らには大きなキャリーバックを携えており、長期の旅行でもするのだと思わせる。
「……掃除が大変そうだなぁ。ほんとに私で大丈夫かなぁ」
 ぶつぶつと一人で呟きながら、伊里音はキャリーバックを牽いて歩き始めた。屋敷の門の前に立ってインターホンを探す。
 洋風の屋敷にはありがちなことに、大きな門を入ってすぐは前庭となっており、その庭を挟んだ向こう側に館がある。前庭だけでかなり広く、その規模は一昔前の貴族の邸宅といっても過言ではないだろう。実際そんな邸宅を再利用しているのかもしれなかった。
 伊里音は暫く周辺を探して、古い門柱に真新しいインターホンが取り付けられているのを見つけた。
(明らかに最近移住してきたって感じね……だからこそ、新しいお手伝いさんの募集があったんだろうけど)
 インターホンを押して暫く待っていると、中から応答がある。
『本庄伊里音様ですか?』
 女性の声でいきなり名前を呼ばれ、伊里音は思わず背筋を伸ばした。
「あ、はいっ、今日からお世話になります。本庄伊里音と申します!」
 その場所のインターホンにカメラはついていないため、相手からは見えないとわかっていたが、つい頭を下げてしまう。
 インターホンの向こう側の女性は、淡々と伊里音を促した。
『お入りください。ようこそいらっしゃいました――グスターブ家へ』
 自動で開くようになっていたらしく、大きな門が音を立てて開いていく。
(うわー……自動門扉? すごっ、お金かかってそうだなぁ……)
 鉄製の柵は装飾が施されており、普通の門扉よりも遙かに重いと思われた。それを自動で開閉するようにしているともなれば相当なお金がかかっていることだろう。
 伊里音は緊張を隠すことが出来ず、固い動きで洋館の敷地内へと脚を踏み入れた。館に向かって前庭を歩いている間に、彼女の背後で再び門扉が閉まっていった。
 重く、鍵がかかる音が響く。


 伊里音が館の扉をノックすると、中から入館を促す声が聞こえてきた。
「失礼いたします…………うわぁ……」
 半ば恐る恐る扉を開いて中に入った伊里音は、館の内装に息を呑む。
 洋館の中は高級ホテルもここまでではない、といわんばかりに清潔感の溢れる内装をしていた。チリ一つどころかシミ一つ見あたらない。壁にかけられた装飾から天井の装飾まで、綺麗になっていないところはなさそうなくらいに、新品さながらの輝きを有していた。伊里音は最初、脚を踏み入れることさえ躊躇ったほどだ。
 館の中では一人の女性が伊里音を待っていた。実用性の高いメイド服を着たその女性は、伊里音に向かって軽く頭を下げる。
「改めまして、ようこそ。グスターブ家へ。私はメイド長を努めております、黒山エリカと申します」
「あ、ど、どうもご丁寧にありがとうございます! 本庄伊里音です! 精一杯がんばります!」
 伊里音は慌てて礼を返しながら、真の有力者の余裕を感じていた。普通、従業員としてやってきた人間に対して礼を払う必要などない。向こうは雇い主であるからだ。実際、これまで伊里音が勤めてきた富裕層の人間は程度の差はあれ、従業員に感謝したり、気遣ったり、礼を尽くしたりしてくることはなかった。その差だけでもグスターブ家という存在が本当の意味で豊かなのだということがわかる。
「本庄伊里音様、長旅お疲れ様でした。早速ですが、私についてきてください。荷物はこちらで本庄様に割り振る部屋に運んでおきます」
「はいっ」
 いきなり何か仕事があるのかと伊里音は緊張しつつ、歩き出したメイド長の後についていく。背後から見てもメイド長の歩く姿は決まっていて、そんな人と共に仕事が出来る喜びを伊里音は感じていた。
(雰囲気も柔らかくてすごく感じのいい人だし……うまくやっていけそう)
 やがてメイド長はとある部屋の中に入っていった。それに続いて伊里音もその部屋に入る。
 伊里音はそこに入ってすぐ、その部屋が普通の部屋ではないことに気づいた。
(……? なんだろ、変な感じがする)
 外見的には極普通の部屋であり、応接室のような風情だ。部屋の中央に机と椅子が置かれており、面接でも始まるのかと思う気配を滲ませている。だがすでに面接試験はクリアしているはずだった。だからこそ、最低限の荷物を持ってこの館にやって来たのだから。
「そちらにおかけください。飲み物は紅茶でよろしいですか?」
「は、はい」
 何が始まるのだろう、と伊里音は不審に思う。仕事内容や家のしきたりなどについても、面接の際に説明を受けている。いまさら改めて話すことが何かあるとは思えない。
 メイド長は淹れた紅茶を持って戻ってきた。それを伊里音の前に置き、自分は伊里音の対面に座る。
「……さて、それでは少し簡単な話をしましょう。伊里音さんと呼んでもかまいませんか?」
「はい、もちろんです」
 何の話をするのかと思いつつも、伊里音はハキハキと答えることを意識する。面接の基本だったからだ。
 しかし、なぜかメイド長はかすかに眉を寄せた。
(あれ、何か間違ったかな……?)
 かなり割のいい職であることは確かだったため、伊里音は焦る。メイド長は口を開いた。
「では、まず確認ですが――この屋敷に入った時、何か感じませんでしたか?」
 不思議な問いかけではあったが、屋敷に対しての印象を聴かれているのだと想い、素直に答える。
「非常に立派で、手入れの行き届いている館だと感じました。私がきちんと手入れできるのか、ちょっと不安になったくらいで……」
 その伊里音の答えに対し、メイド長はますます眉を寄せる。
「……そうですか。きちんと一から教育はしますので、そのご心配は無用ですが……では、次です」
 メイド長の眼が伊里音を射抜く。その視線の強さの意味がわからず、伊里音は混乱するばかりだった。
「あなたのことは面接の段階でよく調べさせていただいています。特に交友関係や家系の問題などはありませんでした。体質的にも提出していただいた資料からすれば全く問題ありません。これまでの人生で、病気らしい病気も、怪我らしい怪我もしたことがない。そうですね?」
 どうしていきなりそんな話になるのか、やはり不思議だったが伊里音は正直に答える。
「はい。身体の丈夫さには自信があります。正直、自分の中で一番自信があるところかもしれません」
「乗り物酔いなどはどうですか?」
「えーと、バスや電車で酔ったことはないです。船や飛行機はあまり乗りませんけど、漁船や小型機に乗って気分が悪くなったことはありません。バスなどであれば、移動中ずっと本を読んでても酔ったことはないです」
「……なるほど、本当に身体が丈夫なのですね。三半規管も強いようですね」
「そうですね……あの……これって何の確認ですか?」
 伊里音はつい我慢しきれずに聴いてしまった。メイド長はこともなげに応じる。
「仕事の中で、麓の商店街まで買い出しに行かなければならなくなる時があります。タクシーに乗って来たのであれば気づいていらっしゃると思いますが、かなりカーブが連続する坂道が続きますし、酔いやすいようでは仕事内容も考えなければなりません。また、ご当主様はクルージングやスカイダイビングなど、様々な趣味をお持ちですので、私どもがご同行する際にはそういった環境に強い者を選抜しなければなりません」
「あ、なるほど……そういうことでしたか」
 確かに、そういうことであれば乗り物酔いに強いかどうかは確認しておかなければならない事柄だろう。伊里音は納得してうなずく。
「どうやらあなたは相当高い資質を持つ様子……これならば、特別な職務にも就くことが出来るでしょう」
 それが誉めているのだと気づいた伊里音は、照れくさくなって頬を掻いた。『丈夫な体質』ではなく『高い資質』と表現されたことがなぜか気にはなったが、誉められて悪い気はしない。
 その後、少しだけ簡単な話を交わしてから、メイド長が話を締めた。
「では、さっそく移動して、細かな職務の説明に移りましょう。……その前に」
 メイド長がちらりと最初に出した紅茶を見る。それに伊里音は全く口を付けていなかった。面接の時と同じ感覚でいたため、それに手を伸ばしにくかったということもある。
「冷めてしまいましたね」
 その言葉に責める響きはなかったが、伊里音は少し慌ててカップを手にした。
「す、すいませんいただきます!」
 十分に冷めていたこともあり、伊里音は一気にそれを飲み干す。
 そこで、メイド長が初めてにっこりと笑った。
「そんなに慌てなくてもよかったですのに」
「い、いえ! すいませんせっかく淹れていただいたのに――」
 慌ててわびる伊里音に対し、メイド長はあくまでにっこりとした笑顔を浮かべていた。
「いえいえ、そうではなく」
 あくまでも、にっこりと。

「『ちゃんとした人間』としては、最後のティータイムになるのですから、じっくり味わってくれてよかったのに、と」

 その言葉の意味を伊里音が理解する前に、伊里音の身体は傾いでいた。
(え……?)
 身体から力が抜け、座っていた椅子から滑り落ちる。
 床には高級で柔らかな絨毯が敷いてあったため、落下の衝撃はそこまで大したことはなかったが、伊里音の意識はそのまま暗転した。

 彼女の視界に最後に映ったのは、相変わらず本心が読めない笑顔を浮かべたメイド長の姿だった。
 
 
 
 
 伊里音は非常に眩しい光に晒されて眼を覚ました。
 天井の四隅に設置された強いライトによって、四方から照らされているらしく、伊里音はそのまぶしさに目がくらんで視界が真っ白になっていた。
(どこ……? ここ……)
 身体が仰向けに寝かされていることはなんとかわかったが、それ以外のことはほとんどわからない。飲まされた薬の影響でか、意識が茫洋としてはっきりと物が考えられない状態にあった。
 そんな彼女の傍に、黒い影が立つ。
「お目覚めですか?」
 それは先ほどあったばかりのメイド長だった。メイド服がやけに露出度の高いものに変わっている。
(メイド長、さん……っ、これ、は……ここは……?)
 声に出して問いかけようとした伊里音だったが、彼女の意思に反して身体は動かなかった。口が動きそうになるのだが、結局動かないままだ。それでもメイド長は伊里音が何を言いたいのか悟ったようだった。
「ここは館の地下です。私がここまで運びました」
 メイド長は伊里音に向けて言う。
「まだ薬の影響が抜けきっていないようですね……身体の感覚はまだ戻りませんか?」
(身体、の……? …………っ!?)
 彼女の言葉に促され、身体の感覚を探った伊里音は驚愕する。
 身体の感覚は戻って来ていたのだが、その感覚がおかしかったからだ。いつのまに脱がされたのか、服が無くなっていて、体中が外気に触れていることがわかる。そして、彼女は寝かされた台の上で、大の字に縛りつけられていた。両手は左右に伸ばし、両足は肩幅以上に開いた状態で、手首足首肘膝腰辺りに巻き付いた太いベルトによって、身体が固定されている。
 伊里音は全く動けなかったし、手も足も動かせなかったので胸も股間も隠すことが出来ない。
「え……なに、これ……ど、どういうことですか!」
 身体の感覚が戻って来たためか、まだ舌が回らないところはあったが、一応言葉を口にすることが出来た。その伊里音の問いかけに対し、メイド長は余裕を滲ませて笑う。
「一言でいえば、貴女は自由を剥奪されたということです。細かいことはまた後ほど説明します。いまはそれより先にやることがありますから」
 そう言ってメイド長は数歩下がる。
 いきなりのことに頭の理解が及んでいなかった伊里音の傍に、一人の男が立つ。
「これが今回の新人か?」
 外国人らしい、彫の深い顔に、がっしりとした体格をしたその男は、まるで無機物でも見ているかのような目で、伊里音の裸体を眺めていた。
 事態の変化についていけなかった伊里音だが、さすがに男に見られているということは即座に理解する。
「み、見ないでください!」
 必死に体を丸めようとする伊里音だったが、拘束されている身体で隠せるわけもなく、無駄な抵抗に終わる。
 男の方はそんなことは構わず、淡々と伊里音の体を隅々まで観察していた。
「ふむ……なるほど、な。確かに資質はありそうだ。かなり体質も優れているという話だったが」
「血液検査を行いましたが、どの値も非常に高いですね」
 メイド長が取り出して来たカルテのような書類を手渡されたその男は、それに目を通して行く。目を通しながらメイド長に向かって口を開いた。
「通常体としての価値は?」
「そちらは残念ながら問題ありです。本人にも話を聞きましたが、相当酔いにくい体質だたったようで……応接間の装置にすら無反応でした」
「ふむ。なるほどな。わかった。ではやはりお前の進言通りに実験体として使用することにしよう」
「承知しました」
 伊里音の目の前で交わされる伊里音を無視したやり取り。しかしそのやり取りで自分の処遇が決められていることはわかるのか、伊里音は声をあげた。
「あの! なんだかよくわからないんですけど、これほどいてください! 警察には言いませんから! とにかく私を家に帰して!」
 伊里音は必死に呼び掛けたが、二人に聞く気はないようだった。
「じゃあ、そういうことであとは任せた。仕上がったら一度上に連れてこい」
 メイド長に指示を出した後、男は伊里音に背を向けてしまう。
「はい、了解致しました」
 メイド長が頭を下げ、男はさっさと退室する。
 改めて、メイド長が伊里音に向き直った。
「……さて、それでは早速始めましょうか」
「な、何をするんですか! やめてください! 触らないで!」
「申し訳ありませんがやめることはできません。ご当主様の命令ですし、何よりあなたの場合はいまさら止められないのです」
「ど、どういうことですか……?」
「あなたには洗脳装置が利かないようですので」
「せ、洗脳?」
 伊里音が鸚鵡返しに声に出すと、メイド長は深く頷いた。
「ええ。そもそも本来であれば館内に一歩足を踏み入れた時点で、ある程度洗脳の影響は現れるはずなのです。仮にそうでなくとも、応接間の物はそれより遥かに協力ですから、ほぼ九割以上の人はあの段階でご当主様の言いなりになる性奴隷となります」
 あっさりといってのけてから、メイド長は困ったように伊里音を見た。
「ただ……極々稀に洗脳装置が全く効かない人がいます。あなたのように。ですので、あなたのような方が現れた時には、全く違う方法で対処する必要があります」
「全く違う方法って……?」
 メイド長はあくまで冷静なトーンを変えない。

「一言で言えば、人体改造です」

 とはいえ、安心してください、とメイド長は断言した。
「死ぬリスクはほとんどありません。ご当主様の技術は現代科学を遥かに超越しておられます。それを己の欲望を満たすためだけに使う辺りは、非社会的ここに極まりというとこですが……下手に広めればその分世界が混乱することでしょう。そう考えれば、一人のうちにその技術を閉じ込めておくことも、間違ってはいないのかもしれませんね」
 長々と呟いたところで、メイド長は伊里音を改めて見据えた。
「洗脳装置が利くのであれば、適度なところで解放することもあるのですが、あなたの場合はそうではありませんからね。これから死ぬまでこの屋敷にいてもらわなければなりません」
「……っ、そんな、勝手な……っ!」
 伊里音の抗議を、メイド長は取り合わなかった。
「勝手なことだと思われるでしょうが、残念ながらあなたの末路はそれしかないのです。諦めてください」
 そう言われてすんなり諦められる者がいるはずもない。
「お、おかしいとは思わないんですか?」
 伊里音は少し説得の切り口を変えることにした。メイド長に対して呼びかける。
「メイド長だって、こんなのはおかしいって思ってるはずでしょう?」
「そうですね。おかしなことだとは思います。ですが、そう思ったところで私の行動はご当主様によって制限されておりますので、説得は無駄だと言っておきましょう」
 あっさりと伊里音の抵抗は無に帰した。
「……っ、いや――――!! ほどいて! やめて!!」
 必死になって身体を暴れさせるが、拘束具を破壊出来るほどの膂力を発揮できるわけもない。
「それでは、改造を始めます」
 そう言ってメイド長は一本の注射を取り出した。内容物がピンク色の見るからに怪しい注射だ。
「ま、麻酔……?」
 外科手術的な方法で人体改造をされると思っていた伊里音は、最初に注射されるのならその手の薬品であろうと思っていた。しかし、見る限り明らかに麻酔の色ではない。
「動かないでくださいね。危ないですよ」
 メイド長はその注射を伊里音の首に突き立てた。その中身を伊里音の中に押し出していく。
 伊里音は普通の注射と同じように、その中身が自分の中に入ってくる確かな感覚を気持ち悪く感じながら受け止めるしかなかった。注射器の中身全てを押し出したメイド長が、針を抜く。
「完了です。いまのは麻酔ではありませんから別に眠くなったりはしないと思いますよ」
「……じゃ、じゃあ、何だったの?」
「すぐにわかります。……というか、変化してから説明した方が早いと思いますので」
 メイド長は別の準備を始めたようだった。
 やがて、伊里音の身体に明らかな変化が生じ始める。
(……っ、声が……!)
 まず最初に声が出せなくなった。喉の辺りで仕切りが生じてしまったかのようで、そこから上にどうしたって声が上がらなくなってしまったのだ。
(……うっ、からだ、も……?)
 暴れる程度のことはできていたはずの身体も動かなくなっていた。どれ程力を入れようとしても、やはり喉の辺りで塞き止められている感覚がある。
 さきほどメイド長によって注入された不思議な液体の影響としか思えない。
(いったい……なにが……)
 喉から上の感覚は正常だった。瞬きも出来るし、視線を動かすこともできる。口も不自由ではあったが動かせないわけではない。
 そうなるとますます喉の辺りがどうなってしまったのか、伊里音の恐怖は高まる。
 そんな彼女の前に、一枚の鏡が出現した。そこに彼女の全身が映し出される。何も纏わない体を映させるというのも年頃の女性である伊里音にとっては恥ずかしいことだったが、今に限ってはそれを気にしている余裕はなかった。
 なぜなら、彼女の喉が異様な状態になっていたからだ。
(え……? なんなの、これ……?)
 伊里音の喉は明らかに普通の状態ではなかった。

 ピンク色のゴムのような材質に変わっていたからだ。

 もし年頃の男性が見たら、それについてすぐにあるものを連想するだろう。
 世の中の男性が性処理に活用する物体――オナホールなどで使われている物質だと。
 あくまでそう見えるだけで実際には全く違うものだったのだが、一瞥してそれを思い返させるのに十分なインパクトを持っていた。
(な、なにこれ……)
 伊里音はそれがオナホールのような物質だと言う連想はできなかったが、それが無機物であることはわかった。一瞬前までなんの変鉄もなかった自分の身体の一部が無機物と化してしまう恐怖は想像を絶する。
 それも、義手や義足に付け替えられたと言う話でもないのだ。怪しげな注射をされて、気付いたら自然と変化してしまっているのだから。
(なにが……起きてるの?)
 不安を抱えたまま、ろくに身体を動かすこともできない伊里音は、メイド長の方を目だけで見る。
 そして、絶句した。

 メイド長が鉈のような無骨な凶器を手にしていたからた。

 伊里音は声も出せないまま戦慄する。
(ちょ、っと……なに……するつもり……なの……?)
 予想できることはあったが、それが実現しないことを伊里音は望む。
 だが、メイド長の行動は、悪い意味で伊里音の想像を逸脱するものではなかった。
 無造作にその凶器を振りあげ、降り降ろす。
 伊里音はその瞬間の感覚をなんと表現したらいいのかわからなかった。
 何か冷たい物が喉を通り過ぎていく感覚。冷たいものを食べた時にもすることがあるが、その感触は縦ではなく横向きに走った。
(あ……っ)
 真上の鏡で自分の姿を見た伊里音は、自分がどういう状態になったのかを理解せざるを得なかった。
 メイド長の降り降ろした鉈が、彼女の首を切断している。それはちょうどピンク色に変化した部分で、血は出なかった。
「失礼します」
 状況の変化を理解する前に、メイド長が動いて、伊里音の首を持ち上げた。
 胴体から分離した伊里音の首は、軽い調子で胴体から引き離され、台の上に切断面を下にして置かれる。
(…………え?)
 そこでふと、伊里音は妙なことに気付いた。切断されてからすでに数十秒は経過している。なのに、自分の意識が薄れていく気配がしないのだ。
 伊里音は首を切られた人間が何秒間生きていられるかなどという細かいことはわからなかったが、普通に考えてそう長く意識や命が持つはずもない。だからすぐにその異常性に気付けた。
 別のところにいって何かの準備をしていたメイド長がそんな伊里音の疑問を読んだかのように言葉を発する。
「いまあなたの首に注入したのは『分離材』というものでして、人間に限らず生き物の各部位を自在に分離させることが出来るようになるものです。『分離材』が不足している部分を補うため、切り離された各部位はその部位だけでの生命活動を維持する事が出来ます。もちろん、永遠に可能というわけではなく、ある程度の時間しか持ちませんが……作業を進める程度の時間は十分に確保出来ます」
 メイド長が再び伊里音の元に近づいてきた。
「いまのあなたの頭部の場合だと、『分離材』が血流を生み出し、酸素を脳に運んでいますので、意識はしっかりしているでしょう?」
(な、なんなのそれ……どうやったらそんなトンデモないことが……)
「ご当主様の技術力の賜です」
 それで片づけていい話なのかどうかはわからないが、メイド長はそれ以上説明する気がないようだった。
「さて、このまま放置しておくと、あなたは死んでしまいますので……新しい身体を与えてあげなければなりません」
(新しい……からだ……?)
「すでに準備は出来ておりますので、少し失礼しますね」
 メイド長が伊里音の首を持ち上げ、胸に抱えるようにして部屋の中を移動する。顔の前面がメイド長の胸に埋もれるように抱えられているため、伊里音には何に近づけられているのかわからなかった。メイド長が膝を折り、しゃがみ込む。
「あなたと同じように『分離材』を使って頭部を切り取った胴体に、あなたの頭部を接続します。『分離材』を使えば手足の移植手術は簡単に可能でしょうね。元々は拒絶反応を押さえるために開発された薬品の発展系が『分離材』だということですし」
 伊里音の切断面が、何かに触れる。その時、伊里音は切断面からまるで根っこが伸びて言っているような、言いようのない感覚を覚えた。触れた何かの隅々まで神経が通って行く感覚だったのだが、それを知らない伊里音には自分の身体がまるで根っこになって伸びて言っているように感じた。
「定着するまでそんなに長い時間はかからないと思います。すぐに身体を動かせるようになると思いますよ。ただ……」
 メイド長は少しだけ目を伏せた。そして再びあげる。
「ご当主様の意向で少々変わった身体ではありますが……悲観なさらないように。慣れれば気持ちのよいものらしいですよ?」
(変わった、からだ……? なにそれ……? いったい何が……変わって……っ)
 伊里音は新しい身体に広がっていく根っこの感覚がおかしいことに気づいた。明らかに人間のそれとは神経の通い方が違うのだ。手足から胴体の形もおかしかったのだが、なによりおかしいのは――お尻の辺りで、神経が尻尾のように伸びていく感覚があることだった。
(尻尾……!? なにこれ、これって、もしかして……!)
 完全に神経が身体中に通い、伊里音は確信した。自分に与えられたその身体が何なのか、何の身体なのかを理解した。

 それは――犬の身体だった。

 前脚と後ろ足というべき細い手足の感覚。全身を覆っている柔らかな獣毛の感覚。そして、それを少し意識するだけで勝手に動く、お尻から伸びた尻尾の感覚。
 その全てが、自分の首が接続された身体が、犬のものだということを示していた。
 メイド長が大きな鏡を伊里音の前においた。
「これで、見えますか?」
 見えてしまった。伊里音はその鏡に目が釘付けになる。
 そこにいたのは、見慣れた自分の顔、そして、その首から下が犬の身体になってしまった自分の姿だった。ゴールデンレトリバー辺りの大型犬らしく、その身体の大きさ自体はそう変わらない。だが、その作りや感覚はいままでの伊里音の身体と全く違っていた。
「この姿であれば、あなたは警察に駆け込むわけにもいかないでしょう。まあ、もし愚かにも警察に駆け込むようなことがあれば、私たちはいなくなってしまいますので、一生その身体で生きていかなければならなくなります。それでよければ、助けを求めに行くのを別に止めはしません」
 メイド長は冷酷にその現実を伊里音に突きつける。
 伊里音の方はといえば、自分の身に起きている現実に頭がついていかず、半ば放心状態だった。その間に、メイド長が伊里音の首に首輪を巻き付ける。
「この首輪には『分離材』を安定させる働きがあります。犬の力で破壊出来るものではありませんので、無駄な抵抗はやめておいた方がいいでしょう。いずれにせよ意味のない抵抗ですし」
 伊里音に首輪を付けたメイド長は、その首輪に鎖を取り付ける。
「それでは、まずはあなたにはその身体に慣れてもらいます」
 メイド長が手で合図をすると、別のメイドが現れた。メイド長よりも遙かに際どい服装で、町を歩けばそれだけで捕まりそうな格好をしたメイドだった。
「お呼びですか? メイド長」
「この新しい子を庭に連れて行ってください。名前は伊里音です。まだ定着させたばかりなので必要以上に急がせないように」
「わかりました」
 手綱を手渡されたメイドは、無造作にそれを引っ張った。当然、繋がった先の伊里音の首が締まる。苦しくなったことで、伊里音の意識は無理矢理現実に引き戻された。
「さ、行きましょうか、伊里音。さっさと立って」
「も、もどして……もどしてください……」
 犬の身体になっても、伊里音は普通に喋ることが出来た。声帯が喉を切られた位置より上にあるからかもしれない。
 伊里音の半ば涙声での懇願にも、メイド達は無感動だった。
「それを決めるのは私たちじゃないから言っても無駄です。とにかく早く立ちなさい」
「いやっ!」
 首が締まっても、伊里音は立ち上がろうという気になれなかった。身体を動かすのが怖いのだろう。散歩を任されたメイドは、少しだけ目を細めた。
「メイド長。『躾』を行っても?」
「かまいません」
 さらりとメイド長が返した、と思った時には、メイドの靴の爪先が伊里音の腹部にめり込んでいた。それまでの人生で数度もなかった激痛が伊里音の脳髄を刺激する。
「ぐぇ……っ!」
「伊里音。私は立ちなさいと言いました」
「そ、そんな……」
「それと……犬が人の言葉を喋りますか?」
 あくまでも冷たく、メイドの目が伊里音を射抜く。
 ここまで絶対的な暴力に晒されたことのなかった伊里音は、恐怖に身を震わせながら身体を動かし、人なのに犬の身体を動かすという違和感に浸りながらも、なんとか立つところまで持っていけた。普通ならばいくら犬の身体になってもそう簡単に身体を動かすことは出来ないだろう。間に入っている『分離材』がなんらかの働きをしているのは明らかだった。
 おとなしくメイドの指示に従わざるを得なかった伊里音。そんな彼女の頭を、すぐ傍にしゃがみ込んだメイドが優しくなでる。
「よくできました」
 飴と鞭。
 躾の基本で、それをよくある方法として理解している伊里音でもその効果を感じずにはいられなかった。痛みと誉められるという感覚であれば、どちらを得られるようにしたいかは誰でも同じだ。
「それでは、散歩に行きましょうか、伊里音」
 立ち上がりながらメイドが伊里音を促す。
「は、はい!」
 思わずそう答えてしまってから、伊里音は顔面を蒼白にする。メイドが無表情になって伊里音を見下した。
 とっさに伊里音が取った行動は、
「わ、わっわんっわんっ!」
 犬の鳴き真似をすることだった。余計なことを考えている暇などない。とにかく犬の真似をして吠える。
 メイドは少し息を吐くと、冷たい声で言う。
「一度は見逃します。……が、次はないですよ」
 一撃でメイドは伊里音の恐怖心を支配していた。伊里音は怒られないように注意しながらそのメイドに従って部屋を出る。いままで伊里音がいた部屋はいかにもな実験室だったが、実験室から出た先の廊下も、いかにも館の地下という感じだった。薄暗く、床は綺麗な石が敷いてある。
「こちらです。焦る必要はないのでゆっくりでも構いません。その身体でスムーズに歩くことを意識しなさい」
「は――っ、わん!」
 元から犬にようにしか声が出せないのならともかく、本当は人の言葉が喋れるのに犬のようにしか声を出せないというのは屈辱だった。しかし、その屈辱よりも、伊里音には恐怖心が勝っていたのだ。
 犬の身体で一歩一歩地面を踏みしめながら歩みを進める。それは人間として歩くのと比べればずっと遅い足取りではあったが、不安定なものではなかった。やはり『分離材』が何か特殊な働きをしているとしか思えない。
 長い廊下を歩くうちに、徐々に歩くことに慣れてきた伊里音は、今度は階段を上るように指示された。
 それは普通の階段であったのだが、犬身体となった伊里音にとってはその階段はまるで断崖絶壁のように思えた。一段一段、確かめるようにしてあがっていく。おそるおそるでも一度も脚を踏み外すことなく上まで上がれた。
「ふむ。なかなかいいですね。筋がいいですよ、伊里音」
 いいながらメイドが伊里音の頭を撫でる。そんなことを誉められても嬉しくないという理性とは裏腹に、誉められたこと自体に喜びを感じる自分がいることに気づき、伊里音は自己嫌悪に陥った。このまま心も犬に落とされてしまうのではないかという恐怖があったのだ。
 メイドはさらに歩き続ける。彼女が向かったのは、広い庭だった。伊里音が館に来た時に通った前庭ではなく、もっと広い後ろ庭と言ったところだろう。
 そこでは、この世の物とは思えない光景が広がっていた。数人メイドがいることの他に、そこには伊里音と同じく、犬の身体に人の頭をした『人犬』が沢山いたのだ。十人くらいはいるだろうか。メイドにじゃれついていたり、ひなたぼっこで寝ていたり、『人犬』同士でじゃれあって遊んでいる者もいる。その『人犬』達に共通しているのは、みんな無邪気な表情を浮かべているということだ。まるで人間としての尊厳などはじめからなかったかのように、自然な表情と仕草で世話役のメイド達に世話されている。
 呆然とそれを見ていた伊里音に対し、彼女をここまで連れてきたメイドが言った。
「彼女たちも、最初はあなたと同じようなものでした。ですが、ここで暮らしていくうちにああして自分たちの存在を受け入れたのです。伊里音、あなたにそうなれとは命じません。いずれあなたもああなることはわかっているからです。……あえて言うのであれば、完全に身も心も犬に落ちたと判断されれば、彼女たちのように人間の身体に戻してもらえることもあり得ます」
 そういってメイドは『人犬』の世話をしいていたメイドのうちの一人を呼び寄せた。
「片桐先輩、どうされました?」
 そのメイドは至って普通の人間のようにみえた。メイド服も露出が激しいものではあったが、そこからのぞく肢体に異常は見られない。外見でおかしな点と言えば、その首に巻き付いた黒い首輪くらいだ。
 伊里音をここまで案内してきた、片桐と呼ばれたメイドは、その首輪を身につけたメイドに向かって言う。
「一時的に『犬』に戻ることを許可します」
 その途端、冷静そうにみえたそのメイドの表情が笑み崩れ、即座にその場で四つん這いになった。
「ワンワンッ!」
 犬の身体ではなかったが犬のような動きで伊里音に近づくと、いきなり顔を近づけて伊里音の匂いを嗅ぎ、その頬をなめる。
「ひゃっ!?」
 普通のメイドだと思っていた人間の、突然の変化に伊里音は驚き、思わずその場にうずくまる。『犬』になったメイドは続けて伊里音にじゃれつこうとしたが、
「はい、そこまで。『人』に戻りなさい」
 そう片桐が命じたため、名残惜しそうな顔をしながらもすっくと立ち上がった。
「もう行って構いませんよ。悪かったですね」
「いえ。それでは失礼します」
 それまでの行動などなかったかのように、きびきびと頭を下げたメイドが去っていく。あとにはあっけに取られてうずくまる伊里音と片桐が残された。
 片桐が伊里音に声をなげかける。
「伊里音、理解しましたか? あんな感じです。あそこまでになれば、ご当主様への叛意なしと判断されるため、身体を元に戻すこともあり得ます。首輪を巻いているのが『人犬』から『人』になることを許された存在の証です」
 ただ、と片桐は続ける。
「あまりにも順応するのが遅いと、身体の方が使える存在になってしまい、戻せなくなる場合もあります。庭の奥を見てください」
 伊里音が指示通りそこに目を向けると何やら裸の女体が森の中をうろついているのがみえた。その頭部は、人の物ではなく、犬の物になっている。
「犬の中にも順応性が高いものはいます。優れた嗅覚と器用な人間の身体を駆使し、森の中でキノコ採りを行ったり、果実を捜し当てたり、狩りをしたりしています。あの子たちはとても優秀です」
 息を飲む伊里音に対し、片桐がにこやかな笑みを浮かべる。
「あのように、もし身体の方が先に使える存在になった場合、あなたに残されるのはただ『犬』としてしか生きられない日々です。それもそれで悪くない生活だとは思いますが、出来れば『人』としても『犬』としても生きられるように努力することをおすすめしますよ。難しいことはありません。ただ、受け入れればそれでいいだけなのですから」
 それが何より難しいのだが、それをわざわざ片桐は語らなかった。
 伊里音の手綱を引き、庭の中心に進んでいく。一斉に視線が集まった。
「みんな、今日から新しく仲間に入る伊里音です。未熟な『人犬』ですが、皆の力で彼女を立派な『人犬』にしてあげてください」
 わらわらとその場にいた『人犬』達が集まってくる。その中から片桐は離れた。近くにいた世話役のメイドに話しかける。
「暫く任せます。私はメイド長のところに行きますので」
「承知しました」
 礼儀正しく、人らしく頭を下げるメイド。だがその首には黒い首輪が巻き付いており、彼女もまた『人犬』あがりの『人』であることがわかった。
 片桐が庭から館に戻る際に、何気なく振り返った時、伊里音は多数の『人犬』に囲まれて匂いを嗅がれたり、身体をなめられたり、すり寄られたりしていた。
 その光景を見て、おそらく大丈夫だろうと感じた片桐は館の中に入る。


 処置室に戻ってきた片桐が見たのは、伊里音の身体にゴールデンレトリバーの頭部が接続されている姿だった。人の体ではあったが犬と同じように四つん這いになり、歩きにくそうではあったが一応きちんと動き回っている。
「メイド長。伊里音を世話役に預けてきました」
 メイド長はその片桐の報告を受け、軽く頷く。
「ご苦労様です。片桐、これからご当主様のところにこの新しい『犬』を届けに行きます。あなたも同行してください」
「はい、わかりました」
 伊里音の身体をした『犬』に首輪を付け、歩き出すメイド長。それに片桐も続いた。
 二人と一匹がやってきたのは、館の中でももっともいい位置にある部屋だ。
 メイド長がノックをして返答を待ってから扉を開く。
「ご当主様。新しい『犬』をお連れしました」
 部屋の中で、グスターブ家当主は窓際に立って外を見ていた。その視線を入り口のメイド長や新しい『犬』に向ける。
「ああ、ご苦労」
 そしてすぐに窓の外に視線を戻した。そこからは伊里音がいる庭がみえ、そこでは現在新入りの伊里音を徹底的に虐めているところだった。虐めているといっても暴力ではない。体中をなめたり、性器を刺激したり、様々な手で理性を飛ばす手助けをしていた。
 そんな光景を見ていた当主は、どうやら興奮してきているようで、その雰囲気が妙に熱かった。
「ちょうどいい。少し発散したいと思っていたところでな……さっそくその新しい『犬』を使わせてもらおうではないか。こちらに連れてこい」
 当主が部屋の中を移動し、寝室に繋がるドアを開く。
 メイド長達に否定する言葉があるわけもなく、当主に続いて寝室に入った。
 そこには天蓋付きの巨大なベッドと、異様な物が多数置かれた壁いっぱいの棚、そして、その棚の前に、人の体に犬の頭をした『人犬』達が並べられていた。
「新しい犬、名前はなんといったかな?」
 当主が服を脱ぐのをさりげなく手伝いながらメイド長が答える。
「伊里音、でございます」
「イリネか。少し犬の名前としては不自然だが……まあいいか。よし、来いイリネ!」
 その鍛え上げられた肉体を惜しげもなくさらしながら、当主はベッドの上にあがり、伊里音の身体をした『人犬』を――イリネを呼ぶ。
 イリネは即座に応じて、犬の身体であるならば尻尾を降りながらだったであろうことがわかる動きで当主のそばに近づいた。
 当主はその頭を撫でてやりながら、イリネの身体を観察する。
「ふむ……なかなかいい案配だな。少々幼さが残りすぎなような気もするが……これくらいならまあいいか。よし、イリネ。伏せ」
 その当主の命令に、イリネはそくざに従った。ただ、普通の犬の芸である伏せとは少し違い、上半身をべったり地面に付け、下半身は膝立ちにしていた。それはまるで背後から挿入してくれと言わんばかりの姿勢で、そうなるようにしていたのだということがよくわかる。
 もちろん、犬に躾るようにしていたのではない。伊里音には利かなかった洗脳装置によって、元々の犬にそういう動作の芸を覚えさせておいたのだ。また、犬達の当主に対する好意についてもイジっており、そのなつき具合は数十年連れ添ったパートナーレベルだ。つまり、現在イリネが当主の命令を拒否する理由は何もないのである。
「ん……イリネのここ、濡れてないな……仕方ない」
 目の前にさらけ出された秘部を見て、当主は全く濡れていないことを知る。そのまま挿入したのでは、いくらなんでもイリネが痛がるだろう。
 そこで当主はイリネのそこを指で刺激し始めた。少し身体を振るわせたイリネだったが、当主が優しくそこを愛撫し続けていると、奥からすぐにじわりと愛液がにじみ出してくる。呼吸音も荒く、興奮しているのがすぐにわかった。
「犬と違って、人間の身体は万年発情期だからな……少し刺激するだけでこの通りだ」
 楽しげに刺激を強めながら当主は笑う。イリネのそこは瞬く間に濡れそぼっていた。
「よーし。もうそろそろ良さそうだな」
 イリネの準備が整ったことを確認した当主は、そのいきりたったイチモツの先端をイリネの秘部に合わせる。そこはひくひくと蠢き、期待に震えていた。
「よい……しょっ、と!」
 腰を突き出すだけで、当主のものはずぶり、とイリネの中に入り込んでいった。イリネが気持ちよさそうに声をあげる。当主の方も同等に気持ちよく感じていた。
「むっ……さすが新品はきつくて気持ちいいな……っ、もう出てしまいそうだぞ……!」
 大きな水音をさせながら、当主のもので身体の中をかき混ぜられるイリネ。あっという間に絶頂に達してしまったのか、ひときわ大きく声をあげて、強く当主のものを締め付ける。
「もう行ったのか? 早いな……だが、いい素質を持っているようでなによりだ」
 当主はにやりと笑いながら、ピストン運動は止めないまま言う。
「これからずっと、大事に飼ってやるからなっ、よく、尽くせよ……っ!」
 ひときわ大きく当主が動いて、そしてイリネの中に大量の精液を噴き出した。
 大量に注がれたイリネは、その感覚だけで何度もイってしまったのか、力つきたようにベッドの上に崩れる。
 だが、まだまだ当主の方は収まらないようだった。
「さあ、続きだ。もっともっと俺を楽しませてくれ」

 人と『犬』の交わりは、当主が満足するまで延々と続けられるのだった。
 
 
 
 
『人頭犬』 終
 
 
 
 

Comment

No.1209 / 名無しさん [#-] No Title

なるほど

2013-07/01 22:14 (Mon)

No.1210 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

コメントありがとうございます……?
意味深な一言だったのでちょっと困惑しております。

2013-07/01 23:10 (Mon)

No.1217 / Torainu [#CNtCm3fU] No Title

確かに、この作品は珍しすぎて評価しにくい感じがします

人間→犬の心境は分かったのですが、犬→人間の心境はどうなのでしょうね
人間の身体を貰えて喜んでいるのでしょうか
というのも、ラストで人間の言葉を話していたため、どういう状態なのかよく分からなかったのです

私の感覚では3/5点でしょうか
難しいテーマ、お疲れ様でした

2013-07/05 21:41 (Fri) 編集

No.1218 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

Torainuさん、コメントありがとうございます!

> 確かに、この作品は珍しすぎて評価しにくい感じがします
やっぱり評価しにくいでしょうか……全くコメントを頂けなかったのでそんな気はしていました……。
もっともっと上手く書かないとダメですね……。

> 人間→犬の心境は分かったのですが~
これはもう描写不足だったとしか言えませんね……もう少し犬側のことも書くべきでした……。
ただ、「ラストで人間の言葉を話していたため」とありますが、一応犬のセリフは付けてない……はずです。たぶん最後あたりで名前を応えているシーンのことではないかと思うのですが……これは、メイド長が当主の質問に答えています。ので、犬が喋ったわけではないんです。わかりにくくてすみません……。

> 私の感覚では~
読んでくださってありがとうございました。
5/5に近づくよう、励みます!

それでは、どうもありがとうございました!

2013-07/05 23:26 (Fri)

No.1219 / Torainu [#CNtCm3fU] No Title

私の勘違いでしたね、すみませんでした
これで少し理解が深まりました

2013-07/06 01:23 (Sat) 編集

No.1221 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

> 私の勘違いでしたね~
いえいえ、自分でさえ、読み返すと本人(本犬?)の発言のように思えてしまいましたから……。
わかりにくい描写で申し訳ありませんでした。

2013-07/06 23:40 (Sat)

No.1226 / 名無しさん [#-] No Title

個人的には期待していたものと違いました・・・

2013-07/08 08:49 (Mon)

No.1230 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

> 個人的には~
そうでしたか……ご期待に添えず申し訳ありませんでした。
さしつかえなければ、どんな感じのものを期待していらしたのか教えていただけませんか?
今後もし同じような系統の作品を書くことがあれば、ぜひ参考にさせていただきたいと思います。

2013-07/08 23:45 (Mon)

No.1244 / [#] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2013-07/23 18:27 (Tue)

No.1245 / 名無しさん [#-] No Title

私の好きなイメージはそんな感じでした。

2013-07/23 18:28 (Tue)

No.1246 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

> 私の好きなイメージはそんな感じでした。
おおお、力作ありがとうございます!
なるほど、こんな感じのイメージでしたか……イメージに沿えず申し訳ありませんでした。

それにしても素晴らしい力作でした。
よろしければ、当ブログで投稿作品として正式に掲載させて頂きたいと思いますが……いかがでしょう?
その場合ペンネームで構いませんのでお名前を頂戴したいですが。

それでは、どうもありがとうございました!
ご回答お待ちしております。

2013-07/23 22:29 (Tue)

No.1247 / [#] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2013-07/26 00:33 (Fri)

No.1248 / AA [#-] No Title

ちと修正。
稚拙な文ですが、よければ公開ください

2013-07/26 00:34 (Fri)

No.1250 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

> ちと修正。
> 稚拙な文ですが、よければ公開ください

AAさん、ありがとうございますー!
今日(7/27)の夜には公開させていただきますね。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-07/27 00:05 (Sat)

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