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『スライドール』 第四章

『スライドール』の第四章です。
今回の話は思ったよりエロくなりませんでした……。

それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『スライドール』第四章
 


 この試合には絶対に勝てないだろう、と言われていた。
 オーナーから『次の対戦相手が決まったから』と見せられた対戦相手の映像を見たサエも、正直なところ同じ結論にしか至らなかった。
 銃撃による遠距離戦闘が主流のスライドールにおいて、超近距離型の武器を扱うスライドール。その比類なき攻撃力の代わりに耐久性に乏しく、扱いこなすのは難しい刀と呼ばれる部近接武器。その刀の業の冴えはもはや芸術ともいえる域だった。それは映像からだけでも十分わかる事実だ。
 雨霰と降り注ぐ弾丸を避け、時に打ち払い、敵の懐に入って一閃。防御などさせる暇もなく、敵の首が簡単に飛ぶ。
 サエのオーナーはそんな映像を、サエとそのコンビのトオルに見せた後、やれやれというように大きなため息を吐いた。
「これがいま話題沸騰中のツキ&サンのコンビだ。いま見せた通り、このツキってスライドールの実力はずば抜けている。はっきりいっって俺はおまえ達がこいつに勝てるとは思っていない。なにせ、このツキという奴はサンを全く戦わせていないのにこれだからな。ろくな装甲を身につけていない時点で、一発でも喰らえば終わりなのだから当たり前だが、これまでの試合でダメージは一切受けていない。このツキって奴は次元が違う」
 そんなオーナーの言葉は残念ながら真実だった。
 サエ自身、どれほど上手く戦っても、ツキというスライドールに勝てる気が全くしないのだから。
「今後の試合でもしも勝てば、お前達は借金の返済に成功し、晴れて自由の身になれるところだったが……運がなかったな」
 わざとらしいオーナーの言葉に、サエは密かに拳を握り締める。返済が完遂されることを知りながら組んだ対戦カードであることは明らかだったからだ。
 サエとトオルが抱えている借金は、二人がスライドールの試合で勝った時に得るファイトマネーで返済されることになっていた。そうしてこのオーナーの元で戦い続けて早半年。ようやく返済出来るという時になって、勝利が絶望的なカードを組まれたのは悪意のある偶然としか言いようがない。
 オーナーは飄々とした調子でサエとトオルに向かって激励の言葉を贈る。
「まあ、そうは言っても、あんまり簡単に勝負がついてしまうと面白くないから、頑張って作戦を練ることだな。……別に八百長で負けろと言う話でもないから、お前達が勝ってしまっても構わない。むしろ、個人的にはそっちの方が美味しいから、是非そうしてもらいたいもんなんだがな。自己犠牲の精神で派手に散ってくれても構わないが、それはお前達も嫌だろう? 出来れば自由になりたいよな」
 白々しい調子でオーナーは二人に向けて言う。
 二人は何も答えなかった。
「勝てたらちゃんと借金返済ってことで自由にしてやるから、せいぜいがんばりな」
 そうオーナーが言うのに対し、サエとトオルは無言のまま頭を下げ、部屋を退出した。

 サエ達は自分達に宛がわれた部屋に戻って来ると、早速作戦を話し合い始めた。
 サエは短い茶髪の、ボーイッシュな印象を受ける少女だった。苛立ち混じりに眉をしかめている。
「正直……あのツキとかいうスライドールに勝つのは難しいわね……トオルはどう思った?」
 トオルと呼ばれた少女は、ショートカットの黒髪を微かに揺らし、首を横に振る。こちらはサエと対照的に大人しそうな少女だった。
「…………」
 彼女が哀しそうな顔をしているのを見たサエは、大きく溜息を吐いた。サエと比べて戦略眼に長けているトオルがそんな顔をするということに絶望的な状況を改めて悟ったのだ。
「なんとか、しなくちゃね。ツキってのは近距離特化だから……遠距離戦にさえ持ち込めば」
 勝機は見えるとサエは考えたが、トオルは無言で首を横に振る。
 サエは言葉を発しないサエの意図を正確に読んだ。
「違う? ……逆ってこと?」
「…………」
 頷くトオル。サエは少し考え込む。そして、一つ手を打った。
「なるほど、近距離特化たぷだからこそ、遠距離で対応しようとするのは当然……ツキもそれはわかっているはず。だから、距離を取るような戦い方をしようとすれば、相手の想定内になってしまうって言いたいのね?」
 その言葉に、トオルは頷く。どうやらサエは正解を言い当てたようだった。サエは腕を組んで唸る。
「と、なると……あえて近距離戦を挑むか……相手の想定を上回る遠距離戦を想定すればいいのかしら?」
「…………」
 そのサエの言葉には首を縦にも横にも振らなかった。
 サエは無言のリアクションの意味をわかっているようだった。
「近距離は向こうの十八番だし、遠距離で相手の想定を上回るのは厳しそう? ……確かに、あのツキって選手は戦い慣れてるってレベルじゃないもんね」
「…………」
 トオルが頷く。
 サエは頭を抱えた。
「八方塞がりとはこういうときのことをいうんでしょうね……諦めるしかないのかしら……」
 サエが弱音を吐くと、それを否定する鋭い言葉が響いた。
「そうでもない」
 高く、澄んだ声がサエの耳朶を打つ。驚いたサエが顔を上げた。
「トオル……」
「確かに、いままでと同じような戦い方では勝てないかも。まともじゃない戦い方で、応じるしかない」
 戦意を燃やすトオルが、その作戦を言葉でサエに伝えた。
 ほとんど無言でやり過ごすトオルの久々の長台詞に耳を傾けていたサエは、その内容を理解すると同時に笑みを浮かべた。 
「なるほど……それなら、いけるかもしれないわね」
「上手く行くかどうかはわからないけど、上手くすればこれでツキを倒せる」
「オッケー、わかったわ。それじゃ、あまり時間はないけど……少しでも確実性を上げるために、訓練に行きましょうか」
 ただ座して死を待つことなどせず、生きるために全力を振り絞る。
 サエとトオルという二人の少女は、そんな決意を胸に訓練場へと向かった。

 試合の日まで、二週間。




 ツキの体の中で、機械が蠢く気配がする。
 本来のツキの身体にはないはずところへの刺激はかなり強力で、ツキはその感覚に意識を持っていかれそうになるのを、必死に堪えなければならなかった。
 サエとトオルというスライドールとの試合は二時間後に迫っている。快感に溺れ、体力を消耗するわけにはいかなかった。正確にはツキの身体はスライドールのため、疲労は残らないはずだが、精神は摩耗する。まだ試合が始まっていない現段階では、その身体の中に埋め込まれた物の動きは加減されているはずだった。そんな加減された感覚に流されているようでは、この感覚を味わいながら試合を行えるわけがなかった。いずれにせよ、その感覚を味わいながら行う試合にいつものようなパフォーマンスは期待出来ない。大きなハンデであることには違いなかった。
 加減されているとはいえ、絶えず与え続けられるその感覚に辟易しながらも、ツキは表面上は冷静を装って今回の作戦をサンに伝えていた。
「……ということで、たぶん向こうは最初サンを狙ってくると思う」
「私を?」
 サンは意外そうな顔で自分を示した。サンはこれまで、試合開始直後から空中に飛び上がり、そのまま地面に降りることなくツキが試合に勝利するのが常だった。そのため、試合に参加したといえる試合は、ミコとの試合、ツキに庇われた時くらいだ。
 だから今回もあまり狙われることはないんじゃないかと思っていたが、ツキはそれを否定する。
「サンは唯一の空中制御ユニット持ちだから、これまで私達のオーナーが所有していたスライドール達はサンから狙うことはしなかったんだよ。地上にいる私の方が狙いやすいっていうのもあるけど、何よりサンにはオーナーの持つ技術力のパフォーマンスとして、出来る限り長い間、飛んでてもらわないといけないから。いきなりサンが落とされたんじゃ、飛行ユニットも大したことないって話になっちゃうでしょ?」
 だからこそ、ツキの『一人で戦う』という戦術も許されていた。まだ飛行ユニットは実用に至っておらず、もしサンが落とされるようなことになればその分お金が必要になるからだ。高度なパフォーマンスは出来ずとも、銃撃を避けれる程度のパフォーマンスは出来るし、いまの段階ではその程度でいいと判断されているのだ。
 サンは顔をしかめて不満を口にする。
「オーナーがそうするように対戦相手に指示を出してたってこと?」
 彼女にしてみれば戦いに参加出来ない今の状況は不満と言える状況だった。
 それがツキだけでなくオーナーも噛んだ上での状況となれば多少不満は募る。ツキは冷静にそんなサンに対して説明を行った。
「オーナーの指示、とまではいかないかな。あくまで……示唆。可能な限りツキの方から先に倒せっていう風に誘導されてたんだと思うよ」
 そう言いつつも、ツキは示唆などという甘い方法ではないことを半ば確信していた。
 スライドールの特質を生かして、自然とツキの方から先に狙うように仕込んでいたのだと考えている。あからさまに洗脳すれば相当な無理が生じるが、意識誘導くらいならば、スライドールの特質を使えば容易く可能だろう。極端にいえば、ツキに対する一定以上の悪感情を植え付ければ、それだけで自然とツキの方を狙うようになる。
 それに、ツキがあくまでサンを戦わせないように戦略を組み立てている以上、一対二の戦いに持ち込んだ方が楽になると相手が思うのは当然だ。いくつかの要素が絡み合い、サンは後回しにされている。
 そこまで全てを説明されずとも、サンもさすがにツキの言いたいことは理解した。
「つまり……この試合では、向こうはうちのオーナーによってツキを狙うように示唆されてないから……私が先に狙われるってこと?」
 ツキは軽く頷く。
「その可能性は高いと思ってる。向こうのオーナーとしては、私よりサンを落とした方がこっちオーナーに打撃を与えることが出来るわけだし、まず十中八九狙いはサンで来るはずだ。私がサンを護ろうとしているってことはわかってるだろうから、まずサンを狙って、それを私が護ろうとして、隙が出来ることを狙っているんだろうね」
「つまり私を狙うことで、向こうとしてはオーナーに打撃を与える上に、ツキを倒しやすくなるってわけ……か」
 説明されれば、そうする他に有効な選択肢はないように思える。
 サンはツキの言葉に納得し、そこで再び首を傾げる。
「じゃあ……今回の試合ではどんな戦略を取るの? 私が攻勢に出る? 私は大歓迎だけど」
「それはだめ」
 あっさりとツキはサンの申し出を断る。サンは不満げに頬を膨らませた。
「えー、なんでよ。向こうは私を侮ってるってことでしょ? それじゃあ、なおさら私も戦った方が良くない? そんじょそこらの敵なら一蹴出来るよ、たぶん」
「だめだよ。サンはもうちょっと自分の価値を自覚して。相手が自爆してくる可能性もあるんだから。飛行ユニットはダメージに弱いし、もしもそれで飛べなくなったらどうするの?」
 ツキはサンを説得しようとする。
 戦いから遠ざけようとしているのは明らかだったため、サンは不満を隠さなかった。
「えー……でもなぁ……考えたんだけど。そんな簡単に飛べなくなるようじゃ、飛行ユニットの意味なくない? スライドールの試合で使う以上、多少のダメージは大丈夫なはずだけど……」
「大丈夫じゃないから、飛行ユニットは広く実用に至ってないんだよ。サンが特に問題なく使い続けていられるのは、ダメージを一切受けてないからだということを忘れないで」
 そうツキに言われ、サンは渋々納得する。
「でも……じゃあ、どうやって対処するの?」
「その方法は簡単だよ、サン。相手はサンをまず狙ってくる。それをなんとか避けて。私はそれを支援しないから」
「……普段あたしを支援している分を、今回の戦いではしないってこと?」
「そういうこと。デビュー戦とほとんど同じだよ。サンを狙うってことは、向こうは私に対して隙を見せるってことだからね。そこを突いて、まずは相手の武装を減らす。それから、ある程度は試合を長引かせるつもりだから。サンはとにかくダメージを喰らわないようにしながら跳び続けて。それが私への援護にもなるから」
 サンは完全には納得していないようではあったが、ツキのいう戦略なら、と納得したようだった。
 さらに念のため不測の事態に備えた話し合いを続けていた時、部屋にアナウンスが鳴り響いた。
『ツキ選手、サン選手、まもなく試合開始時刻です。ゲートにお越しください』
 機械的な少女の声での呼び出しに、サンとツキは立ち上がる。
「それじゃあ……いこうか、サン」
「うん。今日も勝とうね、ツキ」
 サンに一歩遅れて動き出したツキは、体内で蠢くその機械の動きが微妙に変わったのを感じた。
(試合開始前から……っ、くそっ、うっとおしい……)
 ツキの感度を高めておき、試合中をより苦しくするための下準備なのだろう。そう感じたツキは快感を覚えないようにしたが、オーナーが言っていた通り、意識を試合に集中してもなお、それをかき乱すようにして快感が吹き出してくる。
(っ……これは……いままでで一番辛い試合になりそうだな……)
 内心そう思いながら、ツキは感じる快感をなんとか押し殺しながら歩みを進めた。まだ完全にできあがっている状態ではないから精神で押し殺すことがなんとか可能だったが、いずれはそれも出来なくなるほどに快感は高ぶるだろう。
 ツキはそれをサンに悟られないようにしつつ、先を歩く彼女に追いついた。
 
 
 巨大なアリーナを、たくさんの観客が埋め尽くしている。
 古代ローマのコロッセオの頃から、残虐性をもつ人間の本質は変わらない。血湧き肉踊る本物の闘争を楽しみに見守っていた。そんなアリーナの中心へと進み出てきた、二人一組のスライドールのコンビ二組が、数十メートルの距離を置いてにらみ合う。この瞬間、お互いにお互いの装備を確認する機会が生じる。
 ツキは相手の装備を見て、あからさまなその狙いに驚いていた。
(ミサイルユニット……だと……? ここまであからさまに……)
 相手の二人は背中に馬鹿でかいミサイルユニットを背負っていたのだ。何十本ものミサイルを連射出来るものだ。さらに身体を隠せるほど大きな盾を二人ともが装着している。
 空中を飛ぶサンを、数多のミサイルを撃って捉えようとしているのが明白だった。盾は爆風と反動対策といったところだろう。
 サンを狙ってくると覚悟していたとはいえ、想像以上の『数打てば当たる』戦法にツキは困る。
(まずいな……サンを狙ってくるとは思っていたけど、まさかここまで露骨に、しかも広範囲を覆うミサイルユニットを持ち出してくるとは……)
 いくらサンを回避だけに専念させるとはいえ、雨霰と降り注ぐミサイルを全てかわせるかと言えばそうではないだろう。飛行ユニットは翼を広げなければならない制約上、このような広範囲に威力が及ぶ攻撃には弱い。爆風にも煽られるだろうし、
(ミサイルが撃ち出される前に、速攻でケリをつけるしかない、か……)
 最速を誇るツキであるからこその選択だった。
 サンはミサイルを避けるつもりなのか、特に気負っている様子はない。ちらりとアイコンタクトを交わし、二人は事前の作戦通り、それぞれの役割を務めることを確認する。
『それでは、いよいよ、試合開始です!』
 観客の歓声が高まり、その時は近づいていく。

『試合ぃぃぃ……開始ぃぃぃぃっっ!!』

 そして、敵の二人は同時に左右に展開した。
 その動き自体はツキの予想通りだったが、その動きを取られたことに若干ツキは焦燥を覚える。ツキは躊躇いなく敵の片方――茶髪のサエという方だ――に向かって突撃をかけながら、サンが空中に飛び立つのを確認していた。
 元々ミサイルユニットを敵が二人とも装備してきたことから、どちらかは抑えきれないということはわかっていた。いかにツキが最速のスライドールであろうと、試合開始と同時に左右に逃れられたら両方をしとめることは不可能だ。
 しかし、ツキとしては片方のミサイルユニットだけでも始末すれば、サンの機動力ならもう片方のミサイルユニットの砲撃は避けきれるだろうと踏んでいた。サンは空中制御に関しては紛れもなく天才で、その点だけでいえばツキをも上回る才能を秘めている。
 ツキがサンに語った空中ユニットが広く実用に至っていない理由である「耐久力の問題」というのも、理由としては間違ってはいないが、真実の全てでもない。実際はその扱いの難しさを踏まえるとそのユニットの導入が割に合わないものになるからだった。
 たとえ空中から砲撃出来る利点があったとしても、サン以外の者では空中に浮かぶ的と変わらないだろう。それゆえにツキはサンを空中に逃がして自分が戦うという戦略を採用しているのであり、そうでなければサンを空中に逃がそうなどとは思わなかったはずだ。
 ツキがサンに対してその理由を説明していないのは、あまりサンを持ち上げすぎて彼女が有頂天にならないようにするための処置である。サンはその特殊な立ち位置のせいで色々と知識や情報が欠けているため、ツキが上手くコントロールしなければならなかった。
 様々なことを考えながら試合に望まなければならないという意味では、ツキは常にかなりのハンデを相手に対して背負っているといえる。
 一足飛びで駆けだして、一歩、二歩、三歩と歩数を重ねる度にツキは加速する。その動きはまさに光速で、あっと言う間に敵に追いついた。走りながら刀に軽く手を添え、抜刀術の構えはすでに完了している。追い付かれたサエは、ツキの速さに面食らったように目を見開いていた。彼女が想定していたよりツキの速さが段違いだったのだろう。
 防御も攻撃も間に合わない。
(とった!)
 そのはずだった。

 突如、ツキの体内に潜り込んでいる物が激しい動きを見せる。

 それが生じさせた快感は、突然体に杭が打ち込まれる衝撃と変わらなかった。
 生じた快感によってツキの動きが若干鈍る。
「――っ、くぁっ!」
 それでも、攻撃を続けたツキの精神力は感嘆に値するものだっただろう。刀を引き抜き、勢いに乗せて斬撃が振るわれる。だが、鋭い刀の切っ先が相手を捉えることはなかった。
 ツキの攻撃をその敵はかわしてしまった。薄皮一枚分のギリギリ加減とはいえ、避けられてしまったのだ。これにはツキが驚く。
(あれのせいで一拍遅れた、といっても、あんなに重いミサイルユニットを背負っていて、避けれる訳が――!)
 その時、ツキは致命的な事態に気付いた。サエがミサイルユニットをパージしていたのだ。その分身軽になったおかげで、ギリギリツキの刀を避けることが出来たのだ。
 彼女の背中から外されたミサイルユニットが地面に向かって落ちていく。その時、ツキは自分が恐ろしく危険な位置にいることに気付いた。サエはツキの攻撃を避けた勢いのまま、後ろに下がりつつ、その身体の前に大きな盾を構えようとしていた。ツキの追撃を防ぐためではないとツキは察した。
 なぜなら、自分の背後から強い殺気が膨れ上がるのと感じたからだ。
 素早く振り向いたツキの視界に、ミサイルユニットを構えたもう一人の敵――トオルというらしい――がいた。そのミサイルユニットの矛先は、空中のサンではなく、地上のツキに向いていた。
(こいつらの狙いは、初めから俺か!)
 あまりにも露骨な空中対策に見せかけて、確実にツキを仕留めるための武装だったことをツキは悟るが、すでに遅い。
 自分に向いているミサイルユニットの発射口が開き、その中からミサイルの弾頭がゆっくりと顔を覗かせる。数多のミサイルがそこから一斉に飛び出しつつあった。
 ツキは加速する絶体絶命の境地の中、ただ研ぎ澄まされた意識を頼りに体を反転させ、脚部が破損しかねないほどの力を込め、ミサイルを撃ち込んでくるトオルに向かって跳び出した。
 その背後で、先ほどサエがパージしたミサイルユニットが地面に落下して、爆発を起こす。その爆風に背を押され、ツキの速度はさらに上昇した。前から放たれたミサイルを紙一重で避け、ツキは疾走する。体の真正面に飛んできたミサイルを刀を振るって両断し、爆発する前にその間を駆け抜ける。
 瞬き一つの間にツキはミサイルを発射したトオルの目の前に迫っていた。盾を構えて防御を固めようとしていたトオルに対し、ツキは構うことなく、走ってきた勢いそのまま刀を振るう。盾ごとその腕を半ばから切断することに成功したが、仕留めるには至らなかった。
(ぐ、……ぅ……ッ!)
 いかにツキでも、爆風によって加速された跳び出した勢いを殺し切ることは出来ず、刀を振るった反動に引きずられる形で体勢が崩れ、その体が地面を転がった。ステージとして作られていた壁に激突し、その壁を崩しながら地面に崩れ落ちる。壁にぶつかった時に受け身は取って致命的なダメージは回避したが、これまでにないダメージをツキの体は受けていた。
 ミサイルが爆発した時に生じた爆風がステージ上一杯に巻き上がり、煙が立ち込めてステージを覆い尽くす。
 普通のミサイルにしては煙の量が多すぎるため、どうやらサエとトオルはミサイルユニットに煙幕を仕込んでいたようだった。煙幕によって視界を悪くして、空中にいるサンが迂闊に攻撃出来ないようにしているのだろう。いかにサンが最初から上空で戦いの様子を見ていたとはいえ、その攻防は一瞬のことだった。ツキがどこに行ったのかと追いきれたとは思えない。
(早く……立ち上がらな……っ、ぁ!) 
 全身の激痛を堪え、立ち上がろうとしたツキに別の角度から襲いかかる衝撃があった。ツキの体内に入り込んでいるバイブが、その震動を強めたのだ。
「く、あっ……! こんな……ときに……っ……!」
 タイミングから言って、オーナーが遠隔操作でバイブの震動パターンを変えているとしか思えなかった。ツキが戦えないようにしようというオーナーの意図を感じる。
(……く、そ……っ、これ、やば……っ)
 ただでさえ全身に走った衝撃によって身体が痺れている状態で、与えられる快感は苦しかった。快感に耐えようにも痛みのせいで意識が薄れかけていた時に襲いかかってくるものほど耐えられないものはない。
 身体の中に直接与えられる快感によって、ツキはその場に倒れたまま身体を震わせる。
「うぅ……っ、くぁ……ぁっ」
 自分でも甘いと思うような喘ぎ声が出て、ツキはその顔を朱に染めた。誰にも聴かれていないとはわかっていながらも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
(やばい……変な、気分に……なる……っ)
 試合中だということはわかっているのに、理性を快感が押し流そうとしていた。
 ツキは渾身の力を込めて、刀の柄を握り締める。
 
 
 

 ミサイルに仕込んだ煙幕が視界を悪くしているステージの上で、いち早く爆発の衝撃から回復した私は急いでトオルの元に移動した。 
「トオル……っ! 大丈夫!?」
 そう私が呼びかけると、片手を失っていたけどトオルは気丈に頷く。
 ツキのことを侮ってはいなかったが、まさかあのミサイルの爆撃を避けるとは思っていなかったし、その上で反撃までされるなんて思ってもみなかった。
 化け物とはああいう存在を言うのだろう。
(けど……あれだけの勢いで飛び出したんだから、勢いを殺せずどこかに激突したはず……!)
 ツキは速度を重視して装甲をほとんど身につけていなかった。そのため、ただステージに激突するだけでも受けるダメージは計り知れない。上手くすればそれで戦闘不能に陥っていることも考えられる。あとは空中ユニット持ちのサンを倒せばこちらの勝ちだ。
 ミサイルユニットに仕込んだ煙幕による視界を奪うのは空からの追撃を避けやすくすると共に、相手を一方的に補足するための手段だった。
 サンの実力については試合データがないから未知数だけど、先ほどのツキほどではないとわかっている。もしもツキと並んで戦えるほどの実力であるならば、ツキが一人で孤軍奮闘する必要はない。二人で協力して戦っているはずだ。おそらくサンは戦いに向いていない性格をしていて、パフォーマー的な立ち位置なのだろう、と私とトオルは予測していた。
「トオル、あと一踏ん張りだよ! 頑張ろう!」
 強敵であるツキはすでに倒したようなものなのだから、あとはサンを倒せば勝てる。
 片手を失ったトオルは、片手でも撃てるハンドガンを携え、力強く頷いて――

 その首が飛んだ。

 いつもの淡泊なトオルの顔が驚きに満ちたものに変わり、スローモーションで空中を滑っていく。
「え?」
 一方、私はそんな声しか出せなかった。
 いつの間に現れたのか、すぐ目の前にツキがいた。片腕が肩口から無くなっているツキが、刀を振り切った姿勢で目の前にいた。
(え?)
 その刀がトオルの首を切り飛ばしたのだと、私はかなり遅れて理解する。
 ツキが体ごと回転させ、その回転の勢いを乗せた一閃を私に向けて振るってきた。片手しかないのにどうやってスライドールの首を飛ばすほどの威力を出したのか不思議だったけど、それで謎は解けた。
 その一撃は片手で震っているとは思えないほど重く、私の首に食い込んだ。
(……うそでしょ?)
 最期に私が思ったのは、そんなことだった。
 視界が回って、暗転する。
 
 
 
 
 試合終了を告げるゴングが鳴り響き、観客からはざわめきがあがる。
 相手のスライドールが使った煙幕のせいで決着の様子が全く見えず、観客からすればわけのわからないまま終わったという印象しかないだろう。これからハイライトの映像が流れれば、ツキの絶技が理解できて多少は印象もマシになるだろうが、全体的な興業としては失敗といえる。
(全く余計なことを……今後煙幕は試合ルールで使用禁止にしなければなりませんね。連盟に提案してみましょう)
 ツキとサンのオーナーである男は密かに溜息を吐いた。
 試合ルールについて調整が必要だと考えた後、別のことに思考を移す。
(それにしても……もう少しツキに与えるハンデの形式を考えなければなりませんね)
 彼は手の持っていたリモコンを机の上に置く。そのリモコンはツキの膣内に仕込ませた例のバイブのリモコンで、オーナーはそれを使って多少試合が盛り上がるようにツキの強さを調整しようと思っていた。
 実際、それによっていきなり終わりかねなかった試合を少しは引き延ばすことは出来たが、あまりにも短い時間だった。下手にハンデをつけてしまった分、ツキが本気になりすぎたという感がある。
(全く……まさか、精神力でどうにもならない快感を、それ以上の激痛で押さえ込んでしまうとは。ツキの覚悟をなめてましたかね?)
 最後、ツキはあのまま動けないはずだった。オーナーはあのとき、ツキのバイブをフルパワーで動かし、ツキを快感に溺れさせてしまうつもりだったのだ。そうすればサンが戦わなければならなくなり、サンの真のデビュー戦として試合が盛り上がるだろうと考えてのことだ。
 しかし、ツキは自分で自分の腕を切り飛ばし、その激痛によってバイブの快感から逃れた。理屈としてはやれなくもないだろうが、それを実現させてしまうのはツキの覚悟が想像を絶するものだということだ。
 オーナーはため息を吐きながらも、どこか楽しそうに唇を歪める。
「全く……ツキという子は、どこまでも楽しませてくれますね」
 それが絶望へと変わる時のことを考え、オーナーは嗜虐的な笑みを浮かべた。
  
 
 
 
~『スライドール』第五章に続く~
 
 
 
 

Comment

No.1188 / 梨 [#-] No Title

これは・・・これからは某力士ばりに気合を入れるツキが見られる予感・・・!?

2013-06/26 09:26 (Wed)

No.1190 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

梨さん、コメントありがとうございます!

> これは・・・これからは某力士ばりに~
可能性はないとは言えませんね(笑)
毎回気合い入れてたら慣れてきてもっと気合い入れるようになって……。
エンドレスで強くなってく気合い入れる作業も面白かったかもしれません。けど、ギャグになっちゃいますかね……。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-06/26 23:42 (Wed)

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