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『雑貨店へようこそ』 ~カプセル薬~

 今回の雑貨店シリーズは……明らかに続きを意識しています。
 今の段階ではあまり面白みがないかもしれません。


『雑貨店シリーズ』 ~カプセル薬~





 じりじりと肌が焼ける音がする。
 ここは常夏の島ハワイ。
 不愉快でない程度に賑やかな浜辺にて、私はゆっくりと体を伸ばす。
 思わず悪い意味でない溜め息が零れた。
 その溜め息が聞こえたのか、背後から声がかけられる。
「満足していただけましたか?」
 振り替えるとそこには場違いな黒いスーツを着込んだ男の人が立っていた。
 お金持ちに雇われているようなお付きの人、というイメージだったが、もちろん私はお金持ちのお嬢様ではない。
 彼に向けて、私は頷いて見せる。
「ええ、とっても素晴らしいです」
 私のその言葉を聴くと彼は優しい微笑みを浮かべる。
「それは良かった。ごゆっくりお楽しみください。お呼びになれば参りますので」
 それだけ言い残すと彼はその場から消えてしまった。
 比喩ではなく、本当に、空気に溶けるようにして消えてしまった。
 でも私はそんなことでは驚かない。
 だってここは――

「夢の中、なんだから」




 ある時、大学のコンパに誘われた私は、その場の雰囲気に流されるまま、大量のお酒を飲んでしまい、激しく酔ってしまった。
 私の場合、酔うと暴れるわけでも、騒ぐわけでも、泣くわけでも、笑うわけでもなく、純粋に気分が悪くなってしまう。
 その時、他にも酔っていた人が何人かいて、彼らの場合一人に出来ないような酔い方をしていたため、まともな人達は彼等彼女等に付き添っていった。
 私は気分が最悪だったけどなんとか一人でも帰れそうだったので、見送りを断り、他の人についていてあげるように言った。
 とはいえ、さすがに私も飲みすぎていたらしく、まだ家までは距離があるのに本気で吐きそうになってしまった。
 慌ててトイレを探したけど、公園も傍になく、コンビニも見当たらなかった。
 仕方なくどこか人目につかない場所で吐こうと裏路地に足を踏み入れ――その店を見つけたのだった。

 そこはどこかふるびれた感じのお店で、入り口の上にかけられた看板らしきものには『雑貨店』とだけしるされていた。
 横開きのドアは開かれていて中から明るい光が裏路地に溢れ出していた。
 そんな深夜に雑貨店が営業しているなんて、後から考えれば不自然極まりなかったけど、その時の私は気分が悪く、今にも吐きそうな状態だったのでとにかくその雑貨店に駆け込んだ。
 外の古ぼけた印象とは打って変わって、中は凄く綺麗に整頓されていた。
 様々な物が置かれているにしては、本当に驚くほど整頓されていた。
 人形に指輪、自転車の空気入れ、針に薬類、縄に電話、棒に眼鏡、――本当に『雑貨店』だった。
 しかしその時の私にはとにかくトイレを貸してもらうことしか頭になかったため、商品には目をくれず店員の姿を探した。
 店員は店の一番奥、カウンターらしき場所に座っていた。
 若い男性だった。
 特徴がないのが特徴というくらいに特徴がない。
 若い男と言ってまず思い浮かぶイメージをそのまま形にすればこの人になるのかもしれない。
 その人は穏やかな笑みを浮かべた顔に、ほんの少し怪訝そうな様子を滲ませていた。
「どうされました?」
 私はまだ吐いてしまわないように胸元から込み上げてくる吐き気を押さえて言った。
「すいません……御手洗いを貸していただけないでしょうか」
 その言葉と、私の顔色を見て大体の事情を察してくれたその人はすぐに立ち上がって、一方の壁にあったドアを開いた。
「顔色が酷いですよ。さ、どうぞ」
「すいません……」
 恥ずかしく思いながらも私はそのドアの中に入った。

 吐くだけ吐いて幾分か気分がすっきりしたところで、背後のドアの向こうから店員さんの声が聞こえてきた。
「よければそこの洗面台の脇にあるタオルで口回りを拭いてください」
 声に従って見ると、確かに清潔そうなタオルが積み重ねてあった。
 入ったときには気付かなかった。
 ありがたいけど、そこまで迷惑はかけられない。
「あ、いえ、ハンカチを持ってま……」
 そう言いながらポケットを探ったけど、運悪くその時はハンカチを忘れていた。
「……すいません。お借りします」
「ご遠慮なく。……ああ、それと、うがいをするなら、同じく脇にある紙コップをお使いください」
 あれ?
 いつのまにかタオルの横にコップがおかれていた。
 ……確かにさっきは無かったはずなんだけど。気付いていなかっただけかな?
 私は有り難くそのコップも使わせてもらった。
 トイレから出ると店員さんが優しい笑顔を浮かべて立っていた。
「大丈夫ですか? よろしければこの薬をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 差し出された薬を素直に飲んだ。
 すると驚いたことに、さっきまで気分が悪かったのが嘘のようにすっきりとした気分になる。
「……凄い! なんていう薬ですか?」
 これほど効き目がいい薬なんて聞いたことがない。
 今後のためにぜひ訊いておこう。
 しかし、店員さんは少し困ったような顔をした。
「すいません、名前は無いんです。いま調合した……漢方薬みたいなものですから」
「自家製だったんですか?」
 それにしては全然辛くも苦くもなく、凄く呑みやすかったけど……それに漢方薬ってこんなに効き目があるものなの?
 疑問は色々あったけど助かったのは事実だったので素直にお礼を言っておくことにした。
「何から何まですいません。後日、ちゃんと御礼に来ます。あと、このタオルも洗ってお返しします」
「気になさらないでください。困った時は助け合うのが当たり前なんですから」
 にこにことした笑顔でそんな風に言う店員さん。その笑顔は営業用の心ないものではなく、心の底からそう思っているのがわかった。
 人格者とはこういう人のことを言うのだろう。
「でも……」
 それではこちらの気持ちが収まらない。
 何気無く視線を逸らしたとき、私の脳裏に閃きが走った。
「そうだ! 何か買います! それくらいならいいでしょう?」
 私の提案に対し、店員さんは虚を突かれたような顔になった。
「ええと……購入してくだされば私は嬉しいですが……望みはありますか?」
 奇妙な言い方だと思った。
 そこは欲しいものはありますか、と聴くべきではないだろうか?
 奇妙な言い回しに戸惑っていると、店員さんは更に戸惑うことを言い出した。
「そもそもこの店にはある程度の強い願いが――身も蓋もない言い方をすれば強力な欲望ですが――なければ入ってこれないようになっているはずなんですけどね。あなたが入ってこれたのは、それだけ切実にお手洗いを探していたから……かな」
 最後の方はほとんど独り言のようだった。
 そして私の方を見ると、一つ頷く。
「ああ、やっぱりだ。あなたにはこの店の商品を選ぶほどの強い願いはない――この店を見渡してみても、特に気を引く商品はないでしょう? 何らかの欲望を持っていれば、自然と気が引かれるはずなんですけど……」
 何を言っているのかさっぱりわからなかった。
 何気なく周囲を見渡してみるけど、やっぱり雑多な物があるという印象しかない。
 自然と気が引かれることはなかった。
 私が混乱していると、店員さんはいいことを思いついた、とばかりに手を一つ打った。
「それではこうしましょう。こちらに来てください」
 そう言って店員さんに言われるまま、ついていくと、そこは薬のコーナーだった。
 店員さんは無数にある薬の中から一つの薬を取り出した。
「これを見てくださいますか?」
「なんですか? これ」
 カプセル型の薬のようだった。赤色と白色という典型的な『カプセル薬』の色分けがされている。
「これは『経験蓄積カプセル』と言いまして……簡単に説明しますと、これを飲んで眠ると、そのカプセルの中に入っている経験が夢として再生されるのです。ただし、実際にその場にいると錯覚するくらいリアルなものですが」
 ……はい?
 私が首を傾げると、店員さんはその錠剤を差し出してきた。
「とにかく、まずは一錠試してみてください。騙されたと思って」
 思わず差出し返した掌に、そのカプセルが落とされた。
「ちなみにその錠剤の中に入っている経験は――『温泉旅行』です」

 それから。
 家に帰り付いた私は、半信半疑だったけど、寝る直前にカプセルを飲んで寝た。
 すると驚いたことに。
 本当にすごくリアルな夢を見てしまったのだ。
 その夢はものすごく有名な温泉に行く夢で、物凄く寛ぐことが出来た。温泉につかった時の感触もとても夢とは思えないリアルなものだった。
 これまでの人生で決して食べたことのない、高そうなごちそうも食べた。
 夢の中で満足して眠って、再び目を覚ました時、私はいつもの自分の部屋にいた。
 寝ている間に温泉宿に連れ去られて、また戻されたのではないかと思ったくらいだったけど、日付はちゃんとカプセルを飲んで寝た次の日になっていた。
 それはつまり、温泉宿に行ったのは間違いなく夢だったということを示している。

 再び雑貨店を訪れると、この前と同じ店員さんがにこやかに出迎えてくれた。
「こんにちは。いかがでしたか?」
「……良かったです。けど、あれは一体どういう仕組みなんですか?」
 あれだけリアルな夢を見せる薬なんて、いつのまに開発されていたんだろうか?
 私のその疑問に、店員さんは唇の前に人差し指を立てることで答えた。
「野暮なことは訊かないでください。あの錠剤は『そういうもの』であり、それ以外の何物でもないんですよ」
 なんだか、妙に納得してしまう言葉だった。
 店員さんの持つ雰囲気に納得させられた、という方が正しいかもしれない。
 私の反応に満足したのか、店員さんがティッシュ箱大の箱をどこからともなく取り出す。
「これをどうぞ」
 なぜどうぞ、なのか不思議に思いつつ、それを受け取る。中身が何なのかわからなかったけど、やけに軽かった。
「なんですか? これ」
「タブレットケースです。……普通のタブレットケースというにはちょっと大きすぎますけどね」
 そう言われてみれば、確かに一つの面が蓋になっているようだった。
 留め金を外して開けてみると、そこにはあの『カプセル』がずらりと並んでいる。
「……これ」
「お試しのもので本物だとご理解いただけましたでしょう? それらは様々な『経験』が詰まったカプセルです。『海水浴』、『山登り』、『シュノーケリング』に『ダンスパーティ』、『お姫様』から『セレブな奥様』まで――様々な『経験』が詰まっています。それらを呑めば――それらを夢の中で体験することができるのです。夢の中での時間は大体一日くらいですね」
 ざっと見て、百錠くらいはありそうだ。それだけ色んな経験が出来るのだとしたら――凄いかもしれない。
「なお、使ったカプセルは自然と補充されますので、例えば『海水浴』が趣味ならば、何度でも体験できますよ。さらに、お試し版では出てこなかったと思いますが、それらの製品版では『夢先案内人』……つまりはガイドですね。それが出てきますから、その者に申しつけていただければ、同じ『海水浴』でも色んな場所にいくことができますよ。ハワイでも、沖縄でも」
 ……凄過ぎる。
「代金ですが……そうですね。それはまだ色々と試行錯誤する余地がある品なので、五万程度でいかがでしょうか? 時々使用した感想を聞かせていただければ幸いです」
 そこで店員さんは私をまっすぐに見つめてきた。
「いかがいたしますか? 購入していただけますか?」
 私は店員さんの目を見つめ返して――答えを決めた。




 そして、私はいまハワイでバカンスを楽しんでいた。
 一日ごとに休みがあるようなもので余裕が出来たからか、最近友達に『明るくなったね』と言われることが増えた。
 本当にいい買い物をしたものだ。
 私はのんびりとビーチで寝転びながら、自堕落な時間を過ごしていた。
 この世界でどれほど運動して疲れ果てたとしても、現実に戻れば問題ない。
 だから泳ぐだけ泳いで楽しんだあとはまた寝ころび、さらに泳いで――という気ままな過ごし方が出来ていた。
 独りでいると時々声をかけてくる人がいる。案内人曰く、この世界で仲良くなった人は望めば他の経験の中にも出てくるとのことだ。
 まだこの世界で友達は作っていないけど、一人か二人は作ってもいいかもしれない。
 ただ、やっぱり現実の友達とここで一緒に遊べればいいとも思う。
 でもこんな秘密をばらしてしまうのは惜しい気もして、今のところ一人で過ごすことが多い。
「……まあ、いまでも十分楽しいんだけど」
 ここで使うお金は案内人さんに言えば好きなだけ渡してくれるし。
 もうしばらく、一人でこの楽しい世界を満喫していよう。


 そして、ある日の夜。寝る前の時間帯。
「さて……今日はどの『経験』にしようかなー」
 タブレットケースを開いて、私は考える。
 添付されていた説明書にどのカプセルにどんな経験が入っているかは書いてあるから、それを見ながら選ぶことになる。
「馬術っていうのも面白そうだし……あ、気球に乗って空の旅? これ気持ちよさそう……」
 説明書を見ながらタブレットケースに手を伸ばす。
 よく見ていなかったから、その指先がタブレットケースにぶつかって、タブレットケースが机の上から床に落ちてしまった。
「あ、しまった!」
 カプセルがばらばらになってしまう、と一瞬焦ったけど、ちゃんと容器がホールドしてくれていたので堕ちた程度では散らばらなかったようだ。一、二錠ほどは飛び出てしまったが、これくらいならすぐ直せる。
「危ない危ない……?」
 落ちたタブレットケースに手を伸ばした私は、思わず動きを止める。
「あれ……? これ、ひょっとして……」
 薄々思っていたことがある。
 このタブレットケースはティッシュ箱サイズはある。大きさだけでなく『厚み』もだ。
 カプセルは柔らかい素材の板に空いた穴に半分ほど差し込まれた状態で保存されているのだけど……その穴の深さに比べて、タブレットケースは『厚過ぎる』。
 薄々それは何でなのだろうと思っていたのだけど――これは――。
「まさか……二重底……?」
 落ちた衝撃で僅かに板が浮き上がっている。
 これは――。
 私は浮き上がったその板を掴んで、持ち上げる。
 すると、いままで見ていたカプセルの並びの下に――同じように、百錠ほどのカプセルが整然と並んでいた。
 一枚の紙がその多数のカプセルの上に乗っかっている。
「…………」
 思わず緊張で生唾を呑み込んだ私は、その紙を手に取り、裏返してみた。
 そこにはいままで見ていた印刷された説明書とは違う、明らかに手書きの文字でこんなことが書かれている。
『この二重底に保管してあるカプセルは少々マニアック・ハード系の『経験』が詰め込まれています。ご使用の際は十分に内容を確認なさってから服用してください。安全措置は講じてありますが、精神崩壊などの危険があります』
 心臓が跳ねた。
 マニアック・ハード系の『経験』とは……どういったものなのだろうか?
 恐る恐るその説明書きの下に書かれているリストを見て――戦慄した。
 そこに書かれていたのは、明らかにいままでのような穏やかな『経験』ではなかった。

 『銃撃戦』・『殺陣』・『チキンレース』などと言った純粋に危険なものから。
 『露出プレイ』・『ハードSM』・『拷問プレイ』などの危険度の高いHなものまで。

 いままでのカプセルの中にも『SEX』などのちょっとH系の『経験』はあったけど、ここまでのものはなかった。(ちなみに『SEX』のカプセルは使用済み)
 思わずごくり、と生唾を呑み込んだ私は、数あるそのマニアック・ハード系の中から、一つのカプセルを選び出した。

 そのカプセルは――




 そして私は夢を見る。





~その2へ続く~

Comment

No.111 / 名無しさん [#-]

今まで店の人の影が薄かったから意外w

一晩限りの新たな経験、次は何を経験するんでしょうね

2008-11/03 00:04 (Mon)

No.112 / 光ノ影 [#-] コメントありがとうございます。

店の人をちゃんと出したのはこれが初めてでした。
いままではほぼ冒頭でしか出てきませんでしたからね。
今回は最初から続きものということでちゃんと出してみました。でもたぶんこれからは出てこないと思います(笑)。

次の経験は色々と考えているので、お楽しみに。
またどうぞお越しください。

2008-11/03 13:12 (Mon)

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