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『スライドール』 第二章

『スライドール』の第二章です。
それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『スライドール』第二章
 


 スライドール。
 それは十年前に開発されて以降、世界でもっとも刺激的な娯楽として多くの人に愛好されている疑似戦闘遊戯の名前である。
 プレイヤーは『ドール』という人の姿を模した機械人形に意識を移し、その身体で戦いを行う。生体部品も使われているその人形は、近くで見ても、実際に触れたとしても、人間との差異がわからないくらいに精巧な作りになっている。人間そっくりに作られたアンドロイドと言える。だが当然、その機械仕掛けの身体は人間のそれよりも遥かに身体能力に優れていた。
 その普通の人間ではありえない機動力や怪力を活かし、『魅せる』試合を繰り広げることがプレイヤー達の勤めとなる。試合で使用される剣や銃も疑似的なものであるため、残酷な絵にはなりにくく、そういった点も『スライドール』が広く愛好される理由であった。
 ただし――それはあくまで表社会での話だ。


 振るわれた刃は的確に鎧の隙間を突き、その腕を肘の部分で切断した。
 赤色の液体が噴き出し、観衆が盛り上がる。
「ぎゃあああああ!!」
 腕を切断された女性は悲痛な叫びをあげ、握っていた剣を思わず放り出し、その切断された腕の断面を抑える。それを見た味方の女性が叱咤の声をあげた。
「ばかっ! カオル逃げてーっ!」
 その叫びがカオルという女性に届くと同時に、カオルの首に深く刃が突き刺さっていた。呆然とした表情になったカオルの口から、泡混じりの血が噴き出される。
「かおるぅぅぅ!!」
 再度仲間があげた声に応じるように、カオルの手が彼女の方に向けて伸ばされる。だが、そこまでだった。カオルの目から光が消え、腕も力なく落ちる。
 カオルの仲間は声にならない叫び声をあげながら、疾風のように近づいてくる敵に向かって銃弾をばらまいた。銃弾は至る所に着弾し、爆発を引き起こす。
「死ねぇ! 死んじゃえこの悪魔!」
 わめきながらガトリングの如く銃弾を連発するその存在に対し、その相手はあくまで冷静だった。地面を滑るように細かく弧を描きながら銃弾を避け、手に持った刀の重量をも利用して移動する様は、まるで舞でも踊っているかのようだ。
 観衆の目が、その姿に惹きつけられる。
 『スライドール』において、肝になるのは水平面における滑るような移動だ。各人形の核に存在する『反重力機動装置』と呼ばれるシステムは、重力から解き放たれたかのような動きを可能にする。氷の上をいくホバーリフトがイメージとしては近いだろう。その機能で空中を飛ぶことは出来ないが、わずかに地面から浮いた人形の身体はまるで翼でも得たかのように滑らかに動くことが出来る。加速するために地面を蹴ればその分加速するのだから、最高速度に至ってはまさしく弾丸並の速さとなる。
 もちろん移動の速度が上がれば上がるほど扱いは難しくなり、未熟な者が無理な速度を出せば、その勢いで障害物に突っ込んで勝手に試合が終わってしまうパターンもありうるくらいだ。ちなみにその試合の終わり方は『自壊』と呼ばれ、表社会であれ裏社会であれ、もっとも間抜けな終わり方として認識されている。
 そんな危険をはらんでいる高速移動をしているその存在は、まるで気負いが感じられなかった。一歩間違えば飛び交う銃弾に貫かれるかフィールド上に無造作に置かれた障害物にぶつかって終わりだというのに、全く勢いを減じることなく、銃弾の雨霰を掻い潜って、相手に接近する。
 気付けば、銃弾を苦もなく避けられる位置に滑り込んでいた。銃を撃っている側の表情が驚愕に歪む。
「――はっ!」
 気合い一閃。
 閃いた剣先は、見事に相手が構えていた銃を半ばから両断した。切断された銃の前半分が地面へと落ちていく。
「……ッ、うぁ……っ!」
 攻撃手段を失った彼女は、とっさに反重力機動装置を作動させて後ろに下がろうとしたが、敵が踏み込む方が遙かに早い。
 刀を振りきった状態から、さらに身体を一回転させ、刀の切っ先を前に向け、回転の勢いを突きの勢いに転化する。恐ろしく速いその一撃が、見事に後退しようとしていた彼女の首に突き刺さり、そのまま勢いに乗せて彼女の身体ごと壁まで突っ込んだ。
「がっ!」
 首を貫通した刀の切っ先は壁に突き刺さり、彼女をまるで昆虫採集で張り付けにされる蝶のように壁に磔にした。身体に指示を出す背骨の神経伝達ラインを切断された彼女はほとんど何も言えないまま、身体を痙攣させながら動けなくなった。
 それと同時に、試合終了を告げる鐘の音が鳴り響く。
『試合終了ーっ! サン選手、ツキ選手コンビの勝ちです! 今日も今日とて圧倒的でした!』
 観衆が爆発的な歓声を上げる中、刀を放棄したツキは深く息を吐いた。
 そんなツキの傍にサンが降りてくる。
「ツキ、お疲れ! 今日は昨日よりあっさりだったね」
「……まあ、今日の相手はそんなに強くなかったからね。ただ、たぶん……いや、ごめんなんでもない」
 サンに向けて笑みを浮かべてみせるツキではあったが、その顔にはかげりが見える。それに対し、サンが何か言おうとしたが、それを遮って実況者の大声が響く。
『ところでみなさん! これでサンとツキのコンビは……むしろツキ選手一人で五戦を戦って全戦全勝を続けているわけですが……そろそろ! 強敵と彼女達が戦うところも見てみたいとは思いませんか!』
 ざわめきが観客席に広がる。サンも観衆と同じように驚いた表情を作るが、ツキの方はこの展開がわかっていたとばかりにため息を吐いた。
「そろそろ、来ると思ったぜ……」
 吐き捨てるように、小さく呟くツキ。腰に下げていた予備の二本目の刀を抜き放ちながら、ゲートの方を睨む。その視線の先で、ゲートが開かれていく。
 開いたゲートの向こう側から現れたのは、ツキも見覚えのあるプレイヤーだった。
『ご紹介しましょう! 今日のために特別ゲストとしてお招きした――元日本代表! カザマミコ選手です!』
 観衆から大歓声が爆発した。ミコと呼ばれたその女性は、無骨な剣を肩に担ぎつつ、手を振って歓声に応える。
 出てきた相手の名前を聞いたサンが、驚愕の表情を浮かべた。
「カザマミコって……! 確か『鬼刃のミコ』……!」
 短い黒髪をざっくばらんに切り揃え、そのスレンダーな身体を薄い布を巻くような服で覆っている。わずかに透けている胸の突起や股間の隆起が妙に艶っぽく、見る者の目に映る。その目は肉食獣を思わせるギラギラとした光を放っており、フィールド上にいるツキとサンを見詰めて妖艶な笑みを浮かべた。
 そんなミコの姿が、霞んで消える。
 瞠目し、硬直してしまうサンに対し、ツキは刀を振り上げながら彼女の真横に向かって跳んだ。
 すさまじい金属音が会場中に響き渡り、咄嗟に目を瞑った観客達が気付けば、ミコとツキが互いの刃を交わしていた。
 端正な顔を狂気の笑みに歪めて、ミコが口を開く。
「いまのでうっとうしい方を殺しておくつもりだったんだけど?」
「……悪いけど、それは私を倒してからにしてもらおうかな」
 ギリギリと力と力がぶつかり合う。ツキの握る刀が鈍い軋みの音を響かせる。
 ツキはミコと組み合いながら、サンに向けて言った。
「サン。いつも通り、君は空に逃げて」
「させると思うの?」
 強い力で一瞬ツキを押し返したミコは、そこから素早く剣を引いて、目にも留まらぬ連続攻撃をツキに向けて叩き込む。ツキはそれを受けながら、ミコとサンの間に常に割り込み続ける。あまりにも周りで繰り広げられる攻防の勢いが激しすぎて、サンは空中に飛び上がることが出来ずにいた。
『おおおおおっとおおおおお!! これはすさまじい攻防です! 天使を中心に、二人の剣士の激闘が続くぅ!』
 二人の切り込みはすさまじい勢いと力で交わされているため、その衝撃で周りに演出のために転がされていたスクラップなどの瓦礫が激しく舞い上がった。
「――ははっ! スゴいねあんた! 近接戦闘のみでここまであたしについてきたのはあんたが初めてだ!」
「……なんで、あなたほどの表の世界の実力者がここに?」
 二人はまた鍔迫り合いに持ち込んでいた。サンは下手に動けず、ツキの背に庇われた状態のままだ。ミコはふっと儚い笑みを浮かべる。
「色々事情って奴があるんだよ――なんてね」
 儚い表情から一変、好戦的な笑みを浮かべてミコは言う。
「借金だとか、脅迫されてだとか、そんなつまらない理由じゃない。あたしはもっともっと血沸き肉踊る戦いがしたかったんだよ。表社会みたいな、安全安全な戦いじゃ、満足出来なくなっちゃったのさ」
「……つまり、スリルを求めてってわけ?」
 呆れを滲ませて問うツキに対し、ミコはあくまで本気の目をしていた。
「それ以外の何があると思うの? さあ、本気の殺し合いをしましょう?」
 舌なめずりさえして、ミコはツキにそう宣言する。
 刃と刃が擦り合い、軋む嫌な音を立てた。
 
 
 
 
 ある日、いつも通りツキがオーナーに奉仕させられている時のこと。
「残念なことに、スライドールでは記憶の操作は出来ません」
 淡々とオーナーは言う。ツキはあえてオーナーへの奉仕に集中しているのか、答えなかったがオーナーは気にせず続ける。
「正確には記憶を書き換えることが出来ないということですが……いまだ人間はその域に達していないのです。それさえ出来れば、私たちの商売はずいぶん楽になるんですけどね」
 今回は性欲を高められていないのか、至って冷静な動きでオーナーのものへの刺激を与えている。付け焼き刃とはいえ、徐々にテクニックを身につけ始めているツキの奉仕は十分な快感を彼に与えていた。
「漫画や小説のように、一瞬で……というわけにはいきませんが、洗脳と似たようなことは可能です。やり方も簡単です。スライドールのボディに蓄積される、五感を伴う疑似記憶データを本体の身体に『フィードバック』し続けるだけでいいんです」
 奴隷として扱われる記憶を、奴隷として振る舞う記憶を、さも自分の経験のように強制的に経験し続ける。それは、洗脳教育と変わらないものだった。
「実際、最初にあなたが倒したマル姉妹のうち、妹さんの方はこの方法で『掃除婦』として生まれ変わりましたからね。毎日毎日同じルートを同じように清掃する記憶を何万という規模で自分の記憶として味わえば……それはもう、元の自分のことなんて忘却の彼方でしょう」
 ただ、この洗脳にも弱点はあります、とオーナーは残念そうに続ける。
「それは、元々精神が壊れた人間には出来ないことです。元々が壊れていては、いくらパターンを上書きしても変わりようがない、ということなのでしょうね。ですから、マル姉妹の姉の方は肉便器として地下に放り込むしかなかったのですが……」
 そこでオーナーは微笑みを浮かべた。
「スライドールによる洗脳には時間もかかりますしね。中々実用に足るとは言えません。基本一つの洗脳しか出来ませんし。まだまだ改良の余地があるということですね」
 ふぅ、とオーナーはため息を吐く。
「とはいえ、いまお話しした疑似記憶をフィードバックする方法を活用すれば、簡単に調教は出来ます。例えばそうですね……どんなに気の強い女性でも、毎日毎晩四肢をもがれ続けることを味わい続ければどうなるでしょう?」
 その凄惨な光景を想像したことによるのか、ツキの口の中でオーナーのものが大きくなる。その感触が不快だったのか、ツキがその表情を歪めた。
「通常、スライドールからの度の越えた痛覚などは本体に届く前にシャットアウトされますが、この裏社会ではそれを解除することが出来ます。その現実味のある痛みがどれほどのものかについては……あなたも経験済みですね」
 いいながらオーナーはツキの股間を見る。ツキは激しい嫌悪の目でオーナーを見た。
「おっと失礼。……話を戻しますが、そういう痛みを味合わされ続けると思うと、人は案外簡単に転ぶんですよ。そういう意味じゃ、あなたを落とすのは簡単と言えるでしょう。最初に犯された記憶も、性欲を何十倍にも強められた時の記憶も、いろんな記憶がそのスライドールのボディには蓄積されています。あなたがあなたとして犯された記憶は、きっとあなたの心を折るのに十分な破壊力を持つことでしょう。……それをしないのは、あくまであなたとの約束のためです」
 遙かな優位から『約束』を口にするオーナー。それに対しても、ツキはなにも言わなかった。なにを言っても無駄だと考えているのかもしれないし、それ以外の意図があるのかもしれない。いずれにせよ、ツキは決して言葉を紡がなかった。
 オーナーは一人続ける。
「期待していますよ、ツキ。あなたが勝ち続ければ勝ち続けるほど、出資者である私は儲かるのですから――」
 欲望の固まりがツキの口内に放たれ、それをツキは飲み干した。
 
 
 
 
 金属が擦れ合う嫌な音が響く。
 ツキは力任せにミコを吹き飛ばした。ミコは滑らかに後退しながら、楽しげに笑う。
「中々見事。けれどいいのかな? そんな乱暴な使い方をして」
 余裕綽々の態度でミコはツキの持つ刀を示す。
「刀は確かに切れ味に優れる最強の武器の一つだけど、その刃の脆さは半端じゃない。ちょっと鍔迫り合いをするだけでもうずいぶん欠けてるじゃないか。切れ味は落ちるばかり……それであたしに勝つつもりかい?」
 ミコは油断なく構えていた。
 ツキがどのような動きを取っても、間違いなく対応できる距離と体勢。
「……逆に聞きたいんだけど」
 不意にツキが口を開く。
 ミコがそれに耳を澄ませる。スライドールの聴覚は通常の人間よりも遙かに優れる。観客の大歓声が押し寄せるステージの中にいても、ツキの呟きを聞くのは容易かった。
 ツキが続けて言葉を放つ。

「あなたに勝つのに、切れ味が必要?」

 ミコが気づいたとき、ツキの姿が消えていた。
「っ!」
 普通の相手であれば、この時点で勝負は決まっていただろう。それくらいツキは凄まじく速かった。しかしミコも『鬼刃のミコ』と呼ばれるほどの熟練者。ツキの移動前の予兆を見抜いており、その方向に視線を向けていた。
 その目に、辛うじてツキの姿が映る。
(速いっ! これは――!)
 一瞬驚愕に染まるミコの思考。それを見極めてか、ツキは跳んだ。
「私が切れ味のいい刀を使うのは――」
 一歩でミコの間合いに踏み込む。ミコは反応して剣を振るった。
 それをまるでワルツのように、ツキは紙一重で交わし、それと同時に刀を振るっていた。ミコの太股から血が噴き出す。
「っっっ!」
 そこから走る激痛にミコの動きが鈍る。一方、ツキの返す刀はすでに振るわれていた。
「一撃で相手を殺すため」
 ミコの右手首に刀があたり、その刃をしならせながらも衝撃が襲いかかり、その骨をへし折った。
「がっ――!」
「痛みが本体までフィードバックしないうちに殺すのが、自分が勝ちつつ相手を生かす唯一の方法だから」
 無防備になったミコの首筋めがけて、ツキの刃が襲いかかる。手首の時以上に鈍い音がして、ツキの刃が限界以上にしなり、砕ける。ミコの身体が十メートルほど吹き飛んで地面を転がった。
 ツキは半分だけになった刀を放り捨て、ミコが取り落とした剣を拾う。
「だから、一撃で殺さないなら――切れ味なんて、なくても勝てる」
 地面にうつ伏せに倒れているミコは、すでに虫の息だった。首の制御中枢を破壊されたのだから当然であろう。
「あ、あぅ……おぁ……」
「フィードバックよりも速く意識を飛ばすには、首を飛ばすのが一番。だから、私は切れ味の鋭い刀を使って一撃必殺を狙う。……出来るうちは、だけど」
 ツキはミコの首筋を狙い、剣を振り上げた。
「……少しは、満足できた?」
 血湧き肉踊る戦いを求めてこの場所にやってきたミコ。その成れの果てに対してツキが尋ねる。その時、ミコはなにも答えられなかった。
 決着がついたと知った観客たちから、ツキに対して「殺せ」コールが鳴り響く。
 ツキは一瞬だけ目を閉じ、その剣を振り下ろす。

 鈍い音と共に、一つの首が転がった。
 
 
 
 
 一度ツキの口内で射精したオーナーだが、彼はまだまだ元気だった。
 年齢的に言えば中年の域に入りかけているにしては、元気な様子だ。なに不自由ない豊かな生活の産物といえよう。
 裸で地面に座り込んで、口の中の味に耐えているツキに対し、オーナーが命じる。
「ツキ、『命令』です。あなたはベッドの横に待機していなさい」
 その言葉が響いたとたん、ツキの身体は機械的に動いてオーナーのベッドの横に立った。表情は変わらないまま、その口が開く。
「……どういうつもりだ?」
「おっと、そういえば喋るなとは言っていませんでしたね。いやなに、あなたばかりを使っていても飽きるのでね。ちょっと今日は趣向を変えてみようかと思いまして」
 オーナーが手を打つと、部屋の外に待機していたらしい者が部屋に入ってきた。ツキは命令に従って立ったまま、そちらの方を見て――その目に動揺が浮かぶ。
「……っ、おい! どういうつもりだ!?」
 表情こそ変わらなかったが、その声には本気の焦りが感じられた。それを楽しんでいるのか、オーナーは笑いつつ、ツキに続けて命令を下す。
「うるさいですよ。ツキ、『命令』です。黙っていなさい」
「きさ……っ――――」
 怒鳴ろうとしたらしいツキの声は中途半端なところで途切れ、それ以後は本当に一言も喋らなくなった。
 スライドールのボディは、所有者が本気で命令するつもりで指示を口にすれば、決してその指示から外れる行動を取れなくなる。あくまで身体の動きだけでいえばいくらでも強制的に動かすことは可能なのだ。もちろん表社会ではスライドールの所有者はプレイヤーと同意義のため、プレイヤーが望まない命令を聞かせると言うことは出来ないが、ここは裏社会である。そういう行為がまかり通る世界だった。
 待機したまま動けなくなったツキを気にせず、部屋に入ってきた少女が恭しくオーナーに向けて頭を下げる。
「お呼びになりましたか、ご主人様」
 それはどこか機械的な発声の仕方だった。無感情というか、抑揚がないというか、意思がない、うつろなものを感じさせる。オーナーはそんな彼女に対して、楽しげに微笑んで見せる。
「ああ、今日はちょっと君に相手をしてもらおうかと思いましてね――サン」
 部屋の中に入ってきたのは、ツキが守ることを誓っている少女であるサンだった。彼女特有の天真爛漫な笑顔はいまはなく、ただオーナーの命令に従うだけの人形と化している。
 オーナーの口にした『相手をしてもらう』という求めにも、躊躇なく彼女は応じた。
「承知しました。どうぞ私の身体をお使いください」
「では、服を脱ぎなさい」
「はい、ご主人様」
 身に纏っていた服をサンが脱いでいく間に、オーナーはツキの方に目を向ける。
「安心してください。こういうことをする時の記憶は、サンの本体にフィードバックしないようにしています。サンはその見目の美しさから人気も高くてですね。一発やりたいという方がたくさんいらっしゃるんですよ。希少価値を持たせるため滅多に相手をさせることはないんですが、これも商売ですから」
 見事に均整の取れた身体を晒しながらも、サンの目に迷いはない。そもそも意思もないのだからその反応も当然だろう。
 オーナーはそんな彼女の身体を舐めるように見つつ、ツキに説明を続ける。
「この記憶も普段のサンにはフィードバックしないようにしておきますから。大丈夫ですよ。君達が勝ち続ける限り――彼女の本体がこれらの記憶に浸食されることはありません。ちゃんと『本人に』危害は加えないという約束は守ります。あなたもまさか、この場所にいて『そういうこと』から一切除外されるなんて甘い考えを抱いていたわけじゃないでしょう?」
 オーナーはツキの心情を想像してか、窺うような声を投げかける。
 それをツキがどう受け取ったかは、わからない。
 オーナーがツキに話しかけている間に、サンの準備は終わったようだった。
「ご主人様、お待たせいたしました」
 全ての服を脱ぎ去ったサンがオーナーに近づく。オーナーはにっこりと笑みを浮かべてベッドに腰を下ろした。
 真正面に立つサンの綺麗な身体を満足そうに見つめる。
「ではサン。あなたがやりやすいように私を満足させてください。まずはその胸でパイズリでもしてもらいましょうか」
「はい、ご主人様」
 ためらいなくオーナーの足の間に膝を突いたサンは、その胸を寄せて、オーナーのものをその間に挟み込んだ。サンの胸はかなり大きな部類に入るため、全体を包み込まれるような至福の感覚をオーナーは味わう。
「うん……やっぱりいいですね、このパイズリというのは。サンの綺麗な顔がよく見えます」
「ありがとうございます」
「本当にサンは可愛い子ですよねえ。君もそう思いませんか? ツキ」
 わざとらしくベッドのすぐ脇で待機しているツキに尋ねるオーナー。喋るなと言っている以上、言葉はなかったが、その目から感じる雰囲気は不穏なものを含んでいる。それでも、どうすることも出来ない。
「くくっ……試合の中じゃ、他の誰も寄せ付けない最強とも言える貴方が、そうやって無力感を味わうしかないというのは、実に心地よいですね。……サン、胸を使うのと同時に、口も使いなさい」
「はい、ご主人様」
 そう答えたサンは、小さな口をいやらしく開いてオーナーのペニスの先端をその中に含む。カリの部分を執拗に舐め、唾液を絡ませつつ、舌でさらに刺激を高めた。
「……んっ、すばらしいですよ、サン。舌使いも中々上達してきましたね。全く、いいものですよスライドールというものは。これを活用すれば、本当は男を知らない生娘でさえ、娼婦のテクニックを習得することができるんですからね。知っていましたか? スライドールが開発された当初から、そういうことは行われていたんですよ」
 そのオーナーの言葉は、すでに何度もサンに色々なことをさせているのだと暗に伝えていた。それを聞いたツキの目には憎悪の光が宿るが、足掻くことすらできない。そんなツキの内心を察しているオーナーは実に得意げだった。
「もちろん、礼儀作法だとか格闘術を学ぶような、実に平和的な利用もされていたそうですけどね。圧倒的にこういう使い方の方が多かったらしいですよ。結局、人間の本質はこっちというわけですかね」
 やがてオーナーの快感が限度に達したのか、サンの顔面に目掛けて射精に至った。白い液体が彼女の顔に降りかかり、その肌を汚していく。
「彼女が汚れていくのを眺めているのは、どんな気持ちですか? ツキ。けど安心してください。彼女の本体には決して手を出しませんし、記憶のフィードバックもしませんから彼女の精神が浸食されることもない……あなたがおとなしく私に従っている以上、あなたがその力で勝利を私に捧げる以上、彼女は彼女のまま。ここに連れてこられた当初のまま。清いままでいられますよ」
 何も知らないままで。
 残酷な裏社会のことなど何も知らないままで。
 ツキと違って、サンは何も変わらないまま、さらわれる前のまま、元の世界に戻れる可能性がある。
 それはツキにとっては希望で、オーナーにとっては餌だった。
 ツキという比類なきスライドールの使い手を手駒にし続けることができる。もてあそんで長く楽しむことのできる玩具が手中にある気分だった。
「さて、それではサン。今度は下の口で私を楽しませてもらいましょう」
 誰かにとって大事な存在を、その誰かの前で好きなように弄ぶ。
 オーナーにとって、それは最高の快楽だった。
 
 
 
 
 カザマミコもまるで相手にせず倒したツキの様子を、オーナーはVIP席から眺めていた。
「……おやおや。ああもあっさりミコさんがやられてしまいましたか。これは少し計算外ですね」
 困ったような声で呟くオーナーに対し、その席の近くにいた男が言葉を返す。
「そうか? 俺はこうなると思ってたぜ。あれとツキじゃ、覚悟が違う。いくら表の世界で腕をあげてても、命を保証されてる表のルールじゃ真の意味で強くはなれん。最初にツキが切った太ももの傷も、表舞台じゃ普通に反撃を許しちまう攻撃だ。痛みが無いんだからな。多少傷をつけられても誰だって反撃出来る。だが、痛みがフィードバックされるここじゃ、その痛みに思わず足が止まっちまう。ツキはそれをわかって、あえて表の試合じゃ意味のない攻撃を繰り出した。表なら意味のない攻撃だったからこそ、ミコの奴も警戒しきれなかったんだろう。相手の心理まで含めてやりやがった……全く、嫌味なくらいに如才ない奴だ」
「さすがはキルさん。名解説の名は伊達じゃないですね。見事な観察眼です」
 オーナーは手放しで男を――キルを褒める。不遜な態度で足を組み、上等なワインを煽るキルは乱暴に頭を掻いた。
「しかし、ツキってプレイヤーは何者なんだ? オーナー。ありゃさすがにちょっと異常だぜ。表の世界にゃあんな奴はいなかったはずだ。つうかそもそも、いまの表舞台じゃスラッシャーっていうプレイスタイル自体あんまみねーしな。五年前のルール改正で全体の攻撃力が見直されて、スラッシャーをやる旨みがなくなっちまってるしな」
 その問いに対し、オーナーは上品にワインを味わいながら少し困ったような微笑みを浮かべる。
「そうですね……他言無用に願いますよ?」
 オーナーは唯でさえ周りに聴かれることのなさそうなVIP席で、さらに声を潜めた。
 隣に座るキルにしか聞こえないように。
「まずその五年前のルール改正ですが……なんでそんなルール改正が突然行われたのだと思います?」
「は? いや、それは……詳しくは知らねえな。そういや、当時もなんで改正されたのかわからないって意見が多かったか……確か、推測としては攻撃力を下げることで試合時間を長くする――って狙いがあるんじゃないかと言われてたっけ?」
「そうですね。表向きの理由はそれです。けど、本当は違ったんですよ」
 オーナーは唇の端を歪めて笑う。得意げに、実に愉快そうに。
「本当はね、いたんですよ。どんなプレイヤーも圧倒してしまうスラッシャーが。恐らくその子は天才というものだったのでしょう。扱いの難しいスラッシャーというプレイスタイルを事もなげに扱いこなし、無敗を誇った最強のプレイヤーが」
 そのオーナーの言葉に、キルは瞠目する。
「んな馬鹿な。俺はこの世界にだいぶ詳しいが、そんなけた外れの奴が試合に出てた覚えはないぞ」
「公式試合には出てませんでしたから仕方ありませんよ。元々その子はスライドールの試験を任されていたんです。いわば、公に出る前のモニターってところでしょうか。ところが、その子はあまりにも強すぎて、改正前のルールじゃ誰が相手でも十秒持ちませんでした」
「……それは……凄まじいな。なるほど、それで攻撃力を下げたと……そういえば、銃の方も下げられたが、刀や剣の攻撃力はあれでずいぶん下がったんだったな。そのおかげで遠距離戦法を取る奴ばかりになったっつー話もあったか」
 キルは背もたれに体重を預ける。
「ずば抜けた一人のために競技自体のルールが変わっちまうことは稀にあることだと言うが、スライドールでもそういう話はあるんだな……それで俺の記憶にそういうスラッシャーがいないわけだ。改正後のルールじゃ、スラッシャーは勝てないしな。別のプレイスタイルに転換したんだろ?」
 そうキルは結論付ける。
 だが。
「いいえ、それは違います」
 オーナーはキルの言葉を否定した。キルの目が驚きで見開かれる。
「どういう、意味だ?」
 その彼の問いに、オーナーはまっすぐ前を――スライドールのフィールドを見詰める。
「ルールが改正されてもなお、そのプレイヤーは、スラッシャーというプレイスタイルで無敗を誇ったんです」
 さすがに、キルの目が限界近くに見開かれる。
「なんだと? そんな馬鹿な……」
「信じられないでしょうが、事実です。スライド―ル協会はその事実を踏まえ、あまりにも強すぎるその子に公式試合の参加を禁止する特別処置を施しました。その子の名を――」
 オーナーの視線の先には、サンに抱きつかれるツキの姿がある。

「上門寺葉月といいます」
 
 
 
 
~『スライドール』第三章に続く~
 
 
 
 

Comment

No.1115 / Torainu [#CNtCm3fU] No Title

執筆お疲れ様です

やっぱり口調がいいですね
女の子の身体で男口調をされるのは、精神が男の時ならとてもいい感じがします

あと人形化、いいですね~
ゾクッとしました
とても面白かったです

あ、読んでいて思ったことなのですが、「カザマミコもまるで相手にせず倒したツキの様子を」の前に少し空行を入れたほうがいい気がします

2013-05/15 23:27 (Wed) 編集

No.1116 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

Torainuさん、いつもコメントありがとうございます!

> やっぱり口調が~
TS物の醍醐味というか、楽しむポイントの一つじゃないかと勝手に思っています(笑)
女性であることを選んでしまうとなくなってしまうポイントなので、出来るうちになるべく楽しめたらなぁ、とか思ったりもします。

> あと人形化~
人形化は絶対やらなければならないと思っていた要素でした。
っていうか、この題名と設定でやらなきゃ何でやるんだっていう(笑)
久々にこういう洗脳ものを書いたような気がします。

> あ、読んでいて思ったことなのですが~
空行ですか?
一応四行ほど開けておいたつもりだったのですが……もう少しあからさまに開けた方がいいでしょうか? 場面転換する際の演出はいつも悩みます。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-05/15 23:57 (Wed)

No.1117 / Torainu [#CNtCm3fU] No Title

あれ?
私が見たときは空行が無かったのですが…(笑)

2013-05/16 12:58 (Thu) 編集

No.1118 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

Torainuさん、コメントありがとうございます。

> あれ?
> 私が見たときは空行が無かったのですが…(笑)
うわぁ、なにそのホラー(笑)
何か不具合かエラーでも生じたんでしょうか……。
念のため現在も確認してみましたが、大丈夫のようですね。
ありがとうございます。最近ほんとFC2の調子が悪いので、どうしようかいよいよ考えないといけないかもですね……(汗)

それでは、どうもありがとうございました!

2013-05/16 23:55 (Thu)

No.1119 / [#] 管理人のみ閲覧できます

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2013-05/17 10:52 (Fri)

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