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『スライドール』 第一章

今回の話は久々の新作長編です。
ジャンルはTS・MC・人形化などをメインに様々なジャンルが混在する予定です。
(※多少残酷な描写が混じることもありますが、グロにはならないようにしてます)

それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『スライドール』第一章
 


 広いフィールド上に響き渡るラッパの音が開場を告げる。
 それなりに数があったはずの観客席はあっという間にログインしてきた観客のホログラムで埋め尽くされた。それぞれ様々な特徴を持った立体映像が、隣に座る客同士で会話を交わし、一気に会場は騒がしくなった。
 その観客の多さに、ゲート近くで待機していた少女は溜め息を吐く。
「スゴい観客数っていうか……なんだかんだ言っても裏社会も盛況だね。世界にはこんなにも暇な裏社会人がいるかと思うと涙が出てくるよ」
 その少女は華奢な身体でありながら、無骨な西洋鎧を身にまとっていた。防御力に主体をおいた重戦士というところだろう。それを示すようにその脇には身の丈ほどもある巨大な盾を携えていた。その腰には申し訳程度の短い刀が差してある。それは西洋の鎧姿には不似合いな武器だった。
 そんな彼女の言葉に、傍にいた別の少女が首を傾げる。
「賑やかなのはいいことじゃない? それに、賭け事もやってるみたいだよ。どっちが何分で勝つかって賭けと、誰が最初に脱落するかって賭けが人気みたい。頑張らないとね!」
 重戦士型の少女に対し、その少女は軽装だった。胸や股間を覆う部分以外は軽そうな布地が多く、ともすれば無防備にさえみえる。その傍らには取り回しの良さそうな盾と、大型の銃が置かれていた。
 拳を握って決意を表明するその少女に、もう片方の少女は苦笑気味の視線を向ける。
「そうだね……事前に決めた通りで行くよ。油断はしないように」
「りょーかい!」
 おふざけ混じりの敬礼をする少女を、もう一人の少女は苦笑して見つめる。その目は優しい眼差しを放っていた。
 和やかなムードだった二人のもとに、不意に大きなファンファーレが鳴り響く。それを聴いた二人は即座に表情を改めた。そんな二人に向け、天井に設置されていたスピーカーから声が発された。
『あー、てめえら聞こえてるか? もうすぐ出番だ。ツキの方はともかく、サンの方は鳴り物入りで入るんだ。くれぐれも情けねぇ戦いをするんじゃねぇぞ!』
 粗野な男の声で響いた言葉に、ツキと呼ばれた少女は顔をしかめる。
「言われなくても。あなたはむしろ相手の心配をした方がいい」
『いうじゃねーの! 口だけじゃねえことを祈るぜ。ゲートに進みな』
 それきり放送は途切れてしまった。ツキは鎧を着込んだ体でゆっくりと立ち上がる。
「それじゃあ、行こうか。サン」
 ツキの呼び掛けに対して、サンは硬い表情で頷く。
 その背に薄く羽のようなものが広がった。生物的な物ではなく、機械のような精密さを有する危険な光を放っている。右手に銃、左手に盾を装着した。
「じゃあ、いこう!」
 キンッ、という鋭い金属音が響き、サンの体が中に浮く。ゲートと呼ばれる出入り口に向かいながら、同時にツキの方も動いていた。地面を滑るように移動し、一気にサンに追い付く。
 ゲートから飛び出したサンを、大歓声が出迎える。
『飛び出して参りましたのは、今回のゲーム最大の目玉! 空を往く天使! サンです! と、相棒のツキ!』
 ついでのように――実際ついでだったが――紹介を受けたツキもフィールドに駆け出す。鈍重な鎧をまとっているため、その動きは遅かった。観客の視線は空に飛び上がったサンの方に向いている。司会も心得ており、サンの紹介を続けた。
『対戦では今回が初登場のサンですが、エキシビジョンで何度も登場しているため、すさまじい人気ですね、解説のキルさん』
 キルと呼ばれた解説席に座る男は軽く頷く。
『無理もない。なにせサン選手の持つあの飛行ユニットは表社会ではまだ実装されていない最高峰の技術力の結晶だからな。裏社会の技術力に脱帽といったところだが……まあ、それよりなにより空中に浮かび続けることの出来るあのユニットがあれば、ますますこの闘技場の試合が盛り上がることは請負だ。想像を超えた、さらに自由奔放な戦いが展開されることだろう』
『いやー、ほんとうに楽しみですよ。年甲斐もなく、試合開始が待ち切れません! 果たしてどんな初陣を飾ってくれるのか……そんなサンに対するはつい先日デビューを飾ったマル姉妹ですが――』
『非常に息のあった連携を得意とするコンビだな。まだまだ実戦経験に不安があるが、今後の成長次第では十分レギュラーをねらえる資質を持っている。サン選手の空中飛行にどこまで対応できるかが鍵になるだろう』
『ですね。……さあ、盛り上がって参りました! いよいよ試合開始の時です!』
 観客のざわめきが小さくなり、緊張感が高まっていく。
 そんな中、重装備に身を固めたツキはサンの前に立っていた。
「サン、油断せずにね」
「オッケー」
 さすがのサンもここではおどけずに真剣な表情を浮かべている。そんな二人に向け、マル姉妹から声が飛んだ。
「悪いけど……あたしたちは生き残らなきゃいけないんだ」
「お姉ちゃんと一緒に、自由になるんだ!」
 堅い装備で固めた姉と、明らかに遠距離の銃を携えた妹。役割が見て取れる。
 マル姉妹の言葉に対し、サンは好戦的な笑みを浮かべた。
「私たちだって負けないよ。ね、ツキ」
「……ああ、そうだね」
 浮かない表情でサンに応えたツキは、その腰に差していた刀を抜き放つ。重装備に比してその剣はあまりにも小さく、ツキが防御に主体を置くプレイヤーであると見えた。
 そして、その試合が幕を開ける。
『試合ぃぃぃ……開始ぃぃぃぃっっ!!』
 銅鑼の音が響きわたり、試合の開始を告げた。
 それと同時にツキがサンの前に飛び出し、その巨大な縦を地面に突き刺すようにして構えた。その盾にマル妹が開始と同時に放った銃弾が炸裂し、爆炎をまき散らす。
「防がれた!」
「構わず撃って!」
 姉の叱咤に促され、妹は何度も銃弾をたたき込む。ツキの重厚な盾はその弾丸を全て防いで見せた。数発撃ち込んだ後、妹は一度銃撃をやめる。弾切れではない。しかし銃弾の嵐がやんだことで弾切れだと思ったのか、盾の陰からサンが飛び出す。上空に向けて勢いよく飛翔する。
「引っかかった!」
 弾切れを演出し、敵が盾の陰から飛び出すのを待っていた妹は、すかさずサンに向けて銃弾をお見舞いする。だが、サンの空中移動はまさに自由自在で、飛来した弾丸を難なくかわしてみせる。本当の弾切れが訪れ、妹の銃撃が止んだ。
「っ! なにあれずるい!」
 あまりに自由自在な動きに妹が声を上げるが、姉は冷静だった。
「焦らずリロード!」
 無防備になる妹を護るべく、サンの動向に注意しながら姉は盾を構えた。サンが遠距離砲を打ち込んできても防げるようにである。
 しかし予想に反して、サンは撃ち返さなかった。ただ姉妹の動向を見つめながら空中を浮遊している。
 その動きに違和感を覚えた姉が、地上に残っているはずのツキの方を確認する。サンの銃は囮で、本当は地上に残っているツキの方が遠距離攻撃を有しているのではないかと思ったからだ。
 それは半分合っていて、半分間違えていた。
 ツキの方を確認した姉が見たのは、自分に向かって突き出される刀の切っ先だった。
(なっ――)
 思わず姉の思考が停止する。硬直した姉にそれを避ける余裕はなく、突き出された切っ先は容赦なく姉の喉笛を引き裂いた。
 血に似た赤い液体が噴出し、制御中枢の通る脊髄を両断された姉の身体は自由に動かなくなる。
(嘘だっ、速すぎる! あんな重装備で!)
 重装備は確かに防御に優れるが、その代わりに機動力を著しく犠牲にする。少なくとっもそんな装備で、ほんのわずかな時間で距離を詰められるような機動力はないはずだった。姉自体がその重装備をしているのだからその認識は正しいはずだった。
 そこでようやく、姉は自分を突き刺した相手を眼に捉えることが出来た。そして、答えを知る。
(そんな……っ、うそでしょ……)
 なんと、ツキは備えていた重装備を全て外していたのだ。ほとんど裸身で、要所要所を申し訳程度の面積の布が覆い隠していた。手に持っている刀がやけに浮いてみえるほどだ。
 ツキは防御を全て捨てることで、途方もない機動力を手に入れたのだ。
 彼女は姉の喉笛から刀を抜きつつ、さらに妹の方に狙いを定める。それを感じたのか妹が後ろに向かってスライドを行った。スケートで滑るように、前を向いたまま地面を滑って距離をとる。
 一方のツキは、刀を抜いた時の勢いを殺さず、回転しながら地面を蹴り、スライドを活用して一気に妹に迫った。その動きは妹が後退していることを踏まえても遥かに速く、一気にその距離が詰まっていく。
「ひっ!」
 さがりながら咄嗟に銃口を向け、銃弾を放った妹に対し、ツキはまっすぐ切り込む姿勢のまま左斜め前にスライドする。銃弾を紙一重でかわしたツキは、そのまま軌道を修正し、風のごとく駆け抜けた。後ろにスライドしていた妹をあっさり追い抜き、その背後まで駆け抜ける。そのすれ違う刹那に振るわれた刀が妹の首を飛ばしていた。
 マル姉妹の身体が、ほぼ同時に崩れ落ちる。
 あまりの早業に観客も何が起きたかわかっていないようだった。しん、と静まりかえった会場内に、司会者の唖然とした声が響く。
『し、試合終了ーっ!』
 その声でようやく事態を把握した観客から爆発的な歓声が巻き起こる。
『な、なんということでしょう! 開始わずか三十秒! 決着です! 誰がこのような結果を予想できたでしょうか!』
 興奮気味な司会者に対し、解説のキルは冷静だった。
『あれは……戦法としては限りなく単純だな。普通装備をパージするのは試合が進み、ダメージが蓄積した鎧を脱ぎ捨てる時だけだが……ツキ選手はいきなりそれを行った。結果として機動力をこれ以上なく高めることが出来、相手の反応よりも先に切り込むことが出来た……スライドを限界近く活用したスタイル。スタイル名称としては『スラッシャー』と言われるものだが、表舞台でさえ、もはや見られることのない戦法だ。まさか、この裏社会でそれを見ることが出来るとは……』
『キルさん、解説ありがとうございます。いやぁ、こんな結末を予想できた人がいるのでしょうか。まさか誰もがノーマークだったツキ選手がこのような活躍をするなど……』
『驚きだ。その一言に尽きる。自らの命を賭けるこのゲームでほとんど無防備な装備で挑む度胸……新人とは思えないな』
『本当ですね! これは楽しみな新人が出てきました! それでは今回の試合のハイライトを――』
 盛り上がる会場に対し、空中から降り立ったサンは装備を拾っているツキの元に駆け寄る。
「やったね、ツキ! 完璧作戦通りじゃん!」
「うん、うまく行って良かったよ。サンが上に飛び上がって視線を引きつけてくれたからだけど」
 刀を鞘に納めたツキに、サンが飛びつく。
 ツキは苦笑しながらそれを受け止めた。
「さっすがツキ! もー、大好き!」
「重いよ、サン」
「重いってひどくないー? 装備がなかったらツキより軽いよ」
「うん。だから装備が重いって言ってるの。とりあえず、戻ろう?」
「うん! わかった!」
 歓声に応えながらサンとツキが撤収する。その途中、ツキは倒したマル姉妹の傍で足を止める。それに気づいたサンが不思議そうにツキを振り返った。
「どうしたの? ツキ」
「ごめん、サン。先に戻っててくれるかな」
「うん? わかった」
 なにも文句を言わず、サンはツキに言われるままゲートへと向かう。ツキは足下に手折れているマル姉を見ていた。
「あ、んた……」
 まだマル姉は動いていた。喉笛を貫かれ、背骨も両断されたが、即死には至らなかったのだ。そのせいで地獄の苦しみを味わうことになっていたのだが、それ以上にマル姉は憎悪に瞳を燃やしていた。
「よく、も……あの、子を……っ」
「……これは、試合だからな。お互い様だろ」
 ツキは一端は納めた刀を再度抜き放つ。その切っ先をマル姉に向けた。
「恨んでくれて構わない。ただ、その感情は僕に向けろ」
 ためらうことなく突き出されたその刃はマル姉にとどめを刺した。
 素早く刀を振るい、血を落として鞘に納めたツキは、冷たい声で言い切る。
「彼女を――サンを恨むのは、僕が許さない」
 サンが待つゲートに向かって歩き出しながらツキはそう呟いた。


 試合が終わったツキとサンは、とある一室に呼び出されていた。
 すでに二人とも装備は外しており、軽装の普段着を身にまとっている。
「オーナー。ただいま参りました」
 ツキが部屋に入りながらそう挨拶すると、その部屋の奥に設置されていたソファに腰掛けていた男がたばこの煙を吐き出しながら頷いた。
「よくぞ無傷で帰ってきましたね。サンとツキ。初試合ご苦労様です」
「ありがとうございますオーナー!」
「……光栄です」
 朗らかに応じるサンに対し、ツキはあくまで淡々と応じる。オーナーと呼ばれた男はその顔に微笑みを浮かべる。
「ツキ、無傷で勝って帰ってきたのは褒めましょう。しかし、勝ち方は今一つですね。あのように圧倒的な勝ち方では、いささか以上に興がない。初戦ですからインパクトが大事ですが、本来この戦いは課程を楽しむもの。常にあのような勝ち方では面白味がない」
 そのオーナーの言い分を予測していたのか、ツキは神妙に頷く。
「ええ。あくまで今回の勝ち方は今回だけのものです。そもそも次からは相手も対策を取ってくるでしょうし、こうはいかないでしょう。いずれにせよ、次回からは違う方法で勝つつもりです」
「大きく出ましたね。期待していいのでしょうか?」
 探るような目つきでツキに問いかけたオーナーに対して、サンが横から手を挙げて割り込んでくる。
「もちろんです! 安心してくださいオーナー! 次は私もがんばりますよ!」
 元気いっぱいのサンの様子に、オーナーは苦笑いを浮かべる。
 そこにツキが声を重ねて投げかけた。
「サンの言うとおりです。ご安心ください」
 生真面目な態度で断言するツキに対し、オーナーは頷いた。
「信用しましょう。ともあれ、今日はお疲れさまでした。ルームに戻っておやすみなさい」
「はーい」
 暢気に応じるサンの隣で、オーナーの視線に冷たいものを感じたツキは、神妙な顔で頷く。
 オーナーの部屋を退出した二人は、並んでルームへと向かった。
「ねー、ツキ。ルームに戻ったら休む前にゲームしない?」
 無邪気にいうサン対し、ツキは首を横に振る。
「今日はしない。サンも初めての対戦で疲れてるだろ? すぐに休んだ方がいいよ」
 そのツキの言葉に対し、サンは不満げだった。
「対して動いてないしさー。いいじゃん、ちょっとくらいあそぼーよ」
「だめだよ。ただでさえサンの飛行ユニットは精神力を消費するんだから……ほとんど動いてなかったとしても、休まないと」
 そうツキに諭され、サンは渋々受け入れる。
「つまんないの……でもさ、ツキ。疲れてるっていったらツキの方じゃないの? ツキだって初めての対戦でしょ? あたしと違って本格的に動いてたし」
「大丈夫。一瞬だったし、基本的な動きしかしてないからね。疲労はぜんぜんないよ」
「えー。なんかずるいなー」
 不満げに言うサンを宥めながらツキはしばらく歩き、ある一室にたどり着いた。
「ほら、ルームについたよ。サン」
 重厚かつ機械的な扉の横に設置されている認証装置らしきものにツキが手のひらをかざすと、重々しい音を立てて扉が自動的に開いていく。
 開いた扉の先で二人を迎えたのは、多数並んだ細長い円筒と、その円筒のすぐ傍にそれぞれ設置された棺のような椅子だった。円筒は不透明なガラスで出来ており、中の様子は伺うことが出来ない。各円筒にはネームプレートのようなものが取り付けられており、そのプレートには人の名前が刻まれていた。
 ツキとサンはそのいくつも並んだ円筒と装置の内、『天上崎 陽子』とネームプレートがかかっている円筒の前に立つ。
「ほら、サン」
 促すツキに対し、サンは相変わらず不満そうな顔をしながらも、おとなしく従ってその円筒の傍にある棺のような椅子に腰を降ろした。
「ツキも休んでね?」
「うん、大丈夫だよ。すぐ休むから。おやすみ、サン」
「おやすみー」
 椅子に身体を預け、瞼を閉じるサン。それと同時に椅子が動きだし、サンの身体を椅子に固定する。身体の各部にコードが接続され、サンの身体からは連続して機械音が響いてすぐに静かになる。サンが完全に休眠モードに入ったことを確認すると、ツキは傍にあったタッチパネルを操作し、しばらく待つ。円筒から奇妙な機械音がして、不透明だった円筒が透明に変わっていく。
 その中には、透明の不可思議な液体に浮かぶようにして、一人の少女が眠っていた。生身の裸身に様々な管が接続され、その頭部には頭全体を覆う無骨なヘルメットが装着されている。かすかに脈動する心臓の鼓動が彼女が生きている人間だと周囲に知らしめていた。
 ヘルメットによって見えにくくなっているが、その少女の姿形は、いまツキの目の前で眠りについたサンにうり二つだった。
 ツキは円筒の縁に指先を触れさせ、その中に浮かぶ少女を愛おしげに見つめる。
「――必ず、僕が生かしてみせるから、もう少しだけ待ってて」
 その瞳には強い意志の光が浮かんでいた。


 再びオーナーの前に現れたツキは、明らかな敵意を隠そうともしていなかった。
 そんなツキの視線を受け、オーナーは楽しげな笑みを浮かべる。
「さて……それでは改めて。初戦突破おめでとうと言っておきましょうか」
 オーナーの端正な顔に浮かんでいるのはツキを労うものではなく、ただこの状況を楽しんでいる愉快そうな微笑みだった。実験動物が檻の中で足掻くのを楽しげに眺めている歪んだ研究者の視線に近いかもしれない。
 そんなオーナーの視線にいい感情を抱くわけが無く、ツキは不愉快げに吐き捨てる。
「黙れ。初戦にマル姉妹を宛がうなんて、意図が見えすぎてて吐き気がする」
 乱暴な言葉を紡いだツキに対し、オーナーは動じない。
「ほう? あくまで厳正な抽選の結果なんですけどねえ? 何の意図があったというんですか?」
「とぼけるなよ。あの二人は確かに可能性の感じる二人だったけど、たとえ僕がああしなくても、空を飛ぶサンを捉えることはあいつらには出来ない。遠距離攻撃を持ってるのは妹の方だけだったし、盾から飛び出すのを予測していても銃撃をサンに当てられなかったじゃないか。サンという存在が初戦で倒れては困ると想って、勝利が約束された相手にぶつけたんだろ?」
 そのツキの言葉に、オーナーは薄笑いを浮かべる。
「そうだと言ったら? 君にとっては都合がいいだろうに、なにが不満だというのです?」
「気に食わないんだよ。確かに僕の目的は勝つことで、その点だけで言えばあの相手は都合がよかった。けどな。それはこっちの都合だ。勝つことの出来ない試合を強制された対戦相手が不憫だろう」
「どちらにしても勝つんでしょう? なら変わらないではないですか」
「それはそうだ。けど、アンフェアな戦いを望んでいるわけじゃない」
「欺瞞ですね」
「なんとでもいえ。サンを生かすために立ちふさがる相手は倒す。けど、アンフェアな条件で生きたいと望む相手を倒すのは嫌だ」
「やれやれ……これでも私はあなたたちを気に入っているんですけどねぇ。だからこそのお膳立てのつもりだったのですが、迷惑でしたか?」
「迷惑とまでは言わない。ただ、されても嬉しくない気遣いだってだけだ」
「面倒なくらいに、真面目ですねえ」
 オーナーは椅子から立ち上がり、ツキを伴って部屋を出た。
「そんなあなたに今日は特別に、負けた者たちの末路を見せてあげましょう」
「……」
 顔をしかめるツキを楽しむように、オーナーは笑みを浮かべ、ツキを伴って深い階層へと向かう。
 そこはオーナーの部屋やルームがあった階層とは違い、どこか薄暗く停滞した空気が存在していた。重苦しい空気の中にはかすかに悲鳴や苦痛の喘ぎ声が含まれている。それを敏感に感じ取ったのか、ツキは眉をひそめる。
「……この階層は相変わらずだな。趣味が悪い」
「おやおや。敗北して使い道がなくなった子たちをどういう形であれ、生かしておいてあげてるのですから、人がいいと思うんですけどねえ」
 明らかに嫌味で口にしているとわかる笑みでオーナーは言う。ツキは何も言わなかったが、その拳は固く握りしめられていた。
 オーナーがある扉の前で立ち止まり、その扉を開く。途端にかすかに聞こえていた悲鳴や喘ぎ声が大きく聞こえるようになった。鼻をつくような臭いが漂う。ツキは思わず手で鼻を押さえていた。
「さ、行きますよ」
 その背中を押すようにしてオーナーがツキを室内へと誘う。中では地獄のような光景が広がっていた。
 拷問部屋のように無骨かつ暗い部屋の中では、幾組もの裸の男女が絡み合い、その欲望を満たしていた。ある男は三人の少女に同時に相手をさせており、また別のある男は別の男と一緒に一人の少女を前後から責め立てている。口で奉仕させている男がいると思えば、後ろの穴に巨根を突っ込んでいる者もいる。縄で縛り上げられている者もいれば、コスプレ紛いの格好をさせられている者もいる。少なくともツキが想像しうる行為は全て行われているように思えた。
「ここはまだ優しい方ですね。もっとどうしようもないところも見に行きますか? 人生観変わりますよ?」
「……結構だ」
 オーナーにつれられて部屋に入ってきたツキを、男たちの欲望に滲んだ眼が捉える。
「おう! ミカゲさんとこの! そいつも味見していいのかい?」
「試合みたぜ! 勝ったのにここに来たのか? まさか志願か? なら俺に最初は譲ってくれよ」
 げひた視線と乱暴な言葉。それを受けて、ツキは困ったような笑顔を浮かべるだけだった。オーナーが代わりにそんな男性達の相手をする。
「いえいえ、ちょっと社会勉強に連れてきただけなのですよ。敗北の先を教えておいてあげようと思いましてね」
 そのオーナーの遠回しな拒否に不満そうな男性達だったが、無理をいうことはなく、それぞれの相手に集中していった。そんな人々の間を抜け、オーナーとツキは部屋のもっとも奥に歩んでいく。
 そこでは、先ほど試合に出ていたマル姉妹のうち、姉の姿があった。ツキがかすかに眉をひそめる。
 マル姉は試合の中で見せた勇壮な様子などかけらもなく、だらしなくゆるんだ顔で男のペニスを身体に受け入れていた。
「あっ、あっ、うぁっ」
 突き上げられる度に、力なく開いた口から声がこぼれる。それを楽しんでいるかのように、突き上げている男性は何度も繰り返していた。変わり果ててしまったマル姉の様子をツキは沈痛な眼で見つめていた。
(やっぱり……だめだったか)
 わかっていたこととはいえ、ツキは胸の奥が痛むのを感じていた。
「……妹の方は?」
「ああ、あちらはあなたうまく『殺して』くれましたからね。精神崩壊までは行っていなかったので、『教育』してから再利用するつもりですよ。とはいえ、『スライドール』に再参加させるわけにはいきませんし、適当な掃除婦としてでも働いてもらいます」
「……そう」
 せめて妹の方だけでも生かすことが出来たのならよかったとツキは考える。それが決してよいことではないと気づいていたが、それには気付かない振りをした。
 何を考えたところで、変わらないことにも気付いていたから。
「オーナー……部屋に行きましょう」
 ツキはオーナーに向かってそう呼びかけ、マル姉に背を向けた。そんな彼女に向けてオーナーは嫌みな笑みを浮かべて見せる。
「おや、部屋に行きたいんですか? ここを見てやりたくなっちゃいましたか?」
「……言わせないでください」
 冷たい声でそうツキは紡ぐ。オーナーはやれやれとため息を吐きつつ、周囲の男に挨拶をしながら部屋から出た。
「もう少し愛想をよくしてくれれば、いうことはないんですけどね」
「黙れ。変態」
 ツキはそう行ってエレベーターへと向かう。それに乗り込んで向かったのはオーナーが自室として使っている部屋だった。
 そこに入ったオーナーは着込んでいたスーツのネクタイを緩めながら、口にくわえた煙草に火をつける。
「さて……ツキ。強制されるのと自分からするのとどっちがいいですか?」
「……っ」
 ツキは何も応えなかった。それはせめてもの抵抗だったのだろう。
 オーナーもツキがそう応じるのはわかっていたらしく、胸ポケットからリモコンのようなものを取り出す。
「なかなか自分から望んではしてくれないようですね。プライドなんて、何の役にも立ちませんよ」
「……そんなのは、わかってるけど、それでも僕は……嫌だ。嫌なものは、嫌なんだ」
「見上げた根性です。さすがは――」
 にやり、とオーナーは笑う。

「元男というべきでしょうか?」

 そのオーナーの発言に対し、ツキは盛大に眉をしかめる。
「いまだって男だ。……このボディは違うけれど」
「そうでしたね。ですが、身体に戻せる可能性はゼロに近いですよ。ただでさえ、あなたはもう女の喜びというものを知ってしまっている。それにおぼれてしまった方が、幸せだと思いますけどね。足掻くこと自体、理解に苦しみます。戦いはサンのためとはいえ、こちらはもう屈服してしまった方が楽なのではないですか?」
「……僕としては、あんたの方が理解不能だよ。いくら外見が女だからって、男を犯して何が楽しいんだ」
 ツキのもっともな意見に、オーナーは笑う。
「逆ですよ、逆。男を女みたいに犯すのが楽しいんじゃないですか。男らしい男が女らしい喘ぎ声をあげてよがり狂うのをみるのほど、愉快な娯楽はないでしょう。肉体的には女性なのですから、性処理用の道具としても十分ですしね?」
 最低な考えをためらいなく口にするオーナーを、ツキは殺意の籠もった目でにらみつける。
 そんなツキの視線を楽しみながら、オーナーはリモコンを操作した。
「……っ」
 途端に、ツキの視線が揺れる。何かを堪えるように手を握りしめたが、耐えきれないように熱の籠もった息が口から漏れた。そんなツキの様子をオーナーは楽しげに見守っている。
「無理しない方がいいですよ。いまので性欲を二十倍ほどに高めましたから。媚薬なんかよりよっぽど身体が疼いて仕方ないでしょう? あんまり無理すると、それはそれで精神崩壊しちゃいますよ」
「くぅ……っ」
「なんなら自分で自分を慰めてくれてもいいですけどね。ただしその様子はじっくり見させてもらいますし、ビデオに撮って観客にも配ることにしましょう。さっきの見事な試合を行っていたツキのオナニービデオ……さぞかし高値で売れることでしょうね?」
「……っ!」
 それが嫌なら、とオーナーはツキに自分の股間を指し示す。
「私を満足させてくださいな。それとも……興業の売り上げに貢献してくれますか?」
 ツキはしばし逡巡した後、ためらいがちではあったが、ふらつく足取りでオーナーの元に歩み寄る。その前で膝を突いたツキは、情欲に潤んだ瞳でオーナーを見上げる。
「……っ、失礼、します……」
「ああ、いいですよその表情。ゾクゾクしますね。屈辱と快感の狭間で揺れるそのまなざし……実にいい」
 ツキは震える手でオーナーのズボンを脱がし、その中からイチモツを取り出すと、ゆっくりとその口に含んだ。
「んんっ……いい感触です。作り物とは思えない……いえ、作り物だからこそ、ですかね。この感触は」
「んんっ、ふあっ、あっ」
 荒い呼吸を繰り返しながら、ツキはオーナーに奉仕を続ける。その熱い吐息も相成って、オーナーに与えられる刺激は常より強く、気持ちのいいものになっていた。
「少しは……テクニックも身についてきました、か……っ、いい、ですよっ」
 喉の奥まで使って、ツキの奉仕は続けられる。ペニス全体に刺激を与えられたオーナーは早い段階で一度目の射精に至った。喉の奥にぶちまけられたツキだが、せき込むことはなく、冷静にその液体も併せて口内に分泌された液体を喉の奥へと流し込む。
 オーナーは上着も脱ぎ捨てながら、部屋の隅に用意されたベッドにツキを誘う。
「さあ、次はあなたを満足させてあげましょう。服を脱いでこちらにいらっしゃい」
「……はぁっ、はぁっ」
 身体の奥底からわき上がる快感に、ツキは荒い呼吸を繰り返す。疼きは少しも収まってくれなかった。
 ふらつく足取りでツキはオーナーに誘われるまま、服を脱ぎ捨てながらベッドへと向かう。均整のとれたその身体は作り物めいてはいたが、それ以上に魅力的な輝きを有していた。
「だいぶ思考力が低下しているようですね。性欲二十倍は強すぎましたか?」
 その問いに答えはなく、ベッドの上に寝ころんでいるオーナーの上に覆い被さってきた。ツキの秘部からは大量の愛液に似せた潤滑油がこぼれており、足を伝って垂れているほどだ。
「入れていいですよ。あなたの好きに動いてください」
 さきほど出したばかりだというのにそそり立つペニスは元気だった。ツキはうつろな目をしたまま、素直にそのペニスの先端に自分の秘部を合わせる。
「ふ、ぅっ、あああっっ」
 ずぶりとツキの中にペニスが入り込む。その異常な感覚を気持ち悪く思っているはずのツキだったが、それ以上にその場所から迸る圧倒的な快感に悶えてしまう。
「んっ、すごい締め付けです。いいですよっ」
「ふぁっ、あっ、うぁっ、うごか……ないでっ」
 軽くオーナーが腰を突き上げて刺激を与えると、ツキはその動きによって生じた快感にさらに翻弄されてしまう。
「ははっ、もう行為の最中はすっかり女の子みたいな声を上げるようになりましたねっ」
 嘲るようなオーナーの言葉にも、ツキは反応している余裕がなかった。ただ、ひたすらに襲いかかってくる快感に振り回されるだけだ。
 オーナーがかき回すように動けば、それに応じてツキも生じた快感に振り回される。
 やがてオーナーが再びの射精に達して、ツキの体内に熱い精液が吹き出される。
「うぁ、あああああっっ!」
 ひときわ大きな絶頂に達したのか、ツキがうめき声にも似た喘ぎ声を上げて身体を振るわせる。その姿をしたから眺めていたオーナーは満足そうにしながらも、身体を起こし、今度はツキを自分の下に組み敷いた。
「さあ、今夜はまだまだ続けますよ。その体力は残っているでしょう?」
「はぁっ、はぁっ……!」
 抵抗も出来ないまま、さらにツキはオーナーの手によって犯される。
 快感に翻弄されながらも、ツキの胸には誓いが浮かんでいた。
(必ず……僕は、サンを……生かすんだ……! こんな、ことで……負けて、たまるか……っ!)
 快感に散り散りになりそうなツキの意識を繋ぎ止めるのは、ただただその誓いだった。

 戦い続けるその先に、何が待っているのか、ツキはまだ何も知らない。
 
 
 
 
~『スライドール』第二章に続く~
 
 
 
 

Comment

No.1096 / 名無しさん [#-]

千変万化ボトムズ編、って感じですね。見てないので違うかもしれませんが

彼女達はいつまで勝ち続けられるのか、勝ち続けたとしていつまで精神を保ち続けられるのか
今後の展開が楽しみです

2013-05/02 00:24 (Thu)

No.1098 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

早速のコメントありがとうございます!

> 千変万化ボトムズ編、って~
あー、確かに移動の仕方と言うか、イメージはそんな感じです(笑)
あのスピード感溢れる、滑るような移動を想像してもらえればそのまんまです。原理などはまた違うのかもしれませんが……。というのも、私もボトムズ系の奴はちゃんと見たことないんですよ。一度ゲームをやろうとして挫折した経験がありまして……。難しいんですほんと。

> 彼女達はいつまで勝ち続けられるのか~
足掻くのをどこまで続けられるのか……そこがポイントになってくると思います。
楽しんでいただけるよう、今の自分に出来るだけの作品を書いていきますので、どうぞ応援よろしくお願いします!

それでは、どうもありがとうございました!

2013-05/02 00:36 (Thu)

No.1099 / Torainu [#CNtCm3fU] No Title

人形化に惹かれて読んだら、今までのちょっと急な展開とは異なるストーリー
やっぱり長編ものは展開がゆっくりな分、面白いですね

TSは元男というところに出してきましたか
まだ身体のこともわからないから、次作が楽しみです
読んでいて飽きることなく、楽しませてもらいました

では、お疲れ様でした

2013-05/02 09:22 (Thu) 編集

No.1101 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

Torainuさん、いつもコメントありがとうございます!

> 人形化に惹かれて読んだら~
普段の短編は約一万時という制約(というか自分ルールというか)で書いているので、長編のようにじっくり書けない場合もあるので、長編の時はこれ見よがしにじっくり展開していくつもりです。
段々と変わっていく各キャラの様子が書いて行ければいいと思っています。

> TSは元男というところに~
長編の主人公は大体TS要素が入ってしまいます。別にそれを決めているわけではないのですが……なんとなくというべきでしょうか。
ボディの説明はあえて第一章には入れずに置きました。次の話で少し触れるつもりです。
飽きることなく読んで頂けるよう、次の話をすぐ書けるように頑張ります。

> では、お疲れ様でした
それでは、どうもありがとうございました!

2013-05/02 23:07 (Thu)

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