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『あなたの望み、叶えます』~天使空間~ 第十章 後編

『あなたの望み、叶えます』~天使空間~ 第十章 後編 です。
MC・常識変換・ペット化・獣姦が含まれます。

それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『あなたの望み、叶えます』 ~天使空間~ 第十章 後編
 


 私は、お母さんが大嫌いだった。

 娘に対してさえいつもおどおどしているし、緊張すると簡単なこともすぐ失敗するし、押し売りにすぐ負けるし、詐欺に簡単に引っ掛かるし、いつもぽわぽわとした様子でぼけらっとしているし、子供の目から見てさえ愚直で本音と建前さえ使い分けられてなくて。
 私をイライラさせるようなことしかしない。
 料理や掃除と言った家事に対しては拘りすぎるし、優しすぎて無茶なことでも頼まれたら受け入れちゃうし、陳腐なドラマを見てすぐ泣くし、私が載っている雑誌やテレビの番組を無駄なまでに厳重に保存しようとするし、毎日早朝から凝った料理を拵えては食べ切れないほど弁当に詰める。
 私を『みちるちゃん』と呼ぶ声には、いつだって愛しさが込められていて。

 そんなお母さんが、私は――
 
 
 
 
 なぜ。
 どうして、お母さんがここに。こんなところにいるわけがないのに。
 私の頭の中でその疑問がぐるぐると渦巻く。否定する思考に反して、目の前にいるその人は確かに私のお母さんで。何の疑問も持たない平然とした表情のまま、私がシートの上に出してしまったものを片付けている。
 唖然としている私に、男が楽しげに語りかけてきた。
「驚いたか? 一昨日から雇ってるうちの家政婦だよ。絶品の料理を作ってくれるから重宝してる」
 お母さんの料理が絶品なことなんて、男に言われるまでもなく誰よりもよく知っている。生まれてからずっと家事に関するスキルを近くで見て来たのだから。
 男を睨みつけると、男は余裕の笑みで持って応じて来た。
「何か言いたいことがあるのか? 聞いてやらないこともないが、人間の言葉じゃないとなぁ」
 人間の言葉しか喋れないようにしておきながら好き勝手言う男に改めて怒りが湧く。
 そこに、お母さんが戻って来た。
「はい、綺麗になったわよ。みちるちゃん」
 シートを廊下の隅に敷きながら、お母さんはいつものように私を見詰めて名前を呼ぶ。
 私はその陽だまりのような笑顔に、目が潤むのを感じた。
 そうだ。なぜ私は疑問に思わなかったんだろう。一昨日の夜、家に帰った時にいつも迎えてくれるこの人がいないことになぜ気付かなかったんだろう。どうして昨日からお母さんの料理が食べられないことに疑問を抱かなかったんだろう。どこにいったのかも考えなかった。どうしていないのかも考えなかった。
 昨日今日と感じていたあの苛立ちが何に起因するのか、私はようやく理解する。
「あら? どうしたの? みちるちゃん、何か哀しいことがあったの?」
 涙ぐんだ私のことをどう思ったのか、私以上に哀しそうな顔になってお母さんが私の頭を撫でてくる。私がペットにされているからだろうか。いつものお母さんであれば考えられない積極性だ。いつもなら、私の機嫌を窺うようにおろおろするだけなのに。
 優しくて愛おしげな、お母さんの手つきに涙腺が崩壊した。そんな私の様子を男がなぜか驚いた眼で見ているのが視界の端に映った。
「……お前、母親のことが大嫌いだったんじゃないのか?」
 どくん、と心臓が鳴る。
 咄嗟に私はお母さんの手を振り払っていた。驚いて、けれど納得している様子のお母さんの顔が胸に痛い。
「……三奈崎さん」
「すいません、御主人様。この通り、わたしはこの子に嫌われていますので……やっぱり、この子の世話は綾歌ちゃんか芹菜さんに――」
 哀しげな顔でいうお母さんを、男は遮った。
「いや、ちょっと待って。いまのを見てると、そうは……」
「仕方ないんです。わたしはどんくさいですし、普通の人が普通に出来ることも普通に出来ないくらいですし、料理や掃除しか取り柄がないですし……情けなくて、駄目な母親だってわかってますから」
 それは全部、私が虫の居所が悪い時にお母さんに向けて放った言葉だった。
 腕を組んだ男は不機嫌そうに顔を歪める。
「それは……聞いたけど」
 ちらり、と男が私に視線を向けてくる。私は咄嗟に目を逸らした。
 それは本心だった。自分の母親とはいえ、情けないと感じることは多い。間抜けなことを仕出かして、周囲に笑われている母親を見るのが何よりも私は嫌いだった。
 大嫌いだ。
 不意に、近づいて来た男が私の頭に触れ、『犬耳』を外す。男はもう片方の手でリードを握っていた。
「なあ、みちるちゃん。俺の質問に正直に答えて」
 嫌な予感が胸中に満ちる。
「やっ、やめ――」
 咄嗟に止めようとあげかけた声は遅すぎた。
「君、もしかしてお母さんのことが大好きなんじゃないの?」
 リードを握られていると、命令には絶対に服従しなければならない。
 だから、私の意思なんか関係なく、私の身体は勝手に男の質問に応えていた。

「大好きに決まってるじゃない!」

 目を丸くする男とお母さん。そして、麻貴とカメラを回している人達。私のことを母親嫌いだと認識していた全員が全員、驚いていた。
 そう思うように振る舞っていたのだから、それは当然だった。
「大好きだから、お母さんにおどおどして欲しくないし、お母さんが緊張するような場所に出て失敗して欲しくないし、お母さんを困らせる押し売りなんて死ねばいいと思うし、ましてや騙そうとする詐欺なんて滅べばいいし、お母さんはいつもぽわぽわしてぼけらっとしてくれたらいいし、本音と建前なんて使い分けられなくてもいいし!」
 男は何も言っていないのに、私の口は勝手にお母さんへの想いをぼろぼろ口にする。
「料理や掃除への拘りには尊敬するし、頼まれたら無茶なことも引き受けちゃうくらいに優しいところが大好きだし、陳腐なドラマを見て泣くところも凄く純粋で羨ましいし、私が載ってる記事をスクラップしてくれたり番組を録画して大事に保存してくれてるのには感謝しかないし、美味しいお弁当を、朝ご飯と、夕ご飯を、毎日凄く時間をかけて作ってくれるのは嬉しくて溜まらないし!」
 私の名前を優しく呼んでくれるお母さん。
 だから。

「大好きに決まってるじゃない!」

 家中に響き渡るような大声で、ずっと隠して秘めていた思いを全部ぶちまけてしまった。
 長い長い沈黙の後、スタッフの中から小さく拍手がし始め、それはあっという間に大きな拍手へと変わって行った。
 何故か拍手喝采を浴びることになった私は。
 お母さんの驚きの視線に晒された私は。
 これまでのどんな所業よりも羞恥に心乱され、いまなら簡単に悶死出来そうな気がした。
 



 これは――困ったことになった。

 謎の拍手が巻き起こる中、俺はそんな風に思っていた。まさかみちるちゃんが、いわゆる『ツンデレ』娘そのものだとは思っていなかった。そもそも、必要以上に彼女のプライドや人間性を蹂躙するような真似をしたのも、実のところ三奈崎さんに対する言動の数々に対する仕置きのようなもののつもりだったのだ。三奈崎さんから彼女の話を聞いた時、みちるちゃんの三奈崎さんに対する暴言や行動の数々があまりにも酷かったので、これは盛大にお仕置きしてやらねばならないと考えたのだ。
 しかし、その言動の全てが好意……というか甘えの裏返しだったとは。全く想定していなかった訳ではないが、あまりにもテンプレ過ぎて、まさか現実にそんなツンデレがいるとは思っていなかった。
 これまで散々羞恥を煽るような真似をしてきたが、余程母親に対する気持ちを暴露させられたのが恥ずかしいのか、彼女は完全に突っ伏していた。髪の毛の間から見える耳は茹でたタコ並みに赤くなっている。そこまでのことかと思うが、彼女にとってはたぶん裸や排泄を見られることよりも恥ずかしいことなのだろう。
 ある意味、凄まじいマザーコンプレックスだ。
「あー……っと」
 さて、これは本当に困った。対応に困った俺は頭を掻く。
 元々俺は別に鬼畜が趣味というわけじゃないのだ。今さら何を、と思われるだろうが、相手が明確に悪い場合でもなければ、俺はあえて非道なことをしようとは思わない。今回の件だって、不良娘の性根を叩き直し、その上でペットとして飼ってやろうという思惑しかなかった。三奈崎さんとの関係性の破棄だって、元母親と元娘が使用人とペットの関係になれば面白いかな、という程度の考えだった。
 それが実は母親が大好きなのが拗れただけだったという、傍から見るとなんとも滑稽な真相だったのだから。
 知らなかったのならともかく、知ってしまった以上、当初の計画通り進めるのは躊躇われる。お互いが大好き同士の親子を引き剥がして無関係の赤の他人にしてしまうなんて。それだからいいという人もいるだろうが……俺はそこまで非道に振りきれない。この辺り、甘さが残る俺の欠点かもしれない。
(マジでどうしよう……)
 いまさら間違えてましたごめんね!というのは情けない。そもそも、ペットスタイルのみちるちゃんはかなり気に入っているのだ。手放すなんてとんでもない。最高の逸材である三奈崎さんも解放するわけにいかないし、『何事もなかったことにして全てを戻す』選択肢は取れなかった。
 しかし、それならどうするか。
 それを俺は決めかねていた。
(やっぱり当初の予定通りに、人間の時の関係性は全て破棄してしまうか……?)
 ペットとして飼うことはほぼ確定している。あとはどういう扱いにするかだ。
 そこで不意に、僅かに羞恥が収まったらしいみちるちゃんが顔を上げた。潤んだ瞳で、それでも気丈に敵意を維持して俺を睨んでくる。それは最初の時の憎悪に燃えた瞳とは少し違い、いかにもテンプレツンデレのキツイ眼差しという感じだった。余程心中の秘密を暴露されたことが恥ずかしかったらしく、その所為で気持ちを憎悪に振りきれなかったようだ。
 その表情を見たとき、俺は三奈崎さんとの関係性を破棄することで、この性質を変化させてしまうのは勿体無いと感じた。
(まずいな……どうやってこれを維持させたもんか)
 詩歌や綾奈、そして三奈崎さん。彼女たちは俺の奴隷という立場になっても、いずれも元の性質をほとんどそのまま維持している。それは彼女達が元々そういう人物だったからだ。立場が変わっても、状況が変わっても、淫乱に成長することはあっても、根本的には変わらない彼女たちは、ある意味確固たる自己を持つ存在だった。
 だが、恐らくみちるちゃんは違う。このテンプレツンデレの性質や行動は『三奈崎さん』という母親がいてこそのものだ。そうでなければ、きっと彼女はこんな風に恥ずかしがったりしないだろう。単に気の強いだけの存在になってしまっていたであろうことは想像に固くない。
 その性質だけでも十分かもしれないが、気の強さで言えば綾奈もそれなりだ。丸かぶりとは言わないがいささか新鮮味に欠けるのは否めない。
(……この状態を維持したまま、こいつを俺のペットにするには)
 そして、俺はそのアイデアを思い付く。
 思わず溢れた俺の笑みに、みちるちゃんが怯えた。




 ぞっとする笑顔を浮かべて、男が私を見詰めていた。
 書く仕事を暴露させられた怒りを込めてその目を睨み返す。
「怖いなぁ、そんな顔するなよ。お母さんが大好きなみちるちゃん」
 わざとらしい男の物言いに、かっ、と顔に血が昇るのを感じる。恥ずかしい想いがあっという間に心を埋め尽くし、私は思わず顔を伏せてしまった。
「み、みちるちゃん……? 大丈夫……?」
 おどおどした声に、喜びを滲ませてお母さんが私のことを気づかってくれている。お母さんからしてみれば思いがけない私の本心を聞けて喜んでいるのだろう。それくらい顔を見なくてもわかる。
 私は恐る恐る目を開けて、顔をあげる。
 視線をあげた先ではお母さんが私に向けてその手を伸ばそうとしているところだった。撫でられるなんて気恥ずかしい、と思ったけど、お母さんに撫でてもらえるのは純粋に嬉しくてそれを期待して待ってしまう。
 そのお母さんの動きが突然止まった。瞳から光が消えていまだかつて見たことのない表情になる。
「……? おかあ、さん……?」
 なぜか胸中に湧いた不安を声にすると、お母さんの瞳に光が戻った。
 そして、目の焦点が私に合う。
「あら……? ……えっ」
 驚きを表情に滲ませて、私の頭に伸ばしかけていた手を引っ込めてしまうお母さん。
 そして、微かに首を傾げながら、口を開いた。
「あ、あれ……このおうちで犬なんて飼ってたかしら?」
 戦慄が走った。
 いま、お母さん、なんて言った?
「お、お母さん!? 何、言って――」
 私が呼びかけると、お母さんはますますびっくりした表情になる。
「喋れるの? 最近の犬は賢いのね……ふふ、でも、わたしはあなたのママじゃないわよ」
 動物を相手にしているからなのか、他人に対するよりは柔らかな物腰でお母さんは私に呼びかける。
 けれど、それは他人に対するのに比べればというだけで、その物腰は他人行儀なものだった。
「お、お母さんは私のお母さんよ! 何言ってるの!」
 私がそういうと、お母さんはますます困った顔になる。そんな顔をさせたいんじゃないのに。
「おかあ、さ――うぁ、っ、わぉんっ!?」
 さらに言い募ろうとした私の頭に、いつのまにか手を伸ばせば届くほどの距離に来ていた男が『犬耳』を取りつける。途端に私は犬の言葉でしか喋れなくなった。
「ごめんね、三奈崎さん。この子、親元から引き離されたばかりでさ。たぶん母犬の面影を三奈崎さんに見てるんじゃないかな」
 その明らかに即席の言い訳に、お母さんは納得して笑みを浮かべる。
「そうだったんですか。……よしよし、いい子ね」
 改めてお母さんが私の頭を撫でてくれる。
 けれど、それを噛み締める余裕なんてなかった。
(お、お母さん……っ)
「ふふふ……あらあら、どうしたの?」
 優しい視線も、優しい声も、あくまでも動物に対するそれでしかなくて。
 私は胸が潰れそうな苦しみを覚える。
「三奈崎さん。その子は、みちるって言うんだよ」
 男がそんな風に、まるで知らない人間を紹介するように、お母さんに向けていう。お母さんは男の方を見て、そうなんですかと呟く。
「えーと……みちる、ちゃん?」
 その声は。
「これからよろしくね、みちるちゃん」
 私の名前を呼ぶ声は。

 他人を呼ぶような、そんな声だった。

 それはどんな侮蔑や口汚い言葉よりも、私の心の深いところを抉っていった。
 咄嗟に私は伸びてきたお母さんではないお母さんの手を振り払い、走り出した。四つん這いで、ぶ格好ではあったけど、とにかく全力でその場を離れることを優先し、走る。
 お母さんから逃げて、スタッフを掻きわけ、無我夢中で逃げ続ける。スタッフが中継車からコードを開いていたために開きっぱなしになっていた玄関を飛び出し、外に出てもなお走り続けた。そうしないと、壊れてしまいそうだったから。
 何度も転んで、それでも走り続けた。好奇の視線が自分に向けられることなんて気にしてられなかった。とにかく逃げる。
 逃げて、逃げて、逃げ続けて。
 私はどこともわからない公園の藪の中で身を縮めていた。
「う、ううぅ、うぅ~っ」
 涙がぽろぽろ零れる。頭の中でお母さんが私の名前を呼ぶ声が――優しさはあっても愛しさの籠らない声が――何度もリフレインしていた。その度に私の胸は痛みに締めつけられる。
(どうしたら……どうしたらいいの……?)
 頭の中が混乱してどうすればいいのかわからない。
 どうやっているのかはわからないけど、あの男は世界の城跡や人の記憶などを自由に操れるみたいだった。その力でお母さんの記憶から私を消した。それは憎悪すら抱くほどの行いだったけれど、それよりも私はその力を恐れていた。
 だって、もしもその力で私の記憶からもお母さんが消されたら。お母さんを見ても、お母さんだとわからなくさせられたら。
 そんなに恐ろしいことはない。
 そうされるとは限らないのに、想像するだけで体が震える。お母さんを忘れてしまうなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
(なんとかしなきゃ……でも、どうすれば……)
 ぐるぐる回る思考は解決策なんて見出してはくれなかった。
 言いようのない恐怖に震えることしか出来ない私の元に、藪を掻きわける音が聞こえてきた。
 誰かが私を捕まえにきたのかもしれない。私は震える体を叱咤してその場を離れようと足を動かす。ぎこちなくしか動けない。

 そんな私の前に現れたのは――大型犬だった。

 それは、人に捕まるよりも最悪の事態を連想させた。
 悪寒が背筋を駆け上がる。咄嗟に逃げようとした私に、大型犬は目にも止まらない速さで突っ込んで来た。
「ひっ――きゃうんッ!!」
 いきなり首筋に噛みつかれて、痛みと共に死への恐怖が噴き上がる。
「きゃうんっ、きゃぅ、きゃううん!!」
 犬の牙が食い込んで痛いなんてものじゃない。そのまま肉を食いちぎられそうな激痛に私は悲鳴を上げることしか出来なかった。犬はそんな私の首筋に食い付いたまま、その場から微動だにしない。強い力で抑えつけられ、足掻くことすら出来ない。
(殺される)
 自然と連想したイメージは間違ってはいないはずだった。このまま牙で引き裂かれ、生きたまま八つ裂きにされてしまうに違いない。
 リアルすぎるイメージは私の身体を恐怖で縛り、恐怖のあまり、尿が零れた。さっき出していなかったらもっと大量に失禁してしまっていたはずだ。
 私が完全に恐怖に支配されたのを察してか、大型犬は抑えつける力を僅かに緩める。圧力が弱まっても、動く気になんてなれない。ガタガタ滑稽なほど震えながら息を詰めているしかなかった。私が逃げないことを確認してか、大型犬は喰い込ませていた牙をゆっくりと離す。私はその場に崩れ落ちそうになったけど、なんとか堪えた。四つん這いの体勢のまま、いまにも崩れ落ちそうな腕と足でなんとか身体を支える。
 大型犬は満足そうに鼻を鳴らすと、ゆっくりとした足取りで私のお尻側へと移動する。それが何を目的とした移動かわからないほど馬鹿じゃない。けれど、いまはそれ以上に恐怖で身体が動かなかった。噛みつきと言う何よりも原始的な暴力を前にしては、私の命は犬の気分次第でいつでも噛み千切られる程度のものでしかない。
 私の支配者となった犬は、悠然とした態度で私の身体を嗅ぎまわる。それはどう考えても品定めをしている動きだった。
(怖い怖い怖い怖い怖い! 誰か――助けて!)
 私は震えながら犬の動きを感じる。犬は私の心中の哀願など知ったことではないというように、その身体を私の身体の上に乗せて来た。大型犬の重みが体にかかる。
 何をしようとしているのか、否でも理解させられた。熱い棒状の何かが私の内太ももに触れる。
「ひぅ……っ」
 不自然に呼吸が乱れ、おぞましい行為をされようとしている事実に胸の底が冷える。だけど、抵抗することなんて出来なかった。
 入口に犬のそれが触れる。濡れてもいないそこに入るわけもなかったけど、犬はそんなことを気にしない。押し込もうとただ力を込める。
「きゃうううううう!!」
 犬に犯される恐怖で私は一際大きく悲鳴を上げた。犬はそれをうるさく思ったのか、背後から私の首にがっぷりと噛みついてくる。
 噛み千切られかけた時の恐怖がよみがえって、私はその場に倒れ込んでしまう。逃げる心配がなくなったからか、犬は満足そうに唸った。下半身は膝立ちになっているから、挿入には支障がないということなんだろう。
 さらに犬が無理やり割り入れようと力を込める。体の中心から裂かれて行くような激痛に私は歯を食いしばって耐えなければならなかった。単純な痛みの所為で涙が大量に零れ落ちる。
(死んじゃう)
 そんな想いが大げさではないとはっきり感じるほどに、その激痛は凄まじかった。こんな細いものを入れられようとしているだけでこの激痛なのだから、子供を産む時の激痛なんて想像もつかない。
 無理やり身体が裂かれて行くような感覚と共に、犬のそれが私の身体の中に入って来る。
(はじめて……なのに……そんな……っ)
 もう悪夢は見あきたと思ったのに、この世は容易く私の想像を越えて悪夢を見せてくる。
 犬のそれは私の中をぐちゃぐちゃに突き崩した。鮮血が太ももを伝って地面に落ちる。犬の行動はそれで終わりではなく、さらに腰を前後させ私の中をかき乱した。
「ぎゃんっ、きゃぅんっ」
 犬が動く度に私は激痛に晒されて、犬の行動は蹂躙と言うにも生ぬるい恐ろしい動きだった。
 痛みをひたすら堪えていると、やがて体の中で熱い何かが噴き出すのを感じた。
(ああ……私……完璧に……)
 犬に犯された。初めてを獣に散らされ、身体の中まで獣のもので染められ尽くされた。
 死にたかった。
 だけど、それでもまだ犬の行動は終わりじゃなかった。
「うぅ……ッ、あっ、あッ」
 体の中に埋め込まれたそれが膨らむのが感じられた。ただでさえズタズタに引き裂かれた入口付近がさらに広げられてくのが分かる。それは傷口に塩を塗り込められるのと同じで、私は頭の中で星が瞬いていると勘違いするほどの激痛でショック死寸前だった。
 犬はお尻とお尻を突き合わせるような体勢に変えると、そのまま大量の熱いものを私の中に注ぎこんでくる。その量は半端じゃない量で、身体の中が押し広げられていくのが感じられた。入口は隙間なく抑えられているから逃げ道もなく、ただ身体の中にそれが溜まっていく。
 身体が張り裂けそうなほどの圧迫感が身体の中から襲いかかって来る。
「うぅ、うぁ、げあぁ――ッ」
 とてもアイドルとは言えない、いや、人間とさえ言えないみっともない呻き声をあげて、私は胃の中の物を全て吐き出してしまう。それでも犬は止まることなく、気が済むまで私の中に自分の物を出し続けた。
 ようやく犬の気が済んだのか、犬が私から離れて行った時、私は吐瀉物と犬の精液にまみれた汚物同然の姿になっていた。
 あそこから注がれた精液が零れ、口からよだれを垂れ流し、脱力してお尻を突き出したまま地面に倒れている私はアイドルどころか人間どころか、獣以下の情けなくてみじめな姿だった。引き裂かれたあそこからは鈍痛がずっと感じられていたし、激痛に翻弄された身体と精神は疲れ切っていて指先一つ動かせない。
 私の意識は暗い所に落ちていく。




 誰かが私を呼ぶ声がする。
 慣れ親しんだ人の声。大好きで大好き過ぎて、けれど素直に甘えられない人の声。
「……るちゃん、みちるちゃん」
 肩を揺さぶられて、私はようやく目を開ける。広がった視界の中に、お母さんの顔が見えた。
 優しくて、愛情の籠った視線。
「やっと起きた。心配したのよ」
 一瞬、私はその事実が信じられなかった。
「おかあ……さん……?」
「なあに? みちるちゃん」
 その名前を呼ぶ声は、確かにお母さんだった。私を娘として見ている、優しさと愛しさが籠った声。
 私は涙が滲むのを止められなかった。
「み、みちるちゃん? どうしたのみちるちゃん。怖い夢でも見たの?」
 あわあわと慌てるお母さんの態度は、私の知るお母さんの態度そのもので。
 私は思わずお母さんに抱きついていた。
「お母さん……っ」
「あ、あらら? みちるちゃんってば……甘えん坊ね」
 優しいお母さんの手が私を抱きしめ、頭を撫でてくれる。幸せに満たされた感覚に私は打ち震えていた。
「いい光景だな」
 そんな私の幸せを、打ち砕く声がした。
 はっとして見ると、そこには見たくもない顔の男がいた。
「あんた……ッ」
「そう殺気立つなよ。まさか三奈崎さんに他人扱いされて、あそこまでショックを受けるとは思わなかったんだよ。犬に襲われた時の傷は、処女膜も含めて綺麗に治しておいてあげたんだし、それでちゃらってことにしてくれると助かるんだけど」
 男は飄々とした様子で私の殺気を受け流す。
 私はお母さんを守るために、抱きつく腕に力を込め、男を渾身の力で睨みつける。腕の中でお母さんが「みちるちゃ、ちょっと、くるし……」とか言っていたけど、気にしていられない。
 そんな私の様子を見た男は、なぜか面白そうに笑った。
「それ、ホントになんか飼い主を守ろうとしている犬っぽいんだけど」
 喉の奥を震わせるようにして男は笑う。
 からかわれていることに気付いた私は顔が赤くなるのを感じたけど、お母さんから離れることなんて出来なかった。今離したら二度と会えなくなりそうな、そんな根拠のない不安が湧き上がっている。
 男はひとしきり笑った後、少しだけ真面目な顔になる。
「さて、それはそれとして、ちょっと話をしようか、三奈崎みちる。三奈崎さんは少し席を外しておいてもらえるかな?」
「で、でも……ご主人様」
 男のことをご主人様と呼ぶお母さんは困っているようだった。私が抱きついていることに起因することは自覚していたけど、私は腕を離さない。
 仕方ないな、という風に男は頭を掻いた。
「……三奈崎さん。俺が良いと言うまで『寝てろ』」
 途端、お母さんの身体から力が抜け、私は慌ててお母さんが怪我をしないように抱きとめる。
 男は私の傍に近づいてくると、その場にどっかと腰を降ろした。
「やれやれ……君のせいで当初の予定からずいぶんずれちゃったぜ。テレビも帰しちゃったよ。番組的に纏められなくなっちゃったから」
 本当はお母さんからだけではなく、私の記憶からもお母さんのことを消し、完全なただの犬としてペットにするつもりだったと聞かされ、怖気に背筋が震えた。
 眠っているお母さんを抱きしめ、絶対に離れないことを強調する。
「本当は大好きだってこともわかったし、もうそういう風にはしないよ。さすがに可哀想だし。俺もそこまで鬼畜じゃない」
 この男が鬼畜でないとすれば一体どんな行いが鬼畜になるというんだろう。私はそんな気持ちだったけど、ひとまず男の話を聞くことにした。
「でもまあ、三奈崎さんはもううちの家政婦だし、手放すつもりはないから。それだけはきっぱりと言っておくよ」
「そんな、勝手な……っ」
「言っとくけど、三奈崎さんに対して酷いことはしてないぞ。むしろ普通じゃ味わえない幸福を味あわせてあげてるし」
「幸せなわけないっ」
「まあ、その辺りは堂々巡りになるからやめよう。とりあえず、俺は三奈崎さんを手放すつもりがない。それだけ理解してくれればいいよ」
 勝手な言い分に激怒しそうになったけど、なんとか堪える。この男を下手に刺激してしまうのがよくないと察するのは容易かった。
「この問題は君がどうしたいかが重要なんだよ」
「……どうしたい、か?」
 ああ、と男は頷く。
「アイドルに戻りたいか? 戻してあげてもいいよ。何事もなかったように、いままでと同じ世界に戻してあげよう。今回の放送を全部なかったことにして、見た人の記憶も全部消して、君は何食わぬ顔でただいつもの日常に戻るだけでいい」
 それは邪悪な囁きだった。どこが、とはっきりとは言えなかったけど、邪悪としか感じられなかった。
 その証拠に、続いた男の言葉は悪意に満ちたものだった。
「ただし、その場合三奈崎さんのことはすっぱり忘れてもらうよ。下手にちょっかい出されるのも迷惑だし、君の母親は君が生まれた段階で死んだことになって、いまの三奈崎さんとの記憶も全部抹消されることになると思う」
 日常に戻る代償は母親の記憶だと男は言っているのだ。
 それは最悪の展開だった。
「もう一つは、このままこの家のペットになること。ペットとして飼育されることに同意するのであれば、君の記憶から母親の記憶は消さない。三奈崎さんの方からは消すけど、君がペットして頑張ればご褒美として、時々三奈崎さんと親子として過ごせる時間を作ってあげる。もちろん、その時は三奈崎さんの記憶も戻してあげよう」
 悪魔の選択を迫る男。
 人間としての生活を取ってお母さんを失うか。
 お母さんを取って、ペットとして飼われるか。
 どっちにしても、私は私にとっての『大事な物』を失う。
「……ペットして飼育されることを選んだ時……どうして、普段は、お母さんから私が娘だって記憶を、消すの?」
「三奈崎さんにとっても――君にとっても――その方がいいと思うけどな。自分の娘がペット扱いされて喜ぶ三奈崎さんを君は見たいのか?」
 見たくないに決まっている。
 悩んだのはそんなに長い時間じゃなかった。
「一つだけ、お願いがあるん、だけど」
 男の反応を見ながら私はそれを口にする。興味を持った様子で男は私の言葉を待っていた。
 私はただ一つのお願いを口にする。
「普段、私のことはみちる以外の名前で呼ぶようにして欲しい」
 私の脳裏には他人としてお母さんに「みちるちゃん」と呼ばれた時の悲しみがこびりついていた。あれを常にされたら、きっと私の心は耐えられない。簡単に折れてしまう。
 私の意図をどこまで男が理解したかはわからない。ただ、男は小さく笑った。
「これがもしも君に『奴隷になれ』って言っている話ならそんな要望は許さなかっただろうな」
 奴隷とは隷属するものであり、奴隷の望みに主人の言動が縛られるのはおかしなことだ。
 そう男は言った後、不自然なほどに優しい目で私を見た。
「けど、俺が君に望むのはペットの立場だ。ペットの多少の我儘や意思を受け入れるのは飼い主の度量って奴だろ?」
 契約成立だ、と男は言う。

 こうして私は、アイドルからペットになった。
 
 
 
 
『あなたの望み、叶えます』 ~天使空間~ エピローグに続く
 
 
 
 

Comment

No.939 / 名無しさん [#-]

レイプの記憶は残したままなんて実に優しいですね、素敵です

優しいついでに人間モードの状態で無我夢中に甘えるみちるちゃんがみたいです

2013-02/25 00:33 (Mon)

No.940 / Torainu [#CNtCm3fU]

執筆ご苦労様です
「成長することは会っても」になってますよ~

あんな感情を見せられたら流石に優しくせざるを得ないかと思いましたが、程度は少し抑えられたとはいえ、結局鬼畜じゃないですか(笑)
すごく面白かったですが、犬に犯される部分は少しだけ浮いている気がしました

仮にその立場だったら、私もペットになるのを選びますね
大切な人に忘れられるのは、本当に辛いことです
鬼畜ではありますが、割り切ってペットとして生きるのも楽しいんじゃないでしょうか(笑)

2013-02/25 21:16 (Mon) 編集

No.941 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

> レイプの記憶は残したままなんて~
忘れていい思い出なんて一つもない、というのは何の言葉でしたっけね……
ちゃんと身体の傷は消してあげてるから優しいんです!(棒)

> 優しいついでに~
人間モードですか……実は甘える時も犬モードのままでいくつもりだったんですが……どうしようかな。
エピローグを書きながら考えてみますね。

コメントありがとうございました!

2013-02/25 23:23 (Mon)

No.942 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

Torainuさん、いつもありがとうございます!

> 執筆ご苦労様です
> 「成長することは会っても」になってますよ~
おうふ……すいません、修正しました。
毎度毎度申し訳ないです。

> あんな感情を見せられたら~
え? 優しいですよね?(真顔)
私は本当の鬼畜にはなれないとつくづく思いました(棒)

> すごく面白かったですが~
うーん、やっぱりちょっと唐突過ぎたでしょうか……。
馴染ませられなかったのはひとえに筆力不足ですね……。
精進します。

> 仮にその立場だったら~
大事な人に忘れられるくらいなら、というのはあるでしょうね。
みちるという存在にとって、母親の存在はいなければ自分が自分でなくなるほどの、それくらいでかい存在でした。ちなみに彼女、父親に対しては特に何も思ってません(笑)
まあ育ててくれてるんだから感謝、みたいな気持ちはあると思いますが。なぜ母親にそこまである種執着するようになったのかは……それだけ母親が娘を愛していたからというただそれだけの理由です。

> 鬼畜ではありますが~
割り切ってしまえば結構楽しいと思います。犬として頑張れば大好きな母親との触れ合いも待ってるわけですし。
時々しか与えられない最高の幸福はいつまでも色あせることなく、彼女を活かし続けることでしょう。

それでは、どうもありがとうございました!

2013-02/25 23:36 (Mon)

No.944 / ごんべー [#-] No Title

こんばんは。

みちるちゃんを落とす動機に関してはちと弱いと思いましたね。
ママさんの天然な性格と、みちるちゃんの年齢を考えたら反抗期のようなモノと彼が察することもできたんじゃないでしょうか?

ただ、途中から最後にかけてはさすがの一言です。『名前』を呼ばれて絶望するみちるちゃんや、妙な自分ルール(?)がある主人公には好感が持てました。
……もうみちるちゃん、心が壊れた状態で安定してるんじゃないだろうかw

続きを楽しみにしています。

2013-02/26 23:06 (Tue)

No.946 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

ごんべーさん、お久しぶりです。
コメントありがとうございます!

> みちるちゃんを落とす動機に関しては~
弱かったですか……確かに思春期のみの特徴じゃないかと言われたらその通りなんですよねえ。
ただ、今後異常な状況で精神的に大人に成長できるかどうか……どこまで主人公が楽しめるかが肝になりますね。

> ただ、途中から最後にかけては~
お褒めのお言葉、ありがとうございます。
自分勝手だからこその自分ルール。
私の書く主人公は決して鬼畜じゃないよ!
……いや、ほんと鬼畜じゃないつもりなんです(汗)

> ……もうみちるちゃん、心が壊れた状態で~
ありえます。異常なことを異常と認識出来なくなっている可能性が……異常な状況で迫られた究極の二択。自分から選んでしまったがゆえに不可逆に陥る……という感じです。

> 続きを楽しみにしています。
ありがとうございます。
頑張ってエピローグを書きますね!

それでは、どうもありがとうございました!

2013-02/26 23:24 (Tue)

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