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『千編万花』 第十七章

千編万化の続きです。
いま、全てが明らかに。
 
それでは、続きからどうぞ。
 
 
 
『千編万花』 第十七章
 


(なんなんだ――これは――何が、起きているんだ?)
 巨大な魔物が、目の前で崩れていく。
 その光景を呆然と見つめていたハジメは、いつの間にか魔物と自分との間に誰かが立っていることに遅れて気付いた。
 それはつい先ほどハジメに向かって「そこでじっとしていなさい」と言い捨て、化け物を越える力を持つ魔物と戦い、それを倒してしまった少女。
 言われなくてもその存在の正体をハジメは理解していた。
 龍の化け物。
 子供に対して甘いところのあるハジメでさえ、その龍の化け物に対してはとても甘いことを考える余裕がなかった。それほどまでにその少女の姿をした存在は危険を感じさせ――なにより、ハジメに対して明確な敵意を宿していた。
 龍の化け物が人の姿に戻ったのだとハジメが理解するのと同時に、少女が彼を振り返る。その鋭利な視線にハジメはその場に縫いとめられた。
(からだ、が……っ)
 まるで物理的に固められているかのように、ハジメの身体はぴくりとも動かない。それが少女の威圧による硬直だと気付いたのは暫く経ってからだ。蛇に睨まれた蛙も動けなくなるのだ。鼠が龍に睨まれた時にどうなるか。それは推して知るべしというものだ。
 ハジメの方を振り向いた少女の目前、崩れ落ちて行く魔物は、その彼女の背中から生えた複数の龍の首によって、今もなお蹂躙されていた。魔物の身体が崩れて消える前に、片端から喰らい尽くす。それと同時に彼女の全身は輝き出し、さらなる強大な力を得ていることが傍目にもわかる。
 止めなければならないとハジメは思うが、畏怖が刻まれた体は彼の意に反して動かず、ただ蹂躙を見詰めていることしか出来ない。
 やがて、魔物の全てを喰らい尽くした彼女は、大きく息を吐き、改めてハジメに向き直る。龍の姿になった時に服は破れていたが、いつの間にか別の不思議な服を身に纏っていた。
「さて――」
 幼い声が響き、少女が口を開く。その声を聞いたハジメの全身に、思わず緊張が走る。
「これでゆっくり話が出来ますね」
 まるで平静な調子で。
 怪獣映画の規模で戦いを繰り広げたとは思えない静かな態度で、少女はハジメに向かって話しかける。
「まずは名乗っておきましょうか。私の名前はアルファ。……もちろん、こちらの世界で使っている偽名ですが」
 あっさりと偽名であることを宣言し、少女――アルファは尻餅をついているハジメを見下ろしながら口を開く。
「あなたは鼠の化け物ですね? 洗脳の力を持っていて、ハジメという名前の」
 ハジメはその言葉を訊いて眉を潜める。
「……誰に、訊いた?」
「肯定だと受け取ります」
 彼の質問は無視して、アルファは言葉を続けた。無視されたハジメは思わずむっとするが、それはアルファに何の影響も及ぼさない。
「あなたを殺さずに残して置いたのは、一言言ってやりたかったからです」
 アルファの視線は、ただ角度の必然として見下ろしているというだけではなく、冷たい温度を有しており、ハジメはその視線に気圧されてしまう。
 そして冷たいのは視線だけではない。
「まずお聞きしたいのですけど、あなたは一体全体何をやりたかったんです?」
 子供が紡ぐにはあまりに冷たい声が、ハジメを責め立てる。
「あなたの行動はあまりにも稚拙すぎます。もっと言うならあまりにも無計画で無頓着すぎです。そこに付け込んでおいて言うのもなんですが、張り合いがなさ過ぎて逆に不安になりましたよ。罠にでも嵌められているんじゃないかと」
「……どういう意味だ」
 アルファが言わんとしている意味はわからなかったものの、馬鹿にされていると感じたハジメは低い声でアルファに問う。アルファは呆れたように首を横に振る。
「そのままの意味ですよ」
 仕方なさそうな風情で、アルファは一から説明を始めた。
「順を追って説明しましょう。まず虎の言動から、あれが特定の住処を持つことを知りました。そしてあの虎の性格上、どう考えてもこそこそと潜んでいるわけがない。つまり住処となっているはずの町か村には虎が堂々と闊歩出来る条件があることになります」
 だが、そんな条件を満たす町はいくつもない。
「あからさまに虎が恐怖なり暴力なりで支配していた場合なら、すぐに情報は集まって来るはずです。しかしその情報は出て来なかった。つまり、どういう訳か虎は騒ぎにならない住処を持っている。そこまではすぐに把握することが出来ました。そこからの手がかりがなくて困っていたんですけどね」
 その時起きたのが、虎の化け物による町の襲撃だ。
「あの時、虎が仲間を連れて来たことで、どうやら虎に味方するものがいるのだと気づけました。その上、その仲間たちの様子を知るにどうにも尋常じゃない様子。龍の仮面を被った救世主並みの力を持つ化け物らしき存在――それらを統合して考えると、『洗脳する力』を持った化け物が虎に味方しているのは容易くわかります」
 ハジメは目を見開いていた。そんな風に推測されるとは思ってなかったからだ。あの時ハジメは虎が救世主達と戦ってくると言いだしたため、万が一虎がやられてしまうことを考え、洗脳に成功した救世主ミツキと戦士三人を同行させた。救世主が二人揃っていることを聴いていたため、保険のつもりだった。ただそれだけのつもりだったのに。
 彼がそう思っているのを察したのか、アルファは益々不機嫌そうになる。
「いまさら遅いんですけどね。洗脳の力なんてものを堂々と示してどうするんですか。そういうのは敵に悟られないようにしてこそ、有効に働く力でしょうに。……そもそも、救世主や化け物の戦いに普通の戦士をつけて何になると思ったんですか? いくらこの世界の戦士が何百人集まろうと、化け物や救世主を前にしたら意味なんてないじゃないですか。ライルさんのような、一流の剣士ならともかく……」
 ハジメは痛いところを突かれて言葉に詰まった。元々、彼が戦士達を虎に同行させたのは、単に三人の戦士と救世主ミツキがセットのような感覚でいたからだ。本当に何気なく同行させてしまっただけで、考えらしい考えはなかった。ハジメの無思慮を責めるように、アルファは溜息を吐く。
「貴方自身も同行すれば良かったんです。そうすれば虎と争っている隙を突くなり何なりして私かタツミさんのどちらかを倒せたかもしれないのに」
 虎が救世主と戦いに行ったあの時、ハジメは同行しなかった。その理由は襲撃が虎の趣味の範疇であり、下手に干渉すれば虎の気分を損ねるかもしれないと危惧されたことがある。また、子供のカナミを町に一人にすることにも抵抗があった。しかし、それは失策だった。
 もしも彼があの時同行していれば――結果は随分変わったものになっていただろう。
 アルファの説明は続く。
「ともあれ、三人の戦士達の様子から、私は虎に味方する誰かが洗脳の力を持っているのだと気付けました。最初は虎自身の能力かとも思いましたが、あの虎の性格上、それは考えにくいことですしね」
 そんな風にして、アルファは洗脳の力を持つ誰かが敵にいると悟ったのだ。
「ここまでわかってしまえばあとは簡単です。……いえ、簡単でした、というべきでしょうか。調べ物をしていた時に不自然に思ったことがありまして」
「不自然……なこと?」
「ええ、それがあなたがたのいるこの場所を特定する材料になりました」
 ハジメは何が悪かったのかを考えるが、原因らしい原因は思いつかなかった。洗脳の力を持っていることを知られてしまったのは確かに思慮が足りていなかったが、この町に自分達が潜んでいることが知られないようには細心の注意を払っていたつもりだったからだ。出入りする商人や偶然通りかかった旅人に至るまで徹底的に、化け物がいるという情報を外に知られないようにしていた。
 だがアルファは場所を特定出来るほど不自然なことがあったという。その答えをアルファは紡ぐ。
「まず初めに……貴方はこの町を住処にするにあたって、この町にいる全員を洗脳の力で操っているでしょう? その時、自分達のことを他言しないようにしただけでなく、余計なことも言ったでしょう?」
 そう言われたものの、ハジメはピンとこなかった。
「余計な、こと……だと? 別に、妙なことは命じていない」
 ハジメはそう考えたのだが、アルファは益々不機嫌な表情になる。
「――『罪を犯すな』」
 そうアルファが口にして、ハジメは目を見開く。
「そんな感じの命令を口にしませんでしたか?」
「なぜ、それを……っ」
 それは化け物達の情報を外に漏らさないようにしたついでの命令だった。
 ハジメ自身としては自分の利のために洗脳するだけではもったいないと感じたため、人のためにもなるようにと命じたことだった。
 しかしそのハジメの良心から出た命令を、アルファは否定する。
「『犯罪数ゼロの町』。聞こえはいいですが…………それはあり得ないんですよ。多数の人間が住んでいる場所なら、大なり小なり犯罪は起きる。一日だけならあり得るかもしれない。一週間連続でも奇跡と思える。けれど――数カ月も犯罪が一つも起こらないのは、あり得ない」
 ハジメは目を剥いた。まさかそんな風に捉えられるとは思っていなかったからだ。
 元々、よかれと思ってやったことだった。この世界でも日常的に起きていた犯罪が起きなくなれば、それはきっと素晴らしいことだろうと考えて。
 だがそれは、付け込まれる隙となった。
「命令が過ぎたんですよ。せめて『人を殺すな』程度ならまだわからなかったかもしれないのに。小規模の喧嘩や些細な盗難すらないのは異常過ぎる」
 彼女の言葉に反論しようとハジメは口を開いたが、アルファはそれを遮って話を続ける。
「それともう一つ。ネズミの食害が一切報告されていないのは、あなたが普通のネズミを全て指揮下に置いているからですね?」
「な――ッ!?」
 どうして。
 そんな気持ちが顔に出た。アルファはそれを読み取ってか、また溜息を吐く。
「まあ、これは単なる推測だったんですけど……十二支になぞらえた化け物だから、もしかするとその元になった動物と意思疎通が出来るんじゃないかと思いましてね。とはいえ、ネズミの食害に関しては町だと報告に上がるほど大規模にならないところもありまして、あまり参考にはなりませんでした。村とかなら一発だったんですが……それも照らし合わせて考えると、この町が一番怪しかったんですよ」
 全くバカバカしい話です、とアルファは呟く。
「ネズミ達を指揮下に置くのはわかります。動物と意思疎通が出来るということは極めて有用な情報収集の手段になりますからね。ネットワーク化して遠方の情報をすぐに届けさせるようにすれば、通信機器が発達していないこの世界において大きなアドバンテージになります。ネズミならどこにいてもおかしくないですし、私でもそうするでしょう」
 けどね、とアルファは呆れ顔を作る。
「洗脳した町の者に余計なことを言う必要はなかったでしょう。それがあったから私に場所を特定されたんですよ」
「……ッ!」
 屈辱的な言葉に、ハジメは歯を食いしばる。アルファはそんなハジメの変化にも頓着せず、見下した視線で口を開く。
「貴方は洗脳という力の使い方を間違えた」
 間違い。
 そう断じられたハジメは、思わず叫ぶ。
「『黙れ』ッ!」
 能力を使ってアルファに命じるものの、彼女の力はすでにハジメよりも遥かに強力な物になっている。同じ力を持つ救世主でさえ操るのに苦労するハジメの力は、アルファに何の効力も齎さなかった。ハジメは悔しげに顔を歪めつつ、声を荒げる。
「何が『力の使い方を間違えた』だ! 偉そうに……っ」
「間違い以外のなんだというんですか?」
「犯罪がなくなったことが悪いというのか!?」
「そうは言ってません。聞こえのいい言葉であるのは、それが理想だということですから。それが実現できればそれは確かに素晴らしいことです」
 理解は示しつつ、賛同はしないとアルファは言外に告げていた。
「それを本気で実現したいなら、あなたはそれを実現出来るだけの努力をするべきだった。洗脳の力と言う降って湧いた力に胡坐をかいてろくに思慮もせず、聞こえのいい言葉をいうだけのあなたに私は全く共感できませんし、怒りさえ覚えます」
 ハジメは完全に言葉に詰まる。それはアルファの言ったことを事実だと認めてしまったからだ。アルファは何度目かわからない溜息を吐く。
「……でも、正直な話、あなたのような人が普通なのだろうとも思います」
 アルファはそう言いながらすでに原形をとどめていない館を見る。
「館の地下室を見て回ったのですけど、あなたは洗脳の力を使ってずいぶん俗な楽しみ方をしていたようですね」
 そう言われたハジメは最初アルファが何のことを言っているのかわからなかったが、すぐにそれが彼の『お楽しみ』のことだと気付いた。
「あれは、普通の男性が洗脳の力を持ったらやるだろうなぁ、ということです。そんな俗な願いを叶えつつ、実現不可能な理想を口にするのも、よくあることです」
 それに対して。
「戦いたいという自分の本能に忠実だった虎の化け物」
 本能のみに従うのは人間には難しい。
「自らの決めたことを貫ける意思を持つ、タツミさん」
 信念に殉じるのはそうそう出来ることではない。
「幼いとはいえ、特定の誰かのために命を投げ出した――兎の化け物」
 命を投げ出してまで誰かに尽くせる者が何人いるだろうか。
 程度や方向の差はあれど、誰もがそれぞれの形で人間離れしていた。
「救世主や化け物はそんな人達ばかりでした。その中で、あなたは一番人間らしい」
 アルファは言う。
「無駄に小賢しく、綺麗な理想を口にし、かといってそれに値する行動は起こさず、流されるままに生きる――実に『人間らしい化け物』です」
 だからこそ。

「私はあなたの存在が不愉快で仕方ない」

 ここで初めて、アルファの表情が明確に歪んだ。それまでは嫌悪を滲ませていても、さほど表情は変わっていなかった。しかしいま、アルファは言葉を吐きだすと同時に、その表情を明確に嫌悪のそれに変えていた。
「本当はこんなことを言うつもりはなかったんですけどね。言ってやらないと腹の虫が収まらなかったもので」
 せいせいしました、とアルファは吐き捨てる。
 散々侮辱されたハジメだったが――その思考は侮辱されたことに向いていなかった。
 震える声で、アルファに確認する。
「待てよ……おい。お前、いま……兎の化け物、って、言ったか……?」
 命を投げ出した――兎の化け物、と。アルファは確かに口にしていた。聞き間違いであって欲しいと、ハジメは願う。
 だが、アルファは残酷に、躊躇いなく頷いた。
「ええ。カナミ、でしたっけ。実にまっすぐで、ひたむきで、そして何より…………強く、恐ろしい化け物でした」
 でした。過去形である。
 ハジメは気圧されていたことを忘れ、立ち上がって叫ぶ。
「お前――ッ! カナミを、殺したのか!?」
「殺しました。当たり前でしょう。殺し殺されの世界で、攻撃されて殺さない理由はありません」
 それに彼女は強すぎた、とアルファはしみじみと呟く。
「もしも彼女があの力を使いこなしていたら、と思うとゾッとします。力の差なんて関係なく、防御不能で、広範囲の殺戮に適した力。極めれば無敵にさえなっていたかもしれない。それくらい圧倒的でした。まさか『声』で破壊を齎すとは……」
 そのアルファの話を聞いて、ハジメは先ほど響いた『声』の正体に気付く。あの攻撃がカナミの所業であったと。
「あの力に比べれば、私の変身能力やあなたの洗脳能力なんて、小賢しいものです。あの力を持ったまま成長しない内に摘み取れたのは幸運でした。……私達だけではなく、あの子自身にとっても」
 アルファが言った『あの子自身』という言葉。それを聴いたハジメは目を見開く。
「お前……カナミが子供だとわかってて、殺したのか!?」
 そのハジメの問いに、アルファは不思議そうな顔をする。
「……子供相手だからといって倒さない理由にはならないでしょう? 刃物を持っていたら危険なのは大人も子供も関係ない」
 アルファの返しに、ハジメは激昂する。
「ふざけるな! 大人が子供に――」
「手をかけていい理由はない、ですか?」
 先回りして、アルファはハジメの言葉を封じる。思わずハジメは言葉を呑みこんでしまった。
 その間にアルファが話を続ける。
「理由はあります。殺されたくないから――その理由以上の理由がありますか? あなたが『子供のためなら命を捧げられる』というほどに成人君子だというなら、話は別ですが」
 アルファに言われたハジメは言葉に詰まる。
 カナミという子供のために腐心して来たとはいえ、自分の命を引き換えにして彼女を救えるか、と言われて差し出せるほど悟ってはいなかった。
 言葉に詰まったハジメに対し、アルファは苛立った様子で口を開く。
「あなたは何事も中途半端にすぎるんです。確かに貴方の言うことは正論であり理想ではありますが……実情を見ていない。世界を思い通りに出来る力を持っているわけでもないくせに、なんでそこまで堕落出来たのか不思議で仕方ないです」
 理想は所詮理想でしかない、とアルファは一言で切り捨てる。
「その上で、その理想を実現したいならそれ相応のやり方や努力の仕方と言うものがあるんです。少なくともそれを叫ぶだけでは誰にも影響を与えられない。理想を実現すると言うのはね、あなたが想像している以上に困難で、遠い道のりの先に実現するものなんです。ろくに動こうとしなかったあなたが語るなど、おこがましいとさえ思います」
 刃物で切りつけるように、アルファの言葉はハジメの心を切り刻んでいく。
「確かに私はあの子を、兎の化け物を殺しましたけど。それは、はっきり言って、あなたのせいですよ。あなたがもっとしっかりあの子を導いてあげていたら――こんな結末にはならなかった」
 ハジメはその言葉を最後まで聞かなかった。拳を握り締め、アルファに向かって駆け出す。アルファはその場から微動だにせず、ハジメの拳を顔面に受ける。
 だが、吹き飛んだのはハジメの方だ。真正面から拳を受けても鼻血さえ滲ませず、アルファは平然と言う。
「無理ですよ。いまさら死力を尽くしたところで、あなたは私に勝てない」
「黙れ……!」
 腕が折れたのか、もう片方の腕で殴った方の腕を抑えながらハジメは立ち上がる。
「殺してやる――」
 憎悪の篭った言葉にもアルファは動じない。
「……足掻くなとはいいませんが、もっと早くにそうするべきでしたね。いまや私は六人分の救世主と化け物の力を有しています。喰らうことで力を自分のものに出来るとは思っていませんでしたが……出来てしまったのだから、せいぜい活用させてもらうことにしますよ」
 その言葉と共に、アルファの背後に五匹の龍が現れる。
 細長い蛇のような体躯を持つそれらの龍は、いわゆる辰のイメージに近い造型だった。
「私の能力は変身させたものを体から分離させることも出来ます。いまはまだこれくらいの数が限度ですが……いずれは百を越える分離体を操れるようにするつもりです。どうしたって化け物のような力なので、ライルさんやタツミさんに見られないように練習するのは骨が折れましたよ。鼠の形にして放ったり、ね」
 立ち上がろうとしたハジメに、六匹の龍が噛みつく。体の各所を噛みちぎられながらもハジメはアルファに向かって進む。
 激痛を堪えながら、ハジメはアルファを睨み付けた。
「赦さない――」
 龍の首がハジメの折れた腕を食い千切る。噴き出した血が地面に斑模様を作った。
「絶対に――」
 胴体を抉られながらも、血を吐きながらも、ハジメは足を止めず前に進みながら叫ぶ。

「俺がお前を――殺してやる!」

 呪詛のような叫び。それをアルファは無言のまま聞いていた。彼女が指で合図を出すと、一匹の龍がハジメの頭部を噛み千切る。中枢を破壊されたハジメの体は力を失い、すぐに残りの龍達によって余すところなく補食される。
 後には静寂が残った。
「……呆気ない」
 至極詰まらなさそうに彼女は言い捨て、両手を空に翳す。五匹の龍が彼女の元へ集い、再び一つになった。
「問題ないとは思いますが…………念のためやっておきましょう」
 掲げた両手にとてつもない炎が産み出される。翼を広げたアルファは一気に高空に舞い上がった。
 そして、空からその火球を町に向かって叩き込む。
  
 
 この日、ひとつの町が、地図の上から姿を消した。
 その場所は化け物と救世主が戦った跡地として、末長く語り継がれていくことになる。
 
 
 
 
 鼠の化け物ハジメ。
 龍の化け物の前になすすべもなく――敗北。
  
 
 
 
『千編万花』最終章に続く 
 
 
 
 

Comment

No.726 / 通りすがり [#-] No Title

洗脳や読心術系の能力は話してもいけないし、秘密にしていても組織崩壊フラグだから厄介ですよね。

アルファもハジメがドラクエや御伽噺の魔王並に突き抜けた悪党ならあそこまで毒舌にならんかったでしょうな。アルファが灰色、タツミが白なら、ハジメは混ぜ合わせた絵の具色ってところか。
執筆と伏線管理、お疲れさまでした。

2012-07/01 01:34 (Sun)

No.730 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

通りすがりさん、感想ありがとうございます!

> 洗脳や読心術系の能力は~
お前は詰んでいたのだ。最初から……みたいな(笑)
洗脳系能力者はその強力な力の代償に絆が作りにくいということがあります。ただ、カナミがそうだったように人によっては洗脳されていようとなんだろうと尽くしてくれるので、いざ絆を結べればこの上なく、強い繋がりを持てるころでしょう。ハジメの場合、それが出来なかったのが敗因と言えるでしょうか。

> アルファもハジメが~
そうですね。ハジメがただの悪人であったなら、アルファはただ力を持って叩き潰していただけだったでしょう。中途半端に良心を持って、中途半端なことをしていたからこそ、アルファにとっては気にくわない存在になってしまった……という感じです。

> 執筆と伏線管理、お疲れさまでした。
今回の話は書いてて楽しかったですが、かなり疲れました……投げっぱなしになってしまった伏線も多々ありますし……長くて半年もかかっちゃいましたしねえ……。

それでは、本当にありがとうございました!

2012-07/01 23:05 (Sun)

No.734 / 名無しさん [#-] 化け物とは

喰らう事で自分の力とする
しかし、地球人に勝てるだけの力は付かない
これがあったからこそ狂犬は暴れ続けたんでしょうね

またこの世界を舞台に違う視点で読めたらいいなあ・・・
長く生きた地球人の軌跡と顛末とか面白そうです

2012-07/05 01:13 (Thu)

No.735 / 光ノ影 [#-] Re: 化け物とは

返信が遅れて申し訳ありません。
コメントありがとうございます!

> 喰らう事で~
救世主や化け物を喰らえば相当な力が身に付くのですが、この世界の人間を喰らってもそう大した力にはなりません。
確かに『狂犬』が暴れたのは喰らうつもりもあったのですが、一番はこの世界に対する恨みが強かったためです。書く機会があれば、『狂犬』の話も書いてみたいですね……。

> またこの世界を舞台に~
一杯構想はあるのですが、時間的猶予がないのでかなり厳しいかなぁ、と思います。
出来る限り努力はするつもりではありますが、期待せずにお待ちください。

それでは、どうもありがとうございました!

2012-07/07 11:47 (Sat)

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