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『千編万花』 第十六章

『千編万花』の続きです。
暴走する魔物と、そして……。

それでは続きからどうぞ。
 
 
 
『千編万花』 第十六章
 


 どこからともなく現れる魔物は、どこで生まれ、どうやって増えているのだろうか。
 そんな疑問にとある研究者が一つの仮説を立てた。
 曰く「その謎を解く要素は『人を襲った後、すぐには人を殺さない』魔物にある」と。
 魔物が人間以外の物を摂取することはない。同時に人を殺すだけ殺して食べない魔物もいることから、食用として人間を襲っているわけではないというのがその研究員の見地だった。普通、何かが何かを捕食する理由として一番最大の理由は生きるためだ。ではそうでない場合はどういう理由が考えられるのだろうか。
 その研究員は「生殖のためである」という結論を出した。
 生きていく上で必要になる以上の栄養を欲する場合、次世代のためという理由が考えられる。例えば食虫植物のほとんどは一匹も虫を捕食出来なくても、次世代の種を残すことが出来るのだが、虫を捕食した場合の方が、より多くの種を残すことが出来る。これと同じ現象が魔物にも考えられるのだ。とはいえ、これだけではすぐに食べずに嬲る魔物の説明がつかない。そこでもう一つ踏み込んで考えられた推論が「卵を寄生させる形なのではないか」という考えだった。
 襲って捕えた獲物に卵を産み付け、獲物の栄養を直接卵に吸わせて孵化させる。そういう形で魔物は数を増やそうとしているのではないかとその研究員は主張した。その主張自体は内容の恐ろしさも相成ってこの世界に広まっている。だが実際にそういう形で魔物が孵ったことはなく、襲われて助けられた人の身体から魔物の卵が見つかったこともなかった。そのためにこの説は公的には事実として捉えられていない。
 しかし――残念ながらその研究員の推論は真実を言い当てていたのだ。
 人間を嬲る種類の魔物達は、確かに卵を人に植え付けているのだが、この世界の住民達には魔物の卵を孵化させられるほどの力がなかった。そのため、魔物の卵が孵ることはなく、結果的に襲われた人間は無事天命を全う出来ていたのだ。産み付けられた卵はその状態では目に見えず、孵化する直前まで栄養を得たところで実体を伴って見えるようになる。しかし実体を伴う量の栄養もこの世界の人間からは得られなかったため、産み付けられた卵に誰も気付かなかったのだ。
 もっとも、真実がどうであれ、事実を認識出来ていないのだからそれはないものとして扱われるのが普通だ。しかし、本能で危険を悟っているのか、はたまた魔物に対する恐怖心の表れか、『魔物が人に卵を産み付ける』という話を信じる者は意外と多い。大きな街に住む者は魔物に襲われる頻度が少ないこともあって信じていない者の方が多かったが、魔物の脅威に絶えず晒されている村や小さな町では、魔物に襲われた者を排斥するほどに抵抗を示すこともある。『放っておけば魔物が孵る』と疎まれ、それが原因で私刑にかけられて命を落とす被害者も時にはいるくらいだ。
 
 そして――そのことをリリスは知っていた。
 
 だから、魔物に襲われて体の中まで犯しつくされた彼女は不安で仕方なかったのだ。いつ村の者が自分を始末しようと言いださないかと。
 幸い、彼女を魔物から助け出したタツミはリリスの心情を慮ってか、リリスが体の中まで魔物に侵されていたことを村の者に話さなかった。服は破かれたがそれ以上嬲られる前に助けられたと説明してくれたのだ。その話をタツミがした時、一部の村の者にあからさまな安堵が広がるのを見て、リリスは危なかったことを悟ったものだ。タツミが全てを話していたら、リリスは村の者の手で『処分』されていたかもしれない。
 当面は凌いだリリスだったが、いつかそのことを言い出す者がいるのではないか、という不安は尽きなかった。そこで彼女は、タツミに無理やり同行する形で村から離れることを決めたのである。大きな街であればリリスの事情を知らず、そもそも魔物の増殖に関する説を信じていない者が多いため、安全だと考えたのだ。人のいいタツミを利用しているような後ろめたさはあったし、彼女に対して申し訳ない気持ちもあった。それでも彼女は身の安全のためにタツミに同行した。とはいえ、旅の道中でタツミの人柄に触れるにつけ、その人柄を利用している後ろめたさは日増しに大きくなり、リリスの中で無視できないものになった。
 ある時、リリスと同じくタツミに同行していたライルが席を外している間に、リリスは意を決してタツミのそのことを包み隠さず話した。
 リリスは彼女から責められ、最悪村に戻されることを覚悟で口にしたのだが、当のタツミは驚きはしたものの怒りはしなかった。利用されていたようなものなのに、笑顔を浮かべさえした。
「良かった」
 全ての話を聞いたタツミの第一声がそれだった。どういう意味かを問うリリスに対し、タツミはあくまで朗らかに。
「だって、あたしがこっちに来たから、リリスさんは助かったんでしょ? あたしがこっちに来たことで、リリスさんを助けられたんなら、それはいいことじゃない」
 もしも召喚された救世主がタツミではなく、別の誰かだったら。リリスを助けた後、リリスをどう扱っていたかはわからない。全てを村の者に話していたかもしれないし、話を聞いた時点でリリスを処分することを考えたかもしれない。しかし、タツミはそうしようと思わない。
 だから、『良かった』と。
 あまりにも真っ直ぐなタツミの言葉に、リリスは逆に不安に思った。どうしてそこまで言ってくれるのか、タツミには悪いと感じつつも、俄かには信じられない言葉だったのだ。
 そのリリスの微妙な感情に気付いたのか、タツミは重ねて言葉を放つ。
 どうしてそんな当たり前のことを訊くのか、という苦笑さえ浮かべて。
「友達が困っているなら、助けるに決まっているじゃない?」
 単純明快。
 リリスはそのタツミの言葉が何よりも嬉しく、僅かでも彼女の言葉を疑ってしまった自分を恥じた。泣きながらタツミに謝罪するリリスに対し、タツミはあくまでも懐の深い笑みを浮かべていた。
 そんな一連のことがあって、リリスは『タツミのためならば自分の命を投げ出してもいい』と思ったものだ。

 だが、皮肉なことに。

 本来ならば孵らなかったであろう魔物の卵は、救世主という強大な力を持つ者の傍に存在し続けたことで孵れるだけの力を得てしまった。卵の成長はアルファ達と合流することによってさらに速まり、化け物や救世主が何人もいるハジメ達のアジトに踏み込んだことで致命的な域に達してしまった。
 魔物は卵から孵り、リリスの身体を乗っ取って殺戮を開始する。
 苗床として取り込まれ、体の支配権を全て奪われたリリスにはどうすることも出来なかった。魔物が本能で人を襲うのを『中』から見ていることしか出来ない。
 魔物は倒れていたタツミや、そのタツミが倒したと思われる破壊尽くされた化け物をも喰らい、その力をさらに増し続けた。

 その魔物の力は――すでに並みの救世主や化け物を凌駕するものとなっていた。
 
 
 
 
 化け物達がアジトとしていた屋敷は、度重なる戦闘の結果、廃墟へと変貌しつつあった。屋敷はいたるところが崩れかけ、もはや無事なところを探す方が難しい。
 そんな屋敷の地下で、その魔物はじっと動きを止めていた。大量に食事を済ませた人間が暫くの間動けなくなるように、その魔物もまた身動きが取れなくなっていた。それも当然のことだ。その魔物は救世主と化け物をそれぞれ一人と一匹分喰らっている。その結果得られた力は途方もないものだが、あまりに急激に力を得たためにその力が馴染むまで時間を有する。
 その途中、全てを苦しめる『声』が響き、魔物の体も一部が破壊されたがすぐに回復してしまった。強い力が再生を促しているのだ。その再生速度たるや、傷口が塞がって行くのが目に見えるほどの回復力。そんな驚異の再生力に魔物の『中』に取り込まれているリリスは慄く。
(そんな……こんな……っ)
 自分の身体を操られる感触はすでになく、リリスは半ば意識だけの存在となっていた。最初、ロザイを殺めた時にはまだ無理やり体を動かされているという感覚があったが、いまではそれすらもない。彼女の身体は元から彼女の身体でなかったかのように勝手に動き、タツミを喰らってしまった。体を動かされている感触はないものの、見る聞くなどの五感はそのまま感じられる。それはつまり、彼女はタツミを自ら殺めるのと同じ感覚を得たということだ。
 後悔は、尽きない。
(タツミ、ちゃん……ごめんなさい……っ)
 彼女は最高の救世主だった。リリスの命の恩人だった。そしてリリスにとって最高の――親友だった。
 そんな彼女を殺めてしまったリリスは、心の中でタツミに対する謝罪の言葉を口にし続ける。喰らってしまっていた途中、もしかしたらタツミの意思が魔物に取り込まれてくるのではないかと淡い期待を抱いたのだが、現実はそう甘くなかった。タツミの意思はどこにもなく、リリスは意識のみとなった自分の存在を噛み締めながら、一人寂しく魔物の中で存在し続けることになっていた。
 それは魔物が行う殺戮を自分がやったことのように感じるということであり、彼女にとっては責め苦以外の何物でもなかった。その行為が魔物の本能によって行われていることであるのは明白だ。『リリスの意思を残す』という行為は一見無意味とも思える。だがそこには魔物らしい思惑があった。
 リリスは誰に教えられたわけでもなく、それを理解していた。魔物に取り込まれ、同一化したからこそわかることだ。
(この魔物……人を殺すことを……私を苦しめることを……っ、楽しんでる……ッ)
 彼女の苦しみが強くなれば強くなるほど、魔物から感じる『楽しんでいる』感覚もまた強くなっている。理性もなく、知性もないはずの魔物がそういった感情を持ちつつあった。
 それがどうして生まれたのか、取りこまれただけのリリスにはわからない。しかしその事実はリリスを戦慄させるのに十分なものだった。
(こんな感情を持った魔物が、知能を持ったら……)
 いくら化け物級ではなくとも、一般の人間にとって魔物とは脅威である。ライルやミツルは魔物を簡単に倒すことが出来るが、それは彼らがこの世界の中で最高の戦士であるからであり、リリスのような一般的な魔可使いやロザイのような戦士、単体ではどうにもならない相手である。徒党を組んでやっと倒すことが出来るのが普通なのだ。
 ゆえに人間への悪意を持ち、それなりの知能を持った魔物が誕生すれば、その被害は想像を絶するものとなることは想像に難くない。いままさにリリスの傍でそんな魔物が誕生しつつある。
(なんとか……何とか、しなくちゃ……!)
 リリスは焦りを持ってそう思う。どうにかして魔物を斃さなければならない。とはいえ――苗床として利用され、意識だけが残されているだけの彼女にはどうすることも出来るはずもない。意識だけで足掻くリリスなど一切気にせず、魔物は取り込んだ力を体に馴染ませつつあった。
 理屈ではなく、同化したことによる感覚でその事実を理解してしまったリリスは絶望に気が遠くなる。
(これじゃあ……もう、誰にも止められない……!)
 タツミという救世主一人と、タツミが倒した化け物一匹。二つの強大な力を取りこんだ魔物は救世主や化け物よりも強い。
 際限なく強くなる魔物に、リリスは恐怖するしかなかった。
 その時、不意に魔物が上を向いた。リリスの意識は、その上に向いた魔物の視界を共有しているため、急に視界が動いたことに驚く。
(な、なに……? なんなの?)
 突然の魔物の行動に不安を感じるリリスだが、その不安は一気に吹き飛んだ。
 安心材料が降って湧いた訳ではない。不安を感じている余裕がなくなっただけだ。
(っ、ぎぃ、あぁ――ッ!?) 
 本来の身体の感覚でいえば股の間。その付近から灼熱の感触がリリスの脳髄を焼いていた。
(なに、これ――!)
 それは体の中から何かが這い出てくる感覚だった。長くて太い者が彼女の内側から現れて行く。その感触の正体を、彼女は本能で悟った。
(蛇……っ!)
 悟ってしまったことをリリスは後悔する。元々彼女を襲ったのは蛇の形をした魔物であり、その魔物に全身を犯された感覚は彼女の中に根強い精神的外傷として刻まれている。そんな彼女が、体の中から『蛇』が這い出て来る感触に耐えられるわけがない。気が狂いそうなほどの恐怖と絶望、そして嫌悪感に意識が千切れそうになる。
 心の底から怯えるリリスに頓着せず、蛇の魔物はその長い体を彼女の中からさらに這い出させていく。
 彼女の体内に収まるはずもない大きな蛇が現れていた。細く長い尾はまだ彼女の身体の中から伸びており、蛇が微かに身動きをする度に彼女は股間を抉られる感触に振りまわされる。
(おわ、った…………?)
 気を抜けば消えてしまいそうになる意識を維持しつつ、リリスは一息をつくことが出来た。
 しかし、安堵するのは速過ぎた。まだ地獄は続いていたのだ。
(熱、い――っ)
 さらに体の中から押し広げられる感触が意識を揺さぶる。もう一匹の蛇が同じ場所から現れていた。つまり、彼女の膣から二匹目の蛇が現れたということだった。出てきた蛇は好き勝手に動き回り、押し広げている彼女の膣を好き勝手に変形させる。体が半分に千切れそうなほどの激痛だった。
 二匹の蛇は一斉に口を開き、その触手のような舌を伸ばし始める。異様に伸びる舌は上方に向かって伸びて行った。何をするつもりなのかリリスにはわからなかったが、それを考えている余裕はない。
 彼女の口が勝手に開き、顎が外れてもなお開き続け、限界を越えた頬が裂けてもなお開く。肉が千切れる音と、体が変形していく激痛にリリスは気が狂いそうだった。体の千切れる激痛を感じながら、リリスは自分の身体が人間の身体からどんどん逸脱していく恐怖に震える。
(もう……やめ、て……)
 そんなリリスの哀願に魔物が耳を貸すわけもなく。
 人間を丸のみにできそうなほどに彼女の身体の口は開いた。頭部だけではなく肩口までもが裂けている。リリスは魔物がそんな変化をした理由をすぐに知ることになった。
 先ほど上方に伸びていった触手が、何かを絡め取ってきたことに気付いたからだ。。
 その舌の触手の先には――触手に全身を貫かれたミツルがいた。すでに致命傷を負っているらしく、ほとんど痙攣のようにしか動いていない。
(ミツル……さん……っ)
 さほど関わりのあった相手ではないが、その無残な姿を見せつけられてリリスは再び後悔の念が強くなるのを感じる。
(私の……せいで……ッ)
 魔物に襲われ、卵を体内に宿してしまった。それだけならともかく、我が身かわいさのあまり、無理にタツミ達についてきてしまった。そのせいで、魔物はロザイやタツミを殺し、いままさにミツルまでも殺そうとしている。
 この世界における最高の魔可戦士であるミツルを、失うことになった。
(あああ、ああああああ……ッ)
 後悔はただの呻きとなってリリスの心の中で虚しく響く。
 その間にも、大きく開いたリリスの口は、ミツルをその中に呑み込もうとしていた。ミツルの身体がすっぽりと入り、『口』が閉じる。
 体の中で人間が噛み砕かれるという、形容しがたいほどにあり得ない感覚がリリスの精神を責め抜いていた。
(い、いやぁあああああッ!!)
 肉が潰れ、骨が折れ、血が満ち、咀嚼するたびに嫌な感触が体中に広がる。気絶することで逃れることも出来ず、意識だけのリリスは『人間を喰らう』感触を再び味わうことになった。
 吐き気と嫌悪感と後悔の慟哭がリリスの中で響き続ける。彼女の精神は崩壊寸前だった。

 ところが、突如としてその感覚が一変する。

 リリスは感じていた嫌悪感や後悔が突然消し飛んで、呆気に取られた。突然何も感じなくなった、という表現が正しい。
(え、なに――?)
 不自然なほどに平静になった意識の中でリリスは疑問符を出す。その疑問はすぐに解消した。一瞬気付かなかったほどの強い『想い』が魔物の『中』を塗り潰していたのだ。
 それを最初から理解出来ていたら、リリスのちっぽけな意識はその『想い』に呑み込まれて消えていただろう。あまりにも大きすぎるために認識出来なかったことは、リリスにとって数少ない幸運だった。
(なんなの、これ……?)
 リリスはそれが何なのか全くわからなかった。大き過ぎる象の真下に立った時、その象が何をかたどっているのかわからないのと同様に、あまりにも大きすぎる感情が何なのかリリスは咄嗟にわからなかった。
 魔物が抱いていた『人を苦しめることで楽しむ』感情など、気のせいだったのではないかと思うほど、その感情は途方もなく大きな感情だった。
 その感情は、怒り。
 リリスはそれがミツルから受け継いだものなのだと察する。その感情はあっさりと魔物を支配してしまった。
 魔物は凶悪な叫び声をあげ、衝撃波で周囲を根こそぎ破壊しながらその体躯の質量を飛躍的に増していく。辛うじて人の身体の輪郭を保っていたリリスの身体はあっさりとその蛇の質量の前に呑み込まれて消えてしまう。蛇の魔物はその身体をさらに巨大化させ、より破壊に適した姿に、より広範囲を薙ぎ払うための姿に変わって行く。
 その凶悪な咆哮は、遠く離れた町の住民すらも恐怖のどん底に陥れた。
(う、あ、ああああッッ……!)
 あまりに凶悪な声の発生源にあるリリスの精神は悲鳴をあげて消し飛ばされそうになる。その苦しみは誰に伝わることもなく、彼女にはどうすることもできなかった。
 精神が消えそうになったが、その寸前、リリスの心に一人の救世主の姿が浮かぶ。
 それはタツミの姿だった。どんな状況でも決して退かなかった強い存在。救世主に相応しい人格。その輝かんばかりの存在感。
 リリスを友達と呼んだ――その優しい声。
(まだ、だ……ッ)
 消えそうな意思を振るい立たせ、リリスは自意識を保つ。荒らしの中に放り込まれた一枚の木の葉のように、意識を保ったところで事態が好転するとは思えなかったが、それでも意思を保って存在を保つ。
(諦め、ない…………ッ)
 それが彼女に出来る唯一のことだった。
 
 
 
 
 その魔物は怒っていた。
 何に、なぜ、などと疑問は持たない。
 ただ荒れ狂う感情に従い、一人の人物を目指して動き続ける。それがどこにいるのかも考えなかった。敵と認識したかその者に目掛けて行動する。それはその周辺一帯の破壊へと繋がっていた。館の崩落に巻き込まれて誰が死のうと関係なく、魔物は動き続け、むしろそのついでのように巻き込まれた人間も食い尽くしていく。救世主や化け物を食らうのに比べれば微々たるものだったが、それでも喰うことで魔物は力を増していく。
 さらに力をつけようとしているのか、魔物は館の敷地の外にまで触手を伸ばしていた。『声』の影響で気絶した人間や身動きがとれない一部の意識あるものも関係なく、目についたものを片端から喰らい尽くして いく。その光景はまさにこの世の終わりのようにも見えた。このまま魔物が力を付けていけばまさに悪夢としか言えない状況になるだろう。
 その悪夢を止められる可能性を持つ鼠の化け物――ハジメは目にした光景に唖然としていた。
 想像を越える最悪の事態が進行しつつあることに、彼はようやく気づいたのだ。慌てて唯一残った手駒である洗脳した救世主ミツキに命令を出す。
「ミツキ! やつを倒せ! これ以上この町で好き勝手させるな!」
 ただ大きいだけの魔物だと考えたのか、ハジメはそんな命令をミツキに向かって放つ。当然、洗脳されているミツキはそのハジメの命令に躊躇いなく従って魔物に向けて走り出した。
(だめ――ッ!)
 いまだ魔物中で意識を保っていたリリスは、叫んでその無謀さを伝えたかったが、彼女の身体と言えるものはすでに跡形もなく消えてしまっている。意識の中でどれほど叫んでも通じるわけがない。
 ミツキの一撃は蛇の体表に浅い傷を刻んだだけで虚しく弾かれた。力の差を考えればそれだけでも十分なほどの戦果だったのだが、それでどうなるわけではない。
 攻撃されたことでミツキの存在に気付いた蛇は、その触手のような舌をミツキに向けて伸ばした。ミツキはそれを危ういところで避けるが、今度はもう片方の蛇の頭が彼女を狙って大口を開けて迫る。それも避けてミツキは一閃を蛇に叩き込む。血が滲む程度の傷にしかならない。
 やがて蛇の攻撃を避けきれなくなったミツキが蛇に捕まり、あっという間に蹂躙され、喰らい尽くされることであっさり決着がついてしまった。
「なっ……!? 馬鹿な!」
 まさか魔物がそこまでの力を持っているとは思っていなかったのか、ハジメは硬直してしまう。今度はそんな彼に向けて一斉に触手のような蛇の舌が襲いかかる。咄嗟に逃げようとして跳んだハジメだったが、一本の触手が狙いたがわず彼の足を貫いた。彼の足を地面に縫い付けてしまう。
「ぎゃあっ!」
 叫び声をあげるネズミの頭上に再び無数の触手が揃う。絶体絶命の状況だった。触手の先端がハジメの方を向き、一斉に突き出される。
「ひっ――や、『やめろ』!」
 頭を抱えながら咄嗟にハジメはそう叫んでいた。その声が響いてすぐ無数の触手の動きが一斉に止まる。
 最初、止まったことが信じられなかったのかハジメは呆けた顔をしていたが、自分の言葉が通じたと思ったのか会心の笑みを浮かべる。
「や、やった……俺の力が、通じ――」 
 その安堵は長くは続かなかった。


「なにを――しているんですか?」


 凄まじい圧力が込められた幼い声。
 いつの間にかハジメの背後に何者が経っていた。
 ハジメの笑みが凍り付き、錆びた機械仕掛けの人形のように硬い動きで背後を振り返る。
「だ、だれ、だ……?」
 その人物が誰なのか、ハジメは理解できていない様子だったが、リリスはその存在が誰なのかを知っていた。
(アルファ……さん……!)
 救世主アルファ。タツミと同じ世界を救うはずの救世主。幼い容姿に似つかわしくないほどに聡明で、タツミとはかなり違う気質の救世主。リリスとは関わりが深い方ではなかったが、同じ女性であるということもあり、それなりにやり取りのあった間柄だ。
 だが、リリスはそこに現れたその人物が『アルファ』だと思えなかった。いまや精神だけの存在となり、魔物の感覚に同調しているリリスは、人間の時には感じりられなかったアルファの存在感をはっきりと感じていたのだ。その感覚に従えば、違和感が大きすぎる。
(本当に……アルファ、さん、なの?)
 リリスがそう思ってしまったのも無理はない。アルファはその小さな体躯に似合わぬ強烈な威圧感発していた。
 その圧倒的なまでの威圧感は、不安と驚異を同時に感じさせる恐ろしい感覚をしていた。端的に現すならば、その威圧感はこう評するべきだろう。

 禍々しい、と。

 アルファの視線がハジメからリリスに――正確には魔物に――向けられる。
 その瞬間、リリスはそれが畏怖によるものだとはっきりわかる怖気を覚えた。
(なに、なんなの、これは……ッ)
 彼女のことをリリスは救世主だと思っていた。タツミと性質は違えども、アルファもまた一人の救世主なのだと。世界を救うために活動してくれる、異世界からの使者だと。
 だが、違った。違うとしか思えなかった。
 アルファから感じる気配は、どう考えても化け物のそれに近い。目の前にいるハジメという化け物の放つ禍々しさと、アルファのそれは良く似ていた。一方、リリスと同じようにアルファを捉えたハジメは困惑しきっている表情を浮かべていた。
「お前、は……一体……?」
 そんな彼に対し、アルファはリリス達に見せたことのない冷たい表情で言い捨てる。
「黙っていなさい。あなたにはあとで言いたいことがたくさんあります。暫くはそのままそこでじっとしていなさ――」
 中途半端なところで言葉を切ってアルファが立っていた場所から飛び退く。アルファの立っていた場所を、蛇の繰り出した触手が根こそぎ蹂躙した。救世主や化け物達を遥かに超える力の蹂躙。もしもアルファが避けていなければ肉片になっていたかもしれない。
「いきなりですか、全く」
 忌々しげに呟いたアルファに向けてさらに触手が放たれる。今度こそリリスはアルファを仕留めてしまったと思った。
 だが、その認識はあっさりと覆される。
「まあ、話が出来るとは思っていませんでしたが」
 アルファは言葉のついでに腕を振るい、放たれた触手を薙いでしまった。触手は引きちぎれて宙を舞い、地面に落ちて消滅する。あまりに自然な動きだったため、魔物に同調しているリリスにしかアルファが触手を引き千切ったのだということはわからなかった。
(どうして……? この魔物は、三人分の力を得ているのに……)
 確かに蛇の触手のような舌は蛇の身体の中でもっとも脆いところであり、千切れやすい個所ではある。しかし救世主二人分、化け物一匹分の力を得た蛇の耐久力は一番脆いところでもそう易々と千切れはしない域に達しているはずだった。リリスはその事実に違和感を覚える。
 だが、魔物はその事実に直面しても怯まない。三つある蛇の頭のうち、二つがアルファに襲いかかる。さすがに蛇の首を千切ることは難しいのか、アルファはさらに大きく飛び退いてその攻撃を避けた。魔物は怒りのままにアルファに襲いかかるが、アルファは素早く身を避けていくため中々当たらない。
(なにを、考えて……?)
 リリスにはアルファの意図が読めなかった。逃げ回り続けているだけで何の意味もないように見える。むしろ、仕留めるに仕留められない魔物は益々怒りを増し、激しい攻撃を繰り返している。火に油を注いでいるようなものだ。それでも、アルファはあくまでも避けることに全力を注いでいる。
 やがてそんなアルファに業を煮やしたのか、魔物は大きく口を開け、その口内に光を満ちさせた。
 次の瞬間、魔物の口から放たれた光が、さながら竜巻のごとく進路上にあった物を破壊しながらアルファに迫る。アルファは力の限り横に跳び、その光を避けた。もっとも、蛇の頭部は複数ある。アルファが避けた場所に向けてさらなる光が放たれた。さすがのアルファも逃げた先を狙い続けられると逃げ切れない。
 放たれた光にアルファのいた場所が凪ぎ払われる。渦巻く光は遥か遠くにまで達して大爆発を巻き起こす。その光景はまるで怪獣映画でも見ているかのようだった。
 アルファを仕留めた魔物からは大きな喜びが感じられた。轟かせる咆哮も心なしか嬉しそうに感じる。
(あ、アルファさん……ッ)
 光に呑み込まれたアルファ。禍々しさを感じていたとはいえ、仲間だった者をまた失ったリリスは再び後悔に浸りそうになってしまう。
 そんな彼女の目に、信じがたい光景が広がる。
「虎もやっていた純粋な力の放射ですか……さすがに化け物以上の力でそれをやられると、威力が半端ないことになりますね」
 アルファの声が目の前から響いた。怪獣並みに大きくなっている魔物の目の前。アルファが巨大化したというわけではない。
 風を切る鋭い音が断続的に響いてくる。
「初めてこちらに来た以来ですが……案外、こういうことは体が覚えているものですね。上手く飛べなかったらどうしようかと思いましたけど」
 アルファは空を飛んでいた。その背中には巨大な翼が広がっている。コウモリのそれに酷似したその黒い皮膜を持つ翼は、アルファの幼い体躯には似つかわしくない邪悪さを感じさせる代物だった。
 攻撃を避けられたことに苛立ったのか、蛇の魔物が次々光を放つ。だが、左右だけではなく上下にも避けることが出来るようになったアルファに直線的な攻撃が当たるわけがない。
 アルファを狙った攻撃はことごとく空を切り、全く関係ないところで炸裂する。
 そうやって五分ほどが過ぎた頃だろうか。
「さて……もういいでしょうか」
 逃げ回っている時も冷静沈着だったアルファは、不意に空中にぴたりと制止した。隙だらけの状態。魔物は攻撃を仕掛けようとし、口を大きく広げたが、その口内から光は発されることがなかった。
 リリスは魔物の中にいながらも、その理由がわからず戸惑う。その疑問が通じたわけではないだろうが、アルファがその答えを口にした。
「いくら力があっても、無限でないのならいつかは尽きるでしょう。それもあんな風に『力』を適当に振るっていれば……尽きるのも早い」
 アルファが両手を広げて炎を生み出す。
「卑怯なやり方なのはわかっていますが、知能もない魔物に対し、まともに付き合ってあげるつもりはありません――消えなさい」
 これまで放ったどんな魔可よりも強力なものをアルファは掌に生み出していた。
 アルファの手から放たれた炎の魔可は、まるで意思を持った蛇のように自在に動き、蛇の全身をあぶるように燃やし始める。
 蛇の断末魔が聞こえてくるようだった。全身が燃え、焦げくさい臭いが広がって行く。
 勝負あった。そうその場にいた誰もが思ったはずだった。リリスもまた、これでようやく誰も殺さなくて済むと安堵したくらいだ。
 しかし、蛇の魔物は燃えながらもアルファに向けて光を放った。咄嗟にアルファは腕でその光を弾いたものの、一拍遅れてその腕から血が噴き出す。
「ぐっ……! まだ、動くのか……!?」
 容姿に似つかわしくない言葉を呟いたアルファは、慌てて翼を使い、空中を高速移動する。そのアルファを狙って幾多もの光の筋が放たれ、時には蛇の頭そのものがアルファへと襲いかかる。アルファは炎を生み出して牽制しつつ逃げ回るが、それを遥かに超える勢いで蛇は攻撃を繰り返し、アルファの放った炎を突き破ってアルファの本体そのものを打ち据える。
 落下していくアルファに、残る首が狙いを定めて噛みついて行く。アルファは体を回転させつつ翼を使って体を捻り、その牙を交わすが、翼に牙が触れて引き裂いた。さらに毒まで与えていたのか、翼は千切れたところからどんどん崩れて行く。アルファは咄嗟に翼の根元を切り落とし、それ以上毒の影響が広がることを防いだ。
 地面に降りたアルファは間髪いれずに走り出し、炎をばらまきながら駆けて行く。その炎のばらまき方があまりに無頓着だったため、リリスは不審に思った。
(何かを……狙ってる?)
 咄嗟にそう思ったリリス。すると何も考えずまっすぐアルファを狙っていた蛇の頭が、急に進路を変え、炎がばらまかれた地帯を避けてアルファに迫る。アルファはその事実に驚愕の表情を浮かべたが、動揺は少なかったのか、すぐに新たな炎を生み出して魔物を攻撃する。蛇の魔物は素早くその攻撃を避け、しつこいほどにアルファを追う。
 再び炎をばらまいたが、蛇はその周辺を避けてしまう。ここで初めてアルファの表情が不愉快なものに彩られた。
「……知能を持たないはずの魔物が、ずいぶん知的に動きますね」
 そのアルファの小さな呟きを聞いたとき、リリスは自分の意思が消えていない理由を悟った。
(まさか、この魔物……! 私の知恵を……知識を……!?)
 自分の知識や知能を利用するために存在を許されているのだ、とリリスは悟る。意識の消滅に自分自身の意思で抗っていると信じていた彼女にとってそれは知りたくもない現実だった。
 もはやリリスはどうすればいいのかもわからず、ただ外の光景を眺めるだけだった。目を閉じることも、意識を途切れさせることも出来ない彼女は外の光景を眺め続けることしか出来なかった。
 一方、アルファは再び逃げに入っていた。しかし魔物も学習してしまったのか、リリスの思慮を読んだのか、大ぶりの攻撃や光の放射による攻撃はほとんどしなくなり、アルファを追いまわす片手間に町の人間を喰らい、若干の体力回復を計っていた。広がって行く町の犠牲を見てか、忌々しそうにアルファの表情が歪む。
「……やむを得ないか」
 アルファは何かを覚悟した顔をしていた。真正面から魔物と向きあう。
 動きを止めたアルファを、魔物の三つ首が慎重に囲んで重圧をかけ始めた。
(アルファさん……何を考えて……?)
 そうリリスが思う間も一瞬のことだった。
 まず魔物の触手が一斉にアルファに襲いかかった。だがその瞬間、アルファの全身が炎に包まれ、アルファを捉えようとしていた触手達は一気に焼き払われてしまった。
 アルファの身体が炎に呑み込まれてすぐ、『それ』は姿を現した。

 龍。

 どちらかと言えば蜥蜴のそれに近い姿をしたその龍は、魔物に負けないほどの巨大な体躯を有していた。
(うそ……アルファさん、って、やっぱり……っ!)
 アルファに畏怖を感じた時から薄々考えていたことだった。翼を広げたときにはそれは半ば確信に変わっていた。
 そして今、それは事実となってリリスの前に姿を現している。
(アルファ、さん……龍の化け物、だったん、だ……)
 驚愕と困惑に支配されるリリスの心を置いて、魔物が動く。的が大きくなったことを喜ぶように龍の――アルファの――首に噛みかかる。アルファは避ける様子もなく、その首に蛇達の牙を受けた。
(あ、いけない!)
 咄嗟にそう思ったリリス。魔物の牙が龍の首に食い込む感触が彼女にも伝わって来ていた。
 それと同時に、三本ある蛇の首の内、二本の首に牙が食い込む感触も感じた。
(え――?)
 突然の感覚に驚くのも刹那のこと。いつのまにか増えていた龍の首が、二本の蛇の首に噛みついていた。蛇の魔物と同じく、龍の化け物もまた三本首になっていたのだ。最初の一本に蛇の攻撃が食い込んだ後、現れた二本の首が隙だらけの蛇の首に噛みついた、というわけだった。反撃を許さない位置に噛みつかれた蛇はどうすることも出来ない。龍の首から牙を話して暴れるが、どうやら二つの存在の力は互角らしく、どれほど暴れても振りきれなかった。
 やがて龍の首が一本落ちるのと前後して、蛇の首が二本落ちる。すぐに再生して元通りになるが、また二つの存在は噛み合い、壮絶な喰らい合いが展開される。
 憎しみを糧に噛みつき続ける蛇に対し、龍はあくまでも冷静に三つ首を有効に使い、蛇の首を噛み千切る。勢いを持つ蛇と、無駄を省く龍。
 どっちが勝ってもおかしくはない戦いだった。
 しかし、蛇は最初の頃に疲れさせられていた。その僅かな疲労の差が勝敗を分けたのだろう。
 ある時から急に蛇の動きが鈍り、その一瞬の隙に蛇の首が三つとも同時に落とされる。そうなってしまえばあとは一方的な展開になった。首が再生するまでに龍がその個所を喰らい、さらに再生しかけたところをさらに食らう。
 喰らいつくされていく魔物からは怨嗟の想いが発せられていた。
 リリスはその想いを感じながら、全身がバラバラになる感触も覚えていた。魔物がやられたからか、意識は急激に薄れて行き、朦朧とした意識が漂う。
 不意に、リリスは『自分の身体』が放り出される感触を覚えた。
(あれ――わたし――からだ――?)
 無くなったはずの身体の感覚がある。それは、まだ魔物の中に呑み込まれきれていなかった『彼女の部分』だった。魔物の大部分が破壊され、核となっていたリリスの身体を保持出来なくなったのだ。だから消え切っていなかった彼女の身体が出てきたというわけだった。
 もっとも、解放されたからといって、それは救いを意味しない。
 なぜなら、半ば消化されかかったところで胃袋から取り出されたようなものだからだ。すでに体の輪郭はまともにのこっておらず、全身の皮が溶けて筋肉が剥き出しになっている箇所さえある。痛みを感じる神経も焼け切っているのか、痛みを感じないことが唯一の救いと言えた。痛みでショック死することが出来ないのは、救いと言えないかもしれないが。
 眼球も溶け、目が見えるはずもないのだが、リリスは外界の状況を認識していた。それは魔物と同一化したことによって広がった感覚の一つだ。目から得ているわけではない視界で、リリスは近づいてくるアルファを捉えた。
(あるふぁ、さん……)
 人型に戻ったアルファは、その身に現れた時とは違う服を身に纏っていた。普通の服と違い、妙に輪郭がぼやけて見える服だ。その服を羽織るようにして、彼女はリリスに近づいて来ていた。
 相変わらず禍々しい気配を放っているアルファではあったが、リリスはその瞳に微かに悲しみの感情が浮かんでいるのを見て取る。
(どうして――)
 不吉な気配を醸し出しながらも、年相応な、まるで泣きそうな表情を浮かべている彼女を、リリスは不思議な気持ちで見つめる。リリスに対する憐れみかもしれなかったが、なんとなくリリスはそれが違うように思えた。
(たすけられなかったことを……こうかい、して、いるの……?)
 アルファがその掌をリリスであったものに向ける。 
 そこから放たれた炎は、穏やかにリリスの身体を包み、焼いた。
(ああ――)
 リリスはその全身を焼く炎の熱を感じつつも恐怖はなく、気持ちは穏やかだった。恐ろしい力の持ち主だと思っていたアルファにも、人間らしい感情がきちんと見えた。自分を――おそらくリリスだとは気付いていなかった。喰われた人間が消化されかかっていると考えたのだろうが――助けられなかったことを悔やむ気持ちも感じた。
 生かしておいたら世界が終わるような危険人物ではないことは十分わかった。むしろ、リリス自身を、蛇の魔物を放っておけば世界が終わっていたのかもしれないのだから――アルファはそういう意味で正しく『救世主』だった。
(ごめん、なさい……)
 リリスは燃え尽きる自分の身体を感じながら、アルファに向けて謝罪の言葉を送る。
 何に対する謝罪かは彼女にもわからなかった。
(ありが、と――――)
 その想いや言葉がアルファに届くことはない。
 リリスの意識は、体と共に燃え尽きて、消えた。
 
 
 
 
 摩可使いリリス。
 龍の化け物アルファの手により――死亡。
 
 
 
 
『千編万花』第十七章に続く
 
 
 
 

Comment

No.728 / 名無しさん [#-] No Title

タツミ、マサル、牛、ミツキ+その他大勢
vs
アルファ、虎、兎

不利かなとも思いましたが虎が捕食してたらそうでもないのかな、それも無いと思いますが
それにしても、存在するだけで周囲に影響を与えるとは・・・

2012-07/01 12:17 (Sun)

No.732 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

コメントありがとうございます!

> タツミ、マサル、牛、ミツキ+その他大勢
> vs
> アルファ、虎、兎
>
> 不利かなとも思いましたが~
面白い組み合わせですね。
もしもこれが実現していたら……どうなったでしょう。
実際虎は単体の戦闘力では随一なので、彼を上手く活用できればアルファ側にも勝利はありえます。アルファの場合、兎も遠慮なく使うのでかなり優位ではあったと思いますが……。

> それにしても、存在するだけで~
それだけ並外れた力を救世主や化け物は持っているのです。
某ハンター漫画で例えると、普通は体の周囲数センチだけに纏われている念のオーラが、デフォルトで10mスパンに広がっている、みたいな。
実は彼らが傍にいるだけで周囲の生物が活性化するので、重病人とか怪我人とかの傍にいればそれだけで治療になります(笑)。

それでは、本当にありがとうございました!

2012-07/01 23:15 (Sun)

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