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『千編万花』 第十一章 前半

『千編万花』の続きです。
それでは続きからどうぞ。

(2012/04/30)
 キリのいいところまで続きを書くのが難しくなってきましたので、その11は前半と後半に分けたいと思います。
 完結後、統一するかどうか考えます。

 
『千編万花』 第十一章 前半



 虎は自分が殺した戦士が地面に倒れ、動かなくなるのを最後まで見つめていた。少しの間、虎は寂しげに戦士の亡骸を見ていたが、戦士が完全に動かなくなったことを確認すると、躊躇なく視線を外してしまう。
 彼にとって大事なのはあくまで戦っていて楽しい相手であり、それまで楽しんで戦った相手であっても、すでに動かなくなった相手は興味の対象外なのだ。
(……ふむ、中々楽しかったが、やはりもう少しやりあえた方が楽しいな。一撃勝負だと一瞬で終わっちまう)
 瞼の傷から流れてきた血が目にかかる。彼は鬱陶しい気分でそれを振り払おうとするが、粘性がある血は頭を振るだけでは簡単には振り払えなかった。
(ちっ、鬱陶しい。こう言うときは獣の姿は不便だな)
 人の姿であれば服の裾で簡単に拭うことが出来ただろうが、虎はもちろん拭えるようなものを身に付けていない。
 前足で拭ってみるものの、効果は微妙なところだった。むしろ余計に血が広がってしまい、鬱陶しさが増す。
(駄目か。まあいい。今日はこれで戻――)
 踵を返しかけた虎は背筋が泡立つ感覚を覚え、咄嗟にその場から飛び退く。
 直後、彼が一瞬前までいた場所が異常な力によって爆散した。
 その爆発の中央には、いつまにか近付いて来ていた救世主の一人、タツミの姿があった。ただの拳の一撃で爆撃のような威力を出したのだと虎は瞬時に理解する。
 彼女は怒りに燃える目で虎を見据えていた。その苛烈な瞳の光に虎は楽しげに表情を歪める。
(そうだ――まだこいつがいたんだったか)
 楽しめそうな相手の存在を思い出した彼は、即座に臨戦態勢を取る。
(前にこいつと戦おうとした時は邪魔が入ったからな。だが今回はその心配はない)
 以前邪魔した相手はすでに存在しない。心置きなく戦える。
「よくも――よくもライルさんを! 絶対に許さない!」
 悲しみを含んだ救世主の叫び。虎はそれを獰猛な表情で受け止める。
『ふん。死んだヤツなど、どうでもいい。俺が興味があるのは、お前が果たして俺とやりあえるほどに強いのか――それだけだ!』
 虎は激しく唸り、跳躍の構えを取る。すかさずタツミも拳を構えた。
 一触即発の状態。
 だが、その睨み合いはあっさりと中断させられた。
 轟音と共に、竜巻が二人の間に割り込んだからだ。
(……っ! こいつは――)
 驚いた二人が竜巻の発生源を見ると、そこにはもう一人の救世主がいた。彼女が魔可を使用し、風を起こして二人の間に竜巻を作ったのだと虎は理解する。
 その幼い容姿の救世主は厳しい顔付きで虎を睨みつつ、タツミの方へと声を投げる。
「いけません、タツミさん! 冷静になってください! いくらタツミさんでも、強引に攻めたらやられてしまいます!」
「……っ!」
 その言葉にタツミの動きが止まる。
『あのガキ……』
 彼女の一連の言動を見た彼は、一見幼いその救世主に対して警戒する気持ちを抱く。
 仲間である戦士がやられたのに、妙に冷静なのだ。外見通りの年齢なら、タツミという救世主と同様に激昂して襲いかかって来るか、あるいは戦士の亡骸にすがり付くか、だろう。
 そのいずれでもないとすると――虎のその考えは目に血が入ることで中断させられる。
(ちっ、いずれにせよ、この状態じゃ、存分に楽しめなさそうだな)
 そう判断するが早いか、虎はその体躯を空中に舞わせる。軽々と飛び上がった虎は、近くの家屋の屋根の上に危なげなく着地する。
 上から二人の救世主を見下ろしつつ、虎は口を開く。
『今日はこれで去ろう。お前との戦いはまた次の機会に持ち越しだ』
 殺意を持って睨み付けるタツミの視線など意に介さず、彼は首を巡らせて周囲の状況を確認する。すでに大きな騒動は収まっているらしく、ざわめき以上の騒ぎは聞こえてこなかった。
(……あいつら、もうやられたのか? やはりネズミの力で無理やり戦わせるレベルではこんなものか)
 そう思った虎の傍に、仮面を被った存在がやって来た。その姿はボロボロで、激しい戦いを繰り広げたことが窺い知れる。
『お前、生きてたのか。救世主二人を相手にして大したものだ。……まあいい。それなら帰るぞ。今日はもう十分楽しんだ』
「…………」
 虎の言葉に、仮面を被った存在はなにも言わず、ただ頷くことで応える。
 彼は最後に救世主達を一瞥すると、躊躇なくその身を再び空中に舞わせた。屋根の上を伝って町中を駆け抜けながら、虎はふと考える。
(ああ、そういえばこいつ以外にも連れてきた奴らがいたな。まだ生きていたら回収してやるか。出来る限り連れて帰れとハジメに言われていることだし――)
 気紛れのようにそう考えた虎は、その進行方向を町の入り口へと向ける。
 虎を止められるような存在はこの街にはもういなかった。


 ネズミが拠点としている町の住民はすでに全員が彼の力の支配下であり、仮に虎や仮面を被った存在が真正面から街に入ったところで騒ぐものはいない。だが、万一支配下でない人間が町に入っていたり、外から町に入るところを誰かに見付かってはまずい。そこで虎たちは見つからないように注意しつつ、忍んで街に入った。
 虎が活用している秘密の入り口から地下へと至る。白骨の転がる通路を経て、彼が寛ぐ部屋――彼の自室とも言える――に辿り着いた。
 部屋では相変わらず鎖に繋がれた状態の奴隷が待っていた。その表情は穏やかで、以前のような虎に対する畏れは無くなっている。重量感のある足音から、虎が返って来たことを悟っていたらしい彼女は、入口の方に笑顔を向けていた。しかしその笑顔はすぐ消えることになる。
「おかえりなさ――っ、ど、どうなさったんですか!」
 虎が血を流していることに気付いた奴隷は多いに驚いていた。彼女は虎という存在が怪我をしているところを見たことがなかったのだ。ゆえにその驚きも当然だったのだが――虎は呆れたような顔付きになる。
『どうしたも何も、怪我したんだよ。瞼の上で固まってる血が鬱陶しいから落としたい。さっさと拭け』
 求められた奴隷は、慌ててそのための準備を始める。虎はその間に立ち尽くしている仮面を被った存在に指示を出す。結局、彼女以外に連れて帰ったメンバーはいなかった。
『お前は上に行ってハジメの奴に事の次第を報告してこい。俺もあとから報告しに行くが、一秒でも早く話を聞きたいのならハジメの方からこっちに降りてくるように伝えろ。その後は傷の治療でもするんだな』
 虎のおざなりでありながら必要なことは言っている指示に従い、仮面の存在は部屋を出ていく。
 それを見送った後、虎は血で寝床を汚さないように、寝床ではなく部屋に入ってすぐの床に寝転がる。すでに固まっている血ではあるが、万が一にでも寝床を汚すのを避けるためだ。
 奴隷は準備した柔らかな布に水を含ませ、丁寧に虎の身体を拭っていく。幸い、傷口はすでに塞がっていたために染みることはない。
 黙々と作業を続けていた奴隷の女性がその口を恐る恐る開く。
「…………タイガ様が傷を負うなんて、相手はどんな化け物だったんですか?」
『化け物、か』
 本来化け物と呼ばれるべき虎は、奴隷の言葉に苦笑を浮かべる。
『まあ、中々歯応えのある相手だったな。この世界の人間にしては上出来だった』
 虎は全てをかけて打ち合った最高の一撃のことを思い出す。血が沸騰するくらいに楽しかったあれほどの戦いは、これまでには救世主相手の時にしかなかった。
『救世主との戦い以外であんなに楽しめるとはな。あまり考えたことはなかったが、この世界の人間も視野に入れてみるか』
 ニヤリと笑って見せる虎に対し、奴隷の女性は複雑な表情を浮かべる。
「……あまり無理をしないでください、ね」
 なぜ奴隷に心配されなければならないのか。虎の頭に疑問符が浮かぶ。その意味を問いただそうとした時、部屋の扉が開いてハジメが現れる。
「タイガさん! 大丈夫ですかっ」
 慌てた様子のハジメに、タイガは呆れたような顔になる。
『慌てるな。大した傷じゃない』
 ハジメは虎の様子を見て確かに深い傷じゃないことを確認すると、あからさまに安心した表情を浮かべる。
「焦りましたよ……あなたが負傷したなんて聞いた時は……戦った相手は救世主ですか?」
 化け物とこの世界の住民が持つ基礎能力の差は明らかで、そのことは戦闘向きではないハジメにもよくわかっている。だからハジメは十中八九虎に傷を付けたのは救世主だと考えていたが、その予想を裏切って虎は首を左右に振る。
『いや、俺にこの傷を与えたのはただの人間だ。相当鍛えてはいたようだがな』
「この世界の人間にそんな化け物が……?」
 息を呑むハジメに、虎は苦笑を浮かべる。
『俺達が化け物だろうが。……まあ、それはそれとしてハジメ。救世主どもについてきちんと報告をしておこうと思うんだが』
 救世主の情報を得たらすぐに報告する、という約束を虎は忘れていなかった。豪快な性格の虎だが、約束したことに対しては律儀な対応をする彼を、ハジメは意外に思いつつもありがたく受けることにしたようだ。
「そう、ですね。わかりました。お願いします」
 虎は赴いた街であったことをハジメに話して聞かせる。ハジメはずっと険しい顔を浮かべてその報告を聴いていた。


『――ということでな。どうもあの救世主には違和感を覚える。タツミとやらは外見相応の対応だったがゆえに、余計にそう思うのかもしれんが』
 虎は一通り説明をし終わった。それを黙って聴いていたハジメは眉を潜める。
「……なるほど。違和感、ですか……それはもしかすると……」
『ん? なんだ、思い当たる節でもあるのか?』
 ハジメの反応に対し、虎が問いを投げかける。ハジメはゆっくりと頷いた。
「ええ。実はここ数日、放った間諜からある程度の情報が集まって来ていまして」
 相槌を打つ虎に対してハジメは丁寧な説明をする。
「まず、それによるとですね、ミツルという名前の救世主なんですが……どうやら、ミツルと言う名前ではないようなんです」
 その言葉に虎は目を見開く。
『なに? 俺の記憶違いだったのか?』
「ええ。残念ながら。しかし完全に外れているというわけでもないようでして……端的に言うと、ミツルというのは救世主の付き人の名前みたいなのです。若いながらに魔可戦士を名乗ることを許されているいわばエリートですね。恐らくはそれで混同してしまったのではないかと」
『むぅ……なるほどな』
 間違った情報をハジメに伝えてしまっていたことに気付き、苦い顔をする虎。それに対し、ハジメは「気にしないでください」と朗らかな笑みを浮かべていた。
「ミツル、なんて名前を聴いたら普通は救世主の名前だと思ってしまいますよね。私も同じ状況下でそういう勘違いをしないという自信はありません」
 まあそれはそれとして、とハジメは続ける。
「幼い容姿の救世主の名前は『アルファ』というらしいです。その名前で話していたところを聴いた情報なので間違いないです」
『あるふぁ? どういうことだハジメ? 現れる救世主と化け物は全て日本人というのがお前の推測だっただろ?』
「ええ、そうですね。これまで会った化け物も救世主も皆日本人の名前でした。だからこそ私は『召喚されている者は皆日本人』だという推測を立てた訳ですが……アルファという名前の救世主がいる以上別の可能性を考えなければなりません」
『ふむ、それで?』
「こういうのはどうでしょう? 召喚される基準は人種ではなくいた場所によるのだと。日本のパワースポットとも言える場所にいた人間が無作為に召喚されているのではないでしょうか?」
『ない話ではないと思うが』
「貴方や宇佐美のカナミがいた地域から考えると、日本中から召喚されているのはわかります」
『ふむ、それで?』
 再度繰り返された質問にハジメは首を傾げた。
「それで、とは?」
 彼の素朴な疑問に対し、虎は呆れ顔を浮かべる。
『いや、だからそれがわかったから何になるんだ? 何か俺達が有利になることがあるのか?』
 ある意味真理を突いた質問に、ハジメは固まる。仮にどんなことが判ってもあまり意味のないことだったからだ。
 虎は溜息を吐く。
(やれやれ。こいつ、頭はいいんだが、どうも考えること自体が好きすぎるな)
 考えること自体を好むのは別に悪いことではない。全く何も考えないよりはずっと良いだろう。だが、その『思考のし過ぎ』は戦いを前にすると途端に弱点を晒してしまう。
 考えたところでどうしようもないことを考えてしまい、その結果一刻も早く考えなければならないことを考えるのが遅れる。その致命的なタイムラグはどうしようもなく彼の弱点だった。
『召喚の仕組みなんぞ考えたところで、どうしようもないだろうが』
「そう、ですね……いま考えるべきは残り二人の救世主にどう対処するか……」
 考え込むハジメに、虎は投げやりな言葉をかける。
『まあ、どうするかの判断はお前に任せる。俺は少々眠い。暫くは救世主どもも動かんだろうし、俺自身も受けたダメージを回復しないと動く気になれん。暫く休ませてもらおう』
 虎が回復するということは必然、ハジメにとっては最高戦力が整えられるということなので是非があるわけもなかった。
「そうしていただけますか? またこちらからお願いしたいことが出来ましたら改めてお願いいたします」
『ああ、わかった』
 虎の軽い了承を確認すると、ハジメは部屋を出ていった。
 後に残された虎は、退屈そうに大欠伸を一つ落とす。それから、奴隷の女性に向かって声をかけた。
『おい、お前。俺はいまから寝る。その間に色々準備しとけ。まず食べ物を十分な量、それから美味い酒だ。起きたら食べて呑む』
 奴隷は虎の言葉に深く頷きを返す。
「わかりました。おやすみなさい」
 虎は寝床へと移動し、そこで身体を休める。
(さて、と……まずは体力を回復して……今度はタツミとかいう救世主とでも戦うか……)
 もう一人のアルファという救世主と違い、タツミの方は近接戦闘に特化したタイプのようだった。救世主であるのならば身体能力は五分。十分以上に戦える。
(今度はライルとかいう戦士の時みたく一瞬じゃねえ。全力で鎬を削り合う、さぞかし楽しい戦いになるだろう……くくっ)
 笑顔は笑顔でも、野生の獣を思わせる――まさに外見はそのままなのだが――獰猛な笑みに、彼の存在に慣れ始めていた奴隷がびくりと身体を震わせた。
 その奴隷の動揺に気付いたのか、虎が目を開ける。
『……? なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?』
 浮かべた笑みに気付いたということは、奴隷は虎を見ていたということだ。しかし、彼女には虎から食べ物などを用意するように命令が出されていた。つまり、本来なら見ているわけがないのだ。
 それを『何か用がある』のではないかと思った虎は奴隷に向けて問いかけたが、彼女の方はなぜか慌てた様子で手を横に振る。
「い、いえっ、なんでもないんです! すいません、すぐに準備をしておきます!」
『……あぁ?』
 誤魔化されたような思いで虎は奴隷が準備に奔走するのを眺めていたが、考えるのが面倒になって再び目を瞑る。
(まあ、どうでもいいか)
 今度こそ体を休めるべく、眠りにつこうとした虎だったが。
 その虎の寝入り端を、ノックの音が邪魔した。
 音自体はそれほど大きなものではなかったが、虎の聴力は研ぎ澄まされており、十分眠りを妨げる原因になった。ちなみに奴隷の行動も虎にとっては十分大きな音になるが、奴隷はそれを考慮してあまり耳障りな音は立てないように配慮していた。また虎自体が奴隷の存在に慣れているということもあり、睡眠を阻害するものではない。
 目が覚めてしまった虎は、不機嫌そうに扉の方を睨む。
『誰だ?』
 ハジメは出て行ったばかりだし、すでに報告も澄ませた以上、連絡役をよこす意味もない。
 くだらない用事で眠りを妨げたのならばその連絡役を殺してやろうと、物騒な思考と共に立ち上がる虎。
 そんな彼の耳に届いた声は、予想外の人物のものだった。

「あ、あの……虎、さん……」

 彼のことを『虎さん』と呼ぶのは、この館の中では一人しかいない。ハジメは『タイガさん』と呼ぶし、奴隷やその他の使用人は『タイガ様』か『虎様』と呼ぶ。
 だから、虎は怪訝に思う。
『……入っていいぞ』
 扉が開いて、虎の部屋を訪れた者の姿が見えるようになる。
 そこに立っていたのは、ハジメが館で保護している化け物の一人。
 『兎の化け物』カナミだった。
 容姿こそ成人女性の物だが、その顔には迷子になった幼子のような表情を浮かべている。


~前回更新分・ここまで~


 やって来たカナミを、虎はうろんげな目で見つめた。
 虎とカナミは会ったことがもちろんある。ハジメの仲介があってのことだ。仲間としての顔合わせ、というよりは、万が一にも虎がカナミを害さないようにするための手の一つだったのであろうことは虎自身良くわかっている。カナミの精神は子供とはいえ、その身に宿す力は他の救世主や化け物と遜色ない。そうなると対等な敵を求める虎がカナミとの戦いを求めかねない。そのことをハジメは危惧していたようだ。『仲間』としてきちんと顔を合わさせておくことで、虎がカナミに挑まないようにしていたようだ。
 そういう思惑があるゆえに、最初に顔を合わせた時以外二人はほとんど会っていなかった。虎は戦うことの出来ないカナミに興味がなかったし、ハジメに懐いているカナミはカナミで聞きたいことがあればハジメに尋ね、わざわざ虎のところにやってくることはなかった。
 そんな彼女がなぜいまこの場所に来たのか。寝入り端を起こされたことに憤るよりも、虎はそのことが気になった。
 恐る恐ると言った様子で部屋の中へと入って来たカナミは、気弱な人間独特の足取りで虎に近づいてくる。
『……何の用だ?』
 虎は興味を持ってカナミに対して質問を投げかける。カナミは身体を竦ませながらも虎の目の前に立ち、口を開く。
「あ、あの……虎さんは、すごく、強いんです、よね……?」
 突然の問いに虎は目を細める。
『まあ……この館にいるメンバーの中で、俺が一番強いことは確かだろうな』
 ハジメは戦闘向きの力を有していないし、カナミも同様だ。
 他に彼らに匹敵する強さを有する者は、救世主マサルと牛の化け物の合成人と、洗脳された救世主ミツキくらいだ。しかしその二人もハジメの力によって無理やり言うことを聞かせているような状態では、虎に及ぶべくもなかった。
 つまり虎が強いということは単なる事実であるわけだが――なぜそれをわざわざ聴きに来たのか。虎はますます興味を惹かれ、カナミに向けて問いかける。
『それがどうかしたのか?』
 カナミは暫く言い淀み、それから意を決して口を開いた。
「あの、虎さん……どうやって、戦ったらいいんですか?」
 虎は目を細めた。
『どうやって戦う、か……なぜそんなことを聞く?』
 ストレートな虎の質問に、カナミもまた正直に応える。
「この前……ハジメさんと、虎さんが話しているのを聞いたんです。化け物の一人が、救世主として戦っているかもしれないって」
 そのカナミの言葉を聞いて、虎はあの日ハジメと話し終わった後感じた視線のことを思い出す。
(あれはこいつだったのか)
 気のせいだと思っていたが、そうではなかったようだ。ほとんど忘れかけていたものの、なんとなく気になっていたことではあったため、思いがけない時に解答を得られて虎は満足する。
『確かにそういう話をしたが……あの時はずいぶん遅い時間だったはずだ。起きていたのか?』
 カナミは中身が幼子なので、夜はすぐに寝入ってしまう。虎とカナミの付き合いは少ないが、それでも子供の行動としては不自然だったので虎は尋ねた。カナミは遅くまで起きていたことを叱られると思ったのか、益々身を縮めて小さく頷く。
「……その直前に、なんだか、大きな音と振動がして……それで、何があったのかなって、気になって」
 そのカナミの台詞で、虎は自分がハジメと話をしている時に館を震わせるほどの一撃を放ったことを思い出した。
(……あれで起こしてしまったのか。今後は気を付けないとな)
 予想以上のパワーが出てしまうことがあることは、予想外の事態を引き起こしかねない。
 彼が自分の持つ力の強大さを再確認している間にも、カナミはなんとか自分の考えを口にしようと悪戦苦闘していた。
「か、カナミは……ハジメさんに戦わなくてもいい、って、言ってもらってる、けど、やっぱり、カナミも何かしないと……いけないです」
 その彼女の拙い言葉を聞いて、虎は口角をあげて笑う。
『ほう。それで、戦い方を聞いてきたわけか』
「は、はい……ハジメさんは……そういうことは……」
 子供は保護するものであるという主張のハジメは、カナミに戦う方法を教えてはくれないだろう。戦いたいなどといえばそうさせないために努力しそうなほどだ。
『ハジメの奴には話してはいないのか?』
「……はい」
 その応えを聴いて、虎は唸る。
(野生の勘という奴か? まあ……こいつも化け物として召喚されたような奴だ。俺がそうであるように、こいつもそういう方面が強くてもおかしくはないな)
 虎は少し考え込む。
(さて……どうするのが、一番『楽しそう』かな)
 理想としてはいずれ機会があった時に楽しめるよう、カナミを少しでも戦えるようにしておくことだ。仲間である以上無暗に戦いを挑む意思は虎になかったが、この先どう転ぶかはわからない。カナミが虎と敵対することを選ぶことも絶対にないとは言い切れないからだ。
(そうなった時、今のままのカナミでは何も面白いことがない。瞬殺出来る)
 いくら同じ力を持っていようと、所詮使い手次第だと虎は考えていた。カナミはその中でも最弱の部類に入る。恐らく虎が牙を剥き出しにしただけで戦意が挫け、戦えなくなるのは目に見えている。
(教育してやるのが一番だが……それも面倒ちゃあ面倒だ)
 自分に指導力がないことは虎自身が一番よくわかっている。単純に戦いが好きなのだから、他の人間を育てることが出来るわけがない。
(…………よし)
 虎は結論を出し、それをカナミに伝える。
『はっきり言おう。お前に戦い方を教えることは出来ない』
 拒絶の言葉にカナミが落胆したような顔をする。虎はさらに続けた。
『だが勘違いするな。お前が戦い方を覚えること自体を否定しているわけではない。だが、俺はお前に戦い方を教えてやれん』
「……? それは、どういう……?」
 意味がわからなかったのか、カナミが首を傾げる。虎は面倒に思いつつも、もう少しだけ丁寧に噛み砕いて説明する。
『簡単な話だ。人型を選んだお前と、虎の姿をしている俺とでは戦い方が違いすぎる。お前は人に噛みついて攻撃出来るか? 四足で移動は?』
 そういう意味か、とカナミが納得した表情になった。虎はさらに続ける。
『人としての戦い方を学びたいなら……そうだな、ハジメに言って歴戦の戦士でも護衛につけてもらえ。恐らくそいつはお前のいうことをよく聴くように言いつけられるはずだ。そいつから戦い方を聞けばいい』
「……なる、ほど」
 少し躊躇っているようなカナミの様子だったが、その理由まではわからなかったので虎は別の話をする。
『俺がお前に教えてやれることは、せいぜい気構えのことくらいだ。戦士からも言われるとは思うがな――』
 カナミは真面目な顔で虎の言葉に耳を傾ける。
 虎はさらに笑みを深くしながら、話して聞かせた。
『まず、自分に何が出来るかということをよく考えろ。例えば剣を使いこなしてる戦士がついたとしても、それを真似る必要はない。剣を振れるようになるには長い年月が必要だ。とてもじゃないが、付け焼刃の剣術など役には立たないだろう。この世界の奴を相手にするなら知らんが、同格相手には無意味だ』
「…………じゃ、じゃあ……そういう敵と会ってしまった時は……?」
『お前の出来ることで迎え撃て。体当たりなら技術も要らんし、全力を込めればそう簡単に崩されることもないはずだ』
 繰り返すが、と虎は言う。
『まずは自分が何が出来るかをよく考えろ。可能ならそれを用いてどうにか戦え。出来ないことを戦略に組み込むなよ。よほどその一撃が致命傷になるのなら別だがな。戦いは博打じゃないんだ』
「……はい」
 幼いカナミにどこまで理解できたかはわからない。それでも虎は必要最低限のことは伝えたと満足し、ゆっくりと寝床に身体を横たえる。
『まあ、暫くは救世主どもとの戦いもないはずだ。ここを探し当てるのに何週間かはかかるだろう。その間に色々と学んでみることだ』
「わかり、ました」
『もっとも、絶対はないがな。明日攻めて来ないという保証は誰にも出来ない。今日のうちにでも覚悟を固めておくことだ』
 虎が睡眠を取ろうとしたため、カナミはお礼を言って部屋を出て行こうとする。
 彼女が扉を開けて外に出た時、虎は言って置くべきことがもう一つあったことを思い出した。
『ああ――そうそう。もう一つ大事なことだがな』
 立ち止まったカナミに向け、虎は獰猛な笑みを浮かべて言う。
『戦いになったら、躊躇うな。躊躇って隙を見せたら、その瞬間殺されるぞ』
「……わかり、ました」
 カナミはそう言って頷き、頭を下げながら虎の部屋を辞する。
 虎は喉の奥を震わせるようにして笑う。
(やれやれ、これで少しは楽しめるくらいに成長してくれればいいんだが)
 ひとしきり笑った後、虎はふと笑みを消す。
(それにしても――ハジメの奴め。カナミに戦わせたくないのなら、能力で操っておけばいいものを。どうせ自由意思がどうとか、くだらないことに拘っているんだろうが――)
 ハジメの中途半端とも言える行動に、虎は微かに苛立ちを覚えていた。
 彼は子供は守るべきものであるという前提を重視し過ぎて結果、子供を危険な方向へと行かせてしまっている。
 それを指摘するつもりは虎にはなかったのだが。
(さて……カナミがどこまで強くなれるのか……強くなったあいつはどんな道を選ぶのか……楽しみだ)
 いつか来るかもしれないカナミとの戦いの時を想像し、虎は低く笑う。
 彼の意識は眠りの闇の中に沈んでいった。
 
 
 
 
『千編万花』 第十一章 後半に続く
 
 
 
 

Comment

No.676 / 名無しさん [#-]

カナミキター、彼女の活躍に期待してます

ふと思ったんですがalphaって欧米でもあまり聞かない名前のような・・・

2012-04/23 16:46 (Mon)

No.677 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

> カナミキター、彼女の活躍に期待してます
活躍……になるかどうかはわかりませんが、期待に添えるように頑張ります。

> ふと思ったんですがalphaって~
そうなんですよねー。あまりない名前かもしれません。
アルファ○○という感じなら色々あるっぽいんですが……。
各キャラクターがこの名前に対して抱く印象が、今後の物語を大きく左右することになります。

それでは、どうもありがとうございました!

2012-04/23 23:59 (Mon)

No.678 / 名無しさん [#-] No Title

>更新分
虎が人格者過ぎて惚れる、そしてカナミちゃんマジ主人公
立ち位置のせいなのかアルファがゼ○ダ並に空気な件、重要なのはわかるんですが・・・

追伸
今更過ぎる突っ込みですが、カナミがハジメと会う前からカナミと表記されてるのは変だと思います

2012-04/24 01:09 (Tue)

No.679 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

> 虎が人格者過ぎて~
虎は一見人格者ですからねー。そこが危うくもあるんですが。結構友達が多かったタイプだと思います。
カナミにはこれから先に最大の活躍の場が来る予定です。ある意味彼女を主人公としていたらそれはそれで面白かったかなぁ、と思います。

>今更過ぎる突っ込みですが~
……確かに。あのままだと不自然かもしれません。
あの部分はカナミ自身の回想で、ハジメに保護されてからの回想だからということに補完してやってください(笑)。
完結したらちょっと全体を見直してみて、修正かけたいと思います。

2012-04/26 00:09 (Thu)

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