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『人間の人形』

この話は読み切り短編です。
ジャンルはMC・人形ものです。
 
それでは、続きからどうぞ。
 
 
『人間の人形』(ニンギョウノニンゲン)
 


 その緩衝材に包まれた『人形』はまるで眠っているかのような、安らかな表情を浮かべていた。
 
 長い黒髪はつやつやで、滑らかな触り心地がするのが見ただけでわかる。普通よりも遥かに白い、けれど病的な白さじゃない、透けるような肌の白さは上質の絹のように曇り一つない。
 僕はそっとその『人形』の頬に触れてみる。冷たい。けど、ほんのりと暖かくて……まるで本当に生きている人間のようだった。
 興奮を抑えつつ、緩衝材を取り除いて、人形の周りに余裕を作ってやる。当然ながら買ったばかりのその人形は何も身に着けておらず、比喩じゃなく僕は裸の女の子を前にしているような緊張に包まれていた。
 ある程度緩衝材を取り除いた後、僕は箱に付随していた説明書を再度見る。そこに書かれている人形の扱い方は、もうサイト上で何度も見たが、万が一にも間違えないように確認する。
「よ、よし。いくぞ……」
 心を決め、何度か深呼吸をする。
 そして、人形に向かって、はっきり聞こえるように、声をかけた。
「『起きろ、朝だぞ』」
 その瞬間。
 人形の瞼がゆっくりと開き、スイッチが入ったかのように全身が動き始める。呼吸を再現しているのか、人形の胸の部分が微かに動いて、実際に鼻から呼気が吐き出されているのか、彼女の顔付近にある緩衝材がカサカサと音を立てる。手足が最初はぎこちなく、次第に滑らかに動く。
 箱の中で立ち上がった彼女は、人形であることを表すかのような無機質な表情で僕の方を見た。ガラス玉のような、感情がない瞳に見つめられて、僕は心臓が跳ねあがるような緊張を感じる。人と目を合わせることには慣れていないのだ。いや、これは人じゃなくて『人形』なんだけど。
 その証拠に人形は立ち上がった後、僕を見詰めた以外は何も言わない。動かない。喋らない。それはこれが人形だから。僕の命令がなければ永遠にその場に立ち続ける存在。自意識を持つ人間じゃないのだから、それが当然。これを購入した僕は、これの所有者であり、これに対してどんなことをしようとも咎められることもない、絶対的な上位者。そんな自分の『モノ』に対して緊張する道理なんて、どこにもない。
 それでも僕は緊張せざるを得なかった。
 なぜならその人形は――
 
 密かな僕の思い人である学園のアイドル『水藤京花蓮』さんに瓜二つだから。
 
 
 
 
 僕がその店の存在を知ったのは、一通のダイレクトメールが僕宛に届いたからだった。
 黒い封筒である、という時点で何となく普通じゃないとは思っていた。差出人も不明な怪しげな手紙。普段ならそんなものが僕の手元に来ることはないのだけど、その日は何かの手違いのか、僕の手元にその手紙が届いた。実は、そういった物を目にするのも珍しかった僕は、危険があるかもしれないという危機感よりも、どんな内容かが気になる好奇心の方が上回った。
 ペーパーカッターを使って丁寧に封筒を開けると、その封筒の中に一枚のチラシが折り畳んで入れてあったのだ。
 そのチラシには『人間の人形、作ります(成人対象)』という宣伝文句が大きく記されていた。そこにはホームページのURLも載っていて、そのサイトの内容も合わせて纏めると、要するに以下のような内容の店の宣伝だった。
 
1、当店は人間の人形を専門に扱うオーダーメイドの制作店です。
2、当店はお客様から希望の人間の写真を提供していただき、それを元に人形を制作します。
3、当店は秘密厳守で依頼をお受けしますが、店や人形のことを他人に口外することも禁止です。
4、当店の技術に関する質問にはお答えしかねます。人形の構造を調べることも禁止です。
 
 なんとなく気になる言い回しのところもあったけど、要するにこちらの好みの人形を作ってくれるのだという。
 それだけならどこにでもありそうな店だけど、その店が変わっているのはその人形の使用法だった。
 まず『観賞用』はわかる。これは挙げるまでもない人形の使用法だろう。『性処理用』もまあわかる。対象が成人になっている時点で、そう言った使い方も想定されていることは予想できていた。まあ、いわゆる精巧なダッチワイフの類を想像していた。
 しかし、実際はそこからが問題だった。
 『家事手伝い』、『相談役』(人形により個体差有)、『恋人に代表される各関係者役』などなど。どう考えても普通の人形では出来ない『使用法』ことが並べられていた。
 ホームページの説明によると、この店で作られる人形は最先端技術によって限りなく人間に近い動きが出来るようになっているとのことだったが……それにしたって、どんなオーバーテクノロジーだとツッコミたくなる。いくら僕が世間ずれしている自覚があっても、それが実現可能な技術かどうかくらいはわかる。
 まあ、『詮索は不要』なのだからどんなテクノロジーが使われていようと気にしないけど。
 人間並みのスペックを持つという人形だから、当然その値段は相当なものだったが、何とか捻出出来ないことはない値段だった。普通はここで詐欺を疑うところだが、代金は後払いでいいということだったため、万一詐欺だったとしても問題はない。
 僕はそう考え、その店に依頼をしてみることにしたのだ。
 この店に依頼するときに必要なのは、『個人を識別出来る』写真一枚だけだった。全身である必要もないらしい。それでちゃんと理想通りの人形が作れるのか不思議だったが、僕は案内通りに写真を用意した。
 すなわち、僕が密かに想いを寄せている相手――水藤京花蓮さんだ。僕が通う学校に通う同級生で、その柔らかな物腰と暖かな人柄から男子生徒に熱狂的な支持を受けている。『学園のアイドル』という比喩が実に的確な可愛らしく美人な人なのだった。もちろん、僕のように何のとりえもない上にクラスも違う者は、話したこともないくらいに高根の花なのだけど、いつも遠目から見て憧れていた。
 こっそり撮っていた彼女の写真(こっそり、といっても隠し撮りではない。単に廊下を歩いているところを撮っただけ)の内、出来る限りはっきり写っている物を選んだ。うちの制服は特徴的だし、『個人が識別出来る』という条件には合っているはずだ。
 正直、密かに寄せている恋情を思うと、いかがわしい店に依頼するのも後ろめたい気はしたのだけど、それほどリアルな彼女の形をした人形が欲しかった。
 どうせ本人自身は僕の手に入るような人じゃないのだし、代替物として欲しいと思ったのだ。
 写真を送って、数日が経った頃だろうか。
 学校が休みの土曜日、その荷物うちに届いた。
 『人が丸ごと入れそうな』大きな箱。運んできてくれた配達員達は僕の部屋まで持って入ってくれた。おかげで下手に中を詮索されることがなかったのは助かった。時々大きな機材なんかも買っていたので、その類の物だと周りには説明しておいた。
 そして人払いを済ませて、箱を開け――僕はその『水藤京花蓮さんの人形』と対面したのだった。
 
 
 僕は人形と見つめ合いながら――という表現も本当はおかしいんだろうけど――高鳴る心臓を必死に抑えていた。
(う、うわぁ……ほんとうに水藤京さんとそっくり……)
 もちろん彼女の裸を見たことがあるわけじゃないから、身体の細部まではわからないけど、少なくとも顔は細部までそっくりだった。双子だと紹介されたとしても驚かない。
 あまりにも人形が動かないので、少し余裕が出て来て、僕はそっと人形に近づいて、至近距離から観察を続ける。
(す、水藤京さんが、こんなに近くに……っ)
 異様な興奮だった。いままで遠目か写真でしか見れなかった水藤京さんの顔がこんなにも近くにある。長いまつげの一本がはっきり見えるほどの至近距離。これだけでも僕にとっては至福の瞬間だった。
 鼻息が荒くなっているのを自覚して、慌てて抑える。
(と、とりあえず、何か着てもらおうかな……)
 裸でいられるとそっちばかりを意識してしまって、落ち着くことが出来ない。いまはまだ『それ』は後の楽しみとして置いておきたかったし。
 僕はオプションとして店が付けてくれたらしい服の箱を示しながら、人形に向けて言う。
「『この中にある服を身につけろ』」
 人形は相変わらず無表情のまま、口を開いた。
「わかりました」
 その人形が発したその声まで、水藤京さんにそっくりだった。ここまで再現してくれるとは……っていうか、発声機能まであるのはわかってたけど、本当の肉声みたいだ。正直機械の合成音みたいな声かもしれないと覚悟していただけに、これは嬉しい。本当に水藤京さんを手に入れたかのようだ。
 人形は服の入った箱を丁寧に開封すると、その中に入っていた服を取り出す。その出て来た服を見て、僕は驚いた。
(うちの学校の制服!? ほ、本物っぽい……)
 たぶん送った写真から制服の学校を知り、取り寄せたのだろうけど……そんな簡単に手に入るものじゃないはずだ。単なるオプションと言うにはあまりにも手が込んでいる。
 しかも入っていたのはうちの学校の制服だけじゃなく、靴下や下着まで含まれていた。それを迷うことなく、順序良く身につけていく人形。
(……あれ? あの靴下……なんか、見覚えがあるような……?)
 人形が片方の靴下に足を通した時、僕はそう思った。どこかで見たことのある靴下のような気がする。少しだけ撮りつけられたフリルの上品さ。それは、そう、水藤京さんが好んで身につけていた靴下と同じ物だった。いつだったか、下駄箱のところで彼女が友達と靴下のことで話していた際、脇を通る振りをして彼女が履いている靴下を見たことがある。その派手ではないが些細なお洒落の上品さが印象に残っていた。それ以後、たまに同じデザインの靴下を水藤京さんが履いていることがあって、よほどお気に入りなんだと思ったものだ。
(そんなところまでリサーチしてくれたのか……)
 料金は高かったが、ここまで細やかな気配りが行き届いているなら、あの料金にも納得だ。
 僕があの店に依頼して良かった、と感動していると、着替え終わったのか人形が声をかけてくる。
「身につけました」
 感動していた僕は、呼びかけられて我に返る。
「あ、っと。ごめ――っ」
 思わず、息を呑んだ。すでに瓜二つなことはわかっていたけど、それでも驚いた。やはり裸の状態だと意識が散漫になって、よくよく見えてはいなかったのかもしれない。それくらい、ちゃんとした服を――それも、いつも僕が水藤京さんを見かけるときに着ている服――身に付けると、その破壊力は何倍にもなる。
 
 水藤京さんが、そこにいた。
 
 表情が無表情なことを除けば、それは水藤京さんそのものだった。僕はなぜか震える声で、彼女に向けて命令を出す。
「……わ、笑って、みて?」
「はい」
 その時の感動はなんというのだろう。
 僕の命令通り無表情を崩して笑みを浮かべた彼女は、水道橋さん本人にしか見えなかった。
 憧れの存在だった。雲の上の存在だった。水藤京さんが目の前にいる。それは彼女と同じ形をした『人形』だと頭ではわかっているのに、僕はまるで彼女本人に笑い掛けられているような、幸せな感覚を噛み締めていた。
 茫然としてしまった僕は暫くして気を取り直し、咳払いをしてから、彼女に向けて言う。 
「……い、いいかい? 僕の言うことを良く聴いて。君の名前は、『水藤京花蓮』だ。いいね?」
「了解しました」
 相変わらず笑顔なのに、その返事は無感動な響きだった。なんというか、ギャップが凄い。
「え、っと……それで……ぼ、僕は君のことを『カレン』、さんって呼ぶから! 呼ばれたら返事をすること!」
 呼び捨てにするつもりが、思わず『さん』を付けてしまった。こう言う時、自分の小心さが嫌になる。
 僕の自己嫌悪など関係なく、人形は静かに頷く。そういう言われたことにしか反応しない辺りは、確かにこれが自分の意思を持たない人形だということがわかる。
 と、そんな風に思った瞬間だった。
「ところで――」
 いきなり人形が喋り出したので、不意を突かれて思わずびくりと肩を竦めてしまった。
「な、なんだよ!?」
 思わずそう叫ぶように答えてしまう。それでも人形は全く表情を動かさず、淡々とした声で訊いてくる。
「あなたのことはなんと呼べばいいのでしょうか」
 水藤京さんの声に『あなた』と呼んでもらえるなんて。
 急に話しかけられた驚きも吹き飛ばすほどの喜びだった。
「……そ、そうだな」
 ここはオーソドックスに名前呼びだろうか。だけど、立場に準拠した『ご主人様』というのも捨てがたい。シンプルにさっきの『あなた』でもいいな。
 かなり迷ったけど、僕がカレンさんと呼ぶのに対応させるのが一番よさそうだと結論付ける。
「ぼ、僕のことは『マサトくん』って呼べ」
「わかりました――マサトくん」
 うわ、凄く淡々とした声で、本来の水藤京さんの柔らかな言い方とは別物なのに……凄く、嬉しい。
 僕は改めて人形を購入して良かったと思った。
 深呼吸を行い、一度気分を落ち着ける。まだ興奮するには早い。
 僕が気持ちを落ちつけている間、カレンさんは黙って指示を待っている。その姿は主人の命令を忠実に守る犬のようだ。実際は『命令を守るか破るか』で自由意思がある犬と違い、人形であるカレンさんはその選択肢すらなく、持ち主である僕の命令を待つしかないのだから『忠犬』とは違うのだけど。
 まずは、彼女の姿を写真に納めておこう。僕はデジタルカメラを取り出してきた。
「カレンさん、何かポーズを取ってみてよ」
 笑顔ではあるとはいえ、棒立ちじゃ芸がない。
「わかりました。マサトくん」
 そう答えた彼女は少し体を斜に構え、手を口元にやって小首を傾げる。それだけのことで、古い言い方だけどハートを撃ち抜かれた。
 別に大した変化が起きたわけでもないのに、ほんの少しポーズを変えるだけで全く印象が変わってしまった。その上、彼女の視線がこちらを向いているということが非常に大きい。いままでは僕に彼女の視線が向くことはなかったから、視線がこちらに向くと言うだけで衝撃だし、そこに可愛いポーズが付くと破壊力は抜群だ。
 何度だって惚れ直してしまう。
「い、いいよ! もっと、色んなポーズを取ってみて!」
 まるでグラビアアイデアを撮るカメラマンのように声をかける。
 時には僕が細かい指示を出すこともあったけど、基本的にはカレンさんが勝手に撮るポーズをカメラに納めていく。
 『カレンさん』フォルダがあっという間に充実した。
 でも、これくらいの写真なら本人に頼んだら撮らせてくれるかもしれない。背景が僕の部屋ではないだろうけど、これは『自分だけが見れる』姿という訳じゃない。
 僕は一度喉を鳴らして緊張を飲み込んでから、カレンさんに向けて言う。
「カレンさん、もうちょっとセクシーなポーズもしてみて?」
「わかりました、マサトくん」
 躊躇なく受け入れたカレンさんは、前屈みになって胸の大きさを強調する姿勢を取る。さっき裸の時に見たよりもドキドキするのは、服を着ているときの方が現実味があるからだろうか。
(……あの水藤京さんが、僕の前でこんな格好……っ)
 もう何度目の感動だろうか。数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくるほどに、感動の連続だった。
「ちょ、ちょっと前のボタン外して、服を肌蹴てみて?」
「はい、マサトくん」
 仮に撮影会を企画したところで、グラビアアイドルでもない彼女がこんな 提案に乗ることはないだろう。なのに、カレンさんはあっさり応じて制服のボタンを外し、軽く肌蹴て見せてくれる。
「す、座って。正座じゃなくて、横向きに足を崩す感じで……」
 僕が要求した通りのポーズを取るカレンさん。
「表情はもうちょっと切なげな感じで……そう。目は上目使いで……」
 まるで人形にポーズを取らせて遊んでいるように感じた。いや、まるでというかその通りではあるんだけど。
 完成したポーズは実に扇情的で、向こうから誘われているかのようにも感じられる。僕は立て続けにシャッターを切り、この瞬間を残そうと必死になった。(あとから考えればカレンさんが手元にある以上、いつでも見れるんだからそんなにたくさん取る必要はなかった)
 その他にも様々なポーズを取らせて、撮影を続けたけど、いい加減我慢の限界だった。素っ裸よりはエロくないはずなのに性的に興奮することは止められず、すでに僕のあそこは興奮ではち切れそうだった。
 僕はズボンのベルトを外しながら彼女に聴いてみる。
「か、カレンさん。フェラチオってわかる?」
 純情そうな本人なら恐らく知らない類のことだろう。人形とはいえ彼女の姿を模したカレンさんなら知らないかもしれないと思い、そう尋ねた。すると、ある意味意外なことに彼女は小さく頷いて知っているという。
「ご奉仕するために必要な基本の知識は、製造段階でインプットされています」
 そう言えばこの人形はそういう使用法も想定されているんだった。覚えておかないといちいち教えないといけない。それは不便だ。ちゃんと考えられている。
 そうとわかれば話は早い。
「じゃ、じゃあ、フェラチオをしてくれるかな?」
 彼女に向かって卑猥なお願いをする。目の前の彼女は『カレン』さんであって『水藤京花蓮』さん本人じゃないとわかっているのに緊張した。
「わかりました、マサトくん」
 あっさり頷いた彼女が、僕の傍に歩み寄って来る。そして地面に膝を突いて、頭の位置を僕の腰に合わせる。僕はベルトを外したズボンをずり下げ、トランクスも脱いだ。すでに興奮でそそり立つそれを、彼女の前で晒している。ぞくぞくと背筋を這いあがる感覚。
「失礼します」
 カレンさんの柔らかな手が僕のそれに触れる。自分の手とは違う、別人の手がそこに触れる感覚は奇妙な感覚で、同時に自分で触れるのとは比べ物にならないほどの気持ち良さだった。
 軽くカレンさんが僕のペニスの角度を調整し、自分の口に先端を向ける。ドクドクと心臓が奏でる音がうるさい。
 ゆっくりとカレンさんの口が開き、その中へ僕のペニスが吸いこまれて行く。僅かに当たる風は彼女の呼気だろうか。その空気は妙に熱を持っていて、湿った感触だった。
 そしていよいよカレンさんの口がしまっていって――僕のペニスを彼女の唇が上下から挟む。マシュマロに包まれているような、けれどマシュマロよりは硬くて、程よい刺激だった。見えないところで彼女の舌が動いたのか、ペニスが裏側から舐められる。熱くて濡れた物がペニスの表面を移動していく。
「うぅ……ッ」
 それは、想像以上だった。
 気持ち良さがもうなんというか言葉では言い表せない。僕は一生懸命奉仕してくれる彼女の頭に手を置いて軽く撫でる。さらさらの髪は非常に手触りが良くて心地よかったし、頭を撫でるという行為は、『水藤京』さんという存在を手の内に収めたような感覚になれて気分が良かった。
 カレンさんは僕のそれに唾液を絡めるように舌を巻きつかせつつ、前後の動きまで加えてくる。
「う、わっ……!」
 やばい、と思った時にはもうダメだった。
 彼女の口の中で快感が爆発してしまう。彼女は特に表情を変えることなく、こともなげにそれを呑みこんでいく。
「ぷは、ぁ」
 一端カレンさんが僕のそれから口を離す。その際、唾液が糸を引いて舌先から伸びていて、凄くエロかった。ビデオでも用意しておけば良かったと少し後悔する。
 それはそれとして、一度出したのに僕の興奮は全然治まらなかった。いつものオナニーなら一回出したらある程度すっきりするのに。これが自前でやるのと人との行為との違いなのかと驚く。
「……ッ、か、カレンさん」
 もう抑えられない。抑える必要がないというのがいつもの弱気を払い、背中を後押ししてくれた。
「セックス、しよう」
「わかりました、マサトくん。着衣はそのままでよろしいですか?」
 僕にしてみれば一世一代の言葉だったのに、カレンさんはあっさり実務的な質問をしてくる。
(まあ、人形なんだから当たり前、なんだよね……これは仕方ない、か)
 ちゃんと恋人関係とか定義したら、それ相応の態度で応じてくれるんだろうか。それはわからないけど、とりあえず今は興奮を解消するのが先だ。
「……そうだな、下は邪魔になりそうだし、脱いで。上の制服は肌蹴たままでいい」
「わかりました、マサトくん」
 彼女は膝立ちの状態からきちんと立つ姿勢に移行し、スカートのホックを外して床に落とす。さらに下着に指をかけた。お尻の形に合わせるように、するりと手を動かすと、脱げた下着が床に落ちる。
 僕はその間にベッドの上に移動していた。
「ベッドで、しよう」
「はい、マサトくん」
 これからセックスに及ぼうとしているとは思えない淡々とした声音で答えて、ベッドの上に上がって来る。
 僕は彼女を押し倒すようにして、マウントポジションを取った。実際の性体験は初めてだけど、色々な情報媒体からかき集めた知識を総動員して何とかそれっぽくしようと試みようとする。
 しかし、そこでふとカレンさんの冷静な視線と目が合って、考え込んでしまう。
(このままやってもいいけど……ちょっと、この表情は微妙かなぁ)
 笑顔を浮かべてもらえばいいようなものだけど、ただの笑顔ではこういう時には合わない。かといって『切なげな表情』も少し違う気がする。
(感じている顔、というのも演技させてるみたいで微妙だしなぁ……)
 急に動きを止めた僕に対して、カレンさんは特に何も言わなかった。不思議そうな顔一つしない。これが普通の人間相手だったら、突然止まったことを不審がられるか、せっつかれていたことだろう。そう考えると、この態度はありがたかった。自分のペースで行けるから。
(そうだ)
 暫く考えた後、僕は名案を思いついた。
「カレンさん。セックスする間は、感じたら、それに合わせた顔をすすようにして」
 これなら、演技っぽくならない。身体の反応に合わせて表情が変わるのだから、本当に感じているのかどうかがわかるというわけだ。
「わかりました、マサトくん」
 彼女が了承し、無表情になる。いまは何も感じていない状態、ということだろう。微かに眉が寄っているのは、口に出した精液の味が残っているかもしれない。
 この顔を快感を与えて崩せばいいのだ。僕は気持ちを引き締めて、セックスに入ることにする。
 
――そして、心が折れた。

 がっくりと肩を落とし、僕はベッドの上で落ち込んだ。ちなみにカレンさんは仰向けに寝転がったまま、僕の様子には頓着していない。
(いや……まあ、半ばわかってはいたけど、さぁ……)
 結論から言うと、彼女を感じさせることがほとんど出来なかったのだ。
 考えてみればそれも当たり前の話しで、実体験がない僕が女の子の感じるところなんてわかるわけがない。どういう手順で触れていけばいいのかもわからないし、どのタイミングで挿入すればいいかもわからなかった。
 彼女の身体をいじくり回すだけで、こっちが興奮しきってしまい、結局彼女に挿入する前に二度目の射精に至ってしまったというダメっぷりだった。
 インターネットやらエロ本やらで培った性知識が、実際に役に立つわけではないことをまざまざと突きつけられてしまった感がある。ある程度予想はしていたとはいえ、実際に直面すると色々キツい。少しくらいなら、と思っていただけに全く手ごたえがなかったのでショックも大きかった。
(……くっ……でも、このままじゃぁ……)
 二度も出してしまったが、まだ僕のそこは硬度を保っていた。やはり実物の魅力は凄まじいものがある。とはいえ、無策で挑めばまた同じことの二の舞になりかねない。
(この手は、あんまり、やりたくなかったけど……っ)
 僕は最終手段に打って出ることにした。
 カレンさんに再び覆い被さる。彼女の眼は焦点を真っ直ぐ前に向けていて、僕が視界に入っても特に動きは見せなかった。
 そんな彼女の目を見詰めながら僕は口を開く。
「カレンさん。身体の感度を十倍にして。これから僕の与える快感を十倍にして感じるように」
「わかりました、マサトくん」
 自分の実力で彼女を感じさせたかったため、あえて言わないでおいた命令だけど、もう背に腹は代えられない。
 これだけでも十分な気はしたけど、もう一つ命令を加えておくことにする。
「君にとって、僕の右手は『触られるととても気持ちのいいもの』だと認識して。どこを触られても、どういう風に触られても、君は快感を覚えてしまう。いいね?」
「わかりました、マサトくん」
 よし。これで今度こそ彼女を感じさせることが出来るはずだ。
 この命令によって、どの程度効果が出るのか――期待しながら、僕は彼女の乳房に右手を伸ばす。
 効果は劇的だった。僕の指が触れた瞬間、カレンさんの乳首は硬く存在を主張し始め、無表情だったカレンさんの顔が何かを堪えるように歪む。
(……いける!)
 軽く、本当に軽くその乳首をつまんだつもりだった。なのに、カレンさんはまるで電流でも流されたかのように身体を震わせる。
「ん、ぁっ!」
 思わず、と言った調子で漏れた声は、どうしようもなく性的な喘ぎ声にしか聞こえない。
 そのあまりにも魅力的なカレンさんの様子に、僕まで興奮してきて思いっきりその乳房を掴んでしまう。その効果は劇的だった。
「っ、あぁ、あああああ――っ!!」
 カレンさんの身体が驚くほどに激しく痙攣した。覆いかぶさっている僕が咄嗟に身体を引いてしまったくらいだ。
 弓なりに身体を逸らしていた彼女は、暫くして力尽きたようにベッドに沈む。僕は恐る恐る声をかけた。
「か、カレンさん? 大丈夫?」
 彼女の肩に手を伸ばしながら、僕は訊いた。
「は、い。大丈夫、です、マサトく……ひぁんっ!」
 最後の奇声は僕が彼女の肩に右手で触れたからだ。慌てて話す。
「ご、ごめん!」
 僕の右手がどこに触っても彼女は感じるようになっている。その右手で触れたのだから、そうなると予想していてしかるべきだった。
「大丈夫、です」
 彼女は荒い呼吸をしながら、もう一度僕の質問に答える。僕はその答えを聴いて安心しつつ、出した指示が非常にいい効果を発揮していることを思い知った。
(これなら……いくらでも彼女を感じさせることが出来る!)
 すでに彼女の顔は、ここまで与えられた快感によって蕩けて来ている。流し目が妙に色っぽくてグッドだ。
「そ、それじゃあ、続けて触るよ……」
 僕は次は左手をもう片方の乳房に伸ばす。全体を軽く撫でるようにして触ると、それだけで凄い快感を覚えているのか、彼女の身体がぴくぴくと動く。
 さらに僕は撫でるだけでなく、揉む動きも加えた。
「うぅ。あぁっ、はあぁん!」
 大きな喘ぎ声をあげてカレンさんが悶える。ずいぶんな乱れっぷりだ。
(さっき僕が同じように触った時にはほとんど反応なかったのに……)
 なんだかそれを思い返すと少し苛立ちが湧いて、ぐいっと捻る動きを加えた。
「――んぁっ!?」
 瞬間、彼女は一際大きな声を上げて、股間から何かが噴き出す。正直驚いた。
「……な、なんなんだ……?」
 もしかして。
 これがいわゆる女の子が感じ過ぎた時に出ると言う『潮』だろうか? エロ漫画等でよく見かける潮吹きというもの。
 正直あれは創作の世界の幻想かと思ってたけど、本当に出るとは。
 つまりそれは彼女がそれだけ感じてくれたことの証拠でもある。ずるをしているとはいえ、そんな快感を彼女に与えられたということを僕は嬉しく思った。
「気持ちいい? カレンさん」
 触れるか触れないかの距離で彼女の身体を手でなぞりつつ、問う。彼女は切なげに息をしながら答えてくれた。
「は、い。マサト……くん」
 その声は少し力が抜けていて、気持ち良さを感じていることが声だけでわかる。
 調子に乗った僕は、さらに彼女を責めることにした。
 次の狙いは胸ではなく、もう片方の急所。責め甲斐がありそうなところだ。
 僕がそこに左手で触れてみると、そこは信じられないほどに濡れていて、ベッドのシーツにシミになっているほどだった。
(……おねしょしたみたいでなんか嫌だな……黄色くはないから、水を零したってことにしよう)
 今後、同じようにやるとすれば別の場所を考えるか、シートか何かを敷いてしなければならないだろう。今回はこのまま最後までやってしまおう。どうせもうさっき暴発させてしまった精液なんかで汚れていることだし。
 僕は中指を立てて彼女の中に入れていく。それだけで彼女は何度も気をやってしまっているようだった。
 中に入れていく指先が、少し硬い物に触れる。もしかして。
「これ……処女膜って奴かな? でも穴が開いてる……こういうもんなのかな?」
 正直、実体験が何もない僕は処女膜と言う物をよく理解していなかった。膜っていうくらいだから、隙間なく膣の入口を塞いでいるんじゃないかと勝手に思っていたんだけど……。
 新品の人形だし、処女膜を模した物があるのは自然だろう。でも、なんとなく水藤京さんの初めてを貰えたみたいで嬉しかった。僕も初めてだし、初めはやはり初めて同士がいい。
 さらに奥へと指を入れようと思い――ふと思い出すことがあった。
「……そういえば、クリトリスを忘れてたな」
 男性でいうペニス。女性にとっての最大の性的な急所という風に僕は認識している。膣内にはGスポット、というものもあるそうだけど、そっちは僕には探り当てられるかどうかわからない。
 なら、クリトリスを責めるのは妥当な結論だろう。
 僕は彼女の膣の入口の少し上付近を探ってみる。
「んんぁっ、はぁっ、ふぁっ!」
 探る際の指の動きがまた強力な刺激になってしまったのか、カレンさんが身体を並み立たせて身を捩る。その仕草、表情、どっちも非常にエロい。
「こ、これか……っ」
 そしてようやく、僕は彼女のクリトリスらしきものを発見した。クリトリスが豆と表現されることもなっとくな、ぷっくりとした出来物みたいなものがそこにはあった。
 それに右手で触れたら――彼女は一体どれほどの快感を味わうことになるのだろうか?
 でも、右手で乳首に触れた時のことを考えると、最大の急所に右手はまずいかもしれない。だけど、正直そっちで触れた時の反応は見てみたい。
 誘惑と自重に翻弄された結果、左手でも十分な威力は発揮出来るだろうと考えた。
「カレンさん。いまからクリトリスに触るよ」
 なんとなくそう宣言して、僕は左手をクリトリスに近づけていく。カレンさんは荒い呼吸を繰り返しながら、僕の手がそこに触れるのをじっと見ていた。
 そして、左手がクリトリスに触れる。
「~~~~~~~~~ッッッッ!!」 
 その時のカレンさんの声は、もはや聴き取れなかった。がくがくと腰が上下して、彼女の目が白目を剥く。ちょっと怖いくらいだった。
 それでも僕はあえて手を離さず、そのままて全体で股間を覆うようにしつつ、人差し指と中指でクリトリスを擦って刺激を与える。激しいバイブでも埋め込んでいるのかと思うほどに、彼女の身体が震え続けた。
 僕がようやく手を離そうとした時には、噴き出した大量の潮で手がべっとり濡れていた。一筋の涎を流し、彼女は小さく痙攣している。良く見ると、カレンさんは気絶してしまっていた。僕は彼女の頬を軽く叩いて、意識を取り戻させる。
「カレンさん、しっかりして。頑張って」
 まだメインが済んでいない。今度こそ、僕は脱童貞を達成するつもりだった。
 何度か叩いた後、カレンさんが意識を取り戻す。
「マサト、くん。失礼、しました……」
「全く、急に止まらないでよ……それじゃあ、カレンさんのあそこに、僕のを、入れるけど、いい?」
 否定されることなんてあるわけがないのに、つい疑問形で尋ねてしまう。カレンさんは静かに頷いた。
「どうそ、マサトくん」
 入れやすいようにか、彼女は大きく足を開いて、僕を受け入れる体勢になる。
 人形相手とはいえ、ここまで人間みたいに動けば感覚としては人間相手と変わらない。さすがに緊張しつつ、僕は彼女のそこに目がけて挿入できる位置に身体を持って行った。
 その位置からは仰向けになっている彼女の股間から頭部至るまでがしっかりと見える。こうしてみると、やっぱり人形とは思えない精密なつくりだ。あそこの作りだって、オナホールみたいな既製品の出来栄えじゃなく、完全に『カレンさん』というただ一人の形をしていることがわかる。よく見ればちょっとグロテスクで、けれどやっぱり性的な魅力を感じる場所。
 そこに僕は自分のものを添えた。入口に僕のそれが触れる同時に、カレンさんは再び身体を震わせる。
「……いくよ」
 僕は腰をゆっくりと突きだすようにして、彼女の中に入っていった。
 生温かく、湿った感覚。それが奥まで続いて行く。ずずず、と擦れ合う感じは彼女の愛液によってほどよく緩和されていて、一つ一つの刺激がとにかく気持ちいい。
「あぁ、あぁっ、ああっ、はああん……ッ」
 彼女は僕が進む度に声を上げる。それは僕が挿入するだけで彼女も非常に強い快感を覚えているということだ。
 そうこうしている内に、ぐっ、と挿入に抵抗する部分に差し掛かった。恐らく処女膜だ。
 僕は一つ息をついてから、その膜を押しのけるようにしてさらに奥へと侵入する。みちっ、という音がしたような気がした。
 挿入した僕の物を伝って赤い物が出てくる。これで彼女は処女を喪失したのだ。女性にとって、初体験は痛くてどうしようもないという話を小耳に挟んだことはあるけど、快感を倍加している彼女にしてみればそんなことは些細な痛みのようで、むしろ身体の奥から湧きあがる快感に震えていた。
 彼女が痛がっていないことを描くにして、僕はさらに奥へと進む。ほとんど抵抗なく、ずぶずぶと埋まっていった。やがて奥に突きあたる。たぶんここが子宮口だろう。彼女と深く繋がることが出来た。それだけでも、僕にとっては幸福感で一杯だった。
 奥まで到達したことで、少し息を吐く。一つ息を入れないとこのまま出してしまいそうだったからだ。別にそうしてもよかったんだけど、もう今日は二回も出してしまっているし、この一回は大切に楽しみたかった。相手が相手だから早漏と貶されることはないけど、男として入れてすぐに出すのはどうかと思うし。
 少し落ち着いて来た当たりで僕は再び動き出す。
「カレンさん……いくよ……?」
「はい、マサトくん」
 感じ過ぎて疲労しているだろうに、彼女は健気にそう答えてくれる。そんな彼女に対する愛しさも手伝って、僕の興奮はもうマックスだった。
 さっそく前後に腰を動かしだす。彼女の中で僕のそれが擦れ、内壁のヒダらしきものが的確な刺激を与えてくる。
「ああッ、あんっ、あっ、はっ、くっ、あぁっ、ああんっ!!」
 突かれている彼女の声が無性にいやらしくて、僕の興奮も引き上げられていくようだった。徐々に緊張が高まっているのがわかる。
「くっ、ぅ……ッ! もう、もう出る……っ」
 まだ早い。僕は何とか持たせようと、カレンさんと繋がったまま、彼女を抱きかかえるようにして、身体を起こさせる。
「あぁん、あ――ひやぁう!?」
 彼女を抱き起したということは、右手で彼女に触れたということであり、本来性感とはあまり関係のない背中で快感が生じたであろう彼女は身体をのけ反らせながら変な声をあげる。そして背中をのけ反らせたということは僕の方に向かって身体を密着させるような形になるわけで。
 身体とはいえ、僕が『触れた』ことにはかわりなく、その部分にも快感が生じてしまう。
「ゃあ、ぁんッ!」
 さらに僕はがっちりホールドするように手をカレンさんの身体に回し、密着状態から逃げられないようにする。その上、僕は彼女の唇を奪った。唇と唇が触れ、彼女はさらに快感が生じる場所が増えてしまう。唇と唇を合わせるだけでは済まさず、僕は舌を伸ばして彼女の中にまで侵入した。
 この時、僕はもう性感に支配されていたんだと思う。普段の僕からすればあり得ないくらいに攻めていた。
「んあっ、あっ、はぁっ、ああ、んっ」
 声を上げることを阻害され、畳みかけるようにして快感を与えられていくカレンさん。僕は彼女の首筋に手を回し、彼女の首が逃げられないようにしていた。その際使っていたのが右手で、彼女は頭部に近いところで生じる快感の渦にさぞ翻弄されていたことと思う。
 そしてついに、僕は我慢の限界に達した。
「ぷはっ――い、イくっ――出すよっ」
 彼女の反応に構っている余裕はなかった。彼女の身体を強く抱きしめながら、僕は射精に至る。ペニスの中を熱い物が通り、噴き出す感覚があった。いつものオナニーとは違って、その様子は外からは見えない。
 けれど、確かに出ていることを示すように、彼女の身体が中からガクガクと震えていた。
 疲れ果てた僕は、カレンさんと抱き合って繋がりあったまま、ベッドに倒れ込む。暫く呼吸を整える間が必要だった。
 やがて射精の衝撃から立ち直り、僕はようやくカレンさんから離れることが出来た。
「は、あ……気持ち良かった……カレンさんも気持ち良かった?」
 出していた指示から気持ち良くなかったわけはないのだけど、僕はそう尋ねる。
 ところが、カレンさんからの反応がない。
「カレン、さん?」
 やりすぎに怒っているのかと思い、恐る恐る彼女の顔を見ると、彼女は怒っているどころか、色々垂れ流したエロい顔のまま、白目を向いて固まっていた。
 何か小さく呟いているのに気付き、カレンさんの口元に耳を寄せてみる。
「――覚データにより人格データが破損しました初期化してください。過剰な感覚データにより――」
 どうやら『過剰な感覚データによって人格データが壊れた』と、そう呟いているみたいだ。しかも初期化を求めている。
 これはパソコンでいう、エラーによって停止してしまったシステムと、強制終了・再起動することで復元してくれということなんだろう。
 まさか壊れるとまでは思っていなかっただけに、僕は溜息を吐く。
「あちゃあ……壊れたってこと? 案外脆いんだな……」
 女性の感じ方なんて全くわかっていなかった僕は、壊れてしまったのを脆いと感じた。実際は十倍にもなった快感に壊れず耐えきれる人が何人いるかわからないというのに。
 とにかく僕はカレンさんを初期化するための方法を探るため、付属の説明書を開いた。
「ええと……トラブルがあった際には……初期化……これか」
 内容を確認した僕は、彼女の耳に口を近づける。別に近づく必要はないのかもしれないけど、なんとなくそうしてしまう。
「初期化コード入力、5246、8256、AGJT652」
 説明書に書いてあった通りにコードを呟いていくと、それに合わせてカレンさんの身体が電流を流された時のように細かく痙攣した。
 その痙攣は僕がコードを最後まで言い終わると同時に、ピタリと止む。
「――再起動します」
 平坦なカレンさんの声が響いて数秒後。彼女はゆっくりと身体を起こす。
 その表情はエロい顔から、人形らしい無表情に戻っていた。垂れ流していた涎や涙はそのままなのでどことなくシュールだ。
「カレンさん、気分はどう?」
「…………」
 あれ、やっぱり返事がない。
 おかしいな、と一瞬思ってから初期化してしまったために名前の定義も無くなったことに思い至る。
「えーと……君の名前は『水藤京花蓮』だよ。……僕は君のことを『カレンさん』って呼ぶから、僕のことは『マサトくん』って呼んで」
「わかりました、マサトくん」
 よし。元に戻った。
 しかしこれは気を付けないと、それまで積み上げてきた教えた内容や定義したことがおしゃかになってしまうかもしれない。
(……それはちょっと面倒だなぁ。まあ、とにかく色々試してみよう)
 カレンさんは流した涙も涎も拭おうとせず、僕の指示を待っている。そんなカレンさんを眺めながら僕は思う。
 これから忙しくなりそうだ。
 
 
 
 
 それから、余談だけど。
 
 カレンさんが家に届いた数日後のこと。
 一週間ほど前から学校に来ていなかったらしい『本物の水藤京花蓮』さんが、正式に外国に留学したという話を僕は友達から聴いた。僕は『カレン』さんを注文してからそのことで頭が一杯だったから彼女が学校に来ていなかったことに気付いていなかったのだ。
 彼女の留学は急に決まったことらしく、彼女と仲が良かった子達も別れを言えないままだったそうだ。あまりに急な出来事だったため、実家が夜逃げしたんじゃないかという彼女にしてみれば不名誉な噂も流れたけど、彼女が済む家は何事もなかったようにあるので、すぐにその噂は消えていった。
 憧れの水藤京さんがいなくなってしまったことが残念ではあったけど、正直なところほっとしてもいた。
 なにせ彼女と瓜二つの『カレン』さんを僕は好きに出来る。当然、彼女が本来秘めている身体の隅々まで見てしまっているわけで、同じ顔をしている水藤京さんに会ったとき、それを連想してしまいかねない。『カレン』さんと間違えて変なことを言ったりするかもしれなかったし、水藤京さんがいなくなったというのは僕にとっては寂しさ半分、嬉しさ半分の出来事だった。
 もしも『カレン』さんを手に入れる前だとしたら、落ち込んでいたかもしれないけれど、僕にはもう『カレン』さんがいる。
 人間以上に人間らしい人形。
 彼女と一緒にいると、本物か偽物かなんてどうでも良くなる。僕が『カレン』さんを所有出来ているのだから。本物じゃなくても、それだけで十分だ。
 それにしても――カレンさんの動力が人間と同じ食事でいい、というのはびっくりだ。有機物からエネルギーを取り出す技術でも使われているんだろうか。そもそもがオーバーテクノロジーだけど、本当にあの店はなんなんだろう。
 まあ、『詮索は無用』だから詳しく追及するつもりはないけど。
 
 今日も家で『カレン』さんが待っている。
 
 
 
 
『人間の人形』(ニンギョウノニンゲン) 終
 
 
 
 

Comment

No.490 / 名無しさん [#-]

感情の無い人形化!最高!
まさかここで精神の人形化小説が読めるとは!ありがとうございます!

これってアンケの結果ですか?

2012-01/24 09:06 (Tue)

No.491 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

返信が遅れて申し訳ありません。
コメントありがとうございます。

感情を持たない人形化はいいですよね。
雑貨店シリーズでも書いたジャンルですが、もっと色々書きたくなります。

アンケートの結果が反映されているかといわれると……やっぱり、多少は影響しています。
面白そうな投票コメントがあると、書きたくなってしまって。
ただ、全ての結果を書くのかというと、そういうわけではありません。(本当はいっそそうしたかったんですけど、時間の問題があって……)
たまたま、書きたかったのとアンケート結果が重なった偶然だと捉えていただければ、幸いです。

それでは。

2012-01/25 23:34 (Wed)

No.492 / ポット [#-] No Title

人形化ならではの平然系が読めると思ったら感度が上がっちゃったでござる
なんか普通のエロ小説っぽくて残念

2012-01/27 09:21 (Fri)

No.493 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

ポットさんコメントありがとうございます。
ご期待に添えなかったようで、申し訳ありません。

キャラクターの性格とか設定とか考えてたら、こうなりました。
この話はあと纏めて終わるだけなので、平然系はまたいずれ……ということになってしまいます。

色々な物を書く予定がありますので、懲りずにまた読んでくださると嬉しいです。
では。

2012-01/27 18:10 (Fri)

No.494 / ごんべー [#-] No Title

こんばんは、今夜も楽しく拝見してます。
久々に作中で派手に喘ぐ女性(?)を見ました。状況で、というのもいいですが本能のおもむくままもいいものです。
ただ『カレン』さん、人形というよりアンドロイドに近い感覚がしますね。個人的に人形といえば日本人形とかフランス人形、バービーのイメージが・・・まあ、現代の人形といったところでしょうか??


・・・あと『花蓮』さんの苗字読めなかったです(苦笑)

2012-01/27 23:34 (Fri)

No.495 / Torainu [#CNtCm3fU]

執筆、お疲れさまでした

10倍は流石にやりすぎでしたかねぇ…
人格データが壊れた後、初期化により再起動…、なかなか面白いですね
どのようにしたらそんなことができるのでしょうね
あ、『詮索は無用』でしたねw

最後の「動力…」が、アクセントを効かしていると思います
とても面白かったです

次の作品も楽しみにしています

2012-01/27 23:35 (Fri) 編集

No.496 / ひいらぎ [#-] No Title

これはすごい!
大傑作だと思います。

確かに、人形化というよりは、洗脳によるロボット化と言ったほうが近い気がしますが・・・それにしても、機械的な受け答えがすごく興奮します。エロいです。
どうみても本n・・・ゲフンゲフンなのに、あえて本人の名前をつけるあたり、マサトくんも読者の気持ちが良くわかってますね(笑)

希望としては、外に出したり、また学校に連れてったりしてほしいですが、そこまで広範囲の洗脳は雑貨店くらいじゃないと厳しいでしょうか。
雑貨店に似たような話があった気がするので、そちらのほうもお待ちしています!
良い作品をありがとうございました!!

2012-01/28 03:37 (Sat)

No.497 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

ごんべーさん、コメントありがとうございます!

> こんばんは、今夜も楽しく拝見してます。
いつもありがとうございます!
見ていてくださる人の存在が、私の支えです。

> 久々に作中で派手に喘ぐ~
今回は感度を上昇させ、本能のままに喘いでもらいました。
もう少しこなれてきたら、彼もシチュエーションなどでカレンさんを興奮させるようになると思いますが……。

> ただ『カレン』さん、人形というより~
そうですよね。外見からはよく漫画などで存在するアンドロイドにしか見えないと思います。オタク的な言い方をするなら、フィギアの凄い版、みたいな。
どんなオーバーテクノロジーが使用されているのか……それは企業秘密です(笑)。

> ・・・あと『花蓮』さんの苗字読めなかったです(苦笑)
ごめんなさい、適当につけた苗字です(笑)。
お金持ちのお嬢様っぽい苗字がいいなぁ、と思いまして……でもとっさに実在のそういう苗字が思い浮かばなかったので適当につけました。

また見てくださるとうれしいです。

2012-01/29 00:38 (Sun)

No.498 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

Torainuさん、コメントありがとうございます。

> 執筆、お疲れさまでした
本当に疲れました……本当はもっとさらっと書くつもりだったんですが……普段の短編の三倍ですからね……。

> 10倍は流石にやりすぎでしたかねぇ…
女性の快感の強さをというものを理解していなかったための事故ですね。
もっとも、右手の条件付けがなければそれでも壊れはしなかったかもしれませんが……。

> 人格データが壊れた後~
ええ、どのようにしたらそんな凄い人形が出来るんでしょうね。私にもわからないです(笑)。
店の方針通り『詮索は無用』、ということで……。

> 最後の「動力…」が、アクセントを効かしていると思います
ありがとうございます! 実はその部分を書きたくて書いた話でした。
そこに至るまでが思いがけず長くなってしまいましたが……そう言ってくださると、書いた甲斐があります。

> とても面白かったです
> 次の作品も楽しみにしています
これからも期待していただけるように、頑張ります!
またどうぞお越しください!

2012-01/29 00:42 (Sun)

No.499 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

ひいらぎさん、ありがとうございます。

> これはすごい!
> 大傑作だと思います。
たくさんの人からコメントを頂けたことからも、かなりいい線行けたんじゃないかと思います。
拍手ボタンも結構押されてて、久々に会心の作品が書けた気がして嬉しいです。

> 確かに、人形化というよりは~
感情を一切無くす=人形化、擬似的に感情を再現できる=ロボット化、ということになるでしょうか。
確かに、この分類の方が合ってるような気もします……うーん。似たような嗜好でも色々違いがあって興味深いですね。

> どうみても本n・・・ゲフンゲフンなのに~
ちゃんと本人は他にいますよ! 別人であることを証明することは、本人がなんでか知りませんが突然海外に行っちゃったのでできませんけど。
彼にしてみれば、実際には手に入らない『水藤京花蓮』の代わりとしてあの人形を手に入れましたからね。
同じ名前を付けてしまうのも仕方ないんです!(笑)

> 希望としては~
そうですね。こちらの話ではあくまでも一人しか洗脳出来な……げふんげふん。
洗脳とは何のことですか? カレンさんは元からああいう風に作られた人形デスヨ?

> 雑貨店に似たような話があった気がするので、そちらのほうもお待ちしています!
雑貨店シリーズの『人形』ですね。あれもちょくちょく続きを書いていきたいと思っていますので、外に出したり学校に連れて行ったりするところの描写が出来るかと思います。
色々立てこんでいますのですぐにというわけにはいきませんが……気長にお待ちくださると幸いです。

> 良い作品をありがとうございました!!
こちらこそ、嬉しい感想をありがとうございました!
またどうぞお越しください!

2012-01/29 00:52 (Sun)

No.503 / ZのR [#vrddZxwE]

初めまして~

今までは読むだけでしたが、ドツボにクリティカルなシチュエーションでコメントせざるを得ませんでしたw
特に壊してもすぐに元通りにできると言う点が好きです。

脳をコンピュータ化した感じと言う事は、
それまでのデータのバックアップを取って置けば
壊して初期化してもすぐに直前の状態にできますし。

……個人的には、カレンさんの中には花蓮さん本人の人格がデータとして残ってて、
それを一時的に解凍した「本人ごっこ」なんかも面白そうだと思います。

2012-01/29 18:34 (Sun) 編集

No.505 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

> 初めまして~
ZのRさん、初めまして! コメントありがとうございます!

> 今までは読むだけでしたが~
たまたま思いついた話なんですが、そう言っていただけると思いついた甲斐があったというものです。

> 特に壊してもすぐに元通りにできると言う点が~
バックアップは、やろうと思えば可能だと思います。ただ、都合上パソコンでいうUSBメモリみたいな外付け記憶装置がないので、複数データを残すなどは無理かもしれません。
あえて壊れることをしてまた直して――というネタはいずれ書いてみたいですね。

> ……個人的には、カレンさんの中には~
な、何のことですかね(笑)。
『人格がデータとして残ってて』なんて、まるで『カレンさん』が『水藤京花蓮』本人が改造された結果みたいな言い方――げふんげふん。

まあ、でも、あの店の再現力なら『水藤京花蓮』の徹底リサーチでそれと同じ人格データがあの人形の中に入っている可能性は否定できませんね。それを利用して「本人ごっこ」も出来るかも知れません!
再現度半端ないんで!(笑)

それでは、コメントありがとうございました!
またどうぞお越しください。

2012-01/29 23:23 (Sun)

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