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『千編万花』 第四章

『千編万花』の続きです。
今回の話には特にエロ描写がありません。
 
それでは続きからどうぞ。
 
 
 
『千編万花』 第四章
 


 町が『救世主』出現に湧いている中、ミツルは仏頂面で黙り込んでいた。一応町に住む者の義務として宴に参加してはいるものの、とても救世主の出現を喜んでいるとは思えない。
 そんなミツルの元に、友人のサーシェフがやって来た。すでにかなり出来あがっているらしい彼は、ミツルに対して豪快に話しかける。
「おや、ミツル! ずいぶん湿気た面してるね! 折角救世主さんがやって来てくれた日なんだよ? もっと盛り上がらないと!」
 近くにあった酒瓶を掴んで、サーシェフは空になっていたミツルの盃に酒を注ぐ。
 ミツルは迷惑そうにしながらも、強く拒否することはしなかった。ぐい、と一気に酒を飲み干し、杯を空ける。
「……うるさいな。素直に喜べる気分じゃないんだよ」
 そういうミツルに対し、サーシェフは溜息を吐く。
「やれやれ……まだ拘ってるのか? そりゃ、キミの努力は認めるし、キミの実力自体を疑っているわけじゃないけどね……仕方ないじゃないか。普通の人間じゃ『怪物』には勝てないんだから」
 救世主が現れたのにも関わらずミツルが素直に喜べない理由、それはミツルは自分の手で『怪物』を倒すことを目指していたからだった。
 そのために身体を鍛え、装備を整え、知識を蓄え、わざわざ遠くの国まで行って名のある剣士に弟子入りしたり、秘境に住む高名な魔可使いに頼みこんで手ほどきを受けたこともある。
 血の滲むような――実際流血は日常茶飯事だったが――努力の甲斐あって、ミツルは普通の『魔物』相手ならば片手間で撃破出来るほどの力を有することが出来ていた。
 だが、そんなミツルの努力など何も関係なく、救世主が出現したというだけで町は湧き、ミツルが町へ凱旋した時よりも遥かに町は活気づいている。
 それがミツルには気に食わなかった。
 とはいえ、もしも救世主が、明らかに自身よりも遥かに優れていることが一目でわかるほどに『筋骨隆々とした戦士』であったなら。ミツルもここまで不機嫌になることはなかっただろう。
 問題は、その現れた救世主が、外見だけを見れば年端もいかぬ幼い少女であったことだった。
 戦い慣れているとは思えない身のこなし、ともすれば卑屈とも取れる腰の低い態度、触れれば折れてしまいそうな体躯。どれをとってもミツルには彼女を救世主として認められなかった。
 明らかに頼りにするには不安な存在。
 それを頼りにする町の者達への苛立ちや、自身の培った力が結局頼りにされていなかったことへの不満、救世主に関わる何もかもがミツルの精神を逆撫でしていた。
「とにかく、私は彼女を救世主として担ぎあげるのは反対だ。そもそも、お前は幼子を戦場に駆り立てるのが正しいと思っているのか?」
 そう言って鋭くサーシェフを睨みつけるミツル。睨まれたサーシェフは首を竦める。
「まあ、確かにちょっと悪いという気はするけどさ……仕方ないじゃないか。救世主が幼い子供である以上はそれで納得するしか」
「そもそも、お前。救世主を見つけた時に『うちに来てくれ』とか言ったそうだが、本気じゃないだろうな?」
 ミツルの問いに対し、サーシェフは気まずそうに目線を逸らす。
「……本気だったよ。良く考えると、まずいかなという気はしている」
「良く考えるまでもなく問題だ、馬鹿。幼子とはいえ、女性を男一人暮らしの家に招き入れようとするなど何を考えているんだか……」
 ミツルは深く溜息を吐く。
「あ、それで相談なんだけどね」
 そうサーシェフが口にした時、ミツルは激しく嫌な予感がした。戦士として鍛え上げたその手の感覚はミツルを裏切ったことがない。
 実際、彼が口にした提案はミツルにとって、非常に不都合なことだった。
「ミツル、キミのところにアルファ様を泊めてくれないかな?」
 近くにあった酒瓶を引っ掴み、直接口を付けて中身を煽る。そして勢いよくテーブルに叩きつけた。
 元々ミツルは不機嫌だったが、さらに不機嫌になっている。
「お前、何言ってる?」
 慣れているのか、ミツルの激しい剣幕にもサーシェフは動じない。
「戦士であるキミのところなら、戦いの経験がないっていうアルファ様も学べることが多いだろうし。鍛えて差し上げると喜ばれるんじゃないかなって。実際うちの町で一番強いのってミツルだしさ。妥当な人選だと思うけど?」
「どこがだ、ふざけるな。救世主に対していい印象を持っていないのに、どうして円滑な関係を築けると思うんだ。教えるにしても、もっといい人選は出来るだろう」
 そう答えながらも、ミツルは――自分自身の感情を抜きにすれば――自分が一番適任だろうと考えていた。
 サーシェフもその最大の理由を口にする。

「だってさ、女性の戦士ってうちの町にはミツル以外いないし」

 それが最大の理由だった。ミツルも自分が救世主に指導するのが一番いいのであろうとは感じていた。しかし彼女にとって、救世主は決していい感情を抱いている相手ではない。私怨を――しかも子供に対して――向けることは彼女としても控えたいところだ。頭では彼女もわかっている。
 だが感情はそう簡単に割り切れるものではない。
 そんなミツルの想いをある程度は察しているだろうに、サーシェフはもう一度頭を下げる。
「頼むよ。アルファ様はオレの家でもいいって言ってくれてるんだけどさ。やっぱりまずいだろ? だから、オレから適任であるミツルを紹介するってことにしちゃってて……」
「……そもそも、救世主ともあろうものを遇するのは町長の役目じゃないのか? 勝手に泊める場所を決めていいのか」
「それは大丈夫。っていうか最初はオレが家に誘ったことは何も関係なく、町長の屋敷にでも泊まっていただいて手厚く持て成そう――って話に纏まりかけてたんだけど、アルファ様自身が『自分はまだ何の役にも立てていないのだから、持て成してもらう必要はありません。むしろ、いまはなるべく早く戦いのための技術を学びたいです』って言ってさ」
 実に謙虚な言葉。
 それを聞いたミツルは、それを齢十にも満たなさそうな救世主が言ったということを踏まえ、胡散臭い想いだった。とはいえ、さすがに悪意を持った偏見であるとは本人も感じたため、頭を振って気持ちを切り替える。
 サーシェフの話はまだ続いていた。
「それで、オレが提案したわけ。ミツルのところなら女性同士だし、戦いの技術も学べて一石二鳥、ってね」
「……お前の仕業か」
 ミツルは大きな舌打ちをする。余計なことをしてくれたとばかりにサーシェフを睨む。サーシェフは軽く首を竦めた。
 暫く彼を睨みつけていたミツルだったが、やがて大きな溜息を吐く。
「仕方ないな……まともに教えられる保証はないぞ。基本的に私は教えられることはあっても、教えたことはないのだし」
 そのミツルの言葉を聞き、喜ぶサーシェフを無視して、ミツルは少し物想いにふける。
(まあ、まずは直接話してみないとな……)
 果たして上手くやっていけるのだろうか。
 まだ救世主と出会ってもいないのに、ミツルは不安だった。
 
 
 
  
 ミツルは自宅に戻ると、まず魔可を使用してランプを灯した。これはこの世界では魔可使いが最初に倣う初歩的な魔可で、練習さえすれば子供ですら出来る類のものだ。
 しかしそれを見た『救世主』は、まるで大魔法を見たかのように目を輝かせる。
「すごいです! 特に呪文も何も唱えてないのに……どうやったんですか?」
「……別に、凄いことじゃない。練習すれば誰にでも使える魔可だ」
「私にも出来るでしょうか?」
「……まあ、よっぽど素質がないなら無理だが、救世主の貴女がそんなわけもないだろう。問題なく使えると思うぞ」
 そういうミツルに対し、屈託のない笑みを浮かべるアルファ。
「ほんとですか? わぁ、楽しみです。色々教えてくださいね。ミツルさん」
「……ああ、まあ、私に教えられることは教えるが」
 外見だけを見れば極普通の幼女のように思えるアルファの言動だが、救世主というものに隔意を持つミツルには、それが不自然な演技に見えてしまう。
(いかんな……さすがにこの子に悪い)
 本人も自分が抱いている想いがアルファには何も関係ないことだとわかっていた。軽く頭を振って気持ちを切り返る。
「……それで、だな。貴女の寝るところだが……そこまで広い家でもないんでな。暫くは私の部屋で一緒のベッドに寝ることになるんだが……構わないか?」
 そうミツルが提案すると、アルファはなぜか一瞬動きを止め、困ったような顔になる。
「……ええと……私は、別にソファとかででも」
「『救世主』様をそんなところに寝かせるわけにはいかないだろ。私が町の者に責められる」
 それでも困った顔をしていたアルファだが、やがてそうするしかないと諦めたのか頷く。
「わかりました。それでは、お邪魔します」
 幼子らしからぬ丁寧な所作で頭を下げるアルファ。そんな彼女を見て、ミツルはさらに不愉快に思う。
「…………そんなに畏まらなくてもいいぞ。『救世主』様はもっと泰然としてればいいんだ」
「でも……ミツルさん」
「構わないと言っているだろう。貴女は『救世主』なんだからな」
 はっきりと放たれるミツルの言葉に、アルファは少し考え込んだ。そして再びミツルの方を見た時――アルファは微笑みを浮かべていた。
 反発か困惑か、どちらかだと予想していたミツルは、そのアルファの態度に面食らう。
「ミツルさん」
 放たれる言葉は静かで、自分の胸元より小さな存在なのに、ミツルはまるで大きな魔物に相対した時のようなプレッシャーを覚えた。
「私は、ミツルさん曰く、『誰にでも使える』魔可すら使うことが出来ません。そんな私がこの町で最も優れた戦士であるというミツルさんを敬うのは自然なことだと思います」
 そもそも――とアルファは続ける。
「自分が本当に救世主なのか、私自身わかっていないんです。ミツルさんが私のことを救世主だと思えるようになったら、その時は救世主と呼んでください。それまでは、私のことはアルファと呼び捨てにしていただいて構いません」
 それは明らかにミツルの隔意に気付いての発言だった。
「……ッ」
 ミツルは自分の半分くらいしか生きていないであろうアルファに、自分の心を見透かされたような気がした。それは彼女にとって屈辱であり、自分自身の狭量さ加減を実感させられることだった。
 その事実にミツルは恥じ入ると同時に、余計に強くアルファに対して反発心を抱いてしまう。
「…………アルファ、貴女は本当に見た目通りの歳なのか?」
「どうしてそんなことを訊くんですか?」
 小首を傾げて尋ねるそのアルファの様子は、外見だけを見れば年相応に感じられる。
 だが、ミツルはどこか違和感を拭いきれなかった。
「見た目通りの年齢にしては、貴女は落ち着きがありすぎる」
「……そうですね。確かに私はミツルさんが思っているほど幼いわけではないです」
 でも、とアルファは笑顔で続ける。
「たぶん、ミツルさんよりは年下ですよ」
 それが本当のことなのかどうか、ミツルにはわからなかった。
「ミツルさんは、私がお嫌いですか?」
 続けて放たれたアルファの問いに、ミツルはぐっと詰まる。やはり見透かされている気がした。
「……貴女自身を、というよりは『救世主』と言う存在自体が、だが、その通りだ」
 誠実を美徳と考えるミツルは、否定するのではなく肯定した。しかし、嫌われているとはっきり言われてもアルファに悲しみの色はなく、ただ事実を確認するように話を先に進める。その様子はやはり、とても見た目通りの年齢とは思えない。
「救世主なのに、ですか?」
「なのに、ではなく、だから、というべきだな」
 救世主が現れることで、自分というそれまで頼りにされていた存在から、町の者の頼りが救世主に移る――ということも気に食わない理由の一端ではあるが、彼女にとって気に食わない理由はそれだけではない。
「怪物が現れる時、救世主も現れる――それまでいなかった相手に、いざという時だけ頼らなければならないこの世界の仕組み自体が私は嫌いなんだ」
 一過性の救世主に頼らなければならない世界が彼女にとっては気に入らない最たるものだった。
 そのミツルの嫌悪の籠った言葉に、アルファが興味を抱く。
「……救世主は怪物を倒した後はどうなるんです?」
「正確には伝わっていない。だが、怪物を倒したあとも救世主がいたという記録はない。おそらく、怪物を倒すという役割を果たしたあとは元の世界に帰ったんだと思う」
 そのミツルの言葉を受け、アルファは何かを考えている様子だった。
 ミツルはアルファが考え込んでいる内容が気になった。
「それがどうかしたのか? アルファ」
「……いえ、なんでもありません。とにかく、これからお世話になります。よろしくお願いしますね。ミツルさん」
 アルファはそう言って笑顔を浮かべた。
 
 そこに底知れぬ何かを感じてしまうのは――ミツルの隔意だけが原因ではなさそうだった。
 
 
 
 
『千編万花』 第五章 に続く
 
 
 
 

Comment

No.487 / nekome [#lWxbDKCI] No Title

おおおお面白い! 面白いですよ!
3・4と続けて読みました。
世界の設定、登場人物の抱える想い・あるいは隠した意図の込められた言動の描写。話の構成。どれも巧いです。
この作品はもっと大勢に読ませたいですね!

2012-01/22 12:57 (Sun) 編集

No.489 / 光ノ影 [#-] Re: No Title

nekomeさん、嬉しいお言葉ありがとうございます!

正直、見切り発車で書き始めたので、ちゃんと書けるかどうかが不安な面があります(汗)。
一応、最後までプロットはあるんですけど……(頭の中に)。それをちゃんと書ききれるかどうか……。
頑張ってコツコツ書き進めたいと思います。結構長編になりそうな上、リアルの事情も鑑みると、今年一杯かかるかもしれませんが……頑張って仕上げたいと思います。

> この作品はもっと大勢に読ませたいですね!
作者として、もっと大勢に読んでもらいたいという願望があるのと同時に、チキンなので細々とやっていきたい気もして……難しいところですね(笑)。
検索サイトとか、投稿サイトとか、そういうところに登録なんかも考えてはいるんですが、そういったこともあって、中々踏み出せないのが現状です。

それでは、またどうぞお越しください!

2012-01/23 00:08 (Mon)

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