FC2ブログ
  1. Top
  2. » スポンサー広告
  3. » 『思い通りになる世界』
  4. » 本編
  5. » 『思い通りになる世界』 ~家具売り場~ その4

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  • ジャンル :

『思い通りになる世界』 ~家具売り場~ その4

『思い通りになる世界』シリーズの第十四弾の続きです。
(ジャンル:MC・形状変化・家具化)

以前の話はこちら→ その1 その2 その3

では、続きからどうぞ。

『思い通りになる世界』 ~家具売り場~ その4



 その放送を聞いた時、留美は丁度彼女を追いかけて来た女性が――放送から夏帆子という名前であることがわかっていたが――落としたメモ帳に目を通していた。
 そこに書かれていたのは、彼女にとっては『異常』と表現してもなお生温い、吐き気を催すような内容だった。
「どうして……こんなことが考えられるの?」
 そこに書かれている内容は人の――特に女性の――人格を無視し、ただの性的な玩具として扱っている内容だ。
 留美も女性だが、どういうわけか影響を受けないために助かっている。そうでなければ同じように扱われ、道具として作り変えられていたかもしれない。そのことは、彼女を恐怖させ、同時に強い怒りを抱かせるに十分な事実だった。
「元に戻さないと……っ」
 放送の内容から、そのメモ帳が何らかの重要な鍵になっていることは察しがついた。書かれている内容もあり、留美はまず書いてみることを考えつく。
 留美は胸ポケットからペンを取り出し、メモ帳に書き込んでみる。
「『全てが元通りになる』、っと…………」
 書きこんだあと、何か変化が起きるかどうかしばらく待ってみたが、何も起きない。
「……このメモ帳に書き込んだ内容が全部実現する、ってわけじゃないのかしら。……何か書き込む順序とか、特定のペンで書かないダメとか、内容を反映させる儀式とか……そういうのがある、とか?」
 仮にそうだとすると、それを知らない彼女には成す術がなくてお手上げだ。
「最初のところに書いてある……『世界が思い通りになる力は、ご主人様が自らの意志で夏帆子に命じて「消える」と書くまで消えない』ってところからすると……この人がこれに書けばいいのかしら……?」
 そう思った留美はまだ気を失ったまま床に倒れている夏帆子を見る。自分の身体の状態も無視した先ほどの行動を思うに、とても説得に応じるようには見えず、無理やり書かせることも出来なさそうであると簡単に判断出来た。
 別の方法で何とかするしかないと考えた留美は、どうにか出来そうな方法を考える。
「このメモ帳を焼いて処分してしまえば……元に戻るかしら」
 まず強硬策を思いついた彼女だったが、それはリスクが高すぎる賭けだと思い直す。
「それで戻ればいいけど、そうじゃなかったら皆今のままになっちゃうかも……それはダメよね。それは最後の手段にするとして……」
 理想的なのは、あの男を説得するかどうにかしてメモ帳の使い方を訊き出すことだ。
 そして全てを元に戻した後、メモ帳を焼くなどして処分してしまえばそれで全て解決する。
「でも、どうやれば聞き出せるかな……」
 相手は外道ではあるが、それを理由に軽んじることは出来ない。むしろ変に頭が回る分、警戒を強めておかなければならないと感じていた。
「何か、良い手を考えないと……あまり時間がないのに」
 デパートの中から人の気配が引いていくのを感じながら、留美は思考を続ける。
 少なくとも、デパート内の者達に命令をする際、わざわざ放送を使っていることから、相手がメモ帳なしに力を使えないことは確かであるようだ。
 そして理由こそわからないが、留美にその力が影響を及ぼさないのも確かだ。
「逃げるのは……無理」
 メモ帳を持ったまま逃走しても、犯罪者のような逃亡生活を出来る自信は留美になかった。ここで何とかするしかない。
「こうなったら…………一か八かの賭けになるけど」
 留美は覚悟を決める。
「まずは……道具を手に入れないと」
 そう決めれば、彼女の行動は速かった。
 彼女は人の気配を気にしながら、必要な道具を得るためにデパートの中を走る。




 それを見つけた時、久人は苛立ちを込めて大きな舌打ちをした。
「ちっ……! くそっ、こんなことになってるとは……!」
 久人の前には夏帆子が倒れていた。近くには彼女が吐いたと思われる吐瀉物が散らばっている。その光景から推測するに、店員を追いかけた結果、返り討ちにあったようだった。
「起きろ、夏帆子。あの女を捕まえに行くぞ」
 久人が夏帆子の体を揺すって声をかけると、夏帆子は目を開いてすぐに立ち上がった。若干ふらついた夏帆子の身体を久人は思わず支える。
「申し訳ありません。あの女を捕まえられませんでした」
「……そんなことは見ればわかる。それはいいから、行くぞ。…………一応聞くが、預けたメモ帳はどうした?」
 久人が訪ねると、夏帆子は自分の胸ポケットを探った後、周囲を見渡す。
「……申し訳ありません。どうやら紛失してしまったようです」
「ちっ、やはりあいつが持って逃げたか……最悪だ」
 焦っていたためということもあるが、久人はうかつにメモ帳のことを放送してしまったことを悔いる。
(中身を見ればあれがこの騒ぎの原因だということはわかるだろうし……)
 苛立つ久人は歩きながら考える。
(普通は処分しようとするだろうが……)
 久人は一つ頷く。仮にメモ帳を処分しようと思ったときどうするか。シュレッダーでは細かくなるだけで意味がない。ならば別の方法を取るしかない。
 細かくちぎって水に流すという手もあるが、紙を処分しようと思ったとき誰もが思い付く方法が一つある。
(一番完全に抹消できる方法は火で焼くことだが……デパート内で火器を使うわけにはいかんだろうし……もしや、屋上に向かったのか?)
 そう考えた久人が、屋上へと足を向けようとした時、その視界に動く物が跳び込んで来た。
「!?」
 咄嗟に顔を手で覆った久人の前で、その何かが激しい炸裂音と共に弾ける。それは単なる爆竹だったが、突然の騒音に久人の思考が真っ白になった。
(なん、だ――?)
 その僅か一瞬の隙に、相手は準備を完了させていた。堂々と久人の前に姿を晒し、その手に持っている物をよく久人に見えるようにしている。険しい顔をしたその女性は、鋭い声で久人に向けて叫ぶ。
「その人達を止めなさい! さもないとこのメモ帳を焼くわよ!」
 彼女の左手にはメモ帳が、そして右手にはライターのような何かが握られていた。それはいかにも火を付けることを示しており、防火加工もされていない単なるメモ帳は一瞬で灰になることは容易に想像出来た。
 爆竹の騒音から一拍遅れて、久人に「彼女を捕まえるように」命じられた女性たちが動き出す。
 それに対し、思わず久人は叫んでしまっていた。
「『待て』!」
 奴隷たちの動きが止まってから、久人は三度失策を悟る。
 相手はわざわざ姿を晒して来た。それはつまり交渉をしようとしているのであり、彼女が握っているメモ帳はどうあれ極めて重要な取引材料だ。それに対し、火を点けるという行為は相当覚悟を決めなければ出来ない。もしも最初の段階で一気に奴隷達に襲いかからせていれば、火を点けるまでのタイムラグでメモ帳が全て焼けてしまう前に確保出来たかもしれない。
 だが、一度奴隷たちの動きを止めてしまったため、相手に時間的余裕を作ってしまった。
「その人達を下げなさい! 数メートルは後ろに!」
「――ッ、い、言われた通り、さがれお前達」
 悔しげに歯を食いしばりながら、久人は奴隷たちに命じる。奴隷たちはそんな久人の複雑な想いなど知らぬ気に、言われたまま数メートル後退する。
 度重なる失策の結果、久人は限りなく追い詰められていた。


 

 留美は内心、胸を撫で降ろしていた。
 メモ帳を盾に交渉を持ちかける際、最大の障害になり得るのが『出会いがしらに男が従えている人達に取り押さえられる』ことだった。夏帆子という女性の行動から、下された命令をとにかく遂行しようとするのはわかっていた。そのため、仮にメモ帳を掲げながら男と交渉を始めようとしても、まずは周りの者を止めてもらわなければならない。
 しかし単に姿を晒しながら要求したのでは間に合わないかもしれない。館内放送という手もあったが、放送は一度男が使っている。その場所に何らかのトラップが仕掛けられている可能性もある。そのため、留美は放送の選択肢は取れなかった。
 そこで留美が行った次善の策は『爆竹による衝撃で思考の余裕をなくし、自身の望む反応に誘導する』と言ったものだった。その目論見は見事に成功し、男の取り巻き達を下げさせることに成功した。
 留美は背中に汗を掻いていることを自覚しながら、表面上は努めて冷静を装う。
(第一関門クリア……ってところね)
 まだ安心は出来ない。むしろここからが本番だった。
「やっぱり、このメモ帳は随分大事なものみたいね」
 放送の時にわざわざ『メモ帳を持ってこい』と言っていたことやメモ帳の内容からわかっていたが、男の反応からそれがはっきりした。仮にそうでなかった時は取り押さえられて終わりだったから、留美はその賭けにも勝った。
 男は傍目から見ても明らかに悔しげな顔をして、留美を睨みつけている。
「…………何のつもりだ?」
「まずは移動しましょう。その人達はここにおいて、ゆっくり私のあとについてきて」
 留美は主導権を握り続けるべく、畳みかけるように要求を口にする。男はさらに不愉快そうに眉を顰めたが、留美の言うことを受け入れる様子を見せる。
「お前達はここで待て。……だが一人……夏帆子は連れていくぞ。俺の身の安全のためにな。夏帆子。俺に危害が加えられそうになったら、盾になってでも俺を守れ」
「わかりました」
 明瞭な言葉で応じる夏帆子。留美は少し逡巡しかけたが、あまり相手を追い詰めすぎるのもまずいと考え、夏帆子の同行は許可する。
「いいわ。でも、その人だけよ。あなたの後ろにいるようにしておいて。……そもそも、あなたに危害を加えるつもりはないんだから」
「……どうだか。そのメモ帳を持っていったということは、俺がどういうことをしてきたかもわかってるんだろう? 俺がお前の立場なら、殺しておこうと思っても不思議じゃない」
 嫌味が込められている男の言葉に、留美は不快感を覚えた。
(自分がして来たことが、殺されてもおかしくない、酷いことだと知りながら……わかっているなら、なんでそれを平然と出来るのよ!?)
 自分勝手な男の心理に彼女は怒りを禁じえない。怒りを堪えつつ、留美は先導して歩き始めた。もちろん背中を男に向けることはせず、男の動きを警戒しながら慎重に進む。
 留美がそうやって移動した先は家具売り場のフロア、歪な椅子に変えられた元人間・佐伊南さこの傍だった。
 佐伊南を挟んで留美と男は向かい合う。彼我の距離はおおよそ五~六メートル。仮に男が突然全力で襲いかかって来たとしても、十分対処の出来る距離だった。
「単刀直入に言うわ。この人を……いえ、このデパートを元に戻して。そして、もう私の周りを変えないと誓って。どこか遠くでやる分にはいいから、私の知り合いやこの町に危害を加えないで」
 留美の要求に対し、男は微かに目を細めた。
「……危害を加えているつもりはないがな。それぞれ、『幸せ』を感じられるようにはしているぞ?」
「そんなの、ほんとの幸せじゃないわよ!」
 思わず語気が強くなった留美は、意識して気を落ちつけた。
(冷静に……冷静に……)
 ここで激昂して相手との交渉を破綻させてはいけない。
「……少なくとも、私はそう思うのよ。こんなデパートでずっと働いてたら気がおかしくなっちゃう」
「だから、俺に去れと?」
「こういうこと自体をやめろとは言わないわ。私の目に入らない、遠くでやってって言ってるの。…………そうしてくれるなら、このメモ帳を返すわ」
 留美は言葉で揺さぶりをかける。その上で、男の反応を見逃さないように注視していた。
 しかし、男がいま何を考えているのか、外見からはわからない。




 久人は久方ぶりに相対する『思い通りにならない』人物に苛立ちを覚えていた。
(……くそっ、この俺が……『思い通りになる力』を手に入れたこの俺に……何様だ、この女……ッ)
 感情を表に出さないように堪えていたが、それも限界が近付いていた。ダメ元で夏帆子をけしかけてやろうかという気分になる。
(落ち着け……冷静を保て……とにかく、メモ帳さえ手に戻れば……!)
 例え『思い通りになる力』自体が利かなくても、物質を操って物理的に行動を遮ってしまえばあとはどうとでもなる。久人はそう考えた。
「……いいだろう。お前の要求を飲んでやる。だからそのメモ帳を返せ」
 そう久人が言うと、彼女は首を横に振った。
「ダメ。元に戻すのが先よ」
「…………それがないと、元に戻すことも出来ねえんだよ」
 嘘ではなかった。いま久人の力はかなり制限されていて、もしも変えてしまった者を元に戻そうとするならメモ帳に書き込むしかない。
 だが、相手も譲らない。彼女にしてみればメモ帳は大事な盾だ。そう簡単に手放せるものではない。
「なら、このメモ帳の使い方を教えて。それで私が元に戻すわ」
 久人はその言葉に対し、頭をフル回転させる。
(こいつに使い方を教えたとして……それで大丈夫か? いや――大丈夫なわけがない)
 使い方を教えたとして、それで女が世界を元に戻すことだけにメモ帳を使うとは考えにくい。下手をすれば久人自身を消滅させられる可能性がった。久人はそこまで相手のことを信用出来るほど人が良くなかった。
 しかし、メモ帳を取り戻すことは必須だ。メモ帳を手にしないことにはどうすることも出来ない。
「…………使い方は」
 久人はやむを得ず、強硬策に出ることにした。
「使い方は、簡単だ。そのメモ帳に、起こしたい現象を書き込めば、それが現実に反映される」
 そう言いながら、久人は慎重に身体に力を込め始めた。メモ帳に書き込むためにはライターからペンに持ち替えなければならない。その時が決定的な隙になる。
 相手が書き込もうとペンを握った時こそ、その時――と久人は思う。
 だが、自体は久人の思い通りの方向に転がらなかった。
 険しい顔をした女性は、さらに険しい顔になり、黙ったまま一歩久人から離れる方向に足を動かしたのだ。
「嘘つき。『全てを元通りにする』って書きこんだけど、何も起きなかったわよ」
(――ッ! しまった! 俺は馬鹿か!? 書くなんて単純な方法を、試してみてないわけがねえだろ!)
 久人は今度こそ絶望した。嘘をついてしまったことで、女性は交渉の余地がないと考えたようだ。
 ライターを使ってメモ帳に火を点けようと、ライターに火を灯してそれをメモ帳に近づけた。
 例え久人が全力で走っても、メモ帳の消失はもはや免れられない。

 火に焙られ、メモ帳が燃えていく。




『思い通りになる世界』 ~家具売り場~ その5 に続く



Comment

Comment Form
コメントの投稿
HTMLタグは使用できません
ID生成と編集に使用します
管理者にだけ表示を許可する

Page Top

Trackback

Trackback URL

http://kuroitukihikari.blog60.fc2.com/tb.php/201-8aef9063

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

Page Top

カウンター
投稿先サイト
『小説家になろう』ノクターンノベルズ
(ユーザーページに飛びます)
運営サイト
暁月夜色
 どんなジャンルでもOKな投稿小説サイトです。お知らせには必ず目を通してください。

黎明境界
 自己満足小説の展示サイトです。
 注意事項には必ず目を通してください。
 以下、連載中の作品概要


『私の名前はまだない』
(MC物、ペット化、女性視点)
(最終更新日:2013/12/07)

『思い通りになる世界 ~forガール~』
(カオスジャンル、世界改変系)
(最終更新日:2016/02/28)

最新記事
カテゴリ
最新コメント
リンク
プロフィール

光ノ影

Author:光ノ影

連絡先は kuroitukinokage×yahoo.co.jp (×を@にしてください)

つぶやき
作品紹介
検索フォーム
FC2アクセス解析
カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。