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『雑貨店へようこそ』 ~牛~ エピローグ

雑貨店シリーズ『牛』のエピローグです。
これまでの話はこちら→         
10 (残酷表現注意:この章を飛ばして9からエピローグを読んでも大丈夫です)

では、続きからどうぞ。

雑貨店へようこそ ~牛~ エピローグ



 色々と経験出来た牧場見学も終わり、帰る時間になりました。
 私と同じように『牛』となって、放牧体験をしていた子たちも、牧場の方達に圧したスタンプを消してもらい、次々人間に戻って行っています。私は現在、順番を待っているところです。そこに、一足先に人間に戻ったいちるがやってきました。
「瑠美ちゃんやっほー。楽しかったねー」
『楽しいというよりは、恥ずかしかったですけどね……』
 私はそう答えたつもりでしたが、人間のいちるに『牛』の言葉は通じません。いちるはペットにするように私の頭を何度も撫でます。
 そうしているうちに、隣で順番を待っていた委員長が人間に戻りました。いよいよ私の番です――と、思ったら、牧場の方は私の手のスタンプを消してくれませんでした。
 ただ、にこやかな笑みを浮かべて私の前を素通りしてしまいました。
「あれ? あの、瑠実ちゃんは……?」
 その行動を妙に思ったいちるが牧場の方にそう尋ねてくれますが、牧場の方は笑うだけで応えてくれませんでした。
 私以外の全員が『牛』から人間に戻り、脱いだ服を着始めます。いちるは私のことを心配してくれていたようですが、とりあえず言われた通りに彼女も服を着ていました。私は一人だけ残されていて不安でした。どうして私だけ元に戻してくれないのでしょう?
 やがて私以外の全員の帰宅準備が整い、皆は整然と出席番号順に並びます。『牛』のままの私は列に加わるわけにもいかず、ただ狼狽していることしかできません。
 そんな私のリードを牧場主の方が持ち、並ぶ皆の前に引き出されます。皆も一人だけ『牛』のままでいる私のことに気付いたのか、ざわざわとざわめいています。
「さて皆さん。見学お疲れさまでした。良い経験になりましたか?」
 落ち着いた牧場主の言葉に、ざわついていた皆は静かになります。しかしその視線は時折私に向けられていました。そんな皆の視線に気づいたのか、牧場主は朗らかな笑みを浮かべて説明を始めてくださいます。
「ああ、どうして彼女だけが『牛』のまま残っているのか、ですね。いまからその説明をいたします。当牧場では、見学しに来てくださった団体様の中から、特別に一人を選出して当牧場で飼育するという『ルール』があります。日伊羅瑠実さんには、このままこの牧場で暮らしていただくことになったのです」
 そんな『ルール』があったなんて。
「まあまあ。それは素敵ですね。うちの学校から家畜が出るなんて光栄ですわ」
 説明を聞いた先生がそう快哉をあげます。他の皆もその牧場主の方の説明を聞いて、なぜ私だけが『牛』のままで放置されていたのか理解出来て、安心したように囁き合っています。
 私はこれでも日伊羅家の跡継ぎで、このようなところで生涯を終えるなど本来ならば考えられないことですが――それがこの牧場の『ルール』であるのならば仕方ありません。受け入れるしかないでしょう。そう自分を無理やり納得させていると、牧場の方が妙なものを持ってきました。
 バケツから長い柄が突き出しています。バケツの中には木炭のような、熱を持った物が詰められているようでした。
「これは焼印を入れるための道具です。現在瑠実さんはスタンプによって『牛』になっているわけですが、スタンプでは水洗いをしてしまうと落ちてしまいます。今後ずっと『牛』として暮らしてもらうには不都合ですので、この焼印を入れることで、完全に『牛』になってもらうわけです」
 牧場主の方は、その長い柄を持ってバケツの中身を掻きまわします。
「さて……それではこれを……そうだ。折角ですから、瑠実さんの友達に圧してもらいましょうか」 
 いいことを思いついた、とばかりに牧場主の方は皆に向けて言います。もちろん、手を挙げて存在を主張したのはいちるです。
「はーい! 私やりたいです!」
 元気一杯のいちるは、顔やその性格を覚えられたのでしょう。牧場主の方は特に驚くことなく、いちるを手招きします。列を離れて前に出てきたいちるに、牧場主の方は焼印を入れるための道具を手渡しました。
「それでは、これを持ち上げて……結構重いですから両手で。圧している間にずれたりすると、効力が発揮されないので気をつけてください。彼女が痛いだけになっていしますので。正確に、しっかり構えて……」
 牧場主の方はいちるに手取り足取りしっかり焼印を圧すための指示を出しています。
 次に私の方にも指示がされました。
「まず上半身を地面に着けて。あ、膝は立てたままです。もうちょっとお尻を突きだす感じで。手は前に出してもいいから、圧されても体が動かないように。その体勢だと、安定してるから大丈夫でしょう?」
 私が牧場主の方に言われた通りの体勢を取ると、確かに安定していました。これならば力強くお尻を押されても動かずにいられる自信があります。かなりお尻を突きだす形になってしまって、恥ずかしいのですが、綺麗に焼印を圧すためならば仕方ありません。
 その体勢のまま待つ私を、牧場の方達が手で押さえます。逃げられないように――というよりは、万が一にも体が動かないように――ということなのでしょう。
 私の背後にいちるが立ちます。
「それじゃあいっくよー。瑠実ちゃん」
「かなり痛いですからねー。歯を食いしばっておいた方がいいでしょう」
 私は無理に後ろを向くことはせず、前を向いていました。だからよくはわからなかったのですが、お尻のすぐ傍に熱い物が近づいていることはわかりました。歯を食いしばり、来る衝撃に耐える体勢を整えます。
「1、2の……さんっ!」
 そんないちるの『さんっ』という声と同時でした。
『――ぁ、ぎァっ!!!』
 突き出したお尻に、衝撃が走ります。合図をかけてもらっていなかったら、牧場の方に押さえていてもらえてなかったら、恐らく私は暴れ回っていたことでしょう。それほどに焼印という物によって齎される激痛は相当な物がありました。勝手に暴れ出しそうになる体を抑えるのは非常に困難でした。
 数秒、いえ、数十秒はそうしていたでしょうか。ゆっくりと圧しつけられていた物が離れて行きます。牧場の方が急いで私の臀部を治療しています。こうすることで、焼印の後をしっかりと残すことが出来るようです。
「これでよし。それでは、日伊羅瑠美さんは当牧場で責任を持って引き取りますので――」
 牧場主の方と先生が話をしている間、私はお尻から生じ続ける鈍い痛みに耐えていました。鈍く、骨まで響いているような、激しい痛みでした。時間が経ち、話が終わる頃には、私もなんとか四つん這いの体勢になれるくらいには回復しましたが。
 私に焼印を押しつけた張本人であるいちるは、心配そうな顔をして私の頭をずっと撫でてくれていました。
「瑠美ちゃん大丈夫だった? まだ痛い?」
『ええ。もう大丈夫ですよ、いちる』
「これで瑠美ちゃんはずっと『牛』さんなんだねー。なんだか不思議な感じがするや」
 人を止めてしまったことになるのですから、当然寂寥感はあります。けれど、それは仕方のないことでした。
『頑張っていい牛乳をたくさん作りますね』
「頑張っていい牛乳をたくさん作ってね」
 人と『牛』の間で言葉は通じません。
 だというのに、私といちるはほぼ同時に、同じ意味の言葉を口にしていました。それだけ私といちるの気が合っていた証のように思えて、何となく幸せな気分になりました。いちるは最後に私の頭をもう一度撫でると、バスに乗り込む皆の列に紛れてしまいます。
 バスはすぐに出発していきました。学校へと帰るのでしょう。それを見送っていた私は、鼻輪に繋がれていたリードを引かれたため、牧場主の方を向きます。
「ほら、行くぞ。ルミ。これからお前が暮らす牛舎のスペースはこっちだ」
 お客さんに対する言葉づかいから、『牛』に対する言葉遣いに牧場主の方は戻っていました。私はここで残りの一生を暮らしていくことになったのですから、そういう態度で当然です。牧場主の方に牽かれるまま、私は牛舎へと向かいます。
 体験学習として経験した乳搾りは大変なものでした。それがこれからは毎日行われることになるのです。さらに、最後には――いえ、そのことをいま考えるのはやめましょう。

 ともあれ、これから始まる牧場生活は大変なものになりそうです。




 私が牧場を手に入れてから数カ月経ったある日。
 一通の手紙が牧場に届けられた。
『こんにちは。先日見学にお邪魔させていただいた――』
 典型的な決まり文句から始まったその手紙は、以前牧場見学にきた学校の学生からのものだった。
『あれ以来お肉を食べる時には、その肉が生きていた頃のことを考え――』
 いかにも牧場見学に来た者がお礼として牧場に出しそうな内容がつらつらと続いた後、その手紙は本題に入った。
『ところで、そちらに引き取られた瑠実ちゃんですけど、元気にしているでしょうか?』
 その手紙は、瑠実という子の友達からの物だったのだ。
『毎日お乳を頑張って作ってくれているのでしょうか。牛乳を口にするときは瑠実ちゃんのことをいつも思い出してしまいます』
 実際、中々質のいい牛乳を産出してくれるため、あの子は重宝していた。いい素材が手に入ったものだ。
 本来なら大富豪の娘としてさぞかし裕福な暮らしをしていただろうに、うちに来てしまったがゆえに、四つん這いで牧場内を這いまわる人生になってしまったわけだが、彼女本人は気持ちよさそうに搾乳やら放牧やらをこなしている。
『私も見学の際、『牧羊犬』になったことが忘れらなくて、将来は『牧羊犬』になろうと思っています。色々調べましたが、どうやら『牧羊犬』になるにはそちらの牧場にお世話になるしかないようで――』
 そこまで読んで、私はあの時特別に『牧羊犬』にした子から手紙だったことに気づいた。名前などいちいち覚えていなかったからわからなかったのだ。それにしても、『牧羊犬になる』なんて夢は人類で彼女が初めて抱いたのではないだろうか? 色々な学校を受け入れているあめに、来る手紙は多く、放置したままの物も多いが、この手紙には返事を出そうと思った。いつかぜひお越しくださいと。友達同士が『牛』と『牧羊犬』になって同じ牧場で暮らすのも面白いだろう。
 私は読んでいた手紙を机の上に置き、窓の外の牧場を眺めた。広がる放牧地のところどころに肌色が動いている。放牧している『牛』達がいるのだ。

 『牛』達が暮らす牧場は、今日も長閑なものだった。




雑貨店へようこそ ~牛~ 終



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No.771 / [#] 管理人のみ閲覧できます

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2012-07/31 02:04 (Tue)

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