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ウサギ狩り 前編

この作品は卯年に関連して書いてみた短編です。
(長くなったので前後編に分けました)
ジャンルはMC・調教などです。

では、続きからどうぞ。

ウサギ狩り 前編




「『ウサギの庭』へようこそ。歓迎いたします、お客様」
 最寄り駅からバスに乗ってどのくらい経ったのか。そんな時間感覚が狂うほど長い時間バスに揺られた俺は、とある山中に降り立った。
 そこには果てしなく続く自然の光景が広がっていた。
「……ここが、そうなんですか?」
 バスが止まった場所で待っていた男に、俺は尋ねてみる。その案内人らしき男は笑顔を浮かべて頷いた。
 俺は改めて回りを見渡してみる。バスが通ってきた道路はコンクリートで固められているわけではなく、田舎の道のように地面が踏み固められているだけの道で、半ば獣道かと言うほどに草が生えている。バスが停まっているところの近くには、明らかに『いまは使われていない』ことを示しているような、錆の浮いた時刻表があるだけで建物一つない。
 目の前に広がるのは鬱蒼とした森だけで、富士の樹海を彷彿とさせる光景だった。俺は明らかにおどろおどろしい情景に固唾を飲み込む。
「それではまずは『狩人の小屋』に行きましょう」
 案内人は俺の状態など知らないと言わんばかりに、さっさと森に向かって歩き出してしまった。俺は一瞬躊躇したが、降りたばかりのバスが走り出してしまったことで、案内人についていく他無くなった。どうせここまで来たのだし、行かない選択肢は最初からなかったのだけど。
 見失わないように案内人について歩き出す。案内人の男は道なき道を慣れた様子で歩いていく。俺は歩きながら、案外道が歩きやすいことに気が付いた。確かに色々草木は繁っているが、引っ掛かると言うことがない。足元もしっかりしていて、ぬかるんでいると言うことがない。普通に歩けるし、段差も傾斜もほとんどないので、程よく地面が柔らかい分、コンクリートの地面を歩くよりも足にかかる負担は少なさそうだ。
 むしろ裸足で歩いても怪我をしなさそうな……
 その時、前を行く案内人が振り向いた。
「見えてきましたよ。あれが『狩人の小屋』です」
 そう言って案内人が示したのは、極々普通の、木で作られた小屋だった。日本昔話でよく見られる形の小屋と言えばわかりやすいだろうか? 近づくにつれ、古びた感じの小屋の作りがはっきり見えるようになった。
 中に入る扉は、いかにも重そうながっしりとした木の引き戸だったが、案内人が片手で苦もなく音もなく開けたことから、どうやら少ない力でも開けられるようにレールなどがしっかりしているらしい。
「中へどうぞ」
 外は昔ながらの作りだったが、中は案外現代風だった。病院の待合室とか、あるいはデパートの中にある店に見られる内装とかを彷彿とさせる。待合室を彷彿とさせるのは部屋の要所要所に置かれた細長いソファだろうし、デパートの店舗を彷彿とさせるのはソファの前に置かれているガラスケースだろう。宝石やアクセサリーが入っていそうなガラスケースだったが、その中にあるのはそれではない。どうやらこの『ウサギの庭』に生息するウサギの情報などがガラスケースの中には置かれているようだった。
 もっとも、それらより何より俺の目を引き付けたもの――それは、壁一杯にかけられた、猟銃だった。『狩人の小屋』と言うだけはあって、多数のそれらは小屋の中の光を反射し、無骨に輝いていた。
「す、すごい……」
 俺は唖然としてそれを見渡していた。何だか外から見た小屋から考えていたより中が広い気もするが――そんな些細なことは気にならなかった。
 案内人はまず俺にソファに座るように求め、俺は大人しくそれに従った。




 藪を掻き分けて、前に進む。藪を抜け、少し広いところを見つけた私は、そこで一端休憩することにした。ここまで担いできた荷物を降ろし、首から提げていた水筒から水を口に含む。さすがにちょっと息が切れていた。長袖の袖口で口元を拭い、私は溜息を吐く。
「はぁ……全く、山口の奴……情けないんだから」
 山を昇り始めた当初、無理矢理付いてきていた山口は、山を登り始めて早々にリタイアしていた。体育会系を豪語し、体力に自信があると言っていたくせに全く役にたたなかった男のことを思い出し、私はもう一度溜め息を吐く。
「これじゃあ、またあの呼び名が広まりそうね……」

 『山猿』とまで呼ばれた少女時代、私の活動範囲はとてつもなく広かった。生まれ育った村から山を三つほど超えたところの町で保護された時は、細かいことを気にしない私の両親も驚愕した程だ。底無しの体力に、身軽な身のこなし、そして馬のように速い足――と、私は身体能力だけでいえばオリンピック選手にも引けを取らない自信がある。
 そんな私がなぜ運動選手にならずに、雑誌の記者と言う道を選んだのかと、単純にいえば見せ物になりたくなかったからだ。注目されるのが嫌いだった。もっと言うなら、視線を向けられるのが嫌だった。記者になったのは『注目されるのが嫌なら注目する側になってやれ』という、我が父ながら豪快なアドバイスに従った結果だった。
 持ち前の体力を活用した軽快なフットワークを誇るおかげで記者としてはそこそこ成功を納めている。野に生えている適当な実を食べても全く問題ない胃腸のために、衛生状態が良くない外国の取材を任されることもあり、強靭な肉体を育んでくれた野山には感謝している。
 まあ、『山猿』と呼ばれるのは好きじゃないけど。

「……そんな、猿みたいな顔はしてないとおもうんだけど」
 私は水筒の側面に映る自分の顔を見る。もちろんそこに映る自分の顔は、水筒の曲面のせいで歪んでいた。とはいえ、顔立ちにそこそこの自信があるのは事実だ。『黙ってさえいれば、という言葉があるが、お前の場合は座っていれば、だな』と言ったのは私の上司だ。酷い言い分だとはおもうけど、正確に言ってくれる。小顔だし、目元がぱっちりしていて目が大きく見えるし、程よい色白だし、ふわふわした髪は何より自慢だ。『化粧したらもっと輝くような気もするけど、あんたの場合すぐ走り回って台無しにするね』と断言したのは行きつけの美容師。……否定は全く出来ないけど。
 思い出すと落ち込みそうだったので、私は頭を横に振って思考を切り替えて周りを見渡した。山は私の得意分野だったので、樹海ばりに鬱蒼とした景色も全く怖くない。
 私は木に背中を預けながら、上司から聞いたことを思い出していた。曰く『この山中には知られざる秘境がある』。そこを取材することが出来ればいいネタになるだろう。確かにそんなところがあれば、雑誌上で『秘境』特集を組むことが十分なほどの情報を得ることが出来るというわけだ。全く情報はないけど、その秘境は温泉の可能性が高いと私は踏んでいる。
「しかし……これは外れかなぁ。こんなとこに温泉や他の何かがあっても……行くだけで疲れちゃう」
 秘境と名がつこうとも、本当の本当に『秘境』らしい秘境には人は集まらない。矛盾するようでも、『行きやすい秘境』がやはり人気なのだ。とはいえ、すでにそういう『秘境』は他の雑誌が取り上げたりしてるから、こういう場所を探しに来るしかないのだけれど。
「ま、これも仕事のうちだし、行くだけ行ってみようっと」
 出張扱いになっているから、やるだけのことはやらないと怒られてしまう。見つからなければ見つからないで、近隣の村からそういう噂が流れた根拠となるものを探さなければならない。やることは沢山ある。
 私は数分の休憩を挟んでから、再び山を掻き分けて進み始めた。




 『狩人の小屋』で、俺は案内人から説明を受けていた。
「壁にかけてある銃が狩りに使用するための銃です。デザインは複数あるので好きなものをお取りください。性能に大きな差はありませんから」
 確かに案内人のいう通り、昔からの猟銃もあれば近未来の銃みたいな流線型もあった。
「じゃあ……これでいいかな?」
 俺は少し迷ったがここは状況に合わせて昔ながらの猟銃の形をした銃を手にする。
「もちろんです。……それの弾はこれです。簡単に装填出来るようになっていますので――」
 その案内人の言葉通り、弾は簡単に装填出来るようになっていた。銃に詳しくはないが、この銃が異常に使いやすく作られているのはわかる。古い形状に反して、七発まで連射出来るらしい。
「撃つ時は、スコープを使ってください。猟銃タイプに合うように材質を工夫しているものがありますので……」
 猟銃にスコープ、というのはどうかと思ったけど、案外デザインが良かったし、素人が遮二無二撃っても当たらないだろうからありがたく使わせてもらうことにする。
 さらに銃弾のストックを入れておくポーチなども支給された。俺が喜んだのはゴーグルだ。サバイバルゲームなんかをやっている時につけたりするものなのだろうが、それをやったことがない俺にしてみればまさに戦場のような感覚が味わえるアイテムだ。
 準備が大体整ったところで、案内人はガラスケースの上で地図を広げた。なんだか作戦会議みたいでワクワクする。
「これがウサギの庭のマップです。この範囲内で狩りをお楽しみください」
 大体どのくらいの広さなのだろうか? 山一つどころかいくつも入ってそうな広大なマップだった。良好な狩り場を示すマークがいくつも書かれている。そのうち、中心部にあるマークを案内人は指し示した。
「初心者の方にお勧めなのは、やはりこの中央の大草原ですね。草原の中央には食べやすい果物が設置されていまして……若い獲物ほど、頻繁にこの木に近付いてきます。草原なので見晴らしが良く、じっくり狙いをつけやすいですしね」
「ふんふん……」
「まずはその辺りで一匹……ウサギだから一羽ですか。捕ってみるのをお薦めしますよ。あなたが申し込んだコースは『一羽コース』のため、最終的に『お持ち帰り』出来るのは一羽ですが、取捨選択は出来ますので」
 俺はやけに軽い猟銃を握り直し、頷く。
「やるだけやってみる」
「その意気です。さて……では最後にこれをどうぞ」
 そういって案内人が手渡してきたのは、マイクが付いたヘッドホンだった。
「これで私たちといつでも連絡が取れます。終了10分前になりましたら、アナウンスをさせてもらいますので、それまでは心置きなくハントしてくださいませ」
「ああ。わかった」
 俺はそれを装着し、銃を構え、ゴーグルをかける。なんとも言えないこの高揚感が堪らない。
「では、良い狩りを!」
 案内人が開けてくれた扉をくぐり抜け、俺は狩りに出掛けた。
 『ウサギ狩り』に。




 私は道なき道を走りながら、違和感を感じていた。
 いつもとなんだか感じが違う。山の中を走っているのに、山の中を走っている感じがしない。
 私は足元をよく見つめてみる。一見なんの変哲もない地面だけれど、妙なのは確実だった。
「小石や枝がない……? こんなに木はあるのに」
 おおよそ怪我の原因になりそうな小石や枝が見当たらない。小学校で運動会前に、組体操をするときに危なくないように小石や枝を取り除いた運動場と同じような地面だった。裸足で歩いても走っても怪我をしないレベルだ。
「……ここまで徹底的に、広い空間を?」
 とてもじゃないが、無理だ。いや、正確には出来なくはないかもしれないけどそこまでお金や手間をかける理由がない。
 仮に自然の中でのびのびと寝転がったりして楽しもう、なんていうための施設があったとしても、あり得ない。ここまでこんなところまで徹底的にやる必要はない。
 私は違和感を覚えつつ、何かがあることが確定した山の中を再び走り出す。走る必要があるわけじゃないんだけど、あまりにも歩きやすすぎて、つい走ってしまう。まるで始めから駆け回ることを想定しているような――変な山だった。
 元々野山を駆け回ることを得意としている私は、いつも以上に軽い身のこなしで一気に高台へと駆け上がる。
 森の木々のカーテンが無くなり、どこまでも続く広い森と少し離れたところに広がっている草原が見えた。草原ではウサギが走り回っている。
「何かがあるとしたら……やっぱりあの草原の辺りかな。ここからは見えないか」
 草原に目的を定め、私は歩き出す。さすがに少し疲れた。私は歩いて草原に向かっていく。その数分後、私は草原の入り口までやってきていた。もっと離れているかと思っていたけど、森の中が走りやすかったこともあって、すぐに着いた。
「うわぁ……」
 遠目からでもわかっていたけど、思わず感嘆の吐息が零れた。青々とした緑の絨毯が広がっている。天然の芝生の柔らかさが足元から伝わって来ていた。ところどころに点在する小さな花の彩りが緑の絨毯にいいメリハリをつけていた。もしも天国という物があるのなら、こんな草原があるんじゃないかと思うくらい、その草原は素晴らしかった。さすがに人の手が入っている感じはしたけど、それを差し引いて考えてもこれほど素晴らしい草原はそうないに違いない。
 草原の中央には、まるで海に立つ孤島のように、一本の大きな樹が生えていた。ここからでもわかるくらいに、芳醇な果物の匂い。私はそれに引き寄せられるようにして、草原を歩きだした。上物の絨毯の上を歩いている感覚が足の裏からダイレクトに伝わってくる。心地よい物を感じながら、私はその草原の中央に生えている樹の傍までやって来た。
 野山を駆け回っていた頃の影響で、私は植物の名称に詳しかった。祖母が植物図鑑というものを買ってくれたためで、私はそれと野山の植物を照らし合わせて色んな植物のことを知ったからだ。しかしその知識でもこの植物のことはわからなかった。背はそれほど高くない。一番高いところでも1メートル50センチの私の二倍くらいだろう。その梢は緩やかに垂れ下り、たっぷりと実が詰まった果実が手に取りやすい位置まで落ちて来ていた。その果物は色こそピンク色で、形状もモモに似ていたけど、立ちこめる甘い香りはモモのものじゃなかった。強いて例えるなら、ケーキのような、砂糖の甘さ。その香りはどうしようもなく私を引きつけて、その果実に手を伸ばさせる。
 もいだ果実は、水で洗うまでもなく綺麗な状態だった。元々慣れている私は躊躇わずその果実に口を付ける。甘く芳醇な味が口内を満たして行く。凄く果汁が満ちていて、齧った端から滴り落ちるくらいだった。手を伝って肘の方に行きそうになった果汁を慌てて舐め取る。
「お、美味しい……!」
 こんなに甘くて、美味しい果実があったのかと思うほど、その果実は美味しかった。
 私は夢中になってその果実を食べた。




「――見つけた」
 俺は思わずそう呟いていた。良質な狩り場である草原の中心――そんな見つかりやすそうな場所に、そのウサギはいた。馬鹿なウサギだとは思うが、まあそれも仕方ないだろう。案内人の説明ではその中心にある樹には食料になる果実があり、その食べやすさと美味しさのせいで、狡猾なウサギでさえ、たまに危険を犯して食べに来てしまうのだというのだから。なのに、俺に対しては食べないように言われたところを見ると、薬か何かが成分に含まれているんじゃないかと思うが……下手な詮索はしないでおこう。
 重要なのは、早速狩りの標的を見つけたということなのだから。
 俺は肩にかけていた猟銃を構え、スコープ越しにその白いウサギを見つめた。肉眼では詳細まで見えなかったけど――中々肉付きのいいウサギだ。夢中になって果実を食べているところは、なんとも野生的な感じがしたが、それがいいと俺は思う。温室育ちの上品さも捨てがたいけど、俺はどちらかと言えば野性味溢れる躍動感が好きだ。そういう意味では、そのウサギは俺の好みにどんぴしゃだった。
「ん……? 少し、小さいか……?」
 樹との対比で思うのかもしれないが、そのウサギはやけに小さい気がする。いくら若いウサギが集まやすいといっても、子供を撃つ趣味は俺にはない。見たところ、子供ではないようだが……たまたま小さいだけかな?
「まぁ、二十歳以下のウサギはここにいないはずだし……」
 個体差があるということなのだろう。俺は気を取り直して、構えを取った。
「とりあえず……狙いを定めて……」
 俺はスコープ越しに、どこを狙うべきか考える。
 カモシカのようにすらりとした脚。
 脚は常に動いているため、外れる可能性が高いだろう。手も同様だ。
 しっかりと肌に張りのあるお尻。
 いやいや、いくら撃つ弾がペイント弾のように身体に付着して眠らせる睡眠薬だと言っても、肛門などから直接体内に入るのはまずいだろう。
 年相応に、形よく膨らんだ胸。
 胸にはあまり撃ち込みたくない。万が一にも傷付けたくはないし、あとで落とせると言ってもあまりその辺りを汚したくない。
 モデルのように整った、あどけない顔立ち。
 そよ風にふわふわ揺らめいく実に柔らかそうな髪。
 どちらもあまり撃ちたくない。ヘッドショットは危険だ。
 だから、ここはやはり、折よくこちらに向けている背中を狙うべきだろう。
 素裸を惜しげもなく晒した女性。幸せそうな表情で果実を齧っている彼女は、いまどんなことを考えているのだろうか?
 『ウサギ』――となった『人間』を撃つ、ということに、俺は緊張しながら、ゆっくりと引き金を絞っていった。

 銃声が響く。




 突然、背中に衝撃が走った。
 誰かに突き飛ばされたような衝撃に、私は食べかけの果実を取り落としてしまう。
「……!?」
 身体が地面に投げ出されるのを感じる。むき出しの胸と地面が擦れる感触に、私は悲鳴を上げた。
 そして、急に気づいた。
「え――え!? なに!? なんで!?」
 背中に走った衝撃と地面に倒れた衝撃で『目が覚めた』ように、そこで私は初めて、自分が裸になっていることに気づいたのだ。持って来ていたはずの荷物も、山の中に入るのだからと厚手の布地で長袖だった上着も、そもそも下着すら――身に着けていなかった。私は起き上がりながら、要所要所を手を当てて隠しながら背中の痛みを自覚する。
「な、何が……」
 恐る恐る首を回して背中を見ると、真っ赤な物が目についた。一瞬気が遠くなりかけたけど、自分の身体から血が流れているわけでないことに気づく。ペンキか何かのようで、それに触れている肌からはトウガラシを直接塗られたかのような、ピリピリとした痛みが広がっていた。
「どう、なってるの?」
 私はふと、遠くの森の中から猟銃を構えた男の人が出てくるのを見た。ゴーグルをかけているために顔は見えない。けど、その猟銃を見た瞬間、その人が撃って来たのだということを察する。男の人に裸を見られた羞恥より、猟銃を持って近づいてくる男の人に対する恐怖が上回った。裸だから動物と間違えたわけがない。こんな見晴らしのいいところで、見間違えるわけがない。あの人は、人間だとわかって私を撃ったのだ。
 そう考えた私の前で、男の人が猟銃をこちらに向けた。
「ひっ――」
 咄嗟に、私の身体は駆け出していた。とにかく逃げなければ、という思いで、全力で駆けだした。
 銃声。
 今度は肩に衝撃が走って、私の身体はバランスを草原に倒れ込み、二回ほど転がってしまう。思わず手で肩を抑えると、べっとりとした物が手にも移った。真っ赤な液体。
(撃たれた――)
 私の頭は混乱しきっていた。なぜ自分が裸なのか、なぜそれを疑問にも思わず行動していたのか、なぜ男の人は撃ってきたのか、男の人は誰なのか、どうなっているのか、何もわからない。逃げなければ、という思いだけが身体を動かそうとしていた。
 けれど背中と肩から広がったピリピリとした感覚が、全身に回り始め、身体を動かせなくなった。
「あ、あぅ……ぁ……」
 声も出ない。舌が回らない。撃ち込まれた弾に麻痺作用があるのかもしれない。
 私はぼやけ始めた意識の中、近づいてくる男の人に対し、どうすることも出来なかった。
「ぁ……」
 そんな意識の中、私は目の前までやってきた男の人が何か呟いているのを聴いていた。
「まず一羽……と。案外簡単だったな…………ん? こいつ……『耳』がない?」
 何を言っているのだろう。耳がないわけがないじゃないか。
 私はそう感じながらも、意識が遠くなるのを止められず、そのまま意識を手放した。




 俺は目の前で倒れた『ウサギ』を見ながら、銃を撃ったと言う高揚感と、すぐ傍に裸の女性が倒れているという興奮に盛り上がっていた。
 まさか催眠薬が赤色だとは思わなかったが……あまり撃ち過ぎると猟奇的になってしまうが、二発くらいなら程良い征服感がある。
 俺は装備の一つであるポーチの中から、電子タグを取り出した。案内人の説明曰く、このタグを狩った『ウサギ』の耳につけておけば、自動的に回収班がやって来て、『ウサギ小屋』に入れて置いてくれるとのことだ。『お持ち帰り』するウサギを選ぶ時はそこで狩ったウサギを見比べて、決めればいいというシステムである。
 俺は改めて、この『ウサギの庭』というレクリエーション施設への利用者登録が出来たことを幸運だと感じていた。

 『ウサギの庭』は、疑似的な大人の狩りを楽しむための施設だ。
 猟師に扮する利用者は、『ウサギの庭』内に生息する『ウサギ』、つまり『女性』を狩ることが出来る。狩ることが出来る数に制限はないが、『お持ち帰り』……つまりそのウサギで『遊ぶ』ことが出来る数はコースによって違う。俺は金銭的な関係もあって、まずは『一羽コース』を申請していた。『二羽コース』、『三羽コース』と同時に遊ぶことの出来るウサギの数が増える分だけ料金も高くなる。ちなみに自分の家に『お持ち帰り』することは出来ないが、次に『ウサギの庭』を訪れた時には、前に『お持ち帰り』したウサギは最初から『ウサギ小屋』に入れられているのと同じ扱いになり、捕まえなくても『遊ぶ』時の候補にすることが出来る。
 勿論沢山の利用者がいるので、人気だったり捕まえ易いウサギの耳には沢山タグがついている。タグがついているウサギはそれだけ沢山の人に捕まっているということなのだ。それを嫌う場合には自分以外のタグがついていない状態で、『個別ケージ』に入れなければならないらしい。タグを外してもらうには利用者同士で取引をしたり、色々方法があるらしいけど……まぁ、それはいいか。要するに、『ウサギ』という所有物を捕まえたり誰かと交換したりするオンラインゲームみたいなものだと考えればいい。
 この『ウサギの庭』に登録するには、一〇〇〇〇〇〇分の一くらいの確率で当選しなければならないらしく、そういう意味でも俺は幸運だった。

 さておき、捕まえたウサギの耳にはタグをつけておかなければ、狩ったことにはならない。
 俺はタグを片手に倒れているウサギの傍に近づいた。しかし、そこで俺は妙なことに気づく。ここで放たれている『ウサギ』には、頭頂部に兎の耳を模した物がついているはずだ。そこにタグを付けることで狩りは終了するのだけど、俺が捉えたウサギにはその耳が無かった。
「……やっぱり、耳がねえな」
 ふわふわした、さわり心地のよい頭を触ってみたが、やはりない。力なく横たわる兎の姿は、卑猥でいますぐにでも襲いかかりたくなるが、『お持ち帰り』するウサギ以外に性的な行為をするのは禁止されている。俺はぐっと堪えて、ヘッドホンを操作した。
『はい。こちら中央管理室です』
「いま、一羽ウサギを捕まえたんですけど――」
 俺は現状を説明した。耳がないのではタグをつけることが出来ない。説明を聞いたあと、なぜか数秒の沈黙があった。
『……わかりました。すぐに係員を向かわせますので、タグはそのウサギの本来の耳につけておいてください。広岡様は引き続き狩りを楽しんでくださいませ』
「わかりました」
 係員が来てくれるならもう心配はないだろう。俺はタグを捕まえたウサギの本来の耳につけた。
 ついでに、少し気になったことを聞いておく。
「……ところで、俺がいる場所って良質な狩り場なんですよね?」
『そうですね。果物が成る樹を目的に近づいてくるウサギが多いので』
「その割には、こいつ以外のウサギを見かけないんだけど」
 確かに視界が開けているから狙いやすかったが――狙う相手がいないんじゃ、狩りは出来ない。
『ウサギ達も学習しているのか、中央草原には昼時を外さないと近づいてこないのです。……すいません。案内人の言葉足らずだったようです』
 その言葉に、俺はなるほどと頷いた。いい加減なことを言うな、とも思ったけど仕方ない。一羽捕まえられたのは事実だしな。
 俺は捕まえたウサギをそのままにして、次の獲物を探しに歩きだした。




~後編に続く~



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