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『紅茶』はいかが?

この作品は読み切り短編(のつもり)です。
本当は某サイトに投稿しようと思っていたのですが、なんというかあまり出来に納得できず、投稿するのは止めました。
久しぶりにこういう普通な作品を書いた気がします。

では、続きからどうぞ。


『紅茶』はいかが?



「風野さん、風野さん、起きてください。そろそろ会社に着きますよ」
 肩を揺すられて、目が覚めた。
「……ん……? え、あ、あれ? ごめん、寝てた!?」
 慌てて目を開き、周囲を確認する。車の窓から見える景色は、確かに会社の近くのようだった。
 運転席の方を見ると、同僚の笹木くんが苦笑を浮かべていた。彼が運転中で良かった。前を向いていてこちらは見ていなかったから。
「お、起こしてくれればよかったのに……」
 寝顔を見られた恥ずかしさで、ついそんな風に言ってしまう。無防備なところを晒してしまうなど、失態もいいところだ。
「気持ち良さそうに寝ていましたから。それに、どうせ会社に着くまではすることもなかったですしね」
 風野くんは軽い調子で言ってくれるが、本当は途中で運転を交代するつもりだった。それをずっとやってくれていたのだから、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「……ほんとごめんね。今日は別に疲れてなかったんだけど」
「いいですよ。風野さんの寝顔を見てしまいましたし」
 爽やかな笑顔で笹木くんは言う。やはり見られていたのか、と改めて恥ずかしさが湧きあがった。
「風野さんでも寝るんですね」
「どういう意味よ」
 軽く呟かれた彼の言葉に、私は突っかかる。半分は照れ隠しだった。
 私の詰問口調に対しても、笹木くんは動じない。軽く受け流される。
「いえ、いつもはそういう隙が見えない人なので。珍しいなって意味です」
 信号待ちで車が止まり、笹木くんが笑顔をこちらに向けてくる。
「笹木さんも、彼氏とかの前では無防備なんでしょうか?」
「な、なに言ってるのよ! いきなり」
 彼はいままでそういう話をしてきたことがなかったから、少し虚を突かれた感じだった。
「下世話な話はしないでちょうだい。そりゃ、彼の前では無防備に寝ちゃったりするけど……今日はちょっと気が緩んだのよ」
 嘘をつきながら、彼とは反対側を向いて顔を逸らす。
 すいません、と彼が軽く謝るのを私は後頭部で聴いた。
「僕の彼女も普段は結構きついんですけど、僕には甘えてくれますから」
「あら。笹木くん、彼女いたんだ」
 初耳だった。彼は女性社員の中では「真面目でいい人そうだけどなんか頼りない」という評価がされていて、そういう女の人がいるような感じではなかったのだけど。「いい人」で終わりそう、というか。
「その言い方、ひどいなあ。僕に彼女がいたらそんなに不自然ですか?」
「あ、えっと。別にそういうつもりじゃなかったんだけど……ごめんなさい」
 さすがに少し酷かったかもしれない。ちょっと反省した。
 私は頭を振って眠気を払う。眠気が残っていてぼーっとしていたのが悪い。
「そうだ。笹木くん。さっきくれたお茶を頂戴」
 お得意先との商談を終えてから車に乗り込んだ時、笹木くんが用意してくれていた紅茶のことを思い出した。
 携帯出来る大きさの真空ポットに詰められたお茶は物凄く美味しくて、思わず唸ってしまったほどだった。思えば、あれがあまりにも美味しくてリラックス出来たから、寝てしまったのかもしれない。
 その紅茶をもう一度飲ませてもらおうと思ったんだけど、笹木くんは申し訳なさそうな顔になって首を横に振った。
「すいません。実はもう全部飲んじゃったんですよ」
 私が寝ている間に、休憩も挟んでいただろうし、その時に飲んでしまったのだろう。
「あ、そうなんだ……残念」
 あれほど美味しい紅茶を飲んだことはそうそうなかったのに。
 私がつい溜息を吐くと、彼は一本のペットボトルを差し出してきた。
「あれじゃないですけど、風野さんが目を覚ました時用に買っておきました。よければどうぞ」
「あら、気が利くじゃない」
 渡されたペットボトルは未開封だった。本当に気が利く。冴えない人だと思っていたけど、その評価は改めるべきかもしれない。こういう風に気が利く人なら、確かに彼女くらいしてもおかしくはなさそうだ。
 さっそくペットボトルを開封した私は、中身の紅茶を口に含む。甘ったるい紅茶の味が口の中に広がった。あまり、美味しくない。いや、まあ普通程度には美味しいんだろうけど、笹木くんが用意してくれたあの美味しい紅茶とは比べ物にならない。
「……ふぅ」
 結局一口飲んだだけで止めてしまった。それを見ていた笹木くんが、苦笑いを浮かべる。
「美味しくありませんでした?」
「うーん。普通って感じね。あんな美味しい紅茶飲んだ後じゃ、どうしたって劣るわ。……ねぇ、あの紅茶、なんていう紅茶? どこで買ったの?」
「すいません。あれはちょっと特別な物で……僕も知り合いから無理を言って、もらっているんですよ」
 そう言われると、ますます飲みたくなる。
 その私の気持ちを読み取ったのか、彼が提案をしてきた。
「また作って持ってきましょうか?」
「そうね……お願いするわ」
 また飲める、と思うと嬉しくなった。つい顔が綻ぶ。たかが紅茶で……と思うかもしれないけど、それだけ拘ってしまうくらいにあの紅茶は美味しかった。
「なんでしたら、仕事終わりに僕の家に来てくれたらすぐにでもご用意できますけど……」
「…………」
 彼の控えめな提案に、私は少し考える。確かに、付き合っている相手がいるとはいえ、相手は独身男性で、こちらは女。その家に上がり込むというのはよくないかもしれない。けど、別にそういうことをするわけじゃないし、遅くならないうちに帰れば別に構わないような……。それに、あの紅茶をもう一度飲みたい気持ちが強い。普通の紅茶を飲んだ直後のいまは、特にその気持ちが強くなっていた。
「……そうね……今日はもう上がりの時間だけど、出張の報告も早く纏めておきたいし……あなたの家でその相談をしましょう。あくまで仕事のためよ。仕事のため」
 言い訳するように『仕事』を強調する。
 笹木くんは迷うような気配を見せた。
「えっと……いいんですか? 風野さん、付き合っている方がおられるでしょう?」
「それはあなただって一緒でしょ?」
 彼女がいると言っていたのに。まるで自分の方は問題ないというような言い方だった。
 私が問い返すと、笹木くんは少し慌てた。
「あ、ああ、いえ。まあ、僕の彼女は理解がありますから。大丈夫です。浮気だなんて思いませんよ」
「……私の彼だって、理解ある人よ」
 別にそういうニュアンスじゃないとはわかっていたけど、彼の言い方だと、私の相手は理解のない人のように聞こえる。不服に思って声を上げると、笹木くんは慌てた様子のまま、謝ってきた。
「す、すいません」
「わかればいいのよ。とにかく、問題ないようだし……じゃあ、ちょっとだけお邪魔させてもらうわ」
 またあの紅茶が飲める。
 そう思うと、感じていた不服も全て吹き飛んだ。


 ガチャリ、と鍵が開く音が響く。
「どうぞ。遠慮せず入ってください」
 ドアを開けて私を先に通してくれる笹木くん。私はそれに従って中に入った。
「お邪魔しまーす。……あら、意外と広いし、思ったより汚くない……むしろ綺麗ね」
 通された彼の部屋は、独身男性一人暮らしとは思えないほど、綺麗に片付いていた。物は結構あるけど、それらが全てちゃんと片付けられているし、床も定期的に掃除機がかけられているのか、塵一つない。ベッドも綺麗に整えられているし、服が脱ぎ散らかされているということもない。
 ワンルームマンションだから、台所も玄関から見えていたけど、流しに食器が溜まっているということもなく、綺麗に片付けられている。流しの端にちょこんと置かれた白い布巾が清潔に気を使っていることを示している。
「僕は昔、喘息持ちで……埃が溜まってると咳が止まらなくなってしまってたんですよ。だから、部屋を綺麗にする習慣がついてまして。いまは喘息も出なくなりましたけど、やっぱり綺麗にしてなくと落ち着かなくて。汚くなる前に片付けているんです」
 ドアを閉めながら笹木くんが言う。鍵を閉めなかったのは、私に対する一応の配慮だろう。
「ささ、どうぞあがってください。そちらに座って待っていてください。すぐ紅茶をご用意しますから」
「ありがと」
 靴を脱いで部屋にあがる。思えば彼以外の男性の部屋に入るのはこれが初めてかもしれない。部屋は壁際にベッド、中央に小さな丸い机、座布団が二つ、背の低い本棚が二つほど並んでいる。色調はくどくない程度に青系統で統一されており、一般的な男性の部屋そのものだった。
 なんとなくドキドキしながら私は部屋にあがり、床に敷かれた座布団の上に腰を下ろす。ベッドが目に入り、笹木くんでもベッドの下にはそういう類の本が入っているのかな、と何となく思う。
 台所の方に行った彼は、やかんに水を入れている。それを火にかけた後、紅茶のカップを二つ出してきた。
「お湯が湧くまでもうしばらく待ってくださいね。それまで仕事の話でもしていましょう」
「そうね。報告書作らないといけないし」
 半分以上建前とはいえ、ここに来たのは仕事のためなのだから。鞄を開けて書類を取り出し、それを小机の上に広げる。

 程なくして、お湯が湧いたようだった。笹木くんが立ちあがって台所の方へ行く。
 紅茶を淹れるためのポットを取り出して、その中に紅茶の葉を入れる。葉が入っている缶は市販されている紅茶の缶ではなく、何のプリントも印刷もされていない唯の缶だった。
「それがあの紅茶の葉なのね?」
 葉自体は極普通の紅茶と変わらないように見えた。
「ええ。ちょっと待ってくださいね……暫く蒸らしますから」
 そう言って笹木くんはポットにお湯を注ぎ、蓋を閉めると同時に近くに置かれていた砂時計を逆さにした。砂が流れ落ち始める。
「砂時計で時間を計ってるの?」
「風情があるでしょう」
 確かに。本当に正確に時間を計ろうと思ったら砂時計では問題があるけど、お茶を淹れるということなら別に砂時計でも構わない。そういう風情を理解できないわけじゃなかったので、私はその砂時計の砂が落ちるのをじっと眺める。
 静かな時間が流れる。笹木くんも口を開かなかったので、部屋の中は全くの無音状態だった。しかしそれは不愉快なものではなく、落ち着いた雰囲気と言えた。そうやって静かに時間を待っていると、最後の砂が落ちて時間になったことを告げる。
 笹木くんがポットを手に取り、カップにその紅茶を注いでいく。ふわり、と柔らかな香りが漂う。その匂いはとても心地よいもので、自然と身体がリラックスするのが感じられる。
「はい、風野さん。どうぞ」
 笹木くんが紅茶のティーカップを持ってきてくれる。机の上に置かれたその紅茶からは、芳醇でいい香りが漂っている。
「ありがと。それじゃあ、いただくわね」
「お菓子もお出ししますね。確か美味しいクッキーが……」
 言いながら笹木くんは台所に行って戸棚を開けている。
 私は彼が戻ってくるまで待つべきかとも思ったけど、目の前の紅茶の魅力に抗いきれず、一口紅茶を口にする。その瞬間、心地よい脱力感が全身に走った。
「……はぁ……やっぱり美味しいわ」
「そうですか。それは良かった」
 笑顔で笹木くんがこちらの部屋にやってきて、私の前に座った。クッキーの袋を机の上に置く。
「風野さん、目を閉じるとより深く紅茶が味わえますよ」
 彼に言われた通り、目を閉じる。もう一度口に紅茶を含んだ。確かに、味わいが深くなったように感じる。
「ゆっくり、ゆっくり、深呼吸して……そうすると、どんどん、どんどん、身体が楽になってきます」
 言われたまま、深呼吸を繰り返す。身体がどんどん、楽になってきた。
「息を吐くたびにストレスが吐き出されていきます。息を吸い込むたびに、身体の中がすっきりしていくでしょう? すって……はいて……」
 笹木くんの声が、心に染みわたる。自然と身体が彼の言うことに従って行く。
「深く、深く、深く……だんだん眠くなってきますね……そうしたら、我慢せずにその眠気に身を任せてしまいましょう。ほら……すって……はいて……」
 頭の中がぼんやりして、急激に眠気が湧きあがってくる。
「もう、何も考えられません……何も感じません……意識が、闇に沈みます」
 彼の言葉が響く。そして、私は―――-




 僕は目を閉じて完全に沈黙してしまった風野さんを見ながら、溜息を吐いた。なんとか上手くいったようだ。
「やっぱり効果絶大だな。この『紅茶』……」
 僕は自分と風野さんの前に置かれた『紅茶』を見る。そこからは危険なほど芳醇な香りが立ち昇っていた。
 この『紅茶』は、数日前にとある怪しげな雑貨屋で手に入れたものだ。味自体は高級な紅茶と変わりないが、その効能には少し特殊な物が含まれている。
 それは飲んで暫くの間『ありとあらゆる催眠』がかかるようになるというもの。どんな人物であろうと、いかなる命令や暗示もすぐにかかるようになってしまう。普通の催眠だと、本人が嫌がる暗示や命や身体が危険にさらされるような命令は利かないが、この『紅茶』の効果下にある間はそれを受け入れてしまう。極端な話、『死ね』といえばそのまま死ぬ。『奴隷になれ』といえばそのまま奴隷になる。
 ただしその効果は催眠を解いてしまった後は継続されない。つまり、『僕の言うことに従え』という暗示をかけたとしても、催眠を解いてしまったらそれはキャンセルされる。また、この『紅茶』の催眠ではいわゆる条件付けも出来ない。簡単に言うと『催眠が解けた後、僕が合言葉を言ったら、あなたはまた催眠状態になる』ということは出来ない。また、紅茶による完全催眠の時間は長くても8時間。一生かけ続けることは出来ない。
 そういう意味では多少不便はあるけど、それを補ってあまりある効能だ。
 何せ普通の催眠じゃ絶対に出来ないことが出来るんだから。
「風野さん。まず最初に、この催眠が解けるまでは、僕の言うことだけを聞いてください。いいですね?」
「はい」
 目を瞑ったまま、応える風野さん。
「それと……僕の言うことの中で、即座に命に関わるような命令は聞かなくていいです。危険だと判断したら拒否してください。いいですね?」
「はい」
 これは万が一、何かの拍子で『死ね』などと行ってしまった時のための保険だ。今のままだと無意識に危ない言葉を呟いただけでも彼女を殺してしまう可能性がある。この『紅茶』を使用する時にはこういった前提の暗示をかけておかなければ、安心して楽しむことが出来ない。
「これから僕がやること、言うことは当たり前のことです。疑問に思う必要はありません。素直に僕に従ってください。いいですね?」
「はい」
 前準備を済ませた僕は、いよいよ本番に入ることにした。
「さて……それじゃあ風野さん、ゆっくり目を開けてみましょう」
「はい」
 ゆっくりと風野さんが瞼を開く。いつもの風野さんの目ではなく、その目は意思の光を失っていた。この催眠状態に入った人の目を見る時が一番興奮する。
 僕は無遠慮に風野さんに近づいて、風野さんの顔に手を当てる。そっと、顔の輪郭に沿って手を下げる。その感覚に反応を返すことなく、風野さんは視線を前に固定しまま固まっている。顔を触れるほど近くに寄せても、やはり反応はなく、風野さんはされるがままだ。
「風野さん。僕が肩を叩いて合図するまで、彼氏にするように僕にキスをしてください」
 即座に風野さんは応じ、僕にキスをしてきた。最初は唇と唇を合わせるだけだったが、すぐに舌が伸びてきて、口の中に入ってこようとする。それを受け入れつつ、こちらからも舌を伸ばして唾液と唾液を絡ませる。
「んっ……ふぅ………んん……」
 荒い息を吐き出しながら風野さんはキスを続ける。暫くそうやって彼女とのキスを楽しんだ後、僕は風野さんの肩を叩く。
 合図に従って風野さんは僕とのキスを中断し、身体を離した。唾液が糸を引いて床に落ちる。
「ふぅ……風野さん。立ってみてください」
 言われた通りに立ち上がる風野さん。僕はその彼女の身体を無遠慮に触りながら、スタイルを改めて確認する。
 やはりずば抜けて整っている。顔立ちも好みだし、僕にとってこれ以上の逸材は中々いないだろう。彼氏持ちである彼女とは、普通なら恋人になれるわけがないから、この状況はやはり『紅茶』のおかげだ。
「さて……風野さん。この部屋は暑くありませんか? サウナか何かのように、ムシムシと暑苦しいでしょう」
 極普通の室温を保っているものの、僕がそういうだけで風野さんは汗を掻き始める。いかにも暑苦しい、といいたげな動作で額に浮かんだ汗を拭う。
「暑いですね? 非常に暑いです。我慢できないでしょう。服を脱げば、涼しくなりますよ。それ以外で涼しくなることはできません」
 風野さんはしきりに服の前を引っ張って新しい空気を入れていたが、それで涼しくなることはなく、服を脱ぎ始めた。
 もちろん、あの『紅茶』の効果が発揮している以上、こんな回りくどいことをしなくても『服を脱げ』と言っただけで服は脱ぐ。けれど、そこは催眠術のロマンというか、いかにも『普通に催眠術を使っているような』気分になりたいがための回り道だから面倒ではない。
 そうしている間にも風野さんは服を脱いで行く。僕という彼氏でもない男性が目の前にいても躊躇うことはない。スーツの上下を脱ぎ、上半身はシャツ一枚とブラジャー、下はショーツ一枚の姿になる。どうやら下着は大人っぽい黒色らしく、白いシャツにその色が透けて見えていた。
 さらにシャツのボタンを一つずつ外して行き、徐々に肌の面積が増えていく。じっとりと汗ばんだ身体は健康的で、それにも増して扇情的だ。
 ぱさりとシャツが床に落ちて、風野さんは下着姿になる。しかし、そこで風野さんの動きは止まった。完全な裸になることなど、お風呂に入る時以外はまずないことだ。その意識が彼女に脱ぐのを止めさせているのだろう。僕が出した暗示はあくまで『服を脱げば涼しくなれる』というだけで、どこまで脱げばいいかは言っていない。彼女の中で服を脱ぐというのは下着を含まない行為だったようだ。
 ここで『下着も脱いでください』というのは簡単だけど、何かそれ以外の言い方がないかどうか考える。
「……風野さん。ここはあなたの自室です。他の人は入ってきませんし、気にする必要もない空間です。ですから、周りの目は気にせず、あなたが一番楽になる格好になりましょう。あ、僕はいますが気にしないで」
 この言い方で上手くいくかどうかはわからなかった。見守る僕の前で、風野さんは暫く固まっていた。下着も服の内だから、耐えがたい暑さは継続しているはずだった。
 駄目か、と僕が思い始めた頃、ようやく風野さんが動いて、最後に残った服を、下着を脱ぎ始める。
 ブラジャーのホックを外し、乳房を覆っていたカップがずらされる。張りのある乳房が露わになり、柔らかさを示すように風野さんの動きに合わせて揺れる。肩ひもを腕から抜き取ると、ブラジャーもまた床に落とされた。これで上半身は完全に裸だ。
 最後の砦とよく表現される物に、風野さんの白くて細い指かかかる。するり、という擬音が聞こえてきそうなほど滑らかに、その布は滑り落ちた。年相応に濃い茂みが露わになる。女性がもっとも隠しておきたいであろう場所を晒すことになったが、風野さんはここを自分の部屋だと思い込んでいるので、恥ずかしがる素振りは見せない。
 むしろ、完全な全裸になったことでようやく耐えがたい暑さから解放され、ほっと安堵しているくらいだった。
 風野さんが脱ぎ捨てた服を回収し、とりあえずクローゼットの中に放り込んでおく。完全に裸になった風野さんは、次の指示を待っていて、直立不動のままで立ちつくしている。
 僕は自分も服を脱ぎながら、風野さんに向けて言う。
「風野さん。今度は寒くなってきませんか? どんどん、どんどん、時計の針が一つ進むたびに気温が下がっていきます。十秒で一度、二十秒で二度、だんだん、だんだん寒くなっていきます」
 とりあえず僕は上半身裸になり、暫く待つ。すると、時間が進むごとに風野さんの身体が縮こまっていき、寒さに耐えるような姿勢に変わる。しきりに手をすり合わせ、寒さを堪えるかのように身体を震わせている。心なしか、顔色も青くなり始めた。
「寒いですか? けど、あなたが着ることが出来る服はここにはありません。そのまま寒さに耐えなければなりません。けれど、どんどん、どんどん寒さは増します。厳しくなってきます。このままだと、死んでしまうかもしれない、というくらい温度が下がります」
 カチカチ、と風野さんの歯が鳴る。身体の震えは尋常な様子ではなくなってきた。死の恐怖も感じているのかもしれない。
 表情もそれに伴って必死さが滲み出てくる物になり、余裕がなくなってきた。
 そんな風野さんの様子を少しの間楽しんだ僕は、ズボンを脱いで逸物を取り出した。すでに風野さんの扇情的な姿態のおかげで、かなり硬くなっている。
「風野さん。ここにホットドリンクの入れ物がありますよ。口に含んで、上手く舐めることが出来れば、暖かい物が飲めます。それを飲めば、寒さから解放されますよ」
 がちがちと歯を鳴らしながら、風野さんが緩慢な動きで近づいてくる。すっかり寒さに参ってしまっているようだ。
「歯は立てちゃだめですよ。愛しい人のペニスにするように、優しく、嫌らしく舐めてくださいね」
「は、はい」
 立っている僕の前で風野さんは膝をつき、ぶるぶる震える手をなんとか動かして僕のそれを掴む。その手はひやりと冷たく、暗示だけでここまで人の身体というのは左右されるものなんだなあ、と感心する。恐らく血の血行が本当に悪くなっているのだろう。思い込むだけでそんな状態になるというのは、興味深い現象と言えば現象だ。
 両手で優しく包み込むようにして持った後、包皮をめくりながら、風野さんは僕のペニスを口に含んだ。さすがに口の中は生温かく、唾液のおかげで濡れた感触がして、その刺激だけで危うくイキそうになる。しかし射精してしまってはせっかくの楽しさが半減する。なんとか堪えた。
 我慢されて溜まらないのは風野さんだ。必死になって舌を使い、僕のそれを舐めまわす。舌がペニスの裏側や先端部分を刺激してくる。少しでも射精までの時間を長引かせるために、僕はかなり必死になって我慢しなければならなかった。
 寒さに堪えながら、必死に『暖かい飲み物』を求めて僕のペニスを舐めまわす風野さん。その様子をたっぷりと観賞したあと、僕は風野さんの頭を掴み、喉の奥まで押し込む。
「さあ、一滴残らず、飲んでくださいよ……!」
 口の中どころか、喉の奥めがけて射精された風野さんは、目を見開いてせき込みそうになるのを堪えていた。歯を立てることは出来ないので、必死に我慢してとにかく噴出した精液を受け止める。
 しかし、さすがに『紅茶』による催眠状態にあっても、ずっと咳を我慢するのは難しかったらしく、風野さんは途中で咳込み、その口の隙間から精液を少量吐き出してしまった。吐き出された精液は先程の唾液と同じように床に落ちる。
「あらら。駄目じゃないですか、風野さん。勿体ない」
 僕は軽く風野さんの髪を掴みながら言う。
「全く仕方のない人ですね……とりあえず、僕のペニスを舐めて綺麗にしてください」
「ふぁ、ふぁい……」
 まだ挿入されたままの状態のペニスを、風野さんが舐めて綺麗にしてくれる。ある程度綺麗になったかな、という程度で、僕は彼女の口の中からペニスを抜き取った。
 それから、彼女に対して命じる。
「零してしまった精液はしっかり掃除しておいてくださいね。掃除用具はないので……自分の舌で舐めて綺麗にしてください」
「はい」
 風野さんは大人しく従い、床に這いつくばるようにして落ちた精液を舐め始める。その様子はまるで奴隷のようだった。ある意味それで間違いじゃないけど。
 床を舐める風野さんの無様な姿を暫く堪能しつつ、自分が回復するのを待つ。ある程度時間を置き、少し回復したかな、というところで僕は次の指示を風野さんに出した。
「風野さん。ベッドに腰かけてください」
 風野さんが立ちあがり、ベッドへと移動する。僕は部屋の中央に置いてあった小机を脇に片付け、その位置に三脚を取り付けたビデオカメラを設置する。それのピントはベッドに腰かける風野さんに合わせる。
「股を開きながら、僕を愛しいあなたの彼氏だと思って、セックスに誘ってください」
 録画ボタンを押して、ビデオ撮影を開始する。せっかくの記念だから、撮っておきたい。まだ僕は童貞だったから、卒業記念という奴だ。彼女がいる、と風野さんには言ったが、あれは単に風野さんの警戒を緩めるための嘘だった。ああでも言わないと、独身男の部屋に上がりはしなかっただろう。
 完全に僕に隷属する風野さんは言われた通りに股を開いた。しかも別に指示を出していないのに、自分の手でその場所を広げて見せさえする。
「ねえ、笹木くん…………私、今日、安全日だから……しよ?」
 軽く上目遣いになりながら、風野さんは僕を誘う。思った以上の破壊力だった。撮っておいて良かった、と本気で思う。
 こんな格好と表情で誘われたら、男なら誰だって応えるだろう。
「ええ。一緒に気持ち良くなりましょう」
 言いながら僕は風野さんに近づき、ベッドに倒れ込むようにして風野さんを一緒に押し倒す。
 片手で彼女の胸を触りながら、軽くキスを交わした。まるで本物の恋人になったかのような感覚。
 開かれた股の間に入り込み、屹立したペニスを彼女のそこに近づける。
「それじゃ、行きますよ。しっかり咥え込んでくださいね」
「はい」
 あてがい、しっかりと位置を確認する。暖かいのがそこに触れたペニスからは感じられた。微妙に濡れているようだ。いままでの行為に風野さんも興奮しているのかもしれない。
 感触を楽しみながら、一気に奥まで挿入する。
「あっ…………っ!」
 ずぶり、と暖かい物に包みこまれた。気持ち良すぎて、先程一度射精したばかりだというのに爆発しそうになる。
「っ……気持ちいいですよ……!」
 軽く腰を動かすと、風野さんの中の、ヒダの形まで感じられるような気がした。刺激が強過ぎる。
「風野さんも……気持ちよくなってくださいね……! 僕があなたの中で動くたび……徐々に、徐々に膣の中の感度と、風野さんが感じる快感は高まっていきます、から……っ」
 快感を堪えながら指示を出すのはしんどい。しかし言っただけの価値はあり、風野さんの方も激しい快感を堪えるような顔になった。膣の中から溢れる分泌液の量は動く度に増し、奏でる水音が厭らしい物になっていく。
「あぅ、あん、あっ、あんっ、はぁ、ぅ!」
 びくびくと、風野さんが痙攣し始める。どうやら快感が高まり過ぎて、常にイってしまっているようだ。快感地獄、と表現してもいいだろう。まるで呼吸が困難になったダイバーのように、もがき苦しんでいるようにも見える。
 しかしこちらとしては、風野さんが逝くたびに締め付けが強くなり、より気持ちよくなることだった。だから暫くそのまま放置してみることにする。そうしているうちに快感が高まり続ける風野さんは、声も上げられない状態でビクンッビクンッと激しく痙攣するようになる。ほとんど白目をむき、泡を吹き始めた。
「……さすがにちょっとまずいかな」
 快感に苦しむ風野さんの様子は、実にそそるけど、変な後遺症が残ってもまずい。
 僕は我慢することを止め、彼女がまたイクのと同時に膣の中に精子を吐き出す。その新しい刺激がまた強い快感に変わったのか、風野さんは完全に白目をむき、電気ショックを加えられたように激しく痙攣した。
 僕が風野さんの膣から、少し小さくなったペニスを抜く時の刺激も、また高い快感になってしまったのか、彼女は身体をしきりに痙攣させる。
「大丈夫ですか? 風野さん」
 さすがに少し心配になって、僕は風野さんに呼びかける。
「ふぁ……い……ひゃ、いほうぅふ、え、す」
「……駄目か」
 舌がまともに回っていない。さすがに天井知らずに『快感が高まる』というのは負担が大き過ぎたかもしれない。
「……まあ、いっか」
 とりあえず精神が壊れているわけではないようだから、大丈夫だろう。
「とりあえず少し休んでいてください。暫くしたら快感も元のようになりますから」
 軽く膣の中に指を入れてみる。それだけの動作が、まるでスタンガンを押し当てたような反応になる。びくん、と風野さんの身体が震えた。
「しかし……これはもう、洪水ですね。シーツがびしょぬれになってしまって……」
 風野さんが特別分泌液が多い体質なのか、それともああいう暗示をかけたら誰でもこういう状態になるのか、それはわからなかったけど、気づいてみればシーツは彼女が噴出した愛液やら潮やらで濡れに濡れていた。子供のおねしょより酷いかもしれない。
「掃除しないと……風野さん、動けるようになったら手伝ってくださいね」
 ティッシュを使ってペニスを掃除したあと、僕は服を身につけて行く。




 ふと、気づいたら目の前のカップからは紅茶が全部なくなっていた。
 それを残念に思うのと同時に、なぜか全身から倦怠感を感じた。激しい運動をした時のような感覚。決して不快なものではなかったけど、純粋に身体が疲れている気がした。
「このクッキー美味しいでしょう?」
 いきなり声をかけられ、私は我に返る。
「え、あ、ええ。そうね」
 机の上に置かれたクッキーを一つ摘まみ、口の中に入れる。程よい甘さのクッキーは、確かに美味しい。
「私……いつのまに全部飲んじゃったのかしら。全然覚えがないんだけど」
「とてもリラックスしている様子でしたから。そこまで美味しく飲んでもらえると、僕も嬉しいですよ」
 笹木くんがにっこりと笑顔を浮かべている。その笑顔に、なぜかどきりとした。
「そ、そう。えーと、うん。美味しかったわ。ありがと」
「どういたしまして」
「それで……その、おかわり、ない?」
 まだ飲み足りない。笹木くんは困った顔になる。
「えーと……ごめんなさい。一応あることはあるんですけど……たぶん、そんなに美味しくないと思います。淹れ始めの数杯が一番美味しいので……それに、もう三杯は飲んでいますよ」
 思わず目を見開いた。
「え、あれ? そんなに? あら、やだ……ほんとに覚えてないわ……ごめんなさい」
「高いお茶ですしね……また、後日持って行きますから。今日みたいに飲みに来てくださってもいいですし」
 カップを片付けながら、笹木くんがそう言ってくれる。
「お願い……出来るかしら」
「ええ。喜んで」
 我が儘をあっさりと、嫌な顔一つ受け入れてくれる。本当に笹木くんはいい人だった。こんな彼氏だったら、さぞ彼女も嬉しいだろう。
「……っとと。何を考えてるの、私は」
 小さく呟きながら、頭を振る。ふと、ベッドが目に入り、少し首を傾げる羽目になった。
(あれ……? 入ってきた時と、シーツの柄がちょっと違うような……?)
 同じような白色のシーツだけど、その端の模様が微妙に違う気がする。気のせいだったと言えば気のせいだったという程度の物だったけど、確かに違うような気がした。
 ベッドのシーツを見て、首を傾げていると、台所から笹木くんが声をかけてくる。
「ベッドがどうかしましたか? 風野さん」
「え? ……あ、えっと、なんでも、なんでもないの!」
 まるで私が意識しちゃってるみたいじゃない! 笹木くんに限って、襲ってくることはないとは思ったけど、彼に意識させたら色々困る。
 逃げるようにして視線をずらした私は、時計が目に入って驚愕する。
「って、もうこんな時間! そろそろ帰るわ!」
 すっかり深夜と言える時間帯になっていた。さすがに男の人の家に泊るわけにはいかない。
「あ、そうですね。すいません。気が利かなくて。……お送りしましょうか?」
「い、いいわっ。一人で帰れるから! ここから駅までは人通りも多い、広い道だったしっ」
 鞄の中に書類を入れて、私は立ち上がる。
 彼は外まで見送りに出てこようとしてくれたけど、そんなところを見られたら誤解される元だったので、丁重にお断りする。
「それじゃあ、また会社で。……紅茶、お願いね」
 我ながらしつこいとは思ったけど、自制が利かなかった。笹木くんは軽く頷く。
「ええ。それでは、また会社で」
 笹木くんの家を出て帰り道を急ぎながら、私は次に紅茶を飲める時を思う。
 その時の幸福感を考えると、いまから心が弾むようだった。




 風野さんを見送った後、僕は顔がにやけるのが抑えられなかった。
 『紅茶』によってもたらされる効能には持続性はない。ただし、『紅茶』そのものには軽い依存性がある。アルコールなどと同レベルの物ではあるが、何度も飲むと飲みたくなって止められなくなるのだ。
 これから、何度もこういう機会が増えるだろう。『紅茶』を買った雑貨店の店主の話では、明らかな効能は持続しないものの、何度も同じような暗示を受けていると段々通常の精神の方に影響が出てくるようになると言っていた。つまり、暗示で『一番愛しい存在』と思わせ続けていれば、次第に暗示がなくても僕のことを『一番愛しい存在』だと思うようになるということだ。
 少々気の長い話だが、逆にそのじっくりと落とすようなやり方は僕の好みだった。これからも彼女に『紅茶』を呑ませ、先程のように僕を『一番愛しい者』と暗示をかけ続けていれば、いずれ、風野さんの身体も心も、完全に手に入れることが出来る時がやってくるだろう。
 その時の達成感を考えると、いまから楽しくなってくる。




『紅茶』はいかが? 終わり



Comment

No.311 / 名無しさん [#-]

風野くんと笹木さんってだれ!?

それはさておき実に強力ですね、後催眠が出来ないのが惜しまれます。
もしかして次のタイトルは「クッキーをどうぞ」でしょうか?とふと思ったり

2010-06/07 07:44 (Mon)

No.312 / 光ノ影 [#-]

ぶっちゃけ名前はいつも適当です(笑)
コメントありがとうございます!

この話は単発のつもりだったのですが、あなたの書き込みを見て気分が変わりました。
続編のタイトルは「クッキーをどうぞ」になります。あなたの案を採用です。
どういう展開にするかもばっちり決まりました。ありがとうございます!

まあ、といっても実際に書けるのがいつになるのかちょっとわからないのですが……。
なるべく早く書きます。
それでは。

2010-06/12 22:15 (Sat)

No.313 / s,d,t, [#h6Qp6S0k] 面白かったです。

是非続きを!期待してます。

2010-06/13 15:50 (Sun) 編集

No.314 / 光ノ影 [#-] Re: 面白かったです。

s.d.tさん、コメントありがとうございます!
この作品は単発のつもりでしたが、すでに続きの構想は錬れているので、時間が出来次第書こうと思っています。

2010-06/19 23:30 (Sat)

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