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リクエスト作品:『愛してくれる?』 その2

tamagoさんからのリクエスト作品『愛してくれる?』の続きです。

以前の話はこちら →

それでは、本編へどうぞ

愛してくれる? その2




 思いがけず危機に立たされてしまった。まさか、たまたま憑いた女子が、とてつもなく重い状況に置かれているとは。まさに身重だけに。……別に巧くないな。
 混乱してよくわからない思考が巡る。頭を振って、一つ冷静に考え直してみることにした。
「やっぱ、問題はこの身体からでられなくなっちまったことだな……」
 確認の意味も含め、小さく声に出して呟く。周りに人はいないから、聴かれる心配はない。どういうわけか、自由に人の身体を出入り出来るはずの俺は、いまこの身体から出ることが出来ないでいる。その理由は全く不明だが、いくつか仮定を立ててみた。
 まず、先程も考えたこの身体の本来の持ち主が、俺を追い出そうという意志を……というか、そもそもの意識か。それを持っていなかったため。この身体の持ち主はどうやら学生の身でありながら妊娠していて。彼女自身は産みたいと思っているものの、周囲からの激しい反対にあう、という状況にあった。そのため、鬱状態になってしまっていたと思われる。心が引きこもっているために、俺という存在が入ってきても追い出そうとしない。あるいは追い出す力がない。この仮定においていえば、元々俺が様々な身体から出たり入ったり出来ていたのは身体の持ち主が抵抗していたからということになる。
 この仮定が正しいとすれば俺がこの身体から出るためには、身体の持ち主の意志を奮い立たせなければいけない。しかし、どうやったらいいんだ? 基本的に俺が憑依している間に、身体の持ち主と意志疎通が出来た試しはない。彼女に意志を持たせるために意志疎通を図ろうにも俺が憑依している間は彼女と意志疎通が出来ず、意志疎通をしようとして憑依を解こうとしても彼女が意志を持たなければ出ていくことは出来ない。完全に袋小路だ。
 それ以外の、無理矢理出る方法としては、頭をぶつけてみたり、死に瀕してみたり、あるいは本当に死んでみるか、になるだろう。
 しかしどの方法も確実に身体か出れる保証がない。それこそ今度こそ死んでしまうかもしれない。半ば幽霊という存在になってしまったからこそ、逆に死に対する恐怖は強くなっていた。幽霊になって自由に動けるようになる、というような幸運が二度も三度もあるわけがないのだ。
「……やっべー。どうしよう」
 発せられた声は可愛いものだったが、その事実に興奮する余裕はない。ぐるぐると頭の中で色んなことが巡って考えが上手くまとまらなかった。
 そしてふと気付いた時、俺はいつの間にか電車の中に乗り込んでいた。意識していなかったが、どうやら身体が勝手に動いたようだった。憑依した時、その憑依した身体に染み付いている行動に引きずられることがある。この少女は毎日ここから電車に乗って通学しているため、電車が来たことに身体が反応したらしい。
 まあ、とにかくまずは家に戻ってみよう。ここでは人の目もあるし、考えが上手くまとまらない。
 そう結論付けた俺は、

(ここか……)
 記憶を辿って着いた家は、結構大きな一軒家だった。別に資産家というわけではないようだが……それなりの収入を得ているのだろう。
 俺は鞄の中から鍵を取り出して鍵を開け、中に入る。
「……ただいまー」
 どうも家の中は暗かった。明かりがついていないとかそういう話じゃなく、家の中に流れる雰囲気が暗いのだ。
 台所らしき方から水音はしているから、この子の親がいることはいるようだが。
 試しにそちらの方へ行ってみる。台所はそれなりに広く、その流しに向かっている中年の女性の背中が見えた。
 同年代の女性と比べればそこそこ美人ではあるだろう。あくまで年齢にしては、という意味で、特徴ある容姿やスタイルをしているわけではない。もしも街ですれ違っても特に気にしないレベルだ。なにせ高嶺の花だろうと、絶世の美女だろうと、憑依に支障はないのだから。
 ……おっと、ついつい憑依を前提で考えちまうな。自由気ままな幽霊生活が懐かしいぜ。再びこうして身体に縛られるようになるなんて、思っても見なかったからな。
 そんな風に物思いに沈んでいると、相手がこちらに気付いた。振り返ってこちらを見る。その目はやけに険しく、久々にそんな目で見られた俺は思わず後ずさる。
「た、ただいま……」
 とりあえずそう言って見たが、母親の険しい目はそのままだった。
「……おかえり」
 一応返ってきた言葉も、酷く刺々しい。記憶を読む限り、妊娠してしまったことで親と相当険悪になっていたようだし、この態度も仕方ないのかも知れない。母親はすぐに前を向いてしまう。カチャカチャ、と彼女が荒い物をする音もどことなく刺々しかった。
 いたたまれなくなった俺は、ひとまず奈津美ちゃんの部屋へと向かってみる。二階の角部屋が奈津美ちゃんの部屋のようだ。ドアにかかった『奈津美』というファンシーなプレートが、いかにも女の子の部屋という感じを出していた。
 部屋は思った以上に荒れていた。単なる無精というよりは、余裕がないという感じだ。棚などに飾ってあったと思われる物が散らかっているのは感情に任せて払い落したからだろうか。
 試しに身体の記憶を探ってみると、どうやら、まさに今朝、暴れたらしいことがわかった。
「相当追い詰められてたんだな……」
 物に当たり散らしてストレスを解消しなければならないほど。
 俺は深く溜息を吐く。ほんと、なんで運悪くこんな身体に乗り移っちまったんだか。
 商店でとんでもない不良品を掴まされた気分だ。クーリングオフが利かないという点も最悪だ。
「……しっかし、どうすっかな」
 なんとなく、手の平でお腹を摩る。いくら色んな女性に憑依して性的に楽しんできた俺でも、この身体で『そういうこと』をするのは気が引ける。最初からそれを目的にしていたならともかく、こういうイレギュラーな形だとする気が失せるのだ。
「とりあえず……着替えよう」
 いままで何度も色んな女性に乗り移ってきた関係上、いまさら着替え程度で躊躇うことはない。制服を脱ぎ捨てて下着姿になった。
 妊娠がわかっているとはいえ、妊娠してからまだ数カ月も経っていないため、お腹が膨らんでいるということもなく、身体のラインは平均的な女子校生のそれと大差ない。
「もうちょっと経てば、お腹も膨らむんだろうが……いまの段階じゃ、全然わかんないな」
 学校の制服を着ていたということは学校に行っていたのだろうし、まだ周りは誤魔化せているようだ。
 いつも奈津美ちゃんが着ていた私服を身につけ、部屋にあった姿身に自分の姿を映してみる。部屋着は上下一体型のワンピースで、かなり着る人を選ぶ類だと思うが、奈津美ちゃんの身体が身につけると『深窓の令嬢』のようにも見え、似合っているのがよくわかる。
「こうすると、すげえ可愛いんだけどな……妊婦とは。……むしろ、可愛いから、とも言えるか……」
 当たり前だが相手がいなければ妊娠はしない。記憶を探ってみる限り、結構なイケメンが相手だったようだが……。まあ、それはいいか。
 鏡の前でポーズを取ってみる。素材がいいからか、どんなポーズもしっくり決まった。
「ほんと……逸材なんだけどな……」
 たまたま見かけた俺が、即座に憑依を決行して当然の美貌とスタイルだ。それが命取りだったわけなんだが……今後はちゃんと対象の状況や背景を調べてから憑依した方がいいかもしれない。……今後があれば、の話だが。
「最悪、このままか……」
 女子高生として生きて行かなければならないのかと考えると、憂鬱になる。いまさら高校生からやり直すのも面倒だし、何より好きな相手に好きなだけ取り憑けていた自由な生活を経験していたので、憂鬱は更に増す。
 それでも、まだこんな重い状況にある女の子じゃなければもう少し楽しめたのかもしれないが……いくらなんでもこの状況は辛い。
「まあ、でも。妊娠しているってことが問題なわけで……中絶すればいいんだよな」
 奈津美ちゃんには悪いが、俺は別に産みたいと思わないし、そもそも状況を考えれば産んで育てることが無理なことは子供でもわかる道理だ。この年齢で子供を産もうと思うなら、親の助けは絶対に必要だ。しかし、その親があの態度ということは、まず助力は望めないだろうし、高校生二人でしかも子供まで作って、何とかなるほど『生活していく』ということは甘くない。なまじ一人で『生きていく』ことの難しさを知っている俺だから、それは確実と言える。
 どう考えても、選択肢は中絶しかない。
「きっと、高校生だからその辺りの実感がわからなかったんだろうな……」
 こんな大きな家の子供みたいだし、生活に困った経験がなかったんだろう。産みたいという気持ちは別にいいと思うが、その気持ちだけで生きていけるわけではない。良くある言葉になるが、『食っていかなければならない』という奴だ。
「そうと決まれば……さっさと病院とか調べて、おろしちまうか……」
 中絶は相当きついと聞いたことがあるが、いまの状況を打開するにはそれしかない。
 この部屋にはパソコンがあったので、それを使って付近の病院を調べることにする。とはいえ、周りに気づかれたら厄介だし、なるべく遠くの病院の方がいいかもしれない。
 そんなことを考えながら、パソコンを起動しようとした時、不意に鞄の中からバイブレーションの音がした。どうやら携帯に電話がかかってきたようだ。パソコンの電源スイッチに伸ばしかけていた手を、鞄の方に向ける。
 鞄から取り出した携帯の表示には『将也』とあった。その名前を見た瞬間、頭の中に一人の男のビジョンが浮かぶ。どうやら、いま現在奈津美ちゃんが付き合っている彼氏――つまり、お腹の子供の父親――のようだ。奈津美ちゃんの記憶では、最近彼から電話がかかってくることはなかったようだ。直接会ったのは、かなり前……妊娠が発覚した直後のようだ。
 つまり、妊娠のことを彼に言った時から一度も会っていない、ということだろう。
「…………」
 なんとなく、嫌な感じがして、俺はそれ以上記憶を読むのを止めた。長い間鳴り響く携帯を開き、通話ボタンを押す。
「……はい」
 なるべく女の子らしい声を出すことに努める。
『……奈津美か? おい、お前。まだ産むとか言ってんのか?』
 いきなりそんな言葉から始まった。冷たい声音。突き放すような声。
 関係ないはずの俺が怯むほどの声音だった。
「え…………っと……」
『さっさとおろせよ。育てるとか無理だから。大体、二人とも高校生なんだから世間体ってもんもあるだろ。そりゃ、妊娠するようなことやったのは俺だけど……でも、ちゃんと避妊具は付けてたんだから、俺のせいじゃねえ』
 こちらが何か言う前に、男――将也くんは続ける。
『早くしないと堕胎可能期間って奴が過ぎちまうんだから。産んでも俺は知らねえぞ。おろせって言ってるんだから』
 将也くんの言うことは正しい。俺が彼の立場でも同じことを言うだろう。
 しかし、なぜかいま彼の言葉を聞いていると、胸の中に言いようもない感情が湧いてくるのを感じる。これは怒り? それとも……不快感?
「ま、将也くん……」
『いいな。堕胎可能期間内に病院行っておろせよ。それ過ぎたら俺はもう知らねえぞ』
 一方的に言いたいことだけを言って、将也くんは通話を切ってしまった。ツー、ツー、という虚しい音が胸中の虚しさを拡大させる。
 俺は携帯をベッドの上に放り出し、自分自身もベッドの上に寝転がった。
「…………これは、きついな」
 記憶を読んで、親や彼氏から猛反対にあっているということはわかっていたはずだったが、実際に体験してみるとそんな認識は甘かったということが良く分かる。
 結局、妊娠するのも、中絶するのも、女性側の苦しみであって、男性側には中々わかりにくいことだ。しかし、女性に憑依して女性側の立場に立った今の俺にはその苦しみが良くわかった。
 本来味方であるべきの相手があんな態度では、奈津美ちゃんが心の中に引き籠るほど鬱になったのもわかる。親もあんな調子だったし、まさに孤立無援の状態でこの数週間奈津美ちゃんは耐えてきたのだ。
「…………すげえよなあ」
 何が彼女をそこまで頑なにさせたのだろうか。
 記憶を読み取ることが出来る俺にも、なぜ彼女がそこまで頑なに堕胎を拒んでいたのかはわからなかった。
 俺が読めるのは、あくまで人の名前などの『知識』の記憶で、起こした行動・起きた状況に対して本人が『どう考えたか』という感情までは読みとれないのだ。もっと簡単にいえば『映像で表せないこと』と『言葉で言えないこと』は読みとれない。
 だから、奈津美ちゃんがこの数週間、どういう気持ちで、どういう想いでいたかは俺にはわからないことだった。
 ただ、明確な言葉になっている部分だけが読みとれる。

『――産みたい』

 女子高生が意地を張っていると断じるのは簡単だ。現実が見れていないと言ってもいい。
 だが、それでも――その想いはきっと本物だったのだろう。お腹に宿った命を大切に想い、無理を通そうと意地を張り、周りが敵ばかりの中で、死にたいほどに追い詰められ――それでも、子供を産んで育てたかったのだ。
 俺の両親はそういう物とは無縁な人間だったから、実感として俺には全くわからないが――あるいは奈津美ちゃんのその想いが、『親の愛情』という物なのかもしれかった。
「…………俺には、関係ないけどな」
 そう呟いたが、我ながらその言葉は力のないものだった。




~その3に続く~



Comment

No.304 / toshi9 [#YK3S2YpI]

四面楚歌のようなきつい状況、それは今まで第三者的立場で見れた筈なのに自分で対処しなければならないというきつさ。その重さが伝わってきます。
男としては相手の男の言う事もよくわかる、でも彼女の産みたいという気持ちの記憶を共有してどう答えを出すのか。
続きを楽しみにしてます。

2010-05/22 23:55 (Sat) 編集

No.309 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

返事が遅れに遅れて申し訳ありません。

これまでしてきたように、さっさと霊魂になって逃げてしまえればよかったのに、それが出来なくなったいま、真正面からその状況を受け止めるしかない。
本来誰でもそれが普通ですが、それを改めて主人公は感じていると思います。

続きは……なるべく早く書けるように頑張ります……。

2010-06/06 17:05 (Sun)

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