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死神輪舞:最終章

死神輪舞:最終章




 激しい戦闘音が響く。
 星斗は屋上で死神たちと戦いを繰り広げていた。
(……くそ、キリがねえ!)
 星斗は心中で毒づいた。
 まだ疲れは感じられないが、苛立ちは否応なく募る。いまは亮と別れてしまっているため、そちらのことも気になっていた。
 鎌と鎌が擦れ合い、耳障りな金属音を発生させる。星斗は舌打ちを一つ落とし、素早く後ろに下がった。そこに追撃をかけてくる死神たちの猛攻をかわしつつ、星斗は普段よりも体が遥かに軽く感じることに気づいた。
 かつては軽い、軽くないの前の問題だったが、それにしてもいまの身体の軽さは異常なほどだ。五メートルも離れた別の屋上へ向かって軽々と跳躍し、戦いの場所を変えていく。少しでも有利な場所へと行き、そこで戦いを続ける。首筋を狙ってきた死神の鎌を、紙一重で回避する。身体能力や運動神経だけではない。異様に神経が研ぎ澄まされていた。
 そんな超人的能力を発揮できている状態の星斗だったが、攻めあぐねていた。
 出来ればさっさと死神たちを倒して亮の方に行きたい。だが彼らを倒してしまえば今度はより強力な死神がやってくるだろう。死神と敵対する立場を明確にしてしまう行為でもある。いかに星斗が自分の力に自信を持っていても、さすがに誰よりも強いとは思っていないし、何度も何度も同じように命を狙われるのは避けたかった。なんとかして、この状況を打開できないかと考える。
 しかし、相手は話を聞いてくれるような様子ではない。
「ちいっ」
 大きく鎌を振り回し、死神たちを牽制する。
(しかたねえ……ここは、いったん逃げるか……!)
 倒すことも説得することも出来ないなら、この場から逃げることが唯一できることだ。また襲いかかってこられても、同じ程度の力の持ち主ならいくらでも対処出来る。そう思った星斗は、戦いを続けながら逃げ出すために期を伺う。
 そのとき。

「戦いを止めなさい!」

 空からの鋭い声が、死神たちの動きを止めた。星斗はその闖入者の方に目を向ける。その視線の先、空中に新たな死神が浮かんでいた。その死神の姿を見た死神達が、恐れを抱いたかのように動きを止める。
「全く、勝手な行動をして。懲罰ものよ」
 屋上に降り立ちつつ、その死神が星斗の方を見る。視線からその死神の強さを感じた星斗は警戒心を強めた。
「シェルフールフル……いえ、赤城星斗くんだったかしら?」
 最初に死神が呟いた妙に長い名前は、おそらく自分が同化している死神の名前だろうと考えつつ、
「そうだ」
 と星斗は頷いた。この場で嘘をつくメリットが感じられなかったからだ。
 死神は静かに頷き、自分を示す。
「私はコルドガルド。死神の中では、上位死神と呼ばれているわ」
 その言葉を聞いた星斗が、さらに身体を緊張させる。亮からその名前を持つ死神のことは聞いていた。
「……あんたも、俺達を殺しに……いや、地獄に落としに来たのか?」
 星斗は半ば確信を持って聞くが、意外にもコルドガルドは首を横に振った。
「いいえ。あたしはあなたを保護しに来たのよ。死神の身体を乗っ取って力を使ったあなただけど、ちゃんと話を聞いて事情を把握し、どうするべきかはそれから決めよう、と。死神大王も結論を出したわ。なのに……」
 ちらり、とコルドガルドが死神たちを見やる。そのコルドガルドの視線に、死神たちは怯えたように後ずさった。
「誇りの高い、融通の効かない死神たちが独自の判断で勝手に動いちゃって……」
 何かしら反駁しようとしたのだろう。死神たちが口を開きかけたが、コルドガルドの一睨みで沈黙した。改めてコルドガルドが星斗の方を向く。
「とにかく、いますぐあなたたちをどうこうしようって気はないから、ひとまず鎌を納めてくれる?」
 星斗はよく考える。このコルドガルドの提案が嘘だった場合。あるいは、罠である可能性。戦った場合にどうなるか。良く考えて――
「……信じるぜ、あんたの言うことを」
 鎌を納めた。
 コルドガルドは、ほっとした息を吐き出す。
「ありがとう。ところで、アルミーナアルミアーナと同化した、青木亮くんは?」
 尋ねられた星斗は、不愉快げに顔を歪めた。
「……別れたんだよ。そこの奴らが襲ってきやがったからな俺ほど荒事になれてなかったあいつは、逃がした」
「……コルドガルド様。その『逃亡者』は――」
 死神達の内の一人が何か言おうとしたが、それをコルドガルドが遮る。
「あんた達がおいやっておいて、逃亡者はないでしょ。まあいいわ。それで?」
「……テルナカルドーマが、追尾を試みたようです」
「なに!?」
 星斗は焦った。確かに一人減っていたのは知っていたが、亮を追いかけているとは思わなかった。目の前の死神達の攻撃に対処するのに精いっぱいだったということもある。
「なるほど。……となると、早く止めないと」
 そう言ってコルドガルドが懐から鏡を取り出す。
 コルドガルドがそれを空目掛けて投げると、鏡はくるくると旋回しながら空に止まり――その大きさを増して、屋根のように広がる。鏡の表面には何も写っていない。
「……? おい、なんなんだこれは?」
 星斗が訊いたがコルドガルドは答えず、行動で示した。
「写せ」
 鏡の表面がボンヤリと光り出し、その光が鏡の中央に集まっていくつかの光点となる。
「これは、いわば探査機よ。これで死神が今何処に何人いるかがわかるわ。死神界には、全世界を網羅するものがあるけど、これはその簡易版ね」
 言いつつ、コルドガルドは探査機に対する指示を出す。
「探査範囲拡大、半径二キロ!」
 中央に集まっていた光点――恐らくはそれがコルドガルド達を示していたのだろう――が、小さくなっていく。やがて、小さな点がもうひとつ鏡の上に出現する。
 それを見たコルドガルドは、眉を潜める。
「おかしいわね……やけに力の度合いが……あんたたち、力は探れた?」
「いえ、分かりません」
「テルナカルドーマの反応が……」
 ざわめいている死神達を、星斗が苛立った声で急き立てる。
「……おい! 何が起きているのか説明しろ!」
「なんだか、感じられる力の波動が小さいのよ。テルナカルドーマは中々優秀な方だったと思うんだけど……」
 コルドガルドは半瞬考え込み、死神の一人に指示を出した。
「転移魔法を。とにかく、この力が感じられる場所に向かうわ。急いで」
 慌てて死神の一人が呪文を唱え始める。
 コルドガルドが星斗の方を向いた。
「あなたはどうする?」
「いくに決まっている」
 星斗はいささかの躊躇もなしにそう答えた。罠である可能性を考慮に入れなかった訳ではないが、そもそも、星斗は亮がいないのに現世にしがみつくのも馬鹿らしいと考えていた。
 まともではない星斗は、今後亮のように友達になってくれるような者が現れるとは思っていなかったし、何より星斗は亮のことをすでに親友だと思っている。危険を犯してでも助けに行くのが当然だった。
 コルドガルドは、その星斗の決定を軽く笑って受け入れる。
「オーケー。それじゃ行きましょう」
 コルドガルドの傍に行った星斗を含めて、転移魔法が発動する。星斗が気が付くとそこは薄暗い路地裏だった。亮と初めて会った時のことが思い返される。
 コルドガルドは地面に膝を突き、指先で地面を調べていた。
「これは……まさか、血?」
「まさか亮のか!?」
 血相を変える星斗。だが、コルドガルドは首を横に振る。
「これだけじゃ、なんとも……死神の血であることは、確かね。力を感じるわ」
「コルドガルド様、これは……この力は、テルナカルドーマの物です」
 死神の言葉を聞いたコルドガルドが、顔をしかめる。
「本当? まずいわね……死神に傷を負わせられる存在……まさか、とは思うけど」
 何か思い至ることがあるのか、コルドガルドは考え込む。
「そんなことはどうでもいい! 亮はどこへ行ったんだ!?」
 焦る星斗だったが、コルドガルドもまた焦っているようだった。
「感知ができないとなると……探しようがないわ……どこに連れて行かれたのか……」
 星斗は舌打ちをして、周囲を見回す。別れるんじゃなかったという後悔がわきあがってくる。
(……亮!)
 亮の姿が脳裏に浮かぶ。焦りと怒りで脳が沸騰したように熱くなる。

 まさに、その瞬間だった。

 まるで天恵のように、頭の中にビジョンが広がる。それと似たような感覚を、星斗は知っていた。
 最低な人間のところに捕まっていたとき。初めて死神の力の使い方が分かったときと同じ感覚だった。新しい感覚が――力が出来たと言う感覚が生まれていた。
「……!」
 その感覚が、広がり、そして。
 星斗は鎌をその手に生み出す。
「赤城星斗くん!?」
 突然の行動に驚くコルドガルドと、身構える死神たち。それら全てを無視して、星斗は鎌を地面に叩きつけた。
 鎌が地面を切り裂いて、そこに真っ黒な『穴』が出現する。
「な、これは……! 異空間への道!? 隠されていたのに……なぜ、わかったの?!」
 驚嘆するコルドガルドに構わず、星斗はその『穴』の中に飛び込んでいく。
「待ちなさい! 赤城くん! 危険だわ!」
 コルドガルドがそう叫んだが、星斗は聴いていなかった。
 ただ、亮の存在を感じる方向へ、向かう。
 途中、禍々しい姿をした化け物や変な機械が襲いかかってきたが、全て一刀の元に切り捨て、先へと進む。
 やがて、たどり着いた建物の壁をも、問答無用でぶち破り――ついに星斗は亮を見つけたのだ。

 悪魔によって、凌辱されている亮の姿を。




 どうして、星斗がこんなところに。

 星斗の姿を見た僕は、まずそう思った。それから、一気に自分の頭から血の気が下がるような感覚を覚える。
(星斗、逃げて……!)
 相手は悪魔。死神の少年を瞬殺してしまったほどの、強い力を持った化け物だ。いくら星斗とはいえ、無事では済まない。死神の少年が辿った末路を思い返し、それが星斗にも訪れると思うと、気が狂いそうなほどに焦ってしまう。
「んんぁ…………!!」
 だけど、「逃げて」という一言さえ、いまの僕は形に出来ない。身動き一つ取れないから、身ぶり手ぶりでサインを送ることも出来ない。
 口はリング状の口枷によって塞がれているし、四つん這いの状態で固定された手足は僅かにも動かない。生理食塩水を流しこまれている乳房は限界近くまで張り詰めていて痛いし、浣腸を施されているお腹はまだ膨らみ続けている。前の……あそこには、太いバイブが埋め込まれて振動が痺れるような感覚を生み出している。
 こんな、格好を星斗に見られることに気づいて……僕は、なぜだか無性に恥ずかしかった。
 星斗もさすがにこんな光景が広がっているとは予想外だったのか、部屋の中に一歩踏み込んだ状態で固まっている。
 広がる沈黙の時間。
 それを、悪魔の嫌味な笑い声が破る。
「ふふふ……なるほど、君が、青木亮さんの言っていた、『赤城星斗』さんですか……青木亮さんと同じく、死神の身体を奪っている存在……飛んで火に入る夏の虫、とはよくいったものです」
 まずい。悪魔が気づいてしまった。星斗がそういう存在であると。
「んあんんっ!!」
 なんとか『逃げて』と星斗に伝えようとしたけど、言葉がどうしても形にならない。このままじゃ、星斗が……っ。
 星斗は呆然とした顔で、僕の方を見つめていた。体の本来の持ち主であるアルちゃんは表情があまり変わらないタイプで、顔つきもそれに準じていた。だから、星斗が浮かべているような表情は、アルちゃんの体には似合っていなかった。
 悪魔が余裕に溢れた態度で、星斗を挑発する。
「どうしました? 固まってしまわれて。あなたも……彼と同じようにして差し上げましょうか?」
 星斗の目が、一瞬で悪魔の方へと向いた。茫然とした形相から一変。激怒したものに変わる。
「……お前か……ッ!! お前が、亮を……っ!」
 怒りに満ちた、低い声。星斗の怒りに呼応してか、星斗が手に持つ鎌の周りに、黒いオーラみたいなものが溢れ出す。
 悪魔は一瞬、笑みを消した。しかし、すぐに元の嫌味な感じの笑みに戻る。
「ええ。そうですよ? どうやら、とても貴重な存在だったようなので……私に協力していただこうと、丁寧に『説得』していたのですよ」
 明らかな、挑発。
 僕はその悪魔と星斗との間の空間が、奇妙に揺らめいているのを感じた。まずい。これは……あの時、裏路地で死神の少年を殺した時と同じ……星斗が激昂して悪魔に向けて突進したところを、周囲から串刺しにしようというつもりなのだろう。
「んん!!」
 言葉が発せられないのがもどかしい。呻き声にしかならない。
(逃げて……星斗…………!)
 僕の必死な呼びかけも、心の中だけでは届かない。
「ブッ殺す!!」
 星斗は、全力で踏み出してしまった。悪魔の唇の端がつり上がる。
 空間が歪曲し、そこから飛び出した触手の先端が星斗を襲う――その瞬間。

 星斗は鎌を横薙ぎに振るって、飛び出しかけた触手も、空間の歪曲も、全て斬り伏せた。

「――え?」
 さすがにこれは悪魔も予想外だったのか、気の抜けたような声が悪魔の口から漏れた。確かにそれはそうだろう。空間の歪曲から飛び出した触手の速度は、とてもじゃないけど止められるものじゃなかった。僕の目には霞んで見えたほどだ。ましてや、星斗は自身の死角から飛び出した触手も斬り伏せているのだ。反射神経や運動能力だけでは説明がつかない。
 それでも、悪魔に生じた隙は一瞬だけ。悪魔はすぐに次の触手を召喚しようとしていた。けれど、その時にはすでに星斗は悪魔の目の前で、鎌を振りかぶっているところだった。
 一閃。
 鎌の刃が悪魔の身体を斜めに一刀両断する。人間の姿をしていても、悪魔だからだろう。血は出なかった。ずり落ちる上半身が、床に叩きつけられ、苦しげな声が悪魔の口から漏れる。
「ぐぁっ!? ……そ、そんな……っ」
 馬鹿な、と続けたかったのかもしれない。しかし、そんな悠長な暇は与えられなかった。
 振り切った鎌を元の位置に戻した星斗が。つまりは鎌を振りかぶった状態へとなっている星斗が、目の前にいたからだ。
「ま、待て、待ってく――」
 悪魔は上半身だけになっても何か言おうとしていた。恐らくは、何か交渉しようとしたんだと思う。けれど、その声は振り下ろされた鎌によって真っ二つになって、意味をなさなかった。
 酷い悲鳴が響き渡り、分断された悪魔の身体が黒い炎のようなものに侵食されていくように燃える。やがて悪魔の体は完全に燃えつき、灰と化した。
 圧倒的。
 圧倒的すぎた。星斗は確かに強いけど、まさかあの悪魔を瞬殺、なんて……信じられない。けど、悪魔が消滅したことを示すかのように、僕を取り囲んでいた不良達が消えていく。
 他に誰もいなくなったからだろう。星斗は大慌てで僕に近づいてきた。
「亮! 大丈夫か?」
 慣れない手つきで口枷を外してくれる星斗。自分の唾液がどろりと糸を引いた。僕は咳き込みながら、訴える。
「む、胸と……その、お尻…………と、止めて……!」
 それは急を要する。なにせ、ずっと液体が僕の中に流れ込み続けている。胸もお腹も、もうパンクしてしまいそうなのだ。膨れ上がった胸と、妊婦のように膨らんだお腹が苦しい。注入を止める悪魔もいない。
 慌てて星斗が僕の胸とお腹を確認する。
「お、おう! って、これ、どうすりゃいいんだ?!」
 星斗が慌てている声が聞えていたけど、こっちは苦痛に耐えるので精一杯で答えられない。
「くる、しい……もう、これ以上は……!」
「くそっ!」
 星斗が鎌を振るう。乳房に繋がっていた管を切り捨てた。とたん、乳房に詰め込まれていた水が、切られた管の先から噴出する。
 さらに肛門に潜り込んでいる管の方も切断してくれた。どうやら埋め込まれたプラグが逆流防止の役割を果たしているのか、お腹の中に注がれた何かが出ていくことはなかったけど、それ以上注がれなくなったので楽になった。
「あ、ありがとう……星斗……」
 息も切れ切れになりながら、僕は星斗に御礼を言う。危うく破裂するところだった。
「気にすんな。とにかく、拘束を解く」
 星斗はそう言って僕の手足を拘束していた枷などを全部取り外してくれた。ようやく身体の自由を取り出した僕は、大量に液体を挿入されて張り出したお腹を抱えて、なんとか立ち上がる。あそこに埋め込まれていたバイブは立ち上がった時に自重で抜けて、床に転がった。
「うぅ……これ……なんとか、しないと……」
「こ、これどうやったら抜けるんだ?」
 星斗は若干顔を赤くしながら、僕の乳房に刺さった針と肛門に埋め込まれたプラグを調べていた。さすがの星斗も、こういう状況では顔を赤らめずにはいられないらしい。いままでは悪魔に対する怒りの方に意識が言っていたのと、必死だったからあまり気にならなかったのかもしれない。僕も落ち着いて考えられる余裕が出来て、改めて恥ずかしくなった。両手を使って出来る限り身体を隠す。
「わかんない……悪魔は、何か呪文みたいなものを、唱えてたけど……」
 乳房の方に入れられた水はほとんど抜けたから、まだいいけど問題はお腹の方だ。全体が圧迫されたような苦しみが絶え間なく襲ってくる。
 救いの手は、それから暫くして現れた。
「赤城星斗くん!」
 途方に暮れる僕達の前に、コルドガルドさんが来てくれたのだ。
 あとから聴いた話、制止も聞かず時空の裂け目に飛び込んだ星斗を追いかけてきたらしい。僕と星斗を襲撃してきた死神達も一緒だった。
「あ……青木亮くん! どうしたの? 大丈夫?」
 コルドガルドさんが近づいてくる。僕は素直に事情を説明することにした。
「それが……悪魔にちょっと……これ、抜けなくて。なんとかなりませんか?」
 乳房に刺さった針と肛門に埋め込まれたプラグを調べる。星斗と違い、コルドガルドさんは特に顔を赤らめることはなかった。
「これは……どうやら、魔法を使ってるみたいね。ちょっと来て!」
 ついてきていた死神の一人をコルドガルドさんが呼ぶ。近くに来たその死神は、針とプラグを確認し、まず胸の針の方に向かって小さく呪文を唱えた。すると、乳房の中で針の先端が小さくなる感覚がして、針は乳房から抜け落ちた。まだヒリヒリとした痛みがあるけど、異物感がなくなってほっとする。
「……こちらはどうします?」
 死神がコルドガルドさんに訊く。その指先は僕のお尻を示していた。確かに同じようにすれば校門のプラグも抜けるんだろうけど、僕のお腹の中には詰め込まれた液体が溢れている。プラグを抜いたらそれが噴出してしまうだろう。
「……うーん。そうねえ」
 コルドガルドさんは考え込む。星斗は僕の上半身に自分の着ていた上着をかけてくれた。いままでは乳房に刺さった針が邪魔だったのだ。
 短く御礼を言う僕に対し、星斗は軽く頷きを返してくれた。それから星斗は周りを見渡している。
「トイレ……とかはねえか? ……なさそうだな」
 部屋には扉も何もない。外に通じているのは先ほど星斗が砕いた壁の穴だけで、明らかに普通の建造物とは構造そのものが違う。窓も入口もない建物に、トイレなどという常識的なものがあるとは思えなかった。
「仕方ないわね……」
 コルドガルドさんはそう呟くと、死神の力を使ってバケツのようなものを作り出した。
「嫌でしょうけど、この中に出しなさい。見えないように敷居も作るから」
 そう言ってコルドガルドさんは薄い壁のような物を作り出す。形は和室などで部屋を区切るのに使われる敷居そのものだった。
 それの影に隠れて、プラグを抜けるようにしてもらい、お腹に注がれた液体をバケツの中に吐き出す。トイレじゃないところで排泄をするのは物凄く恥ずかしかったんだけど、仕方ない。注がれた液体は変にドロドロしたもので、匂いはほとんどしなかったけど、バケツの底を叩く音が酷く嫌なものだった。
「お、終わりました……」
 バケツに蓋をし、敷居の蔭から顔をのぞかせると、コルドガルドさんが服の一式を手渡してくれた。
「とりあえず、これを着ておきなさい。そしたら、元の空間に戻るわよ」
 最初のころ、イソギンチャクに襲われた時のことを思い出す。その時も、コルドガルドさんに服を作ってもらったっけ。僕はありがたくその渡された服を着て、ようやく一息吐くことができた。
 敷居の影から出た僕を迎えてくれた星斗は、優しい表情を浮かべて、
「本当に、無事でよかった」
 そう言った。
「あ……ありがと。星斗」
 星斗が心の底から安心したように、そう言ってくれたことが素直に嬉しかった。




 それから。

 僕と星斗。それにコルドガルドさんは元の世界に戻って、とある喫茶店のテーブル席で向かい合っていた。僕達の対面にコルドガルドさん一人が座っている形だ。なお、他の死神達は死神界に一足先に帰ったらしい。報告をしてくるのだとか。
 なんで僕達がこんなところで向かい合っているのかというと、その理由は単純で、色々と話し合わなければならないことがあったからだ。喫茶店を話し合いの場所に選んだのはコルドガルドさんの趣味。前と同じように甘味をとても楽しそうに食べている。
 正直、この状況で自由奔放に振る舞えるコルドガルドさんは、やっぱり大物なのだと思った。
「――というわけでね。結局、死神達の早とちりだったわけよ」
 パフェにぱくつきながら、コルドガルドさんは何気ない口調で話してくれた。急に死神達が襲ってきた訳を。
「早とちりって……そんなことで、殺されかけたんですか……」
 正確には地獄に落とされかけたんだけど、まあ、それはいいだろう。
「最悪にもほどがあるぜ」
「ええ。この点に関しては、うちの指導が徹底していなかったことにあるわ。本当にごめんなさい」
 声の調子から、確かに誠意は感じられるんだけど……パフェが前に置かれていることでそれを台無しにしている。また一口食べてるし。
「とにかく。死神界としては、あなた達はひとまず保護って形になるわ。何か訊きたいことは?」
 僕は少し考え、この際だから全て訊いておくことにした。
「あの、コルドガルドさん」
「なに?」
「死神と人間の魂が一つの体の中で同時に動いている場合――それは、とても危険な状態なのではないですか?」
 ぴくり、とコルドガルドさんの眉が動く。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「亮?」
「ごめん、星斗。実は、もう一つ黙っていたことがあって」
 僕はアルちゃんとの会話について、二人に話した。その際聴いた、二つの魂が一つの体で活動していることによる危険性のことも。
 なんで、コルドガルドさんはアルちゃんが気づいたことに気付けなかったのか? あるいは、気づいていたのにそれを指摘しなかったのか?
 考えられる答えは、あまり気分のいいものじゃない。けれど、やはりそういう理由だったからなのか。例えば、数日の間に動けなくなってしまえば、逃げることができなくなる――つまりは僕を信用していなかったのか。
 僕は固唾を呑んでコルドガルドさんの返答を待った。コルドガルドさんは静かに目を閉じて、一言。
「わからなかったの」
 思わず目が点になったような気がした。
「ど、どういうことですか?」
 重ねて尋ねてみる。コルドガルドさんは、明後日の方向を向きながら、
「……あのね、あたしが上位死神になれた理由は、実は……死神の力の使用が、これ以上なく上手いから、なのよ。戦闘特化型って言えば聞こえはいいけど、それってつまり、戦闘以外のことではあまり役に立たないってことなのよね。探索とか魔法とか。勉強も苦手でね……」
 予想外の答え。
 なんというべきかわからず、固まっている僕の隣で、星斗が軽く頷く。
「なるほどな……そういや、あんた探知にも道具使ってたし、あの針とかプラグとかいうもんに呪文を唱えるのも、してなかったな」
 相変わらずアルちゃんの可憐な外見に似合わない、尊大な態度で星斗は言う。コルドガルドさんは渋々、というように頷いた。
「そうなのよね……ちょっとした呪文も使えないもんだから、魔法に関しては最低ランクよ。実はアルミールアラミーナや、シェルフェールフールよりも魔法に関しては劣っていると思うわ」
 そ、そうだったのか……ん? それじゃあ、どうするつもりだったんだろう? 僕と合流するときは……。
 その辺りの考えも訊いてみる。
「実は……考えてなかったのよ。どうやって合流するか……」
 思わず椅子からずり落ちそうになった。コントだったら確実に落ちてた。
「な、なんですかそれ……」
「それで慌ててこの死神の力を探査する魔法具を持ち出してきたの」
 そういって手鏡のような物を示すコルドガルドさん。それで死神の力を探知することができるらしい。
「……な、なんか拍子抜け……っていうか、なんていうか……」
 言葉にならない。色々考えたあれはなんだったんだろ……。
 コルドガルドさんはいつの間にか全てパフェを平らげていた。
「あたしはね、特別優れた戦闘力を生かして『死神にとって脅威になる霊的存在を倒す』って役割を担っているのよ。たとえば強力な『魔』もそうだし、今回みたいな悪魔もそう。そうそう実は、星斗くんが倒したあの悪魔は人間でいう全国手配されてる指名手配犯みたいなものでね。死神が何人も殺されたりしてるし……それを倒した功績は大きいと思うわ」
 コルドガルドさんは僕と星斗に向けてにっこりと笑う。笑っていいことなのかどうかわからず、僕は苦笑に留める。
 それだけ危険な悪魔が星斗にああもあっさりやられたのは……やはり、油断だろうか。自分が強大な力を持ち、死神を何人も退けていたからこその。それがなければ、事態はきっと最悪の方向に進んでいただろう。そこは素直に幸運だったと言えるかもしれない。
「まあ、まだどうなるかはわからないけど。それじゃあそろそろ行きましょうか」
 コルドガルドさんが立ちあがる。僕は慌ててコルドガルドさんを呼び止めた。
「ちょっと、待ってください。行くってどこにですか?」
「ん? 死神界よ」
「生身だと行けないんじゃなかったのか?」
 これは星斗の質問。コルドガルドさんは軽く頭を掻きながら答えてくれた。
「んー。それがねー。生身でも、死神界に行く方法ってあったのよ。うっかり忘れてたけど」
 …………。
 ……大丈夫なのか、この人。いや、この死神。初めて会った時のクールで頼れる感じはどこへ?
 あ、そうだ。
「あの、コルドガルドさん。そういえば、僕が死んだとき、傍で死んでいた猫のことなんですが……」
 結局、あの猫はなんだったんだろう? いつの間にかいなくなっていたけど……それに、最初襲ってきたイソギンチャクの時のことを考えると、戦闘能力もあったみたいだし……。
 コルドガルドさんは少し考えて。
「あの猫ちゃんはね……簡単に言えば、非常に強力な霊的存在ね」
「非常に強力な霊的存在?」
「そ。猫又とか聞いたことない?」
「ああ、妖怪の一種、でしたっけ?」
「そうね。歳を経た猫は霊力を持つから。あの猫ちゃんもそういう猫の一匹だったのよ」
「なるほど……ところで、死神さん達に追われた時、あの猫ちゃんが誘導してどこかに連れて行ってくれようとしてくれていたんですけど……それについて、何かわかります?」
 重ねて訊くと、コルドガルドさんは少しの間考え込んだ。
「うーん……ひょっとしたら、猫又の住み家に連れて行こうとしていたのかも」
「猫又の住み家……ですか?」
「ええ。猫又達が集まる場所ね。夜な夜な猫が猫の集会を開いているって話は聞いたことない? それと同じで、猫又にもそういう集まる場所があるの。ひょっとしたら、そこにその子は連れて行こうとしていたのかもしれないわね。普通、そういうところは、猫又以外の存在は入れないように出来ているはずだから。猫又自身が招いた場合は別にしてね。そこに連れていけば安全だと考えてたんじゃない?」
「なるほど……」
 猫はあくまで助けてくれようとしていたのに、途中で僕が追いかけられなくなった。そこが運悪く路地裏だったために絶望を思い出して、悪魔を呼び寄せてしまった……ってわけか。
「それにしては、それから姿を見ませんね……」
 大体、付いて来ていないことに気づいたら引き返してくるんじゃないだろうか?
 僕の疑問はコルドガルドさんがあっさり答えてくれた。
「ああ、たぶん、忘れてるんだと思うわよ? 猫又になってまだ時間が短いし……なってから時間が経てば知能が高くなるものだけど、その域まで達していないのね。気まぐれな猫の本能の方が、知能よりまだ強いのかもしれないわね」
「……詳しいですね。コルドガルドさん」
 生身のままで死神界に行く方法とか、自分自身の探索能力の低さとかをすっかり忘れていた人と同一人物とは思えない。そう思って指摘すると、コルドガルドさんは照れくさそうに頭を掻いた。
「いやー。まあ、立場上、敵になり得る霊的存在のことはちゃんと覚えてないとダメだから……苦労したけど」
 なるほど。
「納得は出来るが、なんだかなって感じだな」
 星斗の指摘に「確かに」と頷けるところが悲しい。気まずい空気が流れた。その空気を変えるためか、コルドガルドさんは一つ咳払いをする。
「とにかく。死神界へ行くわよ。大丈夫。あたしが付いてるわ。そう悪いようにはしないから」
 力強く断言してくれるコルドガルドさん。確かに、こういうときは頼れる人だなあ。僕はそう思いつつ、隣の星斗を見た。星斗はまだ警戒しているのか、どことなくコルドガルドさんを見る目つきが鋭くなっている。
 なんとなくその目尻を突っついてみる。
「いてっ……なにしやがる。亮」
 僕が睨まれた。
「ううん。何でもない」
 笑ってそう言うと、星斗は「やれやれ」という顔になる。
「ねえ、星斗。まだちゃんと御礼を言ってなかったね。助けに来てくれてありがと。凄くうれしかった」
「別にお礼なんていらねえよ」
 素っ気なく言って星斗は顔を背けてしまったけど。
 本当に嬉しかったんだ。星斗。あんな風に、一生懸命助けに来てくれたってことが。なりふり構わず、ただ、僕のことを心配して来てくれたってことが。
 お礼を何度言っても足りない。けれど、言いすぎるのもよくない。要らないって言ってくれているんだから、もう言わない。
 代わりに、僕は星斗の手を取った。
「行こう、星斗」
 星斗は少しだけ驚きで目を見開いた後、ぎこちなく笑った。
「ああ」
 そう言って、星斗も僕の手を握り返してくれる。

 そして、僕達は死神界へと向かった。




エピローグに続く

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