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死神輪舞20

死神輪舞19の続きです。

前回の話はこちら↓
         10
11 12 13 14 15 16 17 18 19

 では続きからどうぞ。

死神輪舞20




「……処置完了」
 消火液がまき散らされ、乱雑になったホテルの一室で、その死神の少年は呟いた。足元にはぴくりとも動かない女性が倒れており、その上には彼の同類にしか見えない女性の魂が浮かんでいる。
 この女性は、死神の力を手に入れた人間によって魂に洗脳を施されていた。その洗脳を解除した少年は魂を女性の体に戻す。
 死体のようにぴくりとも動かなかった女性の身体が痙攣し、息を吹き返す。
 少年の死神は女性の体に魂が定着したのを見て、一つ頷き、周囲を見渡した。
 それから心を研ぎ澄ませて気配を探る。死神の身体と力を奪った人間二人に逃走されてしまったからだ。
 正直、五人も死神が集まれば容易く乗っ取られた死神を取り戻せると思っていた。だが、予想以上の力と対応力を発揮し、まんまと逃げられてしまったのだ。失態といえば、これ以上ない失態である。彼らは一刻も早く、あの二人を確保しなければならないのだ。
(そもそも、人間ごときに身体と力を奪われる死神が悪い)
 少年はそう思っている。死神ともあろうものが、魂を狩る側の死神ともあろうものが、たかが人間如きにいいようにされるなど、到底許容できることではない。
「……捕獲、処分」
 彼らは身体と力を乗っ取られた二人の死神、シェルフェールフールとアルミールアラミーナを助けに来たのではない。同じ死神として、けじめをつけにきていた。
 すなわち、二人の死神の処分。
 本当ならば地獄にでも落としてやりたいのだが、それは様々な意味で出来なかった。人間の魂の方は遠慮なく落とすつもりだったが。
 とにかく対象を追うため少年は感覚を鋭敏化し、気配を探る。
 まず、少年にとって探り慣れた仲間の死神の気配が感じられた。四つ。屋上に向かって移動している。その四つが向かう先に、禍々しいまでの巨大な気配があった。
(……やはり、信じられない)
 その気配の大きさだけで言えば、上級死神に勝るとも劣らないレベルだ。死神の身体を奪っているだけの人間が発するには強大過ぎる。実力派と名高いコルドガルドと同等以上かもしれない。
 いくら数の上で有利とはいえ、勝利をより確実なものにするために少年も参戦した方がいい、と思わせるほどに。
「……? 妙だな?」
 屋上に向かい掛けた少年は、ふと気になってその場にとどまった。強大過ぎる気配は、このホテルの屋上から別の建物の屋上へと移動する。だが、反応は一つしか感じられなかった。死神の身体を奪った人間は二人いるはずだ。
 もう一人はどこに行ったのか。
 少年は探知範囲をさらに広げてみる。その探知に、引っかかる気配があった。その位置を知った少年は驚きで目を見開く。
「下?」
 上にいる強大な気配の持ち主に比べれば小さな反応。しかし、確かにその気配はあった。すでに地上に降りてホテルから離れる方向へと動いている。
 このままだと逃げられる。
 少し迷ったが、少年は下の人間の方を追うことにした。床を透過して一気に下へと向かう。




 自分自身の、荒い呼吸の音が耳に響く。
 もうずっと走りっぱなしだった。ホテルの前で見た猫ちゃんのあとを追い、延々と走り続けている。猫ちゃんは僕が見失わず、かといって楽に追いつけるわけじゃない距離を延々と保ちながら走っている。だから僕は足を止めるわけにもいかず、ずっと走り続けていた。
 時々すれ違う人が僕のことを奇妙な目で見ていたのはわかっている。けど、立ち止まることが出来ない。星斗があの死神達にやられてしまっているんじゃないかと思うと、背中から不快な焦燥感が吹き出るようで。
 僕はその焦燥感を振り切るために、走ることを止められなかった。
 いつの間にか猫ちゃんと僕は裏路地を走っている。荒れ果てたその路地ではさすがにすれ違う人もいない。僕は一心不乱に駆け続けた。
 でも、どんなに頑張っても限界はやってくる。僕はゴミ箱に蹴躓き、足を縺れさせて転倒してしまった。地面と身体が擦れて痛い。咄嗟に突き出した掌も擦れて、血が滲んでいた。一度倒れてしまうと、足がいままで忘れていた疲労を噴出させてしまい、どうやっても立つことが出来なかった。
 もっと遠くに、もっと早く逃げないといけないのに。
 僕は震える足を叱咤して立ち上がろうとしたけど、どうやっても動かない。筋肉が震えてまともに動かすことも出来なかった。
 腕の力で何とか身体を持ち上げ、僕は壁に背を預ける形にもっていく。呼吸を整えるために深呼吸を繰り返しながら、薄暗い路地を眺める。
 不意に、かつて同じように裏路地を眺めた記憶が脳内に蘇った。
「あ……」
 死神のシェルちゃんと同化し、世界に放り出された時。
 不良集団に絡まれ、犯され、嬲られた後の、記憶。
 その時の恐怖と嫌悪感と絶望が一瞬で僕の心を押し潰しそうなほどに膨れ上がった。いまは大丈夫、あの時とは違う、と思っても効果はない。それどころか、いまはあの時助けてくれた星斗を失うかもしれない恐怖も合わさって、息苦しい感覚さえ感じてしまう。
「……っ」
 ダメだ。こんな場所にいたら、心が折れてしまう。
 そう思って立ち上がろうと思うのに、疲れ切った足は動いてくれない。自分で自分の身体を抱きしめて必死に耐える。
 先を走っていた猫ちゃんも、もう見えなくなっていた。
 薄暗い路地裏で、僕は一人ぼっちだった。
 その時、蹲る僕の目の前に、いつかのように誰かの靴先が出現する。
 一瞬、僕は星斗が来てくれたのかと思った。
 あの時と同じように、救いに来てくれたのかと。
『情けねえなあ、亮。また蹲ってんのかよ――』
 いつもの不敵な調子で、乱暴な言葉遣いで、星斗の声が聞こえてくることを、僕は望んだ。
 でも、いつまで経っても星斗の声は聞こえて来なかった。
 うつむいた僕の頭に向かって、代わりに降ってきたのは。

「おや、これはまた、ずいぶんと面白い存在ですね」

 そんな風に、丁寧だけど、どこかこちらを馬鹿にしたような声音の、知らない人の声。
 僕が顔を上げると、その人の全身が目に映る。
 まるで葬式の時に身につけるような、黒いスーツ。
 特徴のない顔立ちに、光を完全に遮断しているようにも見えるサングラス。
 オールバックにされた髪の毛も、四〇代くらいの、見た目の年齢からいえば黒々とし過ぎている。
 悠然とポケットに手を突っ込んでいるその姿は、威厳のような物を確かに感じさせる。
 遠めから見たら、暗闇に溶け込んでこの人が本当にここに立っていることもわからないかもしれない。
 それくらいその人は『黒』かった。
「死神、のように感じますが、どうもおかしいですね」
 その人は、ジロジロと僕を見つめている。サングラスで実際には目が見えなかったけど、そんな気がした。
 僕を見て死神、と口にした時点で、たまたま通りすがった一般人ではないことはわかった。どうあれ、この人は死神のことを知っている。
「やけに絶望している人間の魂があるから出てきたというのに……これはどうしたことでしょうか? わからないですね」
 かと言って、これまで出会った死神――シェルちゃん、アルちゃん、コルドガルドさん、あの五人の死神達――とは、明らかに違う。なんというべきなのだろう。シェルちゃんやコルドガルドさんからは人間臭さを感じた。その人間臭さ、というのは微笑ましい類のもので、死神という超常的な存在を身近に感じる要素だった。
 でも、この人の場合は違う。
 人間臭さは同じように感じる。でも。
 その人間臭さは、まるで人間の悪いところを全て凝縮したような、禍々しい物だった。出来れば近寄りたくない、関わりたくない、そんな風な、悪い意味での人間性が感じられた。
 僕はその人の気配に呑まれてどうすることも出来なかった。ゆっくりとその人が手をこちらに向けて伸ばしてくるのを感じても、動けなかった。
 その瞬間、
「――貴様っ!!」
 突然鋭い叫びが裏路地に響き、こちらに向かって伸ばされかけていた男の腕が斬り飛ばされる。
 それでも、その人は何のリアクションも取らなかった。血が噴出しさえしない。ただ、少しだけ驚いたような顔をして、真横を見ただけだ。
「おや……あなたは死神ですね」
 いつの間に追いついてきていたのか、さっきホテルで襲いかかってきた死神の少年が大きな鎌を構えている。
 鋭く細められた目は、刃のような鋭利さを持って男を睨んだ。
「なぜ、貴様がここにいる?」
 知り合いだろうか? いや、それにしては死神の方の態度がおかしい。あれじゃあ、まるで相手を殺そうとしているかのようだ。
 殺意を向けられた男の方は、飄々とした態度を崩さないまま、少年に応じた。
「私が人間の絶望を糧に生きていることは知っているでしょう? それを感じたから、こうして出てきたのですが。何かおかしいですか?」
「ぬけぬけと……!」
 怒りに眦を釣り上げた死神の少年が、鎌を振りかぶる。
 その動きを見て、男が溜息をついて腕を掲げた。先ほど、斬り飛ばされたはずの腕を。何事もなかったかのように、再生している。
「生憎、死神そのものには、もはや興味がないので。――消え失せろ」
 瞬間、死神の少年の周囲に発生した触手が、少年の身体を縦横無尽に貫いた。
 コンマ一秒にも満たない時間のこと、少年は何を理解する間もなかっただろう。一瞬で血まみれになった少年の身体が崩れ落ちる。
「ふむ。まあ、腹の足しにはなりますか」
 ぺろり、とやけに赤い舌で唇を舐めた男は、呆然と事態を見ていることしか出来ない僕の方を振り向いた。サングラスの奥の瞳が、怪しい輝きを放っている。
 僕は得体の知れない相手に対する緊張を何とか飲み干し、言葉を紡ぐ。
「あ、あなたは……一体……」
「私ですか?」
 飄々とした態度のままで、その男は答える。
「私は、悪魔ですよ」
 そう言って、男はまさに悪魔のような笑みを浮かべた。




~21に続く~


Comment

No.207 / 名無しさん [#-]

悪魔つおい・・・
あれ?悪魔って死神と対立・・・はしてないですかそうですか

2009-05/24 16:45 (Sun)

No.208 / toshi9 [#YK3S2YpI]

死神と対立する黒い存在って悪魔?と思ったら悪魔でしたね。
そろそろ締めということですが、おぼろげながらお話の裏設定が見えたような気がした今回。
でも私の想像と全然違うかもしれないですが。
また楽しみにしてます。
がんばれ亮&光ノ影さん。

2009-05/24 21:54 (Sun) 編集

No.210 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

> 悪魔つおい・・・
> あれ?悪魔って死神と対立・・・はしてないですかそうですか

 コメントありがとうございますー。
 対立、は……どうでしょう?(笑)
 そういう関係もすぐ明らかになると思いますのでー。
 どうぞ、お楽しみに!

2009-05/24 22:57 (Sun)

No.211 / 光ノ影 [#-] Re: タイトルなし

> 死神と対立する黒い存在って悪魔?と思ったら悪魔でしたね。
> そろそろ締めということですが、おぼろげながらお話の裏設定が見えたような気がした今回。
> でも私の想像と全然違うかもしれないですが。
> また楽しみにしてます。
> がんばれ亮&光ノ影さん。
 がんばります! 毎度コメントありがとうございます。
 本当に亮には頑張ってもらう予定です。そして私も頑張らないと!(笑)
 色々手を広げ過ぎて回らなくなってきたような気がしています。
 どうぞ、お楽しみに! 死ぬ気でがんばります!

2009-05/24 23:00 (Sun)

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